はじめに
現代は、世界的な変化が激しく先が読めない時代と言われています。
冒頭で紹介した鮎川義介氏が生きた時代というのは世界大戦の時代であり、いま以上の激しさをもった時代でした。
そんな時代にあって、ゼロからつくり上げた事業がいかにして数十万人を雇用するような大きな事業に発展しえたのか。さらには、今の時代にも「持続」して発展することができているのか。
その答えを端的に言うならば、一部のトップによる寡占ピラミッド型から、下位層が少なく中間層の厚いダイヤ型へと経営スタイルを移行させたことです。
「世のため人のため」を掲げた鮎川氏が提唱した経営哲学はこれまで大きく注目されてはきませんでしたが、今の時代においては、すべての人にとって知っておくべき内容にあふれていることは間違いありません。
今回、鮎川氏の経営哲学を紐解くことは世界初の試みであり、SDGsが叫ばれる一方で淘汰が激化する今の時代において「持続可能な経営」を示す、これ以上ないヒントとなることでしょう。
さらに本書では、ギリシャ哲学、インド哲学、中国思想、日本的精神を融合し、この鮎川経営哲学を現代的に実践できるようにした「絆徳経営」を公開します。
こちらも、書籍で公開されるのは初めてのことです。
本書は、「鮎川経営哲学」を各種の歴史的文献や言行録から読み解き、三十年以上にわたって現代に伝えてくださっている日産グローバル株式会社・代表取締役の鮎川雅子先生と、同取締役の徳山暉純先生のご指導、ご協力、叱咤激励なしには世に出ることはありませんでした。
お二人に心からの感謝を申し上げます。
この経営哲学が、たくさんの人の手に届くことによって、世界がよりよい場所になる一助となることを心から願ってやみません。
清水康一朗
序章「きれいごと」が経済合理性を生む時代になった
「理想の企業像」が分かれば、崖っぷち企業が高収益企業に変わる
私の仕事は、日本最大級のビジネスセミナー情報サイト「セミナーズ」を通じて世界トップクラス・本物・本質的な学びをお届けすることです。
「教育を通じて人の幸せに貢献する」というミッションのもと、これまで、アップル創業者スティーヴ・ウォズニアックやYouTube創業者チャド・ハーリー、世界ナンバーワンのコーチとして知られるアンソニー・ロビンズ氏をはじめ数多くの世界的カリスマを日本に招いてきました。
近年ではとりわけ中小企業経営者向けの教育に力を入れており、西洋哲学と東洋思想を融合した独自の経営セミナーも開発し、提供しております。
こうしたプログラムを通じて、これまで四万社以上の中小企業を支援してきましたが、ここ数年で経営者の「悩みの質」が大きく変わったと感じています。
もっと言うならば、「悩みの質」を変化させられない人は瞬時に取り残され、「悩みの質」を変化させられた人だけがまるで「一人勝ち」と言わんばかりに、しっかりと業績を伸ばしているのです。
「以前は儲かっていたが、今までのようにならない」「新規開拓ができなくなってきた」「幹部が育たない、右腕が採れない、後継者がいない」「いい人材を採用したはずなのに、定着しない。思ったほど活躍してくれない」
これらの悩みはすべて、あなたの会社が傾きかけているサインです。そのまま放置しておくと、この黄信号はあっという間に赤信号に変わってしまいます。
心当たりがある方は崖っぷちにあると思って、今すぐ本書をご覧になって対処法を学んでほしいと思います。
中小企業経営者の悩みといえば、以前は「モノが売れない」「資金繰りが苦しい」といった内容が中心でした。
これらの問題は「やるべきことをやっていないから」起こるものであって、しかるべきマーケティングや経営管理を導入すれば、ほぼ確実に解消できるものでした。
ところが近年は、「教科書どおりにマーケティングをやっても売れない」「いい人が採れない、後継者が育たない」「よい商品を提供しているのにリピーターがつかない」というように、努力しても効果が出ないと訴える経営者が増えているのです。
大事なことですが、時代が変化すれば「理想の会社像」も変化します。
いち早くそれに「適応」した企業だけが生き残り、他社のモデルとなるレベルまでいち早く「体現」した企業だけが、この先の十年、三十年、百年と長く愛される企業へと進化していきます。
私たちはそんな企業を敬意も込めて「絆徳企業」と呼んでいます。
「絆徳企業」や「絆徳経営」についての詳細説明は、この後、鮎川経営哲学と共に明らかにしていきます。
世界をよりよい場所にするには、我々経営者がこの西洋と東洋が融合した和魂洋才のマネジメント手法「絆徳経営」を学び、実践することです。
それがあなたの会社の現実的な経済状況を改善するのみならず、SNSの時代においても卓越した存在になることに大きく寄与するはずです。
