第4章組織開発論から経営を支える
OneHR共同代表西村英丈4-1「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか?4-2組織開発の3Pマネジメント4-3人事部の人事組織開発4-4組織開発のトレンド4-5提言:これからの組織開発コラム③兼業・副業~会社・個人・社会を変える起爆剤になるか弁護士白石紘一
第4章組織開発論から経営を支える
15秒サマリー文:北野唯我<何が書いてあるか?>この章では「組織開発」に関する、基礎的な外観を理解することができます。
ここでは、組織開発の目的を「個々人が組織のフィロソフィーを自分の言葉で語り、自社のサービスを語っている状態をつくること」としています。
「組織開発は、何からすればいいのか?」と悩む読者はまず、3Pと呼ばれるフレームを使うことを推奨しています。
3Pとは、Profession(職務)、Performance(評価)、Philosophy(理念)の頭文字であり、組織開発はこの3つを設計し、運用することだと定義しています。
その中でもまず重要なのはProfession(職務)です。
たとえばマルチカントリーの会社では「職務レベル」をグローバル共通で定義することが必要です。
職務レベルとは、その職務の難易度を数字で表したもので、これによって、たとえば「グローバル本社の部長の仕事=アジアの子会社の社長の仕事と同じ難しさである」と判断することができます。
これによって人事は、Aさんにどの仕事を任せてよいかどうか、Aさんの次のキャリアステップを推測することができます。
人事にとって「組織開発の技術」は武器です。
この章では、とくに、重要なのは「どの事業フェーズ、どれくらいの人数で、どんな組織的な問題が発生するか」を理解し、経営に事前に共有することだと語ります。
バックキャスト型人事と呼ばれるものです。
<どういう人にオススメか?>このパートは上級者向けです。
主に以下の読者に特にオススメします。
・経営者→事業が多国籍化し、1国の人事制度では対応が難しくなったフェーズにある経営者・人事→採用・育成・労務担当など、全ての人事業務を「横串で」戦略を立てたい方
目的別!このページを見よ!4-1「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか?→142ページ4-2組織開発の3Pマネジメント→145ページ4-3人事部の人事組織開発→155ページ4-4組織開発のトレンド→162ページ4-5提言:これからの組織開発→165ページ
4-1「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか?組織や人事に関する経営との会話において、こんな問いに直面したことはないだろうか。
「社員のエンゲージメントを高めるにはどうしたらよいのか?」その問いに対して答えを導いてくれるのが“組織開発”である。
では、組織開発のゴールはどこにあるのだろうか?結論をいうと、「個々人が得々と組織のPhilosophy(理念)を自分の言葉で語り、そのPhilosophy(理念)に基づき、自社のサービスを創っている状態を創り出すこと」である。
事業内容や財務的なことのみであれば、外部のコンサルタントなどでも論じることができるが、それらをフィロソフィー込みで語れる状態というのは、「組織」と「個人」が融合している状態であり、まさに、組織開発が行われ、エンゲージメントが高まっていることを意味する。
それが整えば、組織に自分自身が存在する必然性が出てくるのである。
そして、その必然性のもと、個人がその組織に対して、他には代替できない価値を提供していければ、個人も幸せになり、組織もそして、社会ももっと良くなっていくだろう。
即ち、組織開発(OrganizationDevelopment)とは、「組織」と「個人」で最高のパフォーマンスを発揮する仕組みづくりと言えるのである。
では、人材開発(HumanResourceDevelopment)との違いについてはどうであろうか。
人材開発の対象が「人」であるのに対し、組織開発の対象は人と人、組織と人との「関係性」や「相互作用」であり、組織に内在するエネルギーや主体性を引き出す機能開発である。
その「関係性」の変化や「相互作用」が、組織を変化させていくのである。
では、組織開発に対して、同じ組織を扱う言葉として、組織設計(OrganizationalDesign)というものがあるが、その違いはどうだろうか。
組織設計は最適な“組織構造”を作るための分業の意思決定の構造を設計することを意味するものである。
ここで下記の二つの考え方を紹介しよう。
一つ目は、1963年にアルフレッド・D・チャンドラーJrが提唱した「組織は戦略に従う」という考え方。
そして、二つ目は、1979年にイゴール・アンゾフが提唱した「戦略は組織に従う」という考え方である。
チャンドラーのいう「組織」とは「組織構造(OrganizationalStructure)」を意味し、アンゾフのいう「組織」とは「組織能力(OrganizationalCapability)」を意味していた。
その隠された意味を当てはめて、もう一度、読み解くと、「組織構造は、戦略に従い、戦略は、組織能力に従う」ということを二人は示唆しているのである。
つまり、組織能力が戦略を創り出し、その戦略に沿って組織構造が形作られるのである。
組織開発のゴールを踏まえて、組織開発の持つ意味を改めて整理してみると、こうなる。
・事業戦略に合わせて部門をつくり・その部門にどういった職務権限をつけるかを検討し・ハード面(給与など)の制度設計を行い・フィロソフィーに基づいて、社内の縦、横、社内外でコミュニケーションが行われるこれら4つを機能として動かすことなのである。
4-2組織開発の3Pマネジメントでは、どのようにして、組織開発をしていくのだろうか?具体的に、組織開発の3P(Profession、Performance、Philosophy)で整理してみていきたい。
4-1で「組織能力が戦略を創り出し、その戦略に沿って組織構造を形作る」ことが組織開発の一連の作業であると説明したが、既存組織に対して組織開発を行うステップとしては、逆の流れに沿って説明していきたい。
ステップ1–Profession(職務)の価値付けまず、組織構造を捉えるためには、組織に点在するProfession(職務)を責務の大きさにより価値付けをし、統一した基準のもと、把握することが必要になる。
把握するための代表的なツールがマーサー社が提供するInternationalPositionEvaluation(IPE)と呼ばれるのもので、職務評価という手法である。
仕事の価値をその仕事の持つ10個の要因で数値化していき、その一つ一つの仕事の価値を社内外の仕事の価値とも比較できるようにする。
