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経営者になるためのノート

目次

序章 経営者とは

  • 第一項 「経営者とは」
  • 第二項 経営者に必要な四つの力
  • 第三項 なぜ経営者の育成が必要か

本編 経営者に必要な四つの力

第一章 変革する力 経営者はイノベーターであれ

  • 第一項 目標を高く持つ
  • 第二項 常識を疑う。常識にとらわれない
  • 第三項 基準を高く持ち、妥協とあきらめをしないで追求する
  • 第四項 リスクを恐れず実行し、失敗したらまた立ち向かう
  • 第五項 厳しく要求し、核心をついた質問をする
  • 第六項 自問自答する
  • 第七項 上を目指して学び続ける
  • セルフワーク

第二章 儲ける力 経営者は商売人であれ

  • 第一項 お客様を喜ばせたいと腹の底から思う
  • 第二項 当たり前のことを徹底して積み重ねる
  • 第三項 スピード実行
  • 第四項 現場・現物・現実
  • 第五項 集中する
  • 第六項 矛盾と戦う
  • 第七項 準備する。しかし固執するのは計画ではなく、成果である
  • セルフワーク

第三章 チームを作る力 経営者は本物のリーダーであれ

  • 第一項 信頼関係を作る それが始まりであり、全てであるということ
  • 第二項 全身全霊。100パーセント全人格をかけて部下と向き合う
  • 第三項 目標を共有し、一人ひとりの責任を明確にする
  • 第四項 任せて、評価する
  • 第五項 期待し、長所を活かす
  • 第六項 多様性を積極的に肯定する
  • 第七項 勝ちたいと誰よりも強く思い、自己変革を続ける
  • セルフワーク

第四章 理想を追求する力 経営者は使命とともに生きよ

  • 第一項 経営者にとっての使命感
  • 第二項 あるべき使命感
  • 第三項 ファーストリテイリングの使命と、心にとめてほしいこと
  • 第四項 使命感がもたらしてくれるもの
  • 第五項 使命感の実現を脅かすものと戦う
  • 第六項 危機に際しての経営者の行動
  • 第七項 理想企業を目指して、人生を対決するようにして生きる
  • セルフワーク

序章 経営者とは

第一項 「経営者とは」

経営者とは、一言でいえば、「成果をあげる人」です。これが私の考える経営者の定義です。経営者に求められているのは、「成果を上げること」。これに尽きます。成果とは、「約束したこと」です。

経営者が、顧客、社会、株式市場、従業員に対して、「こうなります」「こうします」「これをやります」と宣言して約束したこと。これを実行して、実現する。これが成果をあげるということです。

ですから、これは業績の数値だけとは限りません。「業績数値も」入ってきますが、「それ以外も」入ってきます。

例えば年率20%の成長を続けなあら経常利益20%を達成し続ける」というのは業績数値の約束ですが、「世界中どこでも経営ができる人材を200名作る」というのは業績ではない、定量的な約束です。

また「上海、シンガポール、ニューヨーク、パリに経営拠点を作る」ですとか、「今までにない新しい価値を持つ服を創造する」というのは、定性的な約束です。

経営者というのは、このように、やると宣言したことを実現することに固執し、それをなんとしてもやり遂げるようにする。それが経営者の役割です。

そうやって約束したことを成果としてあげてはじめて、顧客、社会、株式市場、従業員から信頼されて、会社は存在し続けることができるのです。

そして、このような自分達の存在意義、つまり使命を考えることです。

そもそも何のために会社をやっているのか、それをよく考えるということです。会社は社会の役に立ってはじめて存在が許されます。だとしたら、自分達はどういうことを通じて、社会に貢献するか。これをよく考えるということです。

ファーストリテイリングは、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というステートメントに集約された「使命感」を持っています。

この使命感にゴールはありません。永久にゴールに到達することはないのですが、ゴールを目指して追いかけます。それが正しい会社の姿です。それが正しい経営者の行動です。

永久に完成しないけれど、それに近づくために、5年後にはこうなる、来年にはこうなる、今年はこうなる。こうなるために、今からこれをやる。来月、来週、今日はこれをやると約束をする。そうやって約束したことを実現する。それが成果ですから、約束する成果というものは、使命の実現に一歩近づくものでなければいけないということです。

会社の使命と成果が結びついていること。これが経営の原則です。

確かに会社は儲けることが大切です。経営者は慈善事業をやっているわけではないし、評論家をやっているわえでもなく、商売をやっているのですから、商売人としてしっかり儲けないと経営者としては失格です。これについては、本編の第二章「儲ける力ー経営者は商売人であれー」で詳しく述べます。

しかし、これだけでは絶対に誤解してほしくないのでしっかりと理解してほしいのですが、私は「儲ければいい」ということを言っているわけではありません。

「儲けることが大切」と「儲ければいい」は全く意味が異なります。「儲ければいい」という考えは、「何をやってもいい」という考え方と「結果オーライでもいい」という考え方に通じます。

そうやって儲けている人を「経営者」とは呼びません。厳しい言葉で言うと、「モラルのない商売人」です。経営者にとっての「正しい儲ける姿」とは、「約束したことを成果として実現したうえで、儲けている」という姿です。

約束したことが実現できてないのに、儲けが上がっているとしたら、経営者としての仕事はできないと思わないといけません。

やるべきことをやったうえの儲けではないので、儲けても意味がありません。結果オーライで、それで喜んでいたら、その会社の経営は長続きしないでしょう。

例えば、「今までにない新しい価値を持つ服を創造する」と言っているのに、今シーズン何もその約束を果たすような商品ができておらず、それなのに売り上げが上がっていたとしたら、これは単に気候が影響しただけかもしれません。

気候は我々がコントロールできないものです。それなのに、結果オーライだったからよかったと喜んでいる会社になっていたら、あっという間にお客様から見放されていく姿が目に浮かびません。

正しい儲け方をしないと企業は長続きしないのです。ただ足元で儲かっていればいいと言うのは正しい経営者の姿ではないと思ってほしいのです。

元パナソニックの創業者の松下幸之助さんは、「水道哲学」という言葉で、自分達の会社の使命を説きました。それは「水道から流れる水のように廉価(一般の人が手に届く価格)で大量に物資を供給することで、人々を幸福にする」という内容です。

松下幸之助さんは水道哲学を実現することで、結果として会社を大きく成長させました。

本田技研工業の創業者の本田宗一郎さんは「世界の二輪メーカーになる」とか「F1レースに参戦して優勝する」などの宣言をして、それを実現することで、町工場だったホンダを世界に通用する会社に育てあげました。

