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第1章5Sの徹底で会社は儲かる!

はじめに「5Sで会社が儲かる」こう言うと、「嘘だ」「そんなはずがない」とおっしゃる方もたくさんいらっしゃるかと思います。しかし、現に5Sが徹底できている会社は儲かっていると断言できます。

念のため5Sとは何かをご説明させていただくと、整理・整頓・清掃・清潔・躾のそれぞれの頭文字Sを取ったものです。

以前は工場などの生産管理の手法の1つとして捉えられてきたこともあり、5Sと言うと「せいぜい職場が綺麗になって、時間のロスが少し減るぐらいですよね」なんて言われることもあります。

とんでもない、5Sは「利益を上げるに値するような組織風土をつくるための活動」と位置づけられるぐらい、重要な取り組みです。……と、これだけ力説したところで、「そんな基本的なことで変わるものか」と思われるのもわからないではありません。

ではここで少し、想像してみてください。

営業、あるいは取引先を訪問してドアを開けると、中にいる人は一生懸命自分の仕事に打ち込んでいるようで、誰も応対に出てこず待ちぼうけ。

雰囲気もなんだか雑然としています。かたや、ドアを明けた瞬間、「いらっしゃいませ」という明るい声がして、ハキハキと応対してもらえた。

エントランスもピカピカで、入った瞬間気持ちがよくなります。どちらのほうが、儲かっていそうだと感じるでしょうか。明らかに後者だと感じたのではないかと思います。

前者も、社員の方たちは真面目に働いているだけなのかもしれませんが、与えられた仕事を黙々とこなしているだけでよかったのは、もはや昔のこと。

ビジネスにおいては、「何をやるか」という(外から見える)戦略が重要であることは言うまでもありませんが、「どんな組織でやるか」という(外からは見えない)環境づくりも同じぐらい重要であり、この両輪がそろわなければ、もはや戦えない時代に入ってきています。

そうです。

企業間の競争が激しくなり、生き残りをかけて日々厳しい状況の中で戦わなければならない現在は、組織のパフォーマンス(周囲の人と知恵を出し合い、力を合わせることで発揮される行動の質)を高めることも必要不可欠な要件なのです。そこで役立つのが、5Sです。

5Sがなぜ効果的なのか、少しだけ先取りしてお話しすると、それは、今仕事で求められているスキルが、5Sを通じて培われるから、という1点に尽きます。

具体的には、風通しのいいコミュニケーション環境、組織の判断基準の共有、基本レベルの向上……など組織には欠かせないことばかりです。

ただ、いざ実践するとなると、そこまで成功するイメージが描けないからか、なかなか効果が出るまで続かないところがほとんどだと思います。

これまでにも「5Sブーム」のようなものが何度かあったものの、多くの会社でまだまだ5Sが根づいていないという現実がその証拠だと言えるでしょう。

そこで、本書の第1部では徹底的に、5Sのメリットと、続かない要因について追求してみました。その上で、どうすれば成果に結びつけられるか、そのしくみづくりについて詳しく解説しています。

なぜ今までの取り組みがうまくいかなかったのか、納得していただけるはずです。この理論部分は、経営コンサルタントとして数多くの企業の奮闘ぶりを見守ってきた川原が担当です。

そして、第2部は実践編として、整理・整頓など5Sそれぞれの実践的なアドバイスを、お掃除のプロ・響城がノウハウをぎゅっと凝縮して紹介しています。

あなたのオフィスには、清々しい空気の流れとキビキビしたいい緊張感が感じられますか?

本書をきっかけに挑戦(あるいは再挑戦)を始める会社が数多く出てくることを願い、かつその挑戦が成功することを大いに期待しています。

2013年8月吉日川原慎也響城れい

第1部5S理論編

第1章5Sの徹底で会社は儲かる!

「整理整頓、掃除なんかで本当に儲かるの?」と思わず疑ってしまう、それが皆さんの本音ではないでしょうか。

本章では実際に5Sを徹底して業績を上げている会社を例に取り、5Sを実践すると何が変わるのか、なぜ5Sが効果的なのか、知られざる5Sのパワーについてみっちり解説してまいります。

目次

◎儲かっているかどうかは会社を見ればわかる

○……足を踏み入れた瞬間の印象はどうですか?

