TOPIC14「定着しない」の3つの理由とは?中堅アルバイトを離職させる「カネ・ヒト・成長」の不満
DIALOGUE
「店長、また1人辞めちゃうって本当ですか?」「うん、ちょうど昨日、本人とも話し合ったところだよ」「どうしてみんなちょうど半年くらいで辞めるんでしょうね…」「そうなんだよ。せっかく仕事を教えたのに…無念」
アルバイト採用から、数カ月後。せっかく仕事も覚えて、職場にもなじんできたところで、突然辞めてしまう人がいる。また、1年以上働き続け、職場の中心的存在になりつつあったスタッフですら、いきなり辞めることがある。
辞める理由は人それぞれだが、大量の離職者にアンケートをとったところ、「人材が定着しない職場」に3つの共通点が見えてきた。
「辞めても仕方ない」と思っていませんか?
採用後、ひととおりの仕事を覚え、スムーズに職場にも溶け込み、一人前になりつつあるように見えたスタッフが、いきなり辞めてしまう。
しかも、店長からすると、はっきりした理由がいまひとつ思い当たらない——そんな経験はありませんか?採用や育成にかけてきたコストが無駄になり、徒労感と苦い思いだけが残る、店長としては最も避けたい事態の1つではないかと思います。
そこで、まずは次のチェックシートを使って、ご自身のアルバイトマネジメントの状況を振り返ってみてください。
新人ステージでの早期離職をクリアしたにもかかわらず、それなりに仕事に慣れてきたタイミングで辞めてしまう人がいるのは一体なぜなのでしょうか?「理由は人それぞれでしょ?」「その人材自身に問題があるんじゃないの?」という声もありそうですが、アルバイト離職者への大規模な調査からは、もう少し別の答えが見えてきました。
まずわかったのは、仕事がそこそこできるようになり、職場に慣れてきたからこそ抱く不満があるということ。それなりに続いたスタッフが辞めるときには、往々にしてこれらの不満がネックになっています。裏を返せば、店長がそこさえしっかりとフォローしてさえいれば、「防げたはずの離職」があるということです。
働いた期間別に「辞めた理由」の変化を見てみる
そこで、まずは図表52の調査結果をご覧ください。
アルバイトを辞めた人たちを就業期間別に「1カ月未満(早期)」「1カ月以上6カ月未満(中期)」「1年以上(長期)」の3つに区分し、それぞれ離職理由の上位5位を示しています。
1カ月未満で辞めてしまう早期離職については第3章で見たとおりですね(図表42)。
面接時の説明不足や対応の至らなさが要因となり、入社前に抱いていたイメージと実際の仕事とのギャップが「リアリティ・ショック」を生みます。これが職場や店長に対する不信感を一気に高め、1カ月未満という早いタイミングでの離職を引き起こしていました。
ところが、中期および長期の離職理由は少し変わってきます。ポイントを3つに絞りながら、見ていきましょう。
[理由①カネへの不満]額より上がり方!?
まずいちばん目につくのは、「給与への不満」でしょう。早期離職者では5位だったにもかかわらず、中期では3位、長期では1位という具合にどんどん上がってきています。これを単に「時給が低いこと」だけに対する不満だと見るのは、あまりに短絡的でしょう。
というのも、応募や採用の時点で、その職場の時給がいくらなのかはわかっており、スタッフの側もそれに合意しているはずだからです。
それではどう考えればいいのか?就業期間が長くなるにつれて上位に来ていることからもわかるとおり、これは時給の「上がり方」に対する不満だと見るべきでしょう。
仕事の大変さがわかってきたり、自分のスキルがアップしたりしているにもかかわらず、「(それに見合った分だけの)報酬が上がっていない/今後も上がっていく気配がない!」という思いが、不満を引き起こし離職につながっているのだと考えられます。
また、中期・長期の2位に来ている「業務の忙しさ」は、文字どおりの意味に受け取ることもできますが、上記と同じ文脈で捉える必要もありそうです。
つまり、「仕事が忙しすぎる」から辞めたというよりも、「仕事の忙しさに見合った給料がもらえていない」という不満が募った結果なのだとも考えられます。
[理由②ヒトへの不満]「困ったベテラン」はいませんか?
