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第3章「すぐ辞める」はこうして起こる[新人ステージ]

目次

TOPIC09なぜ「すぐ辞めるバイト」がいるのか?データで見るアルバイトの「早期離職」

DIALOGUE「あれ?店長、なんか暗いですけどどうかしましたか?」「じつは、先月入った学生バイト君から『辞めたい』って電話があってね…」「え?『彼は見どころがある。一人前に育ててみせる!』って意気込んでたのに…」「僕って人を見る目がないのかなあ」

アルバイト採用後、わずか1カ月も経たないうちに辞めてしまう早期離職。これこそがまず店長として「出口対策」を考えるべきポイントだ。

早期離職率が高い職場には、どのような特徴が見られるのだろうか?また、辞める人たちにはどんな心理が働いているのだろうか?

早期離職によるロスは甚大

アルバイトの内定辞退も困りますが、新人研修をしたり、現場での仕事をOJTで教えたりしたあとに、辞められてしまうケースのほうが店長としてはガックリくるのではないでしょうか。

本書では採用後1カ月未満でアルバイトを辞めることを早期離職と定義しています。人手不足に悩まずに済むようになるためには、まずこの早期離職を減らす必要があります。

採用したばかりの新人は、仕事のパフォーマンスの点でも周りのスタッフに及びませんし、仕事を覚えるまでは店長や教育係が教える必要がありますから、職場全体の作業効率を一時的に低下させます。

つまり、新人アルバイトは開始1カ月未満の期間だけを切り取ってみれば、1人分の働きをすることはまず期待できないのです。

それでも新人を雇うのは、その人が次第に成長することで、職場を助けてくれる心強い仲間になってくれるからです。新人のときにみんなの足を引っ張った分、将来それを取り返してくれることを期待しているわけです。

そう考えてみると、アルバイトの早期離職はきわめて非効率だと言えます。せっかく周囲のスタッフが新人教育の時間を割いても、その「投資」はまったくリターンを生みません。

採用にかかった金銭的コスト、教育にかかった時間的コスト、そして再び起こる人手不足によるスタッフのモチベーション低下、新たな求人を出すためのコストなど、そのマイナスには計り知れないものがあります。

離職者の22%は「1カ月未満」で辞めている!?

しかし、人手不足に悩んでいる店長ほど、早期離職の食い止めに意識が向かっていません。まずはこの〝出血〟を止めることから、すべての出口対策ははじまります。まずは、この早期離職の実像をつかんでおくことにしましょう。

「かつてアルバイトをしていたけれど辞めてしまった」という人に、「どれくらいの期間で離職したのか?」を尋ねてみました。その結果が次ページの図表37です。

じつに離職者全体の約22%が1カ月未満で辞めています。属性別に見ると、早期離職率がいちばん高かったのは高校生(29.3%)、いちばん低かったのは主婦(17.5%)でした。

つまり、高校生バイトの3割は1カ月未満で仕事を辞めてしまうということです。しかし、これだけで「学生はすぐ辞める」などと言い切ることはできません。

というのも、もともと高校生は春休みや夏休みの期間限定でアルバイトをするケースが多いからです。大学生ほか(短大・大学・専門学校生など)についても同様の理由で、数字が高く出ている可能性を考慮するべきでしょう。

そもそも、最初から「すぐ辞めることになっても仕方ない」と考えているアルバイトは多くありません。つまり、早期離職は職場にとってだけでなく、スタッフ当人にとってもハッピーとは言えない出来事なのです。

実際、多くの人がアルバイト仕事を探すうえでは「安定して長く働き続けられそうかどうか」を重視していることがわかっています。図表38のデータを見てください。

これは「仕事についての考え方」を調査した結果です。このとおり、全体としては6割以上が「1つの仕事を長く続けたい」と考えています。

10代に限って言えば、経験が少ない分、「いろいろな仕事をしてみたい」という気持ちのほうが強く出ていますが、やはり最初からすぐ辞めるつもりでアルバイトをはじめる人は決して多くないのです。