「いやー、ずいぶん綺麗なオフィスですね」「社員の皆さんの挨拶も気持ちがいいですね」これらのコメントは、「何かお世辞を言わなきゃ」とか「あらかじめ言おうと準備しておく」類いのものではなく、思わず口に出てくる場合がほとんどです。

恐らく、読者の皆さんの中にも、同じような経験をされている方は多いのではないでしょうか。

営業のお仕事をされている方であれば、たくさんの取引先を回られていることでしょうし、そういう職種ではなかったとしても、私たちは常日頃顧客の立場でオフィスや店舗など様々な場所を訪れています。

そこに足を踏み入れた瞬間に、「明るくて気持ちのいいオフィス(店舗)だなぁ」と感じることもあれば、「何だかどんよりして雰囲気のよくないオフィス(店舗)だなぁ」と感じることもあるでしょう。

ハッキリしているのは、「明るくて気持ちのいいオフィス(店舗)である会社は、そうではないオフィス(店舗)と比較して格段に儲かっている」ということです。

これは私が経営コンサルタントとして数々の会社を見てきた経験からも、ほぼ間違いないと言えます。

○……「明るくて気持ちいい」をつくるもの

では、それらの企業は何に取り組んでいるのでしょうか。それは、本書のテーマでもある、5Sです。

徹底的に5Sを実践しているからこそ、一目見て「明るくて気持ちがいい」と感じるレベルになれるのです。「何を今さら」「それって、当たり前じゃないの」そんな風に思われる方もいるかもしれませんね。しかし、もしそうだとするとこんな疑問が湧いてきます。

「なぜ当たり前だとわかっているのに、全ての企業が5Sを徹底できないのか?」「明るくて気持ちのいい」状態を維持している、つまり5Sを徹底している企業が儲かっているのは当たり前、ということであれば、世の中に存在する企業はこぞって5Sに取り組んでいてしかるべきです。

それにも関わらず、「何だかどんよりして雰囲気の暗い」企業は意外とあちらこちらに存在していますし、ある意味何も感じ取れない「可もなく不可もなく」という状態の企業となるとかなり……というよりも、どちらかと言えばそちらのほうが大多数であるように思います。

皆さんが働いている会社はどんな状態でしょうか。

1つ前提として確認しておきますが、ここで表現している「明るくて気持ちのいい」状態というのは「誰が見ても」そう感じるレベル、つまり高い次元で徹底できている状態を指しています。

「まあこれくらいでいいんじゃないの」と個々人がそれぞれの主観のもとに妥協してやっているような中途半端なレベルではありません。

そもそもその程度であれば、思わず褒め言葉が口から出てくる状態にはならないのです。

「徹底する」意識を会社の全員で共有できていなければ実現できないレベルであり、そういった企業は決して多くはありません。

○……誰か1人ががんばっても、それは5Sではない

ここでもう1度質問ですが、皆さんが働いている会社はどんな状態でしょうか。

この本を手に取っていただいているということは、恐らく5Sに対する問題意識を持っているはずです。それを前提に考えると、あまりよい状態ではないかもしれませんね。

「5Sを徹底したいのは山々だけどできない」案外、多くの企業に共通する課題だと言えるでしょう。

私は、5Sの徹底を困難にしている最大の障害は、「自分1人、あるいはごく少数のメンバーで取り組んだところで意味をなさない」ことにあると考えています。

たとえば、オフィスの中で、「自分のデスクの上には何一つなく、袖の引出しは整理・整頓されており、何がどこにあるのかすぐにわかる」という状態をキープできているとしても、その周辺のメンバーのデスクが“ひっちゃかめっちゃか”に散らかっているような状態であれば、5Sが徹底されている会社だとは誰も思ってくれません。

そのような会社では、ややもすると、「デスクがいつも綺麗な○○さんは几帳面なんだね」という評価で、ごくごく当たり前のことをしているにも関わらず、そのほうが特別だといった扱われ方をされているような状況でしょう。