もう1つ注目したいのが、中期の1位に来ている「ベテランの態度の悪さ」です。働く期間が長くなるにつれて、職場でも気が合う人、合わない人が出てくるのは自然なことだと思いますが、この理由がトップに来ているのはじつに生々しいですよね。
新人ステップから中堅ステップへと上がろうとするあたりで、先輩アルバイトとの確執が生まれ、その人間関係に悩むというのはいかにもありそうな話です。
詳しくは次の第5章で見ますが、ベテランスタッフは、新人の育成を担当してくれたり職場全体を活性化してくれたりする、とても貴重な存在になり得る一方で、「諸刃の剣」でもあります。
長期間にわたって勤務を続けるなかで、いい加減な仕事をしたり、問題のある言動を繰り返したりする「困ったベテラン」が生まれてしまうことがあるからです。
こうした「困ったベテラン」は、職場内のいじめやハラスメントといった問題を引き起こしがちです。彼らの悪影響は、勤務歴が比較的浅いスタッフたちに集中します。
典型的なのは「新人に対してあえて仕事を教えない」といった行動で、これはスタッフの大量離職を引き起こしかねないので、注意が必要です。
また、長期の4位に入っている「上司・メンバーの入れ替え」も、広い意味では人間関係の要因と言えるでしょう。「信頼していた店長が他店に異動になってしまった」とか「新しく赴任した店長のやり方が気に入らない」という話はよく耳にします。
また、「人づて採用」のところでも触れましたが、→TOPIC05職場を紹介してくれた知人が離職することで、芋づる式に離職が起きてしまうケースもあります。
人間関係が原因で起こる離職は、単なる「好き嫌い」の問題としては片づけられない部分があります。店長その人への不満はもちろんですが、ベテランスタッフと新人・中堅スタッフとの確執が頻繁に発生する場合、店長の職場マネジメントに問題があると思ったほうがいいでしょう。
[理由③成長への不満]「これからどうなる」を見せる
最後に見ておきたいのが、中期の5位だった「フォローの不足」と長期の3位にある「キャリア展望の見えなさ」です。
店長や先輩スタッフが優しく接してくれた初期のトレーニング期間が終わり、それなりに仕事ができるようになると、突然周りからのフォローが手薄になります。
トラブルがあったりしても、以前のように手取り足取り教えてもらえなくなり、誰にも相談できずに悩んでしまうパターンがあるようです。
また、新人としての緊張感が失われてくるのもこうしたタイミングでしょう。より興味深いのは、長期にわたって就業した人が「将来の見通しの利かなさ」を理由に辞めているということです。
一人前のスタッフとして職場で頼りにされる一方で、立場が変わらず時給も上がらない状態が続くと、「この先ずっとこのままなのだろうか…ほかにもっとよい仕事があるのではないか?」という不安が芽生えます。
これら2つはいずれも、店長が適切な評価やキャリアアップを通して、スタッフに「成長の実感」を与えられていないことが根本的な原因になっています。
アルバイトといえども、ただ時間と労働力を切り売りする仕事だと思ってはいけません。「仕事を通じて成長している」という実感こそが、最も大きなモチベーション要素となるのです。
以上、中期・長期で起こる離職の理由3つをざっと見てきました。次からは「カネへの不満(TOPIC15)」「ヒトへの不満(TOPIC16)」「成長への不満(TOPIC17)」の順で、それぞれの対策も含めて詳しく見ていくことにしましょう。
POINT
□「防げる離職」はたしかにある
□「辞める理由」は就業期間によって大きく異なる
□中堅スタッフの離職は「カネ・ヒト・成長への不満」が原因
TOPIC15時給アップは「引き留め」になるか?「カネへの不満」の本質と対策
DIALOGUE
「いつもありがとう。来月から時給10円アップになるよ。これからもよろしく」「わ!店長、ありがとうございます。うれしい!!」「ところで…来週の土曜、シフト入れる?」「…それとこれとは話が別ですね。無理です(キッパリ)」
アルバイトの離職が続くと、「やっぱり時給が低すぎるせいだろうか?」という考えが頭をよぎるかもしれない。もちろん、アルバイトをする人たちの多くは時給アップを望んでいるし、それがある程度のモチベーションアップにつながることはたしかだ。では、果たして時給アップにはどれくらいの「離職防止」効果があるのだろうか?
