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第11章 「把握する」習慣を 身につけると何が変わるか

GTDのモデルやテクニックは一見単純だが、頭をすっきりさせつつ、優れたパフォーマンスや結果を出すことを可能にしてくれる。それだけでも、GTDを取り入れる価値は十分にあるだろう。

しかし、GTDのメリットはそれだけではない。

ここからは三つの章を割いて、私自身が30年の経験で見てきたさまざまな効果を紹介していく。

GTDを実践すると、日立たないところにも(多くの場合、より深いレベルでの)影響がもたらされる。これらによって長期的には個人はもちろん、組織の体質そのものもいい方向に変わっていく。

頼まれたことや約束したことを次々に処理して整理していくと、やがてまわりの人々はあなたに特別な信頼を寄せるようになる。

それだけでなく、自分を取り巻く世界への関わり方に対して自信をもてるようになるのだ。これはお金ではけっして買うことができない価値である。

人生におけるすべての「気になること」を把握して頭の外に集めておく習慣には、大きなパワーが秘められている。

これを実践することであなたの精神はより健全になり、対人関係もプライベートと仕事の両方において好転していくだろう。

組織においても、一つも漏れがないようすべてを把握する慣行を徹底し、とるべき行動に対する責任を個々人にもたせ、やるべきことを明確化し、適切な人物がそれらを常に見直せるようにしておくと、組織内のストレスが軽減し、全体の生産性が向上していく。

目次

個人的なメリット

頭の中に溜まっていた「気になること」を把握して外に追い出したとき、あなたはどんな気持ちになっただろうか。

私のセミナーでそのような質問をすると「最高の気分と最低の気分を同時に味わいました……」と答える人が多い。これはどういうことだろう。

すべてを「把握する」作業を行なっていると、ほとんどの人が不安を感じるようだ。

セミナーの参加者に軽くやってもらっただけでも、「もうダメです」「ストレスが溜まりますね」「疲れました」「うんざりします」といった声があがることが多い。

これまで面倒で手をつけなかったものが見つかれば、罪悪感だって湧いてくるだろう。「なぜこんなに放置しておいたんだ」と自分を責めてしまうわけだ。

その一方で、解放感や安心感、自信のようなものも湧いてくる。

不安と安心、もうダメだという感覚と自信という、まったく逆の感情がほぼ同時に起こってくる。これはいつたい、どういうわけだろう。

私自身も経験したことだが、「気になること」に対するマイナス感情の原因を理解することで、それを解消する方法がわかってくる。

マイナス感情の原因

これらのマイナス感情はどこから来るのだろうか。やることがたくさんあるためではない。できる以上のことがあるせいで嫌な気分になっているのだとすれば、その気分を解消することはできないだろう。

マイナス感情の原因は、もっと別のところにある。

たとえば、誰かが約束を守らなかったとき、あなたはどんな気分になるだろうか。木曜日の午後4時に会うはずだったのに約束の場所に現れず、遅れるという連絡もなかったとしたらどうだろう。おそらくムッとするはずだ。

現代社会では、約束を破れば信頼を失うというペナルテイが待っている。人間関係にとってマイナスの結果が生じるわけだ。

それと同じで、あなたがインボックスに入れたものは、あなたが自分自身に課した「約束」である。

明確な「約束」ではないにしても、少なくとも何とかしようと心の中で思ったことだ。その「約束」を破ったからこそ、嫌な気分になったのだ。自分に対する信頼が損なわれたのである。

事業戦略を立てようと自分に言い聞かせたのにそれをやらなければ、あなたは罪悪感にとらわれることになる。整理をしなくてはと思っているのにそれができなければ、自分が情けなくなる。

子どもと過ごす時間をもっと増やそうと決めたのに実行していなければ、そのことが気にかかり、ふがいない気分になるだろう。

自分との約束を守るには

自分に対する約束を破ることでマイナス感情が起こってくる。これを避ける方法は次の三つしかない。

  • 約束をしない
  • 約束を果たす
  • 約束を見直す

これらのいずれかをやれば、嫌な気持ちから解放されるはずだ。

約束をしない

長い間、片付いていない「済んでいないこと」の山を、これらについては何もしないと決めてシュレツダーにかけるか、リサイクルに回すか、ゴミ箱に放り込むかすれば、おそらく爽快な気分になれるはずだ。

