第7章保険にかかわる書類
- ①貿易取引の保険とは
- ②貨物海上保険とは
- ③貨物海上保険の基本条件
- ④貨物海上保険の申し込み
- ⑤貨物海上保険の求償とは
- ⑥貿易保険とは
- ⑦生産物賠償責任保険(P/L保険)とは
第7章保険にかかわる書類
貿易取引の保険の種類
貿易取引で取り扱われる保険は、貨物の損傷にかかわるリスクを対象とする「マリン保険」と、代金回収や損害賠償にかかわるリスクを対象とする「ノンマリン保険」に大別されます。
マリン保険とはマリン保険(MarineInsurance)は、「貨物海上保険」を意味し、海上輸送中だけでなく、海上輸送に接続する陸上輸送中の貨物損傷のリスクもカバーします。
また、航空輸送中のリスクも貨物海上保険でカバーされます。
貨物海上保険は、損害保険会社が引き受けを行っています。
ノンマリン保険とはノンマリン保険(NonMarineInsurance)には、「貿易保険」や「生産物賠償責任保険」(PL保険)などの保険があります。
貿易保険とは、商品代金や投資資金が回収不能になる信用危険や非常危険をカバーする保険のことで、株式会社日本貿易保険(全額政府出資)と損害保険会社が引き受けを行っています。
非常危険とは、個々の取引先に信用問題はなくても相手国の為替政策変更などによる送金停止が理由で代金回収ができなくなるなど、いわゆるカントリーリスクのことです。
PL保険は、商品の欠陥によって人や財物に被害を与えた場合に、製造者や輸出入者に課せられる損害賠償金を補てんする保険で、損害保険会社が引き受けを行っています。
貨物海上保険のしくみ保険契約の手配と保険料の支払いをどちらが行うかは、契約で採用したインコタームズ(→第1章⑦)の規則により判断できます。
すなわち、輸出国側で危険が買い手に移転する「EXW」「FCA」「CPT」「FAS」「FOB」「CFR」の規則で取り決めた契約の場合は、輸入者が自らのリスクをカバーするために保険契約を行います。
一方、輸入国側で危険が移転する「DAP」「DPU」「DDP」の規則で取り決めた契約の場合は、輸出者が自らのリスクをカバーするために保険契約を行います。
例外は「CIP」(→第1章⑧)と「CIF」(→第1章⑨)です。
これらの規則では、輸出国側で危険が買い手に移転しますが、保険契約は輸出者が行い、保険料を支払ったうえで保険証券を輸入者に裏書譲渡して、被保険者の権利を移転させます。
①保険区間貨物海上保険の保険区間は、貨物が輸出地の倉庫から搬出されたときに始まり、輸入地の倉庫や保管場所に搬入されたときに終了します。
ただし、原則として本船から荷揚げ後60日(航空機の場合は30日)を経過した場合は、その時点で保険契約は終了します。
②保険金額輸出者が保険をかける場合、保険金額(InsuredAmount)はCIF価格やCIP価格に期待利益10%を加えた110%の金額で申し込むのが一般的です。
一方、輸入者が保険をかける場合、保険金額はFOB価格(またはFCA価格)に運賃を加算した金額から算出するCIF価格(またはCIP価格)の110%の金額で申し込みます。
③保険料率保険料率(MarineRate)は、保険条件、貨物、梱包、本船の種類や船齢、航路など損害保険会社が過去のデータを元に算出します。
貨物海上保険の基本条件外航貨物海上保険の基本条件は、ロンドンの保険協会が策定したICC(InstituteCargoClause)協会貨物約款(2009年改訂版)が世界的に使用されています。
なお、商品固有の性質による劣化、故意の損傷、梱包不良、到着遅延など保険の免責事項による損害は、保険ではカバーされません。
2009年版の基本条件は次の3条件です。
①ICC(A)条件てん補範囲の一番広い条件で、海上輸送上の事故に限らず、陸上での荷役中の事故や盗難などすべてのリスク(保険の免責事項は除く)を一括してカバーします。
1963年版のAllRisks条件、1982年版のICC(A)条件に対応しています。
②ICC(B)条件海水や河川の水ぬれ損害と、火災、爆発、座礁、沈没、転覆、衝突、地震、噴火、雷の危険をカバーする条件です。
