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行動分析学マネジメント-人と組織を変える方法論

目次

まえがき

人の行動は、変えられる。組織の文化も、変えることができる。そのための科学的・体系的な方法論を、わかりやすく伝えたい。

これが、本書の執筆理由です。

「人は変われる」ということに、異論を唱えたくなる方もおられると思います。

「三つ子の魂、百までというではないか」と。

その通り。

ここで私たち著者が主張するのは、人の性格や人格を変えるということではありません。

人の「行動」を変えるということなのです(なので、紛らわしい表現を避けるため、以降、本書では「人を変える」という言い方ではなく、「人の行動を変える」という言い方をします)。

そもそも人は、普段の生活においても、さまざまな異なる面を持ちながら生きています。

たとえば会社と家庭では別人のようだとか、趣味の世界に入ると仕事では見たこともないようないきいきした活躍をするとか。

こういったことは、ごくありふれた日常茶飯事でしょう。

けれどそれは、会社と家庭とで別の人格に切り替わっているわけではありません。

趣味に取り組むときと仕事に取り組むときとで、人格が分裂しているわけでもありません。

私たちは、いつでも同一の人間です。

ただ、行動が異なるのです。

同じ人間が、時と場合でまったく異なる振る舞いをする。

真逆なことをすることすらある。

なぜ、そういうことが起きるのか。

その理由と原理を科学的につかむことができれば、今度は意識的に自他の行動を望ましい方向へと制御することもできる。

これが行動理論の考え方です。

この本には、合併したばかりの会社を、主人公が行動分析学を使って変えていくケース・ストーリーが描かれています。

この会社は架空ですが、そこで繰り広げられるエピソードは、著者が組織・人事コンサルタントとしてさまざまな会社で経験した実話がベースとなっています。

各ケースの後には解説がついており、ここで行動分析学の理論を説明しています。

また、この本は組織管理者向けに書いたため、行動分析学だけではなく、エンゲージメントという組織活性化の指標や、人事制度の再改革といった、組織経営の重要コンセプトについても触れています。