二人がなぜ、いつまでも経営者として、あらゆる人から尊敬され続けるのか。それはやはり彼らは使命感を持ち、その使命の実現に近づく道程として、その時その時の、目指すべき姿、やるべきことを約束として宣言し、それを成果として実現させてきたから。そして、その実現を通じて、実際に社会に役立つ企業を作ったからに他なりません。

正しい経営者の姿とは、あるいは経営者の果たすべき役割とは、こういうことだと思います。これから経営者になる人は、このことをまずしっかりと心得てほしいと思います。

第二項 経営者に必要な四つの力

経営は「実行」です。

考えているだけ、思っているだけ、あるいは知識として知っているだけでは成果は上がりません。考えていること、思っていること、あるいは知識として学んだことがあるならば、それを実行してはじめて、成果はあがるのです。

では経営者の心構えとして、あるいは身につけるべき習慣や行動原理として何を大切にして実行すれば、成果はあがるのでしょうか。

それを書き記したのが、この「経営者になるためのノート」です。

経営者というのは、社会から期待される成果をあげるにあたって、4つの力が必要だと考えます。

1つは「変革する力」です。

ある意味、市場は暴力的です。顧客にとっての付加価値がなければ、売れないものは全く売れません。また変化のスピードと競争が激しい時代です。

顧客がその企業を新鮮で魅力的と感じる期間はどんどん短くなり、かつ顧客満足度の要求水準はどんどんあがっていきます。

そして昨今の世の中の劇的変化は、顧客が望むものを一瞬のうちに変貌させます。変革か、そもなくば死か。変革する力を持たない企業は、もはや「顧客の創造」を実現することができないのです。

1つは、「儲ける力」です。

変革をお金に変えていく力です、儲けは、お客様からの支持のバロメーターでもありますし、適切な経営ができているかを測るバロメーターでもあります。また、実際儲けることができなければ、誰も幸せにすることができません。この先経営を続けることもできなくなります。

1つは「チームを作る力」です。

仕事は全てチームで行うものです。1人でできることなどたかが知れています。いくら変革のための良いアイデアを持ち、儲けるために大切なことがわかっていても、チームを作れなければ大きな成果を上げることは不可能なのです。

1つは、「理想を追求する力」です。

企業の最終目的は、自分達の存在意義である使命の実現です。使命の前では、「変革」も、「儲ける」も、「チームを作る」も、全て使命実現のための手段となります。

企業は使命の実現を通じて、社会に貢献できてはじめて存在が許されます。そのためには大きな理想を掲げ、そこへ到達するためにやるべきことを設定し、クリアしていく。それを繰り返していく。こうした理想を追求する力があってはじめて、使命の実現に近づくことができるのです。

これらの力を経営者の顔として見た時、経営者には次の4つの顔が必要と言い換えることもできます。

「変革する力」ーイノベーター

「儲ける力」ー商売人

「チームを作る力」ーリーダー

「理想を追求する力」ー使命感に生きるもの

このノートでは、4つの力それぞれについて、一つの力につき7つの視点から、経営者になるために大切にしてほしいことを記しています。

自分の問題、自分の状況に引きつけて、考えながら読み、必要なことはどんどん書き込んで、自分用の経営者になるためのノート」として完成させてください。

 

第三項 なぜ経営者の育成が必要か

ファーストリテイリングは、ユニクロをはじめとして、グループの事業をグローバルで展開していきます。「革新的なグローバル企業で、世界一のアパレル製造小売業グループ」になろうとしています。

そうなると、それぞれの企業、それぞれの地域ごとに経営者が必要になってきます。ただ単に日本から派遣されて事業をきちんとやっているかどうかを監視するような管理者ではなく、それぞれの企業、それぞれの地域で独立自尊の気持ちで経営をする経営者です。

そのようなグループ経営の状態でないと、「革新的なグローバル企業」は作れませんし、「世界一のアパレル製造小売業グループ」にもなれません。

もちろん経営者となる人は、経営者として優秀であれば、世界中どの国籍の人でも構いません。そのチャンスは世界中の人に開かれています。

これに必要な人数が、今後の展開から見積もって最低でも200人だと考えます。しかもそれは悠長な話ではありません。スピードを持ってその人数を必要としています。

逆にそれくらいの人数が経営者として育っていないと、「革新的なグローバル企業」にも「世界一のアパレル製造小売業グループ」にもなれないということになります。

これから経営者になろうと思って勉強する人にまず認識してほしいことは、経営者をやるというのは、そんなに簡単ではないし、甘いものではないということです。

MBAを取ること自体の価値は否定しませんが、MBAを取ったから経営者がすぐできるというものではありません。

よく「自分はMBAを持っているし、能力も十分あるはずだから、早く権限をください。そうしたら成果を出しますよ」という人がいますが、そういう人に限って簡単に失敗します。

お客様のことを甘く身過ぎていたとか、社員を動かすことができなかったとか、お金の勘定が合わなくなってきたとか。

計画は綺麗なのですが、実行のところでたくさんつまずいてしまうわけです。

経営は実行ですから、やはりいろいろな体験をして、どうやったら商売になるのか、どうやったら人は動くのかといったことを考えて、そこで本当に苦労して、自分を磨いて身につけなけと本物の経営者になれないわけです。

ファーストリテイリングは長い間ユニクロという事業だけをやってきて、日本国内では非常に成功をして、業界で大きな会社になりました。最近では海外展開やユニクロ以外の事業を拡大してきました。しかし、それでもやはり、我々の住んでいる世界はまだまだ狭いと思います。

確かにカジュアルウェアのことは誰よりもよく知っているかもしれません。しかし、世間のこと、これから先の社会のことなどをどれだけ知っているかというと、それほど知らないのではないかと思います。ある意味自分達のことばかりを見ていて視野が狭くなっている可能性だってあるわけです。

それに大企業になって、成功を収めているということで、残念ながら我々はあらゆる場面で立場的に強者になります。「いいことじゃないですか、なぜ残念なことなのですか」と疑問をいだくかもしれません。しかし、強者ということは、例えば、我々はナンバーワンの取引先になるので、ややもすれば相手側がこちらのいうことを全部聞いてくれることになります。もちろん交渉は伴いますが、基本的に我々のほうが強い立場になることが多くなります。

こうした強者の論理は、部下との関係やお金の使い方に関しても同じことを引き起こします。

例えば、指示をしておけば部下が黙ってやってくれるだろうという感覚。あるいは、「本当にこの経費を使っていいのかどうか」、その考えが緩いお金の感覚。

大企業になることはいいことではあるのですが、一方、取引先との付き合い方、部下との付き合い方、お金の使い方、そういったものが大企業のサラリーマン的な対処の仕方になりかねません。