1963年版のW.A.条件、1982年版のICC(B)条件に対応しています。
③ICC(C)条件てん補範囲の一番狭い条件で、火災、爆発、座礁、沈没、転覆、衝突の危険をカバーします。
戦争危険・ストライキ危険の特約戦争やストライキが原因で発生する貨物への危険は、戦争勃発や終結に迅速に対応して追加保険料を適用する必要があるため、基本条件から切り離した特約として設定されています。
戦争・ストライキ危険の特約(War&S.R.C.C.)のS.R.C.C.は、Strike(ストライキ)、Riot(暴動)、CivilCommotion(騒乱)の略です。
貨物海上保険の申し込み手順貨物海上保険の申し込みは、船積みの予定が決まった段階で行う「予定保険」の申し込みと、船積み完了後に行う「確定保険」の申し込みの2段階の手順で進めます。
保険会社は、事故の発生後は保険の引き受けを行わないので、この手順で保険を申し込むことで、保険の付保漏れを防ぐことができます。
予定保険は、船積予定にもとづいて「予定保険申込書」を保険会社に提出し、「予定保険証券」を入手します。
その後、船積みが完了した後に、保険会社に確定保険の申し込みを行い、保険料を支払います。
保険会社は、保険引き受けの証として、保険契約者である輸出者または輸入者に保険証券を発行します。
包括予定保険契約包括予定保険契約(オープンポリシー・O/P:OpenPolicy)とは、継続的に船積みされる貨物の予定保険を包括的に結ぶ保険契約のことです。
オープンポリシーを結べば、個々の予定保険の申し込み手続きを省略できるので、船積みの後に確定保険申込書を保険会社に提出するだけで保険の申し込みが完了します。
オープンポリシーは、付保漏れ防止や事務省力化に効果があるので、多くの企業が採用しています。
保険求償のしくみ貿易輸送中の事故で商品が損傷を受けた場合、輸入者は保険会社への保険求償の手続きを行います(E、F、Cグループ条件の場合)。
到着した商品に損傷を発見しても、その時点ではまだ運送人に賠償請求できる内容かどうかは不明なことが多いので、輸入者は運送人への賠償請求権を留保しつつ、保険会社への保険求償を進めます。
保険求償では、保険金額を上限として、損傷による商品価値減の損害と商品の修繕や代替品手当てに要した費用を求償できます。
保険求償の一般的な手順①到着した商品に損傷を発見した場合、輸入者はまずそのダメージが広がらないように応急処置を施します。
②輸入者は、保険証券に記載されている保険会社の求償代理人(ClaimAgent)に、事故の発生を報告します。
③輸入者は、貨物の受取証(デバンニングレポートやボートノート)に損傷の事実を記録し、運送人に賠償請求権を留保するクレーム通知書(→次図)を送付します。
④保険会社は、サーベイヤーを派遣し、貨物の損傷状況や事故原因を調査し、調査結果報告書(サーベイレポート)を入手します。
⑤保険会社は、サーベイレポートにもとづいて、事故の原因が保険条件のてん補範囲であるかどうか、ダメージ品の処理方法が妥当であるかどうかなどを検証し、保険金の査定をします。
⑥輸入者は、保険証券、インボイス、船荷証券コピー、修理費や代替品手当ての費用を証明する帳票書類を保険会社に提出し、査定額に従って保険金を請求します。
⑦保険会社は、帳票書類を審査のうえ、保険金を支払います。
貿易保険輸出者は、海外の取引先と輸出契約を結んだ後、取引先の経営破綻による代金回収不能といった信用危険のほか、取引先に問題はなくても相手国の輸入規制による出荷不能といった非常危険(いわゆるカントリーリスク)を抱えています。
これらの信用危険や非常危険による損害をカバーする保険が貿易保険です。
貿易保険の種類と申し込み手順貿易保険は、株式会社日本貿易保険(通称NEXI:全額政府出資)が引き受けを行っています。
貿易保険には、一般的な輸出取引にかかわる貿易一般保険や輸出手形保険の他、前払輸入保険や海外投資保険など各種リスクに合わせた保険が設定されています。
NEXIは、貿易保険の引き受けで必要になる海外企業の与信管理をするために、海外企業の格付けをして「海外商社名簿」を作成しています。
貿易保険の引き受けは、取引先が一定基準を満たした格付けであることを条件としています。
