離婚の条件の中で、争点となることが多いのがお金に関する問題です。
実際に私たちの事務所に相談にきた人に、相手側に支払うことになる金額のおよその見通しを説明すると、「そんなに払ってどうやって生活しろというんですか」といった感想をもらす人も少なくありません。
ここでは離婚の際に支払わなければならないさまざまなお金について、詳しくみていきましょう。
1 婚姻費用
◉離婚にかかわる「4つのお金」
いわゆる離婚条件として出てくるお金の問題には、 ①夫婦のどちらかに非がある場合に発生する「慰謝料」、 ②夫婦で共同して作り上げた財産を清算する「財産分与」、 ③未成熟(成人年齢に達しているか否かにかかわらず、まだ経済的に自立していない状態)の子どもがいる場合に発生する「養育費」の 3つがあります。
さらに、 ④離婚に向けての話し合いや、調停、訴訟などが続いている場合、妻子の生活費としての「婚姻費用」も、広い意味での離婚にかかわるお金ということになります。
中でも、男にとって予想外に厄介なのが、「離婚までの妻子の生活費 =婚姻費用」なのです。なお、弁護士や裁判官は、離婚問題について話すときに「コンピ」という言葉を使うことがあります。これは婚姻費用を略した「婚費」のことです。
◉婚姻費用とは?
婚姻費用とは、別居期間中に夫婦の一方が他方に払う生活費です。子どもがいる場合は、妻子の分になります。
どちらがどれだけ支払うかは、夫の収入、妻の収入、子どもの数と年齢に応じて、「婚姻費用の算定表」(巻末資料)をベースに決めることが多いです。
妻から夫へ支払うこともありますが、ここでは多数例である、夫が妻に支払う場合について説明します。
そもそも、なぜ、別居している相手の生活費を支払わなければならないのでしょうか? それは、夫婦間では、収入の多いほうがその額に応じて収入の少ないほうを養う義務があるからです。その義務は離婚するまで続くため、たとえ別居しても免れることはできません。
離婚すれば妻は赤の他人になり、養う義務はなくなるため、婚姻費用は支払わなくてよくなります。ですから、別居の過程を経ずに離婚した場合には、婚姻費用はあまり問題になりません。
別居したまま、離婚協議 →調停 →訴訟とステージが進んで長期化すればするほど、婚姻費用の累積支払額が膨れ上がり、夫の肩にずっしりのしかかってくるのです。
◉婚姻費用は女の武器
婚姻費用というのは、離婚の話し合い・交渉においては妻側の武器になります。仮に婚姻費用が月額 8万円としても、 1年で 1 0 0万円近くになります。もし調停や訴訟で 1年以上の長期化が見込まれるとすれば、婚姻費用の負担はさらに大きくなります。
そのため、妻が離婚を望んでいる場合はあなたを経済的に追いつめることができるため、離婚に持ち込みやすいのです。もちろん、子どもがいる場合は、離婚しても養育費の支払いが残ります。ただ、婚姻費用と養育費を比べた場合、養育費は子どもの分だけですから、婚姻費用より少なくなります。
たとえば、婚姻費用が 8万円で養育費が 5万円になることが見込まれる案件であれば、早く離婚することで得られるメリットは 1ヵ月あたり 3万円となります。
また夫が有責配偶者で、妻の同意がないと離婚できない場合に、慰謝料の額が多くなる理由のひとつも婚姻費用にあります。妻側とすれば、離婚を拒絶していれば長期間にわたって婚姻費用を受け取れるのです。
それでもあえて「離婚してあげる」のですから、もらえるはずの婚姻費用分を慰謝料として一括払いで受け取れるような条件でなければ、「割に合わない」ということになるのです。つまり、一度婚姻費用を支払う約束をしてしまうと、妻側は離婚交渉を有利に進めることができます。
私たちの事務所の経験からいっても、離婚の条件を話し合ううえで、夫側が「悔しいけど、これ以上やっても……」と苦渋の決断をせざるを得なくなる背景に、婚姻費用を支払っている事実があることが多いのです。
仮に、夫が婚姻費用を支払う約束をせず、妻も調停を申し立てないという状況だと、夫の懐は痛みません。
逆に妻はどんどんジリ貧になっていきますので、早く離婚して慰謝料や財産分与がほしいということになり、夫側にとって離婚交渉を有利に進められる状況といえます。
ですから、別居している妻から相談を受けた弁護士は、「何はともあれ婚姻費用を請求し、支払ってもらえなければ調停を申し立てなさい」とすすめるのです。
◉支払いを拒否するとどうなる?