当然のことながら、個人的に綺麗にしている人が少々いたところで、カバーできる範囲には限りがあります。

誰もが一目見ただけで「綺麗ですね」と思わず言ってしまうレベルにまで高めて初めて、5Sが徹底されていると言えるわけで、そのレベルに到達するには、5Sに全員で取り組まなければならないのです。

整理、整頓、清掃、清潔、躾。冷静に考えてみれば、それほど難しいことではありません。

「普段はあまり意識していないだけのことで、意識すればいつでもできますよ」と誰もが思うような、簡単なことのように感じるでしょう(だからこそ継続が難しいとも言えますが、それについては後々説明いたします)。

本章では、まず2つの成功事例を紹介します。「5Sって思っているよりもすごい取り組みなんだ」という思いをぜひ共有してもらいたいと思います。

5SをベースにV字回復を次々実現!日本電産の再生術

○……永守社長が大切にする3Q6Sとは?

日本電産という会社をご存知でしょうか。

現在も代表取締役社長である永守重信氏によって、1973年に創業された精密小型モーターの製造を得意とする会社です。

創業以来約40年間でグループ連結売上高を7092億7千万円(2013年3月期)の規模にまで拡大してきました。

ここまでの業績拡大を果たしてきた要因として挙げられるのが、早い段階(1社目は1984年)から戦略的に取り組んできたM&Aで、なんと2013年までに37社もの企業(あるいは事業)をM&Aで獲得しています。

M&Aで獲得するような会社は、経営的に厳しいところが多いにも関わらず、そのほとんどを見事に軌道修正させている永守社長の経営手腕、実に興味深いと思いませんか。

ここで最初に、日本電産を取り上げる理由は、その永守社長が大切にされている考え方の1つに“3Q6S”があるからです。

“3Q”とは、日本電産が目指す「QualityWorker(よい社員)」、「QualityCompany(よい会社)」、「QualityProducts(よい製品)」を意味し、この“3Q”を実現するために、整理・整頓・清掃・清潔・作法・躾の“6S”を実行するという考え方が込められています(5Sよりも1つSが多いですが、「作法」は永守社長が大切だとこだわっている部分だそうです)。

「5Sを徹底できる会社はすべからく儲かる」を証明する実践事例がここにある、と考えることができるのではないでしょうか。

ここでは、日本電産が2003年に経営権を獲得した三協精機製作所(現・日本電産サンキョー)再建の話を参考にしながら、5S(日本電産では6S)の取り組みについて整理してみたいと思います。

○……経営の危機から一転、過去最高の利益を計上

当時、まさに経営の危機に陥っていた三協精機。

大規模なリストラを実施したにも関わらず、2002年3月期の連結決算は売上高1095億4600万円(前年比19.1%ダウン)、経常損益47億900万円の赤字、最終損益77億7700万円の赤字で、同社の株式は無配に転落してしまいました。

キャッシュフローも火の車で現金が枯渇していたため、運転資金の融資枠を設定するなどの取引銀行を巻き込んだ立て直しを図るも、業績は好転しませんでした。

翌2003年3月期の連結決算は、売上高1054億8800万円(前年比3.7%ダウン)、経常損益41億6200万円の赤字、最終損益は103億6800万円の赤字で、最終損益の赤字幅が前年よりもさらに拡大するという状況に陥ったのです。

このような状況下で、日本電産は2003年8月、「人員削減はしない」、「三協ブランドを残す」、「これまでのM&Aと同様、あくまでも自主再建を支援する姿勢で臨む(役員の派遣は1~2名程度)」といった条件で経営権を獲得しました。

驚くべきは、そこから文字通りV字回復を実現したことにあります。

日本電産が経営に関わってからまだ1年半しか過ぎていない中、三協精機の2005年3月期の連結決算は売上高1223億円(前年比14.5%アップ)、営業利益103億5300万円(前年は46億6000万円の赤字)、経常利益112億4600万円(前年は65億2400万円の赤字)、当期利益177億9500万円(前年は287億1700万円の赤字)となり、改善どころか、過去最高の利益を出すことができました。