店長としても、この気持ちに「育成」で応えていかなければなりません。ある外食チェーンの店長のYさんは、求人の方針について「横綱以外は誰でも採用します!」という言葉を語っていました。

これは「応募してくれた人は全員採用する」という意味ですが、なぜここまで大胆なことを言い切れるのでしょうか?これに対し、Yさんはこう答えていました。

ウチに入ったアルバイトは、全員、必ず一人前に育てる覚悟と自信があるからです」実際、Yさんのお店のアルバイトの定着率の高さは群を抜いていました。

どんな人が応募してくるかは、店長にとってコントロールしづらい事柄ですが、入社に至ったアルバイトが長続きするかどうかは、店長の工夫次第でかなり下支えできるということでしょう。

「ほかの選択肢」があると、躊躇なく辞める

早期離職の引き金となる要素はほかにもありそうです。辞める理由をあれこれと尋ねてみたら「じつは、近くの○○でバイトをすることになりまして…」などと言われたことはないでしょうか?実際、アルバイトの早期離職率は「次の職を見つけやすいかどうか」によっても左右されます。

調査によると、周辺の競合するアルバイト先の数が多ければ多いほど、1カ月未満で「辞めたい」と考える人の割合も多くなっていました(図表39)。

ここからわかるとおり、求人時点だけでなく、採用後にも、ほかの職場との競合関係は続いています。せっかく競争に打ち勝って、優秀なアルバイト人材を獲得できたとしても、新人受け入れに失敗すれば、その新人はほかの職場に流れてしまう可能性があるのです。

データを見てわかるとおり、周囲に競合店が5軒以上ある場合は、競合店がまったくない場合(0軒)に比べて、早期に「辞めたい」と考えた人の割合が2倍以上になっています。アルバイト先が密集していたり、交通の便がよかったりする都心部のほうが、注意が必要だと言えるでしょう。

「すぐ辞めない=不満がない」とは限らない!!

このように、アルバイトが1カ月未満で早々に辞めてしまうときには、単に仕事への不満といった理由だけでなく、「次の職場を簡単に探せそうか」というような外部要因も大きく関係しています。

裏を返せば、早期離職しなかったからといって、そのスタッフが不満を持っていないかというと、そんなこともないのです。この点をもう少し深掘りしてみましょう。

先ほど図表37で見たように、1カ月未満での離職率が最も低い属性は「主婦」でした。一方、「入社1カ月未満で辞めたいと思いましたか?」という質問をすると、図表40のような結果が出ました。

なんと、主婦は1カ月未満で辞めたいと感じている割合がいちばん高かったのです(32.3%)。ここから言えるのは、主婦はかなり早い段階で職場に不満を持ちながらも、辞めずに〝我慢〟する傾向があるということでしょう。

なぜ主婦は「辞めたい」と感じながらも、実際の早期離職に至らないケースが多いのでしょうか?そのヒントになりそうなのが、図表41のデータです。主婦は学生やフリーターよりも比較的長い時間をかけて仕事選びをしています。

すでに見たとおり、家族を最優先する主婦は、自分の生活時間に合わせて働けることを重視しますから、→TOPIC04通勤のしやすさや勤務時間帯など、いろいろな条件をじっくりと吟味して職探しをしています。

そこでしっかりと時間をかけて選び抜いた分、多少の不満があっても、衝動的にアルバイトを辞めたりはしないのではないかと考えられます。

では、「次のアルバイト先の探しやすさ」といったこと以外に、どんな要因が早期離職を誘発しているのでしょうか?図表40にあったとおり、アルバイトをしている人の30.5%は、入社1カ月未満で「辞めたい」と感じています。では、実際に辞めてしまう人と辞めずに続ける人の差というのはどこにあるのか?このあたりを次に探っていきましょう。