大企業からファーストリテイリングに転職してきて、立ち止まってしまう人、成果をうまく出せない人、部下から指示を得られない人は、たいがいが、こうした大企業の前提から自分の仕事のやり方を変えられない人だったりします。

ですから、大企業で、それも強者の立場になっているということは、本物の経営者の育成環境としては、ほっておくと、それほど望ましい環境にならないのです。

こうした内向きで世間を知らない会社で、しかも業界で巨大になっている会社にいる人たちが、大企業の強者の論理の感覚で働いて、「自分達が経営者です」と言って世間に出て行って、本当に通用するかといったら、通用しないのではないかと思います。

会社の仕組みや、会社の看板に守られて成果はでるかもしれませんが、そう言ったものを取り払って、「あなたが一経営者として世界で通用しているのですか」と問われると、我々はそうした経営者の数も質もまだまだ足りないと思うのです。

しかし我々が目指しているのは、「革新的なグローバル企業を作り、世界一のアパレル製造小売業グループにする」ことです。そのための方法論は、先述した通り、監視者としての管理職を日本から派遣することではなく、「それぞれの企業、それぞれの地域で独立自尊の経営ができる人に経営をやってもらう」という方法論に限られます。

ですから、大企業の管理職の延長のような人ではなく、「一経営者として世界で通用する個人」を作っていかないといけないのです。

そのためには「経営者としての仕事のやり方、心構え」を、できるだけ短期間で身につけていってもらいたいと思うのです。

このノートに記載したことは、私自身が経営をやりながら、失敗というたくさんの授業料を払いながら、「やはりこういった考え、こういったやり方が大切だな」と感じ、実践の中で確信してきたことです。

私は父から25歳で小郡商事を任され、35歳でユニクロ一号店を開き、42歳の時にファーストリテイリングという会社にしました。

私は学生時代は怠け者で、父から会社を引き継いだ時も社員が一人を残して全員辞めてしまうほどのダメな経営者でした。

しかし、失敗の中から、経営の原理原則を考えながら、実践を繰り返し、またそこから学習して、それを実践していくことで、なんとか、ここまでやってくることができました。

今、ファーストリテイリングでこの本を読んでいる人たちは、明らかに私より優秀な人たちばかりです。そんなみなさんができるだけ早い段階から、経営の原理原則を学び、実践を通じて身につけることができれば、私より早く経営者になれるし、これを踏み台にして、もっともっと大きくなれると思うのです。

私はたくさん失敗してきましたが、できれば皆さんには経営者として失敗してほしくないと考えます。ですから経営者として失敗しないため、あるいはリスクを冒すために、経営の原理原則をぜひ知っておいてもらいたいということです。

そのような思いでまとめたのが、この経営者になるためのノートです。

そこそこできる経営者ではなく、社会に大きく貢献し、社会を良くする経営者になっていってほしい。その願いを込めて、作りました。

本編 経営者に必要な四つの力

第一章 変革する力 経営者はイノベーターであれ

第一項 目標を高く持つ

非常識と思えるほどの目標を掲げよ

イノベーションをもたらすために、経営者が実践しなくてはいけないこと。その一つ目が、「目標を高く持つ」ことです。みなさんは「目標を高く持って」仕事をしていますか?

ちょっと頑張れば到達できそうな目標のことを、高い目標とは言いません。イノベーションが組織にもたらされるために必要な高い目標とは、「常識で考えたらまともとは思えない」くらいの高さの目標を言います。

例えば、ファーストリテイリングは、売上高が80億円程度の時から、GAPを超えて、世界一のアパレル製造小売業になるという目標を持ちました。海外のコンベンションで、私がそのような発言をすると、周囲がくすくすと失笑する。それくらい誰もが本気で言っているとは思わないような目標です。

まだその目標は実現できていませんが、本気でその達成を目指してやってきたからこそ、ファーストリテイリングは、これまで数々のイノベーションを起こすことができ、今に至っていると思います。

例えば、どのようなイノベーションがあったでしょうか。

フリースやヒートテックなどの商品はすぐに思いつくことの一つです。しかし、それだけではありません。郊外型で成功した企業が都心に店を出して商売をしている。今では当たり前の風景です。しかし、この今では当たり前の商売の、日本のパイオニア的存在になったのは、ファーストリテイリングです。

原宿や新宿にお店を構える、そう決めて実行しようとした時、社会の一般的な意見は「そんなの失敗する」「郊外型の企業が都心で通用するわけがない」というものでした。しかし、世界一のアパレル製造小売業を目指す以上は、そうした挑戦を避けて通ることはできません。暗中模索の中、試行錯誤を繰り返して実践をしてきました。

結果としてそうした商売を社員の力で成功させることができたわけですが、それ以降アパレルのみならず、家電販売店などの郊外型企業も、都心での商売にどんどん進出し、そのことを「誰もが当たり前のこと」と思うようになりました。

他にもあります。改札口を通り抜けた駅構内で洋服が買える。このことも同様です。このような販売のあり方のイノベーションはファーストリテイリングが日本でリードしたと自負しても良いのではないでしょうか。

なぜそんなことができたのでしょうか。やはり高い目標を掲げたからだと思います。非常識だと思えるくらいの高い目標を掲げると、それを実現するためには、いろいろなことを変革せざるを得なくなります。「既存の延長線の発想ではこの目標は実現できないな」と思い至るようになります。

既存の延長線の発想ではできないことに自らを追い込む

例えば、ファーストリテイリングは、これまでの歴史を振り返ってみると、思いきったジャンプが会社に必要だというタイミングでは、現状の約3倍〜5倍程度の売上高目標を長期目標として掲げることをしてきました。

売上高が100億円の時は300億円を目指し、300億円の時は1000億円を目指し、1000億円の時は3000億円を目指し、3000億円の時は1兆円というよな感じです。今は5兆円という目標を設定しています。

このことにどのような意味があるのでしょうか。それは既存の延長線の発想という思考の呪縛からの解放です。例えば1000億円の時に1.1倍や1.2倍の目標でいいと考えたら、そこから出てくるアイデアや取り組みは1000億円でやっていることの延長線の発想になります。しかし、そのようなことは、おそらく他社も発想できますし、実行できます。だとすると、同じような競争になり、結果として1.1倍や1.2倍という目標自体も達成できないリスクが高まります。

