GTDは、いくつかの段階を経ながら生涯を通じて実践していく手法だ。バイオリンなどの楽器やテニスなどのスポーツ、チェスなどのゲームを習熟していく過程ととてもよく似ている。あるいは数学にも、陶芸にも、美術史にも、子育てにもたとえられるだろう。
基礎を学習して練習を重ね、しかるのちにさまざまな応用テクニックを身につけていくという意味ではみな同じだからだ。
そしてこのような学習には終わりがない。できるのはさまざまな側面から熟練度を高めていくことのみである。
GTDは人生で次々と降りかかってくるあらゆることをこなしていくための術であり、その手法自体もつねに進化しつづけている。
約束事や関心事を見極め、自信をもって「フロー」の状態で舵取りをしていくためにはどうしたらいいだろうか。
時が経つにつれ、仕事の内容も、集中的 に目を向けるべき物事も劇的に変化していく。それでもGTDを実践していくためには努力を怠ることなく、一生をかけて学び、改善していく必要がある。
どんなことが生じても状況を的確に把握し、心の安定を保ちつつ、そのときどきで適切な物事 に集中できるようになろう。
そのためには、システマチックに行動を選択していく能力を発揮していかなくてはならない。
GTDをマスターするには、本書で紹介したさまざまなテクニックや手法を生活に取り入れ、 統合的に実践していくことだ。
そのほうが、それぞれをばらばらに実践するよりも絶大な効果を発揮する。
テニスのようなものだと思えばいい。テニスでは、バックハンド、フオアハンド、ロ ビング、サーブなど個々の動きを一つずつ習得していくが、実際の試合ではそれらを統合的に実践していく。
そして、上達するにつれて戦略にまで視野を広げられるようになる。
GTDも同じだ。
最初はその要素やテクニック、ツールなどを学ぶが、じきに人生や仕事全体における戦略も 考慮していくことになる。
GTDをマスターできているかどうかは、日々の生活においてそれを意識しているかどうかでも判断することができる。
もしあなたが特段意識せずにGTDを実践できているようなら、高いレベルでこの術をマスターしていると言えるだろう。
GTDの三つの柱
長年、GTDの手法を実践している多くの人たちに触れてきた結果、GTDには大きく分けて 三つの習熟度があると考えている。
初 級― ワークフロー管理手法の基本を取り入れる。
上 級―より高いレベルで人生全体を管理するための統括的なシステムを確立する。
最上級ーGTDのスキルによって生まれたゆとりを活かし、視野を広げて創造的な活動に取り組んでいく。
車の運転にたとえるとわかりやすいだろう。まずは、誰も怪我をすることがないように基本的な操作を学ぶ。最初はぎこちないだろうし、直感的な操作もできないだろう。
だが免許がとれるほどまでに上達すれば、それまで行けなかったところに行けるようになったり、できなかったことができるようになったりして、生活の質が大きく向上する。
やがて、考えずとも車の操作ができるようになり、運転できることが当たり前の生活になる。
さらにもっと高性能な車に乗り換えた暁には、ごく自然に目的地に意識を集中し、運転自体に大きな満足感と充足感を得ることができるようになるはずだ。
この三つの習熟度のどこにいるかは、あなたの視野が広がっているかどうかでも知ることができる。
車の運転で言えば、最初はぎこちない動きをしているので、視野が広いとはいえない。基本操作に慣れてきたら、道の先のまがり角や高速道路の出回などに視野を拡大していく。
やが て、あらゆる方向で起きていることを把握しながら、とくに意識することなく、自然と目的地に 意識が向くようになるだろう。
同様に、GTDのテクニックが習慣化するにつれて、あなたの視野は整理システムを稼働させることから、それが生み出す成果へと拡がっていくのだ。
初級― 基本の習得
GTDの基本的な要素を習得するのは簡単なようでいて、それなりに時間がかかる。
概念や原理自体は理解しやすく納得のいくものだろうが、総合的に実践するとなるとそう簡単にいくものではない。