結果、その組織構造の客観性が担保されるとともに、その組織が持つ適正サイズがどうであるかなど、組織への分析アプローチが可能になる。
グローバル経営において、国や地域を問わず統一の基準によって価値付けをすることはグローバル人事制度統一の基盤作業ともなるのである。
組織の規模や業界、職種や肩書き・年齢にかかわらず、あらゆるポジションに1つのシステムで適用できる統一的なシステムである。
IPE評価結果に基づき、役割の大きさに基づいたポジションの序列を可視化することができ、国境を跨いだ人材活用検討の基盤となりえる。
例えば、イタリアにある100人規模のグループ会社社長と、日本で10人規模の部下を持つグローバル戦略を担う部長では、職務の責務の大きさから後者が高い仕事の価値付けとなるなどだ。
社長ということだけで職務の価値付けが常に高くなるというわけではないのだ。
統一の基準を設けることで人材の配置転換がしやすくなるのである。
・事業計画と同等の意味を持つ後継者育成計画あるProfession(職務)で一定の成果をあげていれば、そのProfession(職務)が持つ数値化情報(マーサー社ではその数値情報をポジションクラスと呼ぶ。
以下、ポジションクラスと呼ぶ)の1つ上のポジションクラスの仕事へと任用していくのである。
このように全てのProfession(職務)に対して、キャリアの道筋を用意していくことで計画を立て、後任者計画として管理していける。
このプロセスは、人が戦略を創り出す上で事業計画そのものであるが、とかく忘れがちである。
・マーケットに対して競争力を持つ報酬制度の設計また、新たに人材を任用したいポジションに対して社内にその人材が不足している場合には、そのProfession(職務)のポジションクラスに基づき、それぞれの国・地域におけるマーケット競争力を持つ、報酬を明示し、人材を採用していくことが必要である。
職務が共通の尺度で価値付けされた数値化情報を持てていれば、このようにして、客観的に外部競争力を保つことができるのである。
後継者育成計画や外部市場に対して競争力のある報酬制度設計を築き上げたとしても、そのアプローチを誤れば、社員との信頼関係が崩れるばかりではなく、一気に人事機能全体の価値を台無しにしうるのが、“評価調整”と呼ばれるものである。
評価調整とは、その年度の賞与や昇降格を決める際、個々人の評価を正規分布に従い、例えば、上位評価20%、中位評価60%、下位評価20%といったように、各現場から上がってきた評価結果を部門間で相対的に評価し、その正規分布に基づき調整をしていく作業である。
現場からあがってきた評価が相対評価調整の結果、評価が変わるということは多々あるケースである。
ここで注意しなくてはならないのは、ただの処遇決定のための相対評価調整で終わらせることなく、その相対評価調整の結果を透明性をもって、説明し、成長につなげていけるだけの仕組みとできるかが要である。
よく、人事部はここの作業をブラックボックス化し、結局、相対評価調整のプロセスを説明することなく、期末に最終評価結果の通知のみをするというのが起こりがちである。
相対評価調整を経て、現場での評価が下がったケースにおいて、直属の上司は、人事部門を悪者にし、そして人事部門は現場にその説明責任をなげ、結局のところ、不透明なまま、誰も釈然とせず、その年度評価レビューを終えてしまうのである。
本来、個人、組織の成長につなげたものにするための手段としての評価調整のはずが、評価調整をすることが目的化してしまっているのである。
社員からするといくら頑張っても、結局のところ、最後がブラックボックスであると、個々人のモチベーションダウンは甚だしいのが実情である。
そうして、人事部の信頼低下が起こってしまうのだ。
例えば、人事部の採用担当者を評価する際に、育成や制度設計などを担当する人事部内の他のスタッフとともに相対的に評価調整されていないだろうか。
よしんば、採用担当という同じ職務社員を集めてひとつのユニットでグローバルに相対的に評価をしていたとしても、採用担当といっても、国内事業展開レベルでの採用担当者なのか、あるいは、グローバル事業展開レベルでの採用担当者なのか、それぞれの責務の大きさが異なり、異なるポジションクラスで相対評価をしても、仕事の難易度が異なるため、フェアではない。
ステップ2で言及するが、同じ部門内での相対的な評価はあまり意味をなさず、部門単位で相対的に評価され、その部門評価を部門メンバーは一律に受けるといった方法をとることのほうが機能型の組織においては、組織能力が上がるのだ。
つまり、それぞれのProfession(職務)は責務の大きさによってレベルは異なるのであり、共通の職務評価ツールで導き出されたポジションクラスが持つ期待値を前提に自社、そして外部組織の視点も加えた上で並べ、横串をさした状態での相対的な評価調整こそが、評価の透明性を担保し、個人の納得性を高め、個人の成長意欲を飛躍的に高め、組織能力が高まっていくのである。
メルカリでは、この従来の相対的な評価調整という作業から脱却し、さらに踏み込み、より納得性の高い仕組みとしている。
決められた原資を相対的に評価した結果に基づき分配する旧来の方法を根本から見直し、絶対評価で原資を変動させ、評価の納得性を担保するとともに、個人・組織、双方の成長ありきの評価手法を以ってして、事業をさらに成長させようとしているのである。
これは経営が人事施策に対してもコミットしているいい例であると考える。
ステップ2–Performanceマネジメントパフォーマンスマネジメントは1970年代に米国のコンサルタント、オーブリー・C・ダニエルズ氏を中心に「メンバーが行動を結果に結びつけるための人材マネジメント手法」として紹介されたのが始まりであるが、ここ最近、ノーレイティング(Norating)という言葉とともに注目を浴びている。
ノーレイティング(Norating)とは、従来のMBO(目標管理制度)で行われていた年度単位の評価、たとえば社員をS、A、B、C、Dなどにランク付けし、それを期末にフィードバックする行為を廃止し、期中でタイムリーに目標とそのプロセスを確認し、コーチングを行い、「組織」と「個人」の目標達成を連動させていく手法である。
つまり、NoRatingといっても、Rating(価値付け)を一切しないというわけではなく、相対的な従来の手法による期末評価の一方的な価値付けはやめようという話なのである。
・ManagementbyBelief(MBB)組織開発上、パフォーマンスマネジメントを捉えた時に、従来の“評価”という言葉そのものが、評価する、されるの関係になっているのに対して、ここでは、共にパフォーマンスを確認しあうという双方向の意味で捉えてほしい。
そのため、名称も評価(review、feedback)ではなく、価値交換(sharevalue)という言葉に変えるくらいでいいのである。