実際、急激な変化を遂げている日本市場の状況は厳しく、中小企業の約七割は赤字経営です。今はかろうじて生き残っている会社であっても明日はわが身です。
右肩下がりの状況を放置しておけば、いずれは事業の継続は難しくなっていくでしょう。そんな状況から脱却するには、体力が残されている今のうちに会社の経営方針を抜本的に見直して、高収益体質に変えていくしかありません。
過去の成功体験は捨て、今すぐ「持続可能な経営」に切り替えなさい
実は、高収益な会社をつくるのは、さほど難しいことではありません。テクニックさえ知っていれば誰にでもできるといってもいいでしょう。
本書でいえば第4章の「5Kマーケティング」を実践すれば、収益は相当上がり、間違いなく収益性の改善がなされます。
でも、そこだけを切り取ってマネをするのは、絶対にやめていただきたいのです。
企業は何のために存在し、何のために利益を出すのか──。その哲学、理念がないまま目先の利益に走っても、絆徳企業にはなれません。
「売上が伸びてもお金が残らない、人も定着しない」という会社はだいたいこのパターンで、一時的にはよくなったように見えても、その勢いが長続きすることはありません。
私たちが目指すべきは、太く短くの急成長企業ではなく、長きにわたって高収益を上げ続ける「持続可能な経営」なのです。
そんな「持続可能な経営」への道筋を示す前に、まずは「なぜ利益が出にくくなっているのか?」を考えてみましょう。
「わが社はDX(デジタルトランスフォーメーション)の波に乗り遅れているから生産性が低く、利益が出ない」そんなふうに思い込み、わけも分からないままITに投資する経営者は少なくありませんが、それだけで状況が改善されることはありません。
デジタル化も大事ではありますが、問題の本質はそこではないのです。
「数年前にくらべて売れなくなった、儲からなくなった」というのなら、原因はまず間違いなく、消費者の変化を見落としていることにあります。
ここ数年で消費者の購買心理は劇的に変化しているのに、その変化に対応できていないから、売れなくなっているのです。
かつてないスピードで社会が変化し続ける現代において「数年前」は大昔です。
「数年前には売れていた商品」も「数年前なら成功したノウハウ」も、すべて過去の遺物だと認識しなければなりません。
それなのに大部分の経営者は、過去の成功体験にしがみつき、これまでどおりのやり方で押し通そうとする。それではうまくいくはずがありません。
なぜ、人や社会に「よいこと」をする会社だけが伸びるのか?
では、現代の消費者は何を求め、どういう基準でモノやサービスを買っているのでしょうか。
私はこの数年だけでも数百人の経営者に尋ねてきましたが、この問いに自信を持って答えられる人は、ほとんどいませんでした。ひと言でいえば「よいこと」です。
消費者の意識を変えた要因の一つにSDGs(持続可能な開発目標)が挙げられます。
ご承知のとおり、SDGsは二〇一五年の国連サミットで採択された国際社会共通の目標で、二〇三〇年までに「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「働きがいも経済成長も」「気候変動に具体的な対策を」といった十七項目を達成するとしています。
この目標が採択された当初は、大多数の日本人はどこか他人事のように受け止めていたようですが、学校教育の場でSDGsがさかんに取り上げられるようになったことで、若い人を中心に急速にその理念が浸透してきました。
SDGs教育を受けてきた今の十~二十代は、いくら魅力的な商品・サービスであってもSDGsに反するものは買おうとしません。
最近の小学生は、見た目はかっこいいが燃費が悪いスポーツカーよりも環境負荷の少ないエコカーを好む、というデータもあります。
また最近の大学生は、たとえ大手有名企業でも、働きがいのある職場づくりやジェンダー平等に取り組んでいない企業は、就職先として選ばなくなってきました。
顧客、取引先、社員、それぞれにとって「持続可能な経営」でなければ「絆徳企業」にはなれないのです。
このように、人や環境にとって「よいこと」を好む傾向は、今後、若者だけでなく上の世代にもじわじわと広がっていくことでしょう。
こうした消費者の変化に対応するために、経営者はどんな「よいこと」を実践すべきなのか──。今のビジネスから撤退して、環境ビジネスに鞍替えしろと言いたいわけではありません。
日本人が昔から大切にしてきた道徳観、すなわち「人や社会によいことをしたい」という気持ちを実際の行動にうつす。それだけでいいのです。
それだけで会社の業績は好転し、従業員の士気も見違えるほど上がっていきます。
