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絶対儲かる値上げのしくみ、教えます 石原明

はじめに

値上げが正しい企業努力です

目次

序章「値上げ」がいいこれだけの理由

景気の停滞・低迷でマーケットが二極化

なぜ食品偽装問題は起きたのか?

中小企業は価格競争に加わってはいけない

ユニクロの低価格戦略はどこに向かっているか?

高額な「ひな人形」が支持される理由

JR九州の「ななつ星in九州」に予約が殺到

インターネットの出現がマーケットを一変させた

「これから人はすべての買い物をネットでする」はウソ!

上流層ではネット離れが加速している

ネットの買い物は楽しくない!

今こそ経営の舵を反転させる

第1章

最初は「値段」だけを上げる

——「値上げ」こそが正しい経営手法である

BtoBでもBtoCでも値上げは可能

検査料を10倍にした試験系検査会社

断れば断るほどお客様から信頼され、受注が増えた運送会社

売り切れてもお客様に媚びずに大繁盛している老舗

価値に見合った金額で売ることの大切さ

最初は「値段」だけを上げる

第2章「値段」を上げると「顧客」が変わる

——高く売るための最低限の知識

「消費」と「価格」消費には4つのタイプがある

お客様はアプローチ次第で富裕層にも庶民にもなる

町のお弁当屋さんで5400円の「のり弁」が売れた!

値段に合理的な根拠はない

値段と価値の曖昧な関係

価格を決定する3つの要因

原価は価格の一要因に過ぎない

未来を実現させるのが「適正価格」

「コスト」から考える「適正価格」

一杯のラーメンの価格を決める

他社と「比較」して価格は決まるのか?

「比較」して一番良くない選択

高価格帯を設けて老舗を圧倒、メディアの注目を集めた名店の戦略

「比較」を基に上位の価格帯を設定する

第3章「価値」を付加すれば、さらに「値段」は上げられる

——情報の「伝え手」になる必要性

壺は変わっていないのに価値という情報が付加したことで、床の間行きに!

銀座の名店はなぜ消えたのか?

「一般的な価値」と「顧客特有の価値」

「一般的な価値」は14の項目に分けられる

一気に値段を上げるための「顧客特有の価値」

「顧客特有の価値」を理解できれば高く売れる

商品やサービスに価値を「情報」として付加する

商品を高く売るための説明能力

値段の決め手は価値をきちんと伝達できるかどうか

第4章80円のまんじゅうを250円で売ったら、なぜお客が増えたのか?

——「値上げ」にも方法があり、「価値」を伝える手順がある

値上げする場合、既存顧客をどうするのか?

既存顧客に対する値上げはどう行うか?

値上げと共に問題加盟店を説得、経営が加速したFCチェーン

すべての業種で許容範囲、今日から可能な20〜30%の値上げ

80円から250円へ徐々に値上げ、超有名になった観光地のあげまんじゅう

値上げできない問題は売る側の気持ち次第で解決する

値上げで年間7200万円の利益が発生、経営を立て直した女性ブランド会社

商品ラインナップを広げて結果的に値上げをする方法

地元の人気リフォーム店、富裕層マーケットを独占

成功する姿をイメージし、説明を工夫して10倍の値段で売る

老舗企業の住宅が突然売れ始めた驚きの真実!

無形文化遺産の登録で和紙が一気にソールドアウト、5年分も受注が入る

番組関係者も唖然!TVで取り上げられた600万円の布団が3個も売れた!

第5章値上げのプレゼンをどのように成功させるのか?

——質問を駆使したクロージング

プレゼンを見直し、トライ&エラーを繰り返す

10倍の値段で人事コンサル会社の社長の人生が変わった!

9件売れなくても1件売れたら大成功

値上げして売れた最初のプレゼンの衝撃

プレゼンの決め手は料金の提示とその後の駆け引き

一番大切なのは、「質問系の言葉」による料金の提示

最終決断を質問で聞くことで、顧客は自分の気持ちを表現しやすくなる

落としどころを決めるクロージングシミュレーション

他社でも扱っている商品を自社で高く売る方法

ネットの料理器具販売会社が取った驚きの販売戦略

定番商品にサービスを付加して業態変換、値上げに成功した包装機メーカー

難易度MAX!?BtoBもしくは大企業相手に値上げを目指す

BtoBでも激しい値上げが可能に!

特許がエビデンスに!高く売りたい一流企業との契約が軒並み成立

第6章値上げの最大の目的は「時間」を作ること

——経営サイクルを伸ばし、価格競争せず自社の努力で勝てる経営へ

「競争のいらない経営」を目指す

売上と利益が向上することで企業の持つ「コンフォートゾーン」を抜ける

値上げの最大の目的は「時間」を作ること

今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上も生んでいる

現在の売上と利益を固定してでも、未来の収益を考える

将来大きな差となる行動は何かを考える

メルマガを書いて会社が儲かるのか?

未来を作る努力は競争がないので、自分のペースで勝手にできる

御社にとっての「将来の大きな差を作る仕事」とは何か?

未来に舵を切り、世界的な企業へと飛躍したオーガニック原料企業

今やることで、会社の未来を作る

おわりに

 

景気の停滞・低迷でマーケットが二極化

長く景気の低迷期が続いたことで、日本の市場(マーケット)では二極化が進んでいます。高度成長期以来、世界でも稀に見るほど分厚い中間層が形成され、国内の消費の大部分をこの中間層が占めてきました。しかし、20年以上続いたデフレ不況によって、この中間層の多くが雪崩を打って低所得者層や貧困層(下流層)へと降下しているのです。そのためマーケットは、一部の高所得者や資産保有者層(上流層)と、低所得者層(下流層)の2つに大きく分かれてしまいました。これら2つの格差は、日増しに大きくなっています。大手企業は、この「下降する中間層」の動きを追って低価格戦略へと舵を切り、次々に低価格商品を投入してきました。やがて、中堅・中小企業までもが安売りへと走りだし、日本では熾烈な安売り合戦が繰り広げられるようになりました。その結果、モノやサービスの値段は軒並み下落してしまい、いまや日本の市場は安物であふれています。ほとんどの企業がいっせいに下流層向けのビジネスへとシフトチェンジしてしまった結果、上流層向けの商品やサービスが日本の市場から姿を消し始めています。

なぜ食品偽装問題は起きたのか?

デフレ不況の間、国中で低価格競争が展開されました。消費者もその動きを歓迎して、企業から市場に投入される安い商品に飛びつき、その反応の良さを見て、企業がさらなる低価格商品を投入するという、まさにデフレスパイラルが起こったわけです。しかし価格競争が行き過ぎると、国民に思わぬツケが回ってくることになりました。

2013年に、食材偽装問題が話題になりました。有名ホテルのレストランまでが、「芝エビ」と表示しながら実際は「バナメイエビ」を使用し、「車エビ」と表示しながら実際は「ブラックタイガー」を使用するといった、食材の偽装を日常的に行っていた実態が明るみになり、国民を驚かせましたね。なぜ、信用を第一にしてきたホテルまでが、不正に走ってしまったのでしょうか。そこには業界のモラル低下というだけでは片づけられない問題が潜んでいると、私は考えています。「安くて良いものを提供するのが企業の努力である」という行き過ぎたイ

メージに影響を受けた消費者から、「高級なエビを安い値段で食べたい!」「もっと安くて良いものを!」と強いプレッシャーを受けたために無理をしてしまったに違いありません。本来はメニューの充実度やおいしさ、行き届いたサービスといった企業努力で競うべきなのに、行き過ぎた消費者のニーズ、その市場の要請に応えようとしすぎて、つい一線を越えてしまったのではないかと思います。もちろん競争が激しいからといって、食材を偽っていいわけがありませんが、飲食業界の主戦場が「安売り合戦」になった背景には、こういったユーザーの声があることは否定できないでしょう。「安い」には、安いなりの理由があります。安さを求め過ぎたために、国民だけでなく名店までもがそのツケを払うことになりました。これは、国民全体にとって大きな損失です。こうした安売り競争で、モラルハザードが起きているのは、飲食業界に限ったことではありません。あらゆる業界で見られることです。そして、今の日本は、「安いけれど良くないものだらけ」になっています。しかしその一方で、値段より安心や信頼でモノを買いたい顧客(=「良質な顧客」や「富裕層」)もいることを忘れてはいないでしょうか。にもかかわらず、品質のいいものや、安心して購入できるものを売っていた店はすっかり姿を消し、市場には安物しかなくなってきたことで、上流層の人たちは今、「買い物難民」と化しています。低価格の商品しか市場にないというのは、一国の消費バランスとしてあまりに貧弱です。何より、上質なモノやサービスが失われることは、伝統的な高度な技術や文化が消えることです。2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、世界中の人たちを日本に呼びたい、外貨を呼び込みたいという現在の日本の状況を考えると、これは国家的な損失にほかなりません。行き過ぎた価格競争は、日本の未来にツケを残しているのです。

中小企業は価格競争に加わってはいけない

中小企業が安売りに走るのは、企業経営という観点から見ても疑問です。大手企業が低価格商品を投入するのは市場戦略の一つですが、中小企業がその流れに影響されて同じように安売り合戦に乗ってしまうのはナンセンスです。なぜなら、価格競争で勝つのは、マーケットにおいて1社のみだからです。価格競争ではトップの座を奪取しない限り、負けです。このような「独り勝ち」を競う戦いにおいては、豊富な経営資源をフル活用しスケールメリットを追求する大企業に、経営資源の乏しい中小企業が対抗しても勝ち目はありません。しかも大手企業の安売り戦略は、最終的には市場を制覇した後に行う値上げ戦略のための通過点ですから、絶対に乗ってはならないのです。

ユニクロの低価格戦略はどこに向かっているか?

ビジネス雑誌などで低価格戦略を語る際に、絶対に取り上げられるのがユニクロの行っている価格戦略です。しかし、ユニクロをはじめ大手企業がこの戦略で最終的に狙っているのは、安売り後の値上げなのです。ユニクロは、もはや衣料品業界でライバルがいない状況となっていますよね。特にヒートテックなど機能性下着の分野では、「ほぼ日本人全員が着ているのではないか?」というほど独り勝ちの状況となりました。本来大手は、この状況を作るために低価格戦略を取っているわけです。大手の目的は、低価格戦略によって他社をマーケットから締め出し、消費者全体がこれを買うしかないという状態を作った後の値上げです。もしヒートテックを30円とか100円値上げしたとしても、代替品がなければみんな買うわけですから、いったいどれくらいの利益があっという間に生まれることでしょう。もしライバルが突然現れたら、また一気に値下げをして、マーケットからその企業を駆逐できます。巨大資本を持った企業に中小企業が競争を挑むこと自体が難しいですね。もし、中小企業が低価格戦略を取るなら、大手企業が真似できないレベルの低価格で、なおかつ全国の注文を一手に引き受けるようなビジネスモデルを大手の追随を許さない速

さで展開するよりほかありません。しかしそれには、高度なテクノロジーを駆使して人を一切使わないとか、土俵そのものを変えるとか、これまでの価値をゼロにするようなビジネスモデルを作らなければ、到底不可能です。

高額な「ひな人形」が支持される理由

多くの企業が、安ければ安いほど消費者が喜ぶと思い込み、値下げのために過剰な努力をしていますが、そもそも消費者たちは、そこまで安売りを求めているわけではありません。「そこまで安くしてくれとは頼んでないよ」と言っている消費者も多いのです。人は、ただ安いからというだけでモノを選んでいるわけではありません。大切なことやものには、しっかりとお金をかけたいと思っているのです。そのことがよくわかる事例をここで一つ紹介しておきます。

東京・日本橋に「ふらここ」という日本人形のメーカーがあります。この会社では、これまでのひな人形や五月人形とはまったくイメージの違う、赤ちゃんのような表情のオリジナル人形を発表し、大人気になっています。興味深いのは、その値段が市場の相場と比べて決して安くないことです。ふらここでは昨今の値下げ戦略をまったく取っていません。にもかかわらず、毎年、購入希望者が増加し、殺到しているのです。掌にすっぽりと収まってしまうほどのサイズのお内裏様とお雛様の2体だけで6万〜9万円という値段です。三人官女と五人囃子までそろった三段飾りでは、20万前後の値段がついています。ちなみに、その飾付時のサイズは、幅も高さも奥行きも、50センチ程度と小さめです。インターネット通販には数千円からそろっていますし、スーパーで売られている、子どもの背丈ほどもある三段、五段飾りでも、2万〜3万円が売れ筋だと聞きますから、ふらここの人形はかなり高いと言ってもいいでしょう。今どき高額な人形は、売れないというのが人形業界の常識です。ところが、ふらここの人形は毎年秋に販売受付を開始すると、ピークを待たずに1月初旬には、早々に完売して

しまいます。ひな人形の販売のピークは2月以降と言われる中で、商品によっては前年中に完売してしまうのです。ちなみに、ふらここでは実店舗での販売は一切していません。お客様は実物を見ることなく、ネットの情報と、送られてくるパンフレットの情報だけで注文しています。実物を目にしなくても、ふらここの人形を求めるのには理由があります。単に人形の表情が愛らしいだけでなく、ベテランの職人による伝統の技で、一体ずつ丁寧に作り込まれているほか、飾りの小物一つまで最高級の織や素材が使用されているのです。それら一つひとつが熟練の職人による手作りなのです。当然ながら、数に限りがあるので、毎年欲しくても買えない人が出てくるそうです。その中には娘や孫の初節句として欲しかったのに買えなかった人もいます。そして買えなかった人の多くが、1年後に購入するための予約をしているのです。2008年の事業スタート以来、毎年数十人から100人、今では300人ものお客様が、1年後の予約を入れているといいます。「絶対に安物で間に合わせたくない」というお客様の意志が伝わってきませんか。

この、ふらここの事例でもわかる通り、消費者は常に安ければいいと思っているわけではありません。ものによっては、いいもの、上質なもの、自分が満足できるものしか買わないと決めているのです。それも一部の高所得者や富裕層だけでなく、一般の家庭にもそういう消費者が決して少なくないのです。そのことを知ってほしいのです。

JR九州の「ななつ星in九州」に予約が殺到

高額商品が大人気になっている事例は、ほかにもたくさんあります。JR九州の「ななつ星in九州」もその一つです。「ななつ星in九州」は、特別仕様の豪華寝台列車で九州を一周する、3泊4日のツアーが特に人気の企画ですが、1人の利用料金は75万円から130万円までと国内旅行として

は超高額です。ところが、毎回申し込みが殺到しているのです。予約ですべて埋まっているというレベルの話ではなく、何十倍もの競争率の抽選に当たらなければ、このツアーに参加することができないほどの人気ぶりなのです。2013年秋の第1期の競争率は平均7・27倍でしたが、期を重ねるにつれて人気が高まり、15年10月からの第7期では平均33倍、日程によってはなんと316倍の競争率で抽選が行われたということです。その人気の秘密は、なんといってもこのツアーのためだけに用意された、特別仕立ての豪華列車です。客室の内装は一流ホテルのそれと同格の高級家具、調度品が設えてあり、ラウンジカーでは生演奏を聴きながら、バーカウンターでカクテルが飲めるというラグジュアルなひとときが楽しめ、ダイニングカーでは有名シェフによる高級ディナーが用意され、食事をとりながら大きな車窓から九州の雄大な景色や星空が堪能できる、これまで日本では体験できなかったゴージャスな列車のサービスが満喫できます。それだけではありません。3泊4日コースでは、博多から大分、鹿児島、熊本と移動していく間に、途中下車して九州有数の温泉に浸かったり、その地の有名レストランでディナーを楽しむといった立ち寄り企画も盛り込まれていたりするほか、一般には公開されていない旧所名跡を訪ねるといった、このツアーでしか体験できないイベントも組み込まれているのです。これまで国内旅行で、しかも3泊4日のツアーで、100万円を越えるような高額な商品など買う人はいないという見方が業界の中でも大勢でしたが、「ななつ星in九州」は、値段に相応しい内容のサービスであれば、いくらでも利用したい人はいることを世の中に知らしめたのです。このツアーに参加する人は、いわゆる富裕層の人たちばかりではありません。確かに中心となるのは富裕層ですが、一般家庭の高齢者の方々も少なからず参加していることがわかっています。仕事をリタイアしたことを記念して、退職金の一部をあてて夫婦で参加する人や、鉄道が大好きでこの機会を逃したら二度と乗れないとヘソクリをはたいて参加する人など、一般家庭の人の中にも「ぜいたくするシニア」が増えているのです。この「ななつ星in九州」の事例を見ても、日本の人たちは、上流層ばかりでなく一般の人たちの間にも、大切なものや体験にはお金を惜しまない傾向がはっきりとうかがえます。値段を安くすることが消費者のためだというのは、企業側の勝手な思い込みに過ぎないということが、おわかりいただけたでしょうか。

インターネットの出現がマーケットを一変させた

日本の消費者(そして経営者)が、これほどまで神経質に値段を気にするようになったのは、私はインターネットの影響も大きいと考えています。ネットが普及するまで日本人は、今ほど価格重視でモノを選ぶことはしていませんでした。そこには日本の特殊な事情もあります。日本では戦後の高度成長期に、大手メーカーが市場価格を決める「定価制度」がとられてきました。これは、世界的に見ても珍しい制度なのです。海外旅行に行くと、商品に値段のタグがついていないことが多いことはご存じの方も多いと思います。これは、お店がお客様と対峙し値段を交渉して売るのが当たり前だからです。そこには、できるだけ高い値段で売りたいというお店の狙いがあります。日本人はこういうやり方を亜流に感じるかもしれませんが、世界的には主流なビジネススタイルです。一方、日本ではバーゲン期間やセールでもない限り、ナショナルブランドの製品ならどこのデパートでも値段は同じ=定価、という時代が長らく続きました。それは、日本の高度成長期に生まれた慣習で、お店に多くのお客様が殺到するものだから、1人ずつ価格交渉をするより、お客様が商品を手に取ってレジまで持ってくるほうが効率的だという店側の都合で生まれた、セルフサービス型のスタイルなのです。お店としては交渉してクロージングする手間と時間が減り、接客要員も最小限ですみますよね。つまり、定価制のほうが収益性は高かったのです。しかし、この定価制のおかげで日本の経営者やビジネスパーソンが交渉力をすっかり失い、商売下手になってしまったと私は考えています。お客様との交渉ができないため、値段を下げるほかに売る方法を知らないのです。売る側に交渉力がないことが、安売り競争に拍車をかけたのです。今の日本でしっかりと交渉して価格を決めるというプロセスが守られているのは、骨董品とか各種コレクション市場などかなり少ないのではないでしょうか。さて、日本で定価制度を揺るがしたのは、ダイエーなどの大型スーパーや家電量販店でした。これらの業態では、大量仕入れによるロープライスを武器にして、あるいは型落ち商品を扱うことにより、少し前にデパートで売っていたものを格段に安く買える時代を作ったのです。つまり定価を壊したのは、安売りの勢力だったわけです。そのあたりから、消費者が値段の安いお店を選ぶスタイルが浸透していったわけです。そして、ネットが出現したのはそのような時代でした。「価格ドットコム」など、価格比較サイトが登場し、同じ商品なら1円でも安く買いたい消費者に受け入れられていったのでした。市場は「情報×ロジスティクス」で形成されます。ネットは、誰もが簡単に「情報」を入手したり、発信したりできる社会を作りました。それらのサイトで、小売店ごとの販売価格が刻々と表示されたことで、最も安く売っている店を瞬時に探すことができるようになったのです。ネットは、消費者により安い買い物をする支援ツールになりました。やがてネット通販業者が一気に増えたことで、同じものを買うならネット通販(eコマース)で、というのが当たり前になっていきます。ネット通販が低価格で販売できるのは、店舗を持たず、対面の接客を省いているからです。人件費も家賃もかからないのですから、お店で売るより安くできるメリットをすべて値段に投影したわけです。とはいえ、ネット通販の草創期はまだ送料が高かったうえに、注文後、商品が届くまで

に日数もかかることから、しばらくはリアル店舗のほうが優位を保っていました。しかし、それもつかの間、アマゾンや楽天を筆頭に、ネット通販業者が大規模な物流網を整備し、「送料無料」「当日配送」を実現してしまったことで形勢が逆転します。ここで、市場を形成するもう一つの要件である「ロジスティクス」が整ったのです。これ以後、消費者の買い物は、ネット通販へと一気に傾くことになりました。ネットによる消費者の購買スタイルの変化で、全国の企業がこぞって低価格戦略へと走り始め、ネット通販やネット販売に力を注ぐようになったのでした。

「これから人はすべての買い物をネットでする」はウソ!