極端な言い方かもしれないが旧来の減点主義的なManagementbyObjective(目標管理制度)から、「組織」と「個人」の存在目的が融合し、その存在目的を軸とするManagementbyBeliefとしての考え方にシフトする必要がある。
MBBの具体的な要件は、以下の3点である。
ⅰ.1人の上司による評価から、360度評価へのシフトⅱ.個人のパフォーマンス評価から、チームパフォーマンス評価へのシフトⅲ.対前年、対計画の過去のパフォーマンス評価から、対未来に向けた個人のミッションやビジョンへの到達度を図る貢献度評価へのシフト・高信頼性組織1980年代に米国で生まれた高信頼性組織(HighReliabilityOrganization)の考え方は、失敗が許されない状況において、誰が失敗したかの追求をしない高い信頼関係があると、逆に失敗が起こらないのである。
なぜなら、「組織」と「個人」の存在目的が融合し、信頼があれば、コミュニティは自走するのだ。
失敗が起きた時には「誰が」ではなく、「何が」起きたのかを検証するのだ。
従来のMBOにより、期末の評価を心配するのではなくて、心配の「パ」を「ラ」に置き換え信頼をベースにした、まさに“パ”“”。
ステップ3–Philosophy(理念)を根付かせる「組織」と「個人」がPhilosophy(理念)に沿って、「自走」するためのプロセスとして、「組織」と「個人」、「個人」と「個人」の信頼関係が、その組織のPhilosophy(理念)によって構築されている状態を作り出していく必要がある。
ステップ2までについては、正直、外部有識者の力を借り、進めることができるのも事実である。
しかしながら、このステップ3こそは、自社に人事部を掲げる本質的な価値であり、人事部の腕の見せ所である。
自社の掲げる理念に沿って、組織・個人が存在目的を理解し、お互いの文化・価値観を共有することでPhilosophy(理念)を浸透させることに尽きる。
Philosophy(理念)浸透のプロセスについては、理解、共感、実践の3つのステージに分かれるが、最後の実践されている状態まで到達しないことには意味がないのである。
ステップ1、2のように外部有識者を入れることで達成できるといった類のものではないのだ。
トヨタウェイに代表されるようにあらゆる組織においてはPhilosophy(理念)が明文化されており、その浸透手段としては、ポスター掲示をしたり、ワークショップ形式で個々人がPhilosophy(理念)に沿った行動を振り返り、それを共有し合うことで自社のPhilosophy(理念)をメンバー間で確認しあうとともに、その実践の仕方について学びあうものであったり、経営トップ自らが自らの体験談をPhilosophy(理念)を交えて語ることで、「個人」、「組織」に根付かせていくなど、やり方は様々である。
ここについては、先ほど列挙した代表的なやり方を示す程度に留めておきたい。
ここで大切なのは、理念を浸透させるための手段の実行を目的化せず、この章の冒頭で記したように、組織開発とは、「組織」と「個人」で最高のパフォーマンスを発揮する仕組みづくりであり、そのゴールは、個々人が得々と組織のPhilosophy(理念)を自分の言葉で語り、そのPhilosophy(理念)に基づき、自社のサービスを創っている状態を創り出すということである。
そのゴールを常に念頭に起き、ステップ1、2の取り組みと連鎖させて、エンゲージメントが高まる状態にもっていかなくてはならない。
このステップ3の“Philosophy(理念)を根付かせる”ということを組織開発の一連に含めてやるかやらないかで圧倒的に「組織」と「個人」の相乗効果という点で激しい差が生じるのである。
花王ウェイは、Philosophy(理念)浸透のツールを準備し、それぞれの組織長の裁量でそのツール用いて、浸透施策を展開している。
まさにPhilosophy(理念)が組織に根付き、自走している状態であり、現場、現場の裁量でPhilosophy(理念)の確認が必要になったタイミングで自発的に行われているのである。
これまでの話を整理すると、組織にある個々人のProfession(職務)を共通の尺度で価値付けし、存在目的を軸にしたPerformanceマネジメントを以って、信頼性を担保し、自社にPhilosophy(理念)を根付かせ自走する組織を開発する一連の3Pをマネジメントせずして、組織開発はなされないのである。
4-3人事部の人事組織開発これらの組織開発の一連のステップを進める上で旧来型の人事部の再編成が必要である。
組織開発をする上での人事組織体制を3つのレベルに分け、見ていきたい。
ファンクション型人事部▷一気通貫型人事部▷バックキャスト型人事部ファンクション型人事部旧来の機能毎に分かれた人事部内の組織(採用チーム、育成チーム、評価チーム等)から構成される組織体制。
次頁の図1は、グローバルで見たときの各人事機能に求められている要件について、記したものであるが、ファンクション型人事部では、太枠で囲ったそれぞれのチーム編成がとられ、それぞれの要件に沿って、業務が遂行されているのである。
このファンクション型人事部の難点は、図2に示すように横の人材フローシステム(HumanResourceDevelopment)をいくら整えても、例えば、採用や育成のみを強化したところで、縦の人事制度(HumanResourceManagement)との整合性がないと、人事部全体として機能しないという点だ。
すなわち、それぞれの機能が価値連鎖するようにしなくてはならない。
多くのファンクション型人事部では、採用チームは将来の事業を牽引する優秀な学生を採用するために奮起し、育成チームは階層別研修プログラムを設計し、一つ一つの研修を運営し、評価チームは先に記した評価調整を作
業ピークとし、それぞれの業務が遂行される。
そして、それらの機能連鎖はせず、個々の機能の最適化が行われているというのが少なからずあるのではないだろうか。
一気通貫型人事部先ほどの縦と横のフローを機能させるための次のレベルの人事部の組織体制をみていきたい。
例えば、組織開発の3Pモデルで触れたマーサー社のIPEを用いて組織を設計する組織設計チームや、ポジションと人を管理するタレントマネジメントチーム、社員のエンゲージメントの観点から施策を講じるエンゲージメントチーム、そのほか、労務管理などのレイバー・リレイテッドチーム、そして、昨今では人事関連のデータを解析し、施策を講じるピープルアナリティクスチームなど目的別に機能連携された組織体制である。
旧来のファンクション型人事部モデルから、目的別に機能連鎖した一気通貫型人事部へシフトすることで、それぞれの機能をそれぞれの目的別に応じた形で機能連鎖できる仕組みとする必要がある。