時給アップで「継続意欲」は高まるが…
アルバイトの離職が続いたとき、原因として真っ先に思いつくのは「時給」です。実際、すでにで見たとおり、時給が上がらないことへの不満が引き金となり、アルバイトが辞めてしまうケース→TOPIC14はよくあるようです。
とはいえ、職場のコスト構造や企業としての方針がありますから、時給アップには限界があります。また、スタッフ間の公平性などを考えると、アップの幅やタイミングなど、店長としては悩ましい問題が多数控えているのではないでしょうか。
しかし、そもそも時給アップにはどれくらい離職を防止する効果が期待できるのでしょうか?また、給料が上がることで、「職場をよくしよう」という気持ちは本当に高まるのでしょうか?属性別に見た図表53のデータをご覧ください。
見てのとおり、時給アップは「働き続けよう」という気持ち(継続意欲)を多少高めています。とはいえ、今回の調査データでは、明確にその傾向が見られたのはフリーターだけで、学生はやや上がっている程度、主婦層に至っては、ほとんど相関が見られないという結果でした。
時給が上がっても、「貢献したい」とは思わない
さらに注意すべき点は貢献意欲、つまり「職場をよりよくしていこう」とする気持ちのほうです。時給アップはこちらにはほとんど効果が見られません。
つまり、「この職場で働き続けよう」という気持ちにはプラスに作用するにしても、「この職場をよくしていこう」という意欲を引き出すわけではないのです。このことは、過去のモチベーション研究のなかでも言われています。
不満要因(衛生要因)を取り除くことで、仕事に対する不満を減らすことはできても、仕事の満足感を引き出すことはできないのです。
お話を伺った飲食店の店長Iさんは「アルバイトの募集時には、地域の時給よりも極端に高いような金額は、あえて提示しないようにしている」と語っていました。
高い時給につられて応募してきた人は、採用したあとも時給に不満を持ちやすく、離職を防ぐためにはさらに時給アップをせざるを得なくなるためだそうです。
たしかにそういう場合もあるのかもしれません。また、有名ファストフードチェーンのある若手店長Nさんからも、非常に興味深いお話を聞きました。
彼女のお店がある都内の繁華街エリアでは、アルバイトの平均時給がだいたい1,500円だそうです。それに対して同店の時給は1,000円。
思わず「人を集めるのが大変ではないですか?」と聞きましたが、「かえって時給目当てでない人が集まってくれるので助かる」とのことでした。
何よりもまずは「店長は見てくれている」という実感
以上からわかるとおり、時給アップにはある程度の引き留め効果はあるものの、本書が重視している「職場づくり」に寄与する部分は少なそうです。
では、継続意欲と貢献意欲の2つを同時に高めていくためには、何が必要なのでしょうか?調査を通して、時給アップ以上に効果のある方法が見えてきました。
次の図表54がその結果です。
そう、時給アップよりも「仕事ぶりに見合った評価を受けている」という感覚のほうに、「働き続けたい」という気持ちを高める効果が明確に認められたのです。これは評価実感と言い換えてもいいでしょう。
「店長が自分の仕事をいつも見てくれていて、それをしっかり評価・承認してくれている」「店長は私の仕事ぶりを気にかけてくれていて、いつも声をかけてくれている」——そういう実感が失われたとき、アルバイトのモチベーションは失われます。
あるいは、そうした評価実感の不足が「時給への不満」というかたちをとって表面化しているにすぎないと言えるかもしれません。
ある生活用品店の店長Eさんは、ゴミ廃棄などの目立たないバックヤードの仕事を担当するスタッフに対しても、「店長がしっかり見ている」ということを認識してもらえるように気をつけていたといいます。