POINT

□1カ月未満の早期離職者は離職者全体の約22%

□全体としては「1つの仕事を長く続けたい」という傾向が強い

□周辺の競合数が多いほど、早期離職を考える人の割合も多くなる

TOPIC10「話と違うので辞めます」を減らすには?入社後の「リアリティ・ショック」を軽減するRJP

DIALOGUE

「店長、例の新人さんが『こんなにキツいとは…』ってこぼしてましたよ」「面接で調子のいいことばかり言いすぎたかも…」「やっぱり!彼、きっと『ダマされた!』って思ってますよ」「でも『ウチはキツいよ!』って正直に言ったら、内定辞退されちゃったこともあるし…もう、いったいどうすればいいんだ!」

早期離職してしまった人に理由を尋ねると、意外にも「面接のせいだ」という答えが返ってくる。彼らはいったいどのような不満を抱いて辞めてしまうのだろうか?「現実的職務予告(RJP)」に関する研究なども参照しながら、早期離職の根本原因と防止策を探っていこう。

1カ月未満で辞める人は「面接がよくなかった」と答える

引き続き、現場の戦力になる前に辞めてしまうアルバイトの早期離職の話です。なぜ採用から1カ月も経たないうちに辞めてしまう人がいるのでしょうか?離職に至る理由は人さまざまですが、早期離職者に「辞めた理由」を尋ねてカテゴリ別にまとめて集計したところ、図表42のような結果が得られました。

いちばん多かったのはなんと「面接時の対応」です。入社後のことではなく、入社前に受けた印象が、早期離職の要因になっているわけですね。

2位以降に続いている「雰囲気」「忙しさ」「人間関係」「条件」などへの不満はさもありなんという印象ですが、「面接時の対応」が1位に来ているのは、意外な感じがしませんか?面接で不満があったなら、内定を辞退すればいいはずです。

にもかかわらず、入社しているというのはどういうことでしょうか?そもそも、面接時の対応にどんな不満を抱いているのでしょうか?この点を少し掘り下げてみたいと思います。

「リアリティ・ショック」が早期離職の主な原因!?

上述の疑問を考えるために、今度は入社1カ月未満で辞めたいと思った(しかし、実際には辞めなかった)人に、その理由を尋ねてみました。新人アルバイトはどんなことに不満を感じるのでしょうか?次ページに掲載した図表43を見てみましょう。

「面接時の説明と仕事の量が違う」(1位)、「面接時の説明と仕事の内容が違う」(2位)、「入社前のイメージよりも仕事の量が多かった」(4位)、「入社前のイメージよりも、仕事に厳しい雰囲気の職場だった」(5位)…これらの項目を見て、何かお気づきのことはありますか?そう、ギャップです。

「忙しいこと」「厳しいこと」そのものが原因で辞めているというよりむしろ、実際に働きはじめる前に抱いていたイメージとのギャップが引き起こすリアリティ・ショックが、早期離職の要因になっているらしいのです。

「面接のやり方がまずいと内定辞退につながる」という点→TOPIC06はすでに確認したとおりですが、どうやら面接の影響範囲はそれだけではありません。面接がうまくいっていないと、リアリティ・ショックによる早期離職をも引き起こしかねないのです。

面接の成否を決める「現実的職務予告」とは?

ここから見て取れるように、人材の採用と育成には、お互いに切り離せない部分があり、採用ステップの時点でやはりある種の育成がはじまっているのだとも言えます。

リクルーティング研究(採用研究)の世界でも、そのあたりにまで踏み込んだ研究がなされています。採用にまつわる科学に関しては、すでにリクルーティング・メディア研究とリクルーター研究の2つを紹介してきましたが、最後に重要なのが現実的職務予告と呼ばれる行為に関する研究です。

→TOPIC03一見難しそうな言葉ですが、元の言葉はリアリスティック・ジョブ・プレビュー(RealisticJobPreview)、つまり「仕事の内容をできる限り実像に近いかたちで〝下見〟させること」です。専門家のあいだでは頭文字を取ってRJPなどとも呼ばれています。

求職者は自分なりに情報収集をしたうえで、新しい職場に対して何らかのイメージを持っています。それはしばしば、過剰な期待や楽観的予測に基づいた〝幻想〟を含んでいます。