車の運転、空手の突き、フルートの演奏などと同じで、慣れないうちはぎこちない が、鍛錬を積むことで軽やかに、かつパワフルで流れるような動きができるようになる。
GTD の習得もそれと似たようなものだ。
たとえば、「気になることを書き出してください」と言われればたいしたことではないが、「気になることの「すべて」を書き出して信頼できるシステムに預けて、頭の中をすっかり空にしてください」と言われれば、なんだか大変なことのように思えるだろう。
「今、重要ではないこと について、なぜ考えなくてはいけないのだ」と思ってしまう人もいるかもしれない。
「頭の外で物事を管理する」ことの重要性を理解し、適切なツールを使いながら適切に行動していく習慣を つけていくのは、このようにそれほど簡単なことではないのだ。
また、GTDを始めたはいいが、途中でやめてしまったり中途半端になったりしてしまうこともよくある。たとえば次のようなケースだ。
- 「気になること」について次にとるべき行動の判断ができていない。
- 「連絡待ち」カテゴリーを最大限に活用できていない。
- リストに漏れがあつたり、適切なタイ ミングでフオローアツプがされていない。
- シンプルでアクセスしやすいファイリングシステムが確立できていない。
- 「聖域」であるべきカレンダーに、適切でないリマインダーが書き込まれている。
- システムを最新に保つために不可欠な「週次レビユー」ができていない。
脱線は簡単
本書のはじめに述べたとおり、GTDを始めること自体はさほど難しくない。
だが、GTDが習慣としてまだ根付いていない段階では、次々と押し寄せてくる現実に直面する中で、脱線してしまうこともしばしば起こりうる。
多くの人は頭の中ですべてを覚えておく癖がついているので、どうしてもその慣れ親しんだパターンに逆戻りしがちだ。
また、今まで述べてきたとおり「次にとるべき行動」を判断するには意識的な努力が必要となる。週次レビューの時間を確保するのも、人によっては難しいと思えるだろう。
こうした要因から、GTDが習慣として根付かないまま、整理システムもどんどん使えないものになっていく。
せつかく作ったリストに確信がもてなくなり、安心感を与えてくれない システムなら維持する価値がないという考えに至ってしまう。
そうなると「だったら頭で覚えて おこう」となりかねない。
このように、あっという間に元の生活に逆戻りしてしまうことはそれほど珍しいことではないのだ。
元に戻るのも簡単
だが幸いにも、生産的なモードに戻るのも脱線するのと同じぐらい簡単だ。基本に立ち返ればいいだけのことである。
ペンと紙を用意して頭からすべてのことを追い出し、行動とプロジエク トを整理し、それらをリストに加えて常に最新の状態を保つようにすればいい。
GTDを始めてから脱線してしまったが、また元に戻ってこられたというサイクルは、ほぼ誰にでも起こりうる。
GTDを学習しはじめた段階ではとくにそうだ。
私の経験からすると、GT Dを習慣として完全に身につけて、常に活用できる状態にするには、たっぷり2年ほどはかかるだろう。
ただ、GTDのよいところは、部分的に活用しただけだったり、たまにさぼったりしたとしても、ある程度の効果を実感することができる点だ。
たとえ「2分ルール」しか理解できなかった としても、それだけで素晴らしい効果が得られるだろう。
以前よりもほんのすこし多く「気になること」を書き出せるようになったら、それだけでも寝つきがよくなるはずだ。
メールの整理をすこしでもするようになったのであれば、大きな進歩である。
さらに自分自身やほかの人に「次 にとるべき行動は何か?」と問いかけるようになったとすれば、ストレスフリーで高い生産性を 発揮する生活に一歩近づいたと言える。
もちろんGTDのテクニックを統合的に使えるようになれば、劇的な効果が現れるはずだ。ほとんどの人にとつて、GTDの基本を習得することは大きな生活の変化を意味する。
この段階に 到達することができれば、より多くの物事をより早く、より少ない努力でこなすことができるよ うになり、人生におけるさまざまな「やるべきこと」への対応にも自信がもてるようになるだろ う。
上級― 人生の管理