そこで、海外商社名簿に記載がない海外企業との取引で貿易保険を申し込む場合は、あらかじめ信用調査書をNEXIに提出して、格付情報を取得する必要があります。
貿易保険の申し込みは、個別の輸出案件ごとに申し込む「個別申込保険」、一定期間まとめて申し込む「企業別包括保険」、日本鉄鋼連盟のような商品業界全体で契約を結ぶ「商品組合別包括保険」などの形式があります。
輸出取引信用保険輸出取引の信用危険と非常危険をカバーする保険は、民間の損害保険会社も輸出取引信用保険として引き受けています。
生産物賠償責任保険(P/L保険)生産物賠償責任保険(PL保険)とは、PL訴訟を受けた被保険者が判決で受けた法律上の損害賠償金と訴訟防御に要した弁護士費用を対象とした保険のことで、損害保険会社が引き受けを行っています。
PL保険料は、商品の用途や流通地域、売上高、商品の耐用年数、品質管理状況、過去の事故実績、必要とする保険金額、免責金額などの要素を考慮して見積もられます。
製造物責任とは製造物責任(PL:ProductsLiability)とは、商品の欠陥が原因の事故で人や財物に傷害や損壊を与えた場合に、製造者や販売者が負う法的賠償責任のことで、世界各国で法制化が進められています。
日本でも1995年に製造物責任法(通称「PL法」)が施行されました。
日本を含め、各国のPL法では、PL責任の主体を製造者、加工者、輸入者と規定しています。
PL訴訟は時として高額訴訟になる可能性があるので、輸出入者はPL保険に加入して、国内外での訴訟発生時の備えを行います。
輸入商品は、日本のPL法で管理されます。
本来、輸入商品の製造物賠償責任は海外の製造者にありますが、国内の被害者が海外の製造者に賠償請求を行うことは困難なため、PL法では消費者保護の観点から輸入者に製造者と同等の責任を負わせています。
輸出商品は、輸出相手国のPL法で管理されます。
海外の被害者が、自国の裁判所で輸出国側の製造者や輸出者を提訴する手法も用いられます。
この場合、輸出者は相手国での訴訟を防御しなければ、欠席裁判で不利な判決を下される危険性があります。
さいごに前著の『はじめての人の貿易入門塾』では、貿易に関する知識がまったくない方を対象として、貿易の基本ルールや関係者、港や空港などの施設、輸送方法や通関・保険・決済など各業務の基礎知識の説明を中心としました。
たとえるなら、企業における新入社員研修というイメージです。
本書は入門の次の段階で、貿易実務の各業務が実際にどのような手順で進められているかについて、先輩社員が現場に配属された新入社員に教育するイメージを描いて作成しました。
本書が、実務者にとって、貿易実務全般にわたる基本知識の修得に役立つことを切に祈っております。
本書掲載の書類や図表の作成にあたっては、以下の方々より貴重なアドバイスや資料のご提供をいただきました。
ここにあらためてお礼申し上げます。
株式会社損害保険ジャパン竹内正隆様新和海運株式会社森実様安田倉庫株式会社中塚一郎様社団法人日本海事検定協会石川正人様丸紅トレードマネジメント株式会社佐藤延重様丸紅トレードマネジメント株式会社森久晃様丸紅ロジスティクス株式会社吉井浩之様ダイキン工業株式会社黒岩修平様(2009年11月時点)(順不同)
索引あ行アメンド依頼アメンドメント一覧払条件一覧払荷為替手形インコタームズインボイス受取式船荷証券受荷主上屋運賃後払いオープン信用状オープンポリシーオファーか行海貨業者外国為替及び外国貿易法海上運送状外為法回転信用状海路保税運送カウンターオファー確定保険確認信用状課税価格貨物海上保険貨物海上保険証券貨物ターミナル空コンテナ保管所為替手形簡易審査関税関税評価関税率機器受渡書企業別包括保険(貿易保険)期限付き条件期限付荷為替手形基本運賃
基本税率記名式船荷証券キャッチオール規制キャリアーズパック求償代理人協定税率空路保税運送ケーブルネゴ原産地証明書検数人検数票現物検査航空運送状航空貨物混載業者航空貨物引渡指図書国定税率故障付船荷証券個別申告(関税評価)個別申込保険(貿易保険)混載貨物コンテナシールコンテナ船コンテナ船B/Lコンテナターミナルコンテナ番号コンテナフレイトステーションコンテナヤードコンテナパッキングリスト(forCLP)梱包明細書さ行サービスコントラクトサーベイヤーサーベイレポート在来型貨物船指図式船荷証券暫定税率直積み直取り市場調査事前教示制度実行関税率表シッパーズパック指定地外検査従価建て重量貨物割増重量証明書