さらに2006年3月期連結決算は、売上高こそ1219億9400万円と前年を0.3%下回る結果になったものの、営業利益121億5100万円(前年比17.4%アップ)、経常利益149億円(前年比32.5%アップ)と、経営が軌道に乗ったことを証明するような業績を達成したのです。

○……再建の鍵は3Q6S委員会

再建成功のポイントは、ズバリ“3Q6S”だと言っても過言ではないでしょう。

そもそも日本電産グループの会社には、必ず「3Q6S委員会」という組織が存在しており、この委員会が手がける3Q6S活動が永守流経営改革の真髄であり、永続的な経営改善活動のための“しかけ”なのです。

この3Q6S委員会は事業所ごとに評価する体制を取っており、100点満点の評価に対して、60点ならば事業は黒字、80点を超えれば最高益になる、といった認識基準が確立しているそうです。

当然、三協精機もこの評価を受けることになるわけですが、三協精機内の3Q6S担当者が「以前から工場を綺麗にする、お客さまが通るところは片づける、といったことはもちろんやってはいたものの、徹底度合いが全然違う」と感じるくらいのレベルです。

事実、永守社長が最初に視察した際には5点という低評価を下されてしまいました(ちなみに、100点満点で5点というのは、ゴミ溜めレベルということのようです)。

工場は油が散り放題、切り子(金属の削りカス)が飛び放題、従業員の作業服は真っ黒。ねじなど、ものが落ちていても誰も拾わない。

お客さまがきても従業員は「いらっしゃいませ」も言わない。守衛はだらだらしている。

この状況に永守社長はマイナス10点と言いたかったようですが、マイナスはよくないからゲタを履かせたといった状況だったのです。

○……徹底的な監査で社員の意識が変わり始めた!

その後、日本電産より正式に3Q6Sの伝道師が監査にやってくるわけですが、更衣室は床に掃除機をかける程度でロッカーの上はホコリだらけ、トイレも含めて全部チェックをした結果が25点……。要するに「全くダメ」という評価でした。

この監査をきっかけに、日本電産グループの「3Q6Sマニュアル」を教材にしながら、三協精機の3Q6S委員会に対する指導が始まりました。

まずは始業前の10分間は必ず各自の周りを清掃する、これを従業員だけではなく、トップ、役員も含めた全社的な活動にしました。監査では、全ての窓枠を指でなぞって確かめるなど、徹底的にチェックされます。

ただぞうきんで表面をなでて終わりではなく、きちんと掃除をやらなければと認識した社員の掃除レベルは著しく向上していきました。

たとえば、でこぼこの曇りガラスを歯ブラシで磨く社員が出てきたり、ブラインドを1枚1枚磨きだす社員が出てきたり、という感じです。

10分間ではやり切れないところを掃除するために、毎週水曜日の終業後30分間、念入りに掃除することも始めました。

外部業者に委託していたトイレ掃除は、まず率先垂範で役員が始め、管理職以上の社員が週末に集まり、従業員に任せられるレベルまで綺麗にしました。

その後、管理職のトイレ掃除の習慣が整理整頓活動へと波及します。

各部署が大量に保管していたファイルを、決められた統一基準のもとに整理し、数十台のトラックを頼んで処分しました。

さらに、老朽化した本社や工場建屋の壁や柱のペンキ塗りにまで活動は広がり、平日の始業前の時間帯も活用されるようになりました。

従業員からは、「磨けば短時間で光る」「その効果が目に見えてわかる」といった声が出てきたそうですが、この達成感や、みんなで取り組むことによる成果を体感できるといったメリットは極めて大きいものだと思います。

また、トイレの便器を自分で掃除することで、その後は綺麗に使おうと当然思いますし、ほかのメンバーにもそうしてもらいたいと思うはずです。

つまり、真剣に取り組めば取り組むほど、「会社のものだから自分には関係ない」という状態から、「みんなのためにも綺麗に使おう、みんなのために大切にしよう」といった思いやりの気持ちが芽生える状態へと変わっていくわけですね。