消費者のネット通販利用の割合が高くなるにしたがい、低価格こそが消費者のニーズだと誤解してしまった企業は自ら安売り合戦に突入していきました。競争は日増しに激化し、モノの市場価格が刻々と下がっていく状況を見ながら、世の経営者たちは、「値段を

下げなければ客が離れていってしまう」という恐怖感を植えつけられたのです。値段を下げるために製品の素材を安いものに替えたり、パーツを減らしたり、正社員を減らして派遣社員やアルバイトの割合を増やしたりと、製品やサービスの質を犠牲にし、商品開発の予算や設備投資も大幅に削っていったのです。設備投資をしないということは、未来への投資をしないことです。これは、企業が目先の利益だけを追いかけることを意味します。こうしたコストカットにより、企業が長年培ってきた質の高い製品、サービス、商品開発力は一気に衰えていきました。ネットが情報革命を起こしたのは事実ですが、日本のビジネスにおいては、あらゆる業種で質より安さを重視する風潮を作り上げてしまった感があります。ちなみに、すべての経営者が、マスコミなどで言われる「これからは消費者がすべての買い物をネットで済ませる時代がくる」という極端な予測におびえてしまったからですが、何を根拠にそんな予測ができるのでしょうか。「消費者がすべてネットでモノを買う時代」は絶対に来ません。というより、そうなるはずがない、と言ったほうが正しいでしょう。

上流層ではネット離れが加速している

なぜそう断言できるのか。そもそもネットショッピングによる1世帯当たりの支出額は、全体のわずか8・4%未満に過ぎないからです(総務省「家計消費状況調査2015年1月」)。消費者は今もなお、ほとんどの買い物をリアル店舗でしているのです。これほどネットの時代と騒がれながら、なぜこの程度にとどまっているのでしょうか。それには2つの理由があります。まず一つ目の理由は、ネットの買い物が「面倒くさい」からです。ネット通販(eコマース)を利用した買い物は、便利だと言われますが、本当にそうでしょうか。確かに1クリックで翌日、あるいは当日にはモノが届くのは便利ですが、その商品を選ぶまでにどれだけの時間を要するのか、考えたことがありますか。ご存じの通り、ネット上には膨大な情報があります。オフィシャルサイトにはじまり、購入した人の使用感が投稿された掲示板やブログをくまなくチェックするには、膨大な時間と労力を要します。

おまけに最近では、フェイスブックなどのSNSによる情報発信も行われていて、登録すれば、クーポンがもらえるといった特典などもあります。ただし、それを利用するにはアカウントを取得しなければならず、登録するのも手間がかかります。情報を得る手段は増えたものの、その操作は複雑で、情報量も多過ぎます。あまりに情報量が多いと、人は一つに絞ることができません。それは不便であることと同じです。大量の情報を見終えて、ようやく購入する一品を選んだら、次は注文フォームで住所や氏名、電話番号、メールアドレス、それにクレジットカードの番号や銀行口座などの個人情報を入力しなければなりません。個人の趣味や年収などを聞いてくることもあります。その入力作業もまた面倒です。やっと入力したと思っても、まだ終わりではありません。購入後のアフターフォローと称して、そのサイトのネット会員になることを勧められ、またもや個人情報を入力するページが現れるのです。ネットを利用する多くの人が、こういう手続きにウンザリしているはずです。そのうえ、届いた商品に欠陥があった場合、どうなるでしょうか?あるいは、思っていたものとイメージが違っていたとしたら?購入先にその旨をメールで伝えて、届いた

ばかりの商品を再び梱包し、宅配業者を手配して返送しなければなりません。このようにネットでの買い物は非常に煩雑で手間がかかる、つまり「面倒くさい」のです。すでに、「ネットは面倒くさいから使わない」という人は急増しています。また、ネットで買うモノは定番化したモノのみで、あとは使わないという消費者も増えています。特に、良質な顧客、富裕層、それに加えて賢い消費者たちは今、ネットの煩わしさに嫌気がさして、ものすごい勢いで逃げ出しているのです。こうして考えると、ネット通販は用途に合った方や、熱狂的にファン化した消費者以外の方にとっては、一時的な流行だったのかと思えるくらいに落ち着いていくのではないでしょうか。繰り返しますが、世の中には値段だけで買い物をしている人ばかりではないのです。マーケットの上層にいる富裕層の人たちはよほど大きな買い物でない限り、さほど値段を気にしません。それよりも、どこで購入するか、誰が勧めてくれるのかを重視します。信頼できる人が勧めてくれるものはすべていいものと信じ、あとは自分の好みで選ぶだけ。値段は二の次、三の次です。

今後、彼らがネットで買い物をするとしたら、そこでしか買えないものや、定期的に購

入している、銘柄の決まった日用品や食品に限られるのではないでしょうか。インターネットはアメリカで生まれたネットワーク技術ですが、そもそもアメリカは国土が広大で、お店に行くまでに一苦労する人たちが多いわけです。アメリカの買い物の量が多いのは、最低、1週間分は買いだめしておかないと困るからですよね。そういう国の人にとっては、1クリックでモノを持ってきてくれるサービスは生活を支えるインフラということになりますが、日本はたいてい、近くにお店があります。その証拠に、ネット通販を立ち上げて利益を上げているあるIT企業の若手経営者は、「私もネット通販を利用しません。だって近くのお店に行ったほうがはやいじゃないですか」と言っていましたからね。実際には、多くの人がネットでの買い物を面倒だと感じていて、できれば使いたくないと思い始めているのです。ですから、「消費者がネットでしか買い物をしない時代」はやってこないのです。

ネットの買い物は楽しくない!

もう一つの理由は、ネットの買い物は「楽しくない」からです。人は、買い物に値段以外のいろいろな要素も含めた楽しさや満足感を求めています。1クリックで品物が届くのは便利ですが、それを味気ないと感じる人も確実にいるのです。私たちは必要なものが手に入れば満足でしょうか。そうではありませんよね。買い物を通じて、気持ちが弾んだり、明るくなったり、心が豊かになるといった、精神的な満足感も得たいと望んでいます。かつての高度成長期の、最も人気のあった家族のレジャーは「買い物」でした。週末に家族そろってデパートに行き、お母さんはお気に入りの洋服を買い、子どもは欲しかった玩具を買ってもらって、満ち足りた気持ちでレストランで食事をしました。食事を終えたら、屋上階の遊園施設で乗り物に乗ってみんなで大はしゃぎです。夕方、帰途につく電車や車の中では家族みんなが満足感に包まれ、幸せな気分を味わっていました。その当時の買い物とは、生活に必要なものを調達しにいくだけでなく、むしろ家族みんなで楽しい体験をして絆を深めるエンタテインメントだったのです。そんなふうに精神的な満足感を得ることも、買い物の持つ魅力です。時代が変わっても求めているのは、心を満たしてくれる買い物体験なのです。

いくらネットで買うほうが安いといっても、面倒な手続きがあって時間がかかったり、楽しさや満足感を感じさせてくれなかったりするなら、値段が多少高くてもお店で買いたいという人も少なくないのです。値段ではなく安心や信頼、そして楽しさや満足感を求めているのです。そういう買い物が、今の日本の市場ではできなくなってきているのです。本来の買い物が持つ、行き届いた接客を受ける心地よさや親切なアドバイスをもらう喜びを犠牲にしているとも言えますね。しかし、「ふらここ」や「ななつ星in九州」の例に見るように、日本人は今もなお大切なものには、品質や値段で妥協したくないのです。その傾向は、これから徐々に顕在化していくはずです。

今こそ経営の舵を反転させる

企業はこれまで「消費者のため」と言いながら、実際は本当にいいものを求めている人や、買い物で楽しみを得たいと思っている消費者を切り捨てているに等しいのです。私はあらゆる企業の経営者に、安売りという「ネットの時代」の恐怖心を捨てて、「今すぐ勝ち目のない安売り競争から降りましょう」と言いたいのです。特に中小企業は、今が値上げや上流層に向けたビジネスを始めるチャンスです。厳しい時代を生き延びてきた中小企業には、独自の技術や得意分野があることでしょう。貴重な資産を活かす道は、下流ではなく上流へと続いています。それは中小企業に限ったことではありません。大手企業も、買い物難民と化している上流層に向けたビジネスを始める絶好のタイミングなのです。そのことに多くの企業が気付き、「良質な顧客」や「富裕層」のいるマーケットにシフトすれば、国内企業の業績は少しずつ上昇し、市場が活性化して、やがて景気は上がると私は考えています。

序章まとめ

マーケットが二極化している中間層が下流層に流れて、それに合わせるように、企業の安売りが始まった低価格戦略は、大手企業しかできない

大手の狙いは、安売り後の値上げである中小企業は安売りに走っても勝てないから、参加してはいけない

高額商品がなぜ売れるのか?いいもの、上質なもの、自分が満足できるものしか買わない人がいる大切なものには、品質や値段で妥協したくない値段を安くすることが消費者のためだというのは企業側の思い込みである

インターネットの出現で何が変わったのか?同一商品を安く買える購買スタイルに変化。それが、低価格競争に拍車をかける売る側に交渉力がなく、安くするしか売る方法を知らない目先の利益しか追わなくなった一方で、ネット離れが加速しているネットの買い物は「面倒くさい」「楽しくない」と感じている層がいる

この章では、「良質な顧客」や「富裕層」に受け入れられるビジネスをスタートする準備として、日本の経営者が業績回復の最善策として信じてやまない値下げが、いかに経営的に間違っているか、また逆に、企業の経営を健全化させるために、なぜ値上げが必要なのかということを解説します。

 

 

BtoBでもBtoCでも値上げは可能

顧問先の経営者の皆さんに、「値上げをしてください」と言うと、ほぼ必ずと言っていいほど、最初は「今の値段でも売るのが大変なのに、高くしたらなおさら売れなくなる」という答えが返ってきます。それでも、BtoCのビジネスをしている会社では、「そんなに言うなら、騙されたと思ってやってみるか……」と、渋々とこちらのアドバイスに応えてくれるのですが、BtoBの会社の経営者は、なかなか頑固です。一般にも、BtoCの値上げはしやすいけれども、BtoBの値上げは難しいというイメージがあるようですね。「消費者を相手にするビジネスの場合は、お客さんが買うか買わな

いかは別にして、値上げしようと思えば売る側の都合でできるけれども、企業間取引の場合は相手のビジネスにも影響するから、そう簡単にはいかない」「仕入れてもらう時に、なるべく原価を抑えて卸すことをお互いの協力関係としてやってきたから、簡単にその協力関係を崩すわけにはいかない」……ということなのでしょう。実際、BtoBでは値上げができないというのが、多くの経営者の悩みの一つとなっています。しかし、私の経験から言うと、今の時代は理屈や方法さえわかれば、実はBtoBのほうが値上げは簡単なのです。検査料を10倍にした試験系検査会社私の顧問先に、大手企業からある特定分野の製品に対する性能評価を行っている会社があります。その会社では値段をかつての10倍にしてもなお、引く手あまたでオファーが殺到している状況です。かつて、この会社では、企業のコスト削減要求に合わせて各性能評価をわずか数十万円という低価格で請け負っていました。本当はやったほうがいい検査も、企業の意見に押されてやらないことが多かったそうです。しかし、現在では必要な試験はすべて提案し、総額で数百万円、ケースによっては1000万円単位の検査料で請け負うようになっています。どうして、そうしたことが可能になったのか。しっかりとした性能評価を受けた製品がマーケットの評価を得て、他社商品と比べて高い値段で売れるようになることを企業側に理解してもらったからです。たとえば、飲料業界の例で、トクホ(特定保健用食品)のしくみを考えてもらえば、わかりやすいでしょう。かつて、花王「ヘルシア緑茶」、サントリー食品インターナショナル「サントリー黒烏龍茶」、キリンビバレッジ「キリンメッツコーラ」など、飲料の世界でヒット商品が立て続けに出現し、現在も食品スーパーやコンビニで定番商品として扱われています。そうしたトクホの審査はとても厳しくて、認可取得に約1億円もの費用がかかるそうです。それでも企業がトクホの認可を得ようとするのは、トクホの「お墨付き」がもらえると、その製品の売上が格段に上がるからにほかなりません。その売上に比べたら、1億円なんて安いものだからです。同じように、人の生活で必要な特殊機能を持つ製品についても、しっかりとした客観的な検査データと性能評価を示すことができれば、その分、売上が上がることが、各メーカーの実績からわかってきました。そこで、取引先メーカーに、自社の性能評価がもたらす製品の売上向上の効果をあらためて検討し直してもらった結果、性能検査・評価にかける予算が軒並み、従来の5〜10倍

たのです。このように、BtoBでも商品やサービスの説明、提案の仕方を変えるだけで、値段を上げられることが多いのです。この時の顧客を選ぶ条件や顧客との交渉の仕方については第5章で詳しく解説することにしますが、BtoBでも値上げができる、むしろ値上げしやすいのです。もちろん、頑なに値段だけを要求してくる企業もありますから、その会社に対して値上げをすることは難しいでしょう。現在の取引先がすべてそういう会社ばかりだったら値上げの発想そのものも持ちにくいと思います。企業によっては商品やサービスを安く売りたいと思っているわけではないところもありますから、ターゲットを変えてアプローチすることも可能です。私の指導のもと、顧客を全部入れ替えてどんどん値上げしていった会社もあります。提供する商品・サービスが取引先のビジネスにどれだけの恩恵をもたらすか。その価値を共有することができれば、値段を10倍にすることも決して難しくありません。条件によってはそれ以上にもできるのです。断れば断るほどお客様から信頼され、受注が増えた運送会社私の著書の一つに、『営業マンは断ることを覚えなさい』(三笠書房)があります。この本は、お客様にペコペコしたり、無理に話を合わせたりせず、むしろこちらが売る相手を選ぶという、「断ることで売れる営業スタイル」について解説しています。それと同時に、経営者が社内に構築するべき「断れるしくみ」についても解説した本で、数ある著書の中でも長く売れ続けています。デフレ不況の真っただ中で刊行されたこの本の中で、すでに私は「値段に関しては、下げるより上げる、と覚えておいてください」とハッキリと書いています。営業マンの「値段が高いから売れない」という言い訳に対して、「同じ商品でも、うちから買うほうが高いですよ」という強気の営業スタイルを推奨しています。これを参考にして「値引きをせずに売る」、あるいは「高いから売れる」ビジネスを実行された方々から、成果を得られたという報告がいくつも私のもとに寄せられました。そのうちの一社の事例をここで紹介します。その運送会社は、かつて競合他社とのダンピング競争の渦に巻き込まれ、倒産寸前の状

況にまで追い込まれていました。相見積もりを取ったお客様からは、「他社はもっと安い値段でやっている」と言われ続け、できる限りの値下げを要求されていたのです。しかし、利益が出るどころか、やれば赤字になってしまうような仕事ばかりが増えていき、やがて「どうしても他社の値段にはついていけない」「このままでは、会社が潰れる」というところまで来てしまったのです。そんな時に、相見積もりを取るお客様に対しても気後れすることなく、「現実的に考えて他社の値段は絶対に無理。うちはしっかりとした仕事をやりたいから、この値段以下ではお受けできません!」と、正当な利益が出る見積額を堂々と提示することに決めたのです。すると、一時は安い見積もりを出した会社にお客様が流れていってしまったものの、しばらくすると、「他社よりも高いけど、やっぱりおたくに頼むよ」というお客様が何社も出てきたそうです。そして、依頼主から「他社は安いけれども、作業は乱雑だし、連絡・報告は遅いし、もうこりごりです。そんなところに二度と頼みたくないと思って、一番高い値段を提示してきた御社にあらためてお願いすることにしました」「値段の分、しっかりとした仕事をしてくれて本当に助かっています」と言われることが多々あったそうです。顧客たちは安い代わりに雑な仕事しかできない運送会社に懲りて、本当に信頼して任せられるところに戻ってきたのです。決して自社のサービスレベルを落とさずに、十分に利益が出る料金設定を打ち出したところ、当然、競合他社よりもはるかに高い値段となりました。しかし、結果的にお客様にはとても喜ばれることとなり、倒産寸前だった業績を急激に回復させることができたそうです。社長さんが直々に書かれた、熱い感謝の手紙をいただいたことを今も覚えています。売り切れてもお客様に媚びずに大繁盛している老舗次に紹介するのは、塩昆布や鰹昆布など、北海道道南産の天然真昆布を使った食品を販売する、天明元年(1781年)創業の老舗「神宗」の事例です。神宗は、大阪・淀屋橋に直営店舗を構えるほか、全国各地の百貨店食品売り場に出店していますが、すべての店舗で一日に販売する数を決めていて、毎日売り切れてしまうのに、それでも販売数量を決して増やそうとはしません。

他店と比べて、かなり高額な商品を販売しています。それでも多くのファンを抱え、常に売り場が賑わっているのですが、営業時間内であっても、一日の販売数に達してしまうと、「売り切れ」にしてしまうのです。買いに来たお客様から「せっかく来たんだから、売ってくれ」と頼まれても、きっぱりと断ります。「じゃあ、明日、もう少し早い時間に来たら買えますか?」と聞かれても、「申し訳ございません。その日の状況ですから」と答えるのだそうです。予約も受け付けません。販売している間に買いに来てくれた人にしか売りません。なぜ、そこまで販売する数にこだわるのかと聞くと、「数を増やせば品質が落ちるから」だそうです。通常、テナントを管理する百貨店側は、「売り切れだけは絶対に避けてくれ」と要求するのですが、頑として自社の営業スタイルを貫き通してきたのです。その頑なな姿勢がお客様にはむしろ支持され、ある百貨店が閉店することになった時、神宗の売り場にだけ行列ができたといいます。手軽に買えないからこそ価値がある。それがお店のブランド価値を高め、最も大事な人への贈答品として重宝されるに至っているのです。そういう客に媚びない姿勢から、今では伝説のお店と言われるまでになっています。価値に見合った金額で売ることの大切さ値上げすることや高く売ることを、顧客に対する背信行為のように感じてしまう気持ちが、どうしても拭い去れない方もいらっしゃるかもしれません。私から言わせてもらえば、そうした気持ち自体に問題があります。どうしても値上げをすることに気後れや不安を感じてしまう人は、このように考えてみてください。私の言う値上げとは、つまりは「価値に見合った金額で売る」ということなのです。現在の企業の多くは、デフレ不況下での値下げ、値引き、安売りで、販売する商品やサービスの価値よりも、はるかに低い値段で売っている状況です。それを本来の値段に戻すことが、私が勧める「値上げ」の本当の意図なのです。先ほど紹介した運送会社や老舗の昆布屋さんの事例が示すように、安く売ることは、品質やサービスの悪さの裏返しでもあり、逆に、高く売ることは品質やサービスの良さの保証ともなります。そのものの価値に見合った値段であれば、たとえ他社よりも高く売っていたとしても、お客様はその分、安心して、喜んで買ってくれます。商品やサービスの値段には未来に向かって社員を雇って教育したり、機械をメンテナンスしたり買い替えたり、事業所を綺麗にしたりといった費用も含まれていなければなりません。それが本来の「適正価格」です。そこをカットしてしまったら、人は採用できず、機械は古びて故障してしまい、未来を作っていくことができず、やがて品質の悪いサービスや商品しか提供できなくなるのは目に見えています。ですから値段には、商品やサービスの品質を維持・向上させ、自社が未来においても顧客にとって価値を保てるだけの利益が盛り込まれていなければならないのです。安く売らなければ買ってくれないお客様は、値段だけを見て買っている層の方ですから、あなたの会社を長く支えてくれる顧客にはなり得ません。反対に、高く売っていても買ってくれるお客様は、あなたの会社が提供する価値を見て

買ってくれる方です。あなたの会社を支えてくれる「良質な顧客」として、良好な関係を築くことが期待できる相手なのです。

最初は「値段」だけを上げる値上げをして今までよりも高く売ることが、商品・サービスの価値に見合った金額で売ることとイコールであることは、すでにご理解いただけたと思います。その際に気を付けなければいけないのは、値上げに伴って、今の商品やサービスの品質を上げたり、新たなサービス内容を加えたりするのを、当初は極力しないことです。値上げの方法は第3章で事例と共に詳しく述べますので、今はこのことだけ覚えておいてください。最初の段階では現在売っている商品・サービスの内容はそのままで、説明の仕方を変えて、値段だけを上げるというのが大原則です。そのものの価値に見合った金額で売ることが目的なのですから、「値段だけ上げるのは

申し訳ない」「同じ商品なのに、値段だけ高くしたら売れない」とは、決して考えないでください。そもそも本来の価値がお客様に伝わっていないので、値段を安くしないと買ってもらえなかったわけです。説明の仕方を変え、自社の正しい主張を遠慮しないでその説明の中に加えるだけで十分です。ここで行う最初の値上げは、本来の価値に見合った値段に戻すためのものなのですから、高くなった分何かを補う必要はありません。今が安すぎるので、正当な値段に戻すだけのことです。このことが理解されるまでに相当、時間がかかったり、なかなか受け入れてもらえなかったりすることが多いのですが、それほど値下げこそが是であるという間違った精神が日本の経営者を蝕んでいるということなのでしょう。値段を上げ、十分な利益を得ることで経営が健全化された後は、より良質な商品の開発やサービスの拡充の努力によって、さらに顧客に喜ばれる企業を目指すことで、顧客に還元していくのです。

この章では、値下げや安く売ることが経営に及ぼす弊害、そして値上げや高く売ることが経営にもたらす恩恵について解説しました。値下げは会社の業績に大きなダメージを与えるだけでなく、産業そのものを壊していく悪循環を生み出してしまう可能性があるということについて、また、それとはまったく逆に、値上げがいかに経営の健全化に寄与するか、さらには産業全体、社会全体にもたらす好循環について、ご理解いただけたでしょうか?値下げは最悪な経営手法であり、値上げこそが正しい経営手法であることを、ここで十分に理解したうえで、本書を読み進んでいってもらいたいと思います。

第1章まとめ安く売ることが正しいのか?安く売る=企業努力は間違い。値下げは最悪の経営手法である値下げによってどうなるのか?産業構造全体を破壊する値下げで下請け企業が締め付けられ、質が落ちて評判を落とし、結果、下請けの倒産、職人不足に陥る値下げの最大の問題は何か?経営者が現場を離れられなくなる値上げこそ正しい経営手法である顧客数を減らし、販売個数を減らし、在庫を少なくしても、これまでの利益を十分確保できる値上げの目的とは何か?価値に見合った値段で売り、しっかりと利益を上げること・検査料を10倍にした試験系検査会社・値引きせずに質の高いサービスを維持した運送会社・品質が落ちるのを避けるために少数販売を身上とする老舗値上げはどのように行えばいいのか?最初は値段だけを上げる。サービスなどは加えない

この章では、これから取り組む「値上げ」について、よりスムーズに行えるようになるために、そして、目指すべき「良質な顧客」や「富裕層」について知るために、消費について詳しく解説していきます。そして、次章で事例と共に詳しく解説する値上げの法則と方法をより実行しやすくするために、商品やサービスの値段と価格決定の要因について触れます。一般に捉えられている、あるいは、あなたが思い込んでいる値段についての概念がいかに間違っているかを確認しながら読んでいってください。これから行う値上げに向けて、「価値観や思考」が変換されます。

 

お客様はアプローチ次第で富裕層にも庶民にもなる

日本人はみんな、富裕層と同じものの買い方をする傾向を持っています。それは、世界的・国家的に考えて、日本が世界の中でもトップクラスに豊かな国であり、さらには欧米や一部のアジア諸国のように、階級社会といった側面がまったくないからです。序章で示した通り、現在の日本の社会では経済的な格差が広がり、国民一人ひとりの所得が二極化しつつあることは確かです。しかし、それでもなお、時と場合により、ごく一般の人たちが「安いものよりも高いもの」を選び、「モノよりもコト」を買うのが日本国民の消費の特徴です。そして何よりも富裕層の特徴と重なる「自分らしさ」を買う消費の傾向を表すのが日本人なのです。同じ顧客でもアプローチの違いによって、安いものしか買わない消費をさせてしまうことも、反対に、値段の安さを基準としない購買を促すこともできるのです。つまり、どのようなアプローチをするかによって、お客様は富裕層にも庶民にもなり得るということです。それが実はお金持ちである日本人の消費を特徴づける傾向なのです。日本人は庶民とはいってもそれなりの資産を持っている人が多くいるので、ビジネスのアプローチとしては、まずは高く売れる可能性を求めることが道理でしょう。

狭いアパートに住んでいても、こだわりを持って高級車を乗り回す方もいますし、着飾ることに関してはお金に糸目をつけない方も、世の中にはたくさんいます。「安くしないと売れない」という誤った思い込みは、日本人を過小評価しているとも言えるわけです。どうかその思い込みは、ここで捨て去ってください。