入社後のリアリティ・ショックは、この幻想と現実との格差によって生まれます。そこで、採用活動を真の成功に導くためには、リクルーター(面接者)がRJPによってその〝幻想〟をほどよく実像に近づけ、採用後の〝衝撃〟を少しでも和らげる必要があります。

つまり、リクルーターには、つねに適切なRJPが求められるというわけですす。

人材面でも業績面でも安定した実績を上げている店長のOさんは、面接のときに必ず「ここで働くことについて、いまどんな想像をしていますか?」と質問するようにしているそうです。

求職者が過剰な期待感を持っていないか、必要以上に心配していないかをたしかめて、面接の段階で認識のズレをなくすよう心がけているとのことでした。これも効果的なRJPのためのテクニックだと言えるでしょう。

「キツさ」を強調しすぎてもNG

アルバイトが「面接で聞いていた話と違う!」と言ってすぐに職場を去ってしまう場合、店長(=面接者)のRJPに不備がある可能性があります。

図表42でも確認したとおり、「面接時の対応」が早期離職理由の1位になっていました。これは、採用面接が「イメージとリアルとのギャップ」を埋める機能を果たしていないことの表れでしょう。

ただ、「あらかじめ現実を垣間見せる」といっても、その程度が大変難しいのも事実です。

あまりに期待を打ち砕いてしまうと、「ここで働いてみたい」という気持ちを削いでしまいますし、あまりに〝幻想〟を放置しておけば、入社後にギャップを感じて辞めることになってしまいかねないからです。

最も気をつけねばならないのは、人手に困って人材を獲得しようと焦るあまり、面接者が「バラ色の未来」ばかりを強調してしまうことです。

これは求職者本人にとっても、職場にとってもプラスになりません。

あまりに期待に胸を膨らませた状態で入社した新人は、現実に直面するたびに「ダマされた…」と感じ、店長や職場に対する信頼を失っていきます。

一方で、「よし、今度から面接ではすべてぶっちゃけてしまおう!」と思うのも間違いです。入社後のギャップを防ぐために、面接の段階から「ウチは仕事、本当にキツいよ。覚悟してね」などとマイナス面を強調しすぎていては、採れる人材も採れません。

過剰な幻想も過剰な不安も抱かせることなく、〝現実に見合った健全な期待〟を持ってもらうことが、採用面接の最終的なゴールです。

面接者には相当なバランス感覚が求められますが、実務においてはどんなことに気をつければいいのでしょうか?早期離職につながりづらい面接のやり方を考えていきましょう。

「リアルな期待」を生み出す面接の4ステップ

「やりがい(=求職者のニーズに応じたアピールポイント)を伝えることが内定辞退をさせない面接のカギだ」という点はすでに確認したとおりです。

→TOPIC08早期離職を防ぐうえでも、やはり「仕事のやりがい・魅力が伝わること」が重要なのが図表44からは見て取れます。

その意味では、いきなり「ありのまま」を突きつけるのではなく、まずは求職者のニーズ(相手が本当に求めているやりがい)に応えられる職場だと納得させた〝あと〟で、現実を垣間見せるという「手順」が大きな意味を持ってくるのだと言えるでしょう。

また、すでに見たように、相手のニーズを知るにはそれを「聞く」ステップが必要ですし、初対面の段階でそこまで踏み込むためには、まず面接冒頭で「信頼感」をつくっておくことが不可欠になります。

これをまとめると、

①まずヒアリングのための信頼をつくり、

②信頼に基づいて相手のニーズを引き出し、

③それに応えるやりがいを示したうえで、

④最後にちらりとリアルな側面を見せるという4つのステップが見えてきます。

図表45の具体例も参考にしながら、ご自身の面接を振り返り、実際の面接にも活用してみてください。

POINT

□早期離職の原因は「入社前のイメージと現実とのギャップ」

□リアリティ・ショックを軽減するには「現実的職務予告(RJP)」がカギ

□仕事の大変さだけを強調しても、早期離職の防止効果はあまりない

□仕事のやりがい・魅力も伝え、「リアルな期待感」を持たせる

TOPIC11新人受け入れ時の「」アルバイトの「初期定着」をつくる仕組み

DIALOGUE

「店長、あの新人の子、全然動かないんですけど!!」「ああ、まだ何も仕事を教えていないから仕方ないよ」「ええっ!!ほったらかしにもほどがありますよ〜」「うぅ…、僕も今日は手いっぱいだったんだ」