○……6Sを業績にどう結びつけるのか

しかし、もっとも重要なのはここからです。整理・整頓・清掃・清潔・作法・躾の6Sだけをやっていても、3Q6Sの点数は上がりません。

これらの活動を業績向上、つまり日本電産がグループとして重要課題に挙げている項目を達成するためにどのような活動をし、どう業績に結びつけるのかが重要な評価ポイントとなります。

三協精機において示された経営5大項目に、

  1. ①品質:50PPM以下(PPM=製品を100万個生産した際に不良品が占める割合)
  2. ②材外費:最終売価の50%以下
  3. ③在庫:0.4ヵ月以下
  4. ④生産性:従業員1人当たり100万円/月以上の付加価値高
  5. ⑤経費:1人当たり付加価値高の25%以下(売上1億円当たり500万円以下)

があり、まさしくこれが3Qを数値目標化したもので、6Sがこれらの項目に展開されていることこそが重要なのです。

このように活動の本質を体感しながら真摯に取り組んだ三協精機の評価は、当初「5点」や「25点」だったものが、2004年6月には50点を超え、2004年12月には68点にまで高まっていきました。

そして、3Q6S評価に連動するかのごとく、実際の業績もV字回復を果たしたわけです。

今回例に挙げた三協精機だけでなく、日本電産が取り組んできたM&Aは、経営的に厳しい状態だったところが多いようです。

やはり、どんな企業でも好調のときに自社を売却することは考えないでしょうから、必然的にそうならざるを得なかったということなのかもしれません。

しかし、三協精機の事例を見れば、経営が厳しくなった会社を立て直すに当たって、3Q6Sの果たしている役割はかなり大きいものであることに疑いの余地はありません。

一般的には5Sと称されているこの活動を通じて、会社の業績向上という求める成果を出せることが証明されているのです。

5Sで起死回生!システム販売会社A社のケース

○……深刻な業績悪化、社内の雰囲気は最悪

さて次に、中堅のシステム販売会社A社の事例を紹介しましょう。ここは私が実際にコンサルティングに入らせていただいた企業で、5Sを取り入れて改革に成功したケースです。

読んでいただければ、5Sを導入する前の状態から導入後の状態まで、具体的にイメージできるかと思います。A社は、売上高が約60億円、社員数が約250名の規模の会社です。

A社の取り扱うシステムはある業界に特化したものであり、端から見ると手堅くビジネスを展開している印象でした。

2009年の5月頃、「営業部門を強化したいのでお手伝いをお願いできないものか」という相談があり、A社のオフィスに訪問したのが最初の出会いでした。

打ち合わせのため、オフィスの中を通り抜けた先にある会議室に通されたのですが、まずこの段階で大いに驚かされました。

来客である私に対して誰一人挨拶の声がなく、それどころか「この人誰?」という視線を向けて一瞥するだけという感じです。このような対応を受けて不快に思わない人は、まずいないだろうと確信できるぐらいのレベルです。

見渡してみると、机の上はどこも書類や雑誌が山積みされており、少し空いているスペースでパソコンを開いて作業しているような状況です。

しかも、約束通りの時間に訪問したのですが、会議室で20分ほど待たされてからようやく、相談の連絡をくださった営業部長が「すみません、ちょっと社長に呼びつけられていたもので」と一応の謝罪をしながら出てきました。

「オフィスを拝見しましたが、結構皆さん忙しそうにされているようですね」と話を差し向けると、営業部長は、「最近はそうでもないんですが、なかなか掃除したり片づけたりするまでの時間がなくて……散らかり放題で本当にお恥ずかしい限りです」

と一応はオフィス環境を気にしているような話しぶりですが、表情を見ている限りでは実際それほど問題視しているようにも思えません。これは電話で聞いていたよりも深刻な状況だろうと思いました。

実際、営業部長からは、「急激な業績の悪化に陥って、ついに赤字転落してしまいそうなところまできてしまっており、その要因として、営業部門の受注力低下が社内でも大きな問題として取り上げられている」という話がありました。