しかし3倍の3000億円にしたいと思ったら、どうなるでしょうか。明らかに発想の転換が必要になります。例えば、知る人ぞ知るではなく、もはや日本人全員が認知しているようなブランドになっていないと、この数値目標は実現できないと考えることになります。そうしたら「郊外にいくら出店を重ねてもだめだな、日本のアパレルの最先端の地、東京の原宿くらいで大成功することが必要だな」という発想になっていきます。

あるいは、「輸入商品を並べているようではだめだな。それだったら他の会社でも同じことができる」「そうではなくて、自分たちがブランドにならないといけない。だから、商品構成を全部自社商品にして、しかも品質にうるさい日本人全員に満足していただけるような高いレベルの品質の商品にしないとだめだな」「そのためには、中国の協力工場のレベルを世界最高基準に上げないといけないな。それには、社員が日本の本部にいて中国に指示をするダメの取り組み方ではだめだな。日本の繊維産業で働いていた、素晴らしい技術を持ったひとたちに「匠」として技術指導に入り込んでもらって、本格的なパートナー関係を構築して、お互いに協力し合って技術を高めていくようなことをしないといけないな」などという取り組みのストーリーが発想として生まれてくるようになるわけです。

そうして、思い描いたことを実行に移す。できる方法を探し、できるまで実行する。その結果イノベーションが生まれ、そのイノベーションが顧客を創造し、掲げていた高い目標を実現させてくれるのです。

例えばこのことを商品で考えてみましょう。

「この商品を1000万枚買っていただけるようにする」。そう目標を設定した瞬間、その実現にはさまざまなイノベーションが付随してくるはずです。

フリースは百万枚売れたことで満足せず、600万枚、1200万枚と高い目標を設定してきました。そして、実際には八百五十万枚、二千六百万枚売れました。

その結果、製造技術をはじめ、ーつのアイテムを売るための広告や販売の仕方などのイノベーションも起きています。例えば今、ユニクロのコマーシャルは、概して、お客様から評判がよいのですが、これも、高い目標を掲げ、それを実現するためには、お客様にどう伝えたらいいのかを真剣に考えた結果です。

それが企業ノウハウになり、その新しいノウハウが、他の商品などに応用されていく。そうやって未来にながる形で、イノベーションは活かされていっているわけです。

このことは、部門、職種を問わず、同じことです。

私が経営者として非常に大きな影孵を受けた本「プロフェッショナルマネジャー」の著者ハロルド・ジェーンさんは自身の経営者としての成功体験を振り返り、こう言っています。

「終わりから始めなさい!なぜならば、ゴールを設定すれば「成功するためにすべきこと」が明らかになるからだ」(ロフェッショナルマネジャー・ノート)と。

そう、経営はまずゴールとなる目標を設定するところから始めるのです。そこからやるべきことが明確になるのです。目標が高ければ高いほど、実現のためにやるべきことはイノベーティブなことになるはずです。

まさに、思い切った高い目標を掲げることは、イノベーションの母となり、顧客創造という子を産むのです。

白雪姫への挑戦が生み出したイノベーションという価値

みなさんは、テレビや映画で長編アニメを見ますか?今は見なくても、子どもの頃見たり、あるいは自分の子どもたちが見たりしているのではないでしょうか。長編アニメを見ることは、今では、日常の中のあたり前の光景です。

しかし、今では常識であるこのことを最初に実行した会社、つまり、このことを「常識」に変えてしまった会社はどこか知っていますか。

それはアメリカのウォルト・ディズニー社です。

ディズニーは、一九三四年、世界初の長編アニメを作るという高い目標を掲げ挑戦しました。高い目標と言いましたが、むしろ非常識な目標と言った方が当時の状況にはビッタリです。

「そんな長時間のアニメーションなんか、誰が見るんだ」

これが世間の反応です。

しかし、ディズニーは、そんな風評などおかまいなしに、長編アニメの開発・製作に乗り出しました。当時のディズニーの資産をなげうつくらいの投資だったそうです。

それを見て世間は、「ディズニーは気が狂った」「ディズニーはもうおしまいだ」などと言って批判したそうです。

そうした批判を尻目に一九三七年に完成したのが「白雪姫」です。結果は、ご存じのように、大ヒットです。すでに完成後約八十年もたつのに、今でもDVD などになって世界中で販売されています。

まさにディズニーはエンターテインメントの世界に「長編アニメという新しい商売」創造したわけです。

これが、その後のディズニーにどれだけの顧客と利益をもたらしたかということ、そして、白雪姫を完成させるプロセスで、どれだけ技術的な、そして販促的な、その他もろもろの内部的なイノベーションをもたらしたかということを想像してみて下さい。

やはり、高い目標を掲げ、それに挑戦する。このことからイノベーションは起き、顧客は創造されるものだと、つくづく感じます。

第二項 常識を疑う。常識にとらわれない

常識が会社の進化を妨げる

目標を高く持つことは、既存の延長線の発想ではないイノベーティブな取り組みを促す効果があると言いました。

しかし、そもそも、経営者は常日頃から常識と言われているものを疑い、常識にとらわれないでものごとを考える思考習慣を持つようにしなければいけません。

会社の成長、会社の進化を妨げる最大の敵。それは「常識」です。

我々は、一つの業界、一つの会社、一つの事業の中にいると、いつの間にか、勝手に今ある状態を「常識」だと認識するようになります。

その結果、

「フリースは、登山やアウトドアメーカーがやるものだ」

「ヒートテックのような商品はスポーツ店で売るようなものだ」

「プラトップのような商品はインナーだ」

などと、勝手に線引きをして、自分たちのポテンシャルを自分達で封じ込めてしまいます。

しかし、その線引きは誰が決めたのですか?

そうしなければいけないという、国際的なルールがあるのですか?

そんなことはありません。全部業界や、そこに属する会社が、自分たで勝手に思い込んで、あるいはすみ分けをするために、自分たちの都合で線引きしているにすぎないことです。

この線引きに顧客は不在です。

お客様からしたら意味がないこと、お客様からしたら不便をかけてしまうこと、これが、業界や会社の人たちが「常識」と言っていることだったりするのです。

その結果、お客様からすると大切なことができていなかったりするわけです。

私は常々「業界は過去、顧客は未来、ライバルではなく顧客に集中する」と言ってきました。業界の慣習は過去のものです。そこを見ていても企業に未来はありません。顧客のことだけを見ている会社に未来はあるのです。