GTDの基本を習得できたら、もうすこしだけ長期的な視点から人生をコントロールしていく段階に入る。
先に述べたように、車をうまく運転できるようになると視野が広がって動きがスムーズになり、車の操作よりも目的地に意識を向けられるようになる。
同様に、GTDにある程度慣れてくると、システムそのものや実践方法をさほど意識することなく、より長期的かつ広範囲にコントロールと焦点を保つためのツールとして柔軟に活用できるようになる。
初級レベルでは、インボツクス、会議、メール、電話、協議事項、連絡待ち、資料のファイ リング、リストの管理などを中心に扱ってきたが、このレベルではもう一つ上の視点から見渡していく。
具体的には、完了すべきプロジェクト、解決せねばならない問題、人生において集中的に取り組むべきことや関心事などだ。
この会議の目的は何だろうか、なぜ出席せねばならないの か。来期の予定を考えて今やっておくべきことは何だろうか。人生の変化に伴い、そうした視点 からGTDを実践していく必要がある。
GTDの基本を習得して効率よくシステムを稼働させることができれば、より高いレベルでプ ロジェクトをコントロールできるようになって余裕が生まれてくる。
そうなると、人生における より大きな枠組みの中でプロジェクトを見極め、管理し、位置づけられるようにもなるだろう。
このレベルでGTDをマスターできていれば、次のような状態になっているはずだ。
- ありとあらゆる「プロジェクト」が把握されており、最新の状態になっている。
- 仕事とプライベートにおけるすべての役割、責務、関心事が俯腋できている。
- 現在のニーズと将来の方向性に応じて柔軟に活用することができる、統合的な整理システムが 確立されている。
- 困難や想定外の事態が生じても、調子を狂わせることなく、G丁Dを有効活用できている。
「プロジェクト」がGTDを軌道に乗せる
GTDに熟達してくると、プロジェクトリストは「次にとるべき行動リスト」の集合体というよりは、あなたを突き動かす原動力となってくる。
そして、プロジェクト自体があなたの役割 や、集中して取り組むべき分野、関心事を反映したものとなっていくだろう。
この時点では、あ なたの整理システムの比重は「地面」のレベルから「Horizon レベルー」「Horizo n レベル2」(第2章94 ページ参照)のレベルヘと移ってきているはずだ。
すべてを網羅したプロジェクトリストを定期的に見直して更新していくことは、ストレスフリーの生産性を維持するために欠かせない。
しかし、これがきちんとできている人はほとんどいない。何年もGTDを実践している人にすらその傾向がある。
だが上級レベルに到達し、GTD のもつパワーを実感している人は、プロジェクトリストの重要性を充分に認識しているはずだ。
本書でいう「プロジェクト」の大ざつばな定義(1年以内に達成可能で、複数の行動ステップ が必要な「望んでいる結果」)を考えると、たとえ見極めやすいプロジェクトであつても、すべてを洗い出すのは大変な作業かもしれない。
だがこのレベルの習熟度に到達するには、「望んでいる結果」として定義できるどんな些細なものでも「すべて」を把握し、具体的な行動に置き換えることが必要だ。それができていればこのレベルでGTDがマスターできているということ だ。
多くの人は、きちんとした対応ができると確信がもてるまで、そうした問題や機会と対峙しようとしない。
しかしそれらを認識した時点で、望むべき結果と行動について解決のための道筋をつけておくべきなのだ。その状態に到達してはじめて、レベルの高い自己管理ができていると いえるだろう。
「集中して取り組むべき分野」の視点からプロジェクトリストを構成する
我々は、それがどのようなことであれ、自らが引き受けた役割や責任、あるいは人生における関心事に対して行動を起こしている。
たとえば私は「家族との関係」が大事だと思っているので、用事がなくとも兄に電話して話をすることがある。
また「健康と活力」も重要なので、食材選びには気をつかっている。
また会社では「経営の監査」を行なわなくてはいけないので、理事会の協議事項は私が作ることにしている。