確かに営業部門の強化は重要課題だと思いましたが、一方で、A社に入ってきたときの印象を振り返れば、営業部門強化のコンサルティングだけでは、業績向上には至らないのではないかと直感的に感じ取ったところがありました。

そこで、「もちろん営業強化のお手伝いは可能ですが、社内のコミュニケーション改善といった課題にも着手しないと成果につながりにくいと思うので、弊社にご依頼いただけるのであれば、ぜひ同時並行でやらせてもらいたい」という旨のお願いをしました。

そのような態勢で臨まなければ、きっと効果は出ないと思ったわけです。A社の第一印象はそれほどひどいものでした。

○……1度断わられ、1年後に受け入れられた提案

とはいえ、やはり受け入れがたい提案だったのでしょう。数日後、営業部長から「今回は他社にお願いすることになったので」という丁重なお断りの電話がありました。

ところが、それから約1年経った頃、A社の営業部長から「相談したいことがあるので、きてもらいたい」という久しぶりの連絡がありました。

「少しは変わったのかな」と、1年前にA社を訪れたときのオフィスを思い出しながら到着してみると、まあ相も変わらずといった状況でしたし、やはり営業部長も時間通りには現れません。

営業部長が顔を見せると同時に、「業績、よくなってないみたいですね」と切り出してみると、「お察しの通りです。

営業を強化するという課題については、営業プロセスの見直し、チーム営業体制への転換、インセンティブ制度の導入、といったいくつかの打ち手を実行しているのですが、状況はなかなか好転しません。ついてはぜひ前回いただいた提案でお願いしたいのですが」とのことです。

そこで、再び「営業強化に関してはもちろん着々と進めますが、早速、コミュニケーション改善にも手をつけましょう」と提案すると、今回はすぐに受け入れられ、まずは5Sから着手することに関しても反論を受けることなく承認されました。

組織の枠組みを大きく分類すると、営業部門、SE部門、管理部門の3つで、営業部長自身も問題視している組織間の「見えない壁」を切り崩すきっかけとして、5Sこそが最適なテーマだという話に乗ってもらえたのです。

○……「今の御社と取引したい会社はない」厳しいスタート

早速、5Sの展開に着手することになりました。数名の社員に話を聞いて感じたのは、「みんなで5Sに取り組みましょう」などと打ち出したところで、とても前向きにやってくれる状況ではないなということです。

まず、社長と各部門の担当役員に集まってもらい、社員インタビューの状況を踏まえて、次のことを伝えました。

「御社は、皆さんが考えているよりも危機的な状況です。皆さんが消費者の立場で、ダメな店では決して買い物をしないように、御社のお客さまの立場で考えたときに、皆さんはこの自分の今いる会社と取引をしないのではないかと思いますが、いかがでしょうか」

「まあ答えづらい質問だと思いますので、私が答えますが、私がお客さまだったら御社とは決して取引をすることはありません」

「十分ご理解いただいていると思いますので、釈迦に説法かもしれませんが……。お客さまは単に商品やサービスだけを見て取引を決めているのではなく、どんな会社が、どんな人たちが、どんな思いを持って提供してくれる商品・サービスなのかまでを見ています」

「御社の変革の第一歩は経営陣である皆さんが踏み出してください。皆さんが今まで通りのままで、まずは社員に変わって欲しいなどと思っているようなら、うまくいかないのは目に見えています。

もしそれに同意いただけないのであれば、私にコンサルティングを依頼すること自体を考え直したほうがいいと思います」少々厳しい言い方になってしまいましたが、そのぐらいの危機感を持って臨まなければ、とても改善などおぼつかない状況だという認識をしていたわけです。

○……まずは社長と役員がせっせと掃除。社員は無視……

まずはできるところからということで、オフィスの整理・整頓・清掃を社長と役員が率先して始めることになりました。毎日始業の1時間前に出社、それぞれのデスク周りから着手しました。