なかなか忙しくて教育の時間がとれないアルバイトの現場。ついつい育成を後回しにして、OJTとは名ばかりの放置状態になってしまいがちだ。しかし、新人バイトに〝ほったらかし〟は禁物。新人受け入れを成功させるための、職場づくりについて見ていこう。

「ほったらかし」は絶対NG

早期離職のいちばんの要因は「リアリティ・ショック」にあり、それを防ぐには面接時の適切な現実的職務予告(RJP)が必要だということを確認しました。

とはいえ、もちろんイメージと現実のギャップだけが原因で「すぐ辞める」のかといえば、そんなことはありません。新人受け入れステージでは、そのほかにどんなことに気をつければいいでしょうか?図表43のデータをもう一度思い出してください。

「リアリティ・ショック関連」以外で早期離職と高い相関を示していたのが「仕事中にほったらかしにされること」(3位)です。

せっかく新人を採用したのに、あまりにも職場が忙しいせいで、教育や指導をしないまま「放置」してしまっていませんか?これが新人アルバイトの大きなストレスとなるのは間違いありません。

とくに入ったばかりの新人に対しては、先輩バイトや店長がつきっきりで指導できるようなシフト体制を組み、「ほったらかし」を防止するようにしましょう。

マニュアルを読めばわかることでも、マニュアル任せにするのではなく、自分たちで「育成する」のだという意識で新人アルバイトに接する必要があります。

「ほったらかしOJT」の時代は終わった

かつて日本の職場の育成は、OJT(OntheJobTraining:実際の仕事を通じたトレーニング)が「伝家の宝刀」とされていました。

新人にはとりあえず職場の雑用を任せておき、先輩の仕事ぶりを見よう見まねで学ぶうちに、やがて一人前に育っていくという考え方です。この育成モデルの根本にあるのは、言うまでもなく「徒弟制」です。師匠と弟子のように、長い時間をかけて一人前に育てていくモデルが、かつての日本では最も支配的でした。

しかし、もはや時代は変わりました。正社員領域でも、こうした徒弟制を模した人材育成モデルは、一部の例外を除いて、うまくいかなくなってきています。

まして短期的な人材育成が求められるアルバイト・パート領域では、「背中を見て育て」「空気を読め」といった旧来型のOJTはまったく機能しません。人を育てるためには、店長が言葉を尽くさなくてはならないのです。

採用した新人には「ピープル軸の育成」を意識しよう

育成研究では、人を育てる要素をピープル軸経験軸の2つから考えます。経験軸とは「人は経験によって育つ」という考え方で、OJTのベースにもある発想だと言えるでしょう。

これについてはのちほど解説することにして、まず注目したいのは「人は人々によって育つ」というピープル軸のアプローチのほうです。

人は業務経験を与えられれば、たしかに仕事ができるようになります。ただし、それだけだと、どうしても自分がいま持っている力では越えられない「壁」が出てきます。

そんなときには、ほかの人からの助言や指導があったり、励まされたり叱られたりと、さまざまな支援・フィードバックを受ける機会が不可欠です。

アルバイトの仕事、とくに新人ステージにおいては、「ピープル軸の育成」が重要です。アルバイトは、一般企業の正社員と違って、「やってもらうべき仕事」がある程度は決まっていますし、それほど気長に成長を「待っている」わけにはいきません。

新人を採用したら、最初はとにかく周囲が積極的に関与して、その人材をできる限り早く「一人前」に育成することが望ましいのです。

「新人が長続きする職場」をつくる3つの施策

では、新人の受け入れにプラスに作用する施策として、どんなものが考えられるでしょうか?「1カ月未満で辞めてしまった人」と「それ以上続いた人」のそれぞれの職場特性と比較調査したところ、いくつかのポイントで顕著な差が認められました。

