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第13章 犠牲の法則

何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。

「犠牲の法則」は「製品ライン拡張の法則」の反対である。あなたがもし、今日成功 することを望むのであれば、あなたは何かを放棄しなければならない。犠牲にできる ものとしては、三つのものが考えられる。すなわち、製品ライン、ターゲット市場、 絶えぎる変更の三つである。 まず製品ラインについて。多く売る必要に迫られれば迫られるほど多く売れるとい う決まりが、どこかに書いてあるだろうか。 不振企業にとっては、製品のフルラインは贅沢というものである。もし成功を望む のであれば、製品ラインを拡げる代わりに、減らすべきである。ェメリl oエアー● フレイトの場合を見てみよう。エメリー社は航空貨物サービス事業に携わっていた。 輸送したいものは何であれ、 エメリー社が輸送してくれる。小荷物、大型荷物、翌日 配送サービス、期日指定配送サービス、何でもござれだ。 マーケティングの立場からいうと、フェデラル・エクスプレス社は何をしていたの だろうか。同社はただ一つのサービスに焦点を絞っていた。小荷物の翌日配送である。 今日では、フェデラル・エクスプレス社のほうが、 エメリー社よりも遥かに大会社で

ある。 フェデラル・エクスプレス社にとって、犠牲が生んだ力とは、顧客の心の中に、「翌 日配送」という言葉を植えつけることができたことであった。翌日にぜひとも間違い なく荷物を届けなければならない時は、だれもがフェデラル・エクスプレスに声を掛 けるのである。 その後フェデラル・エクスプレス社がどうしたかといえば、何とエメリーと同じこ とをしたのである。タイガー・インターナショナル社のフライング・タイガー航空貨 物路線を八億八〇〇〇万ドルで買収することによって、「翌日配送」というポジショ ニングを放棄してしまった。現在、同社は、名ばかりのワールドワイドな航空貨物会 社である。この結果、フェデラル・エクスプレス社は、わずか二一カ月のうちに、国 際業務で一一億ドルの損失を被ったのであった。 マーケティングとは、ある種の心理戦争である。すなわち、知党をめぐる戦いであ って、商品やサービスをめぐる戦いではないのだ。顧客の心の中では、フェデラル・ エクスプレスといえば「翌日配送」の会社ということになっている。フェデラル・エ

クスプレスは「翌日配送」というポジショニングを得ているのである。この市場が国 際化した時、フェデラル・エクスプレスは、例のマーケティング上のディレンマに直 面した。国内で使っている名前を国際的な舞台にも持ち出すべきであろうか。それと も、新しく国際舞台用の名前を創造するべきであろうか。さらには、国際舞台に最初 に踊り出たDHLには、どう対処したらいいだろうか。 フェデラル・エクスプレスが「翌日配送」の看板を降ろしたのはまったく間違いで ある。さらに悪いのは、同社がそれに代わる新しい看板をこしらえなかったことだ。 エバーレデイーは長年、電池業界のリーダーであった。しかし、たいていの業界に おいてそうであるように、この業界にも新しい技術が登場した。電池業界を変えた最 初の技術は、耐用期間の長い電池だった。あなたの会社が電池業界でナンバーワンの ブランドを持っているとしたら、その耐用電池を何と呼ぶだろうか。恐らく「エバー レディー耐用電池」と呼ぶことだろう。事実、 エバーンディー社はそのように呼んだ のであった。 そのうちアルカリ電池が誕生した。ここでもエバーンデイーは、その電池をエバー

レデイー・アルカソ電池と呼んだ。もっともな話のように思える。 その後P 。R ・マロリー社がアルカソ電池だけの商品ラインを発売した。しかもそ のラインに見事な名前をつけた。「デュラセル」という名前である。 デュラセルにとって、犠牲がもたらした力といえば、顧客の心の中に「長持ちする 電池」というコンセプトを植えつけえたことであった。デュラセル製はエバーレデイ ー社製より三倍長持ちする、というのが広告の謳い文句だった。 エバーレディー社は、同社のアルカソ電池の製品名を「エナジャイザー」に変更す ることを余儀なくされた。が、時すでに遅しであった。デュラセルがすでに、電池市 場の王座を占めていたのである。 ビジネスの世界には、大きくて多様な才能を持つゼネラリストと、小さくて、極端 に領域の狭いスペシャソストとが住んでいる。仮に製品ラインの拡張と多角化が有効 なマーケティング戦略であるとするなら、ゼネラリストのほうが成功しそうなもので ある。ところが、そうではない。ゼネラリストの大半が、苦境に陥っているのである。 ゼネラリストは一般に弱者である。例えば食品のクラフト社をみるがいい。クラフ