3日もやるとある程度の状態までは片づいてくるので、デスク周りが終わると共有の打合せスペース、会議室等へ活動範囲を広げていきます。

この段階では、まだまだほかの社員は見て見ぬフリを決め込んでいる様子でした。ほとんどの社員は、自分の机すら片づけようとはしません。

約2週間が経過し、社長と役員の活動はついに収納スペースにまで辿り着きました。

部門ごとに割り当てられている収納スペースには、ファイリングされた書類の入った段ボール箱、各種書籍、CD‐Rなどが乱雑に納められており、一見するだけでは何が何だか全くわからない状態です。

「まずはいらないものを捨てること」「そして必要なものは何がどこにあるのかわかるようにすること」「できれば、どのぐらいの頻度で必要になるのかに応じて保管場所を決めること」以上のような段取りで進めることに合意はするものの、作業は一向に進みません。

なぜならば、現場の社員でなければわからない資料が多く、社長と役員だけでは判断できないからです。

「いよいよ社員の皆さんを巻き込まないと、これ以上は進まないようですね」と話しかけると、社長からはこんなコメントが返ってきました。

「せっかく始めたからにはトコトンやってみようと思っていましたが、やっぱり細かいところまではわかりませんね。

とはいえ、我々の動きは何となくわかっているにも関わらず、自らは全く動く様子のない社員を見ると、どう巻き込めばいいのか、難しいところです……。つくづくこれまでのマネジメントで欠けていた部分を思い知らされた気がします」

ほかの役員も同様の思いがあったようです。

○……社員を巻き込むプロジェクトチームが発足

そろそろ頃合いだと感じたので、プロジェクトチームを立ち上げることを提案しました。

「それぞれの部門の中堅および若手社員から3名程度希望者を募ってください。その際には、まだ5Sをやるとは言わないように。A社の方向性を定める未来創造プロジェクトのような曖昧なイメージでいいので、どのぐらい手が上がるか確認してみましょう」

当時の雰囲気では、5Sをやるなどと言っても希望者が出てくるとはとても思えなかったので、どちらかというと少しでも現状に危機感を抱いていて、変化の必要性を感じている社員の手が上がればよいと考えたわけです。

すると、3部門から合計20名の希望者が出てきました。早速キックオフミーティングの準備に取りかかります。

希望者は全員プロジェクトメンバーということに決定し、それぞれ役割分担して次のような映像の撮影に当たりました(ちなみにB社とC社は私が以前お手伝いをさせていただいた会社です)。

  • 5Sが徹底されているベンチマーク企業B社のオフィスを撮影したビデオ映像
  • B社の来客対応を撮影したビデオ映像
  • B社の取引先にインタビューしたビデオ映像
  • B社との比較に活用するA社の現状を撮影したビデオ映像
  • オートバイ販売店C社の5S取組事例のビフォー・アフター

○……危機感の共有後、いざ本格的に5Sがスタート

後日、社長、役員、プロジェクトメンバーが集まって開催したキックオフミーティングには、B社とC社の社長にもお願いして経験談を話してもらいました。

A社のメンバーは、その話にも大変感銘を受けていましたが、何よりも衝撃的だったのは、B社と比較した自社の現状を撮影した映像だったようです。

「何とかA社のダメさ加減を自ら気づいてもらいたい」という思いがあり、撮影をお願いしていたのですが、これが効果覿面でした。

「B社、C社と比較したからなのかもしれませんが、自社がこんなにひどい、レベルの低い会社だとは思わなかった」というのがほぼ全員の感想です。

よく「お客さまの立場に立って考え、行動しよう」と言われますが、そうは言っても自分の態度や振る舞いは自分ではわからないものです。

映像は、「自らを客観視する視点を鍛える」という意味において、非常に優れたツールであることを改めて実感しました。

このキックオフミーティング後、メンバーは“整理・整頓チーム”、“清掃チーム”、“コミュニケーションチーム”に分かれて活動を開始しました。

もちろん、社長と役員もいずれかのチームに配置されています。

各チームリーダーは、強制しても意味がないという意見でまとまり、まずはプロジェクトメンバーが1時間早く出社してスタートを切ることになりました。

整理・整頓チームは、懸案の収納スペースに取りかかり、その過程の中でプロジェクトメンバー以外の社員にも「これは捨ててもいいかな」と積極的に声をかけながら、自然に巻き込んでいく流れをつくりました。