婚姻費用は、まずは当人同士で話し合い、決まらない場合は「婚姻費用分担調停」、それでも決まらなければ「婚姻費用分担審判」へと進み、最終的には裁判官が「婚姻費用の算定表」(巻末資料)をもとに金額を決めます。
調停や審判で決まった婚姻費用が支払われない場合、妻は裁判所に申し立てて、夫の財産を差し押さえることができます。夫がサラリーマンで妻が勤務先を知っていれば、給料が差し押さえられてしまいます。
その場合、離婚でもめていることを勤務先に知られてしまううえ、離婚が成立するまでのあいだ、婚姻費用は給料から天引きされてしまうのです。
なお、妻が浮気をして家を出て行った場合には婚姻費用を支払わなくてもよいことがあるので、必要であれば弁護士に相談しながら、調停や審判などでその点をしっかり訴えかけていきましょう。
なお、現在の裁判所の実務では、婚姻費用の支払い義務は「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を妻子にも保持させる義務)と考えられています。そのため、夫の収入が多い場合、婚姻費用の額が生活保護基準を超えることもあります。
しかし、身勝手に出て行った妻に対しても、生活保持義務まで負うべきなのでしょうか? 最低限度の手当で十分ではないでしょうか。
なぜなら、婚姻費用の負担は、夫婦相互の助け合いの義務が根拠となっており、一方的に、助け合いを放棄して出て行きながら、相手に対してだけ義務を求めるというのは、いかにも筋が通らないからです。そうであれば、生活保護基準以上の婚姻費用を支払わなくてよいという理屈は、十分あり得るのではないかと思います。
もしあなたがこういうケースにあてはまるなら、ぜひこのロジックを使って、調停や審判で減額交渉を行ってみてください。
◉失業中でも支払わなければならない?
夫に収入がない場合は、基本的に婚姻費用を支払う必要はありません。婚姻費用を支払わなければならない根拠は、収入・財産がある者が、収入・財産がない配偶者を養うことにあるからです。
婚姻費用の支払いを決めた当初は収入があったとしても、途中で収入がなくなったり減ったりすれば、支払いを免除してもらったり減額したりすることができます。減額の話がうまく進まないときは、再び裁判所に調停を申し立てる必要があります。
裁判所も「借金をしてでも相手を養え」とは言いません。もっとも、働こうと思えば働けるのに働かない場合には、裁判所が「ちゃんと働け」とばかりに婚姻費用の支払い義務を認めることもあります。
これは妻の場合も同様で、妻に収入がないからといって、形式的に妻の収入を 0円として婚姻費用が決まるとは限りません。働こうと思えば働ける状況の場合には、妻にも一定の収入があるものとみなして婚姻費用が決まることもあります。
◉妻に財産がある場合
婚姻費用は、財産や収入に応じて負担を決めるべきものです。しかし、算定表には「収入」だけが書かれていて、「財産」についての記載はありません。このことからわかるように、婚姻費用を算定するうえで財産はあまり問題になりません。
しかし、収入がなくても、親から相続した遺産などで多額の預貯金をもち、優雅に暮らしている人もいます。
こんなケースで、たとえば月収 20万円の夫に相場通りの婚姻費用を支払わせるのは、どうにもおかしな気がします。こういう場合には、財産を年収に換算して評価するのが妥当ではないかと考えています。
実際には、これまでそういう先例は聞いたことがありませんが、もし私たちの事務所でそういった案件に携わることがあれば、挑戦してみようと思っています。
column誰が妻を養うべきなのか?