ですから、いわゆる「常識」と言われるものほど、

「お客様目線で見て、それは正しいことか」

「お客様側が、そうでなければいけないと思っていることか」

というように、疑ってかからなくてはいけないのです。

また、自分がお客様の立場に立った時、不便だと感じたり、あったらいいのにと思ったり、あるいは「こういった品物はないの?」と言われたら、

「うちの常識にとらわれていて、お客様にとって本当に必要なことができていないんじゃないか」と疑問に思うようにならないといけないのです。

それを「申しわけありません」とか「うちは扱っていないんですよ」で終わらせてしまっていたら、その企業に未来はないのです。

セブンイレブンの「夏のおでん」「冬のアイスクリーム」

常識を疑ってかかり、常識にとらわれないで実行してみた結果、成功したイノベーションの有名な例に、セブンイレブンの「夏のおでん」「冬のアイスクリーム」があります。

かつてスーパーマーケットでは、食文化として、おでんは熱い食べ物だから、冬の寒い日に食べるのが常識だと思っていたし、アイスクリームは夏の食べ物と思っていました。だから、季節が暖かくなると、おでんは棚からひっこめ、寒くなるとアイスクリームコーナーを縮小していました。

しかし、セブンイレブンは、その逆をやりました。

夏にもしっかりと、レジ脇のめだっところでおでんのプレゼンテーションをし、冬にも店の好位置にアスクリームを配置したのです。

結果、売れました。だから、他のコンビニエンスストアも真似をして、同じことをするようになり、今では日本のコンビニでは、このことが「常識」になっています。

売れた理由としては、エアコンが普及し、夏は冷房のせいでオフィスでも家でも体が冷えてしまう。温かいものが食べたい。冬はその逆に暖房のせいで体がほてってしまう。だから冷たいものが食べたい。

このような生活環境の変化が大きいと思われます。

お客様視点に立って、常識を疑うことで、「夏におでん」「冬にアイスクリーム」を食べるという顧客を創造しました。

今までに存在しないマーケットを作ったわけです。

この例に限らず、「常識」と言われているところには、ビジネスチャンスがたくさん転がっていると思った方がよいのです。

不安にとりつかれないで、まずはやってみる

我々の属する繊維業界は非常に保守的で、業界の常識にとらわれている会社が少なくありません。常識に心が支配されてしまうと、

「それは無理だ。そんなことはできない」「それをやっても、うちはうまくいかない」「そんな商品は売れない」「そんなことをしたら、大変なことになる。異端児扱いされてしまう」

などと、勝手に自分の中で思い込んで、実行しようともしなくなります。私から言わせれば、「やりもせずに」です。

経営者は「危機感」にもとづいて経営をやるべきであって、「不安」にもとづいて経営をやってはいけません。常識にとらわれて出てくる、右記のような思い込みは、単なる「不安」です。不安とは、漠然としたもので、大半が確証のないことで、起こるか起こらないか分からないようなものです。そして、自分ではコンールできないものです。

不安にかられたらぜひやっていただきたいのですが、不安に思うことを具体的に書き出して、正体を突き止めてみると、悩んでいても仕方がない、たいしたものではないことが分かります。

いくら悩んでも結論が出ないこと、コントロールできないことに悩んでいても、時間がもったいないだけです。そんな不安を、ぐちぐち考えることで、あたかも自分はいろいろ考えている経営者であるかのように錯覚をしている人がいますが、それは考えて仕事をしているうちに入りません。

大切なことはまずはやってみる

やってみた結果、万一不安が的中した場合。例えば、売れなかったとしたら、どうするか。

やることはただ一つです。それは、売れるような方策を次々と考えて実行に移すことです。だめだったらまた頭をひねって、次の施策をやる。そうやって具体的なことを実行していけば、不安を感じている暇はなくなるはずです。

第三項 基準を高く持ち、妥協とあきらめをしないで追求する

仕事の基準を高く持つ

経営者として成功するために大切なことに、「質に対する意識」があります。自分たちのやっていることの質に対する意識です。

「商品の質」「サービスの質」「全てのアウトプットの質」、こうしたものの基準を高く持って、経営をするということです。

質の基準というのは、「お客様にとって本当によい」と思えるラインのことです。組織の中で行われる全ての仕事の基準をそのラインに設定し、絶対に妥協しないで追求してほしいということです。

毎回、毎日、この高い基準での成果を目指して仕事をして、毎週、毎月、毎年、この基準をさらにあげていくようにしてほしい、ということです。

経営者として高い目標を実現しようと思ったら、ここのところを絶対に譲ってはいけないということです。

お客様は厳しい

なぜ質の基準にこだわるのでしょうか。それは、やはり「お客様は厳しい」からです。

自分の身に置き換えて考えてみると、すぐに分かることだと思いますが、お客様というのは、一度あるものを手にしたり、体験をしたら、そこを基準になります。

そして次からは、その基準でものをみていきます。

さらには、その基準ではものたりなくなっていって、より高い基準のものを求めるようになります。そして、それを満たすものに出会うと、乗り換えていきます。

このようにして、お客様の方の基準がどんどんあがっていくのです。

例えば、今、日本の百円ショップで扱っている商品の質は大変高いものになっています。「こんなものが百円で買えるのか」というものまで扱っていたりします。

「百円だから、この程度」という基準でやっている会社はつぶれていってしまいます。今や世界中で人気の、回転寿司も同じです。

長年修業をした職人がやっている店に負けないレベルの寿司、あるいはファミリー層や外国人の方が喜んで食べてくれるような工夫された寿司が、回転寿司で食べられます。

ただ単に安い寿司が回っているようなお店はつぶれていきます。

加えて、情報も国境も垣根が低くなりましたから、お客様は本当に世界中のいろいろなことを知っているし、体験をしています。自分たちよりもお客様の方が詳しいくらいです。そんなことないと一蹴するとしたら、それは奢りです。自分たちが一年中、自分たちの会社、自分たちの商品、自分たちのサービス、このことばかり考えている間に、お客様は世界中のいろいろな商品やサービスを研究され、体験されてきます。今の世の中、本当に基準が高くないといつ落とされるか分からない時代になっています。

しかも、ファーストリテイリングは、今までは日本だけの競争だったのですが、これからは本格的な世界競争に入っていくわけですから、世界のあらゆる人に通用する、普遍的な高い基準を目指してやっていかない限り、経営者として成功できないということです。

 

自分なりの基準では意味がない

甚浄を高く持つ、と言った時、勘違いしてはいけないのは、「自分なりの基準」ではないということです。「自分なりにできている」と言う人は多いのですが、それでは経営的には全く意昧がないのです。

お客様が本当に喜んでくださる基準でできていないといけないわけです。そして、この基準というのが、非常に厳しくなっているので、念頭に置いてほしいのは、「世界で一番」の質の高さを目指し、それを自分たちの基準にするということです。