仕事とプライベートにおいて「集中して取り組むべき分野」のチェックリストを作成してみると、リストに入れるべき新しいプロジェクトに気がつくことが多い。
また、仕事やプライベート のある部分をおろそかにしていたことにも気がついて、よリバランスのとれた視点でプロジェクトリストを作ろうという気にもなるはずだ。
人生を総合的に管理する続括的なシステム
GTDの上級レベルでは、あなたのシステムはリストやツールの単なる集合体ではなくて、各要素が総合的に機能しているものになるはずだ。
こうなると、どのような状況にも効果的に対応 できるようになる。また、自分の状況に見合ったリストやカテゴリーを自在に作れるようにもなるだろう。この境地に至ることができていれば、GTDの機能について充分に理解しているはずだ。
GT Dの本質と各要素の価値を理解しているため、自由にシステムをカスタマイズしたり、必要なら ば手元にあるツールで自分だけの整理システムをゼロから構築することもできるだろう。
さらに何をどうすればよいかという迷いからも解放されていく。
昼食会でもらった名刺、今朝 日覚めたときに思いついた突飛なプロジェクトのアイデア、もしくは急に招待された豪華なイベ ントについても、自信をもって決断を下すことができるだろう。
いつか役に立ちそうだと思えるデータについても、適切な判断ができるようになる。
予定されている旅行についても何を優先的 に進めるべきかがすぐにわかるだろうし、実施予定のオンラインセミナーについても、必要なも のをすべて手元にそろえることができる。
機能的なシステムがこのレベルで稼働しはじめれば、 いつでもどこでも適切な態勢をとれるようになるのだ。
多忙だからこそGTDをうまく活用する
GTDのプロセスを導入したものの、中途半端にしか進められなかった人からは次のような言い訳がよく聞こえてくる。
出張続きだった、インフルエンザで寝込んでしまった、得意先が危機的状況に陥った、通常の職務に加えて大きなプロジェクトの進行を任された、などなどだ。
一方、GTDをうまく応用できるようになった人からは、GTDを実践していたからこそ、このような緊迫した状況をうまく切り抜けられた、という声がよく聞かれる。
つまり、GTDを習得できているかどうかは、問題や機会によってGTDが活用できなくなってしまったか、それとも逆にGTDが有効活用できたかで見極めることができる。
仕事で新しい 問題が生じたときに、やるべきことを頭の中に溜め込むのではなくて、紙とペンでさっと整理して素早くコントロールを取り戻すことができるだろうか。
生じた事態について心配するのではな くて、その事態について望んでいる結果、関連するプロジェクト、次にとるべき行動をできるだ け早く見極められているだろうか。
緊急の仕事が急に割り込んできたときにこそ、たとえ週の半ばでも週次レビューを行なって、 一つ上のレベルからやるべきことを俯厳して再評価するべきなのだ。
最上級― 焦点、方向性、創造性
GTDの基本を実践し、一つ上の視点からやるべきことのすべてを把握して信頼できるシステムに預けられたら、さらに先が開けてくる。
頭をすっきりさせることによって生まれたゆとりを活かして視野を広げ、創造的な活動に取り組んでいく段階である。
このレベルでGTDをマスターできれば、次のようなことが起きてくる。頭の中に生まれたゆとりを活かして、さらに上の視点からやるべきことや価値観を模索する。
「外部の脳」を活用して、さらに新たな価値を生み出す。
もっとも有意義なことに携わる自由
それがなんであれ、整理システムに取り込んだものは必ず実行される、という確信がもてるようになったら、インボックスにはどんなものでも自由に入れてみるといい。
ひらめいた突飛なアイデアでも、調べてみたい新しいテクノロジーでも、書いてみたい本でも、涙が出るほど賛同したNGOのウェブサイトでも、何でもいい。
これまでに説明してきたとおり、人生と仕事をより上の視点から見渡すことができる能力は、対応していかなくてはならない日々の物事からいかに「意識を切り離せるか」にかかっている。