次ページの図表46をご覧ください。これをベースに考えると、少なくとも次の3つの施策が有効だと言えそうです。

①教育担当者をきちんとつける

新人は「みんなで教える」ではなく、明確に教育担当者がいるほうが、長続きするという傾向が出ています。ただでさえ人手不足ですから、教育を担当できるほど優秀なスタッフは多くはいないかもしれませんし、そういう人材のキャパシティを後輩教育に奪われるのが心配だという人もいるでしょう。

しかし、アルバイトが早期離職を繰り返している職場ほど、専任の教育担当者をつけたほうが新人の定着率は上昇します。店長自らが教育を担当することも考えられますが、後述するとおり、あまりオススメしません。

巻末の座談会でも1人の店長さんは「若い頃は、一から十まで自分で教えてしまっていた時期がありました。でもそれではうまくいきませんでしたね」と語っています。

店長自らが教育係をやってしまうと、どうしてもスタッフたちは「新人は店長が教えるもの」と思ってしまい、かえってほったらかし状況を助長してしまいます。

むしろ、「店長には任せておけない。自分たちがしっかり教えてあげないと!」と思わせるくらいの空気づくりを大切にしているという話はとても印象的でした。

また、「ベテランに教育係はさせない。あえて中堅バイトに任せるようにしている」と語る店長さんもいらっしゃいました。

まず単純にベテランスタッフは忙しいので、なかなか新人につきっきりで指導するのが難しく、「ほったらかし」が起きやすいと言います。

また、ベテランスタッフはどうしても求める仕事のレベルが高くなりがちで、新人に過度なプレッシャーがかかることがあったそうです。

②全体ミーティングの機会を設ける

全体ミーティングの場も、新人の早期離職を抑制する効果が期待できます。シフト制の職場でスタッフ全員がそろう時間をつくるのは難しいかもしれませんが、職場全体の目標やスタッフ全員の情報を共有する全体ミーティングも試してみる価値があります。

③談話スペースを設ける

業務外のコミュニケーションの活発さも、早期離職の低減に影響します。また、長期にわたって働いている人が多い職場ほど、「職場内に談話できるようなスペースがあったか?」という質問項目に「はい」と答えています。

とくに外食業などでは、狭いバックスペースに荷物がギュウギュウに詰め込まれている職場がよく見受けられます。客席確保のために優先順位が下がるのは理解できますが、十分なスペースを取ることでスタッフの就業期間が伸びる可能性も、データからは読み取ることができます。

職場内に談話スペースを設置し、休憩やシフト交代時などにフランクな会話ができる環境を整えてみてはいかがでしょうか。

POINT

□新人放置厳禁!教育担当者をつけるのがベスト

□新人の段階では「人による(ピープル軸の)育成」がより重要

□新人が店長・スタッフとコミュニケーションを取りやすい環境をつくる

TOPIC12現場との「認識ギャップ」を解消するには? 店長はスタッフに応じて「演じる」

DIALOGUE

「今日の売上は目標比140%達成!!これもみんなのおかげだ。ありがとう!!」「あ、はい…(今日はやけにテンションが高いな)」「来月はみんな一丸となって150%を目指そう!!」「店長、そういう体育会系的なノリ、苦手なんですけど…」日々、さまざまな取り組みをしているのに、なかなか効果が出ない。

その理由の1つは、店長が「できているつもり」になっていることもあるかもしれない。このような「認識のズレ」を埋めるためには、職場にいるスタッフの属性をしっかり押さえて、「役者」になりきる大胆さが求められる。

店長は「できているつもり」でも現場は…

「店長に対する信頼」や「スタッフ間の良好な関係」をつくるような職場づくりの取り組みが重要だという話を聞くと、なかには「そんなことは百も承知。とっくにやっているし、できているよ」と言いたくなる方もいることと思います。