自分たちの店は、世界で一番きれいか。

自分たちの店は、世界で一番買い物がしやすい店か。

自分たちの接客は、世界で一番気持ちのいい接客か。

自分たちの商品は、世界で一番付加価値の高い商品になっているか。

自分たちの工場は、世界で一番品質のよいものを作れる工場になっているか。

自分たちの管理システムは、世界で一番優れたシステムになっているか。

こうした基準を自分たちに課し、その基準を妥協しないで追求し続ける。他者がおいつけないレベルまで追求する。

競争に勝つためには、この意識で、このレベルまで経営の質を高めることをしないとだめだということです。

どうでしょうか。できているでしょうか。こうした基準で自分たちのやっていることを測定すると、まだまだできていないな、と感じることが多いのではないでしょうか。

「自分は結構できている」と思っている人は、ただ単に設定している基準が低いだけかもしれないです。

高い基準を目指したうえでの失敗であれば、問題ではない

こうした高い基準を実現しようと思ったら、簡単にはいかないと思います。たいていのことは、このら見たら最初は「失敗」に終わると思います。

私は、それでもいいと思います。

IBM の初代社長であるT. J・ワトソンさんは社貝にいつもこう言っていたそうです。

「完璧を目指さずに成功するよりも、完璧を目指して失敗するほうがよい」(「IBMを世界的企業にしたワトソンKの言葉)

五十点を目指せば、達成自体は簡単です。しかし、お客様にとって不完全なことを達成したところで意味があるのでしょうか。

それよりも高い基準を目指した方がよいのです。なぜならば、たとえその基準までいきなりは到達できなかったとしても、低い基準を目指して取り組んだものよりも、よいものができているはずだし、そうした挑戦的なプロセスからは何らかの収穫や学びが生まれるはずだからです。

もちろん、失敗したということに対して、本当に真摯に向き合って、だったら次はどういうふうにしようかということを考えて、実践を繰り返していくことが条件とはなります。

しかし、こうしたことを実行できるのであれば、何回かやっていくうちに絶対に成功すると思いますので、失敗も許されるのです。

そもそも会社というのは、低い基準に甘んじたことをやっていたら即つぶれてしまいます。例えば、ファーストリテイリングが、うちはGAP H&MとZARA の次に付加価値の高い商品を作りましょうとか、この3社の次に買い物がしやすい店にしましょうといっていたら、永久にこの3社に勝てません。

勝てないどころか、ずるずると転落して消えていく。そんなことが容易に想像できるのではないでしょうか。

本当に高い基準を実現すれば、圧倒的なポジションを作れる

お客様から見て本当に高い基準で仕事ができると、圧倒的な存在となることができます。圧倒的というのは、自分たちが作った基準がお客様の常識になって、その基準に達していないと他の店や商品に手を出す気が起きなくなるということです。

インターネット業界のグーグル、モバイルコンピューティング業界のアップル、遊園地業界のディズニーランドはそういったポジションを取れているのではないでしょうか。

お客様の常識や習慣を変えるほどの価値のイノベーションを起こすと、こうしたことが起きるというわけです。

我々も、そうしたイノベーションに挑戦し続けるべきです。

ここで我々の挑戦としてのヒートテックを例にあげて考えてみましょう。

ヒートテックは、ユニクロを代表する商品になっていますが、ご存じのように最初から大ヒットしたわけではありません。

2003年にはじめて商品化した時は、保温性•発熱性を売りにしました。150万枚の販売数ですから、悪くはないのですが、そこそこです。

しかし、それで終えるのではなく、質の基準をあげていくことをしつこく追求し続けました。

2004年には、抗菌機能とドライ機能を加えました。

そして2005年には、保湿機能を加えました。これが、冬に肌の乾燥を防ぎたい女性から熱い支持を受けることになって、この年に450万枚売れました。

その後も2006年に化学繊維メーカーの東レと戦略的パートナーとしての提携を結び、お客様から見た時の服の基準をさらにあげていきました。具体的には、機能性、バリエーション、ファッション性をさらに進化させました。

その結果、2007年には二干万枚の販売を実現しました。2010 年には、八千万枚です。

世界ではまだまだこれからですが、日本では「冬といえばヒートテック」という常識になってきました。冬が近づいて寒くなってくるとユニクロにヒートテックを買いに行く習慣が、お客様の中に育ってきたということです。

十年前にはなかった常識や習慣ですから、ファーストリテイリングがイノベーションを起こしたと言ってもよいと思います。

こうしたイノベーションにまでつながったのは、質の基準をとにかく上へ上へと目指して、毎年磨いていく努力を続けたからにほかなりません。

ですから、自分たちの現状に決して満足せず、本当に良い服を目指求して、お客様が求めるさらなる基準を追求していけば、ヒートテックに限らず他の商品でもそれは世界に通じ、世界での販売枚数を増やすことが可能だと思います。

「本物は世界を貰く」と思います。

もっと正確に言うと、「本物だけが世界を貫く」と思います。みなさんは、本物を作っているでしょうか。みなさんの仕事は、本物になっているでしょうか。

高い基準を目指し、しつこく追求し、実現し、世界に通用する本物の商品やサービスであふれた会社を作ってほしいと思います。

第四項 リスクを恐れず実行し、失敗したらまた立ち向かう

安定志向で安定成長している会社はない

高い目標を目指し、高い基準を追求していくと、今までやったことがない新しいことに挑戦をすることになると思います。

新しいことをやろうとすると、人は不安になります。

「本当にうまくいくのだろうか」

「失敗したらどうなるのだろう」

そして不安が心の中で勝利をすると、

「会社を危険にさらしたくない」

という志向性が、経営方針や意思決定のあり方を支配していくようになります。

これが「安定志向」による経営です。

言業はきれいですが、この志向性は、経営をだめにします。

特に日本人は、「ほどほどがよい」とか「中庸がよい」という思想の美学を持っているため、この「安定」という言葉に弱いです。

この言葉を聞くと、「そうだよな。何ごとも安定していることが一番だよな」と思ってしまいます。逆に「急成長」という言葉を聞くと、「あやしい」「危なっかしい」、あるいは「どうせすぐにだめになる、すぐにつぶれる」というイメージを持ってしまいます。

しかし、これらは事の本質からはずれています。

事の本質は、「最初から安定志向で、安定成長をしている会社はない」なぜそうなるのでしょうか。理由は単純明快です。

お客様は厳しいからです。お客様は、変わりばえしない商品やマンネリ化した店に対してお金を使いたいとは思わないのです。

競合もいて、いろいろと魅力的なことを考えては、手をうってきます。

社会もすごいスピードで変化をして、人々が求めるものもすごいスピードで変わっていきます。顧客も、競合も、社会も静止した世界であるならば、安定志向もありかもしれませんが、そんな世界は存在しません。

