三笠書房元刑事が教える 相手のウソの見抜き方森 透匡
はじめに 元刑事が「ウソ」や「人間心理」の見抜き方を教えてくれるの? いったいどんなテクニックを使っているんだろう? おもしろそう! あなたはこんなことを思って、本書を手に取ったのではないでしょうか。 私は警察官として約 28年、そのうちの約 20年を刑事としてすごしました。 刑事時代は詐欺、横領、選挙違反、贈収賄事件などを扱う部署に長く在籍、政治家、経営者、公務員、銀行幹部、詐欺師など、 2千人以上の取調べや事情聴取を行い、その経験の中で「ウソや人間心理の見抜き方」を体得しました。 そして 2012年に独立起業し、そのスキルが学べる場を「刑事塾」と名付け、講演、企業研修などの形で全国で登壇し、これまで 7万人以上の経営者、サラリーマン、主婦の方に聴講して学んでいただいております。 刑事には様々なスキルが必要ですが、大事なスキルの一つが「ウソを見抜く力」です。 刑事が相手にするのは犯人、目撃者、情報提供者など多種多様ですが、すべてを正直に話してくれる人ばかりではありません。 つまり刑事は「この人は本当のことを言っているのだろうか?」「この事件の真実はどこにあるのだろうか?」「この証拠は本当に事件と結びつくのだろうか?」などと、常に真実と向き合いながら仕事をしているのです。 では、刑事はどうやってこのスキルを体得しているのでしょうか? 実は我が国の警察では、警察官に「ウソの見抜き方」を教えていません。「え、なんで? じゃあどうやって学んでいるの?」と不思議に思うでしょう。それを教えない理由は「ウソの見抜き方は現場体験の中で学ぶもの。そもそも他人に教えられるものではない」と考えられているからです。 これは、ウソの見抜き方を体系的、理論的に教えている人がいない、という裏返しでもあります。 警察大学校で学んだ私ですら、「ウソの見抜き方」を一度も教わったことがありません。 残念ながら刑事歴数十年というベテランも自分のスキルとして持ち合わせているだけで、体系的に教えることができず、「個人のスキル」で終わってしまっているのです。これは本当にもったいない話です。 私が「刑事塾」を主宰して、「ウソを見抜くスキル」を世の中に広めようと思った理由は2つあります。 一つは「民間ビジネスの世界でこのスキルを使ってもらいたい」ということです。警察を辞め、ビジネスの世界に足を踏み入れた私は、このスキルを最大限活用しています。 商談相手が本当のことを言っているのかを知りたいとき、採用面接で応募者の本質を見抜きたいとき、詐欺師が騙そうと思って近づいてきたときなど、私はこのスキルで判断をしています。 すると、交渉もうまくいき、いい結果が生まれます。 もう一つの理由は、「現役の刑事の世界で使ってもらいたい」ということです。 警察組織が部外の講師に教わることはかなりの抵抗感があるでしょう。 しかし、私は元刑事です。 28年間、警察官として奉職しました。私の培ってきたスキルを体系的に教え、再現性のあるものにしたら、きっと現役の刑事にも役立つと思うのです。その結果、刑事の取調べ技術も向上しますので、悪い人間を見逃すことがなくなり、我が国の治安は良くなります。それが私を育ててくれた警察組織に対する恩返しになるのではないか、と思うのです。 本書を手に取ってくださったあなたには、本書を読んで「刑事のウソを見抜く力」を身につけ、ビジネスを発展させていただきたいと思っております。 本書との出会いが、あなたの人生に大きな変化をもたらすことを期待してやみません。森 透匡
もくじ はじめに 刑事の仕事はウソを見抜いて当たり前 ウソを見抜くのが難しい人とは? ウソの見抜き方は教えてもらえない ウソが見抜ければ、交渉はうまくいく 刑事の雑談 「刑事は制服の警察官よりエライのか?」 第1章 刑事のスキルはビジネスに使える!