町のお弁当屋さんで5400円の「のり弁」が売れた!「誰もが富裕層と同じような消費傾向を示す可能性がある」ということについては、それを端的に表している事例を、以前、何気なく眺めていたテレビ番組で発見したことがあります。それは、手作りのお弁当を売るお店での話で、「5400円の超高級『のり弁』が売れるだろうか?」という検証企画でした。そのお店で普段売っている「のり弁」は320円なので、なんと約17倍の値段です。ちなみに、「5400円」の理由は、フジテレビ「料理の鉄人」の2代目「和の鉄人」、中村孝明さんによる「手作り弁当」だったからなのです。私の記憶が確かならば、そのお弁当の中身は、真鯛のフライに伊勢海老の竹輪といった、町のお弁当屋さんではあり得ない贅沢さでした。はたしてこのお弁当を買う人は現れるのか?結果は……なんと2時間で7個も売れてしまったのです!普段と違う客層を集めるために、その豪華弁当の販売を事前に告知していたわけではありません。普段と同じ数百円のお弁当を買い求めに来たお客様に対して、カウンターの片隅に、「あの中村孝明さんが作った『超高級のり弁』を5400円で販売」といったPOPを出しただけで、それだけの数が売れたのです。実際に買った人へのインタビューでは、「一回、こういうのを食べてみたかった」とのコメントが聞かれました。「普通ののり弁の17倍の値段ですが大丈夫ですか?」という問いに対しても、「全然、平気です」と答えていたのです。この検証結果を、皆さんはどのように考えますか。

特にあなたが安売りを志向している経営者だったとしたら、この結果は、かなり重く受け止めなければならない現実ですよね。なぜこんな消費行動が生まれたのでしょうか?それを少し考えてみましょう。まず、中村孝明さんの手作り弁当であれば、それだけで興味がそそられますし、5400円でも食べてみたいと考える人が現れるのもうなずけます。もし彼に普通にお弁当を頼んだら、1万円は軽く超えるはずですから、逆に安いくらいです。それだけでも十分買うに値する価値が見込めます。もう一つの側面としては、「中村孝明さんの作ったのり弁なんて滅多に食べられない」ということも挙げられます。これを買って食べてみれば、「あの中村孝明が作った『のり弁』を食べてみた。ウマかったよ〜!5400円もした!」とツイートできますし、当分の間は人と会った時に話題に困りません。あるいは、町のお弁当屋さんで、「ちょっとした弾みで5400円のお弁当を買ってしまうオレ」に「自分らしさ」を感じていたのかもしれません。数百円のお弁当を買いに来たはずの人が、「高いから買う」「モノよりもコトを買う」「自分らしさを買う」という消費の傾向を見せた瞬間でした。この5400円ののり弁の事例は、何を意味するのでしょうか?それは、サービスを提供しようとする側の顧客に対するイメージと、受け取る側の消費者の思考の激しいズレです。今、経営が上手くいっていない企業にとって大きな問題となっているのは、商品やサービスを「安くしなければ売れない」との誤った顧客への思い込みにほかなりません。実は、売る側が安く売ってしまっているから、安くしか買ってもらえないだけで、その結果、業績が上がらないという可能性がかなり高いのではないでしょうか。ここまでは、「良質な顧客」や「富裕層」の消費感覚を知っていただくために、消費の種類について解説しました。売る側がお客様をどう扱うかというアプローチの違いによって、安いから買うお客様にもなれば、高いから買うお客様にもなる、ということをご理解いただけたでしょうか。序章で紹介した「ふらここ」のひな人形の事例や、JR九州による「ななつ星in九州」

の事例も併せて考えてみてもらえばわかる通り、売る側の投げ掛け方次第で、相手の消費の仕方を変えることができるのです。

 

値段に合理的な根拠はない

経済学では「モノやサービスの値段は需要と供給のバランスで決まる」と教えています。そのために「すべてのモノやサービスの値段には確たる理由がある」と思っている人が多いのですが、実際には値段に合理的な根拠などありません。政府や業界団体などが、需給バランスなどを分析して基準値を示せばわかるのではという考えもあります。確かに、国家規模で統計を出せば、需給のバランスによる変化や傾向などはうかがえるかもしれませんが、それがそれぞれの会社の商品やサービスの価格を決定するかというと違います。現実はもっと複雑化しているので、その指標はまったく価格決定の要因にはなりません。その証拠に、市場価格の分布を調べれば、単に椅子というカテゴリーでも1000円くらいのものから数十万円、ものによっては数百万円のものまであるように、椅子の商品群一つをとってみても値段にはかなりのバラつきがあるのです。「うちの会社は値段を巡って随分上層部が会議を重ねて決めていますから、きっと何らかの根拠があるに違いありません」と反論する人もいるかもしれませんが、値決めというのは、その会社の思惑や戦略によっていかようにも変わるものです。はっきり言って、何にどんな値段をつけようと売る側の自由です。

値段と価値の曖昧な関係

「店や会社が自由に決めていいと言っても、価値に合っていないとダメなんじゃないですか?」という人もいるでしょう。

その通りです。値段には、そのモノやサービスの価値がしっかりと反映されているべきです。しかし、どうでしょう。この本の読者も含めて、多くの消費者は、いいものを安く買いたいと思っていませんか?ほとんどの消費者は、価値が同じなら、安いほうがいいと考えますよね。企業側も、そうした消費者の熱烈な声に応えようと、本来持っているモノの価値に比べて、なるべく低い価格設定にしようと努力しています。今はそれが行き過ぎてしまって、市場には、本来の価値よりも値段が安いものがあふれかえっています。一方で、多くの人があまり価値を感じないようなものでも、高額な商品はたくさんありますし、それを喜んで買っていく人もいます。このように、市場においては値段と価値の関係はとても曖昧なのです。なぜ、モノの価値と値段の関係が曖昧になってしまうのでしょうか。それは、モノやサービスの価値は、見ただけで測れないからです。たとえばバッグ。包装をとり、ブランドがわからないようロゴを外した状態で目の前に置かれたら、たいていの人はそれが市場でいくらで売られているものなのか、さっぱりわからないはずです。また、モノやサービスの「価値」は、その場の環境や状況によって変わります。コンビニエンスストアでは100円で売られているボールペンが、海抜2500メートルの山小屋で300円で売られていたら、どうでしょうか?本当にボールペンが欲しい人ならば、「こんなところでボールペンを買えるなんてありがたい!」と喜んで買うかもしれません。そこまで極端な例を考えなくても、自動販売機で120円の清涼飲料水が、お店で氷の入ったグラスに注がれると、300円にも500円にもなるのは誰もが知っていますね。この事例だけでも、モノやサービスを提供する側は、いかようにも価格を設定できることがわかります。もちろん自社にとって満足な値段でも、顧客がそれだけの価値を感じなければモノは売れません。価格を高く設定するということは、同時に顧客に価値を感じてもらう工夫も必要です。この時に重要になってくるのが、どのような価値を、どのようなメディアを使

い、どのようなスタイル・方法で情報として発信するか、ということです。どうですか?価格というのは結構複雑ですよね。一般には価格設定についてほとんどの企業が真剣に考えていないようで、周りの状況などを基に経営者のカンなどに頼って決められているというのが実態です。前章で、商品やサービスの中身を一切変えずに、値下げした場合と値上げした場合の売上と利益の差による経営状況の劇的な違いを紹介しました。しかし、このように、経営の根幹を揺るがすような重大な価格設定を確たる理由や信念もなく、その結果訪れる自社の将来像を真剣に考えないでしているとしたら、本当に心配になります。価格の設定は経営者が行う経営判断のうちで最重要な問題だとしっかり理解していただいて、次に「価格を決定する要因」について紹介します。価格を決定する3つの要因では、何によって価格は決まるのでしょうか?また、価格決定の要因について、どう解釈すればいいのでしょうか?その辺りを一緒に考えていきましょう。一般的に値決め(=価格決定)を考える際には、要因となる3つの観点があります。1原価を含めたコスト2他社との比較3その製品やサービスが持つ価値これら3つのうち、どれに比重を置くかはそれぞれの企業の判断であり、儲けの部分の設定の幅も、各企業の思惑と戦略、トップの意向によって変わります。たとえば、自社の仕入れ価格50円、他社が100円前後で売っているボールペンをいくらで売るかと考える場合に、これらの要因「コスト」「比較」「価値」が経営者やスタッフの思考の中で意識的・無意識的に考察されて価格が決定していくのです。

この3つの要因、「原価を含めたコスト」「他社との比較」「その製品やサービスが持つ価値」について、考察を加えます。例に出した自社原価50円、他社が100円前後で売っているボールペンを1000円で売ったところで何も問題はありません。第三者に強制的に止められたり、法律に触れたりすることはありません。それを買うか買わないかは、究極的にはお客様が決めることです。しかし、実際には1000円で売る会社はまずありません。なぜかといえば、「他社が100円で売っているものを、何の工夫もせずに1000円で販売しようとしても、買い手はいないだろう」と誰もが判断するからです。ではどうするか?・売値1000円はあきらめ100円で売るが、利益はもっと取りたいので、マーケットの異なる他社と協力して数量をまとめ、仕入でコストを変えられないか?・1000円で売るために競争がないマーケットで販売する方法はないか?(先ほど例に挙げた山小屋で売るのがこのケースですね)・他社が100円、自社が1000円でもお客様が納得するような、何か自社にしかできない付加価値をこの商品にプラスできないか?と、意識的・無意識的に考えるわけですね。これが価格を決めるプロセスです。「原価を含めたコスト」「他社との比較」「その製品やサービスが持つ価値」が、それぞれの比重で価格を決定する要因になっていることがわかりますね。参考までに書いておきますが、経営判断によっては、50円で仕入れたボールペンを50円で、あるいはもっと安く赤字になる値段で売る場合もあります。理由は、新規顧客を呼び込む集客のコストなどをトータルで考えた場合、ある商品やサービスを赤字価格で販売して、ほかのもので収益をカバーする戦略を使うからです。この場合も「コスト」「比較」「価値」が価格を決める要因となっています。赤字でも売るのか?商品やサービスの価格を決定するということは、奥が深く決して一律ではない行為です。

経済学のセオリーではありませんが、思考として「価格は他社との比較、マーケット内の需要と供給のバランスによって決められたもの」とあなたが思い込んでいたとしたら、経営的な思考がとても狭かったということです。後に出てくる「同じ商品やサービスを顧客によって値段を変えて販売しても構わない」という解説には、相当な違和感を持つと思いますので、今から心して価格の考え方について柔軟性を持つようにしてくださいね。価格に対するあなたの考えがリセットされた時に、あなたの経営センスが飛躍的に向上するはずです。原価は価格の一要因に過ぎないそれでは価格を決める要因である、「原価を含めたコスト」「他社との比較」「その製品やサービスが持つ価値」についての解説に入ります。まず、最初の要因である「原価を含めたコスト」について考察していきましょう。モノの価格は原価で決まる、と考えている人も多いのですが、一概にそうとは言えません。原価率はものによって幅がありますし、生活必需品と趣味・嗜好品でも全然違います。特に、嗜好品の分野では、「ブランド」という目に見えない価値が発生するために、原価はほとんど関係ありません。30万円以上の値がつく高級ブランドのスーツでも、原価だけを考えるとほかのスーツとそれほど違わないのが現状です。化粧品にしても、名の通ったブランドの化粧品は高価ですが、原価だけを見るなら、国産の安価なものでも、ヨーロッパの高級ブランドのものでも、それほど変わらないはずです。このように、「原価は価格の一要因」ではありますが、それだけで価格が決まるわけではありません。未来を実現させるのが「適正価格」原価と価格について少し解説しましたが、原価を取り上げたついでに、「適正価格」に

ついても考えてみましょう。価格決定の要因の一番目に「原価を含めたコスト」と表現したのには理由があります。経営者の方の中にも、先ほど解説したように「価格は原価で決まる」と考えている方が多いのですが、私がなぜ「原価」ではなく「コスト」と表現しているかというと、コストの中には、仕入れもしくは製造原価のほかに販売管理などいろいろな必要経費が含まれているからです。価格決定の要因を「原価」だけに求めて価格を決めてしまうと、会社の将来性がなくなってしまうので、経営者のみならず、スタッフの方にもよく理解していただかないといけない問題ですね。商品やサービスを安く売りたいといって値段を下げていく会社の多くが、「コスト」ではなく、よく考えないで「原価」を基準にしてしまうことが多いのですが、これは自殺行為以外のナニモノでもありません。「コスト」から考える「適正価格」「適正価格」とは、原価に加えて、付随する諸経費、さらに将来の発展までを見越した費用をプラスした価格のことを言います。たとえば、社内設備の拡充やメンテナンスコスト。それがなければ機械は老朽化し、故障も増えます。また、将来にわたってより質の高い製品や便利な製品を生み出すための、研究開発も必要です。さらに、少しでも優秀な人を採用し、教育を施さなければいけませんから、その分の費用も上乗せしたいところです。オフィス環境も、なるべく便利な一等地にあって、見た目にもカッコいい社屋にしたいと考えていれば、その分のコストも入れます。もちろん働きが報酬に反映されてこそ、社員も働きがいが得られますから、給与を上げていくための費用も含めた金額を考えなければいけません。このように自社の夢や目標をすべて乗せ、将来の発展と社員の幸せが担保される価格が「適正価格」です。

一杯のラーメンの価格を決めるまず、ラーメン一杯にかかる原価を割り出してみましょう。通常は、麺のほか、ネギ、卵、もやし、メンマ、チャーシュー、コーンなどの具材に加え、スープ作りにかかる費用などから原価を計算します。さて、その原価の上にその他かかるすべての経費を付加し、さらに利益分も乗せなければビジネスになりません。ということで、そこには、ラーメンを作る人の人件費、採用と教育費用、お店の地代家賃、水道光熱費などが考慮されていなければなりませんね。できれば定期的にチラシを打つための販促費も入れたいところです。少し先のことを考えれば、さまざまな機器の修繕費もかかりますし、皿やどんぶり、箸などの消耗品も常に補充する必要があります。また、新商品開発のため研究開発費も当然必要となりますし、数年に一度はお店の内装も変えたいということで、リフォームのための社内留保も必要となります。さらには、お店を清潔に保つための店内清掃や仕事着のクリーニング代も考慮する必要があります。これらすべてのコストを原価の上に乗せてはじめて、おいしいラーメンを綺麗なお店で作り続けることができ、2号店、3号店と事業を発展させていくビジョンが描けます。これが「適正価格」です。原価や自分の人件費以外に、これだけのコストをかけられるだけの利益が出なければ、お店は老朽化し、味は衰え、設備は古くなり、掃除が行き届かず、衛生状態も悪くなるため、次第に顧客数が減っていくのは目に見えています。それではおいしいラーメンを長年、出し続けていくことはできません。この本では値上げの必要性についていろいろな角度から書いていますが、値段を下げるということは、今解説していることとは真逆のサイクル、未来の発展の要素を一つずつあきらめていく、発展の要素をなくしていくということになるわけですから、安易に決断していいわけがありませんね。価格決定の要因である「原価を含めたコスト」について解説しましたが、この「コス

ト」を知ることの重要性と価格決定に対する意味は何かというと、この値段以下では決して売ってはいけないという最低価格を理解することです。この価格は最低の価格ですから、ここから「価格をいくらにするのか?」という思考に入っていくのが正しい経営のあり方、価格決定の方法になるのです。もちろん、先に触れた「50円で仕入れたボールペンを50円で売る」ように、その価格以下で販売する戦略もマーケティング上なくはないのですが、それでも、この最低価格を理解しての戦略であることがとても重要ということですね。他社と「比較」して価格は決まるのか?自社の商品やサービスの価格を考える際に気になるのが、他社の価格です。自社の思いはあるにせよ、ほかですでに同じような商品やサービスを販売している会社があれば、詰まるところ、価格は「他社との比較」なので、「同じような値段にしなければ」とか、「後発なので少し安めの値段にするべきか?」などと考えてしまいがちです。この「他社との比較」は、どんなふうに価格を決める要素として使えるのか?どんな思考で活用したらよいかを、一緒に考えていきましょう。また、この「他社との比較」はこの章の「消費には4つのタイプがある」で解説した顧客の購買理由がわかっていないと、単に値段を下げる要因にしかならない危険性を持っていますので、ここで解説する「比較」を活かした価格決定の方法をよく理解してください。まず最初に、価格を決める要因の中で、この「他社との比較」のウエイトは「原価を含めたコスト」よりもかなり上です。位置関係で言うと、「その製品やサービスが持つ価値」「他社との比較」「原価を含めたコスト」ということになり、ウエイト的には「価値」よりも下、中間に位置します。

「原価を含めたコスト」が、なぜ一番ウエイトが低いのでしょうか。先に解説したように、「原価を含めたコスト」の設定を間違えると、将来的に大きなマイナスになり、企業の未来がなくなる可能性があるので絶対にチェックしておかないといけません。しかし、価格の決定となると、「最低限の基準」という位置づけなのでウエイトが低いのです。「最低限の基準」をベースに「どれくらい利益を取ったらいいのか?」を決めるため、ほかの要因である「比較」や「価値」のほうがウエイトが上となります。たとえば、「原価を含めたコスト」からこれくらいで売らないと利益が出ないという数字が出ます。マーケットですでにそんな金額をはるかに凌ぐもっと高い値段で商品やサービスを販売している会社がある場合には、「原価を含めたコスト」から算出した金額ではなく、その他社の高い値段を基準とした金額から売値を決められる、考えられる、ということです。マーケットでは、顧客がその高い金額を標準と思ってくれているので、その値段で販売しても売れる保証があるうえ、自社としてはかなりの利益が発生するわけですから、この他社の存在は本当にありがたいですよね。反対に、マーケットで先行他社がかなり安く商品なりサービスを販売していた場合はどうすればいいのでしょうか。後で事例を挙げますが、ブランド化などを考えてその値段を基準にもっと上位の商品やサービスを販売するなど、高価格帯の価格設定ができるわけです。ここで大切なのが、「安いから買う」という理由と同じように、「高いから買う」という理由もあるのを知っておくことです。「比較」ができる存在がいることは、このように、価格決定においてとてもありがたい要素、重要な要因になるのです。「比較」して一番良くない選択「他社との比較」を考える場合に大事なことは、「比較」した後にどんな値決めをするかですが、一番良くないのは、他社より安くするという安易な選択です。この本の最初のほうで書いた「安くしなければ売れない」とか「安くすることが消費者

のため」という思考からくる経営者の間違った思い込みですね。これも前に書いたように、明確な戦略がある場合以外は、間違っています。「比較」は自社の商品なりサービスをマーケットのどの位置に届けるかという判断の目安であり、高く売るための要素と考えるべきです。消費は消費者の購買理由と行動、それに合わせた値段がマトリックスになっているとイメージするとわかりやすいでしょう。安さを求めている顧客と同様に、高いから買いたいと思っている顧客も存在しているし、その他の理由——それが自分らしさを表現しているから買うというように、多種多様な理由・動機が存在することを再確認しましょう。高価格帯を設けて老舗を圧倒、メディアの注目を集めた名店の戦略価格決定の要因である「他社との比較」について、かなり理解が進んだと思います。ここで、この「比較」を利用して圧倒的な成功を収めた名店の事例を紹介します。日本中からかわいらしい伝統工芸品や漆器などを仕入れて販売している銀座のお店が、ある商品を考えられないくらい高い値段で販売して、一気にブランドを高めてしまった事例です。ここでは仕入れの際にいろいろな企画を考えて自社オリジナルの商品を作っているわけですが、通常1000〜3000円、高くても1万〜3万円が限度と思われる商品を凝りに凝った形で企画制作してもらい、200万円以上の値段をつけて販売しています。家庭で日常的に使うものですから、常識的に考えれば200万円の値段はありえません。しかし今では、メディアが雑誌や本、TV番組を企画する際に必ずメインで紹介される会社になっています。その理由は、企業のブランドや老舗との比較において、歴史の長さよりも値段が一番高い、もっと言うと圧倒的に値段が高いほうが単純に本物感や価値を顧客に伝えやすい、理解させやすいからです。こちらの会社は意外にも社歴が浅くまだ10年ですが、価格設定のおかげで、あっという

間に100年以上続いている老舗を圧倒するブランドとなっています。他社よりも圧倒的に高い値段で認知度を上げ、業界トップの地位につく方法はかなり有効です。この方法は、通常の値段よりも10倍以上高い金額に価格設定した場合に特に有効ですから、自分の会社でも可能だと思われた場合には、戦略的に考えて使ってみると面白いでしょう。極端な考え方ですが、この商品が一つも売れなくても構いません。この商品を売っているという事実だけで、その業界のトップになれ、ほかのものがどんどん売れるようになるからです。最近私がコンサルしたある教育関係のサービスの事例を挙げると、資格取得のための教育ノウハウが非常にユニークで効果があったので、サービスを提供する顧客のランクを一般の方ではなく経営者向けに限定しました。通常よりも約8〜10倍という値段でスタートしたのですが、値段の特別感から一気にブランド化され、収益の上がるビジネスとして成功しています。面白いのは、サイトからの求人応募でとても優秀な講師陣が集まっていること。理由を聞くと、「一番高いサービスを提供しているので、こんな所で教えてみたかった」という答えが一様に返ってくるのです。値段が高いということで、業界一位という印象が、働く人たちの間にも、一気に広がったということですね。「比較」を基に上位の価格帯を設定する他社の商品と「比較」して10倍の値段をつけて、一気にブランドを高めた会社の事例をお話ししました。もちろん「比較」を考えた価格設定には、もっといろいろな手法や考え方があります。違った方法として私がよく提案するのが、他社の一番高い商品群よりももう少し上位の商品群を敢えて作って、ほかの人とはちょっと違ったものが欲しいと思っている顧客を取り込む戦略です。

この方法は、他社の価格を基に中心となる商品の価格帯を合わせ、なおかつ上位の商品群をもう少し高めに設定して販売する方法です。10倍の値段をつけるよりも確かに目立たないですが、ブランドの構築に役立つと同時に、「私はほかの人たちとはちょっと違うのよね」と言いたい顧客の購買意欲を刺激して収益性をかなり向上させる効果があります。高価格帯の商品を用意すると、およそ2、3割の割合で顧客が上位の商品を購入します。顧客の購買心理で、「安いから買う」という以外に、「高いから安心」「自分らしさを買う」という心理があると解説しましたが、こういう顧客の生の反応を見ると、本当に日本の消費の実態はかなり豊かになっていると感じます。この方法は、単一の商品やサービスではなく、たくさんの商品群を販売している場合などにはとても有効ですので、ぜひ試してください。「価格の決定」を考える際、「原価を含めたコスト」と「他社との比較」について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?次の章では、価格を決定する一番重要な要因、「その製品やサービスが持つ価値」について解説します。価格設定の概念を変えるためにとても重要な解説となりますので、よく理解してくださいね。