現実を直視するならば、経営者はこれらの変化に負けずに、いや、むしろ、変化を機会にするくらいの気持ちで経営をやっていかない限り、お客様に見放され、会社は消えていく可能性があるのです。

経営を知らない人は、思い切った挑戦をする会社に対してよく、「現実を直視していない」と椰楡しますが、このように考えると、安定志向の方がよほど「現実を直視していない」と言えるのです。

「会社を危険にさらしたくない」という志向性、この志向性の方が「会社を危険にさらす可能性が高い」ということです。

経営者というのは、現在そして未来に関して成果を最大化するために存在しています。その役割を実現しようと思ったら、挑戦すべきことには、リスクを恐れずに挑戦する。突っ込んでいかなければならないような時には、思い切って挑戦する。

このことを経営者の心構えとしてしっかり持たない限り、顧客は創造されなくなり、結果として会社は存続しなくなるということです。

リスクのあるところにチャンスがある

「リスクがないところに利益はない。リスクがあるところに利益がある」。これは経営の鉄則です。どうしてそうなるかわかりますか。

リスクがあるところは、多くの人が恐れて、あるいは大変だと思って、あるいは最初から無理だとあきらめて、あるいは常識に縛られていて、手をつけていないからです。

だいたいが、世の中に「自分だけが考えている」ということはないと思った方がよいでしょう。

他にも同じようなことを考えている人はいるはずです。問題は、考えていることをきちんと実行に移せる人が少ないということです。それくらい多くの人がリスクを避けようとするのです。

しかし、逆に見れば、そこが経営者にとってはチャンスなのです。

人が手をつけていないということは、自分たちで商売を全部コントロールすることができる、市場で圧倒的に一番になれる可能性がある、そしてそこで生まれる利益を誰かと薄く分けあう必要がないということになるのです。

その反対に、リスクを取らなければ、それらのメリットを手中にすることはできないのです。

リスクは、しっかり計算すること

さて、「リスクを恐れず」と言っていますが、時々誤解する人がいるので、あえて伝えますが、これは「リスクを計算しないで」と同義ではありません。

リスクなんか考えないで無謀をしなさいと言っているわけではありません。リスクは考えて、計算して下さい。

リスクを計算するというのは、「これをやる場合のリスクというのは、本当はどこにあるのか」ということと、

「そのリスクがどれくらい大きいのか」ということを、冷静かつ真剣に考えるということです。

「リスクを計算した結果、実行をやめた」と言っている人の中にはよく、冷静かつ真剣に考えたというよりは、ただ単に不安や恐れが先に来て、できない理由がたくさん頭に浮かび、それを正当化する論理を構築することを称して「リスクを計算した」と言っている人がいます。

これは計算ではなくて、むしろ思考停止です。

ファーストリテイリングは一九九八年にユニクロ原宿店をオープンする時に、販売する全ての商品を自社商品にすることを意思決定しました

全商品の自社化を「やる場合のリスク」は、ナイキやアデイダスなどのスポーツブランドの輸入商品の扱いをやめるということです。つまり、当時のユニクロにおいて人気だった商品の売上がなくなというリスクです。

しかし、これをやっている限り、利益幅に限界があります。

また、本当に良い服を世界中のあらゆる人に提供するためには、全部自分たちでコントロールするるのですが、そうした自社ブランドの構築がいつまでたってもできないことになります。

これが、全商品の自社化を「やらない場合のリスク」です。

「やる場合のリスク」と「やらない場合のリスク」。これを天秤にかけるのが、計算をするということです。「目の前の利益」という尺度でこの天秤を見ると、全商品自社化はやらない方がいいです。売上に貢献している人気商品をわざわざ捨てることになるからです。

しかし、「長期的な利益」という尺度でこの天秤を見ると、追う風景が見えてきます。新しい取り組みが成功すれば、自分たちのブランドの服を着た人たちが世界中の街にあふれ、その利益が全部自分たちのものになるという風景です。

顕在化した時会社がだめになってしまうようなリスク、大きなメリットが見えないようなリスクは取るべきではありません。

しかし、そうではない場合、あとは、「やる」と「やらない」のどちらが自分たちの見たい風景を映し出してくれるかということです。

ファーストリテイリングは、この時、「やるリスク」、すなわち全商品自社化という新しい取り組みを選びました

結果として、今、その時見たいと思った風景に、近づくことができました。

リスクを取った限りは、中途半端にせず、結果が出るまでやりきること

もちろん、この場合、最も犯してはいけない誤りは、「新しいことをやるリスクを取ってておきながら、やると決めた新しいことを中途半端に進めて、結局その新しいことを実現できなかったいうことです。

これだと短期利益も、途中のコストも、そして未来の利益も、全部失うことになります。

ですから、リスクを取ってやると決めた限りは、そのやると決めたことを脇目も振らず、ただもう一直線に、徹底的に、結果が出るまでやりきるということ。つまり、やると決めたことの徹底実行です。これが経営では非常に大事だということです。

成功している会社は、やると決めたことの実行が徹底している会社ばかりです。

結果が出るまでは、何回か失敗することもあります。あたらしいことをやるというのは、体験のないことをやるのですから、最初からうまくいかない方が当たり前と思った方がいいくらいです。

経営者にとって大切なのはそこであきらめないということです。1回や2回失敗したくらいで、めげないようにすることです。

「やっぱり難しかった」

「やらなければよかった」

そんな弱音や後悔が頭をよぎるかもしれませんが、めげないで、失敗の原因を徹底的に検証して、次にどうしたらいいかを考えて、また実行する。

あきらめた瞬問、実行を中途半端にした瞬間、元も子もなくなります。

失敗をすると、責任を取って途中で辞めると言い出したり、謝る人がいますが、失敗の責任を取るというのは、そういうことではありません。

本当に失敗の責任を取るというのは、

「最後まで試行錯誤を尽くす」

ということ。そして、

「これは本当に失敗だという時は、その原因を徹底的に探求し、学びを得る」

ということ。そして、

「それを次に活かして、結果を出すこと」

これが失敗の質任を取るということです。

こうしたことができるのであれば、何回でも失敗していいと思います。なぜならその分、必ず成長しているからです。

第五項 厳しく要求し、核心をついた質問をする

要求、質問をしないと現場の仕事は「作業」になる

現場の仕事というものは、放っておくと昨日と同じことを今日もやるようになっていきます。

普通に雇われて、普通に働いている人は、たいていの場合は顧客の創造という概念そのものがありません。ですから、経営者が顧客の創造をしていくという方針を持って、これを具体的な場面場面で伝えていかないと、社員というのは、こういったことに関心を示さなくなります。