「『売り場で100万円売り上げた』というようなことだけが仕事ではない。君がやってくれたリサイクルの仕事のおかげで、会社全体にはこれくらいの金額のコスト削減になっている」など、具体的な金額とともに、そのスタッフの貢献度を伝えているとのことでした。かといって、そのたびに時給アップをしているわけではありません。
やはりお金以外の報酬にもスタッフの目線を合わせてもらうことが重要なポイントなのでしょう。ただし、決して誤解しないでいただきたいのは、私としては「店長は時給を上げる必要はない」と主張する気はまったくないということです。時給アップを含めて、スタッフや職場の労働環境をよりよくしていく努力は店長としても企業としても継続するべきです。
しかし同時に、「時給さえ上げれば、すべてが解決する」などというのは明らかな幻想であり、店長にはそれ以外の工夫も求められているということを忘れないでいただければと思います。
「とにかく褒めればいい」ということではない
また、仕事ぶりに〝見合った〟評価という点も忘れてはなりません。運送業でマネジャーを務めるMさんは「むやみに褒めることは逆効果だった」と言っていました。
スタッフ本人が成長を実感して〝いない〟にもかかわらず、Mさんがそこを褒めてしまったために、かえって信頼を失ってしまったことがあるそうです。
「褒めるなら『本当にいい仕事』をしたときでなければならない」とMさんはそこで学んだといいます。また、「責任のある役割を任せてもらっていること」が、「職場を自分の力でよくしたい」といった前向きな気持ちにつながるという調査結果も出ています。これについてはのちほど見ていくことにしましょう。
POINT
□時給アップは「働き続けよう」という気持ちを多少高める
□「評価実感」のほうが継続意欲にはいい影響を与える
□やみくもに賞賛するのではなく、実態に合った「適正な評価」が大切
TOPIC16「アットホームな職場」は求められているか?「ヒトへの不満」の本質と対策
DIALOGUE
「例の新人の彼女、もう辞めるんですか?」「ビックリだよ。歓迎会ではすぐみんなに溶け込んでたから安心してたのに…」「ところで来月のベテランの山田さんの送別会、どうします?」「なんかウチ、歓迎会と送別会ばっかりやってるな…」「アットホームな職場」はアルバイト求人広告の常套句。
スタッフたちも職場の人間関係で余計な悩みは抱えたくないし、ギスギスした雰囲気のなかで働きたい人は決して多くないだろう。実際、中堅アルバイトの離職理由には、人間関係に関するものも多く見られる。しかし本当に「アットホームな職場」は求められているのだろうか?調査からは別のニーズが見えてきた。
やっぱり気になる「職場の仲のよさ」
1カ月以上6カ月未満(中期)で仕事を辞めたアルバイトの離職理由1位には「ベテランの態度の悪さ」が上がっていました(図表52)。巻末の店長座談会でも「リーダー格のアルバイトが原因で、辞めていく新人は意外に多い」という話が出ています。
ベテランスタッフは自分のポジションを守るために、新人に圧力をかけたり派閥をつくったりする傾向があります。「みんなに頼られたいがために、あえて新人を潰して『人が足りない状況』を維持しようとするベテランがいた」というゾッとする話も耳にしました。
これらはちょっと極端な例なのかもしれませんが、半年程度は辞めずに続いたスタッフが、さらに長期にわたって職場に定着するときには、やはり人間関係が大きなネックになることは間違いなさそうです。このあたりのことについては、現場の店長さんたちのほうがはるかによくご存じでしょう。
実際、求人広告などを見ると、「みんな仲がよくて、アットホームな職場です」という具合に、人間関係のよさをアピールする言葉が溢れています。
店長やスタッフたちが家族・友達同士のように仲良しで、楽しく働ける職場があるのだとすれば、たしかに離職する人は一見少なそうです。しかし…本当にそうでしょうか?