そこで見ていただきたいのが、図表47のデータです。店長と現場スタッフとのあいだにはこんなに認識のギャップがあります。

このようなギャップ、どこかで見覚えがありますよね?そう、すでに見た面接での〝伝えたつもり〟と同様、→TOPIC08やはり入社後のコミュニケーションについても、店長とアルバイトとのあいだにはズレがあることが見て取れます。

グラフを見れば一目瞭然ですが、どの項目についても店長のほうがスタッフよりも「やっているつもり、できているつもり」になっていることがわかります。

早期離職に限らず、アルバイトが辞めていってしまうときに、店長としては「こっちがあそこまでやっていたのに、どうして辞めるの?」という気持ちになることがあるかもしれません。

そういうときは、アルバイトにそもそも店長の意図が〝伝わっていない〟可能性を考えたほうがいいでしょう。

「ギャップ」を埋められる店長は「役者」である!?

ここから言えるのは、店長として本当に伝えたいこと、わかってほしいことは〝3割増し〟くらいを心がけるのがよさそうだということです。

少しオーバーなくらい、少ししつこいくらいを意識し、なるべく店長とアルバイトとの目線を合わせるように努めましょう。

「まず店長である自分自身が楽しくやるのがいちばんです。『おれについて来い』というよりも、できるだけ自分が大学生の目線に近づいて、楽しい感じを演じながら仕事の話もしつつ、学校の話もしつつ…」これは巻末の店長座談会に登場していただいた、あるファミレスの店長さんの言葉です。

スタッフ全員がひと回り以上年の離れた大学生スタッフだということもあって、彼はあえて「先輩キャラ」を演じるよう日頃から心がけているそうです。演じるスキルも店長には求められるということでしょう。

[属性別]早期離職を防ぐポイント

とはいえ、店長よりも年上の主婦やフリーターがアルバイトに混じっていれば、上記の「先輩キャラ」はおそらく効力を発揮しないでしょう。

やはり店長としては、ある程度メンバーの特性も踏まえながら、早期離職をされないような職場づくりをしていく必要があります。調査データをもとに、学生・主婦・フリーターが重視するポイントをまとめてみました(図表48)。ぜひ参考にしてみてください。

学生

店長の人柄を重視。信頼関係を築くことがポイント学生は、「面接者の遅刻」を気にするなど、面接時に店長から受ける印象などに敏感に反応することがわかりました。

年齢が若いこともあるのか、仕事のやりがい・魅力といったポイント以上に、「店長の人柄」をとても大切にします。早い段階で店長との信頼関係が構築できていれば、多少忙しかったり、仕事の量が多かったりしても、それほど不満を感じることはないようです。

また、自分の意見が取り入れられたりすると、「学生なのに1人のスタッフとして認められている」という実感が生まれ、モチベーション向上につながります。

主婦

納得感・公平感を重視。理不尽さはNG主婦は、仕事に対して納得感や公平性を求める傾向がありますので、面接時にはきちんと仕事内容を説明することが必要です。

何か指示をする場合も、「なぜそれが必要なのか」をしっかりと伝えるように心がけましょう。また、覚えることが多い仕事、複雑な仕事に苦手意識を持っている人が多くいます。

仕事の全体像を見せつつも、最初からすべてを覚えてもらおうとせず、無理なく少しずつ慣れてもらえるような気づかいが効果的です。

さらに、不公平を嫌う傾向がありますから、ベテランスタッフから理不尽な扱いを受けたり、シフトや役割に偏りがあると感じると、強い不満を抱くようです。主婦パートが多い職場では、とくに公平感を意識しておきたいところです。

フリーター

ステップアップ重視。マンネリを嫌う学業がある学生、家庭がある主婦と違って、多くのフリーターにとってアルバイトの仕事は社会との接点そのものです。そのため、職場で「必要な存在」として認められ、着実にステップアップしていくことを重視する傾向が見られます。

店長としては、決まりきったルーティンワークばかりをやらせたり、あまりこまごまと指示を与えたりするよりは、裁量のあるまとまった仕事を任せたほうがやる気がアップするようです。