重量建て重量容積証明書商業送り状譲渡可能信用状商品組合別包括保険書類審査信用状信用状付荷為替手形決済信用調査信用調査報告書税関用インボイス生産物賠償責任保険製造物責任総揚げ送金決済総積みた行タリーシート注文請書注文書直載貨物通関業者定期船サービスディスクレパンシーディテンションチャージデバンニングデバンニングレポートデマレージ到着案内特定原産地証明書特定輸出申告特定輸出申告制度特例輸入申告制度ドックレシート特恵税率ドライコンテナ取消不能信用状取立統一規則な行ナックス荷為替手形決済荷印荷主荷渡指図書ネッティング
燃料割増納期限延長制度ノンマリン保険は行バーゼル条約ハウスエアウェイビルパッキングリストバルクキャリアーバンニング引き合いB/Lインストラクションファームオファーフォワーダー複合一貫輸送複合運送証券不知文言艀中扱いブッキングブッキング確認書不定期船不定期船サービス船混割増船積案内船積依頼書船積指図書船積式船荷証券船積書類船積通知船荷証券フリータイムプロフォーマインボイス貿易保険包括申告(関税評価)包括予定保険契約ボートノート保険求償保険証券保険証明書保証状(リマーク消し)保税運送保税施設本船扱いま行マスターエアウェイビル
マリン保険無故障船荷証券メーツレシートモントリオール議定書や行輸出許可・承認書輸出許可通知書輸出申告輸出貿易管理令輸入貨物引取保証状輸入許可通知書輸入許可前引取承認制度輸入承認証輸入申告輸入貿易管理令輸入割当品目容積建て用船用船契約書用船契約船荷証券予定保険予定保険証券予備審査制度ら行陸路保税運送リスト規制リストリクト信用状リマーク領事送り状領事査証リリースオーダーわ行ワシントン条約ワッセナーアレンジメント割増運賃英字ACLAEO事業者A/NAWBB/EB/I
B/LB/NBerthTermsC/OC/PCFRCIFCIPCPL(forCLP)CPTD/A決済D/OD/P決済D/RDAPDATDDPDPUEIRE/LE/PEPAEXWFASFCAFCL貨物FIFIOFOFOBHAWBH.S.条約IATAIATA運賃ICCI/LICC約款INCOTERMSI/PIQ品目L/C決済L/GL/GネゴLCL貨物MAWBM/RNACCS
NVOCCP/LPL保険P/OR/OS/AS/IS/OS/NSWBVISA
【著者紹介】黒岩章(くろいわ・あきら)──貿易ビジネスコンサルタント。
ジェトロ認定貿易アドバイザー(現AIBA認定貿易アドバイザー)。
1953年大阪生まれ。
1976年神戸大学経済学部卒業、同年に総合商社の丸紅株式会社に入社。
運輸保険部にて鉄鋼製品、製鋼原料、穀物、肥料、砂糖、機械など多岐にわたる商品の貿易実務に従事する。
10年間の米国駐在を含む国際ビジネス経験が豊富で、商社や船会社、保険会社、フォワーダーなど貿易関係業界に幅広い繋がりをもつ。
2001年より伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社に勤務し、物流保険部長、常勤監査役を経て2018年に同社退社。
貿易ビジネスコンサルタントのほか国際商業会議所日本委員会をはじめ各所で貿易実務セミナー講師を務める。
──著書に、『改訂版はじめての人の貿易入門塾』『貿易実務完全バイブル』(いずれも小社刊)がある。
改訂版これならわかる貿易書類入門塾発行日2021年6月21日第1刷発行著者黒岩章発行者齊藤龍男発行所株式会社かんき出版〒102‐0083東京都千代田区麴町4‐1‐4西脇ビル電話営業部:03(3262)8011㈹編集部:03(3262)8012㈹FAX03(3234)4421振替00100‐2‐62304https://www.kankipub.co.jp/©AkiraKuroiwa2021
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