「数字がすべてではない」のステージに行くためにさて、ここまで「数値化の鬼」という思考法を5つの章で説明してきました。
頭の片すみに数字を置いて働くことの重要性が伝わったのではないでしょうか。
その中で繰り返し述べてきたのが、「順番を間違えるな」という話でした。
「はじめに」で述べた「数字がすべてではない」という言葉への答えも、ここに詰まっています。
「数字を達成してから考えるべきことがある」という順番の話です。
ということで、まずは本書で述べてきた「順番」について復習しておきましょう。
・「数字の成果」 →「自分らしさ」 ・「数字の根拠」 →「言葉の熱量」 ・「まずやってみる」 →「理由に納得する」 ・「チームの利益」 →「個人の利益」 ・「行動量を増やす」 →「確率を上げる」 ・「長期的に考える」 →「逆算して短期的に考える」これらはすべて、上の要素をクリアしてから、下の要素を考えたり、遅れてついてきたりする、ということでした。
「仕事ができる人」は、この順番を間違えることなく、まず上の要素をクリアすることに取り組みます。
逆に、「仕事ができない人」は、順番を入れ替えて、下の要素を考えたり、優先したりしてしまいます。
その誤解の結果、「従業員の仲がよくなれば売上があがる」「給料を上げればモチベーションが上がる」など、本書で指摘してきた多くの勘違いを生み出してしまうのです。
「成長している実感」こそ最大の目的ここで私自身の話をしようと思います。
私は、大学を卒業して最初に、ある大企業に就職しました。
入社以降、わりと高い評価を受けることができました。
ただ、そこでの評価制度は、「定性評価」でした。
本書で何度も否定してきた「上司の曖昧な評価」だったのです。
そこで私が感じたのは、「こんな簡単でいいのか?」ということでした。
それと同時に、「このままこの会社に居続けたら、自分は成長できないかもしれない」という大きな不安を感じたのです。
2社目の会社は、中規模の企業を選びました。
まわりからは、大企業を辞めることを反対されましたし、「もったいない」と言われることも多くありました。
ただ、長期的に自分の人生を考えたときに、その選択肢しかなかったのです。
それと同時に、人間は「そこに居続けるための利益」がないと去ってしまうのだと実感したのです。
2社目での経験は、私がマネジメントにおける誤解と錯覚に気づくために必要でした。
そこでの葛藤については、前著『リーダーの仮面』で詳しく書いています。
ここでは、 1社目の会社を辞めるときに、「給料や安定がすべてではない」と思ったことを深く掘り下げたいと思います。
「ハングリー精神」を作り出すには子どもの頃、しりとり遊びをしたことがあるでしょうか。
親やきょうだい、友達と、長い時間、しりとりを続けることができたはずです。
それは、子どもにとってのしりとりは「難易度が高い」からです。
しかし、私たち大人にとっては、しりとり遊びで時間を潰すのは厳しいでしょう。
それは、「簡単すぎてつまらない」からです。
仕事も同じです。
簡単なことの繰り返しは、すぐに飽きてしまい、退屈になります。
苦痛ですらあるでしょう。
難しいことには夢中になる要素があります。
足りない部分が見えれば、それを埋めるために頑張ろうとします。
そして、満たされた瞬間に、物足りなくなるのが人間です。
私のように、「起業家」の多くは、例外なく「ハングリー精神」を持っています。
育ちや学歴、容姿など、人によってバラバラですが、満たされなかった何かを埋めるために熱量の高い人が多くいます。
起業家に限らず、会社員であっても、「満ち足りなさ」を持った人は、勝手に頑張り始めます。
限られた時間内に「本業」で力を出せただ、全員がそうではないことも事実です。
日本は豊かな国になりました。
近年は低成長国家になり、「不況だ、不況だ」とは言われていますが、何不自由なく暮らせる人の割合は増えました。
価値観も多様化しています。
しかし、生きるための糧を得るために、「不足を受け入れる」という意識は持ち続けてほしいと思っています。
それが、本書で繰り返し述べてきた「数値化の鬼になれ」というメッセージの奥にあるものです。
「プライベートや趣味を充実させたい」「会社以外のコミュニティを最優先したい」そういった考えは、もちろん否定しません。
ワークライフバランスが重視され、若者は共働きが当たり前の社会です。
ただ、もっとも重要なのは「本業」である仕事や会社での成長だと思うのです。
仕事は、人生の中で唯一、「糧」を得ることができる場所です。
残業せず、家に仕事を持ち込まず、人生のすべてを充実させるためにも、「短時間で成果を上げられるプレーヤー能力」を身につけてほしい。
何も、「会社に人生を捧げろ」と言っているわけではありません。
成果が出ないときに自分に言い訳をせず、高い生産性を出し続けてほしいだけです。
そのためには、数字を考えること以外に方法はないと思うのです。
「やりがい」「達成感」は最後の楽しみに本書をここまで読んできたみなさんは、「数字がすべてではない」と、数字を否定する考え方はしなくなったと思います。
言葉で「数字だ、数字だ」と言い続けろということではなく、心の中で数字の「モノサシ」を確認する作業を怠ってはいけないということが伝わったのではないでしょうか。