第2章まとめ消費者が購入する際の動機づけや判断基準とは?4つの消費のタイプに分けられる「安いから買う」消費「高いから安心、信頼が置ける」消費「モノではなく、コトを買う」消費「自分らしさを買う」消費お客様はアプローチ次第で富裕層にも庶民にもなる安いから買うお客様もいれば、高いから買うお客様もいる・5400円ののり弁が売れた!価格はどのようにして決まるのか?価格は自由に設定できるが、経営者が行う経営判断のうちで最重要な問題価格を決定する3つの要因がある原価を含めたコスト他社との比較その製品やサービスが持つ価値原価は価格の一要因に過ぎない原価を基準にせず、適正価格を考える・1杯のラーメンの価格の決め方他社と比較して価格は決まるのか?他社より安くするというのは安易な選択であるマーケットのどの位置に届けるかを判断する目安のために比較する・高価格帯を設けて、10年足らずの会社が老舗を圧倒し、業界トップの地位へ他社より少し上位の商品群を作って、ちょっと違ったものが欲しい顧客を取り込む

第2章では、価格を決定する要因として、「原価を含めたコスト」「他社との比較」について紹介しました。第3章では、この2つよりも大事な「その製品やサービスが持つ価値」を中心に、価値という情報を付け加えるだけで、値段がさらに上げられることを実証します。私が企業のコンサルをしていて残念に思うことは、本来持っている価値に気付いていない企業が多いことです。気付いていないのですから、伝えられるはずもありません。では、どのような視点で価値を見出すのでしょうか。価値は伝えてこそ意味のあるものだということを、実感してもらいましょう。壺は変わっていないのに価値という情報が付加したことで、床の間行きに!価格を決める価値とはいったい何か。私が「価値」について解説をする時に必ず事例に出すのが、「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)というTV番組での事例です。番組の中に出張鑑定という人気コーナーがあります。鑑定依頼者が自信の品の数々を持ってきて、プロが見たらまったくの偽物だったり、驚くほどの値段がついたりして依頼者が一喜一憂するのを楽しみながら、視聴者は見ています。私は、この番組の中に「消費の本質」や「モノの値段はどう決まるのか」が、よく見て取れると思うのです。たとえば、ある回で玄関に置いて傘入れとして使っていた大きな壺を鑑定に持ってきた方がいました。鑑定にかけた結果、なんと江戸時代の名工の作で250万円という値段がついてしまいました。

その大きな壺は床の間へと移動、それまで子どもの遊び道具だったのが、今では座布団の上に鎮座して絶対に触るなと言われているそうです。ここで大切なことは、壺自体はまったく変わっていないのに、江戸時代の名工が作ったという情報=「価値ある情報」が加わった結果、その壺に価値が発生して大切にされるようになったということです。実は企業や店舗が提供している商品やサービスも、消費者からはこの壺とまったく同じように見えています。そうです。同じ商品やサービスが、その価値を知っている人には高価に、価値を知らない人にとってはまったく無価値に見えているということです。前章の「他社と『比較』して価格は決まるのか?」のところで、他社の存在はとてもありがたいと言いましたが、マーケットの形成という過程でいろいろな会社がある商品やサービスについてその価値を情報として消費者にアピールしてくれた結果、消費者はその商品やサービスにベースの価値を感じるようになるわけです。それがなければ、あなたがいきなり売り出した商品にいったいどれくらいの価値があるのか消費者はまったくわかりません。これが、価値を情報として商品やサービスに付加することが「価格設定において最重要の項目」である理由です。銀座の名店はなぜ消えたのか?「価値」をお伝えするうえで、もう一つ記憶に残るエピソードがあります。これもTV番組の話ですが、「バブル・サブプライム崩壊後に銀座の名店が消える?」というお話でした。取り上げられたのは、かつては一世を風靡した天ぷら屋さんでしたが、徐々にお客様が来なくなり、この時は経営が続けられない状況にあるお店でした。超一級品をそろえ味はもちろんおいしいのですが、番組内で店主は「心を込めておいしい料理を作っていればお客様は来てくれる」と、黙々と天ぷらを揚げるばかりでした。私が考えるに、このお店が銀座で名声を誇っていた時代には、このお店の価値を来店す

るお客様がみんなよく知っていたから繁盛していました。しかし、バブル・サブプライムの崩壊で、そういった銀座の名店を知るお客様が急激にいなくなり、結果、来店者が減ってしまったのではないでしょうか。たとえば、目の前で食べているお客様には、そういった情報や知識がないかもしれないのに、「うちは老舗の名店なので、店のことはみんなよく知ってくれている」と店側が思い込んでいたとします。つまり、価値を情報として伝える努力をしなくなってしまったから、お客離れが進んでいることに気付いていないのです。この状況で、店がやらないといけないことは、おいしい料理を出すことはもちろんですが、価値ある情報としてお店の歴史や料理の工夫などをしっかりと伝え直すことです。何代前か、何年前かはわかりませんが、このお店の創業の時の気分に戻ってしっかり価値を伝え直すことです。特に、最近はおいしい料理の味を知らない、味自体で判断できないお客様も増えているので、この料理は下拵えにこれだけの時間をかけて作っているとか、この味とこの味を比べてみてどちらがおいしいかなど、価値を再度マーケットに認知させる必要があるということですね。もちろん老舗というからには、知っている方と知らない方がいて初めて老舗というブランドが成り立つわけですから、お客様でいっぱいになった頃合いを見計らって徐々に情報を絞っていくことも大切ですが、今は「価値ある情報を伝える」時期ということですね。「一般的な価値」と「顧客特有の価値」商品やサービスは、顧客に価値を伝えなければ価値を感じてもらえない=無価値に等しいのです。なので、価値を情報として付加することの大切さがわかっていただけたでしょう。では、どんなふうに価値を付加していったらよいか。商品やサービスの価格を決める際の「価値」は、大きく分けて2つに分類されます。一つは「一般的な価値」。そしてもう一つが「顧客特有の価値」です。

「一般的な価値」とは、どんなものか。世間一般に通用する価値とか、誰でもわかる評価のようなものと考えてください。たとえば、日本で一番頭の良い学生が行くのは東大ですから、「東大生の90%が使っている文具」があるとすれば、「なんか良さそう」と誰でも思いますね。それが「一般的な価値」です。これを商品化したのが、「東大生の開発したノート」で、通常よりもかなり高い値段で発売されヒット商品となりました。このように、一般的に多くの消費者が価値を感じたものは通常よりも高く売れます。「上場している企業の製品なら、やっぱり良いものに決まっているので、高くても納得」「権威を持ったその道の大家のお墨付き」「親子代々受け継がれた伝統工芸で宮内庁御用達」などもそうですね。また、誰にでもわかる権威や伝統、知名度、希少性や歴史的背景があるなど、世界に一つという要素があれば、普通より高くても当たり前と消費者は考えます。ほとんどの場合、価値には原価はありません。この価値が要因となって値段を高くつけることができるというのが、「価値」と「価格設定」の面白い関係です。もう一度言いますね。コンサルの仕事を通じて、いろいろな経営者の方に会ったり、企業にお邪魔したりしますが、明確にこの「価値」と「値段」の関係を理解されている経営者やスタッフの方はほとんどいません。価値ある商品やサービスを、希望する値段、高い値段で売るために、本当に大切な理解だと認識してくださいね。

「一般的な価値」は14の項目に分けられる

商品やサービスを高く売るために、「一般的な価値」となる項目を挙げておきます。これらの項目を上手く商品開発や商品の説明・プレゼンに活かして、あなたの商品やサービスに価値を発生させてください。

・手間暇をかけている

長く続いた人口増加に伴う拡大マーケットでほとんどの会社は効率化に向かいましたから、人の手をかけてじっくり作ることがすごい価値を生む時代になっています。

・数が少ない、めったにない、作れる人がほかにいない、育つまで時間がかかる

大勢が同じものを持ちたいと思わなくなった時代なので、希少性は最大の価値ですね。

・専門家がいる、選んでいる・長い歴史を持つ、代々続いている、それを保証している文献や歴史上の根拠がある

・上位の人、歴史上の人物や有名人、著名人が愛用している

・ネットで流通していない・実際に行ってきた、見てきた、世界の裏側など遠くまで行って取ってきた、持ってきた

・特許がある

・開発の秘話があり誰もが驚く

・裏付けを「〇〇」がしている、世界を代表する研究機関「〇〇」が認めている

・長年使っても劣化しない

・何万回もテストしている

・メンテナンスの保証がすごい

・緊急時の対応が突出している、ほかでは決して真似できない前章で解説した「他社との比較」も、商品の説明にさらにこれらの「一般的な価値」が加わることでグッと効果を上げることができます。希少性そのものには「原価」がないのに値段が上がるというすごい効果を発揮するわけですね。商品やサービスの値段を上げるのに、中身は変えなくても大丈夫。説明の仕方だけを変えて値上げを達成できると私が話した根拠は、ココにあるわけです。「一般的な価値」を使ってどのように商品やサービスの値段をコントロールしていくかについては、次章の具体的な事例の中で解説しますが、この「一般的な価値」の意味と使い方を理解することが、高く売るためのベースとしてとても有効だと認識しておいてくださいね。

一気に値段を上げるための「顧客特有の価値」

次に、「顧客特有の価値」について解説します。ちなみに、「一般的な価値」と「顧客特有の価値」の位置づけですが、「一般的な価値」が高く売るためのベース(=誰にでもわかりやすい価値)です。その上に「顧客特有の価値」が加わり、さらに値段が上げられる、値段を自由自在にコントロールできる領域に入っていくものと理解してください。「顧客特有の価値」を理解すると、値段はどんどん高くできます。文字通り自由自在に価格をコントロールできるようになります。そのためにもまず、「顧客は何を買っているのか」から解説します。消費者が何かを買う場合に、提供側である企業や店舗は、「顧客は会社やお店が提供している商品やサービスを買っている」と考えています。しかし、顧客の購買理由をもっと深く掘り下げて考えていくと、買う理由となると答えは別で、「その商品やサービスを買うことで得られる価値」を気に入って、あるいは理解して購入しているのです。そして、「得られる価値」が高ければ高いほど、購買の欲求は高くなり、その分値段を上げることができるようになっていきます。この「得られる価値」が、「顧客特有の価値」です。たとえば高級なスーツを買うお客様は、高級スーツを買うことによって得られるステータスや満足感、ホテルで良い接客を得られる自分自身を味わいたいという理由で買います。スーツの原価などとはかけ離れた値段であっても、問題ありません。その「顧客特有の価値」を求めて、構わず購入するのです。車を購入するお客様についても同様です。たとえばある夫婦がワンボックスカーを買う時は、ワンボックスカーを買うことで得られる子どもたちとの楽しい体験や子どもの記憶に永遠に残る思い出を残したいという理由で購入します。あるいは日頃は仕事ばかりしているけれど、「休みにはいい父親だ」という自分の気持ちを満たしたいと、購入を決める場合もあるかもしれません。高級スポーツカーを買う理由もまったく同じです。顧客は車を買っているのではなく、

車を買うことで得られる価値(周りの人からすごいと思われるとか、女性にもてるなど)を勝手に想像して、高い値段をものともせずに購入を決めているのです。企業が税理士を選ぶ場合も、単に値段で選ぶのではなく、「税理士さんのサービスを通して得られる価値」を意識しています。「将来を見越した安心感」「有名企業の顧問をしている先生だから選びたい」など、税理業務をしてもらうことの満足感が選択の理由になることもあります。発想を少し広げて、一流ホテルの宿泊費とか高級料理店の食事代も、そこで宿泊したり食事をしたりということが主目的ではない場合があります。重要な商談を決定する際の接待でホテルや食事を提供する場合などでは、購買の理由や払う金額がまったく違ってくるということです。顧客は決して、あなたの提供する商品やサービスそのものを買っているわけではないということですね。「顧客特有の価値」は、人口減少に伴う日本のマーケットの変化、縮小成熟化ということを考えても、とても重要な経営上の武器となります。その理由は、「顧客特有の価値」は突き詰めると、最終的には顧客一人ひとりにそれぞれ当てはまる価値にまで絞られることになるからです。世界には超富裕層に密着した超高額サービスを提供する会社が存在するわけですが、収入があるレベルに達すると一般にはしてもらえないサービスを望む人たちが一定数存在するようになり、そのレベルの消費者が共通で求める価値として、「その層の顧客が望む価値」という形でマーケットが形成されるのです。このマーケットのイメージは階層となっていて、上から順に、世界で1人を対象にするサービス、ごくごく少人数を対象にするサービス、かなり少ない人たちを対象とするサービス、普通ではない人たちを対象とするサービスというように、ピラミッド型のマーケットが存在しているわけですね。ビジネスを思考する場合には、「このマーケットのどの階層にビジネスを組み立てていったらよいか」「どの階層ならサービスが可能なのか」を考えます。値段は、マーケットの求める価値によって自由に決められるということが理解できたでしょう。

「顧客特有の価値」を理解できれば高く売れる

「顧客特有の価値」が値段を決定することがわかりましたね。たとえば、最初は顧客がまったく「顧客特有の価値」について理解していなくても、説明するうちにその価値を理解したり、気付いたりすれば、顧客はその商品やサービスをあなたの提示する値段で購入するのです。ということは、提供側は商品やサービスの販売において、独自の価値を見出した顧客や、価値を見出す可能性がある顧客に対してのみアプローチをすればいいのです。そうすれば自社の商品やサービスを、これまでよりも圧倒的に高く販売できる可能性が生まれます。そしてその売り方を極めれば、特有の顧客に対して高収益型のビジネスを仕掛けることができるのです。私が顧問先に対して、顧客の選別を要求する理由もそこにあります。顧客を選別すればするほど、高い売上、高い収益のビジネスが組み立てられるからです。ここで心配になるのが、顧客の絞り込みをした場合にマーケットが小さくなってしまうのではないかという心理です。日本には、減少しているとはいえ約1億2700万の人口があり、企業数も400万社もあると言われていますよね。ということはBtoB、BtoCのビジネス形態を問わず、かなりの絞り込みをしたとしても、相当数の潜在的な顧客が存在するということです。また、顧客から見た場合、「誰にでも何でもします」「何でも売ります」という会社は、何が専門なのかわからないので、魅力のない会社になってしまいます。激しいと思われるくらいの選別が、どの企業にも必要なのです。商品やサービスに価値を「情報」として付加する価格を決定する要素の中で一番重要なのが、商品の価値です。顧客が商品から感じる「価値」には、「一般的な価値」と「顧客特有の価値」があり、その位置づけと重要性も

理解していただきました。では、どうやってこの「価値」を活かして、また「価値」を基準として、商品の値段を決定していったらいいのでしょうか。また、商品やサービスを最大限に高く売るために、「一般的な価値」や「顧客特有の価値」をどう活用していったらよいのでしょうか。最初は商品やサービスの価値を理解していない顧客に対しても、価値を「情報」として説明することで理解してもらえれば、高い値段で売れます。顧客は最初に商品やサービスの価値を理解していないのが普通なので、そこに「一般的な価値」や「顧客特有の価値」を情報として加え説明することで、商品やサービスの値段をいくらでも上げることができるのです。商品を高く売るための説明能力私は、モノやサービスの値段はそこに付随する「価値情報」(=「一般的な価値」や「顧客特有の価値」)によって決まると考えています。そして、その「価値情報」を、文章を通して、また顧客との会話の中で、さらには映像などのコンテンツを使って、上手く伝えることができたら、商品やサービスはあなたの思う値段で販売できます。実際、こういう指導を通して、顧問先の商品やサービスをどこよりも高い値段で販売することに数多く成功してきました。その経験を通してモノの値段は、「原価を含めたコスト」でも、「他社との比較」でもなく、「その製品やサービスが持つ価値」によって決まることを、よく理解するようになりました。そして、商品やサービスを一切変えることなく、さらに良い商品を開発するとか、何かをプラスするなどの付加価値を加えることなく、「見え方を変える」「説明の仕方を変える」だけで、たくさんの会社の商品やサービスの値上げを実現させてきました。もちろん、その多くの商品やサービスは、すでに多くのお客様から支持され、愛されている、リピートされ愛用されている商品がほとんどでした。だから商品やサービスを一切変えなくても大丈夫だったと言えるのですが、今、日本の企業が顧客に提供している商品

やサービスのレベルはおそらく世界でも有数の素晴らしいものばかりです。これは大企業だけでなく、中小企業を含め起業したばかりの会社に至っても同様です。この素晴らしい商品やサービスを希望する値段で販売できない理由は、提供している商品やサービスに付随する価値情報をしっかりと顧客に伝えていないということ以外まったく考えられません。値段を上げられないのは説明の仕方を変えていないからで、工夫していないからです。説明の仕方を変えることにコストはかかりません。今喜んで御社の商品なりサービスを使ってくれている顧客の言葉に注意深く耳を傾ければ、そのヒントはたくさんあります。また、さっきまで全然関心を示さなかったお客様が突然買うと言った時、何が顧客を動かしたのかを聞いてみればわかるはずです。それを、文章で、会話で、または先ほど説明したように映像などのコンテンツを通して顧客に伝えていけばよいのです。そうすることで、あなたの望む値段での販売が可能になります。値段の決め手は価値をきちんと伝達できるかどうか日頃から、価値と値段の関係をどう説明したらクライアントによく伝わるか、何か印象に強く残る良い事例はないかと考えていた時に、「村上隆」さんの素晴らしい本に出合いました。その本のエピソードをこの章の最後に紹介します。現代芸術家の村上隆さんは、いまや日本を代表する世界的な芸術家です。村上さんの作品には億単位の値がつきますが、なぜ自分の作品はそれほど高額なのか、その理由について、「自身がその作品の価値を丁寧に説明するからだ」と、ご自身の著書『芸術起業論』(幻冬舎)の中で明かしています。本来、アーティストやクリエイターと言われる人たちは、自分の作品について語りたがりません。なぜなら、作品の価値は、それを見た人が判断するものであって、作り手が作品について語るのは間違っているという、美学があるからです。要するに、自分で語ることは「かっこ悪い」と思っているのです。ところが彼は、「どんなに優れた作品であって

も、その価値が人々に伝わらなければ無価値に等しい」と言いきっています。確かに、アートやクリエイティブに携わる人たちは、作品を通じて自己表現をしているのだから、自ら解説すると作品を見る人の印象を制限してしまうことにもなりますし、落語家が噺の下げ(オチ)を解説するみたいで気恥ずかしくもあるのでしょう。ただし、それを見る人の立場になれば、まったく意見は変わります。よほどの愛好家でない限り、世界のアートの潮流を常に把握することは難しく、ましてや東洋の芸術家の表現していることを、西洋人がその作品を見ただけで理解することは不可能です。特に、アートの世界では、その革新性や斬新さだけではなく、作者個人の個性や独自性が重要です。そのためにも、まだ世に知られていない間は自らが作品を語り、自らの独自性を語ることが、作品を正しく鑑賞してもらうためにも必要なのだと、村上氏は言っているのです。彼の発言の通り、いくら良いものを作っても、その価値が伝わらなければ無価値であり、モノに値がつくのは、説明という情報がつくからこそ。1円でも高く売るには、作り手が作品の価値の「伝え手」になる必要があるということです。その言い方を私なりに解釈すれば、「情報によって価値を伝えることができれば、モノの値段はいくらでも上げることができる」ということです。

第3章まとめ価値を情報として商品やサービスに付加することが「」価値が発生して、大切にされるようになった・ただの傘入れ用の壺だったのに、江戸時代の名工が作ったことを知り、床の間に飾られる価値を情報として伝える努力をしなくなった・味は超一級の銀座の名店が消えた価格を決める際の価値は2つある一般的な価値顧客特有の価値「一般的な価値」は14の項目に分けることができ、高く売るためのベースになる・手間暇・希少性・専門家、専門性・歴史・著名人が愛用・ネットで買えない・今すぐできない経験や手に入れられないもの・特許・開発秘話・裏付け・耐用期間が長い・何万回ものテスト・メンテナンスの保証・緊急時の対応「顧客特有の価値」は、商品・サービスを買うことで得られる価値である顧客を選別すればするほど、高く売れる価格を決定するうえで一番重要なのが、商品の価値である価値を情報として説明できれば、高い値段で売れる値段の決め手は価値をきちんと伝達できるかどうか情報によって価値を伝えることができれば、いくらでも値段を上げられる

この章では、これまで解説してきた値上げに対する考え方、消費の種類、価格決定の考え方を、どのようにビジネスの現場に落とし込んでいくのかを学んでいただくために、実際に私がコンサルした事例を挙げながら、詳しく解説していきます。ここで取り上げる事例は、すべて私が実際にコンサルした案件ですが、あまりにリアルなために値上げした会社にとっては非常に秘匿性の高い内容です。ゆえに、会社を特定できないように業種や地域などを変えて書いています。指導した内容と得られた成果に関してはすべてが実際に起こったことですので、読まれたすべての方にとって非常に参考になるはずです。こういった値上げの事例が、これだけ具体的に書籍で紹介されることは、非常に稀なことですので、ぜひ御社のビジネスに置き換えて何度も繰り返し読んでみてください。値上げする場合、既存顧客をどうするのか?具体的な事例に入る前に、値上げを指導する場合に顧問先から必ず聞かれることがありますから、その質問と回答を書いておきます。必ず聞かれる質問とは何かというと、「値上げする場合にこれまでのお客様・既存顧客にはどう対応したらいいか?」です。間違いなく聞かれます。新規のお客様に特化して販売だけをしている場合は大丈夫ですが、ほとんどのビジネスは継続性を持って行われています。この質問をされることは当然と言えば当然です。値上げしたことがない会社はこういったノウハウがそもそもないわけですから、共通の項目として解説をしておきます。これから出てくるいろいろな事例の中で、既存顧客がいる場合にはこういう方法を取っ

ているので、共通解説だと理解して覚えてください。それぞれの事例で書くと重複してしまうので、先に基本的な考え方と方法を書いておきます。値上げの際に既存顧客にいろいろな便宜をはかってしまって、それが原因で経営が改善されないという企業もあるので、方法を知っておくことはとても重要です。まず私は、基本的には既存顧客への値上げは当初据え置くことを提案しています。その顧客のおかげで、新規の顧客に対して値上げにも踏み切れるわけです。また、これまでその値段で商品やサービスを買っていただいているので、値上げが一番難しい顧客と言えるからです。私の提案は、商品やサービスをなるべく何も変えないで値段だけを上げる方法なので、既存顧客への対応は価格据え置きが最適かつ妥当な判断です。新商品を出して値段を上げるという方法は、お金に余裕があれば取れなくはないですが、ほぼ勧めることはありません。その理由として、私がコンサルする前にほかの方からアドバイスされて商品を一新し、値上げして既存顧客との間で大変なトラブルになっている事例を何度か実際に見ているからです。基本的に値上げは、新規の顧客に対して、商品やサービスの「説明の仕方」を変えて行うことからスタートするのがベストだということを押さえておいてくださいね。大事なのは、経営を改善する過程で費用をなるべくかけないことです。マーケットを特定したり、見せ方を変えたり、説明を変えることで顧客に対して商品の価値を与えることに費用はほぼかかりませんよね。場合によっては営業マンの話し方を変えるだけで、費用ゼロで売上と利益が一気に増加する方法を私は提案しているのです。既存顧客に対する値上げはどう行うか?では、既存顧客への値上げはどのように行えばいいでしょうか。タイミングは、新規顧客に対して値上げが成功し、値上げした商品やサービスの値段が社内で当たり前のように認識される状況になってからです。顧客の入れ替えも兼ねて少しずつ時間をかけて行う、というのがいろいろな会社で実際にやってみた方法として最適でした。