あなたが刑事ドラマでよく見るシーン、それがまさに刑事の仕事です。「取調べ」「事情聴取」「尾行・張り込み」「聞き込み」「犯人の逮捕」「家宅捜索」……。その中で特に重要な仕事が「取調べ」や「事情聴取」という「人から情報を引き出す作業」です。この作業の難しさは、「相手が真実を話しているかどうかわからない」という疑問から始まることにあります。 まずは、犯罪者。彼らは基本的にウソを言います。誰しも自分の身がかわいいからです。 犯罪者は「自分だけが悪いわけではない」「他に比べたらたいした悪さではない」「少しでも罪を軽くしたい」と思います。自己防衛本能が働くからです。私の経験から言うと、犯罪者が心底本当のことを話してくれる確率は、全体の 60%程度です。 それから被害者は、被害者感情から犯罪者を「絶対に許さない」という強い気持ちになります。詐欺などの被害に遭った場合、自分の落ち度を知られたくないという心理も働きます。そのため、被害程度を誇張したり、デタラメを言うこともあるでしょう。さらに被害に遭っていないのに、特定の人を罪に陥らせるためにウソを言う人もいます。 最後に目撃者などの参考人。もちろん積極的に協力してくれる人もいますが、そんな人ばかりではありません。「忙しいから事情聴取を早く終わらせたい」「何度も呼び出されるのは面倒だ」と思っている人もいます。つまりウソはつかないまでも十分な説明はせず、その場に合った適当なことを言う人もいるのです。 刑事はこれらの捜査対象者が「真実を述べているかどうかを判断する能力」がどうしても必要になります。それが「ウソを見抜くスキル」なのです。
私は知能犯担当の刑事として、いろいろな職種や立場の方の取調べや事情聴取を長く担当してきました。その中でも特に難しかったのは政治家や経営者でした。 一国一城の主は背負っているものが違います。ウソは背負っているものの違いで強固にもなり、軟弱にもなるのです。 たとえば、県会議員や市会議員などの政治家。 彼らは辞任したらタダの人です。立候補するにあたり、大きな借金をして選挙に臨み、苦労してやっと当選したのかもしれません。そして摑んだ議員報酬は年間 1千万円以上になることもあります。それが辞職したらゼロになります。家族がいたら、明日から路頭に迷ってしまいます。 ですから、「怪しい橋を渡っても捕まらなければ……」と考える人もいて、いざ取調べになると必死に抵抗します。 まして彼らは市民、県民から選ばれた代表です。彼らの背後には何千票、何万票の支持があります。 その時点で彼らは一般人とは違うという自負がありますし、市民の立場で役所を監視監督するという意識もあります。というわけで、簡単に事実は認めません。その結果、取調べも困難を極めるのです。 経営者も同様です。 個人的に起こした犯罪について擁護する気はありませんが、談合や競売入札妨害などの犯罪は会社の利益のために行うケースがほとんどです。そのため、そもそも悪いことをしたという意識が薄くなります。 その上、仮に検挙されると公共工事の指名停止処分や、社会的信用の欠如などあらゆるハンデを背負うことになります。その結果、下手をしたら倒産するかもしれませんし、家族同然の社員も解雇せねばなりません。当然ですが、簡単には認められないので抵抗するのです。 人間というのは失うものが大きければ大きいほどウソが強固になり、結果としてウソが見抜きにくくなるというわけです。 また、「男性と女性ではどちらのほうがウソがうまいか?」という質問をされることがあります。私の個人的な経験からすると、女性のほうがうまいと思います。 取調べの場面では、男性は目を逸らして視線を合わせない人が多いのです。ところが女性は逆に目を合わせてくる人が多い。女性は刑事の顔を見ながら「自分のウソが見抜かれていないか」を見抜こうとしているのでしょう。ですから私は、女性の取調べは苦手でした。 生物学的な視点からも、それは言えます。 男性は怪しい人物や危害を加えようとする人物が近寄ってきたら、腕力でカバーすることができます。 ところが女性は腕力では身を守れません。ですから、直感や匂いなど五感の作用を総動員してウソを見抜いたり、ウソをついたりして身を守ることになるのです。妻の直感が鋭いのは、そんな理由なんですね。 やはり女性にウソをつくのはやめたほうがよさそうです。