卜というブランド名は強いとだれしも考える。ところが、ジェリーとジャムの市場で は、クラフト社のシェアは僅かに九パーセントにすぎない。 一方、スマッカー社のシ ェアは二五パーセントだ。「クラフト」という名は、「何でも屋」と受け取られるが、 スマッカーの場合はジェリーとジャムに限られる。それしか作らていないからだ。 マ ヨネーズ市場では、クラフトのシェアは一八パーセント。これに対しヘルマンのシェ アは四二パーセントである(マーケットシェアに関しては、クラフトもナンバーワ ン・ブランドを持っている。ただし、そのブランド名はクラフトではなく、「フィラデ ルフィア」である。フィラデルフィアブランドのクリームチーズは、クリームチーズ 市場の実に七〇パーセントをつかんでいる)。 小売産業を取り上げてみよう。今日苦境にあるのは、どの小売企業だろうか。それ は百貨店である。では、百貨店とは何か。そこは、ありとあらゆるものを売っている ところである。これこそ失敗にいたる手法なのである。 キャンポウ、L ・J 。フッカー、ギンベルズは結局、破産裁判を受ける羽目になっ た。エイムズ。デパートは自ら破産の申立てを行なった。世界最大の店舗のオーナー

であるメイシーズもそうだ。 インターステイト・デパートも同じく破産してしまった。そこで同社は帳簿をチェ ックして、儲かっている商品だけを扱うことにした。それは玩具(トイ)であった。 そして玩具のみしか扱っていないので、社名を「トイザラス」と変更することに決め た。今日トイザラスは、アメリカの玩具小売市場の二〇パーセントを占めている。収 益率も極めて快調である。この前の決算年度において、トイザラスは、五五億ドルの 売上げに対して二億二六〇〇万ドルの利益を計上している。 多くの小売チェーンが、このトイザラス方式を巧みに採り入れつつある。つまり、 商品の絞り込みによる徹底した品揃えだ。この方式を採用した最近の事例としては、 ステイプルズ(オフィス用品)やブロックバスター・ビデオの二つがある。 一般に小売分野で大きな成功を収めているのは専門店である。例えば次のような店 だ。

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(バナナ・ソパブリックといった名前の衣服店チェーンが成功しそうだと聞けば、ス ペシャリストの時代を生きているのだということを思い知らされる)。 二番目の犠牲の対象であるターゲット市場について論じることにしよう。私たちは あらゆる人に呼び掛けなければならないという決まりが、どこかに書いてあるだろう カ ここでコーラの業界を取り上げてみよう。顧客の心の中に真っ先に飛込み、強力な ポジションを確立したのはコカコーラであった。たとえば五〇年代後半、 コークは売 上げにおいてペプシコーラを五対一でソードしていた。このようなコークの強力な立場に対抗するため、ペプシヨーラになしうることは何だったろうか。 六〇年代に入って、ペプシコーラはようやく犠牲のコンセプトに基づく戦略を編み 出した。すなわちティーンエイジ市場を除くすべてのものを犠牲にすることにしたの だ。やがて同社は、ティーンエイジャーたちのアイドルであるマイケル・ジャクソン、 ライオネル●リッチー、ドン。ジョンソンらをキャラクターとして抱えることによっ て、ティーンエイジ市場を見事に開発した。 一世代とたたないうちに、ペプシはギャップを縮めた。いまや全米のコーラの売上 げを見ると、ペプシはコカコーラよりわずかに一〇パーセント遅れをとっているに過 ぎない(スーパーマーケットにおいては実のところ、 ペプシヨーラがコカコーラの売 上げを抜いているのである)。 しかしながら、ペプシのこうした成功にもかかわらず、テントをもっと大きくする べきだという圧力は常に存在する。最近になって、同社はその誘惑に屈した。アドバ タイジング・エイジ紙によれば、「ペプシヨーラ社はいわゆるペプシ・ゼネレーション