大企業でもパナソニックなどプロジェクト化し、それぞれの人事の機能毎のオペレーションに横串をさして、結合させているケースもある。
一気通貫型人事部組織体制のもと、5年後、10年後、30年後、50年後の姿を見据えて、バックキャスト型に人事施策を創れる人事をバックキャスト型人事と呼ぶ。
未来組織からの逆算の組織設計を行うことで組織開発を行える人事部である。
未来組織からの逆算の組織設計いつ、どこで、どのタイミングで、どのような人材が必要となるかを見据えることができるのである。
例えば、縫製業においては、2005年にWTOの繊維製品輸入割当制度が撤廃され、一気にチャイナシフトが起こった。
その当時の中国での急激な伸びに対応した組織設計上の履歴を分析することで、他の市場において逆算の組織設計をしていくことが可能となる。
チャイナシフトの後、中国一極集中のリスクを回避する意味で一気にチャイナプラスワンとしての縫製シフトが起こり、その縫製市場はベトナム、バングラデシュへとシフトしていったわけである。
労務単価の推移も含めて中国で起こったことが次なるベトナムでも起こり、またそのベトナムで起きたことがバングラデシュでも起こるということを考えれば、当時の中国における組織変遷をふまえることで、ベトナム、バングラデシュではバックキャスト的な組織設計の対応が可能となる。
その具体的な捉え方はこうである。
まずは、中国の組織変遷上、一つ一つのポジションが発生したタイミングの市場環境などを分析していくことである。
例えばであるが、中国の製造業における統括人事部長のポジションがどのタイミングで組織設計上、必要になったかということを分析してみたとしよう。
そのポジションができたタイミングを調べると、売り上げ100億円、社員数1000人を超えたタイミングが一つのターニングポイントであったということが分かる。
さらにその分析を進めると、そのターニングポイントでは、ちょうど、営業に対する人事施策・運用と製造に対する人事施策・運用との整合性が求められた時期であり、営業を管轄する人事マネージャー、製造を管轄する人事マネージャーの一つ上の階層に、会社全体の人事施策を統括する人事ポジションが必要となったということも分かった。
このようにして、統括人事ポジションの例でみたアプローチと同じように、マーケティング部長、さらにはそのマーケティング部内の課レベルのポジションまで、すべてのポジションに対して、いつどういう背景で必要になったのかということを分析することができるはずである。
その分析は、自社がまだ進出していない市場、分野であれば、同業種のケースをベンチマークすることでも見えてくるはずである。
先ほどの例でいえば、統括人事部長の新規ポジションに対して、本社からの出向員の派遣で補充されたという組織設計上の変遷データを把握できていれば、そのポジションが発生するターニングポイントに対してバックキャスト的に捉え、本社からの出向員でそのキーポジション(組織設計上、戦略を左右する重要な役割)を充足させることなく、現地の社員をそのポジションに向けて、予め育成することが可能になる。
あるいは、内部昇格に加えて、仮に外部から採用する場合においてもステップ1で記した職務の価値情報に基づき、キャリアステップを見据えた人材登用、処遇決定の判断をすることで、社内外に対して、透明性と客観性が担保され、人材の任用が行われ、結果、そこのポジションから生み出される事業競争力は高まるのである。
「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか?本章の冒頭で書いた問いは、こうであった。
そしてこの問いは、組織構造は、戦略に従い、戦略は、組織能力に従うということを示唆していたのであった。
つまり、「組織能力が戦略を創り出し、その戦略に沿って組織構造を形作る」ということに対して、組織開発の3Pとして整理した。
職務を把握することでまず組織構造を鮮明に捉え、未来からの逆算でポジションを創り出し、そして、共通の尺度でポジションを横並びにして、パフォーマンスマネジメントをする。
そして、一つ一つのポジションに任用される人にフィロソフィーを根付かせる。
そのように、エンゲージメントが自然と高まる状態の組織開発をし、常に一歩先を見据えた人事施策を講じていくのだ。
そのような人事こそが、経営から最も必要とされる人事である。
4-4組織開発のトレンドここでは、組織開発を行う上での手段としてのトレンドを見ていきたい。
ホラクラシー/ティールといった言葉を、ここ一年の間で日本の人事部界隈ではよく耳にするようになった。
・ホラクラシーまず、「ホラクラシー」(holacracy)という言葉であるが、米国のソフトウェア企業の創設者であるブライアン・ロバートソン氏が、2007年に創案したものであり、フラットな組織形態を指すものである。
従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に対して、細分化された組織には、肩書きや役職などは存在せず、意思決定機能が組織全体に拡張・分散され、それぞれ最適な意思決定・実行をさせることで、組織を自走させることを可能にするのである。
「一人の上司による評価から、360度評価へ」、「個人の評価から、チーム評価へ」のシフトが可能になるのである。
・ティール(進化型)組織2014年にフレデリック・ラルーによって執筆された原著『ReinventingOrganizations:AGuidetoCreatingOrganizationsInspiredbytheNextStageofHumanConsciousness』によって紹介されたものである。
ティール組織は、「組織」と「個人」の存在目的が共鳴している状態をベースに個人一人ひとりが主体性を持ち自主経営をし、自分らしさを全て会社に持ち込めるといった全体性(ホールネス)が担保された組織である。
社員同士が自分の本来の姿を互いにさらけ出し、それを認め合い、ピラミッド型組織にみられるように限られたポジションを奪い合う昇進の制度もなく、個々人が自分らしく、自分の使命を追求できるのである。
そのような組織においては、「対前年、対計画の評価から、対未来に向けたビジョンへの貢献度評価へ」のシフトが可能になるのである。
ここで説明したホラクラシー、ティール組織の考え方が実践されているのが、人材大手アトラエである。
社員がやりがいをもって生き生きと働く組織の代表格であり、現場に裁量と責任を任せて判断させることで、創造性や革新性が求められる知識集約型産業のなかでもスピーディーな対応で次々とサービスを展開し、急速に成長してきた会社である。
その成長を支えたのが、まさにここで紹介したホラクラシー、ティール組織の考え方であった。