「お客さまに喜んでもらえるよう、素晴らしい商品やサービスを提供したい」「従業員を大切にして、給料も上げてあげたい」「地元の川や海をきれいにして、環境問題に貢献したい」──そんなふうに、あなたも心の底では「人や社会によいことをしたい」と思ったことはないでしょうか?でも、実際にはできていない。
なぜなら、会社を維持・発展させるには、理念よりも経済合理性が大事だと思っているからです。
「人や社会によいことをするなんて、そんな悠長なことを言っていたら競争に負けてしまう」と思い込んで、心の底にあるはずの美しい道徳観に自ら蓋をしてしまっているのです。
けれども時代は移り、消費者の価値観は大きく変わりつつあります。
これまでのように経済合理性だけを追求していると、かえって顧客からも社員からも社会からもソッポを向かれて会社を維持できなくなるでしょう。
経営者は今こそ自身の道徳観と向き合い、理念すなわち「人や社会によいこと」を実践すべきなのです。
最先端の「絆徳経営」で、理念と経済合理性を両立せよ
気をつけなければいけないのは、「よいこと=立派な理念を掲げること」と思って満足している経営者が多いことです。
「世のため人のために頑張りましょう」などと言って、採算度外視で商品やサービスを提供している会社では、結局のところ社員が苦労します。
理念の代償として社員にサービス残業や長時間労働を強いるのはブラック企業に多いパターンで、まったくもって「よいこと」とは言えません。
社員によい教育やよい給与を与えるためにも、会社は高収益を実現しなければなりません。
かといって、自分たちさえ儲かればいいというスタンスではお客さまの信頼を失います。いま求められるのは「理念」と「経済合理性」を両立した会社経営です。
理念として、お客さまや従業員、地域社会のために「よいこと」を実践しつつ、利益もしっかりと上げていくのです。
「そんなのきれいごとだ」と思うかもしれませんが、SNSが浸透した社会では、その「きれいごと」こそが利益の源泉となります。
SNSを見れば、その会社が本気で理念を実践しようとしているのか、口先だけのスローガンなのかなど、良きにつけ悪しきにつけ体質が透けて見えるからです。
今の消費者は賢いので、単なる美辞麗句にはだまされません。お客さまの信頼を勝ち取るためには、本気で「きれいごと」に取り組むしかないのです。
実は、理念と経済合理性の両立は、戦前までの日本企業では当たり前に行われてきたことであり、いわば日本人の「お家芸」ともいえるものです。
たとえば江戸時代から明治にかけて活躍した近江商人は、自らの利益だけではなく、買い手に喜ばれ、かつ社会に貢献してこそよい商売だと考えていました。
だから彼らは、お客さまに喜ばれる商品を提供し続け、お金がたまると無償で橋や学校を建設した。
そうやって少しずつ信用を積み重ね、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の精神のもと、理念と経済合理性を矛盾なく両立させていったのです。
では、現代の企業が理念と経済合理性の両方を実現しようと思ったら、具体的に何をどうすべきなのか?実は、たった一つのことを実践するだけでいいのです。
それは「相手によいことをして絆を結ぶ」ことです。より正確には、お客さま、社員、社会の三方に対してよいことを実践し、絆を結ぶ。
それだけで組織は強くなり、より高い次元で理念と経済合理性を達成できるようになるでしょう。私はこれを「絆徳経営」と呼んでいます。
「絆徳経営」はこれからの時代で、必ず主流となるマネジメントスタイルだと自信を持って言えます。
大企業から中小企業まで経営改善を行ってきた経験、「セミナーズ」の運営を通してお客さまである経営者の刻一刻と変化するニーズを綿密に調査分析してきた経験、さらには国内外の著名な経営者との人脈により最新のビジネスを学んできた経験があって初めて確立した経営哲学です。
ギリシャ哲学、インド哲学、中国古典思想に日本的な精神を取り入れ、いわば、西洋と東洋が融合した和魂洋才の経営手法と言える新しい概念です。
私が開催する経営セミナーや勉強会でもまだ話していない、本当に最先端の情報を本書には詰め込みました。
それもすべて、この危機的な社会状況のなかで、ビジネスに携わる人すべてを元気にしたい、世界をよりよい場所にしたい、という想いからです。
本書ではそんな「絆徳経営」の方法を、経営哲学やマーケティング、社員教育などの切り口から解説していきます。
その先にこそ、これからの新時代に長く愛される「持続可能な経営」があり、絆徳企業へと進化するチャンスがあるのです。
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