の枠を超えてしまった。新しいマーケティング戦略の下では、主力商品のペプシは大 衆用ソフトドリンクとして位置づけられるだろう」ということである。 「これなしではいられない」というのが、ペプシの新しいキャンペーンテーマである。 広告には、ペプシを飲んでいるヨギ・ベラやレジス・フイルビンといった年配の人物 が登場してくる。 「過去のペプシの広告に見られる一つの欠点は、 いささか若者にターゲットを絞り過 ぎたことである」と、ペプシの広告代理店、BBDOのフィル・デューセンベリーは 述べている。「もしわれわれが縄張を拡げ、もっと大きな投網をつかってより多くの 客を提えていたら、これまで以上の収益を上げていただろう」 雑誌「フォーチュン」によれば、 コカコーラは世界で最も強力なトレードマークで ある。ペプシコーラのような追随ブランドが、ターダツトの絞り込み戦略によってナ ンバーワン・ブランドを目と鼻の先まで追い上げている時に、なぜにその威力のある 戦略を変更するのだろうか。 実際どうしたことだろう― 現実には逆の事例が数多く存在するというのに、投網

を大きくすれば、たくさんの顧客を捕まえられる、という信仰に近いものがあるよう に思えてならない。 例えば、バドワイザーの場合である。「われわれがバドワイザーのためにある計画 を立てようとする時には、男性、女性、黒人、自人を問わず、一三歳以上のすべての 人をカバーするべく配慮しなくてはならない」と、オーガスト・ブッシュ四世は語っ ている。 たばこの広告、それも古いたばこの広告に注目してみよう。それらの広告には、決 まって男性と女性が登場する。なぜだろうか。喫煙者の大半が男性だった時代、市場 の拡大を望むたばこメーカーは、「男はもう捕まえた。これからは女を捕まえよう」 と考えたからである。 そんな中でフィリップoモリスのやり方はどうだったろうか。同社はターゲットを 男性のみに絞っていた。それからさらに、男の中の男、 つまリカウボーイに絞り込ん だのであった。そのブランドはマールボロと呼ばれていた。今日マールボロは世界で 一番売れているたばこである。アメリカでは、 マールボロは男性の間でも女性の間で

も最高の売上げを記録している。 ターグットとは市場のことではない。すなわち、あなたがマーケティング上想定す るターゲットは、即、あなたの商品を実際に買う顧客というわけではないのである。 例えばペプシコーラのターゲットはティーンエイジャーだったけれど、その市場には あらゆる人たちが含まれていた。自分は二九歳だと思いたい五〇歳の男性もペプシを 買うのだ。 マールボロの広告のターゲットはカウボーイであるが、その市場はあらゆる人たち である。いったいいまのアメリカに、どのくらいのカウボーイが残っているかご存じ だろうか。数えるほどしかいない(彼らは全員マールボロを吸ってきた)。 最後に第二番目の犠牲、絶えぎる変更について。そもそも毎年の決算の度ごとに戦 略を変更しなければならない決まりが、どこかに書いてあるだろうか。 仮にあなたが、市場のめまぐるしい変化にぴったり付いて行こうとすれば、しまい には道を踏み外す結果に終わらぎるをえないだろう。 一貫したポジションを維持する ベストの方法は、なによりもそのポジションを変えないことである。

航空会社のピープル・エクスプレスは、当初から「明確に限定された」素晴らしい ポジションを得ていた。堅実な都市に、堅実な料金で運行する、堅実な航空会社だっ たのである。旅客たちはピープル・エクスプレス機に乗り込んでは、「これからどこへ 行くんだったっけ」とよく口にしたものだ。ともかく運賃が安かったので、行く先は あまり気にかけなかったのである。 ピープル・エクスプレスはこのような成功を遂げたあと、どんな手を打っただろう か。同社もまた、すべての人の、すべての要望に応えようとしたのであった。七四七 型機のような新しい飛行機に資金を投入した。そしてヨーロッパはいうまでもなく、 シカゴやデンバーのような競争の激しい航空路線に乗り入れた。さらにフロンティ ア・エアラインを買収し、ファーストクラスなどといった付加価値要素を取り入れた。 ピープル・エクスプレスは、たちまちのうちに失速し、テクサス・エア社に身売り することによってかろうじて破産を免れた。結局テクサス・エアが同社に代わって、 会社を清算したのであった。 これに対して、例えばアイスクリーム・チェーンのホワイト・キャッスルは一度と

してそのポジションを変えていない。いまでもホワイト・キャッスルは、六〇年前の ホヮイト・キャッスルと見た目に同じであるばかりでなく、同じ飲み物である「フロ ーズン・スライダー」を信じがたいほどの安い値段で売っている。あなたには、これ といった特徴のないホワイト・キャッスルのチェーン店が年間一〇〇万ドル以上の収 益をあげていることが信じられるだろうか(この数字は、バーガーキングを上回り、 マクドナルドにもさほど引けをとらないものである)。 幸運は、犠牲をいとわない者の上に訪れるのだ。

 

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