また、自由で裁量のある働き方を実現させた前提としてアトラエでも、組織開発の3Pのステップ3–Philosophy(理念)を根付かせるという点が徹底されていた。
ビジョンとしての『世界中の人々を魅了する会社を創る』を行動指針として「大切な人に誇れる会社であり続ける」とし、落とし込んでいる。
そうすることで、成果でなくチームへの貢献で測る評価制度を導入できるようになったのである。
具体的には、自分の働きぶりを見てくれていると思う5人を選び、その人たちの評価で決め、貢献度が低ければ給与も上がらないという仕組みだ。
イノベーションが埋もれがちな階層型組織を持つ大企業においては、ホラクラシー、ティール組織の考え方を取り入れることができないのかというと、決してできないわけではない。
大企業の組織でも、それぞれの事業部、それぞれの部門単位で取り入れることは十分に可能である。
社員同士が自分の本来の姿を互いにさらけ出し、それを認め合い、ピラミッド型組織にみられるように限られたポジションを奪い合う昇進の制度もなく、個々人が自分らしく、自分の使命を追求できるのである。
そのような組織においては、「対前年、対計画の評価から、対未来に向けたビジョンへの貢献度評価へ」のシフトが可能になるのである。
4-5提言:これからの組織開発■次世代人事部モデル策定プロジェクト世論調査や人材コンサルティングを手掛ける米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%しかないことが発表され、米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスだったことが2017年報じられた。
当時、来日したギャラップのジム・クリフトン会長兼最高経営責任者(CEO)は、日本ではなぜこれほど「熱意あふれる社員」の割合が低いのかという質問に対して、以下のように答えた。
「日本は1960~80年代に非常によい経営をしていた。
コマンド&コントロール(指令と管理)という手法で他の国もこれを模倣していた。
問題は(1980~2000年ごろに生まれた)ミレニアル世代が求めていることが全く違うことだ。
ミレニアル世代は自分の成長に非常に重きを置いている」つまり、日本企業を取り巻く社会・経済環境として「人生100年時代」、「ミレニアル世代」の到来により、より個人の成長・キャリア意識は高まったのである。
そうした、働き手の意識の変化に対応した次世代の人事部モデルがいま必要とされている。
そこで、OneHR(事業会社人事、人材サービス会社の人事有志団体でコミュニティは800名程)として、人生100年時代×企業寿命30年に対応するサステナブルに「組織」と「個人」が最高のパフォーマンスを産む“次世代人事部モデル”、を策定している。
そのメンバーは大企業からベンチャー企業の幅広い企業群の人事やSDGs推進者、人材サービス会社、経産省メンバー、企業経営者、幅広い年齢層の社員、そして学生を含めて議論しながら策定しており、本書が発売された後の2019年5月1日に公開していきたいと考えている。
わらないという点を危惧している。
働き方改革の実行部門である人事部の組織体制も変革させることで、人事部の実務面含めて確実に改革をしていくことが必要である。
人事部自体の組織体制については、上述した3つのレベルで少なくとも、進化させてほしい。
その各機能の方向性は、次頁の図の通りである。
さらには、これから公開をしていく次世代の人事部モデルについてもその進化版として捉えていただきたい。
(プロジェクト発足の趣旨)企業を取り巻く社会・経済環境は、「人生100年時代」の到来により、社会で活躍する期間が長期化し、長期のライフプランを念頭に、個人のキャリア意識は向上し、また、社会課題への関心が高く、自らの成長にも関心が高い「ミレニアル世代」の登場といった大きな変化に直面している。
これらの働き手の意識の変化に対応した次世代の人事部モデルを策定することで企業競争力を高める人材マネジメントを人事部の現場レベルで実行できるものとしていくことを目的とする。
経済産業政策局産業人材政策室の経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会の中でも指摘されているように、現状の各社の人材マネジメント手法が「個」が多様化する中、「企業」と「個」の双方の成長を目指しているか?という視点において、例えば、評価という切り口では処遇決定のための評価となり、個人の成長につながる評価につながっていないというのが現状である。
人事戦略上、変革させるべき要素が数多くある。
採用、育成、評価といった機能毎の高度化を進めた上でそれらが「企業」と「個人」の成長に寄与する仕組みとして機能連鎖させるために、人事部のあるべき組織体制、仕事の進め方にまで落とし込んだ形のモデル策定としていく予定である。
また、資本市場からの評価指標の一つとなることを見据えた展開として、サステナブルな「企業」と「個人」の成長を促すものとするため、HR版SDGsの策定も含めて議論している。
HR版SDGsは、各企業の人事施策との連動もはかりながら、下表の資本市場との連携をも見据え、着実に導入と実行を図っていきたいと考えている。
アプローチとしては、HR版SDGsをさだめ、そこにアプローチしていく人事機能を再構築し、次世代の人事部モデルとしていく。
その考え方のベースは、ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が提唱した以下4つの分類をカバーしたものとする。
1.戦略パートナー(StrategicPartner)2.管理のエキスパート(AdministrativeExpert)3.従業員のチャンピオン(EmployeeChampion)4.変革のエージェント(ChangeAgent)
また、多くのグローバル企業の人事部がもつ、次頁下表の4機能モデルの価値連鎖を踏まえつつも、次世代人事部モデルとして、進化させていくのである。
1)組織開発(OrganizationDevelopment)&タレント開発(TalentDevelopment)、2)そして、センターオブエクセレンスの機能として採用や育成など各機能の専門家を置き、3)オペレーションズとしてシェアードサービス化するものとを整理した上で、4)各事業部とのパイプ役であるHumanResourcesBusinessPartnerを軸におき、ビジネスユニットの一部として、ビジネスリーダーや従業員を支援するこの4機能モデルがグローバル企業人事部の標準型となっている。
ここで“次世代人事部モデル”構想の内容を一部、紹介しておこう。
従来型のファンクション型の人事部モデルをエンゲージメントチーム、タレントマネジメントチーム、そして、それらを複合するHumanResourcesBusinessPartner(HRBP)とに分けて考える。