「店長から信頼されている」という実感を持たせるような演出を意識するといいでしょう。

POINT

□店長はつい「できているつもり」になりがち

□「3割は伝わっていない」と意識する

□スタッフの特性も考えながら、店長を「演じる」覚悟が求められる

TOPIC13座学の新人研修は「無駄」なのか?研修・マニュアルの意外な重要性

DIALOGUE

「店長、例の新人さんの研修、やらないんですか?」「ああ、本社からはやるように言われてるけど…大して役にも立たないくせに時間を取られるし、省略しちゃおうかなって思ってるんだ」「ええっ!!私、あの研修、めちゃくちゃ役立ちましたよ!」「そうなの!?座学研修なんて意味ないって思ってたよ」新人アルバイト向けに研修やトレーニングをきちんと行っている現場も多い。

アルバイトを育成するうえで、研修やマニュアルはどの程度役に立っているのだろうか?また、アルバイト現場で研修を行う際にはどんなことに注意すればいいだろうか?

「新人研修のクオリティ」と「定着率」の意外な関係

新人ステージで浮かび上がるさまざまな課題について見てきましたが、最後に、より一般的な意味での新人受け入れ、つまり研修やオリエンテーションなどについて、簡単に見ておくことにしましょう。

一般に、新人育成として行われているものは、次の3つに分類されます。

①本部研修——アルバイト先の本社などで行う。DVDやeラーニング、講師のレクチャーなどを通じて、会社の仕組みや企業理念を伝える

②職場研修——アルバイト先の職場で行う。仕事の内容や注意点について、店長から直接伝える

③OJT——職場で実際に仕事をしながら行う。接客や単純作業など、基本的な仕事のやり方を伝える

③のOJTは別として、研修のような教育手段は、どの程度役に立っているのでしょうか?図表49にまとめてみました。

「結局、実際に手を動かしてみないと、仕事は覚えられない。座学なんて役に立つものか!」と思っている店長も多いと思います。しかし調査によると、「入社時の研修」については53.3%が役に立ったと答えています。

「意外に多いな」という印象ではないでしょうか?さらに興味深いのは、これらの研修が「役に立った」と答えている人は、就業期間が長くなる傾向があるということです。

図表50のデータをご覧ください。これ以外にも「この職場は研修・教育がしっかりしている」という印象を持った人のほうが早期離職しにくいというデータもあります(図表51)。

中身のしっかりとした研修を丁寧に行うことは、新人の定着やモチベーションアップに寄与します。「どうせ座学なんて」と思って、おろそかにしないようにしましょう。

日頃から業務マニュアルの整理を

また、図表49でもう1つ注目したいのは、スキルアップ研修やeラーニングよりも、業務マニュアルについて「役に立った」と評価している人が多かったことです。

仕事のやり方や手順を自分のペースで自習・復習できるような、優れたマニュアルがあると、スタッフたちも自ら学ぼうという姿勢を持ち、好循環が生まれます。

ただし、しっかりとアップデートされていなかったり、度重なるルール改定などによってツギハギ状態になっていたりするマニュアルは、かえって働く意欲を下げてしまうという結果が出ました(図表51)。

日々の膨大な業務に忙殺される店長は、つい書類などの整理を後回しにしてしまいがちです。新人が混乱せずに学びを進められるよう、マニュアルや職場ルールを日頃からしっかりと整理しておくようにしましょう。

また、某ホームセンターでは、アルバイト初日にまず「お客様として店内を回る」という時間を設けているそうです。「○○がほしいのですが、どこに置いてありますか?」などと店員に質問してみたりし、店員の対応で気づいた部分をメモさせます。研修をする前にあらかじめ職場を新鮮な目で観察させるのは、座学の学習効果を高めるうまいやり方だと思います。

POINT

□新人研修は約半数の人が「役に立った」と感じている

□新人研修が役立ったと感じた人のほうが、就業期間が長くなる

□混乱を招くようなマニュアルは現場のやる気を削ぐ

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