関心を持たなくなると、毎日が同じことの繰り返し。一つひとつの仕事が、単なる作業になっていきます。作業になると、お客様と接していても、そこから想像力を働かせてお客様のために何ができるかを考えようとすることがなくなります。

データを見ても、そこから見えてくるのは単なる数値であって、その裏にあるお客様の心理が見えなくなります。

だから経営者は、顧客創造の方針を持って、常に社員に、

「お客様は、どう思っていると思う?」

「それで、次に何をしたらいいと思う?」

などという、質問を投げかけて、考えさせなくてはいけないのです。

そして返ってくる答えが甘かったら、

「本当にそうなのか?」

「どうして、そう考えるのか」

などという問いかけをいてもっと考えることを厳しく要求しないといけません。有名な話ですが、トヨタ自動車では社員に「なぜ」という問いを5回繰り返すと言います。

それくらい厳しく質問して要求するようにしていかないと、顧客に関心を持ち、想像力を働かせて仕事をする力が弱まっていってしまうのです。

そして、そうした考える力の弱体化が、顧客創造の障害になっていくのです。

視野を広げ可能性を広げてあげる

また、現場は、思い入れがある分、

「自分たちの商品はこうに違いない」

「この商品は、きっとこういうお客様が買っていくに違いない」

「この作業はこうやってやるものだ」

などといった狭い視野に陥りがちでです。

思い入れを持つことはいいことですが、顧客創造の視点からすると、時としてこれが障害になっていくことがあります。

例えばヒートテックの開発でも、そのようなことが起きていました。

ヒートテックの開発チームの人たちは、もともとはバハシャツの機能向上からスタートしていますから、自分たちは肌着を開発しているという思いを強く持っていました。

しかし、私は、これは肌着でなくなる可能性があると思うようになりました。よく見たらこれは肌着というよりもTシャツに見えるのです。

アウターとしても着ることができるし、重ね着もできる。これは肌着ではなくて、コンポーネントウェアになりうると思うようになりました。

肌着だと思って作っている開発チームの人たちには、すぐにはどういうことか分からなかったようです。肌着だとファッション性はいらないのですが、コンポーネントウェアと考えるとファッション性が必要です。ファッション性を入れないといろいろな人に買ってもらえません。

現場で思い入れを持って一所懸命やっているからこそ、自分たちの可能性の広さに気づかなくなることはよくあることです。

だから経営者は、そうした時、核心をついた質問をして、視野を広げることをやってあげないといけません。簡単に譲ってはいけないのであって、出してくる答えが顧客の創造の視点から見て足りないのであったら、厳しく要求する。これが経営者の務めです。

結果的に、これまでババシャツは存在していて、年配の女性が買う市場はあったのですが、ヒートテックは男性・女性にかかわらず、あらゆる年代の人が買うという市場を創造することになりました。

経営者の役割は、社員の能力を引き出して、可能性を広げてあげることです。そのためには、厳しい要求、核心をついた質問が必要なのです。

もの分かりのいい上司にならない

そこを誤解して、社貝に嫌われたくないという思いから、もの分かりがいい上司を装う人がいます。もの分かりがいいというのは、言葉の響きとしてはいいのですが、もの分かりのいい上司からイノベーションは生まれません。

部下も育たなくなります。自分基準、自分都合で仕事を完結させてしまいますから、本当の意味での達成感や成長実感を味わうことができなくなります。

もの分かりがいい上司は、部下の成長機会を奪っていると思うべきです。

これでは強いチームが作れないし、イノベーションを起こすこともできなくなります。

厳しい要求をする上司に必要なこと

ただし、ここで一つ、覚えておいてほしいことがあります。

それは、厳しく要求して本当にやってもらおうと思ったら、部下に「君だったらできる」というようなことを言ってあげることが必要だということです。

本人がやる気を出して、実行していこうと思ってもらわないといけないのですから、本当にやる気が出るように、上司としてもっていってあげるようにするということです。

その時、もう一つ大切なことがあります。

それは、要求して、やらせる以上は最終的な上司が全部取るということを覚悟しておくということです。

部下が一番嫌いな上司というのは、言うことだけ言って、最終的に責任を取らなくて、責任は全部部下に押しつけるというような上司です。

要求するだけして、要求したら上司が済む、あとは全部部下の責任というような上司。こういう上司が一番嫌いで、部下は、この人についていこうとか、厳しいことを言う人だけれど頑張ってみようといちになれないのです。

ですから、「買任は全部上司にある。うまくいった時は全部部下の功績だ」というような気持ちで部下に接することが大切なのです。

部下というのは上司をよく見ています。日頃の言動、行動の中に上司の本質を見抜いています。「この人は本当に自分のためを思っていってくれている」というものが伝わらないと信頼関係は生まれません。

信頼関係のないところで、何を言っても無駄です。

信頼を得ようと思ったら、ここで言ったことを含め、常日頃からの姿勢・態度、これが重要になってくるのです。詳しくは、第三章「チームを作る力ー経営者は本物のリーダーであれー」で述べます。

第六項 自問自答する

 

第七項 上を目指して学び続ける

 

セルフワーク

 

第二章 儲ける力 経営者は商売人であれ

第一項 お客様を喜ばせたいと腹の底から思う

 

第二項 当たり前のことを徹底して積み重ねる

 

第三項 スピード実行

 

第四項 現場・現物・現実

 

第五項 集中する

 

第六項 矛盾と戦う

 

第七項 準備する。しかし固執するのは計画ではなく、成果である

 

セルフワーク

 

第三章 チームを作る力 経営者は本物のリーダーであれ

第一項 信頼関係を作る それが始まりであり、全てであるということ

 

第二項 全身全霊。100パーセント全人格をかけて部下と向き合う

 

第三項 目標を共有し、一人ひとりの責任を明確にする

 

第四項 任せて、評価する

 

第五項 期待し、長所を活かす

 

第六項 多様性を積極的に肯定する

 

第七項 勝ちたいと誰よりも強く思い、自己変革を続ける

 

セルフワーク

 

第四章 理想を追求する力 経営者は使命とともに生きよ

第一項 経営者にとっての使命感

 

第二項 あるべき使命感

 

第三項 ファーストリテイリングの使命と、心にとめてほしいこと

 

第四項 使命感がもたらしてくれるもの

 

第五項 使命感の実現を脅かすものと戦う

 

第六項 危機に際しての経営者の行動

 

第七項 理想企業を目指して、人生を対決するようにして生きる

 

セルフワーク

 

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