新規の顧客に対して普通に高い値段で販売できるようになると、その意識が既存顧客に対しても伝わるようで、「新規の顧客にはこの値段で買っていただいています」と説明すると、案外すんなりと値上げの要求に応えてくれるようになります。もちろん、会社によっては個々の顧客との関係が長い場合もあり、値上げをしないという判断もあります。新規顧客への販売で収益性が向上しているのであれば、それも妥当な経営判断です。ただ、私はこの状況になったら顧客の選別も兼ねて、新たに値上げした金額で既存顧客に対しても値上げの提案を勧める場合が多いです。既存顧客へのアプローチですが、最短で半年、最長で5年、平均するとだいたい2年くらいの時間をかけます。値上げのインフォメーションを繰り返し、期限が来たら実行すれば、ほぼ既存顧客への値上げは成功します。まず既存顧客に対して、こんな言い方で値上げを宣言します。「ほかの新規顧客(たとえば新規代理店とかですね)はこの値段で買っているので、御社に卸す値段もそれに合わせたいのですが、長年の付き合いもあるので、もちろんすぐに値上げすることはありません。値上げするのは2年後です。2年経ったら卸価格を〇〇%にしますから、それで利益が出るように会社を調整していってくださいね」この方法が良いのは、値上げがすぐではなく、2年後ということ。相手はまだかなり先と感じるので、反論しないことが多いからです。この宣言の後、どうするかというと、機会あるごとに、「あと1年半で、卸価格はこうなりますよ。大丈夫ですよね。それで利益がちゃんと取れるようにしてくださいね」「あと1年ですよ」「卸価格の見直しまであと半年ですよ」と繰り返し、聞いていなかった、急すぎるなどと相手が反論できない状況に持っていくわけですが、これはかなり上手くいく方法です。これで、期限が来たらそのまま実行することができます。これまで反論がなかったわけですから、既存顧客もそれを受け入れるしかなくなるわけで、利益率が減った状況でもしっかり仕事ができるように会社を改善し、他社と同じよう

にその値段で購入することを承諾するはずです。それでも反論する顧客には、仕方ありませんが、取引を停止することを提案します。また、私が言わなくても社長さんのほうからその顧客を切ると言い出す場合が多いです。そういう顧客はほかにもいろいろな問題を抱えている場合が多く、本来顧客にすべきではなかったということですね。そして、新規顧客に高く売ることができたことで、企業が健全化し、無理な値段で販売しない、ビジネスを楽しく進めていけない顧客とは契約を切るなど、正しい経営判断が実行に移せるようになるのです。値上げと共に問題加盟店を説得、経営が加速したFCチェーン新規顧客に対して値上げを成功させ、同時にFC創業時の取り決めで足かせとなっていた問題を一気に解消させたFC企業の事例を参考に紹介します。こちらの企業はFC事業を始めて30年以上、経営者は事業を継承したばかりの3代目、年齢も30代前半と若く、意欲に燃えて経営をスタートさせたところで、困難な状況に直面し、経営相談にやってきました。話を聞くと、先々代がエリア制を敷いていたために、優良マーケットにもかかわらず、意欲のある新規代理店が増やせないということでした。また、成果の出ない代理店が居座り、権利ばかりを主張していたようです。こういう事例は結構あり、エリア制をとっているFCでは共通の問題になっています。成果の出ない代理店が撤退してくれればいいのですが、マーケットが良いので撤退したがらないという、困った状況でした。この時私が取った方法が、先ほどの時間をかけて値段を改善していく方法にプラスして時間をかけてエリア制を廃止していく、権利を剥奪していく、という方法でした。こちらの場合も期限は2年で設定。まずは新規加盟店の加盟料と成果報酬フィーを値上げ、さらには商品の卸価格の見直しによる値上げを実行してもらいました。その理由として、2年後にはすべてのエリア制をなくすことでマーケットの拡大ができることを掲げま

した。エリア制の問題で加盟したくてもできない希望者がいたので、新規契約が加速、この制度変更で一気に明るい未来が見えてきました。新規加盟者は、最初の開業が希望エリアではないにしても2年後にはいろいろなエリアに出ていけるので、まずは開業、そこで仕事を覚えて将来の準備をするという感じでスタートを切ってくれました。その後の経過を見ても、結果的にこの2年間がちょうどよい準備期間となりました。もちろんこの新規契約形態は、現在FC加盟のないエリアから開始し、既存エリアにこのエリア制廃止はすぐには適用しない、適用するのは2年後とすることで全体の合意を取る形にしました。これをFCの大会で宣言、その後、社長・役員・各担当営業が先ほど紹介した問題FC顧客に対して、「2年後にはエリア制が廃止になりますが、こんな有力マーケットを独占しているわけですから、後発の開業があっても大丈夫なくらいマーケットを支配してしまってくださいね」「あと1年半後にはエリア制が廃止になりますが、負けないように準備していってくださいね」「あと1年ですが大丈夫ですか?頑張りましょうね」「あと半年ですよ」と伝えて、エリア制の廃止、既存FC顧客の成果フィーと卸価格の見直しも完了することとなりました。当初は経営幹部からエリア制廃止に対して反対する意見も多く聞かれたのですが、若い3代目に理解力があり、実行しました。エリアオープンになった結果、全体の売上が2年後には150%増、さらにその2年後には3倍となっています。この結果は当然と言えば当然で、最初にFC加盟した会社が良いエリアを独占していて発展がなかったわけですから、有望なマーケットに意欲を持った新規加盟店が加わっただけでこの結果は生まれたのです。ちなみに、このエリア制廃止をきっかけにFCをやめた会社は一社もありませんでした。このFC全体の伸びは、原材料費のコストダウンの結果、既存のFC全体にも利益をもたらすことになりました。加盟店が増え全体の売上が増加したので、原材料費の見直しからFCの経営コストも下がったからです。何年も思い悩んでいた既存FCのエリア居座りという問題が、経営判断によって全体の売上増につながっただけでなく、居座っていた既存FCにも利益を生む結果となったわけですね。

値上げに踏み切った場合の既存顧客に対する対応の具体例を書きましたが、基本はこのように時間をある程度かけて対応します。その結果、経営がある程度安定したまま新規顧客に対して高い値段で販売、その値段で売れることが当たり前の状態になる頃には既存顧客に対してもいろいろな要求ができるようになり、問題のある既存顧客を切り離せるようになるということですね。すべての業種で許容範囲、今日から可能な20〜30%の値上げ値上げを決意する際の共通の疑問、既存顧客への対応の仕方がわかったところで、続いて、個々のビジネスに対応した値上げの方法とその事例を順番に書いていきます。まず最初に解説するのは、ほぼどんな業種でも可能な20〜30%の値上げの方法です。この20〜30%の値上げは、何も準備することなく、どんな業種でも、今日から実行可能です。理由は、20〜30%の値上げの場合は説明の仕方さえ変えたらすぐにできるからです。基本的に値段(表示)を上げて販売するだけですので、さっそく実行に移してください。その効果は絶大です。この方法で一気に経営状況そのものを変えることもできます。理由は、値下げはこれまでと同じ利益を上げるのに販売数を何倍も増加させないといけないのに対して、値上げの場合はその分の利益が直接経営に反映するからでしたよね。値下げは地獄、値上げは天国。ということで、第1章での解説を思い出しながら次の事例を読んでください。80円から250円へ徐々に値上げ、超有名になった観光地のあげまんじゅう経営相談に来られた会社に対して私が行う指導は、「とにかく即値上げしましょう!」です(これは本当です)。次に紹介する企業は、扱っている商品が観光地での名物「あげまんじゅう」でした。1

個80円という値段で安く売っている理由そのものが見当たらなかったので、値上げを勧めました。経営が苦しいとのことで知人の紹介で経営相談に来られた2代目社長さんですが、そんな状態なのに「なぜその値段で販売しているのか」と聞いたら、答えが「昔からその値段で売っているから」だったので、少しびっくりしたことを覚えています。観光地でもあり、基本的に新規のお客様だけを対象にすればよい商売なので、とにかく値段を1個80円から120円に値上げしてもらいました。お客様の注文を受けてから油でまんじゅうを揚げるので、行列がすぐできることがわかりました。そこで、並んでいるお客様に、おまんじゅうができた由来や食べ方などを詳しく説明することを追加。予想した通り、値上げしたその日から販売個数が伸び、収益性ががらりと変わりました。値上げに対して両親やお店の社員さんたちはかなり反対したようですが、勇気を持った決断の結果、急速に経営状態が向上、値上げによって利益が一気に3倍になりました。値段を上げて利益が出始めると、お店に活気がよみがえり雰囲気が一変したそうで、販売個数がますます伸び、行列が絶えない店へと変身しました。地元メディアがこのお店を取り上げたことをきっかけに、さらに販売個数が伸びるというプラスがプラスを生む状況の中、値上げこそが正しいと理解した2代目経営者は徐々に値上げを繰り返し(途中から相談もなしにこれでもイケるかもと考えながら値上げをしていったそうですが)、それでも店頭から行列は絶えず、今では1個250円という値段で販売しています。観光地ビジネスは、顧客がそこに来るまでにかなりの時間とお金をかけてやって来ているわけですから、通常の行為(買い物)ではなく、特別の行為(買い物)をしたいと思っているということが理解できたら成功します。つまり、せっかく来たのだから普通の買い物(おまんじゅうを1個80円で買う)ではなく、特別の買い物(おまんじゅう1個に250円も払う!)をしたいわけで、普通の値段ではなく特別高いほうがかえって顧客の心にマッチするわけです。こちらの会社は最近新たにかなり広い土地を購入、観光地の商店街の小さな本店とは別にもう一軒お店を作る計画に入っています。80円と250円―原価は同じどころか販売量が増えたことでどんどん下がり、利益は8倍近くになったそうです。「当初の値段だったら、今の利益を生むためには、人も場所も仕入れも増やして何倍もの個数を売らないと無理だった」と、昔を振り返っているそうで

す。値上げできない問題は売る側の気持ち次第で解決するこちらのお店でもそうだったのですが、経営的に大変な状況だったのになぜ値上げをしないのでしょうか。それは、経営者やお店のスタッフの気持ちの中に、「値上げは悪いこと」という思い込みや「値上げしたら売れない。買ってもらえなくなる」という精神的なハードルがあるからです。顧客に聞くと、「もっと値段を上げても買うと思う。十分売れると思う」という声があるのに、会社側が頑として値段を上げようとしないケースはよく見られます。値上げの敵は顧客ではなく、社内のスタッフ、もっと言うと経営者自身の心の中にあることを認識しましょう。このおまんじゅうの会社も、私としては最初から250円とまでいかなくても120円よりは高い値段をつけてほしかったのですが、なかなか理解してもらえず、妥協した値段がスタート時点の120円でした。なので、こういう場合には、20〜30%の値上げを体験してもらい、徐々に値上げを繰り返し、ゴールとして最低2〜3倍に値段を上げていくという方法を取るわけです。値上げで年間7200万円の利益が発生、経営を立て直した女性ブランド会社次の事例は、年間でかなりの数量を販売する女性ブランドの値上げの事例です。全国に数店舗を持つ女性向け洋服のブランドショップで、海外での買い付けによるセレクト品が15%、自社商品の販売+オーダー品(8万〜30万円の価格帯)が85%でした。一時期かなり注目を集めていたため、多店化するも景気の波に押されて売上が3分の2に降下、経営的に重たい状態になり、数回のリストラもしているという状況で相談に来られました。

商品を確認し、お客様の声を聞くと、現在の商品に対する満足度が高く、シーズンに合わせて新商品が定期的に売り出される点も人気でした。そこで、一律ベースで20%値上げ、お客様が相場を知りにくいオーダー品など単価の高いものはさらに数万円の値上げを提案しました。この会社は経営者よりもお客様とやり取りをしているスタッフのほうが、高くても売れるのではと考えていました。スタッフよりも経営者側の理解が遅かったものの、テストとして一店舗でまず値上げにトライ、販売数にまったく変化がなかったので、経営者も徐々に安心し、全面的に値上げ路線へと変更することになりました。値上げの結果はどう表れたか。月の平均販売数500着×12か月=年間6000着の商品が平均1・2万円の値上げで売れ、トータルで7200万円のキャッシュが値上げしたことだけで生まれました。これは、計算すれば小学生でもわかる当たり前のことなのですが、経営者の思考からは完全に欠落している経営のやり方です。この新たに生まれた7200万円を原資に経営体質が改善され、銀行との交渉も上手く展開、健全な会社になりました。結局、販売数が落ちても買い続けていた顧客は、値段よりも質でこのブランドを選んでいたことがわかりました。さらに、もっと値段が高くてもいいから良い商品、周りの人と差別化できる商品を作ってもらいたいと思っていたことが判明。今後の商品開発では上限額をもっと上げることに決定し、ショップの雰囲気もグレードを上げて滞在時間を延ばす方向に、顧客数をむやみに増やさないで客単価を上げ、利益が上がるように方針変換しました。私がコンサルに入る直前まで、売上を上げるためにはとにかく新規の顧客数を増やす以外にないと考えていたようです。値段を下げ、ネット等での広告を強化、利益が減る中で販促費をさらに増やす計画でした。ここに紹介した商品やサービスの値段を一律20〜30%上げる方法は、勇気を持って決意さえすればどんな業種・業界でも上手くいく確率がかなり高い方法です。一気に値段を数倍にするわけではないので社内のコンセンサスも取りやすく、うちにも当てはまるなと思ったらぜひトライされることをお勧めします。

商品ラインナップを広げて結果的に値上げをする方法次に紹介するのは、値上げに対してなかなか同意を得られない会社や、商品にバリエーションがつけられると思った会社に提案する値上げの方法です。やり方は、今の商品を下位にして、中間と上位に商品ラインナップを増やし、値段の幅を広げる方法です。これを私は「松・竹・梅方式」と呼んでいますが、恒常的に多くの業種で効果が出ます。通常、消費者は真ん中の価格帯を心理的に選びやすく、さらに数%の顧客は一番高価格帯を希望するので、商品ラインナップを広げるだけで、結果として高く売れ、収益性がはっきり変わってきます。現在の商品単価をどうしても上げたくない、今のビジネスサイクルは壊したくない、今の売上は落としたくない、また今の価格帯で売れている顧客層は絶対に手放したくないという場合にはこの方法を勧めています。一般的な方法としては、現在の商品を最下層にして、上に商品ラインナップを作っていきますが、稀に、今の商品を中間にして、集客の幅を広げると同時に上位客を捕まえることで売上と利益を上げる方法を取ることもできます。日本を代表する離島の観光地で、カフェ+飲食店をご夫婦で経営されている方から相談されてアドバイスすることになったケースを紹介します。現状をお聞きすると、お店のターゲットが地元民プラス観光客でした。地元民でも買えるように商品全体が安い価格帯だったことが原因で、人気はあるのに経営状態が思わしくない状況でした。もともと場所が離島の観光地で、かなり遠い所(気軽にもう一度来れそうにない距離)なので、そこまで時間と高いお金を投資してやって来る観光客が安いものを買うわけがない(おまんじゅうの事例もそうでしたよね)と説得。ターゲットを観光客に完全にシフトして値上げすべきと提案しましたが、年間を通して観光客が常時来るわけではないという不安もあって、実行できませんでした。そこで、商品が単品ではなくメニューも豊富だったので、今の商品を軸に松・竹・梅と商品ラインナップを広げることにしました。

また、高くても売れるということを体感してほしかったので、超目玉商品として突出して高い(原価約2倍、値段約3倍)豪華な限定パフェや限定料理を用意してもらいました。値段を上げた結果、私の予言通り、突出して高い超目玉商品から売れていきました。3倍も高い値段をつけた商品から売れたことでオーナーが安心し(これが大切)、高く売るほうが顧客はうれしいものと、心から理解してくれました。値上げの結果、顧客層が完全に変わったことで、観光ルートの一つになるほどメジャーな人気店になりました。地元の富裕層、別荘を持った移住者の常連客も増え、オフシーズンの売上も数倍に上がりました。現在の状況を聞いてみると、賃貸している店舗を土地建物ごと買い取る交渉中とのことでした。観光地のビジネスをいろいろコンサルしてきましたが、こういった方法のアレンジでほとんど上手くいきます。地元の人気リフォーム店、富裕層マーケットを独占商品ラインナップを広げて成功した事例を、もう一件紹介します。こちらは長くコンサルしている地方のリフォーム店の事例ですが、もともと公共事業中心の下請け工事会社で、事業を継承する予定の2代目専務さんから自分の代で公共事業はほぼなくなるからどうしたらよいかと相談がありました。コンサルスタート時に、タイミングがちょうど事務所移転の時期だったことがラッキーで、当初の計画を大幅に変更、一階をカフェスタイルのワークショップや展示&セミナーができるスペースにし、2階以上を事務所スペースにすると共に当社がブランディングの作業を請け負いました。地方のリフォーム会社で本格的なブランディングをする会社はほぼ皆無なので、マークやユニフォーム、サイトや冊子、チラシや工事車両(かわいくおしゃれなので子どもが追いかけてきます)に至るまでの色の統一などが功を奏して、下請け体質から完全に脱却できる状況へと成長、そこにさらに加えたのが、商品ラインナップを広げる値上げプランで

した。ちなみに、こちらで取った方法は、現在の商品を中間とし、下位と上位ブランドを構築するという、集客アップ&さらなる上位客確保のためのラインナッププランでした。ブランド構築により、優良顧客からの直接受注の流れをつかんだものの、もう少し若い層でセンスの良い顧客にもリーチしたい、限界まで単価を上げることができる超富裕層の顧客をつかみたいという願いからこの戦略を取ることになりました。この層のお客様は、リフォームをしたいのではなく、リフォームをすることで得られる何かを価値と感じ、購入を決意します。ただ必要に迫られてするリフォームの顧客は単価が低いです。当初リフォームに興味のない顧客が何かの理由に気付いてリフォームを決意すると単価が上がるので、そういったきっかけとなる企画の集まりやワークショップを店舗一階のカフェスペースで年間を通して行うこととしました。結果、カッコいいけどちょっと手が出ないかな、相談に行きたいけど高いんじゃないかな、と思う若年層の優良顧客から問い合わせが増え、さらに上位の顧客層から「自分たちのために特別な対応をしてほしい」という要望もくるようになり、これまでにない高い金額の受注(家が丸ごと建つ感じだそうです)が取れるようになりました。最近の様子を聞いてみると、「富裕層は富裕層同士で情報交換しているから、一度その層に入ったら連鎖的にすごい紹介がある」と報告があり、さらに高額な指名受注が増えているとのことでした。専務だった彼は、経営の体質を完全に変えたことが評価され、先日社長になったそうです。この事例のように、もともと提供している商品やサービスに自信があり、顧客からの信頼はあるが、「イマイチ値上げをするのには躊躇する」「心理的に怖い」「会社内のコンセンサスが思うように取れず、値上げに踏み切れない」という場合はこの方法をお勧めします。また、提供している商品にバリエーションをつけやすく、この方法がばっちり当てはまるという状況ならば迷わずトライされることをお勧めします。何%かの割合で高額な商品が売れていく現実を目の当たりにした時、消費者の心理——「高いから買う」「自分らしさを買う」「体験を買う」ことが理解できますし、同時に収益性が格段に変わっていきます。また、商品に価値(「一般的な価値」「顧客特有の価

値」)を与える説明が、いかに大切かがわかるのではないでしょうか。成功する姿をイメージし、説明を工夫して10倍の値段で売るこれから紹介するいくつかの事例は、私が一番お勧めする値上げの方法です。商品の説明に「一般的な価値」や「顧客特有の価値」を追加して値上げを可能にし、今の商品やサービスが、2倍から3倍、頑張れば10倍以上の値段でも売れる方法です。もちろん、いざ実行しようとすると精神的なハードルは高いと思いますが、高いのは精神的なハードルであって、金銭的あるいは物理的なハードルはほとんどないというのが特徴です。なので、意を決して頑張る、あるいは知的理解とそれに伴う意識変革をしっかりとしたうえでトライしてください。事例の紹介の前に、値上げの効用として第1章で書いた内容の再確認をします。2倍の値段で売れたら販売はこれまでの2分の1(=50%)の成約率でOKです。販売できたら時間は半分余る、売上が同じで時間が半分余ると考えると、値上げ効果は絶大。そう考え2倍の値段で販売できるように説明を工夫する、まずは2倍の金額で売れる工夫をすることです。これを拡大解釈して、もし10倍の値段で売れたら販売確率はこれまでの10分の1(=10%)でOKです。なおかつ売上が同じで利益率が高くなり、時間は90%浮く。これはすごいことです。人を増やさなくてもいいどころか減らしても大丈夫、経営の形がまったく変わってしまうと、これをイメージしながら10倍の値段で販売できるように商品の説明を工夫するのです。これが、私が一番好きで得意な値上げのための方法になります。商品やサービスの値段は何によって決まるのでしたっけ?そうです。「原価を含めたコスト」でもなく、「他社との比較」でもなく、あなたが提供する「その製品やサービスが持つ価値」によって決まるのでしたよね。また、価値には「一般的な価値」と「顧客特有の価値」があるのでしたよね。この価値をもともと知っている顧客もいれば気付いていない顧客もいます。この気付いていない顧

客に対して、正しく価値を伝えることができれば、あなたの提供する商品やサービスの値段は無限に上げていくことが可能です。だから、同じ商品やサービスを顧客によって、まったく違う値段で販売しても問題ないことも理解できていますよね。この方法が特に上手く当てはまるのは、形のない商品=サービス系の仕事、業務代行やコンサルなどですが、形のあるものを売る場合でも、無形のサービスを加えることでこのパターンに持ち込める場合が多いです。提供する商品やサービスに本来形がないものは、値段は自由につけられるハズです。他社との比較などでひるんでしまうせいか、必要以上に安い値段で販売していることが多いので、他社の値段などは気にしないで、他社が安いからこそ高い値段のほうが差別化されると考えて、高く売るための説明の工夫を心がけてください。ちなみに、他社が軒並み安いと、値上げはとても上手くいきます。これは、「高いものには高いなりの理由がある」と消費者が思う心理があるからです。老舗企業の住宅が突然売れ始めた驚きの真実!商品やサービスの値段を上げるために、私は顧問先にお邪魔してプレゼンに付加する要素をヒアリングし、探します。そういう時に本当によく思うのは、顧客にとって重要な「価格決定要因」や「購買時における決定要素」になる事柄を自分たちでまったくわかっていない、ということです。ほとんどの会社で、こういった重要な要素が見過ごされている状況、あまりにもピントがずれている状況に驚きます。経営者をはじめ、スタッフの皆さんが日夜、もっと会社の売上を上げたいと努力しているにもかかわらず、商品やサービスは磨くのに、売り方に関してはまったくお構いなしという状況です。そんな企業が多く、特に九州の住宅建築系の名門企業でびっくりしたことがありました。

