MENU

第8章 マニュアルをより有効活用するヒント

目次

①マニュアルの限界を知る

2001年に発生した大阪教育大学附属池田小学校の校内児童殺傷事件を契 機に、各学校における危機管理体制が強く問われるようになり、翌年度に は約9割以上の学校が何らかの危機管理マニュアルを備えることとなりま した。

危機管理マニュアルとは、危機が発生した際の対応を円滑かつ適切 に実施するため、組織単位から個人単位に至るまで必要な手順をまとめた ものをいいます。

危機管理マニュアルには想定される事態への具体的な対応が記載される のですが、逆に言えば「想定できなかった事態」に対しては無防備という ことになります。

事件当時は、校門を越えて不審者が侵入するなどという ことは「想定できなかった」ため、事前に対応が準備されておらず、その 結果、惨事に至ったという見方もあります。

皆さんがマニュアルを作成するとき、その対象となる業務を洗い出すこ とから始めることになりますが、その際に「発生していない業務」「発生 頻度の低い業務」は抜け落ちてしまう可能性があり、この点は業務マニュ アルの限界と言えるでしょう。

つまり、事前に設定されていない業務をマ ニュアル化することはできない、ということです。

一方で、実際の業務が必要以上に煩雑で非論理的な場合、マニュアル化 してもユーザーが混乱してしまうということもあります。

毎回業務手順が 異なり、それが問題にならないようでは、手元のマニュアルを見ても業務 を再現することはできません。

この場合は、業務フローをマニュアル化に適した形に改善することが求 められます。

マニュアル化できない職人芸に依存しているようでは、業務 フローとして問題があることが多いのです。

②マニュアルにない業務への対応

「マニュアル人間」という言葉があります。

マニュアル通りにしか行 動・判断できない人間、機械化された意志のない人間といった意味で、批 判的に使われることの多い言葉です。

マニュアル化に限界がある以上、マニュアルにない業務が発生したとき にどう対処するかは重要ですが、普段優秀なマニュアルに頼りきって業務 にあたっていると、想像力や当事者意識が乏しくなってしまう場合があり ます。

マニュアルは業務内容にフォーカスして記述するため、そのマニュ アルが作成された背景や作業項目として表記できないノウハウ、作り手の 思いや判断基準などは書かれていません。

ところが、マニュアルに書いていない業務にあたるには、この「マニュ アルに記載されていない事項」が重要になります。

それは、その企業の判 断ルールであったり、慣習であったり、効率的な業務のパターンであった りします。

マニュアルを生み出した人は、こういった事項を理解・体得し たうえで作成しています。

利用する側はマニュアルに沿つた日常業務の中で、「自分はどう考える か」「それは本当に正しいのか」「自分はこの仕事をどうしたいのか」「な ぜそういった手順になったのか」を考えていきながら、このマニュアルの 背景を理解していかなくてはなりません。

業務を通じたマニュアルの理解のほかに、企業の価値観や論理、最低限 守らなくてはならない法令やルールなどを明文化し、教育していくことで 「ベクトルのあった暗黙知」を浸透させていくことは可能です。

マニュア ルを生み出せる人材になることが、マニュアルにない業務が発生した際の 適切な対応につながっていきます。

③「ノウ八ウ」をマニュアル化する

大量の定年退職者が予想される2007年問題。

熟練した作業者達が次々と 会社を去っていくわけですから、その技能の伝承が急務といわれます。

マニュアルの本質は、ある程度の訓練でほぼ同レベルの業務を行うこと ができるようにすることにあります。

つまり、熟練した作業者達が増って きたノウハウを言語化し、後輩達に伝達可能な形に実体化したものがマニ ュアルなのです。

従来はこの「ノウハウ」はマニュアル化されておらず、先輩から後輩に 長い時間をかけて伝承されていきました。

しかし、その時間が限られてき ているため、ノウハウの伝承とその定着化、標準化を同時に、なおかつ素 早く行う方法を工夫しなくてはなりません。

そのためには、ノウハウを言 語化する能力が不可欠で、自身の仕事を言葉で表現していくことが大切で す。

最近では、先輩から仕事を教わった後輩作業者が、その教わった内容を 次々にマニュアル化していくという取り組みもあります。

作成したマニュ アルは先輩に確認してもらい、ノウハウが十分に落とし込まれているかど うかを見極めます。

この場合では、マニュアルを作成することと同時に、 伝承がうまく行われているか、後輩がどのように理解をしているかをチェ ックすることも同時に可能になります。

また、言語化しにくいものは映像や音声を用いて再現する工夫も見られ ます。

作業そのものを撮影し、そのポイントを熟練者がナレーションして 吹き込んだり、画像処理を用いてポイントや注意点を文字として挿入した り、ということが行われています。

④コンピューターにマニュアルを記憶させる

数千点の部品を組み立てて生産される高速複写機。

ひとつの部品でも取 りつけ忘れると不良品となります。

作業者は数百ページにおよぶ組み立て マニュアルを熟知して作業にあたらなくてはなりませんが、それには長い 時間がかかります。

従来、マニュアルを順守することは人間の役目であり、習熟によってそ れを遂行してきましたが、最先端の生産工場では「マニュアルが人間の習 熟を補い、助ける」試みが進んでいます。