ケースの主人公は、HRビジネスパートナーという役職に就いています。

この役割について書きたいと思ったことも、本書の執筆動機の一つです。

HRビジネスパートナーとは、分類すれば人事の仕事に入ります。

ですが、伝統的な人事とは大きく異なる役割を期待されます。

過去の人事というのは、組織に「治」をもたらす存在でした。

みんなが会社で安定的に安心して日々を暮らせるようにする。

それが人事の主たる使命でした。

ところが、時代は変わり、今や人事は会社の「変革」を司る存在となっています。

M&A、リストラ、グローバル化といった激変の中、社員を上手にマネージすることが、人事の重要な使命となっているのです。

しかし、従来型の人事で、それをするのはとても難しい。

そこで新しく設けられたのが、HRビジネスパートナーという役職です。

今日では、変革を得意とする世界の先進企業には、たいていこのビジネスパートナーがいます。

変革を「痛く、苦しい」ものではなく、いかに「楽で、楽しい」ものにするかが、彼ら・彼女らの腕の見せ所です。

日本人は「変革には痛みが伴う」と平然と言い、それを我慢することを人に要求してきました。

けれど、痛いものは、本当は誰もやりたくないのです。

日本の変革が、内実としてはなかなか進まないのも、実はこうした人間心理を軽視した進め方に原因の一端があるのではないでしょうか。

ともあれ、人の行動を変え、組織を変革するのは、実際にはとてつもなく大変なことです。

自分一人で頑張っても、できることには限りがあるかもしれません。

また、組織は大物なので、簡単には動きません。

気力と知力と体力のすべてをかけても、はがゆいほどゆっくりとしか変わらないこともあるでしょう。

しかしそれでも、人や組織の行動が変わった暁というのは感動的です。

それまでの苦労が報われたと感じます。

一人でも多くの人々に、この感動を味わってもらいたい。

本書には、そんな願いも込められています。

この本を書くにあたり、もう一人の著者である杉山先生が主宰する「パフォーマンス・マネジメント研究会」(略称PM研)からも多大な示唆をいただきました。

さまざまな会社のビジネスパーソンや大学院生などが、「人と組織の行動は変えられる」という信念のもと、理論と実践を重ねながら技を磨きあう。

舞田にとっては、楽しくためになる道場のようなものでした。

この場をお借りして、研究会の皆さんに感謝の意を表したいと思います。

また、この本は、たくさんの方々の温かいご支援のおかげで世に出すことができました。

改めて謝意を表させていただきます。

それから、私を長い間いつも支えてくれて、常に一歩前に踏み出す勇気を与えてくれる妻、白根。

ほんとうに、ありがとう。

二〇〇八年秋舞田竜宣

行動分析学マネジメント目次序章今こそ組織・人材マネジメントに「行動の科学」を1行動分析学とは何か2行動上の問題の原因は何なのか3行動の真の原因は行動の直後にある

序章今こそ組織・人材マネジメントに「行動の科学」を企業は社員によって構成されている。

社員の行動の集積が企業活動そのものである。

したがって、企業組織マネジメントの究極の課題は、社員、すなわち、人間の行動の問題といってよい。

しかし、現実の企業において、問題解決手段の導入実態を見ると、安直な他社の真似や流行の手法といった思いつき的なアプローチが、現場を混乱させていることも多い。

そこに、科学は存在しない。

この現実を打破するために、人の内面に問いかけるさまざまな人材育成論が論じられているが、人が育つ仕組みに関して、実証的な研究に基づく理論的枠組みを持った議論にはなっていない。

なぜなら、人間の行動を科学することの可能性に多くの人が気づいていないからである。

しかし、これを可能にしたのが、本書の理論的バックボーンになっている行動分析学(behavioranalysis)である。

行動分析学は、一九三〇年代に米国の心理学者B・F・スキナー(一九〇四~一九九〇)が実験を繰り返しながら発見した行動の原理を、整理し、打ち立てた、行動の分析と問題解決のための心理学の体系である。

車の調子が悪くなれば、修理工場で整備士に見てもらい、必要があれば修理したり、部品を交換する。

身体の調子が悪くなれば、医者に行き、診察を受け、薬を飲む。

場合によっては手術を受けたり、医師の指示に従って、運動療法や食事療法を行う。

それでは、人々の行動に問題が起きたらどうするか?もちろん、社会的にも本人の心身の健康上でもきわめて重篤な問題が起きれば、カウンセラーや精神科の門を叩くこともあるだろう。

しかし、社員の働きが十分でなく業績が上がらないとか、会議で黙りこくっていて生産的な意見を出さないとか、遅刻や欠勤が多いとか、学生が試験の前にしか勉強しないとか、いくら注意しても子どもがテレビゲームばかりやっている、という程度の問題に、専門家の門を叩く人はまずいない。

また、行動の問題は他人にだけ発生するわけではない。

タバコをやめようと思っているのに、つい吸ってしまう。

メタボリック・シンドロームと言われても体重管理ができない。

今年こそはTOEIC○○○点を目指して英語の勉強を!と決意しても三日坊主……。

思い当たる読者の方々も少なくないに違いない。

ちょっと風邪を引いただけで医者に駆け込んだり、市販の薬を飲んだりする。

医学や薬学の知識と技術の恩恵に接することには何の疑問も抱かない私たちも、行動の科学の恩恵を享受することはこれまでほとんどしてこなかった。

それには二つの理由があるだろう。

一つは、人間というものは、自分のことは自分が一番よく知っていると思い込みがちなこと、二つ目は、行動の科学というものの存在を知らないか、あるいはそのようなものが成立することなど信じられないからである。