「仲良しベッタリ」な職場でも「すぐ辞める人」はいる
たとえば、新人が入るたびに歓迎会をやっているというような職場はどうでしょうか?こうした会があれば、スタッフ同士が仲良くなる機会は多いように思えます。ところが、次の図表55のデータを見てください。
これは1カ月未満で辞めてしまった早期離職者と、1カ月以上は続いた(しかしそのあと辞めてしまった)人に「歓迎会があったかどうか」を聞いた結果です。
このデータだけを見ると、なんと早期離職している人のほうが「歓迎会があった」と答えている割合が高く出ています。もちろん、だからと言って「歓迎会を開くと、早期離職が起こりやすくなる」などと主張したいわけではありません。
ただ、お店をあげて歓迎会を開き、アットホームな仲良しムードを演出したからといって、その後、新人が長続きするかどうかはわからない、ということです。
オフタイムにも一緒に旅行に行ったり、イベントを企画したり、飲み会を開いたりと、スタッフ同士の仲がよい〝アットホームな職場〟ほど、定着率が高くなるかといえば、必ずしもそうではないようなのです。
おそらくは、そうした親密な雰囲気に「のれる」人は残りますが、そうでない人には、こうした人間関係が〝過剰〟に映るのでしょう。では、アルバイトの人たちは職場でどのような人間関係が生まれることを望んでいるのでしょうか?
「真面目なニーズ」を見過ごすな
図表56の調査は、どのような職場コミュニケーションが「この職場で長く働き続けたい」という気持ち(継続意欲)に影響を与えるのかを調べたものです。やはりこのデータを見ても、一般的な意味での「仲のよさ」は上位には来ていません。
プライベートな話ができるスタッフがいても、継続意欲にはさほど影響していませんし、「悩み・不満を打ち明けられる」に至っては、むしろマイナス効果が出ています。
たとえスタッフ同士の関係が緊密であっても、そのコミュニケーションの「中身」が愚痴や中傷だったりする場合は、継続意欲にはネガティブに作用します。
調査データを見る限り、アルバイト間のコミュニケーションでは、職場に関わるものが好影響を与えていることがわかります。
- スタッフの間に職場をよくしようとする雰囲気がある
- ミスが発生したときは、ほかのスタッフから十分なフォローがある
- ベテランスタッフから、ほかのスタッフと平等に接されている
これは店長がつい見逃しがちなポイントではないかと思います。スタッフたちは「プライベートも一緒に遊べるような仲間の輪」につられるほど愚かではありません。
むしろ、職場改善につながるコミュニケーションをとり合える〝真面目な人間関係〟を意外と求めているのです。もちろん、職場のメンバーが打ち解け合っているのはすばらしいことです。
求人の際にそこをアピールしない手はありません。
ただ、人材の定着を真剣に考えるのなら、やはり仕事面での信頼関係や健全なライバル意識、チーム意識をつくり出していく努力が必要になります。
スタッフたちの仲はよいのに、なぜか人材の流出が止まらないという職場では、そうした種類のコミュニケーションが不足していないか、再度、検討してみることをおすすめします。
「チーム実感」を生み出した2つの仕組み
では、職場をよくしていこうとする「建設的な職場関係」をつくるために、どのような工夫ができるでしょうか?アルバイト育成に定評がある某居酒屋チェーンでは、全国のスタッフがアクセスできるウェブ掲示板を用意し、そこで「お客様を感動させるサービス」のアイデアを募っているといいます。
アルバイトたちは自分なりに考えたサービスをそこに投稿し、逆に他人のアイデアも「これはいい!」と思えるものがあれば取り入れます。
お互いのやり方を共有する仕組みをつくることで、スタッフ間に建設的なコミュニケーションが生まれます。優れたアイデアは本社で表彰されるため、現場のモチベーション向上にもいい影響を与えているといいます。
また、ある大型スーパーマーケットでは、売り場ごとにアルバイトが集まり、職場の問題点や改善策を意見交換するワークショップが開催されているそうです。
