経営分析の本などに、「売上高対人件費比率」とか「売上高対支払利息比率」という用語
が広く使われているようである。
そのためでもないだろうが、経理部門や会計士の先生方の多くは、「わが社の売上に対し
て人件費は何%、 一般経費は何%、金融費は何%だ」と、売上高を基準にしてあれこれ経費
について考える傾向がある。しかし、これからの企業経営を考えると、社長にとってこのよ
うな売上高基準は、百害あって一利なし、と決めつけたいほど、経営の実務で何の意味もな
さないのである。
社長は、すべてのものの考え方の基準を、今後は「付加価値に対して何%」というように、
変えていただきたい。付加価値で何事も経営判断することだ。要するに、付加価値というも
のを基準にして経費を考えるようにしないと経営が成り立たなくなるのである。実は、ここ
に現在、付加価値経営が必要になってきたもうひとつの背景があるといっていい。
これから、世界中が低成長時代に入っていくことは否定できない事実だろう。たとえば冷
戦の解消という問題を契機に軍需産業が減る一方になるということを考えただけでも、それ
は理解できることだ。あるいは過去五年間、ヨーロッパ各国はEC統合後の経済的な発言力
を高めようと、自国の経済力を無視したような高度成長の道を歩んできたわけだが、統合が
実現された今、その反動が起きてきている。このように、世界中が低成長時代に入ってきて
いることは事実であり、日本もその例外ではない。
高度成長時代にあっては、付加価値より売上高に目がいっていても、経営の方針を大きく
誤ることは少なかったかもしれない。しかし世の中が低成長時代になると、売上増イコール
付加価値増の関係が成り立たなくなる。企業が生み出す付加価値率というものが全体的に下
がってくるからだ。ということは、これからの時代は、付加価値をたくさんとれるというこ
とを前提に自社の長期の経営を考える状況にはないということなのだ。かつてのように売上
を伸ばし続けることは至難の業である。 一方で、たとえば、外注費などというものは、今後
下がると都合よく考えないほうがいい。原材料、部品代……大体すべてが少しずつでも年々
上がっていく。売価もインフレで同じ率だけ上がってくれれば問題はないが、それができな
いとすると、付加価値は下がってくることになる。これまでは「積極経営」ともて囃された
手法が、 一転して「放漫経営」と非難されかねない時代に入っている。
もちろん、付加価値そのものを増やしていく工夫が大切なことはいうまでもない。儲けの
大きい新たなヒット商品を次々に手掛けることができたり、生産の合理化に成功して効率が
改善されれば、売上増イコール付加価値増が成り立つ道理だ。
しかし、付加価値を増やすということがだんだん困難になってくるという前提で長期計画
を考えていったほうが、計画の破綻がないのも道理である。
付加価値が次第に下がってくるのだから、売上に対する経費を何%とやっていたら、その
うち利益が出なくなってくる。社長が経費を考えるときは、すべて付加価値に対して何%と
いうように頭を切り替えてもらいたいと書いたのは、ひとつはそのためである。
以上、本章においては、付加価値経営の考え方を中心に、経営の本質について述べてきた。
若千耳慣れないことばや、説明不足の部分があると思うが、わたしの考えるところの中核は、
読者の皆さんにご理解いただけたものとして、いよいよ長期計画の具体的な作成に入ってい
くことにする。その第一手順は、自社の現状の正確な把握である。
未来は過去の延長線上にあるのだ。そこで、自社の現状をどう把握し、そこから自らの会
社の未来をどう読み取るか。それが次章のテーマということになる。
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