分かりやすく言えば、エンゲージメントチームは、個人にコミットし、タレントマネジメントチームは、組織にコミットし、そして、HRBPは、個人の自己実現と組織のビジネスプランを達成することをコミットするという組織体制である。
HRBPは、まさにここで取り上げた組織開発を成し遂げなくてはならないのである。
個人にコミットするエンゲージメントチームと、組織にコミットするタレントマネジメントチームのマトリクスから生まれる要素の双方を機能させるのがHRBPという関係性である。
なぜ、マトリクスで議論をするかというと、41で紹介した「組織は戦略に従う」のか、それとも「戦略は組織に従う」のか?という問いがそうさせている。
41では、「組織能力が戦略を創り出し、その戦略に沿って組織構造を形作る」と整理したことを念頭に考えると、組織能力を高めるエンゲージメントチームと、組織構造を形作るタレントマネジメントチームは表裏一体なのである。
組織開発の3Pとしては、組織構造からの逆で進めていくステップでみてきたが、組織能力を作り出す、源泉である個々人の能力をいかに引き出していくのかという点が次世代人事部モデルの肝である。
以前、ZOZOの前澤社長のツイッターが話題になったが、その内容はこうであった。
「仕事を楽しむ労働者を増やし、労働生産性の高い国にしたい」と。
逆に捉えがちなところの本質をついた内容であったとも思う。
■グーグルやザッポスでの事例で注目を浴びたチーフ・ハッピネス・オフィサー(CHO)CHOとは企業文化の中でも特に改善の余地が大きいとされる社員の幸福度に着目し、その向上に努める役職である。
Happyなグループとそうでないグループを比較した場合、前者が創造性は3倍、生産性は30%アップするというカリフォルニア大学のソニア・リュポミアスキー教授の調査結果もある。
その幸福度は、社員同士の信頼関係を築く会社の社員は高い。
すなわち、組織開発の3Pで紹介したPhilosophy(理念)を軸にした組織と個人の信頼関係がある社員の幸福度は高い。
組織開発を進める上でPhilosophy(理念)を根付かせるということが、最も重要なことであるということを改めてここでも強調しておきたい。
働き方改革の一環で、RPAなどを駆使し、30%の業務圧縮をして、その空いた時間をクリエイティブワークに回そうといった取り組みが大企業で進められている。
30%の業務改善のアプローチに加えて、個人の幸せを高める組織開発を進め、30%の生産性アップ、創造性を3倍にしていくのが本質的なアプローチである。
その組織開発のゴールは、繰り返しになるが、個々人が得々と組織のPhilosophy(理念)を自分の言葉で語り、そのPhilosophy(理念)に基づき、自社のサービスを創っている状態を創り出すことであった。
「組織」と「個人」が融合している状態、を作り出すのだ。
それが整えば、組織に自分自身が存在する必然性がでてきて、その必然性のもと、個人がその組織に対して、他には代替できない価値を社会に提供するのだ。
そうすることで個人も幸せになり、組織も、そして社会ももっと良くなっていくのである。
組織開発を進めることで、創造性は3倍、生産性は30%アップし、優れた技術・サービスが生まれていくのである。
■西洋的発想であるワークライフバランスの考え方に対して、東洋的にあうとされるワークアズライフという考え方昔の百姓は、言葉の通り「100の生業がある人たち」のことを指しており、農業をする人もいれば、お祭りを取り仕切る人もいれば、木工をする人もいた。
すなわち、あらゆる職のバリエーションを持ち合わせ、ポートフォリオマネジメントしてきた役職であったのだ。
落合陽一氏が語るように、このような百姓のような仕事と生活が一体化したワークアズライフのほうが東洋的な文化にはあっているという見方もあるのだ。
個人の自己実現をいかに事業競争力の源泉として取り込んでいけるかということが今後の次世代人事部の方向性であろう。
次世代人事部モデルは、これまで戦略を遂行する上で“組織”視点に比重が置かれていたものを、“個人”視点への比重とバランスさせ、“”“”。
創業期のベンチャー企業における組織開発フェーズによって違う組織開発創業初期:理念にそった事業開発の徹底5名~20名:人材開発として個の能力を伸ばすことが組織開発につながる20名~100名:組織設計が必要となる時期。
組織を筋肉質に保つためにリーダーを育成この段階においては、人類学者のロビン・ダンバー氏の論である人間が安定的な社会関係を維持できるとされる人数の上限は150名であるという点も踏まえ、“SpanofControl”として、マネジャー1人が直接管理している部下の人数や、業務の領域を管理していく必要がある。
一般的な事務職では1人の上司が直接管理できる人数は5~7人程度であると言われている。
100名以上:大企業と同じように組織開発が必要になってくる。
コラム③兼業・副業の促進でイノベーションが起こる!兼業・副業~会社・個人・社会を変える起爆剤になるか弁護士白石紘一近時、政府全体で、兼業・副業の普及促進に向けた動きが進められている。
2017年3月に決定された「働き方改革実行計画」では、兼業・副業の普及を図っていくことがうたわれており、また、これに前後して、経済産業省及び厚生労働省において、兼業・副業に関する検討会が開催されるなどしている。
特に、2018年1月に厚生労働省が出した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、「企業の対応」として、「原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。
副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。
」とまでされているところである。
他方で、社会が実際に兼業・副業に前向きになっているかといえば、それほどではない。
働き手においては、一定数が兼業・副業に関心を持っているが(1)、企業側においては、いまだに多くの企業が働き手の兼業・副業を認めようとはしていない(2)。
これは、後述のとおり、従来の日本型雇用の在り方が、兼業・副業と適合的ではなかったことの表れでもあろう。
しかしながら、従来はとにかくとして、これからの社会環境において、兼業・副業という就労形態は、働き手にとっても企業にとっても非常に大きな意味を持ちうる。
また、後述のとおり、伝統的な日本型雇用の在り方は、昨今の社会環境と不整合をきたしつつある。
兼業・副業が広がっていくことは、結果として、日本型雇用そのものをアップデートしていくにあたっての有力な起爆剤ともなりうるであろう。
以下では、伝統的な日本型雇用の在り方を踏まえつつ、兼業・副業がどのような影響を与えうるかを述べたい。