物理学や化学の対象は物理的・物質的なものであるのに対し、心理学や行動の科学が扱う対象は、人間(実は人間以外の動物も)の行動である。

人間には自由意志があり、当人の意志と欲求に基づいて好きなように行動しているのだから、そこに科学が成立する余地はないと多くの人は信じてきた。

しかし、それはスキナー以前、行動分析学が成立する以前の話である。

一九三〇年代にスキナーが実験室の中で行動の研究を始めて以来、実験的な分析に基づいて、生物がなぜそのような行動をとるかという問いに対する答えが次々と明らかにされていった。

そして、基本的な行動の原理が体系化されたのである。

よいことも悪いことも含め、なぜそのように行動をするのか、その原因がわかれば、行動に問題がある場合、それを解決することも可能になる。

行動の基本原理が明らかにされたあと、一九六〇年頃には、応用行動分析学(appliedbehavioranalysis)と呼ばれる応用科学が誕生した。

行動の問題を、勘や経験に頼って解決するのではなく、行動の基礎研究に基づいた科学的な手法によって解決する応用科学である。

物理学や化学、生物学の基礎のうえに、機械工学や宇宙工学、医学や薬学といった、今日のわれわれの生活に不可欠な応用科学が成立しているように、行動分析学の基礎のうえに、応用行動分析学がある。

行動の原理を社会の中のさまざまな行動の問題に適用し、行動を改善する試みは、教育やスポーツ、地域社会における省エネやリサイクルの促進、健康、医学、リハビリテーション、動物のしつけやトレーニングなど、すでに多くの分野で行われている。

そして、これをビジネスの世界で実現したものが、*組織行動マネジメント(organizationalbehaviormanagement;OBM)あるいは、パフォーマンス・マネジメント(performancemanagement;PM)と呼ばれ、生産性の向上や勤怠管理、安全管理、コンプライアンスの向上、コミュニケーションの改善などに貢献している。

それでは、人間の行動を科学的に解明する行動分析学とは何なのか?*組織行動マネジメントとパフォーマンス・マネジメントは厳密には区別される。

組織行動マネジメントは、研究開発など科学性を重視し、パフォーマンス・マネジメントは現場での実践に重きを置く。

1.行動分析学とは何か行動分析学とは、文字通り、行動を分析する科学である。

そして、ここでいう「分析」とは、原因を明らかにするという意味である。

つまり、人間や人間以外の動物が行う行動にはそれをさせる原因があり、行動分析学はその原因を解明し、行動に関する法則を見出そうとする科学である。

「行動」という語は子どもでも知っている言葉だが、専門用語としての「行動」には独特の定義がある。

一般的な心理学の定義は「筋肉や腺の働き」、つまり、筋肉を使って身体を動かしたり、汗腺から冷や汗をかいたりする行為のことである。

しかし、ここでは、「行動とは死人にはできないこと」と定義したい。

この方が広義である。

このように定義すれば、何か手足を使って動くことだけではなく、ものを考えたり、推論したり、記憶したり、プランニングをしたり、相手の気持ちを思いやったり、喜びや怒りを感じることもまた行動とみなすことができる。

それらの行為は、身体上の動きはみえないとしても、第1章から解説する行動の原理によって制御されており、行動分析学の研究の重要な対象となる。

同時に、死人にはできること、すなわち、「仕事をさぼる」「欠勤する」「働かない」「会議で発言しない」といった非行動、「叱られる」「褒められる」などの受身は行動ではない(つまり、行動とは能動的に何かアクションすることである)と定義することによって、ポジティブ思考に頭を切り替えることができる。

2.行動上の問題の原因は何なのか行動分析学では、行動の原因を見つける。

それでは、部下が期待通りの仕事をしないとき、その原因はどこにあると考えるだろうか?やる気がない、能力が低い、意識が低い、向上心がない、意欲がない、スキル不足……。