刑事にとってウソを見抜くスキルは極めて重要です。 アメリカでは、 FBIや CIAの元捜査官が「ウソを見抜くスキル」を教えるコンサルタント会社を設立して、現職の警察官に教えているケースもあります。 しかし、「はじめに」でもお話ししたように、私の知るかぎり、我が国にそんな会社はありませんし、そもそも警察学校ではウソの見抜き方を教えていません。つまり、我が国の刑事は実体験と独学で学ぶしかないのです。 世の中には、ウソを見抜く必要性が高い職業はたくさんあります。 公務でいえば警察官を筆頭に、国税調査官、海上保安官、自衛官、それらに加えて許認可が絡む役人などはすべてそうですよね。民間では、金融機関の与信担当者、空港の保安検査の警備員、企業の採用面接官……挙げればキリがありません。 実はこれらの方々も、ウソの見抜き方を誰からも教わっていません。自分の実体験と独学で学んでいるのです。これは、我が国にはウソを見抜くスキルを学べる風土や教育制度がないことを物語っています。 以前、私の後輩で現職の刑事が、私の主催するセミナーに参加しました。 彼は「後輩の刑事からウソの見抜き方を聞かれても教えられない。だから、森先輩に教わりにきました」と言うのです。 つまり彼は、なんとなくウソを見抜いていますが、体系的な理論としては構築されていません。だから後輩に教えられないのです。 セミナーに参加した彼は「すごく勉強になりました。現職に教えてあげて欲しいです」と言っていました。 警察官も含め、ウソを見抜くスキルを向上できたら、仕事の成果はもっと上がるはずです。私は、このスキルがどんどん世の中に広がることを望んでいるのです。
「ウソを見抜く」というスキルは、どちらかというとネガティブに聞こえがちです。 私は大手企業でも研修を行っているのですが、「お客様を疑っているような研修テーマですよね」と言われることもあります。 また、「採用面接でのウソや人間の本質の見抜き方」というテーマの研修でも「応募者を疑ってかかるようでかわいそうだ」と感じる方もいるようです。 これは「ウソを見抜く」ということが、「相手が本当のことを言っていない、つまりウソを言っていること」を前提としているからです。「商売には信頼関係が大事なのに、その信用を端から疑っているとは何事か」、そんな意味合いにも捉えられます。 しかし、もし相手のウソが見抜けたらどうでしょうか。正しい情報を得ることができ、その結果、正しい判断ができるため、自分が求める最善の結果に近づくことができます。当然、騙されることはありません。 たとえウソを完全には見抜けなくても、相手からウソのサインを読み取ることができれば、そのあとの交渉は注意を払うので質問内容も変わり、交渉力は向上します。 交渉に必要なコミュニケーションスキルとして、説明力、表現力、傾聴力、質問力、説得力など個別のスキルがありますが、これらに加えて、これからは「ウソを見抜く力」を身につけましょう。そうすることで、有利な状態で交渉や商談に臨むことができるようになります。 つまり、「ウソを見抜くスキル」は決してネガティブなスキルではないのです。
刑事ドラマでは、殺人現場に私服刑事が到着すると、現場保存中の警察官が敬礼をして迎え入れるシーンがあります。あれを見ると、刑事のほうが偉そうに見えますよね。その影響もあるのでしょうが、「制服の警察官より刑事のほうがエライのか?」と質問されることがあります。 その答えは……刑事が偉いということはありません。 そもそも警察は階級社会なので、上司と部下は階級で区別されています。巡査からはじまって巡査部長、警部補、警部、警視、警視正……の順番で偉くなります。ですから制服の警察官が「巡査部長」で、私服の刑事が「巡査」ということもあります。そのときは、制服の警察官のほうが階級上は偉いということになります。 刑事は専門職ですから、イメージとして警察官より偉く見られがちなのかもしれませんね。 ちなみに警察組織で偉くなるには、毎年定期的に行われる昇任試験に合格しなければなりません。階級上、警視正以上は国家公務員となり、試験はありませんが、巡査部長から警視までは試験で昇任していきます。ですから警察官は生涯にわたり、勉強しなければなりません。 警察官の家庭では娘や息子が大学受験、お父さんは昇任試験で机を並べて勉強ということが普通にあります。私も学生時代よりも警察に入ってからのほうが勉強をしたように思います。 昇任試験の内容は予備( S・ A試験)、一次(論文試験)、二次(面接、点検教練)が一般的です。法律を使う職業ですから、憲法、刑法、刑事訴訟法はもちろん、道路交通法、風営法などの特別法も勉強する必要があります。 階級社会の優れた点は年功序列ではなく、実力社会だということです。ですから努力次第で、先輩を簡単に追い越すことができます。 やる気のある人間にとっては、非常にいい制度だと思います。その代わり、若くして偉くなると先輩ばかりが部下になり、これをうまく使っていかなければなりません。 警察幹部は自然とマネジメント力も身につく組織なんですね。
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