かつて、いくつかの経済団体がプロジェクトチームをつくり、ある計画に取り組みました。 その計画とは、すばらしく高い業績を上げている会社の社長に成功体験を話してもらい、普遍性がある経営原則としてまとめようというものでした。 このやり方は帰納法と呼ばれ、物理学や生物学などのいろいろな学問で使われています。 しかし、どこのプロジェクトチームも成功しませんでした。 その原因はいくつもあるでしょうが、主なものは次のとおりです。 まず 1番目は、業績が良い経営ができたかどうかと、自分が実践した経営方法をわかりやすく、しかも普遍性がある形で説明ができるかどうかは、全く別の問題だからです。 成功した社長の体験談に良く出てくるのが、「私は運が良かったから」とか、「私は良い従業員に恵まれたから」という話です。2つともすばらしいことですが、これらは、一般化し、誰でも応用できるような経営原則にまとめるのは不可能です。 それどころか、業績が悪い会社の社長がこの話を聞いて、自分の努力不足は棚に上げ、「私の運が悪いからだ」と、自己中心に考えてしまいかねません。 安い給料しか出してない上、従業員教育もまともにしないで、「業績が悪いのは、良い従業員に恵まれないからだ」と、まるで自分が被害者であるかのように考える社長も出てきます。 これでは経営戦略の研究に本気で取り組もうとしないので、こういう話を聞いたら逆に業績が悪くなってしまうでしょう。 成功した社長の中には「私たちは生きているのではなく、生かされているのです」と言う人もいます。すばらしい人生観だとは思いますが、こうなると何が経営原則になるか、いよいよわからなくなってしまいます。 2番目は、業績が良い会社の社長の話で、経営を構成する大事な要因がきちんと説明されるとは限らないからです。経営を構成する大事な要因がはっきりしないで経営の説明をすると、話を聞く人は、何を、どうしたらよいかわからず、結局役に立ちません。 3番目は、成功体験を説明する社長の業種がバラバラのため、どれも特殊な話に見えてしまうからです。こうなると「あれは例外だ、これも例外だ」となるので、話の中から普遍性がある経営原則を導き出すのがむずかしくなります。 4番目は、成功した社長の多くは、競争相手に勝つために行った肝心な戦略や戦術を説明したがらないからです。 どんな業界にも多数の競争相手がいて、お互いにお客を取り合っています。その中でお客を多くするには、競争相手の弱点や痛いところを突くような営業を実行しなければなりません。時には、「そこまでやるのか」と思うようなきつい営業方法も必要になるでしょう。 しかし現実には、競争相手に対してとった「特別な方法」はなかなか言えないものです。結局、表面的な話になるので、これをまとめても役に立ちません。 5番目は、「戦略とは見えざるもの」といわれるとおり、もともと戦略そのものが説明しづらいものなのです。そのため成功した社長の話の中から、効果性が高い商品戦略や営業戦略の原則を導き出すこともむずかしくなります。 6番目は、成功した社長たちの話を聞き、その中から普遍性がある経営原則をまとめようとするプロジェクトチームの中に、経営原則を深く研究して高い実力を身につけている人、いくつもの業種に精通し、高度な創造性能力をもっている人がいなかったためでしょう。こういう人は、そんなにたくさんいるものではありません。 結局多くの人の期待を受けてスタートした、プロジェクトチームがまとめたものは、一般的なビジネス書で見られるような、ありきたりの内容になってしまったため、注目されることなくすぐ忘れられてしまいました。
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