自社ビル VS賃貸ビル バブルの頃の話です。私の顧問先に、銀行から融資を受けて社屋を購入した会社がありました。 不動産が今では考えられないような高い価格で取引されていた時代です。その後はみなさんご想像の通り、バブルがはじけ不動産価格は急降下、自社ビルは買ったときの半額以下でしか売れなくなってしまいました。 その会社は今でも当時購入した自社ビルの含み損を抱えながら、毎月多額の返済をしているという状況です。「そんな不良債権になったようなビルなんか、売ってしまえばいいのでは?」 そう考える方も多いと思います。しかし、担保設定をしている銀行というのは、借入れの金額より不動産価格が下回っている場合にはなかなか売却を認めてくれません。つまり、自社ビルを売りたくても売ることができないのです。 景気のよかったバブル時代の売上も今では大きく下がり、その後のリーマンショックや新型コロナウイルスの流行などさまざまな外部環境の変化の煽りを受け、当時は 100名近くいた従業員もどんどん辞めていってしまいました。 現在、その会社はテニスができるくらい広い社屋に社員 3名だけが残っているという、目も当てられないような状態です。 このように自社ビルを建てた後に経営状況が変わり、苦しんでいる会社をいくつか見てきていることもあり、私は基本的には、クライアントに自社ビルの購入をすすめないようにしています。「ずいぶんと保守的なんですね」と言われることもありますが、経営面から考えると、自社ビルはどうしてもリスクが高いのです。 基本的に、自社ビルは利益を生み出しません。そのため、事業として絶対必要なものではないのです。 もしどうしても自社ビルを購入したいと考えているのであれば、事業に影響が出ないように、借入れではなく全額会社の余剰金で購入することをおすすめしています。 そうすれば何か経営面で大きな変化があった場合でも売却できるので、買うなら余ったお金で買いましょう。 では、賃貸であればどうなのか? 賃貸は自社ビルに比べ、経営的な面で圧倒的にメリットが大きいです。とくに私が賃貸にすべきと考えている3つのメリットがありますので、ご紹介していきます。 1.変化に対応しやすい まず、賃貸の大きなメリットとして挙げられるのが、変化への対応です。 長期的に事業を続けていく中で、売上というのは一気に伸びたり、逆に下がったりするものです。業種にもよりますが、さまざまな要因により売上の波というのはどうしても出てきてしまいます。 そんな中、事業規模を大きく変化させなければならないフェーズに差し当たったときに、賃貸のメリットが大きく働くことになります。 事業規模を拡大するにせよ縮小するにせよ、それまでとは同じようなコストで事業を運用できなくなってきたとき、賃貸であれば従業員の人数に合わせた事務所に引っ越すことができます。自社ビルだとなかなかこうはいきません。 先に挙げた会社のように 100名近くいた従業員がどんどん減っていけば、無駄に維持費ばかりがかかってしまいますし、逆に事業規模が大きくなる過程で中途半端な広さの自社ビルを建ててしまうと、使い勝手が悪くなってしまいます。「変化にスムーズに対応できる」、これは賃貸ならではの非常に大きなメリットと言えるでしょう。 2.いい立地に引っ越しできる 先日、銀座に行ったときの話です。裏通りを見ると、飲食店があったビルがいつの間にかガラガラになっていたのです。顧問先が多いということもあり、周辺の飲食店は比較的よく知っていたのですが、人が入っている店が軒並みなくなってしまったので不思議に思っていました。「あれだけ人気のあったお店もコロナの影響でつぶれてしまったのか……」 そう思いながら表通りに出てみると、そこにはすごい行列ができていて、行列の先を見るとなんと裏通りにあった店がいくつも並んでいるではありませんか。 どういうことかと言うと、人気のあった店が裏通りから引っ越し、いつの間にか表通りに進出していたのです。 顧問先でその話をすると、どうやらコロナ禍に表通りにあった飲食店がすべて撤退してしまったため、安く賃貸に出されていたところを、今がチャンスとばかりに一気に入っていったという話でした。 表通りの家賃が引き下げられて、それなら……ということで、人気の店の引っ越しが始まり、結果的に裏通りのビルがガラガラになってしまった、そんな顚末でした。 では、これを自社ビルを持っていたと考えるとどうでしょう。自社ビルの近くの人通りの多い建物の家賃が安くなっていたとして、すぐ引っ越せるでしょうか? チャンスだったとしてもなかなか動くことはできないですよね。 お金の使い方が上手な会社は自社ビルを建てるのではなく、このようにチャンスが出てきた際に、集中的にお金を投資します。 とくに外資系の企業がそれに当てはまる印象です。街を歩いていても、「あれ? あそこにあったブランドのお店、いつの間にかこんな表通りに移って