「お客さんの笑顔を見られて嬉しかった」「部下の成長を見届けられて感動した」そういう感情は、人間である限り、絶対に持ち続けると思います。
それを「やめろ」と言ったところで、やめられるものではありません。
だからこそ、意識するのは「数字」のほうなのです。
あえて数値化して考えるのが、心を鬼にするということです。
数字に表れない「やりがい」や「達成感」は、数字を追いかけた先で、ふと振り返るとついてきているものです。
そして、その逆はありえません。
数値化の鬼になるということは、「数学が得意」とか「簿記 1級を持っている」などということとは根本的に異なる力です。
会計のことは会計士に任せればいい。
しかし、誰にも任せられない数字があるので、それを本書でまとめました。
「数字が大事」という事実を、どうか忘れずに、これからも働き続けてほしいと思います。
おわりに私たちの会社、識学は、「何かの能力に突出した人」が多くいるわけではありません。
能力は普通の人がほとんどです。
それでも、創業から約 4年で上場することができ、そして、その後も高い成長率をキープすることができています。
なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか。
それは、 1人 1人が、日々、「数字」に向き合っていたからに他なりません。
私たちの会社では、四半期に 1回、全社総会で成績優秀者を「 MVP」として表彰します。
これまで MVPで表彰されてきた者の中には、入社当初はまったく活躍できずに、鳴かず飛ばずだった人も少なくありません。
そんな彼らも、 2年、 3年と、本書で紹介した「 PDCA」を回し続ければ、四半期で 1位の成績があげられるまでに成長するのです。
そんな彼らが、表彰のときに揃って口にする言葉があります。
「とにかく、『自分の不足』に向き合い続けてきました」彼らは、目標を達成できていないという「数字」に向き合い続けました。
あるいは、上司と約束した KPIをクリアできていないことを表す「数字」からも逃げることがありませんでした。
その結果、大きく成長し、「仕事ができる人」へと変わることができたのです。
また、多少のリップサービスはあるにしても、上司への感謝を伝える社員も多くいます。
その感謝の内容は、「つらいときはいつも励ましてくれました」というものでは決してありません。
「自分には『何が足りていないか』を常に明確にしてくれました」そんな現実的な言葉です。
目の前の部下が、成果が出なくて落ち込んでいるとき、つい「数字」の話を横に置いて優しい言葉だけをかけてしまうのが人間でしょう。
しかし、そこで上司は「リーダーの仮面」を被り、部下は「数値化の鬼」として振る舞えたからこそ、彼らは成長することができたのです。
その瞬間は、「厳しい上司は嫌いだな……」と思った人もいたかもしれません。
ただ、短期的には嫌われたとしても、長期的に見ると、後から遅れて大きな感謝を抱くようになるのです。
本書『数値化の鬼』も、前著『リーダーの仮面』も、あるいは「識学」そのものも、表面的には人間味がなく冷たい内容に見える人もいるかもしれません。
しかし、何よりも「人の成長」を最優先に考え、 1人 1人の未来を考えた結果、「厳しく向き合うこと」こそが本当の人間味のあることなんだ、ということは知っておいてもらいたいと思います。
そんな、真の人間味あるプレーヤーやリーダーが 1人でも増えることを願って、本書を終えたいと思います。
安藤広大
[著者]安藤広大(あんどう・こうだい)株式会社識学代表取締役社長 1979年、大阪府生まれ。
早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。
2013年、「識学」という考え方に出合い独立。
識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。
2015年、識学を 1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。
人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。
2019年、創業からわずか 3年 11ヶ月でマザーズ上場を果たす。
2022年3月現在で、約 2700社以上の導入実績があり、注目を集めている。
主な著書に、 29万部を突破した『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)がある。
数値化の鬼——「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法 2022年3月 1日 プリント版第 1刷発行 2022年3月 1日 電子版発行著 者——安藤広大発行所——ダイヤモンド社 〒 150‐ 8409 東京都渋谷区神宮前 6‐ 12‐ 17 http:// www. diamond. co. jp/電話/ 03・ 5778・ 7233(編集) 03・ 5778・ 7263(製作)ブックデザイン——山之口正和( OKIKATA)本文 D TP————キャップス校正———————円水社製作進行—————ダイヤモンド・グラフィック社編集担当—————種岡健
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