こちらの会社は江戸時代から続いている名門企業。発祥は材木店で材木の卸を生業としていく中で、徐々に業態変換し、今では地域の中堅ハウスメーカー的な位置づけまで事業を拡大した住宅会社です。価格帯は大手ハウスメーカーとほぼ同レベル。県内をはじめ、地場の木材を使ったオリジナルの住宅を主力商品としてかなり健闘している会社でしたが、ある事実を発見した後、劇的に販売棟数を増やし、本来販売したかった値段以上に価格帯を上げることに成功しました。プレゼンに付加する要素を見つけたのは、その会社の創業200周年の記念行事の会場で流れた映像を見た時でした。驚くことに、この地域で一番有名な神社のお社の材木を、この老舗の何代目かの当主が寄付・寄贈していたのでした。私「え!すごい!あの神社の今のお社の材木を奉納したんですか?」Aさん(近くにいた社員)「え〜そうですよ」私「え〜、Aさん知ってたの?じゃあ、これって社内ではみんなよく知ってることなんですか?」Aさん「え〜、知ってますよ、みんな」私「(絶句!)」ちなみに、地域の方はここで七五三のお参りをするという神社なので、みんなお世話になっているわけですね。そのお社の材木をその昔寄贈した会社となれば、信頼は絶大なわけで、その当時の写真と説明動画をプレゼンテーションに加える工夫をしただけで、販売棟数が即30%ほど増えました。住宅(商品)はそのままで、説明を工夫しただけで30%受注が伸びた、そればかりか映像などをプレゼンに加えることで、売れていなかった営業マンまでもが受注できるようになった。この事実がこの会社のスタッフに火をつけました。もともと200年も企業を営んできた会社です。その会社がしっかり作っている住宅はかなりのもので、それを隅々までしっかり説明できていなかったために商品の価値がお客様に伝わっていなかったのだ

と、全社員が理解してくれました。それからプレゼンの説明が変わりました。「当社の住宅は自然木材を使用していますので、ドアも何年か使っているうちに閉まらなくなったりしますが、それが自然木材を使う醍醐味だと思ってください。都度、調整します」という説明や、「自然木材のフローリングが他社よりも圧倒的に厚いので、お子さんが小さいうちはどんどん傷をつけたり絵をかいたりしても大丈夫です。成長して、もう傷をつけなくなったなと思ったら言ってください。削りに行きますから」という社員の考えた説明は圧巻でした。なんでも、ドアが開かなくなるというクレームが年に数回来ていたそうです。自然の木材を使っている証拠ですが、その内容をプレゼンに使ったら、ある層の顧客には「顧客特有の価値」になりました。こんな住宅ほかにはない、まさにこういう住宅を自分たちは望んでいた、こんな住宅だったらいくら出しても住みたいと言って契約してくれるお客様が増えているそうです。この会社は、それ以来お客様の絞り込みがとてもしやすくなったと言っています。その結果、商品開発の方向性がはっきりし、自然素材に特化した、ある意味振り切った住宅づくりに専念することで、値段をどんなに上げても大丈夫だという手ごたえを感じているとのことでした。こういう要素をぜひ探していただいて、皆さんの会社の提供する商品やサービスが、より高く売れるようにお客様への説明にプラスしたり、プレゼンテーションの資料に盛り込んでください。お客様との会話の中にこういった項目が加わることで、驚くほどお客様が納得し、突然商品が売れ始めるようになった事例を私はたくさん見ています。こちらの事例は、社員がみんな知っている事実——地域で一番有名な神社のお社の材木を寄贈したという事実——をきっかけに、プレゼンに「一般的な価値」や「顧客特有の価値」を加えただけで、こんなに販売が伸びました。無形文化遺産の登録で和紙が一気にソールドアウト、5年分も受注が入る

こういう事例を話すと、驚く方が多いのですが、企業は一切努力していないのに、ある情報「一般的な価値」がマーケットに流れたために、「驚くほど売上が上がった事例」はあります。皆さんも何かで見たかもしれませんが、ユネスコの無形文化遺産に日本の和紙が登録されて取材された会社の一つに、数年かけてやっと出来上がる(紙が漉ける)和紙のメーカーがあり、(企業努力はまったくすることなしに)問い合わせが殺到、一瞬で5年分の注文が来たという、まさしく事件が起きました。もちろんTVの影響は絶大ですが、日本中が初めてそのような会社(数年かけて和紙作りをしている=これが顧客にとっての「一般的な価値」ですね)があることを知ったので、購買へと動いたわけですね。和紙の会社がみんな活況になったわけではないことを考えると、それがよくわかりますよね。ぜひ、皆さんの会社・商品を高く売るための情報をプレゼンテーションの中に付加できるような御社の事実や証拠・伝えてないこと・表現したほうがよいことに注目してみてください。番組関係者も唖然!TVで取り上げられた600万円の布団が3個も売れた!もう一つ、これもTV関係者の方に聞いた事例を紹介します。それは、ある番組で「眠り」について特集した時の話だそうですが、番組内で紹介した「夢の布団」に視聴者から問い合わせがあり、メーカーにつないだ結果なんと600万円もする布団のセットが3セットも売れてしまったそうです。この番組では眠りについて詳しく説明。「最高の眠りを叶えるためにはこんな夢の布団がある!」と、番組用にメーカーに無理を言って作ってもらったそうです。すると、そういう布団を前からずっと探していたという視聴者からの問い合わせがあり、最初はウソだと思ったそうです。

「あんなウソみたいな布団を買う人がいるんですね〜」「どこに注文すればいいか教えてくれって言うんですよ」と、その時の驚きを彼は話していました。「顧客特有の価値」がTVの番組によって刺激された結果、このような結果になったのですが、メーカーはそれを機会に高額商品の開発に動いているそうです。近いうちに、そんな高額なものだけを売る、TV通販みたいな番組が実際にできるかもしれないと、担当者は言っていました。

第4章まとめ値上げする時の既存顧客の対応はどうすればいいのか?新規顧客に値上げをし、当分の間、既存顧客の対応は、据え置く新規顧客で値上げを成功させ、社内で値上げした価格が浸透したら、既存顧客に取り組み始める平均して2年かけて、値上げの準備をする・エリア制を敷いているFCチェーンで、値上げと共に問題加盟店を説得、経営が加速したすべての業種で、20〜30%の値上げはできる何も準備することなく実行可能。説明の仕方を変えたらすぐにできる・80円のあげまんじゅうを250円に値上げして超有名店に!問題はただ一つ。売る側の気持ち次第で解決する値上げの敵は顧客ではなく、社内のスタッフや経営者の心の内にある・値上げで年間7200万円の利益が発生した女性向け洋服のブランドショップ商品ラインナップを広げて値上げをする方法今の商品を下位にして、中間と上位を設けて、値段の幅を広げる・超豪華なパフェや限定料理を作って、売上が数倍に跳ね上がったカフェ+飲食店現在の商品を中間にして、下位と上位を設けて、集客アップを狙う・リフォームで得られる価値を気付かせるために、ワークショップを開催したリフォーム店10倍以上の値段で売るには?成功する姿をイメージする「一般的な価値」「顧客特有の価値」を説明に加えて、正しく伝える同じ商品やサービスを、顧客によって違う値段で販売する・地域で一番有名な神社のお社の材木を寄贈していた事実を伝えただけで、販売棟数が30%増えた住宅会社・和紙が無形文化遺産に登録されたことで、一瞬で5年分の受注が入った和紙

メーカー・TVで取り上げられた600万円の布団が3個も売れた!

これまで、値段を上げると顧客が変わり、価値を伝えるとさらに値段を上げられることを紹介してきました。成功事例を多く見ることで、現実的にできると感じてもらえたのではないでしょうか。「はじめに」でも紹介した、顧問先が必ずしてくる質問を覚えていますか?「お客様が離れていってしまうのではないか。そのせいで経営が行き詰まってしまうのではないか」ここまで読んでいただければ、この質問が杞憂だということも理解していただけたと思います。ただ、これもプレゼンが上手くいかないことには、始まりません。この章では、取引先と交渉するためのプレゼン方法を紹介します。営業力を必要とするところですが、どのように話せばいいのか、シミュレーションできるようにいくつか例を用意しましたので、読んで実行されることをお勧めします。プレゼンを見直し、トライ&エラーを繰り返す事例と共に、いろいろ考えていただけたと思います。第3章に書いた、顧客が「一般的な価値」を感じる要素、商品やサービスを高く売るための説明の仕方のヒントを参考に、あなたの会社や扱う商品・サービスについてこういった要素を付加して、プレゼンテーションを考えてみてください。第3章で紹介した、希少性がある、生産数が少ないなどでしたね。自社に当てはまる要素があれば、間違いなく高く売ることができます。また、御社の商品やサービスが生み出す、ある層の顧客に当てはまる「顧客特有の価値」とは何かを真剣に考えるようにしてください。「顧客特有の価値」は目の前にいる顧客だけの価値だったり、ある程度人数を広げた価値だったりしますが、「それは何か」を常に考えるようにしてください。そして、こういった要素は同時に、あなたがこれからプレゼンする新たな顧客に対してあなたの商品やサービスを高く提示するための自信や根拠にもなるのです。要素や項目が見つかったら、次の行動は、あなたの会社の商品やサービスを今の値段か

ら最低2倍、そしてできれば目標10倍以上の値段で売れるようになるために、これらの項目を盛り込んだプレゼンテーションの構築、実際の販売活動を通してトライ&エラーを繰り返し、売れるようになるところまでマーケティングレベルを上げ、顧客との営業・交渉レベルを高めていくことです。もちろん最初は上手くいかないでしょう。ですが、できなくて普通なので、まったく上手くいかなくても安心してください。また、最初はかなり心理的・行動的な不安や負担があるのは皆同じですから、気にせず取り組んでください。私がいつもお伝えしていることは、説明の仕方を変えて今の商品やサービスをもっとたくさん売れるようにするのではなく、説明の仕方を工夫してもっと高い値段——今はありえないと思えるような値段で商品やサービスを売りなさいということです。とってもハードルが高いのはよくわかっています。こんなことを言う上司やコンサルはおかしいと思う気持ちもわかりますが、でも実行に移してください。その理由は、同じ値段でもっとたくさん売れるようになることと、値段を上げて売れるようになることとでは、経営へのインパクトがまったく違うからです。そして、そのことがあなたやあなたの会社の将来にとってとても重要なことになるからです。あなたが今の2倍の値段で今の商品やサービスが売れるようになるとどうなるかは、前章で説明しましたよね。これを発展させて、起こる事態・状況をしっかり意識してイメージしてください。10倍の値段で商品やサービスを売れるようになると、これまでと同じ売上が10分の1の時間で得られ利益が跳ね上がり、なおかつ、90%の時間を未来のために空けられるようになるのです。打ち合わせも、資料作りも、電話やメールの数も、すべて10分の1の回数になり、現在の仕事から確実にあなたは解放されるのです。100人で利益を上げていた仕事が、10人の稼働で済む、外注もいらなくなり、管理をしていた人もまったくいらなくなるので、この効果は絶大なものになるはずです。10倍の値段で人事コンサル会社の社長の人生が変わった!

私はコンサルタントですが、実は同業からの相談をたくさんいただきます。そんな中で、提供する商品やサービスの説明の仕方を変えてプレゼンテーションを工夫、コンサル費用を10倍に値上げして、人生レベルまで変わってしまった社長さんの事例を紹介します。こちらの会社は、そもそも提供している商品やサービスレベルには何ら問題がありませんでした。それどころか、親切丁寧に顧客企業と向き合う姿勢に私自身も共感を覚えていました。これまでの実績も申し分なく、クライアント企業からの評判も良好で、問題となることは一つだけ。それは、値段が極端に安いことでした。私が相談を受ける会社でこういうケースは珍しくありません。そもそもこの本を書こうと思った理由の一つが、商品やサービスは十分しっかりしているのに、儲かっていない会社がなんと多いことか……と、憂えていたからです。そして、その儲かっていない理由はただ一つ、このケースと同じで値段が安い……提供する商品やサービスに対してまったく見合っていないということです。これでは、顧客は喜ぶけれど、本人の仕事や会社の経営状況はほぼトントンで、将来は見えない状況、つまり、奉仕している以外のなにものでもありません。このように運営されている会社がとても多いのです。私「社長、あと10年経った時も今と同じ毎日ですが、大丈夫なんですか?」B社長「そのうち何か良いことが起きると思って頑張っていたんですが……」私「このままでは、絶対にそんな未来は来ませんね」B社長「!!」こんなやり取り(面談)を数回繰り返した後、「顧客特有の価値」を伝えるためのプレゼン内容の見直しと、値上げに踏み切ってもらいました。値上げプレゼンを決定、ブラッシュアップしていく時のしくみ作りですが、できれば、何らかの方法で集客を強化するのが望ましいです。9件売れなくても1件売れたら大成功集客をできる限り強化し、「価値」を伝え、値上げを織り込んだプレゼンの改善、そしてトライ&エラーに臨む、これだと練習する感覚でプレゼンができるので、イメージはか

なり変わります。9件売れなくても1件売れたら大成功と、発想を変えることがポイントです。要は、たくさん失敗しても大丈夫なので、見込み客を捨てながら、大胆にチューニングしていく、ということですね。先ほどの人事コンサル会社の場合は、無料個別相談付きのセミナーをビジネス的にシナジーのある数社と共同で企画してもらい、セミナー後の個別相談という形で、プレゼンの回数を増やすという戦略にしました。協力してくれた会社には契約が取れたら何%かをバックすることで、セミナー共催の形を作りましたが、これも値段を10倍にしたことで得られた結果です。これで、実質の販促費はほぼゼロで集客のしくみが整いました。最初は値段の提示の前にかなり気おくれしてしまって、プレゼン中に声までうわずったと話していましたが、回数を重ねれば話も慣れてきますし、そしてそもそも提供している商品やサービスには自信があるわけなので、感心して聞いてくれる見込み客に高い値段を提示することにも慣れてきたそうです。また、「有名企業出身」「メディアにも数回露出している」など自分のキャリアの効果も顧客とのやり取りで感じ取り、顧客が求める「顧客特有の価値」についても、企業ごとにしっかり感じ取れるようになってきたとのことで、セミナー後の相談会を始めて約2週間くらい経過したある日、「う、売れました!」という電話がありました。値上げして売れた最初のプレゼンの衝撃社長さんの声は本当にうわずっていましたが、興奮しきった感じで「売れました!」「売れるんですね!」「びっくりしました!」「その後いろいろ想像して興奮して寝られないかもしれません!」と、これも毎度のことですが、思考がワープしたように「興奮のるつぼ」になっていましたね。ちなみに、こういう状態になると、この値段で売れるんだと思ったり驚いたりしながら、これまで何度安い値段でプレゼンを繰り返してきたのか、これまでの顧客ともしこの高い値段で契約していたとしたらいったいどれくらい儲かったのか、逆に、いくら損してきたのか、などと一気に思考が広がっています。こちらの社長も、「家が何軒も建てられるほどの金額をこれまでに損してました」と喜びとも怒りともつかない口調で、繰り返し話していました。値上げした金額で売ることを覚えると、ほとんどの場合、この金額で売れるんだったら

もっと高くても大丈夫なのではないかと考えます。また、値上げしたことで経営状況が改善されたこともあり、さらに大胆に値上げを繰り返します。多少暴走気味になる社長もいますが、それは、まあ、これまでそうとう鬱憤がたまっていたのだと思って止めないようにしています。この話は数年前の話で、現在のこの社長さんの会社や生活は当時と丸っきり変わっています。ビジネス上、原価のかからない仕事なので、当然、利益は10倍以上になり、それまで売上を上げるために飛び回っていた社長の時間が大幅に空いたので、優秀な人材の採用、人材を育てるための時間も確保されました。その結果、組織化に成功。ナンバーツーやリーダークラスの成長もあり、社長さんはほぼ現場を離れ会社にもあまり出社せず、将来の研究に没頭する傍ら、もともと趣味だった旅行と車の運転に明け暮れる毎日だそうです。プレゼンの決め手は料金の提示とその後の駆け引き私が教えた「料金の提示の方法」と「その後の駆け引きの仕方」は、値段を上げていくプレゼンを身につけるうえで、とても重要なのでまとめておきます。こちらの人事コンサル会社の値段は、当初半年6か月で60万円、月に10万円で何でもやりますみたいなサービスでした。そこで、まずメニューをしっかり明示してそれぞれの稼働時間を想定、社長が大手有名企業出身でなおかつキャリアも相当にあり、メディア露出も数回あったので、価格は6か月で600万円と設定してもらいました。価格設定の際には、仕入れがゼロで原価がないビジネスなので、最低限、どの金額なら契約するかという取り決めをしました。その場合も、もちろん、単なる値引きは困るので、相手の予算に対してメニュー項目を削り、その項目は企業側に分担してもらう構成にしました。通常こんな感じで値上げプレゼンをする場合は、値上げした金額から、いくらまでなら譲歩するかということも決めてプレゼンを組み立てる場合が多いです。この場合、私が聞くのは、「いくらまでなら満足できるか?」「譲歩するとしてもどれくらいの金額にするか?」「商品やサービスを提供する際にいくらまでだったら幸せを感じるか?」など。相手と話し合いをしながら決める場合がほとんどです。そして、その金額を最低基準(こちらの場合は半年で300万円)に定め、この金額がよいという正規の金額(半年で600万円)を設定してプレゼンに臨んでもらうことでト

ライアルがスタートしました。一番大切なのは、「質問系の言葉」による料金の提示いよいよ肝の部分ですが、私がいろいろな会社で値上げの指導をする際に気が付いたクロージングの方法をお教えします。解説に則って実行していただければ、基本的に上手くいくはずですから、まずはあれこれ考えずにその通り実行してみてください。そして、コツをつかんだと思ったらそれぞれオリジナルの方法へと技術を磨いてください。「顧客特有の価値」について、しっかり話した後、料金提示や購買決定の場面では、必ず質問系の言葉や表現を用いて締めくくります。「え!それだけ?」と思いましたか?そうです。要点を最大限まで要約すると最大の肝は、「最後に必ず質問系の表現をする」ことです。どういうことかというと、「〇〇という金額ですが、いかがですか?」とか、「大丈夫ですか?」「問題ないですか?」というように、料金の提示を疑問形にして相手に投げ掛けると上手くいくのです。先ほどの、人事系のコンサルタントの場合は、「以上のサービスを提供する価格ですが半年6か月間のサービスでトータル600万円ということになっていますが、いかがですか?」と聞いてもらいました。で、相手が「わかりました。それでお願いします」と回答し、すんなり契約が決まったそうです。また、これの派生形で「〇〇という金額になっていますが、商品はご自宅に送りますか?会社がよろしいですか?」や、「いつからスタートしますか?」「最初のミーティングは来月と再来月のどちらにしますか?」など、提供する商品やサービスによって言い方を変えます。金額の話だと、OKか否かがはっきりわかり、OKなら購入、NGなら相手の要求に合わせて値引きするのかしないのか、会話が次に展開します。派生形の「〇〇に送りますか?」に対し「じゃあ家に送ってください」という回答なら、購買はOKということになりますから、そのまま契約ということになりますよね。送るのがNGなら、「何が問題ですか?内容ですか?金額ですか?」と質問していきましょう。提供する商品やサービスに納得できる価値がある場合は、ほとんどの顧客が「料金の提

示+質問系での締めくくり」でスムーズに契約につながるか、価格交渉の話し合いになります。先ほどの社長にもこういった内容は伝授しましたが、最初は前述の「これが当社のサービスですが、金額的には半年間6か月で600万円ということになっていますが、いかがでしょうか?」というフレーズを覚えていただきました。信じられないかもしれませんが、顧客があなたの商品やサービスについて価値を感じている場合には、「はい、問題ありません」とか「それでお願いします」という回答がかなりの確率ですんなり返ってきます。この社長も、最初に売れた時の顧客の回答は、「わかりました。それでお願いします」だったそうです。最終決断を質問で聞くことで、顧客は自分の気持ちを表現しやすくなる前の項目でも少し書いたように、最後の言葉を質問系にすることで、顧客は思っていることをわりと自然にこちら側に伝えてくれるようになるのです。人間の脳は質問されたら答えなければならないという反応をするのが常で、この脳の特性や心理が上手く作用して、思っていることを素直に話してくれるようになるようです。買ってもいいかなと思っている時に「いかがですか?」と返事を促されることで、買おうと思っていたお客様は自分のその気持ちを「あ、はい、大丈夫です」というように言葉にしやすい。欲しくない場合や、困っている時も、相手が自分に質問という形で状況を聞いてくれているわけなので、「そこまで予算をかけることは計画にはなかったんですが……」とか「実はちょっと予算とは別に〇〇という問題があって……」と、相談に乗ってもらいたいという感じで返答しやすいようなのです。もちろん、これは、プレゼン中に、しかもクロージングという緊迫した場面で相手に言うので、何回もロールプレイングなどして、相手が緊張しない言い回しなどを身につけることが必要です。このパターンのクロージングができると負け知らずになるので、ぜひ練習してください。落としどころを決めるクロージングシミュレーション

ちなみに、もし相手がこちらの提示する金額でNGの場合はどうするか。先ほどの人事コンサルタントの方にはこうやって教えましたが、相手の希望金額を質問しながら、お互いの望む金額へと話をシフトして落としどころを決めるという感じでクロージングに持っていきます。ここでも、役に立つのは上手な質問の投げ掛けです。具体的な会話の事例を挙げておきます。コンサル「なるほど、ちょっと予算的に難しいということですね。わかりました。では、予算的にいくらまでならこの人事制度構築サポートに払える感じですか?予算感を教えてください」相手「そうですね。総額〇〇万円くらいなら今期の予算の中で出せると思いますが」この時、相手が提示した金額が、幸せを感じる値段の範囲内(この場合は6か月で300万円以上)で問題ないならOKを出して、相手に仕事の分担を提示するなどして、契約に入ります。相手の提示金額がこちらの意向に合わない場合は、「さすがにその金額ではお受けできないですね」と言いながら料金の引き上げと仕事の分担を話し合い、「今の金額に〇〇円だけプラスしてもらって〇〇の作業を御社でやっていただけるならイケると思いますが、いかがですか?」という感じで進めていきます。通常こんな感じのやり取りを数回繰り返すと、落としどころが見つかり、契約へと移行する場合がほとんどです。値上げした分、交渉の幅が増えるので、こちらも話をスムーズに展開できます。慣れるとクロージング自体が楽しく感じられるようになります。以上が典型的な顧客に価値を伝えて値上げする方法とそのプレゼンの内容とやり方です。この一連の方法で、飲食、店舗系、物販、宿泊施設、メーカー、サイト制作、SEO対策、システム開発系およびIT系サービス、塾、家庭教師など学習系ビジネス、施術系ビジネス、歯科、美容系医療、専門サービス、いろいろな業種・業界で10倍以上の値上げに成功しています。他社でも扱っている商品を自社で高く売る方法