「自分勝手な理由で出て行った妻に、どうして生活費を支払う必要があるのでしょうか?」 婚姻費用を請求された男性の中には、こんな疑問をぶつける人が多くいます。
たしかに、妻が浮気をして出て行ったケースなど明確な落ち度がある場合を除き、裁判所は基本的に出て行った事情は考慮しません。なぜでしょうか? それは、生活保護と大きく関係があると思われます。
出て行った妻に生活するだけの十分な収入がない場合、基本的には生活保護費の受給対象となりますが、生活保護費の支給基準額は、夫が支払う婚姻費用より高額のことが多いのです。
つまり、夫が婚姻費用を支払っていれば、役所が支給するのは婚姻費用と生活保護基準額との差額ですが、夫が婚姻費用を支払っていなければ、役所は生活保護費の全額を支給することになります。
ここまで読んで、「こちらが払おうが払うまいが、結局もらえる額は一緒なのか。ますます支払う気が失せてきた」と思った人はいませんか? こんなふうに考える人が多いからこそ、
婚姻費用は支払われなければならないのです。いくら自分勝手な妻であっても、妻にとって見ず知らずの人々の集まりである国民全体とあなたとを比べれば、妻に対する責任を負うべきなのはあなたのほうでしょう。
つまり、あなたの妻を国民の血税で養うか、あなたが養うか、というのがこの問題のポイントです。そうなると答えは明らかでしょう。
「離婚が成立するまでは、夫であるあなたが責任をもちなさい」ということになるのです。
◉婚姻費用の基本戦略
では、婚姻費用の支払いについて、具体的にどのような方針をとるべきでしょうか? 基本戦略は次の 3つです。
①調停に出席して主張する
調停のステージに進んでしまったら、ある程度の婚姻費用の支払いは覚悟する必要があります。調停を欠席しても、結局は算定表通りに支払うことになってしまいます。
算定表の金額は年収に応じて決まっているので、裁判所が決める場合は、その額を月割で支払うことになる可能性が高いです。すると、毎月の収入は少なくてボーナスの額が大きいような場合には、毎月負担するには重すぎる支払額が決められてしまいます。ボーナス時に多めに支払うような実情に沿った内容にするためには、調停に出席して説明することが大切です。
また、あなたが住宅ローンを負担している場合、それを考慮せず、算定表で形式的に決められてしまうと、とうてい払いきれない額になってしまうこともあります。
住宅ローンなどあらかじめわかっている支払いについては、しっかりと調停で説明する必要があります。また、妻側が特別な事情を主張して、婚姻費用の算定表よりも増額を申し立てる可能性もあります。特別な事情というのは、たとえば「子どもが病気で医療費がかかる」というようなことです。
裁判所は基本的には算定表に従って決めますが、算定表は絶対ではなく、多少の増減をする場合もあります。何か特別な事情を主張されたときに、反論の余地があればきちんと反論できるように、やはり調停や審判には必ず参加しましょう。
②難しい問題があるときは弁護士に相談する
先に説明したように、婚姻費用を算定表だけでは決められない場合もあります。
たとえば、
- あなたが住宅ローンを支払っているとき
- 相手に浮気などの問題があるとき
- 子どもの数が算定表の人数を超えるとき
- 収入の多いほうが、子どもと同居しているとき
こうした場合には、ひとりで立ち向かわず、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。調停委員もそのようなケースについての理解がない場合もあり、強引に算定表から支払額を決められてしまうことが、ないとはいえないからです。
③貯金して徹底抗戦
調停で提示された婚姻費用に納得がいかない場合は、安易に妥協せずに徹底抗戦し、最後は審判で裁判官に決めてもらうという方法もあります。徹底抗戦をする人が増えていけば、夫側の泣き寝入りのような事案が減っていく可能性もあるでしょう。
ただし、徹底抗戦にはリスクがともないます。
こちらの言い分が通らなかった場合は、調停や審判を相手が申し立てたときから、最終的に審判で支払額が決まるまでの期間の未払いの婚姻費用を一括で支払うように命じられるからです。
たとえば、相手が毎月 10万円の婚姻費用を求めており、こちらがそれを不当だとして抗戦したものの、半年後に裁判所が審判で 10万円と決めた場合、半年分 60万円の婚姻費用を一括で支払うことになります。支払えない場合は、給料の差押えを覚悟しなければなりません。
ですから、相手の要求が通る可能性がある場合は、徹底抗戦しながらも、負けた場合の一括支払いに備えて毎月少しずつでも貯金をするなど、しっかり準備を整えておくのが賢明です。
まとめ
- 別居から離婚成立までの間は、妻子の生活費である婚姻費用を支払わなければならない
- 離婚交渉が長期化すると、夫に婚姻費用の負担が重くのしかかる
- 婚姻費用の支払いを拒否するなら、給料を差し押さえられる覚悟が必要