意見を言ったアルバイトは「言い出しっぺ」として率先してそれに取り組むようになり、実際に効果が上がる例が多いのだとか。
飲み会を開いて愚痴を言い合っているよりもはるかに建設的だということで、自主参加のイベントながら高い参加率を誇っているとのことでした。
いずれの場合も、プライベートで仲良くするのではなく、あくまで職場改善につながるコミュニケーションを促進しようと試みているところがポイントです。
アルバイトのスタッフたちは、つらい仕事に一緒に耐えつつ、職場の外で愚痴をこぼし合える仲間を求めているわけではありません。
仕事を楽しみながら、仲間とともにいい職場をつくっているというチーム実感こそが、人材定着のカギなのです。
POINT
□「職場の仲のよさ」は離職防止にはあまり効果がない
□愚痴を言い合える関係性は、継続意欲にはマイナス
□「職場貢献を意識したコミュニケーション」が人材を定着させる
TOPIC17「これからどうなる」を示せているか?「成長への不満」の本質と対策
DIALOGUE
「君ももうウチに来て1年か〜。頼りにしてるよ!」「恐縮です!でもまだまだわからないこともありますし…」「いやいや、教えることはもうないよ。このまま頑張って!!」「あ、はい…(いつまでこの仕事なんだろう…)」
1年以上続いたアルバイトが辞めるとき、多くの人が「将来の見通しの利かなさ」を理由にしている。店長としては、アルバイトの育成プロセスを設計し、〝成長の実感〟を持たせていくことが欠かせない。頼れるベテランへと育成するために必要な「経験軸の育成」について見ていくことにしよう。
「成長の設計」こそ店長の仕事
中堅アルバイトの離職理由となる「カネへの不満」と「ヒトへの不満」について見てきました。最後に考えておきたいのが、自分の成長に壁を感じたり、将来の展望が見えなかったりすることで生まれる「成長への不満」です。
すでに離職理由ランキングをもう一度思い出してみましょう(図表52・再掲)。
中期(1カ月以上6カ月未満)の離職者では「フォローの不足」(5位)が、長期(1年以上)の離職者では「キャリア展望の見えなさ」(3位)が上がっていました。
アルバイトに限りませんが、人材が成長する過程で、これらの壁にぶつかることは決して珍しいことではありません。ただ、これが原因で離職にまで至ってしまう場合、マネジメントの側にも責任があるケースが少なくありません。
それぞれの成長ステージに応じた育成を、マネジャーが提供できていないのです。
人材育成の理論には「ピープル軸」と「経験軸」の2つがあるという話をしたことを覚えているでしょうか?→TOPIC11新人育成の段階では、どちらかというとピープル軸、つまり「人は人のサポートによって育つ」という考え方のほうに力点を置いて説明させていただきました。今度は経験軸アプローチについてお伝えしておきましょう。
経験軸の育成では「ストレッチゾーン」を意識する
経験軸の育成のベースには、「人は業務経験を通じて育つ」という発想があります。この点については、現場でご活躍の店長さんたちにはご賛同いただけると思います。
座学の研修だけをしてもスタッフたちはなかなか仕事ができるようにはなりません。人に外から教え込まれるのではなく、経験を通じて自分なりに体得するしかない要素が、実務の領域には無数にあります。
では、どんな経験が人を育てるのか?次の図表57は経験軸の学びを解説するときによく引用される概念図です。学習者(つまりここではアルバイトのスタッフですが)の心理的空間には①コンフォートゾーン(快適空間)、②ストレッチゾーン(挑戦空間)、③パニックゾーン(混乱空間)の3つがあります。
コンフォートゾーンに属する経験とはさほど苦労なくこなせる業務、パニックゾーンのほうは本人のキャパシティを超えていて処理しきれなくなってしまう業務だと考えてください。
そして、その中間に位置するストレッチゾーンに来るような業務こそが、人の成長を生み出すと考えられています。ある程度の背伸び(ストレッチ)や失敗のリスクを負いながらも、それをくぐり抜けるような経験をしたときに初めて、「経験による育成」は成功します。まさに〝今日の背伸びが明日の日常〟という具合に少しずつ仕事ができるようになっていくのです。