これができないと次々に舞い込んでくる「やるべきこと」に意識をとられ、創造性を発揮するゆとりがもてなくなるからだ。
未送信のメール、確定申告、結婚式の段取りに不満がある義母、そうした「気になること」か ら意識を遮断し、映画の脚本を書いてみたり、結婚式で誓う言葉を書いたりできるようになれば 最高だ。
そうなれば優れたアイデアももっと出てくるだろう。
「気になること」が意識の負荷になっていると適切な物事に集中できなくなり、パフォーマンスも悪化する。
「気になる仕事」は 職場に残してきたので、家ではゆとりをもって創造的な活動をしているよ、という人も多いが、 あなたの意識はそういう区別をしてはくれない。
そういう人は「気になること」から意識を遮断したことがないため、真に「ゆとりをもって創造性を発揮している状態」を知らないのだろう。
日々の物事に対する不安から解放されれば、本当の意味で重要な分野に目を向けやすくなる。
第2章で述べたように、よリレベルが上のHorizonにおける焦点― 目標、ビジョン、目的、価値観―が、あなたの優先順位を決める基準となる。
だが多くの人は、そういった基準に目を向けることができないでいるし、わざと避けている人もいる(そして罪悪感が生じる)。
「気になること」がなくなるだけで成功へのシナリオを思いつくわけではないが、創造的で生産的な 視点はずっと得やすくなるはずだ。
「外部の脳」を有効活用する
最上級レベルでGTDを活用できるようになったら、GTDを実践していく目的は、日々のやるべきことに最適なかたちで対処していくことから、コントロールのとれた生活によって生まれた状況を活かして、独創的なアイデアや行動を生み出していくことへと変わっていく。
たとえば連絡帳を整理したときに「今の仕事の状況だったら、この人とまた連絡をとらなくちゃ」と思ったことがあるだろう。
このようにリマインダーから何らかのかたちで価値あるアイデアを引き出せたなら、最上級レベルの創造性をすこしだけ体験したことになる。
今日起きたことで、このように価値を加えることができたものがほかにあるだろうか。
もしあなたがGTDの実践を通じて物事に対して正しく注意を向けられるようになったら、そうした可能性を見出すこともできるようになるはずだ。
実は週次レビューでは、このような創造的かつ生産的な思考が自然と生まれている。
過去と未来のカレンダーを見ていると「ああ、そういえばあれがあったんだ!」と思いついたり、「いつ かやる/多分やる」のリストを見ていて「よし、本当に絵画教室に通うぞ―」と思ったりするのだ。
では、このような思考は週次レビュー以外ではできないだろうか。そんなことはないだろう。
もっと価値のあるアイデアを見つけられるように、定期的にレビューできることがほかにもないか探してみるといい。
週次レビューを取り入れること自体もなかなか難しくはあるが、その先にチャレンジすることで新たな可能性が拓けてくることもあるのだ。
先にも述べたように、このレベルでGTDに習熟してくると、チェックリストというシンプルな手法が重要な役割を果たしてくれる。
認知科学においても立証されているとおり、頭は何かを覚えておいたり思い出したりするのは苦手だが、目の前にあるものについて評価するという創造的な思考は得意なのだ。
大事な家族についてのチェックリストには何を載せるべきだろうか。
配偶者、息子、妹につい て、どんなことを書いておくべきだろうか。
仕事関係で大事な人についてはどうだろう。
そして それらのチェックリストをどのぐらいの頻度で見直して、どんな言葉を使って書いておけば、再 評価したときにアイデアが浮かんできやすいだろうか。
頭を苦手なことから解放してあげつつ、得意なことを活かせるようなシステムを確立すること ができれば、人生が豊かになる可能性がぐっと広がってくる。
ただしこれは自動的に起こるわけではない。
最上級のレベルでGTDを習熟し、日々の生活から自由にアイデアを生み出せるよう な、知的な運用をしていく必要がある。
本当に知的な人とは、自分が「知的モード」に入るのには意識的な努力が必要だと認識している人たちだ。
