一ドル一〇〇円時代、日本の賃金水準はおそらく世界一となったろう。
日本の会社全体をマクロ的に見れば、これ以上賃金をあげる余力を失っているかのように
思える。世界一の賃金のために国際競争力を失ってしまった、という悲鳴があちこちからき
こえてきそうだ。
しかし、それは評論家の言うことで、われわれ実務家の言うべきことではないのではない
か。個々の会社のトップが、社員に向かって、もう今年から賃上げはできないよ、いやなら
ヨソ、何なら賃上げの期待できる外国へ行って働いてほしいなどと言えるものだろうか。前
項で検討してきたように、社長の役割として、社員の生活向上の中心である給料は何として
も上げていかなければならないのだ。第一それができなければ、社長は自分の報酬だって将
来上げていくことができないではないか。
ではどうすればよいのか。
人事や賃金の担当長なら、困った、弱ったですむかもしれないが、社長はそういうわけに
はいかない。何としても、給料を上げても経営に影響のない方策を考える、知恵を絞るしか
ない。そこで社長には、ある意味では単純な、しかも過去のやり方にこだわらない発想が必
要となってくる。
そのひとつの発想は、極端に言えば、社員個々の給料は上げるが、会社の人件費は総額で
下がるような方策を考えられないか、ということだ。もし一〇〇人の社員でやっている仕事
を、半分の五〇人で同じようにできる仕組みを考えることができたら、倍の給料を払っても
人件費は変わらないことになる。このように単純に考えてみることである。そこから打つ手
が見えてくることがあるのだ。
言うまでもないが、これはたとえ話であって、実際に人を減らしてタコ足経営をやること
を勧めているわけではない。将来の仕事増に対する増員を正社員ではなくパートなどで賄い、
人件費総額はそこそこに抑えて、なお個々の社員の給料をしっかりと上げることのできる仕
組みの考え方を言っているのだ(この具体的なやり方については、実例と数字があった方が
説明しやすいので、「4 人件費計画の実証作業」の項でまた詳しく述べることにする)。
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