優秀な店長は「小さな背伸び」を手渡している
たとえば、中期(1カ月以上6カ月未満)の離職者が「フォローの不足」を訴えるとき、店長はこのような学習空間の設定に失敗している可能性があります。
新人のときに与えられたあまりにも簡単すぎる仕事(コンフォートゾーン)ばかりをやらされ続けた結果、成長実感が得られずに仕事が嫌になってしまったのではないでしょうか?あるいは、パニックゾーンに属するような重たすぎる経験が重なった結果、自信を失っているのかもしれません。
スタッフを一人前のアルバイトに育成していくためには、それぞれの人材のステージに応じた学習ゾーンの見極めが肝心になります。
人を育てることに成功している優秀な店長たちは、ただルーティンの仕事をこなさせたり、重たい仕事を丸投げしたりするのではなく、適度な責任や裁量を持たせながら、「小さな困難」を乗り越えるような経験を〝提供〟しています。ステップアップを意識しながら仕事を割り振っていく工夫をしてみましょう。
「成長実感」をいかに演出するか
このような育成のときに同時に必要になるのが、スタッフ本人にも自分の成長を〝実感〟させることです。
「あなたはこういうことができるようになった」「いまのあなたにはこれが足りない」「これからこれができるようになっていくべきだ」——そうしたことを伝えて、アルバイトに「自分の位置」や「今後の目標」をはっきり意識させることも、店長の大切な仕事です。
1年以上働いたアルバイトの離職理由3位が「キャリア展望の見えなさ」だというのは、店長がこの役割をしっかり果たせていない証拠だとも言えるでしょう。
仕事をはじめて1年もすれば、ひととおりの仕事に慣れてしまい、「新しく覚えるべきこと」が何も見当たらなくなります。するとそのスタッフは、日々の仕事の中でまったく成長実感が得られなくなり、ある日突然、離職してしまいます。
これを防ぐためには、定期的に面談などの場を用意し、「店長としてどのように成長してほしいか」「アルバイトとしてどのように成長していきたいか」を互いに共有するのがいちばんでしょう。
また、一定の規模を持つチェーン店などであれば、アルバイトのなかにも一定の「職位」が設けられていると思いますので、そうした枠組みを利用しない手はありません。
アルバイトの育成体制が整備されていることで有名な某ファストフードチェーンでは、控え室に全員の成長ステップが確認できる大きな用紙が貼り出されています。
一定の水準をクリアすると、その用紙にシールを貼ることになっているので、本人も自分の位置や目標をつねに実感できます。まさに育成理論の基本に忠実な、理にかなったやり方だと言えるでしょう。
さて、ここまで主に「この職場で働き続けたい」という気持ち(継続意欲)に影響を与える3つの要因、すなわちカネ・ヒト・成長について見てきました。
ひとまずここでまとめておきましょう。
①カネへの不満——じつは「時給のアップ」ではなく、承認してくれている・気に掛けてくれているという「評価実感」が求められている
②ヒトへの不満——じつは「仲良しグループ」ではなく、職場をよくしようという「チーム実感」が求められている
③成長への不満——じつは「楽な仕事」ではなく、自分の能力やスキルが伸びているという「成長実感」が求められている
ただし、これは調査対象をひとまとまりにして見えてきた答えです。
興味深いことに、これを学生・主婦・フリーターという属性別に切ってみると、また微妙な差が出てきました。最後に付論としてこの点にも触れておきましょう。
[付論]属性別に見る「評価される店長」のポイント
図表58は「店長のどのようなアクションが『この職場で働き続けたい』という意欲を高めるか?」をまとめた結果です。みなさんの職場の人員構成を考えながら、次の分析も参考にし、現場でのアルバイト育成にお役立てください。
学生
「、」すでに確認したとおり、学生バイトは店長の人柄や態度に重きを置く傾向があります。そのため、店長とのあいだに不信感が生まれると、すぐに継続意欲が低下してしまいがちです。