GTDマスターヘの道―基本を習得し、より高い視点で統合的なシステムを活用することで、創造的な視点をもちながら活動していくこと― は、必ずしも私がここで説明したような道筋をたどるわけではない。
ほとんどの人は、この三つの習熟度を自分なりのやり方で実現させていくはずだ。
実際、ある面では初級レベルでありながら、ほかの面ではものすごいレベルにある 人をたくさん目にしてきた。
だが私の経験では、「ストレスフリーの整理術」を総合的に実践しようとするならば、近道することなく一歩一歩着実に進んでいくのがもつとも確実だ。
メールが整理できていなければ、長期的な視点でコントロールをとることなどできないだろう。
現実に抱えている75のプロジェクトについて把握できていなければ、人生における目標やビジョンを自由 に思い描くのは難しいはずだ。
意識的にせよ無意識的にせよ、あなたは常にこの三つの習熟レベルと関わりをもちつづけるだ ろう。GTDをマスターした人は、すべてのことに対して優雅に対応していくことができる。
突 然のトラブルを告げるメール、今週に追った叔母の誕生日、もしくは欲しいと思っていた調理器具―それらすべてに対して素早く、スムーズに対応していけるはずだ。
そして頭の中には今対 処していること以外には何もない――そうした状態を目指してほしい。
おわりに
本書を読まれたあなたがGTDの素晴らしさをすこしでも体感してくれたなら、これにまさる喜びはない。ぜひとも「水のような心」を会得して、創造性を存分に発揮していただきたい。
G TDを実践すると、必ず何か発見がある。あなた自身も、何か気づいたことがあるのではないだ ろうか。
GTDの考え方の一部は、おそらくあなたがすでに知っていたことで、ある程度はやってきているはずだ。
しかし、そのク当たり前のことクをシステマチックに実践することで、どんどん複雑になっていくシビアな現代社会にも対応していくことができるようになる。
自己啓発の理論やモデルは、すでに無数に存在している。本書を書いたのは、それらに新たなモデルを付け加えるためではない。
私が目指したのは、いつの時代においても実践すれば必ず効果がある、本質的な手法を明らかにすることだ。
重力のように確かで、仕組みさえわかつてしまえばどんな仕事でも生産性が大幅に向上するような手法である。
GTDは、ゆとりをもって物事に集中するための精神状態を作り、最大限の生産性を発揮していくためのアプローチである。
本書をガイドブツク代わりにして、必要に応じて気になるところ を何度でも読み返してほしい。
最後に、GTD実践のためのコツをまとめておく。
- 物理的な整理ツールをそろえよう。
- 作業空間を確保しよう。
- インボックスを準備しよう。
- 職場と自宅に、アクセスしやすくて使いやすい資料のファイリングシステムを作ろう。
- 楽しく使えるリスト管理ツールを見つけよう。
- 職場の環境についても、改善したいと感じている部分があればついでに変えてしまおう。
- 壁の写真、新しいペン、必要のない物、作業空間について見直してみよう。
- フレツシュな気分でG TDを始められるようにしよう。
- 時間を確保して、まず職場の整理を行なってみよう。
- それが終わつたら、家の各所についても 同様にやっていこう。
- 気になることをすべて把握し、GTDのシステムに組み入れていこう。
- メリットを感じたら、ほかの人にも伝えてみよう(人に教えれば、いつそう早く身につくから だ)。
- 3カ月後または半年後に本書を読み直してみよう。
最初は気づかなかったものが見えてきて、 新しい本を読んだように感じるはずだ。
・GTDを実践している人との交流をもちつづけよう。
では、GTDでゆとりある人生を―
監訳者あとがき―― 「週末に必ず見るリスト」からはじめよう
「GTDの本を監訳されていますが、最近その手法を使われていますか?」 先日そのような質問を受けた。
「GTDを使っているかどうか?」と頭の中で質問を反勿した あとに若千の違和感があったのを覚えている。
GTDはすでに生活の一部となっており、「最近、心臓使っていますか?」と同じぐらいの意味に思えたからだ。