ここまで、事例を書きましたが、読みながら心の中で「なるほど、こういった方法もあるんだな、でもうちの仕事では絶対に値上げは無理だ。値上げはもともと可能な業種とか仕事によるんじゃないか」と思っている方もいまだ多いかもしれません。なので、値上げの相談で一般的になかなか大変だとか、不可能と思われる業種や職種で私が提案して効果を上げた値上げの方法をいくつか書いておきます。その代表的な例が、値上げしたくても「そもそも扱っている商品やサービスに価値を付けにくい」とか、「その価格帯までの商品が業界に存在しそうにない」、また、「どこでも扱える定番商品を仕入れて販売している」という仕事・会社等の値上げについてです。こういった場合に値段を上げていくために必要なのは、今あるモノに「リアルな何かをプラスする」という考え方や「それによる業態の変革」という手法です。「リアルな何か」とは何でしょうか。本章の冒頭で、値段を上げるために、プレゼン時に情報を付加するとお話ししました。この情報の代わりとなる、リアルなモノやコトを今の商品やサービスに付け加えるのです。これは、説明だとピンとこないと思うので、具体的に例を挙げます。レストランの場合だと、「ヨーロッパの一流シェフを呼んで料理を出すとか監修してもらう」「有名プロゴルファーにゴルフのクラブのデザインやコースの設計を依頼する」「100年企業や現代の名工とコラボして商品開発する」などですね。さらには、「日本人がほぼ誰も行っていないヨーロッパの一流リゾートに2週間滞在し自分のブランドを作る」……など、いろいろ付加することで、「価値を上げる」工夫ができるのです。つまり、先ほど例に挙げた「人」「ブランド」「企業」「場所」などを今の商品やサービスにプラスして価値を高め値段を上げる方法です。こうすることによって、あなたの仕事は別のレベルへとブランド化され、商品やサービスに「価値」を付加することができるのです。ネットの料理器具販売会社が取った驚きの販売戦略これからお話しする事例の会社はネットで料理器具を販売している企業で、製造業ではありません。メーカーにいろいろな提案をすることで、オリジナル商品を開発・販売。私がコンサルを依頼された時には、すでにかなり業績の良い会社でした。今、この業績が良い状況を活かして、さらに経営的に勝てる状況・圧倒的に他社を引き

離す状況を作りたいとのことで、私に相談してきました。この時の目標は、「値上げの限界に挑戦したい」でした。こちらの経営者は経営センスが抜群でした。つまり、業界トップの会社はなぜトップという印象をマーケットから持たれるのか、その業界で一番高い値段で商品を販売している会社がトップとして認知されることを、私がお世話する前からすでに意識していたのです。この理解は第2章の「比較」のところでも解説したように、圧倒的な効果を発揮します!どれくらいインパクトがあるかというと、設立間もない企業が100年企業よりも上という認知をマーケットに印象づけてしまうほどです。特に、この効果はネットやメディアでの露出を考えた場合に大切です。メディアはわかりやすいものや話題になるものを追いかけるので、一番高い商品を売っている事実が老舗を負かす取材理由となることはすでにお伝えしました。それも、通常の価格帯で一番高いのではなく、業界よりも圧倒的に高いとか、ビックリするような金額で販売している商品を持っていることがその印象を高めます。そして、第3章の「銀座の名店はなぜ消えたのか?」を交えながら、アイデアを出すことになりました。そこで取った方法が、「今の商品にリアルな何かを付け加える」でした。「リアルな何か」とは前の項目で解説した、プレゼンに付加する値上げの情報を持っているモノや人、会社や場所などといった要素でしたよね。料理器具の値段は、道具という性質上、毎日使うものなので、海外のものでもやっぱりそんなに極端に高いものはなく、一流の料理人さんが使う包丁でも10万円を超えるものは極めて稀でした。その商品群を圧倒的に高い値段で売りたくても、現状の価格帯から考えて、「今の商品の値段はそう簡単には上げられそうにない」商品です。どんなことをしたのか。値上げのために取った方法は、料理器具とコラボできそうな各分野の現代の名工・名人・芸術家・デザイナーさんたちを口説いて、商品に味付けをしてもらうという値上げ戦略です。これは、わかりやすく言うと、お鍋の蓋にすごいデザインの模様を入れてもらって半年待ちの特注商品としてオーダーを取ったり、ありえないほど高い高級漆器を芸術家とのコラボ商品として販売したりする方法です。この企画は、最悪売れなくても、「業界で一番高いものを販売しているというブランドが取れればいいですよね」と、半分はメディア戦略の一環としてスタートしました。とこ

ろが、料理が大好きな方からのオーダーやそういう方へのギフトとしてのオーダーが、だんだん入ってくるようになりました。もしかしたら、値段に上限はないのかも、と思わせるほど、高い商品に注文が入るのです。さらに、ビックリすることが起こりました。それは、一度商品を買ったり、プレゼントされたりした方から、ほかの商品のオーダーが入ったことです。料理マニアの方は、一度本当に良いものを使うと、あるいは気に入った楽しい器具を使い始めると、これまで使っていたほかの器具もそのレベルに合わせたくなるようで、「こんな商品も作ってほしい」と、問い合わせが殺到しました。お客様の感想をお聞きすると、「毎日使うものだからこそ、使って楽しい満足のゆくものを使っておいしい料理を作りたい」とのことで、30万とか60万とかする商品が月に数個の割合で、コンスタントに受注されています。ちなみに、もともとネットの勝ち組でしたので、集客の工夫は必要ありませんでした。ネット内のバナーから、その商品ページへの誘導だけで、数件の問い合わせメールが入ってくる状況でした。私が取った方法で皆さんが想像しにくいことを加筆すると、それはメールでの問い合わせへの対応です。数回のメールのやり取りをした後に、最終的には電話でのやり取りに移行させ、クロージングは電話で行うという方法を取りました。「お探しのギフトですと、〇〇という方のデザインした絵柄の入ったお鍋は、ほかでは絶対にありませんが、いかがですか?」というように、クロージングに持っていきます。ここでも、質問によるクロージングは非常に効果を上げています。値上げの方法としてこの質問型のクロージング手法は必須ですので、どんなパターンで仕事を組み立てる場合でも、最後は必ず質問型のクロージングが必要になると思っていてください。こういう現実を知ると、日本のマーケットは成熟期に入り、多様化・細分化してきていると感じます。お客様は決して、値段が安いからモノやサービスを買うわけではないのですね。定番商品にサービスを付加して業態変換、値上げに成功した包装機メーカー

次に解説するのは、定番化している商品や、どこでも扱っている商品を販売している会社での値上げの方法です。その方法とは、今の商品に有形・無形のサービスを加えて、さらに業態を変換させ、トータルの値段を上げる方法です。どこでも扱うことができる商品を販売しているわけですから、さすがに、こういった業種での値上げは不可能だと思われます。しかし、その商品を軸にサービスやメンテナンスなどを付加して、ビジネス自体を商品の販売から総合サービスに移行させることで、値上げすることが可能になります。この方法を活用した例を少し紹介します。・車のキズ防止の特殊なコーティングを行う会社が、1回いくらという価格設定から、コーティングを行ってから2年間は何があっても無料でメンテナンスするサービスを加えて業態を変換、会員制度を顧客に提案して囲い込みビジネスにする・セミナー開催会社が、1回ずつセミナーを販売するのではなく、企業に向けて年間何回でもスタッフが参加できる教育のインフラサービスに移行する・印刷会社が、自社利用だけでなく他社も使って印刷の効率を上げるサービスを企業に提供し、仕事を依頼した会社にも課金するなどが思いつきますね。対象となる会社の場合はぜひ考えてみてください。面白いアイデアが出るはずです。難易度MAX!?BtoBもしくは大企業相手に値上げを目指す最後に解説するのが、私の顧問先でも最初から値上げの提案をするのはさすがに無理と言われる、BtoBのビジネスを行う企業や大企業を相手にビジネスをしている会社での値上げの方法です。BtoBもしくは大企業を相手にしている会社が値上げを目指す場合は、確かに難易度がかなり高いと思います。たとえば製造部品の納入だったりサービスの下請けだったりと、企業間での取引が主なため、顧客の価値が原価を抑えることだったり効率を上げることだったりする場合が多いからです。また、大企業が相手の場合は、たくさんの商品やサービスを提供するので、コストの問

題がどうしてもついて回り、値上げはかなり難しいという印象が強いですね。特に、現状の顧客に対して、今提供している商品やサービスの値上げは、ほぼ不可能に近いでしょう。人口減少によるマーケットの縮小で、企業間の競争は激しくなる一方ですし、大手は数の理論からさらなる値下げの要求をしてくる可能性もあるので、現状維持ができれば、それはそれで十分素晴らしいことです。ただ、こういう状況を加味すると、BtoBビジネスで値上げする場合、現状の顧客はそのままにして、新たな顧客となる新規のアプローチ先に対して値上げをしていくというやり方は必須です。なぜ私が、値上げは新規顧客からと敢えて再確認していると思いますか。BtoBビジネスをしている会社に限って、今の顧客に対し、何とか値上げできないかという相談がとても多いからです。一般顧客に対する値上げの要求と、取引している企業間同士の値上げの要求では、どちらにより経営的なリスクがあるかというと、それは圧倒的に企業間同士の場合のほうが多いです。値上げの要求ができる経営状態まで改善してからでないと危険ですので、これは絶対に守ってください。現状の顧客との関係があるから、現在のビジネスが成り立っていることを忘れないでください。ベースがあるからこそ値上げの作戦を立てられるのですから、ぜひ、新規の顧客に対する取り組みから、値上げできるプランへの移行を考えてください。BtoBでも激しい値上げが可能に!さて、BtoBビジネスでの値上げの方法ですが、私が顧問先に提案するのは大きく分けて次の4つです。1取引先の信用を高める2取引先の値上げの理由となる3富裕層や良質な顧客向けに値段の高い商品やサービスを提供している会社に、アプローチ先を変える4アプローチする会社の最上位商品にのみ商品やサービスを提供する

「取引先の信用を高める」とは、こちらが何らかの価値(歴史や専門性、独自の技術やエビデンス)を提供できる立場になり、それを取引先企業の商品販売における強みとすることです。自社がすでに持っている顧客に対する「一般的な価値」や「顧客特有の価値」を取引先企業に見せ、「競争力が上がる」ことを説明し、理解してもらえば、値上げは可能です。BtoB企業には、自社の価値を自覚するという感覚がない場合が多く、日本でその会社しか持っていない技術や独自のノウハウがあるにもかかわらず、その価値を情報として提供できていません。それらを自社の説明に加えることで、高い確率で、取引先の信用を高めることができます。「取引先の値上げの理由となる」とは、直接、商品やサービスの値上げを指示できる立場になることで、値上げを可能にする方法です。取引先が顧客に対して、「世界で当社だけが〇〇の技術をこの商品に使っています」と宣伝できるような、商品やサービスの生命線となる価値を提供する立場になれば、値上げは可能になります。「富裕層や良質な顧客向けに値段の高い商品やサービスを提供している会社に、アプローチ先を変える」とは、新規でアプローチする営業先を、上質のマーケットで値段の高い商品を提供していきたい企業に変えることです。マーケットの変化に合わせて、経営方針を変え、会社ごとあるいは新規で部門を立ち上げて、富裕層や良質な顧客に向けた商品やサービスの提供をしていこうとしている会社が増え始めています。アプローチ先をそういった企業に切り替えて、自社の価値を提供することで、値上げしていく方法です。「アプローチする会社の最上位商品にのみ商品やサービスを提供する」とは、新規取引先の開拓時に、すべての商品にサービスを提供するのではなく、最上位商品にのみ、自社の価値である技術やサービスの提供をすることで、値上げを可能にする方法です。提供する商品やサービスを限定することで、上手くいく方法です。この方法は意外と知られていませんが、取引先の値上げに対する抵抗感はありません。どこの企業も、最上位商品やサービスは企業のトップブランドであり顔でもあるので、できれば安くしたくないと思っています。なので、最上位商品やサービスに対する提案は、値引きロジックが当てはまらないことが多いのです。営業ができる可能性が残された領域なので、そこにのみアプローチすると、面白い成果につながります。

アプローチ先は、高いから買うという顧客がかなりの確率でいることを知っているので、自社の再確認した価値を、値上げの理由として提供できればいいわけです。どうですか?こういう形で説明していくと、無理と思っていたBtoBビジネスでの値上げも可能なのではと思えてきたことでしょう。特許がエビデンスに!高く売りたい一流企業との契約が軒並み成立最後に紹介する事例は、私がコンサルを依頼された、医薬品やサプリメントの原料を提供する小規模の会社です。いろいろな質問をしていくと、大変な価値を有していることにまったく気付いていないことがわかりました。それは、「特許」と「人間関係」です。原料の抽出方法が独特で、その抽出方法で特許が取得できたことと、研究開発から特許を取るまでの過程で、相談先である専門家たちが社長の熱意と人柄に惚れこんで、とても協力的な関係ができていたのです。皆さんもご存じのように、中小企業がいくら特許を取得したとしても、なかなかビジネスに直結しません。特許があっても、販売力や宣伝力がないとなかなか広まりませんし、大手企業がその気になればいくらでも資本力でつぶされてしまうからです。特許は大手企業が利用して初めて効果を発揮できるシロモノですが、この会社には、専門家(東大教授をはじめその分野の世界的な第一人者まで)との深い人間関係という、大手でもなかなか手に入れられない、お金では代えがたい無形の価値が存在していたのです。この会社、特許はかなり意識していましたが、どう使ったらよいか、アイデアが出ず、戦略的な使い方が見つからなかったそうです。どちらかというと、大手と戦うために特許を取ったので、まさかこの特許を大手企業に対して、値上げの手段として使う発想はなかったわけです。こちらで取った戦略は、これらの専門家を複数人社外役員として契約してサイトやパンフレットに登場してもらい、特許に対するエビデンスを示し、大手企業からの問い合わせ後の面談に参加してもらうことでした。大手企業の研究者からしたら、まさかそんな権威者が面談時に出てくるなどとは考えて

もいないので、その効果は絶大で、ビックリすると共にサインを求める者までいました。また、その専門家たちを中心にシンポジウムを開き、論文の発表などを定期的に行い、そこに大手企業の担当者を招待して教授たちと交流してもらうほか、「うちから原料を供給すれば、これらの専門家のコメントやシンポジウムの内容も商品の説明に使えますよ」と利点を示す戦略を取りました。情報化社会の到来で、大手企業の購買に対する方向性も少しずつ変わってきています。必ずしも値段で買わない、値段よりも根拠=エビデンスが重視される傾向が増してきています。安いからといって、確かめずに原料を仕入れた結果、社会問題になった場合の経営リスクが怖い時代となっているからです。特に、ネットの時代は1人のユーザーの意見で株価が急落、倒産の危機にまで及ぶことを、大企業はいろいろな事例で体感しています。先ほどの戦略は、大手から見たら自分たちの商品のブランド価値を上げ、顧客に対して高い値段で販売できる根拠となるので、原料の値段を高くしても、問題なく買ってくれる可能性が高まるのです。さらには、1社でもこちらのスキームで原料を購入し、エビデンスを担保したライバル会社が出てきたら、有名企業にとっても痛手となるため、この会社から原料を仕入れる以外選択肢がない力関係が出来上がるのです。この会社は、この方法で当初の3倍の値段で原料の供給を実現させました。この値段で販売すると得られる利益はこれまでの数倍になるので、ものすごい高収益企業へと華麗に転身してしまいました。価値を最大化できたこの企業は、取引先のライバル関係になる別の大手企業にも同時に原料を供給するという前代未聞の成果を実現しました。通常は系列しばりの思考やプライドからA社が仕入れた会社からはB社は絶対に仕入れない、という暗黙の了解があるのですが、業界大手数社と同時に取引をするまでに至りました。BtoBビジネスの場合、値上げに向けて発想を変えることが必要です。新たにアプローチする企業には、良質な顧客に対して高く売ろうと考えている企業や、企業の看板商品のみにターゲットを絞ることが重要です。エビデンスを含めて商品やサービスの価値を向上させ、高く売るための根拠を提供できる側に自社がなれれば、値上げが可能になるということもわかったことでしょう。要は、取引先で行わなければいけない値上げのための価値創造の役割を、こちらが持っている「一般的な価値」や「顧客特有の価値」でサポートする役割、提案によって気付か

せる役割を担うことができれば、値段を上げていくことは難しくありません。私はこれらの工夫を通して、これまでに、BtoBビジネスでも10倍以上の値上げを実現させました。その体験から実感として思うことは、BtoBビジネスの会社がこういう発想を持つことがほとんどないので、独り勝ちできる可能性が高いということです。ぜひ、対象となる顧客を見極め、商品を見極め、そして発想の転換をすることをお勧めします。

第5章まとめプレゼンを見直し、トライ&エラーを繰り返す自社に当てはまる「一般的な価値」をプレゼンに盛り込む「顧客特有の価値」が、相対している相手にとって何かを常に考える説明の仕方を工夫して、たくさん売ろうとせずに、高い値段で売ることを意識する・10倍の値段で売れて、人生が変わった人事コンサル会社社長9件売れなくても1件売れたら成功である集客の強化、価値の伝達、値上げを織り込んだプレゼン、トライ&エラーでイメージを変える見込み客を捨てながら、大胆にチューニングしていく値上げして売れると、これまでどれだけ損をしていたかを考え、値上げに前向きになるプレゼンの決め手は料金の提示とその後の駆け引き価格の設定は自由。単なる値引きにならないよう、どの金額で契約するかを決めるその後の落としどころを見つけるため、満足な金額、譲歩できる金額、幸せを感じる金額を決めておく料金提示や購買決定などのプレゼンで大事なこと質問系の言葉や表現を使ういかがですか?大丈夫ですか?問題ないですか?会話の最後の言葉を質問系にすると、顧客は思っていることを自然に話してくれる提示金額と折り合わない時のクロージングシミュレーション予算を聞いて、妥協案を探る。その時も質問系にする条件が合わないなら断る。金額を上げながら、作業の分担など交渉の幅が増えると契約につながりやすい他社でも扱っている商品を自社で高く売る方法「人」「ブランド」「企業」「場所」などが付加できるか、今の商品やサービスの価値を上げる工夫をする

・今の商品群の値段を簡単に上げられないと思っていた料理器具販売会社・定番商品にサービスを付加して、業態を変えて値上げに成功した包装機メーカーBtoBや大手企業を相手にどのようにして値上げを交渉するのか?取引先の信用を高める取引先の値上げの理由となる富裕層や良質な顧客向けに値段の高い商品やサービスを提供している会社に、アプローチ先を変えるアプローチする会社の最上位商品にのみ商品やサービスを提供する

いよいよこの本の最終章です。この章では、値上げの結果、経営がどう変わっていくのか?また、どう変えていくべきかを解説します。値上げした結果、売上や利益が上がり経営が安定していきますが、それで自社の経営の問題がすべて解決するかというと、そうではありません。売上と利益が上がったら、やっと経営者がやりたいと思っている強い経営を実現させることができるのです。つまり、理想とする経営をスタートするための条件がそろったわけです。この章では、値上げの後に、すべての社長が望んでいる強い経営や私が提案する理想的な経営の形を、どのように実現していくかを解説します。「競争のいらない経営」を目指す理想的な経営とは、他社との競争がない、もっと言うと、他社との競争を必要としない経営を実現することです。他社との競争がないとは、他社とマーケティングを競い合って顧客を取り合うことをしなくてもよい状態を言います。それは言葉を換えると、「独自の経営目標を追求する」ことで、圧倒的に他社を引き離し、競争するという概念そのものが経営からなくなる状態です。「値上げ」は本来、創業から目指してきたはずなのに、どこかでその意識がなくなってしまっていた本分を思い出させるきっかけとなります。目標とするのは、経営サイクルを伸ばし、「競争のいらない経営」を確立することです。売上と利益が向上することで企業の持つ「コンフォートゾーン」を抜ける

人間にはそれぞれ、自分とはこういう人間だという「コンフォートゾーン」があるように、企業にもコンフォートゾーンが存在します。コンフォートゾーンとは、自分が「自分自身をどういう人間と捉えているか」という思考で、この思考によって一定の行動や成果を出す(受け入れる)ようにプログラミングされていると言われています。たとえば、「自分は常に一番になる人間だ!」と捉えていると、一番になれない状況が少しでも予感されると俄然努力して成果を出そうとします。逆に、「自分は決して一番にはなれない人間である」と捉えていると、成果が上がって一番になりそうになると急に失敗したりサボったり、時には病気になったりして、一番ではない状況に戻ろうとするそうです。これが人間におけるコンフォートゾーンですが、それと同じようなことが企業にも存在しています。毎年売上と利益がトントンの会社の場合、そういうものだという思考が企業全体を支配してしまっているので、期のスタートでどんなに好調に仕事がスタートしても、年間を通して結果を見るとやはりトントンに終わってしまうとか、毎年少しだけ黒字や赤字の会社はずっとその状態を継続している感じです。おそらく10年経っても同じ状況ですから、これは相当に危険な状況と言えるでしょう。昔お世話した会社にも、「うちの会社はこうだ」というコンフォートゾーンがありました。「創業から一度も納期に遅れたことがない」という思考を持っていて、納期が危なくなると、誰が言うとはなしに急にスイッチが入って、総務・経理が現場を支援し、なんとか製品を完成させ納品を間に合わせることが伝統となっていました。コンフォートゾーンが、この会社のようにプラスに作用していれば問題ありません。しかし、毎年赤字すれすれの思考が定着してしまって、どんなに頑張っても利益はトントンしか出ないという思考の会社のコンフォートゾーンを変えるには、相当な刺激が必要です。これを打ち破るのにも、「値上げが一番の効果」と考えています。事実、値上げによって得られる売上増と利益の増大は、企業、そしてスタッフ全体の思考を変えてしまう効果があります。また、経営者が自社の陥っているマイナスのコンフォートゾーンに気付き、変革を目指すことはとても重要なことです。自分たちの提供する商品やサービスが、自分たちが思っているよりも高い値段で売れ、顧客に喜ばれることで、経営者も企業スタッフも本来の自信を取り戻します。成果を上げれば、プラスのコンフォートゾーンを身につけられますし、それが値上げに