1日本型雇用のこれまで/働き方とキャリアの選択肢の少なさ終身雇用、年功序列、企業別労働組合……これらは、日本型雇用の「三種の神器」とも呼ばれ、日本経済の高度成長を支えた、日本型雇用システムの大きな特徴であったが、さらに、独立行政法人労働政策研究・研修機構所長である濱口桂一郎氏は、日本型雇用システムの特徴を「メンバーシップ型」と表現した(3)。
日本においては、雇用されるということは、職務の範囲・労働時間・勤務地についてあらかじめ特段の限定はせず、会社に命じられるままに従うということであり、それはすなわち企業という共同体の「メンバーシップ」の一員になるということだというのである。
他方で、それぞれの働き手は、「メンバーシップ」の一員になることによって、その身分を保障され、終身雇用(長期雇用)を得ていた。
こういった、働き手と企業の関係を、“契約”という、「相互に何を提供するのか」といった観点から整理してみたい。
もちろん、働き手からは労務を提供し、代わりに、企業からは賃金を提供するのであるが、もっと社会的・長期的に両者の関係をとらえたときに、どのように整理されるか、ということである。
まず、働き手は、企業から「やれ」と言われれば、何でもやるし(職務の無限定)、何時間でも働くし(長時間労働)、「行け」と言われればどこにでも転勤した。
また、その企業においてのみ通用するスキル(企業特殊的スキル)を重点的に伸ばした。
すなわち、働き手は、職業人生の“すべて”を企業に捧げていたのである。
それはまさに「滅私奉公」と表現できるものであろう。
24時間働く(戦う)ことができるかどうかを問うキャッチフレーズが一世を風靡していた時代もあったとおり、かつて、こういった働き方は、美徳でもあった。
他方、企業が働き手に提供したのは、終身的(長期的)な“雇用の保障”、そしてそれを通じた“生活の保障”といえるであろう。
企業の命令に対して忠実に働いている働き手には、長期の雇用のみならず、年功序列という形で、年次に応じたポストや賃金の上昇を保障したのである。
こういった関係を戯画的に表現すると、前頁の図のとおりとなるだろう。
結局のところ、かつての日本型雇用において、働き手と企業の関係は、「働き手は企業にすべてを捧げ、代わりに、企業は働き手に生活とキャリア(のすべて)を保障する」というものだったといえる(4)。
ある意味では相互に釣り合いが取れていたともいえる、この暗黙的な契約関係(いわゆる「心理的契約」)は、労使間の非常に強固な信頼関係を構築する源ともなっていた。
ただし、そこにあったのは、強固ではあるものの同質的であり、働き手にとっては働き方やキャリアの作り方についての選択肢が乏しく、そして”内側に閉じた”関係性であった。
まず、働き手においては、メンバーシップの一員として、働き方もキャリアの作り方も、一律固定的に拘束されていたといってよい。
企業に命じられるとおりに、何でもできるか、何時間でも働けるか、どこへでも行けるか……どれか一つでも無理であれば、出世ルートから外されるのみならず、場合によっては、メンバーシップから除外されてしまうのである。
また、その強固な関係と同質性は、ある種、外部との隔絶によって成り立っていた。
新卒一括採用からスタートしたうえ、終身雇用が存在することで、途中での人の出入りは乏しかった。
さらに、企業を辞める(メンバーシップから離脱する)のはもちろんのこと、特段の関係性のない他企業の社員と交流するといった形で“社外を見る”ことは、不謹慎なことであり、「裏切り者」の烙印を押されることすらあった。
すなわち、伝統的な日本型雇用の特徴は、「一律固定・同質性重視」「外部との隔絶・閉鎖的環境」と表現できるであろう。
働き手は、今所属している一つの企業に、“24時間”のすべてを捧げることができるかどうかを問われていた。
この関係性のもと、かつての成長期においては、働き手も企業も、「わき目も振らず、今の職場で一心不乱に頑張っていれば、成長も成功も保証される」という形で、同じ方向を向いて頑張ることができたのである。
そして、兼業・副業は、この関係性のもとでは、まったく親和性がなかった。
働き手にとっては、兼業・副業をせずとも、生活面でもキャリア面でも特段の問題がなかったし、企業にとっても自社の従業員に兼業・副業を認めるメリットは乏しかった(せいぜい収入補填になるという程度だった)。
むしろ、兼業・副業をするということは、“同じ方向へ向かってすべてを捧げる”というメンバーシップを毀損する行為であり、働き手にとっても企業にとってもデメリットが大きかったといえるであろう。
ただし、このようなメンバーシップ型の雇用の在り方は、企業や社会全体が安定成長期にあり、さらに、企業に24時間を捧げることのできる働き手として、「働き盛りの世代で、家庭は妻に任せる男性」を中心に据えることができていた等、かつての社会環境においてこそ成立していたといえよう。
2時代の変化と兼業・副業の有用性働き手や企業を取り巻く環境は、近時、大きく変化している。
詳細は【コラム①】に譲るが、「働き盛りの世代で、家庭は妻に任せる男性」を中心に据えるような企業人事システム及び社会の在り方は、もはや持続困難である。
企業及び社会においては、様々な形で人材を確保することに加え、多様化する働き方やキャリア観に対して個別最適化を図っていくことが必要になっており、職務や労働時間を当然に無限定なものとして働き手に押し付けることは、適当ではなくなりつつある。
他方で、働き手においても、長期化する職業人生の中で、働き方やキャリアを企業にゆだね過ぎずに自らの選択と責任の下に決めること(キャリア・オーナーシップ)が必要になっている。
また、テクノロジーの発達やグローバル化の進展は、産業構造も就業構造も変化させ、変化のスピードも加速させており、非連続的なイノベーションがより一層求められるようになっている。
さらに、これらに応じて、コマンド&コントロールとでもいうべき、企業と働き手の間にあった主従関係も変化を見せ、働き手の地位が相対的に向上しつつある。
こういった変化に適応していくにあたって、企業と働き手のいずれにとっても重要なアクションの一つとなりうるのが、兼業・副業である。
すなわち、企業にとっては、イノベーションを創発するために重要である“社外の知見”を取り入れるために、あるいは人材の自律性を高めるために有用であるし、また、専業では来てもらうことが難しい人材であっても兼業・副業の形で協力してもらうことで、ハイスキル人材の受け入れや人手不足の解決策の一助にもなる(5)。
また、働き手にとっても、新たな場所で同時並行的に研鑽の機会を得ることで、多元的な形でスキルや知見の向上を図りつつ、キャリアを自律的に複層化することにつながる。
視野や視座が変わり、例えば同じ業務を行う中でも新たなことに気づくようになる等、得られるものが広がっていくという効果もあろう。