きたんだ」みたいなこと、ありませんか? まさにそれがこの典型例だと言っていいでしょう。 一等地で家賃が高そうな場所が、何かあってちょっと安くなると外資系の企業が一気に出店してくるのはそういった理由なのです。これは自社ビルを持つのではなく、賃貸だからこそのフットワークの軽さだと言えるでしょう。 とくに飲食業や物販、アパレルなど立地によって売上が大きく左右される業種は、自社ビルよりも賃貸のほうがメリットがあると考えられますね。 3.想定外のケースでも、早めに撤退できる 以前、私のクライアントがたこ焼きのテイクアウトのお店を始めたことがありました。もともとその会社はたこ焼き屋はやっていなかったのですが、 A駅の近くで非常に繁盛している有名なテイクアウト専門のたこ焼き屋を見て、「これはモデリングしたら儲かりそうだな」と考え、 B駅の近くに同じようなたこ焼き屋を出店したのです。 しかし、結果からお話ししますと、これは大失敗に終わりました。 売上はなかなか思ったように上がらず、人件費や家賃などがかさみ、ほとんど赤字のまま 1年後に撤退することになったのです。 後日、社長に「どうしてうまくいかなかったのでしょうか?」と聞いてみると、「 A駅と B駅では客層が全然違っていた」という答えが。 A駅と B駅は距離は近いものの、区が異なっていて、世帯収入も A駅の区に比べて B駅の区のほうが 200万円近く低かったそうです。 もちろん実際のところは世帯収入だけが原因ではなく、モデリングしていたお店のブランド力や料理の質、価格帯などさまざまな要因もあり、出店してみないとわからないことも多々あったのだと思います。 しかしどちらにせよ、想定していた通りにならなかったという理由でこの社長は潔く撤退という判断を下し、思っていたよりも小さな損失で終えることができました。 また、後で聞いた話ですが、この社長は絶対に儲かるだろうと考えていたので、出店場所を購入することも検討していたそうです。「買っていたら黒字になるまで続けて、かなりやばいことになっていたかも」と苦笑いをしながら話していましたが、実際に買っていたら損失を取り戻すまで投資していたのでないかと私も思いました。 今回、 1年という早い段階で見切りをつけて撤退を判断できたのは、賃貸だったからと言っても過言ではありません。お店ごと購入していたら、撤退なんていう思い切りのいい判断はなかなかできませんから。賃貸でも、場合によってはデメリットも…… 自社ビルと賃貸ビル、私は基本的には賃貸をおすすめしていますが、賃貸のすべてがいいかと言うと、そうではありません。 最後に、賃貸の種類によってはデメリットが発生するケースもお話ししておきます。 最近、初期投資を抑えることができるということで、バーチャルオフィスやレンタルオフィスで起業される方が増えています。これらのサービスでは、その住所に事業登録や法人設立など登記することができるのですが、実際にそこで事業を始めると思わぬ落とし穴があったりします。 ずばり、バーチャルオフィスやレンタルオフィスでは銀行口座が開設できないことが多いのです。 これはバーチャルオフィスやレンタルオフィスが振り込め詐欺などの犯罪の温床になっていることもあり、銀行が警戒して口座の審査を厳しくしているためです。 もちろんすべてがすべてではありませんが、そういった会社の場合は、口座開設の審査は非常に厳しいのが現状です。 ですから、新しく事業を始めるにあたりバーチャルオフィスやレンタルオフィスでの登記を考えている場合は、しっかりと事業の実態を証明できるような形で起業して、法人設立前に銀行に確認をとって、口座を開設できるように確約をもらってから登記することをおすすめします。
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