GTDとの出会いからもう10 年以上が経つが、その本質はいい意味でまったく変わっていな い。ただその手法から受けるメリットは年々大きくなっている。
それは人生のステージにおいて より責任の重い仕事に携わるようになったからでもあり、スマートフオンなどの普及で日々入ってくる情報が格段に増えたからでもある。
GTDの最大のメリットは「今、自分が下した判断に100%の自信がもてること」だ。
行動 の選択肢があらかじめ整理されているので、今やつていることだけでなく、今やっていないこと についても安心することができる。
そしてさらに素晴らしいのは「自分が何を抱えているか」を 常に把握できているので、急に降ってくる魅力的に思えるプロジェクトに対して「すみません、 今はできません……」「今ならできます、やってみます1」と確信をもって言えるようになった ことだ。
本書でも「GTDをマスターするのに2年はかかる」と述べられているとおり、確かに習得までに時間はかかる。
とくに最初の「把握する」「見極める」のステップは気持ちがいいものの、 整理して更新し、週次レビューを実践できるようになるまでには相応の努力が必要だ。そうなると面倒だと感じてしまう人も多いだろう。
そこで個人的におすすめしておきたいのが、「週末に必ず見るリスト」をとりあえず作ってしまうことだ。
そしてカレンダーにそれを見直すための予定を登録してしまおう(無期限の定期的 な予定とするのがいいだろう)。いわゆる簡易的な(もしくは部分的な)週次レビューである。
週次レビューをきっちりやろうとするとそれなりに大変ではあるが、このリストを作つて「今週は考えたくないな」という事柄を思いついたときにぽんぽんと登録していくだけでいい。
デビツド・アレン氏も主張しているとおり、GTD実践の鍵となるのは週次レビューである。
ただ最初から完璧にやる必要はない。まずは形から入ることも大事だと個人的には思う。
「毎週、決まったリストを必ず見る」というシンプルな習慣をまずは身につけてしまうのだ。
最初からリストにすべてを書こうとしなくてもいいかもしれない。そうなるとレビューにはたいした 時間もかからないだろう。
最近ではリストを決まったタイミングでメールしてくれるツールもある。そうしたテクノロジーを使用してもいいだろう。
個人的な経験からすると、このたった一つのリストがあるだけで日々の生活がぐっと楽になる。
To Doリストを管理している人も多いだろうが、そこには「今週やらなくてもいいもの」 「今週考える必要がないもの」が並んでいたりしないだろうか。
それらをきれいさっぱり先送り(しかし必ずレビユーするとわかっている)するだけで気持ちに余裕が生まれてくるのだ。
そうなるとGTD本来のステップに取りかかろうという気にもなってくる。
「時間があるから 『把握する』作業をしてみようかな」「整理のためのフォルダをまとめ買いしてみようかな」「こ のプロジェクトについてすこしだけ考えてみようかな」といつた具合に、気が向いたところから 順番に取り組んでいくのもいいだろう。
またこのリストは「毎週、繰り返し行ないたいもの」を登録しておくのにも便利だ。
たとえば 自分のリストには次のような項目が並んでいる。
「友人と早朝ランニングの約束をとりつける」 「迷惑メールフオルダに大事なメールが紛れ込んでいないかチエツクする」 「水回りの掃除をする」 「古くなっている食材がないか冷蔵庫をチェックする」 「名刺入れをチェツクして必要なら補充する」 このように活用することができれば、「週末に必ず見るリスト」を核にして自分が身につけた い習慣を次々に獲得していくことができるはずだ(実際、自分でもそうしてきたし、その効果を 今でも実感している)。
「決まったリストを毎週見直す」という習慣には、新しい習慣を生み出・す力がある。
GTDはど こから始めてもいいと思うが、このちょっとした習慣をはじめの一歩として個人的にはおすすめ しておきたい。
田口元
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