単に“小遣い稼ぎ”をすることだけが兼業・副業ではないのである。
なお、兼業・副業を認めることについては、過労の恐れや、企業秘密漏洩の恐れ、競業・利益相反の恐れ、人材流出の恐れなど、企業側において様々なデメリット(リスク)が指摘されることがある。
しかしながら、これらのデメリットは、過剰に恐れるべきものではない。
なぜなら、まず、過労や企業秘密漏洩、競業・利益相反などの回避については、兼業・副業を承認するにあたっての確認、途中でのモニタリングなど、「制度的な手当」(6)の中で十分に担保可能であるといえる。
また、人材流出についても、過剰に懸念する声があるが、兼業・副業をきっかけに退職する社員が仮に存在するとしても、それはそもそも兼業・副業とは無関係にいずれは退職していたとも思える。
むしろ、「やりたいことをやるためには、今の会社を辞めるしかない。
他方で、やりたいことを諦めて会社に残っても、もはやモチベーションが保てない」という社員に対して、「会社に残りつつ、やりたいこともやる」という選択肢を与えることで、今の企業に引き留めることができ、リテンションに働く面があるといえよう(7)。
すでに様々な企業が兼業・副業を解禁しているが、懸念の払しょくに関しては、このようなスタンスで臨んでいる企業が多いようである。
3兼業・副業による日本型雇用のアップデートこのように、兼業・副業は、企業・働き手・社会のそれぞれに対して大きなメリットを持つものであるが、兼業・副業が今後広がっていくことによるインパクトは、これらに留まるものではない。
伝統的な日本型雇用そのもののアップデートにもつながっていく可能性があるといえよう。
まず、企業においては、既存の従業員が新たに兼業・副業をするか、あるいはすでに他社等で働いている人を新たに受け入れるか、いずれの場合においても、当該従業員に対しては、もはや従来のように“すべてを捧げる”ことを当然に要求することができなくなる。
決められた範囲の中でパフォーマンスを発揮してもらうために、職務(タスク)の明確な切り分けとアサイン、労働時間ではなくパフォーマンスに向けられた評価・報酬の仕組みが必要になろう。
無論、マネジメントの負担は増えるであろうが、社会環境の変化に適応していくにあたって、必要な負担である。
働き手においても、兼業・副業をすることが“選択肢の一つ”として確立してくると、実際に兼業・副業をやるかやらないかにかかわらず、固定的に閉じかねない自らの働き方や、仕事への向き合い方、キャリア観を自然と見直すことになると思われる。
自らを見つめなおすような機会は、普通に働いている中ではなかなか得にくいところであるが、ある種の“分かれ道”が提示されているようになると、その点の感覚も変わってこよう。
これらすべて、従来の日本型雇用(メンバーシップ型雇用)とは相いれないものであり、その観点では、やはり兼業・副業は従来の在り方に対する“アンチテーゼ”といえる。
しかしながら、日本型雇用のアップデートの方向性として、目指すべきものであるともいえよう。
4労働市場の流動化と兼業・副業前述のとおり、伝統的な日本型雇用の特徴としては、「一律固定・同質性重視」「外部との隔絶・閉鎖的環境」が挙げられるが、昨今の社会環境の変化との関係では、もはやこれらは適合的ではない。
日本型雇用の在り方をアップデートしていくことがこれから必要となるところ、その際に必要なものとして挙げられることが多いのが、「労働市場の流動化」である。
この言葉には様々な意味が含まれるところであるが、皆が皆、どんどん転職するようになる(せざるを得なくなる)社会が良いという意味だとすれば、少なくとも今すぐ目指す方向性としては正しくないと思われる。
ある種のコミュニティの維持にも重きを置くという日本型雇用の一側面は、完全に否定されるべきものではない。
そういった必要な側面は残しつつ、しかし行き過ぎた「一律固定・同質性重視」「外部との隔絶・閉鎖的環境」を打破していくために、まず目指すべき方向性は、企業と企業の間にそびえたつあまりにも高い壁を、少しずつでも低くし、社外と接する有益な機会を多少なりとも増やすことであろう。
まさにここで重要となるのが、兼業・副業なのではないだろうか。
すなわち、兼業・副業の形であれば、軸足を今いる企業に置きつつも、外部とのつながりを持つことができ、コミュニティを維持しつつも社外との連続性を確保できるのである。
無論、兼業・副業は、あくまで“選択肢”であって、皆が皆やるべきものではないし、必ずしも全企業が兼業・副業を全面容認しなければならないものでもない。
ただし、当然にこれを考慮外に置くのではなく、選択肢の一つとして、真剣に検討しなければならないといえよう。
企業が、働き手に選ばれるようになり、またイノベーションを進めていくためにも、他方、働き手は自らのキャリアを自律的に形成していくためにも、兼業・副業が働き方やキャリアの選択肢の一つとして当然に存在するようになることが、これからの時代において重要であろう。
【コラム③注】(1)独立行政法人労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」(平成30年9月)によると、正社員のうち、兼業・副業の実施に積極的な者の割合は、37.0%だった。
(2)同調査によると、兼業・副業の許可をする予定はないと回答した企業の割合は、75.8%だった。
(3)濱口桂一郎『日本の雇用と労働法』(日本経済新聞出版社、2011)(4)もちろん、すべての働き手と企業の関係性がここまで単純化できるものではないだろうが、少なくとも、「正社員─企業」の関係性として、一つの大きなモデルであったとはいえるであろう。
(5)社会全体でみても、人材やその人材が有するスキルを一企業にとどまらせずに、いわば“シェア”することは、人手不足に対する有効な施策となる。
(6)兼業・副業を解禁している企業が行っている制度的な手当として、現に実施されているものには、例えば以下のようなものがある。
・事前に、兼業・副業の内容や業務の発注元に関する情報等を社員に届けださせ、問題がないかを確認の上で実施の許可を出す(許可基準にも明記)。
・許可を出すにあたって誓約書を提出してもらい、違反があった場合には許可を取り消す等の対応をとることを明示する。
・兼業・副業の実施状況を定期的に報告してもらう。
なお、「当社での業務にプラスになるものに限る」という許可要件を設けている企業もあるようである。
(7)そもそも、情報技術や転職市場が発達し、他社の情報も手軽に入るようになっているため、自社に留まってもらうために働き手の“目をふさぐ”ことは、兼業・副業とは無関係に、もはや困難になっている。
兼業・副業が人材流出の芽になるという発想は、的外れであろう。
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