よってもたらされる最大の変化です。そして、この値上げによって得られる売上と利益、思考の転換が、次の行動の原動力になるのです。値上げの最大の目的は「時間」を作ることコンフォートゾーンが変わってきたら、次に何をすべきでしょうか。「」、、。この思考の変革を、私は「経営のサイクルを伸ばす」という表現で、顧問先の社長やスタッフに進言しています。競合他社が目先の目標しか持っていない時に、もっと先の状況を目指して準備を始めると、ある時点から圧倒的な独り勝ちの状態となりますが、そのための準備を進めます。値上げによって得られた売上と利益の増加によってもたらされる最大の価値は、将来を見通して他社を圧倒する準備のための時間的な余裕を企業が得ることです。たとえば、50%の値上げによって同じ売上を目指すのであれば、利益はもっと上がるうえに販売回数が減り、顧客の数も減るので、工事会社の場合は現場の数が減るし、サービス会社の場合はサービスの機会が大幅に少なくてよくなるのです。工事やサービスをする時間が半分になるので、残り半分の時間が余るわけですね。もし、3倍の値段で販売が可能になったら、利益は当初よりもっと増えるうえ、3分の2の時間が余るということです。本書で、値上げこそが正しい経営と何度も言ってきたので、このことはよく理解していただいていると思います。つまり、値上げによって多くの時間が企業に、経営者自身に、新たにもたらされるのです。経営者は、「新たにもたらされた時間」で何をしたらよいのでしょうか。もちろん、値上げした分時間ができたのであれば、その時間をもっと目の前の販売に費やすことも可能です。しばらくはそれも正しいといえますが、少し落ち着いたらその時間を何に投資すべきかを、ちょっと冷静になって考えるべきです。今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上も生んでいる

経営者は新たにもたらされた時間で何をすべきか。それは、未来の売上を生むための「取り組み」や「しくみ作り」です。それを今日から行うのです。私は顧問先の社長に、「今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上も生んでいる会社が成功する会社です」といつも言っています。イメージがつかみにくいと思いますので、少し事例を紹介します。私の顧問先は値上げによって得られた経営者自身の時間的な余裕を未来の売上に投資するために、専門分野の大学教授の会合に参加してはや5年になります。この社長は、当月の売上を死守するべく陣頭指揮を執りながら、売上の大半を自らが稼ぎ出すという毎日を過ごしていました。まさに今日のために今日生きているという感じだったのですが、値上げに伴う収益向上のおかげで、営業マンに失敗させる余裕ができました。そのせいか、営業マンの能力と、値上げによって顧客の質が向上し、紹介なども出ることで営業マンの成績が思った以上に伸びました。結果、社長は月に数日からのスタートでしたが、現場を離れて未来を作るマネジメントに自らの時間を振り向けることを決断、その取り組みの一つとして、自社の専門分野の大学教授の会合に毎月出席にする行動に至ったわけです。経営者が現場を離れて、大学教授の会合に出ることが仕事なのかといえば、一般にはこれは仕事と考えにくい行動のはずです。その証拠に、そんな行動を取る中小企業の経営者がいなかったために、最初はかなり大学教授たちから変な人間じゃないかと疑われたそうです。しかも、その会合には企業側の参加はあるにしても、大企業の専門スタッフが参加するのみで、相当な場違い感があったそうです。また、「社長はいったい何を考えているの?」という声も社員から上がったそうです。この5年の「未来の売上を生むための社長の取り組み」の成果ですが、現在大企業も巻き込んだ商品開発と、その商品に盛り込まれる大学教授との数本の共同研究による特許申請という形で表れ始めています。この事例は、「経営者が未来を作るということはどんなことなのか」がよくわかると思うので、ここまでに至った経緯をもう少し詳しく解説します。当初は会合に参加するのみだった社長ですが、持ち前のバイタリティーと営業センスから、また彼自身も真剣に勉強を積み重ねた結果、だんだん教授たちにも認められ仲良くなり、大学での研究がどんな形で一般のマーケットに影響を及ぼすかなどを話し合う仲になっていったそうです。次世代を担う世界的にも権威のある教授と意気投合し、その教授に毎月研究費として数

万円を支払うようになったそうですが、その教授から大企業も巻き込んだ形での、ある商品の共同研究の提案が来て、現在に至る形になったそうです。中小企業がいくら特許を取得しても、なかなか経営に活かせないものですが、今回の特許は世界的に権威のある大学教授と共同で取得したものなので、大企業もその状況を踏まえて共同での商品開発となったわけです。大企業からのライセンスの支払いは、商品1個に対して米ドルで1ドルと決定しているので、現在の利益をはるかに上回る収益が見込めるとのことです。こちらの会社はスタッフに現場を任せ、経営者が未来のための行動を取ることで、「今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上を生む」努力を共同作業で実現しました。組織マネジメントというのは、本来こういう形で行われるのが理想です。いつからか安売りに走ってしまった結果、全員で今日の仕事をするサイクルへと企業レベルを落としてしまっていたのだと、社長は昔を振り返って反省しています。そして、今後は、自分だけでなく経営陣も少しずつですが、現場を離れて未来を作る仕事に従事させる計画だそうです。どうですか?なんとなくですが、私の言わんとしていることが理解できてきたのではないでしょか。現在の売上と利益を固定してでも、未来の収益を考える日本の企業全体が人口減少に伴うマーケットの縮小化で、安売りに走ってしまった結果、目先の売上や利益に走ってしまい、どの企業も先を考えない経営に陥っています。そんな中、経営のサイクル(目指すゴール)を、3年、5年、あるいは10年先へと伸ばし、将来や未来の準備をする会社は、ある時点から圧倒的な勝ち組企業になると私は考えます。そして、そのことをいろいろな企業に浸透させているのですが、この思考から面白い経営判断をして成果を上げている会社があります。この会社は、値上げによって得た利益をさらに効率的に未来のために使うべく、現在のビジネスを拡大・発展させることをやめ、ほぼ売上を固定化し、新規ビジネスの開発に全力で取り組みました。というのも、ビジネスそのものが地方での展開であり、斜陽なために安定はしているが、この先10年20年を考えると、発展は望めないと考えたからです。

社長のくだした決断は、現状ビジネスの成長戦略の凍結でした。これまで毎年取り組んでいた新卒採用を中止し、中途採用も他業種からの採用は原則なしとすることで、年間の採用費用や教育費用を大幅削減。さらに、検討していた評価制度やシステムの導入、事務所の引っ越しや建て替えも取り止めといった感じで、大々的なコストカットを行いました。社長曰く、「企業は常に発展させないといけないと考えていた時には、いろいろな費用が必要だったが、現状維持と決めた瞬間から、収益力が向上したことには驚いた」とのことです。売上をほぼ固定しても、こうして出た利益はその企業にとっては力になり、経営幹部を中心に、10年先に今のビジネスがなくなっても大丈夫な新規ビジネスを構築する目標に向かったそうです。この新規ビジネスは、できれば誰もやっていない専門性の高いものか、ある程度の経験がないと新規参入が難しいものが望ましいと考えていたそうです。今は特定の分野に関わるインバウンドでの、海外の人・ブランド・企業を日本へ誘致するという誰もやっていない業態になりそうだということです。このビジネスをものにするためには、相当な情報量と相手との信頼関係、そして人の教育が必要なので、長いスタンスで取り組まないと無理だった。この決断は最適だったと社長は言っています。特に、ターゲットにしたのがヨーロッパの名門企業や人だったこともあり、何度も現地を訪問し接触を試みないと窓口そのものが開かなかったとのことで、原則1社独占という立場を確立、最強の立ち位置を手にできたとのことでした。将来大きな差となる行動は何かを考える経営のサイクルを伸ばすというのはどういうことか。今取り組んでいる行動の結果を、今ではなく3年先とか5年先あるいは10年先にゴール設定して、経営に取り組むことです。値上げによって得た売上と利益をこの経営サイクルを伸ばすための原資にすることで、圧倒的に他社を引き離した経営ができるようになります。人口減少でほとんどの企業が安売りに向かった結果、売上と利益が減少し、先を考えた経営ができない状況なので、しっかり意識して経営サイクルを伸ばす取り組みを行えば、

数年後には圧倒的に強い存在として、地域や業界、そして世界市場で勝負する会社へと変貌します。私は、この本を読んでくださった企業の多くに、まずは値上げを実現し、得られた売上と利益を、そして時間を、この「経営のサイクルを伸ばす投資」とすることを理解して、経営に変化をもたらしてもらいたいと思って書いています。それが、この本の最終的な目標です。そうすることで、素晴らしい企業がたくさん増えると信じています。最終目標は、ライバル会社や業界の主要な企業が目指しているよりも長いサイクルで経営を回すことです。そして、上場企業でも考えていないくらいの長さでサイクルを伸ばし、他社が追いつけないところまで、業務や仕事の内容を高めてしまうことです。他社が3年先を経営のゴールにしていることがわかったら、最低5年先を経営のゴールに、他社が5年先を見据えているのであれば、10年先を経営のゴールに、今の行動を組み立てていけば、結果は必ずついてくるのです。そのための判断基準となるのが、「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動は何かを考える」ことです。あるいは、「長い時間をかけないと絶対にできないこととは何か?」「圧倒的に蓄積がものを言う世界は何か?」「面倒くさくて誰もやろうとしないができたらすごいことはないか?」「めったにできないがやった人しかわからないことはないか?」「日本人はほぼ行かないが行ったことがある人しか絶対にわからないことはないか?」などです。こんな事柄が経営サイクルを伸ばすヒントになりますが、中でも最初に書いた「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動は何かを考える」ことが最もわかりやすいでしょう。メルマガを書いて会社が儲かるのか?私自身が経営のサイクルを伸ばすことになぜ気付いたかを含めて、少し私が取り組んでいることを紹介します。私は、コンサルタントの仕事をしていますが、同時にたくさんのコンテンツを創業間もない時期から自社のサイトを中心に毎月制作し、ネットからリアルな媒体まで無料・有料で配信・配送しています。また、私が主催している「高収益トップ3%倶楽部」の定例勉強会は、東京・名古屋・

どになっています。仕事はコンサルタントなので、実務的にはコンサルをしていればよく、数種類のメルマガ配信やブログの作成、無料・有料のポッドキャストの配信、それから連載している無料・有料の書き物等は厳密に言うと、書かなくてもよいわけです。また、毎月かなりの時間を取って勉強会の開催をしなくてもいいわけですね。事実、同じような活動をしているコンサルタントの方に会ったことはありません。ポッドキャストの収録は、スペインのイビサ島、ビルバオ、サンセバスチャン、フランスのパリ、シンガポールやマレーシア、そしてオーストラリアのメルボルン、シドニーそしてバイロンベイなど、海外にまで出かけていますので、周りからは「いったい何をしているのか」と思われていますが、その結果として、おそらくコンサルタントの立ち位置としては突出した立場を確立しています。「今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上も生んでいる」と気付いたのは、こういったコンテンツの制作を始めてから数年経った時でした。ある時期から私に対する問い合わせの数が急激に増えると共に、問い合わせ企業の質や内容が急激に向上したのでした。淡々と繰り返していた自分の努力によって、見違えるような状況が顧客のほうからの問い合わせで実現したのです。これが、私にとっての「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動」だったわけですが、毎週配信すると決めて書いていたメルマガがきっかけとなり、少しずつコンテンツを加えていきました。蓄積されたコンテンツが結果としてこんなにも大きな成果につながるとは、当初まったく思っていませんでした。そして、この体験が、今日の行動が今日の、今週の行動が今週の売上を築くのと同時に未来も作っていると、結果、大きな成果につながると確信した体験です。今では、毎月行っているコンサル活動よりも、未来に向けてのコンテンツの作成のほうが重要だと考えているくらいです。未来を作る努力は競争がないので、自分のペースで勝手にできるこの未来を作る努力には、とっても面白い特徴があります。

それは、顧客や他社を気にしないで、勝手に自分のペースでできることです。難しいともいえますが、やろうと思えば誰にも気兼ねすることなく、どんどん勝手に進められます。そういう意味では、未来をゴールに勝手にスタートが切れて、勝手に行える独自の戦略といえます。中部地区を代表するある家具メーカーは、これまでの企業と同様に値上げに成功した後、さらなる値上げ目標達成のための戦略として、古木の収集にターゲットを絞り10倍の値段で販売することを目指しています。競合会社が商品をどんどん安くし、経営が立ち行かなくなり廃業などに追い込まれていく状況を見て、この会社は資金的に余裕ができたので、「古くて価値のある木材を使った名工が作る家具」の製品化に取り組みました。経営に見通しがついたので、未来を見据えた経営のサイクルへと経営者の思考が広がったということですね。また、先ほど事例を挙げた、大学教授の会合に参加した社長さんの行動がまさにそうですよね。勝手に参加して勝手に関係性を強化して、結果として莫大な利益を構築するまでに至っています。もちろん、なぜこんな未来のための努力が勝手にできるかというと、それは、現状でしっかりした売上と利益が上がっていて、時間的な余裕があり、なおかつ未来を作ることの重要性を経営者自身が理解できているからです。目指すは、まさにこういう未来を盤石にするための経営です。御社にとっての「将来の大きな差を作る仕事」とは何か?「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動」をヒントに未来を構築した会社の事例を挙げます。値上げによって経営を安定させた後、社内的な取り組みとして社員全員に資格取得を呼びかけ、大手企業からの仕事をほぼ独占した企業です。この会社は、業界大手の取引先選定の内容が変化することを調査で気付きました。そのため、こういう判断をしたのですが、ライバル企業を圧倒的に引き離すどころか、資格取得者の比率で大手企業を大きく逆転するところまで伸びた結果、ほぼ独占状態、無条件で仕事を受注するようになったそうです。

この資格取得のための経営判断は、皆さんの想像通り、「当初は社員からはまったく受け入れられなかった」そうです。それどころか、「意味がわからない」「今さら勉強なんて無理。できない」「社長はいったいどうしちゃったんだろう」という声が飛び交い、資格取得を嫌がって会社を辞めるスタッフまでいたそうです。この「資格取得命令」は、営業社員にほぼ強制的に発動され、他社と争っていた案件の失注という事態も引き起こしました。反発した営業トップが辞める辞めないという事態にまで発展、大きな確執を生んだそうですが、何度も資格取得の意義を説明しました。今では大手からの受注多数というブランドと資格取得者には特別手当があると聞いた有資格者の入社希望も増え、採用戦略の一環としても大きな効果を上げているそうです。また別の会社の事例を紹介します。ライバルの多い製造会社にあってクレーム発生の原因を自社で追究するべく検査機材を購入、専門のスタッフ集団を10年かけて育成し、受注を独占している会社があります。10年かけて買いそろえた検査機器は、大手企業や国立大学の研究室を超えてしまっている状況で、なおかつスタッフも専門特化しているので、政府の専門機関に依頼したら半年かかる調査を1週間でまとめてしまうほどの威力を発揮しています。こちらの会社の「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動」は、スタッフも含めた検査機能のしくみ作りだったということですが、なぜこういう経営判断をしたのかについて聞いてみると、大手もできないことを中小企業が取り組んで実現させれば、結果として「大手を永久に従えることができると思った」からだと社長は言っていました。また、製造過程でのクレームは頻繁に起きることではないが、一度起きるとその原因が原料の問題なのか製造過程での問題なのかは大きな問題で、クレームに対する賠償金額なども絡んでかなり難しい判断になるので、そこを明確に検証できる研究機関ができれば、手離せない存在になると確信していたとのコメントが返ってきました。未来に舵を切り、世界的な企業へと飛躍したオーガニック原料企業最後の事例として、「今すぐは必要とされていないが、将来大きな差となる行動」を取って世界的に飛躍した企業を紹介します。

この会社は、ある特殊な醸造製法を基にしてサプリメント用のオーガニック原料を製造する企業です。オーガニックの原料を製造する会社なので、もともと原料となる野菜などの栽培や製造過程での品質管理には気を使っていました。値上げによって経営が安定する中で、「将来の利益を生む行動は何か?」を熟考した結果、365日24時間いつでも工場内を見学できることをゴールに、数年かけて工場内の公開に取り組みました。それと同時に、原料となるすべての野菜などの栽培も「完全見える化」を掲げ、契約した農家に生育記録をつけることを徹底してもらいました。いつ誰が作った原料野菜がどういうルートで工場に入り、いつどんな加工をされて熟成過程に入ったのか、どの商品になって市場に出て誰に届いたかを、すべてオンタイムで知ることができるシステムを実現させました。原料や製品を運ぶ輸送車両の放射能検査等も複数回にわたって行うなど、万全の態勢を取っているので、世界でも稀な「見える化」です。社長はこの決断について、「食品やサプリメントを取り巻く環境は今後絶対にエビデンスの時代に入るとわかったので、もともと製品の品質には絶対の自信があったが、それに加えてエビデンスを軸に調査された時、世界一の判定をもらえれば、世界で勝てると思ったから」と話してくれました。その経営判断が功を奏し、今こちらの会社には、日本はもとより世界中の企業や大学、各国政府機関から問い合わせが来ています。その最初の口火を切った問い合わせが、世界的に有名な研究機関からのものだったので、最初は耳を疑ったと言っていました。その研究機関と専属の原料提供契約を交わしたことで、日本中の大手企業からの問い合わせはもちろん、世界中から問い合わせが来ているそうです。ライバル企業がこの会社の行動を知った時には時すでに遅し、という状況であったことはもちろんですが、そこからの業績の向上には目を見張るものがあり、あっという間に業界全体の売上の半分以上、数百億をこの会社が上げています。今やることで、会社の未来を作るあなたの会社で取るべき「今すぐは必要とされていないが将来大きな差となる行動」とは、いったいどんな行動でしょうか?

目標は、組織として経営のサイクルを伸ばし、今日の行動が今日の利益を生むと同時に、未来の売上も生む経営を作ることです。本書で取り上げた値上げに対する正しい考え方を知り、実行していただいて、収益・利益を向上させ、目指すはこの未来を構築するための取り組みやしくみ作りです。この取り組みは顧客やライバルを一切気にすることなく、経営者自身の判断でスタートさせ、進めていくことができます。そして、周りがあなたの会社の取り組みに気付いた時には、あなたの会社は他社の努力のはるか先に行った存在、追いつけない存在となっているのです。

第6章まとめ「競争のいらない」経営を目指す他社とマーケティングを競い合って顧客を取り合うことをしなくてもよい状態を作る売上と利益が向上することで企業の持つ「コンフォートゾーン」を抜ける商品やサービスが、自分たちが思っているよりも高い値段で売れ、顧客に喜ばれることで、経営者も企業スタッフも本来の自信を取り戻す値上げの最大の目的は時間を作ること経営のサイクルを伸ばす。値上げによって創出された時間を未来のための投資に充てる今日の努力が今日の売上を生むと共に未来の売上も生んでいる経営者は現場を離れて、未来を作るマネジメントに自らの時間を振り向ける現在の売上と利益を固定してでも、未来の収益を考える現状ビジネスの成長戦略を凍結、新規ビジネスの開発に取り組む将来大きな差となる行動は何かを考える値上げによって得た売上と利益を経営サイクルを伸ばすための原資にする最終目標は、ライバル会社や業界の主要な企業が目指しているよりも長いサイクルで経営を回すこと・毎週書いていたメルマガや配信していたポッドキャストによって、ある時から問い合わせが増えたコンサル・社員全員に資格取得を呼びかけ、大手企業からの仕事をほぼ独占した企業・未来に舵を切り、世界的な企業へと飛躍したオーガニック原料企業未来を作る努力は競争がないので、自分のペースで勝手にできる売上と利益が上がっていて、時間的な余裕があり、なおかつ未来を作ることの重要性を経営者自身が理解できているとできる今やることで、会社の未来を作る組織として経営のサイクルを伸ばし、今日の行動が今日の利益を生むと同時に、未来の売上も生む経営を作る

おわりにこの本を書き始めたのは、今から2年前の2013年でした。きっかけとなったのは、私が主催している「高収益トップ3%倶楽部」の定例勉強会の「値上げ」のテーマで告知した時の、ビックリするような申込み件数の多さでした。本書で書いたように、私にとって値上げはコンサルをするうえでの常識、むしろ当たり前のプロセスでした。ところが、「あらためて話をします」と言った時のこの反応に、思わず、「え~!こんなにわかっていないの?」と驚いてしまったのでした。発行までこんなに時間がかかってしまったのには理由があって、出版の目的が「値上げについて知ってもらうこと」ではなく、「本書を読んで値上げを実行してもらうこと」を目標に、この本を書こうと思ったからでした。この2年の間に数回原稿を書き直し、私の周りのいろいろなタイプの経営者の方に読んでもらい、その反応を見てみました。結果は、最初の原稿では、「なるほど、値上げは大切だ」という反応はあったものの、実行に移してくれる方はごく少数でした。もちろん手ごたえを感じていましたし、読んだ方が皆さん、素晴らしいと言ってくれたのも事実なので、この時点で出版するという判断もできなくはなかったと思います。ただ、実行を目標として考えると、私自身、満足がいかなかったので、内容を再考して書き直したものを読んでもらうことを繰り返した結果、理論的な説明よりも具体的な事例を基に、値上げについて知ってもらうほうが反応が良い、内容を読んで実際に値上げを開始する方が多いという結論になりました。ところがここで問題にぶつかりました。というのも、本書でも書いたように値下げの事例ならば、社会的にも顧客にとっても耳触りが良いので紹介することにそれほど問題はありません。しかし、値上げして成功した会社の事例はなかなか紹介しづらいというか、企業側にとっては秘匿性が高いうえ、ライバルに手の内を公開してしまうリスクもあるため、紹介してほしくないというところがほとんどでした。ゆえに、事例は、ほぼどんな会社でも直接参考になるようにできるだけたくさん挙げましたが、その内容は、地域や業種・業界を変え企業を特定できないように工夫することで、各顧問先に了解を得て紹介することになりました(リスクを冒して協力していただいた企業の皆さまには本当に感謝しています)。

おかげで、実際にこの原稿を読んでもらった社長の多くは、読むと同時に何らかの形で値上げに踏み切り、その中の数社はすでにかなりの成果を上げ、この本の出版を本気でやめてほしいと言っているほどです。このように、結果は実証済みの内容です。ぜひあなたも本書の内容を理解して、実際に値上げを実行に移していただければと思います。そして経営サイクルを伸ばし、競争を必要としない独自の経営を目指してください。これまでに数冊の本を書きましたが、こんな形で時間をかけ実験しながら執筆を進めていったのは初めてだったので、出版に際して特別の思いがあります。この本の出版に際して関わっていただいたすべての方に、そして手に取っていただいたすべての方に感謝いたします。日本経営教育研究所代表僖績経営理舎株式会社代表取締役石原明

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