「ノー」と言うこともまた、溜まったことを解決する方法の一つである。ハードルを下げれば、気持ちもぐっとラクになる。

子育てなり学校なり、テームの士気なり、ソフトウェアのコードなりに関して、基準を下げて気になることを減らしてしまえば、やるべきことはずっと少なくなるはずだ。

ただ、だからといって基準を下げようという人はほとんどいないだろう。だが、このあたりがわかっていれば、自分への約束には慎重になるにちがいない。

私自身にもそうした変化が起きた。昔は人に認めてもらいたくて、多くの約束を自分に課していた。

しかし、約束を守れなかったときの代償を理解するにつれ、どの約束をすべきかを意識して選ぶようになったのだ。

私が指導したある保険会社の幹部は、GTDを身につけたことで次のようなメリットがあったと言っている。

「以前は、どれだけの負担になるかも考えずに、誰にでも二つ返事で約束を引き受けていました。今はやるべきことのすべてが明らかになっているので、できないことはできないとはっきり言えます。嫌な顔をされそうなものですが、みんなむしろ潔いと思ってくれるみたいですね」

また先日、別のクライアントも「仕事をすべて明らかにすることで心配やストレスの大部分が消えました」と言っていた。

「気になること」すべてをインボックスに入れる習慣が身についた結果、本当に行動が必要かを常に意識するようになったからだという。

メモをインボックスに入れるのに抵抗を感じたら、彼はそのまま捨ててしまうのだそうだ。実に賢明なやり方だ。

心に引っかかったものを集めて把握しておく作業を本気でやるようになると、本当にやるべきか、あるいはやりたいのかをごく自然に考えるようになる。

これもGTDの大きなメリットの一つだ。

私は長年にわたり、すべてを網羅したプロジェクトリストを作成して更新するよう多くの人を指導してきたが、その誰もが、やる価値のないことを「やるべきこと」としてとらえていたことに気づくようになった。

これでは残高や限度額のわからないクレジツトカードを使うようなもので、無責任な結果につながりやすい。本当にやるべきことをきちんと見極められるようにしておこう。

約束を果たす

約束したことを実行した場合も、当然マイナス感情は消える。それにほとんどのことは、実行すれば達成感が得られるものだ。2分以内にできることをどんどんやっていけば、誰もが爽快な気分になれる。

私のクライアントの多くは、2時間ほど「見極め」をしただけで、2分ルールのとりこになってしまう。予想以上に多くのことが片付くからだ。

週末にプライベート関連の雑多な用事を片付けてしまうのもいいだろう。

「気になること」を大きなものから小さなものまですべて把握して目に見えるリストにしておくと、これらを終わらせてしまいたいという前向きな気持ちが湧いてくる(前向きな気持ちにならない人も、自己嫌悪や不安から何とかしたいという気にはなるだろう)。

私たちは誰もが「できる」人間になりたいと願っている。簡単にできることから片付けて、自分に自信をつけていこう。

最初はリストになかったが、それを完了させたあとにわざわざリストに書き出し、すぐに完了扱いにしたことがある人には、私の言いたいことがわかるはずだ。

さて、ここで一つ疑間が出てくる。

リストにある行動や山積みしていたことをすべて上手にやってのけたらどうなるだろうか。おそらく爽快な気分になり、創造的なエネルギーを何かに振り向けたくてうずうずしてくるはずだ。

そして3日(あるいは3分)もすれば、また新しいリストができているだろう。そのリストにはおそらく、前のものよりもずっとやりがいのある行動が並んでいるはずだ。

すべてを片付けることの気持ちよさを体験してしまえば、より多くのこと、より大胆なことに取り組んでいけるのである。

あなたに上司がいれば、あなたの能力や優れた仕事ぶりに気づいて、より多くの仕事を任せるようになるだろう。

しかし、これではどんどん仕事が増える一方になってしまう。これが能力開発の皮肉なところだ―能力をつければつけるほど、さらなる能力を求められるのだ。自分の基準を下げたくもないし、仕事が増えるのも避けたい―そうした場合には、どうすればよいだろうか。

実は、ストレスに押しつぶされるのを避けるには、もう一つの選択肢がある。

約束を見直す

私があなたと木曜日の午後4時に会う約束をしたとしよう。しかし、私の都合が変わって行けなくなってしまった。その場合、あなたの信頼を保つために私にできることはあるだろうか。もちろんある。

あなたに電話をかけて、約束を変更すればいいのだ。約束を見直すことができれば、それを破らずに済む。すべてを頭から追い出して目の前に置くことで、気分がよくなるのはなぜだろう。