もっともな説明だ。

全部当てはまると思っておられるかもしれない。

しかし、行動上の問題をこのように説明することは、「医学モデル」と呼ばれている。

なぜか。

熱が出たり、咳が止まらなくなったり、痛みがあるなど、身体の具合が悪いときの原因は身体の中で起きている異変にある。

体内にインフルエンザのウイルスが侵入したり、炎症が起きたり、出血したり、という具合に、身体の中に異常が起きたことによって、発熱や咳、痛みの症状が出る。

それと同じように、行動の問題が起きたとき、多くの人は、やる気、能力、意識、意欲のように、心の中に原因があると考える。

これが医学モデルである。

すなわち、身体の中の変調が原因で病気の症状が現れるように、心の中の問題が原因で行動に問題が起こると考えるわけである。

医学モデルを使って行動の問題の原因を見つけようとすることには、二つの弊害がある。

一つは、循環論にはまり、本当の原因を見つけられないことだ。

満足な仕事をしないことの原因は、「やる気がない」ことだと考える。

それでは、なぜその部下が「やる気のないやつ」だとわかるのだろう。

それは、期日までに仕事を仕上げないし、質の低い仕事しかしないからである。

すなわち、「やる気のなさ」というのは、「満足な仕事をしない」ことの言い換えにすぎない。

やる気というのは、その人の行動につけられたレッテルなのであって、行動の原因ではないのである。

二つ目は、他人のことにせよ、自分のことにせよ、行動を心や性格で説明しようとすると、結局最後は個人攻撃になって、肝心の問題が解決しないからである。

「あいつはやる気がないから」「私は意志が弱いから」と言うのは、単なる批判や自己弁護である。

心理的な問題に関しては、この種の評価をするだけで終わるケースが多いが、そう言ったところで、問題解決にはつながらない。

3.行動の真の原因は行動の直後にあるそれでは、行動の原因はどのように考えればよいのか。

スキナーが発見した行動の原理で最も重要な点は、「行動は、行動直後の結果によって制御される」ということだ。

スキナーは数多くの実験を通して、特に行動の頻度に着目し、その行動が今後も繰り返されるか、それともしなくなってしまうかは、その行動をした直後に何が起こるかで決まってくると結論づけたのである。

人はなぜ仕事をするのか──自己実現のため?給料のため?昇進のため?行動分析学の立場からは、そのどれでもない。

行動は、直後の結果によって制御される。

この「直後」とは、まさに〝直〟後であるほど効果的だ。

行動分析学では、目安として、「六〇秒ルール」と呼ぶように、行動をしてから六〇秒以内に起こらない結果は、ほとんど意味がないと考えている。

仕事をしてから六〇秒以内に自己実現ができたり、給料がもらえたり、昇進するなどということは現実にはありえない。

したがって、自己実現や、給料、昇進は、人々が仕事をすることを動機づけるような直接の原因にはなりえないのである。

自己実現、給料、昇進が働くことの動機づけにならないとしたら、どうやって社員がいきいきと働けるような会社を作れるのだろうか。

行動を真に制御する直後の結果とはいったい何なのか。

本書は、行動分析学と呼ばれる行動の科学に基づき、架空の会社であるノルウェー・モバイル社を舞台に、行動を制御する原理を解説していく。

一九三〇年代から実験室において発見され、これまで多くの分野で社会の中の実践的な問題を解決してきた手法だ。

もちろん、人々は行動分析学が成立する以前から、直面する問題を解決するために、試行錯誤の経験を通して効果的に人を動かす手法を編み出してきた。

しかし、経験や勘、あるいは名人芸に頼って個別の問題を対症的に解決するのではなく、実験室で科学的に確かめられた原理を、体系的かつ一貫性をもって実践する方法を伝えることが本書の狙いである。

行動分析学を用いた組織・人材マネジメントとは、どういうものか。

それをわかりやすく説明するために、本書では架空のケース(事例)とその理論解説という形式をとる。

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