日頃から学生バイトには目をかけるようにし、「お疲れさま」「よくやっているね」「助かっているよ」など、感謝やねぎらいの言葉を積極的にかけるようにしましょう。
また、スキルが身につくような少し難しい仕事を任せるのもオススメです。「店長から信頼されている」という実感は、仕事を続けようという気持ちを高めます。
一方で、忙しい学生生活を送りながら、時間を削って働いているということもあり、「やりがい」よりも「割のよさ」を求めるようなクールな側面もあります。
仕事の忙しさに見合った時給アップがないと、継続意欲にマイナスに作用することがありますのでご注意ください。
主婦
「」主婦はまず「納得感」を重んじます。面接時の説明よりも仕事の量が多い、マニュアルの説明と現場の運用が異なる、人によって仕事のやり方がまちまち、評価のポイントがあいまい、などといった点に不満を抱きやすい傾向が出ています。
また主婦の場合、時給アップがあまり継続意欲や貢献意欲の向上につながりません。むしろ、体力的な面で心配もあるためか、仕事量が増えることに不安を抱く傾向があります。忙しいときや困っているときに、きちんとフォローがあると、安心して働き続けられるようです。時給のウエイトが低いとはいえ、スタッフ間の「公平性」にはかなり敏感です。
不公平だという声は主婦間のネットワークであっと言う間に広まるので、この点には注意が必要でしょう。ある小売店の店長Oさんは、主婦スタッフを多く抱えていることもあり、公平性の確保にはかなり気を配っているとのことでした。
それぞれのメンバーについて「今月は何回、休日シフトに入ってもらっているか」「掃除当番が何回目か」「本人希望に沿わないシフトに何回入ってもらっているか」など、細かなところまで記録し、スタッフ間に〝偏り〟が出ないようにしているそうです。
1カ月のうちで調整できなければ、翌月分で帳尻を合わせるとも言っていました。過去にかなり大変な思いをしたのかもしれませんね。
フリーター
「」フリーターは、3つの属性のなかでは最も多様な人材を含んでいますので、ほかの2つに比べると特定の数値が高く出ていないことが特徴です。しかし、将来的なキャリアアップや昇給の展望を示すことは欠かせません。
「いずれはバイトリーダーになってほしい」「この役割を任せたい」「こんなスキルが身につく」など、今後どのようなステップが用意されているのかを折に触れて話すことがカギになるでしょう。
また、それに伴う評価実感を持ってもらううえでは、適切な時給アップも検討するべきです。
POINT
□人材の経験軸の育成には「小さな背伸び」が必要
□店長は「ストレッチゾーン」の仕事を手渡していくべき
□アルバイトが自分の成長を実感できる仕組みを用意する
第4章のまとめ
Q.「定着しない」の3つの理由とは?
▼ある程度続いたスタッフが辞めるときには、①時給の上がり方に対する不満、②ベテランとの確執など、人間関係に対する不満、③成長実感が得られないことに対する不満の3つが関係しています。
Q.時給アップは「引き留め」になるか?
▼給料の上がり方に不満を持つ人が多い一方、時給アップが継続意欲や貢献意欲にダイレクトにつながるわけでもなさそうです。「お金でつる」という発想ではなく、「評価実感」を持ってもらうための手段として考えると、離職防止にも大いに役立ちます。
Q.「アットホームな職場」は求められているか?
▼人間関係が理由で辞める人も多いですが、「仲良しグループ」的な職場はそれほど求められていません。むしろ、仕事のことを通じた「真面目なコミュニケーション」を充実させると、定着率が高まることがわかっています。
Q.「これからどうなる」を示せているか?
▼それなりに続いた人が突然辞めるときの理由の1つが「先の見えなさ」。決まった仕事をこなすだけの使い捨て人材として扱っていませんか?「小さな背伸び(ストレッチ)」を与えながら、スタッフの成長を「設計」していく発想が欠かせません。
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