それは自分自身に対する約束が、リストになって見直せるようになっているからである。

このリストを見ながら対応を考えたり、その場で実行したり、「今はやらない」と判断することで気分がよくなるのだ。

だが、これらの約束自体を思い出せなければ、それを見直すこともできない。多くの人が抱えている問題はそこにある。

自分に課した約束を覚えていないからと言って、責任から解放されるわけではない。

意識の中の「やるべきこと」を認識している部分に、過去や未来の感覚がどの程度あるかを心理学者に尋ねてみるといい。彼らは例外なく「そんな感覚はない」と答えるはずだ。

この領域では、すべてを「現在」のこととしてとらえてしまう。

つまり、何かをしなければならないと認識し、それを短期記憶に収めたままだと、意識の一部は常にそれについて考えつづけてしまう。

そしてこの事実から、次の結論が導かれる。

二つのことを自分に課し、それを頭の中だけに入れておいた場合、その瞬間からストレスと挫折感の両方を抱えることになるのだ。

なぜなら、それら二つを同時に行なうことはできないからだ。

あなたもおそらくそうだろうが、たいていの人は家に物置のような場所があるはずだ。地下室に物を置いていて、片付けなければならないと思っている人もいるだろう(10年前からそう思っているという人もいるかもしれない)。

そういう人の意識の一部は、常にそのことに嫌な思いを抱きつづけているはずだ。これでは疲れてしまうのも無理はない。

何しろ地下室のそばを通るたびに、「このままじゃまずいよな」「いつになったら片付けるんだ」というささやきが頭の中に聞こえてくるからだ。そして自分を責める声に嫌気がさして、地下室を避けるようになる。

このようなささやきを消すには、次の三つの選択肢からいずれかを選んで実行しなければならない。

1.地下室に関する基準を下げる。

「地下室がごちゃごちゃで何が悪い」。

これについては、すでにやっているという人もいるかもしれない。

2.約束を守る。

「地下室を片付けてしまおう」。

3.「地下室を片付ける」を「いつかやる/多分やるリスト」に入れる。

このリストを毎週レビューして、「今週はやらない」という判断をしておけば、次に地下室のそばを通ったときに聞こえてくるささやきも「今週はやらないんだよな」に変わる。

これは私の実感だが、私たちの意識は、地下室の片付けに関して自分に課した約束と、会社の買収や家計の改善に関する約束との違いが区別できないようだ。

どれも同じ約束として、守っているか守っていないかだけで判断しているのである。

頭の中だけにあるプロジェクトで何も行動していないものがあれば、それは守られていない約束として認識されることになり、常にプレッシャーをかけてくるようになる。

従来の時間管理手法との訣別

GTDはこれまで提唱されてきた時間管理手法とはかなり異なっている。ほとんどの手法では、それほど重要でないと判断したものについては、管理していく必要性は低いとしている。

しかし、私の経験からすると、これは間違っている。少なくとも、潜在意識のレベルではこのような区別はなされていない。だからこそ、すべての約束を意識の表面にもってくる必要があるのだ。

つまりすべてを把握し、目的を明らかにして、客観的かつ定期的にレビューすることで顕在意識に認識させておかなければならないのである。

そうやって自己管理システムのしかるべき場所に入れておかないと、必要以上に精神エネルギーを消耗することになってしまう。

「気になること」を頭の中だけにしまいこんでいると、そこに必要以上に注意が向いてしまうのは明らかだ。

すべてを頭の外に集めておくのは、すべてが同じくらい重要だからというわけではない。むしろ、そうでないからこそ把握しておく必要があるのだ。

どれだけ「把握」すればいいのか

どんなに些細なことであっても、これまで把握していなかったものを書き出すことができれば、確実に気分はよくなる。

「そうだ、バターを買っておかないと」と思い出して、買い物リストに加えるだけで、すっきりした気分になる。

「銀行に投資信託のことを相談する」というメモを書いて電話の近くに置いても、同じように気分がよくなるはずだ。

ただ、すべてを「完全に」把握したときの気分は、これらとは比べものにならない。頭の中にどれだけのものが残っていたかが唯一わかるのは、完全に何もなくなったときだけである。

意識のどこかでまだ何か残っていると感じていれば、「把握する」作業は完了していないし、どれだけ残っているのかもわからない。

では、すつかり空になったかどうかは、どうやって判断すればよいのだろう。

簡単だ。気になることが何も思い浮かばなくなったら、そのときが空になったときである。空になったといっても、心が空虚になってしまうわけではない。

意識があるときは、心は常に何かに注意を向けている。そしてほかのことに気を取られることなく、注意の対象が一つに絞られていれば、究極の集中状態、いわゆる「ゾーン」に至ることができる。