清掃チームは、掃除のプロフェッショナルである専門業者に応接室の掃除を依頼、その様子を観察することであるべき清掃のレベルを決めて、オフィス内全てを順次磨き上げていきました。

もちろん、「朝の清掃は気分もよくなるし、1日のスタートに絶好の取り組みだから一緒にやろうよ」と仲間を増やす努力も続けています。

コミュニケーションチームは、社内の挨拶や来客対応の品質向上を目指して、手書きのポスターで全社員への徹底を図りました。

偶然にもマンガの上手な社員がいて、人目を引く面白いポスターをつくろうという話になったのです。

それだけにとどまらず、「整理・整頓の目指すべき姿」「清掃の目指すべき姿」、と現在の進捗状況までもポスターとして貼り出し、5S活動全体のゴールと現状を目に見える形にしてしまいました。

○……6ヵ月後には社内の雰囲気も一変、業績も大幅に改善!

文章にするとアッという間に改善が進んでいるような印象を受けるかもしれませんが、営業部長から正式な依頼の連絡をもらってからここまでで、約6ヵ月が経過しています。

「わずか6ヵ月で」と感じる方もいれば、「6ヵ月もかかるのか」と感じる方もいるでしょう。しかし、ビフォー・アフターを傍で見ていた私にとっては、かかった時間よりもその変化こそが驚きでした。その理由を説明しましょう。

この6ヵ月の間に、営業強化のコンサルティングも、同時並行で着々と進めていました。

まずは営業部門から着手しましたが、途中でSE部門を、最終段階では管理部門までも巻き込んで、営業活動の流れを大きく変えたことは確かです。

ただし、長く低迷していた営業成績はなかなか好転しませんでした。

好転したのは、5S活動が少し軌道に乗り始めた頃とほぼ同時期であり、この時期から3部門のコミュニケーションも劇的によくなっていったのです。

「何をやるか」も大切なことに変わりはありませんが、「どんな(心や組織の)状態でやるか」も同様に大切であることを改めて思い知らされたのです。

地に落ちたような(心や組織の)状態を変えることは決して簡単ではないことを経験的に理解しているからこそ、A社の変化は嬉しい驚きでした。

それからしばらくしてA社を訪れてみると、オフィスは完全にフリーアドレスになっていました。

既存のお客さま、あるいは営業案件の状況を考慮しながら、コミュニケーションを取るべきメンバーがその都度集まって仕事ができるようにしたそうです。

私がコンサルティングに入ってすぐに提案したフリーアドレスに対して、強硬に反論を唱えていたSE部門の課長が得意顔で説明する様子に、苦笑いは隠せませんでしたが、とてもよい取り組みです。

60億円前後で頭打ちだった売上高も現在は80億円に迫る勢いになっており、間もなく作成に取りかかる中期経営計画では100億円を目標にしたいと言う社長の目も輝きを増していました。

「5Sを徹底できる会社はすべからく儲かる」

5Sすら徹底できない会社が、5Sよりも困難な仕事面において変化を起こせるはずがないわけで、だからこそ5Sを実践できる会社は儲かるのです。

A社が実践した「変化は自ら起こしていく」ことに、多くの会社がチャレンジして、「5Sを徹底できる会社はすべからく儲かる」を実現してもらいたいと思います。

第1章「5Sの徹底で会社は儲かる!」のポイント

  • 一目見て「明るくて気持ちのいいオフィス」と思う会社は、えてして儲かっている
  • 簡単に見えるからこそ、5Sは実践が難しい。全社を挙げて取り組む必要がある
  • 5Sが企業を再生させる全てではないが、社員の意識改革、職場環境の一新など、もたらす効果は計り知れない
  • 会社を変えようと思ったら、まずトップの意識を変える必要がある。厳しい現状認識が欠かせない
  • 実践するのも、トップからが鉄則。そのあと、社員を巻き込んで活動を徐々に広げていく
  • 5S活動が広がるにつれ、自然と部署間のコミュニケーションは増え、実績も比例して上がっていく。5Sは、会社が変わる素地をつくってくれる。
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