組み立てに使う電動ドライバーをコンピューターにつなぎ、そのコンピ ユーターに作業マニュアルを記憶させます。

コンピューターの画面には、 作業の進捗にあわせて、自動的に次の作業手順が表示されます。

例えばビ スを2本締めつける工程であれば、電動ドライバーを2回使わなければ、 次の画面に変わりません。

マニュアルの手順どおりに作業をしなくては、 次の作業に進めない仕組みであり、作業の手順間違いや抜けを大幅に減ら すことができました。

また、各作業にかかった時間はコンピューターに自動的に記録され、 1 日の仕事が終わると、その日にかかった各作業時間と標準的な時間とを比 較して表示してくれます。

これによって作業者は自分の苦手な作業を把握 することができ、重点的にトレーエングを行うこともできます。

さらに、 過去の作業時間との比較も可能で、 トレーニングの結果や習熟の度合いを 確かめることもできます。

事務作業であっても、多くの定型業務は次々とコンピューターシステム 上で行うようになってきており、工場だけではなく事務所でも同様のマニ ュアルが実現されていくことでしょう。

⑤紙のマニュアルとシステム上のマニュアルを使い分ける

多くのパソコンソフトは「ヘルプ機能」「ポップアップ機能」を装備し、 できるだけ紙のマニュアルを見なくとも、大体の操作ができるようになっ ています。

特に同じメーカーがつくったソフトを使っていると、ファイル を呼び出す、保存するなど複数のソフトで共通している機能が同じ方法で 操作できるようになっているため、基本的な操作方法を知っていると新し いソフトでも戸惑うことが少なくなりました。

業務においても、パソコン をはじめコンピューターを活用した領域が増えていくにしたがって、この ような仕組みを組み込むことで、紙のマニュアルを減らすことが可能とな ります。

例えば受発注業務を例にとってみると、従来は電話やFAXを用いて行っ ていたものが、今は多くの企業でEDI(Electronic Data lnterchange:電子デ ータ交換)を活用し、パソコン端末から行うようになっています。

また、 従来であれば紙のマニュアルに「発注量は月末在庫基準を超えない範囲で 設定すること」などと書かれていた注意が、自動的にシステム内でデータ のチェックが行われ、基準量以上の発注ができないようになっていたり、 発注操作を行おうとするとポップアップで注意表示が出されたり、といっ た形で実現することができます。

こうなると、今後は紙のマニュアルとシステム上のマニュアルの使い分 けを考えていかなくてはなりません。

業務手順や注意事項などは、その業 務を行うタイミングで見るほうが効果的であるので、システムに組み込み ます。

一方システムに組み込まれたマニュアルは、その操作のタイミング でしか参照されません。

業務の体系や、理論といった業務横断的なものや、 業務手順に依存しない内容については、紙のマニュアルのほうが有効です。

参考になる本の紹介

本書で学んだ知識と技術をさらに広げ深めたい方に、参考文献として次の 書籍をご紹介します。

『くたばれマニュアル|一書き手の錯覚、読み手の病痛』 (海保博之著、新曜社) F教材設計マニュアルー独学を支援するために』 (鈴木克明著、北大路書房) 『インストラクショナルデザインー教師のためのルールブック』 (島宗理著、米田出版) 『メタファー思考一意味と認識のしくみ一』 (瀬戸賢―著、講談社) 21136

著者プロフィール 株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC[ジェーマック]) 戦略、生産、研究開発、営業、新事業化、自治体等の革新バートナーとして60年以上の歴史をもつ 日本を代表する総合コンサルティングファーム。

「現場主義」「成果主義」に代表されるJMACのコンサルティングスタイルは、日本のみならず海 外のクライアントからも高く支持されており、特に一人ひとりのコンサルタントによる顧客現場で の革新実践力には定評がある。

執筆者プロフィール 佐{自 学[さえき まなぶ] は)日本能率協会コンサルティング チーフ・コンサルタント 1987年、明治大学商学部商学科卒業。

オリックス(抑を経て入社。

専門分野はセールス、マーケティング、情報システム、行政評価。

民間企業ではCRM、SFA、CT:などのシステム構築とその運用支援、行政分野では行政運 営改革としての行政評価システム導入。

定着化支援で成果をあげている。

著書:『問題を整理し、分析する技術』『もっとうまくできる業務改善』 『図解でわかる部門の仕事改訂版 営業本部』『チャートで考え、伝える技術』 『情報を共有し、活用する技術』『営業計画の立て方。

つくり方』 『部門のマネジメント 営業本部管理者の仕事』 (いずれも日本能率協会マネジメントセンター) 『コールセンター・マネジメント改革』(リックテレコム) 『図解 自治体の事務事業改善入門』(ぎょうせい) ホームページ:htp:〃homepage3.nny.cOm/saekimanabu/ Eメール:manabu_saeki@imac.co」p 塚松 ― 也[つかまつ かずや] (禰日本能率協会コンサルティング チーフ・コンサルタント 1992年、青山学院大学大学院理工研究科経営工学専攻修了。

中小企業診断士(情報242)1991.4 専門分野はナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメント等。

研究開発設計部門を中心に各種の改善・革新活動を支援している。

集団にはたらきかけて正攻法でじっくりと変革することをこころがけている。

著書:『問題を整理し、分析する技術」『もっとうまくできる業務改善』 『チャートで考え、伝える技術』『情報を共有し、活用する技術』 (いずれも日本能率協会マネジメントセンター) 『技術系のMBA 「MOT経営」入門』(PHP研究所) Eメール:kazuya tsukamasu@imac cO」p

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次