私たちは、「何の仕事をしなくちやいけないんだっけ」ではなくて、仕事そのものに意識を向けるべきなのだ。生産性を高めるには、とにかくすべてを把握することだ。

些細なことも含め、自分に何かの約束を課したときに、それを認識して頭の外で管理できるようになろう。

そのためには意識的な訓練が必要だし、これまでの習慣も改める必要がある。

「把握する」ステップを徹底的にやつたうえで、次々に舞い込んでくることをその場で対処できるようになれば、それは大きな力となってあなたの生産性を飛躍的に高めてくれるだろう。

集団や組織レベルで「把握する」

複数の人間の集まり―チーム、夫婦、部課、家族、会社などにおいて、全員が「把握する」作業を漏らさずやつたら、果たしてどんなことが起こるだろう。

集団レベルでそれができると、忘れているかもしれないことに気をとられることがなくなり、より重要なことに意識を向けられるようになる。ただし、そのためにはチームのコミュニケーションがとれている必要がある。

誰かが何かを把握し忘れているのでは……と疑ってしまうとフラストレーションが溜まってしまうからだ。この問題には、かなり以前から関心をもっていた。

GTDを身につけていない人が私たちのところに来ると、1人だけひどく浮いてしまうのだ。

私はかれこれ30年以上、頭のメモリを空っぽにして、インボックスの中身をきっちり分類する習慣を実践している。

誰かのインボックスにメモが放置してあったり、「わかりました」と言うだけで何も書かない人がいたりすると、私の頭には注意信号が点滅しはじめる。

このような態度は、私の組織では容認できない。システムの不備は、本来気になってはならないものだ。気にしなければならないことは、ほかにもっとある。

メールやメモ、あるいは直接話して頼んだこと、伝えたことがきちんと相手のシステムに組み入れられ、すみやかに見極めと整理がなされ、行動の選択肢としてレビューされない限り、こちらとしては安心できない。

ボイスメールは聞くがメールやメモだと当てにならないような人は、その人に確実に伝わる方法をわざわざ選ぶ必要がある。

物事を円滑に進めようとしている組織においては、そもそもそのようなことがあってはならない。組織で何かを変更する必要があるときは、それがきちんと伝わることが重要だ。システム全体の効率は、構成要素のいちばん弱い部分で決まる。

重要な役割を担っている人物の対応が遅いせいで、全体が遅れてしまうことは珍しくないだろう。

インボックスそのものがなかったり、そこに入れたものの見極めが滞っているような組織は、こういう状態に陥っていることが多い。

このような組織では、コミュニケーション不全のために、あちこちでさまざまな問題が起こってしまう。

紙1枚に至るまでシステムがしっかりと機能している組織では、あらゆることが明確になり、だれもが本来注意を向けるべきことに集中できるようになる。

家庭でも、親、子ども、ベビーシッター、家政婦など、日常的に関わっている人たちのすべてがインボックスを導入すれば同じことが起きる。

私と妻は、すぐそばにいるときでも、メモなどをお互いのインボックスに入れるようにしている。そのことを話すと嫌な顔をする人も多い。いかにも人間味がないように感じられるのだろう。

しかし、こうすることで相手のしていることを中断せずにすむうえ、お互いが自由になって相手をあたたかく受け入れられるようになる。

システムに預けるべきことをきちんと預けることで、余計なことに気をわずらわされなくなるのだ。ただ、このようなやり方を人に強要することはできない。

本人が自分なりのやり方で対応していく必要がある。私たちにできるのは、促すことだけだ。自分のところに来たものをきちんと把握・管理していく義務を負わせるのである。

そのうえで、本書のアドバイスを教えてやればいい。少なくとも、「やり方がわからない」という言い訳はできなくなるはずだ。

これは、誰もが自分のところに来たことすべてをやらなければならないということではない。

知識労働社会においては、誰のところにも自分がこなせる以上のことが押し寄せてくる可能性がある。

私が本書で伝えたかったのは、そのような環境に対応していく方法だ。

最大のポイントは、自分が関わっていることのすべてを定期的に見直す態勢を作り、頭の中の「気になること」から解放されて安心できるようにすることにある。

それこそが、より高度な知識労働のスタイルにはかならない。そしてそれを実現するには、水をも漏らさぬ整理システムを確立することが絶対不可欠である。

そもそも自分との約束を覚えていなければ、それを見直すことができない。人との約束と同じで、それを忘れていれば、話し合って調整することができないのだ。

組織という船に乗っている人のすべてが100%「把握する」作業を行なうようになると、船の前進が妨げられることがなくなる。

方向が正しいか、船そのものが適切かどうかはまた別の間題だが、少なくともその船が最大効率で前に進んでいけることは確かだ。

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