column現実を思い知る妻
離婚したいという女性(妻)から弁護士(以下:弁)が相談を受ける場合、よくあるのがこんな会話です。
妻 「もう愛情をもてなくなったので夫と別れたいんです」
弁 「どうしてもやり直すことはできないんですか?」
妻 「そばにいるだけで精神的に不安定になります。子どものためにも別れたほうがいいと思います」 弁 「それでは、まず別居から始めることになります」
- 妻 「別居しても、生活費はもらえるんですよね」
- 弁 「はい。旦那さまの収入からすると、月 10万円程です」
- 妻 「それでは生活できません。子どもの習い事だけで、月 6万円はかかるんです」
- 弁 「旦那さまが、習い事の分は別に出してあげようという気持ちがあれば、交渉できるかもしれません」
- 妻 「無理です。夫は子どもの習い事に反対してましたから」
- 弁 「別居や離婚は生活費が二重になりますから、いままで通りの生活水準を維持するのは無理です。仮に離婚が成立した場合、旦那さまからもらえるお金は養育費だけになりますから、月 7万円とさらに減ります。離婚を優先するのか、お子さんの教育を優先するのかを決める必要があります」
離婚の相談に来る女性の中には、いままでの生活水準を維持するのに必要な生活費を夫に負担させたうえに、慰謝料ももらうつもりの人がいます。
その夢から目を覚まして現実を見つめ直してもらった結果、離婚を思いとどまる人も少なくありません。
離婚のリアルストーリー [ケース 3]
調停に欠席したら、多額の婚姻費用が決定した Cさん :38歳/結婚歴 7年/妻は専業主婦/子ども 2人
妻が子どもを連れて家を出た。「きっとこうなる」と思っていた。妻とはこの 1年ケンカばかりしていたからだ。しばらくすると家庭裁判所から連絡があった。
妻が婚姻費用分担調停の申立をしたので裁判所まで来てほしいということだ。僕たち夫婦には子どもが 2人いる。妻は専業主婦だ。
僕の年収は額面こそ 7 0 0万円と少なくないが、ボーナス分が多いので、毎月の手取りは 30万円くらいのもの。そこから住宅ローンを 11万円支払っているので、収支はかつかつである。
それなのに、婚姻費用とかいうものを支払えなんて、まったく、どういうつもりなんだ。僕が生活できなくなるのはわかってるはずなのに……。
本を買って調べてみると、調停には出席しなくても不利益はない、と書いてあったので、 1回目は欠席した。その後、裁判所からしつこく連絡が来るのに根負けし、 2回目の調停には出席した。しかし……素直に出席した僕がバカだった。
調停委員は妻の言い分ばかり聞いて、こちらのことは悪者扱い。調停委員なんて大層な仕事をする人は、それなりの人格者だと思っていたが、そうでもないらしい。
あまりに腹が立ったので、思わず席を立った。
すっかり調停委員不信に陥った僕は、裁判所からの連絡を無視することにした。すると裁判所から、「調停が不調になり審判に移行した」との連絡があった。
審判というのは、どうやら裁判官が決着をつけてくれるものらしい。裁判官が決めるのであれば、妻側に偏った不公平な裁定はしないだろう。
そう思って審判も欠席した。やがて裁判所から、審判で決まった内容が書かれた「決定書」が届いた。それを見て僕は絶句した。
婚姻費用として毎月 16万円の支払いと、調停申立から現在まで 5ヵ月分の婚姻費用 80万円を一括して支払えと書かれていたのだ。
手取りの 30万円から 11万円の住宅ローンを支払い、そこからさらに 16万円の婚姻費用を支払ったら、僕の手元には 3万円しか残らない。あわてて裁判所に文句を言ったが、らちがあかない。
法律相談に行ったところ、金額は算定表通りで妥当だという。
加えて「このまま支払わないと給料を差し押さえられてしまう」「手取り額の半分までは差し押さえることができるので、早急に支払ったほうがいい」とのアドバイスだった。
給料を差し押さえられたうえに住宅ローンを支払ったら、生活ができなくなる。
妻側の弁護士から連絡があった。僕はなんとか話し合えないかとお願いしたが、一方的に妻の言い分を代弁するのみで、話し合う余地はない。結局、差押えを回避してもらうかわりに、妻に有利な条件をのむ形で離婚せざるを得なくなった。
どうすればよかった? 今回、このような結果になった原因は、 3つ考えられます。
そのすべてについて、調停や審判で話し合いの機会をもっていたら、もっと妥当性のある解決ができた可能性があります。つまり、婚姻費用の調停・審判に欠席し続けることは、大きなリスクがあるということです。
それを踏まえたうえで、 3つの原因とその対応策をみていきましょう。
①年収に対して月収が少ないのに、算定表通りの金額にされた
このような場合は、「基本戦略」の項(本章前出)で述べたように、毎月の支払いは少なめにして、ボーナス時に多めに支払うという方式にしたい旨を、裁判所に伝えなければいけません。
裁判所には源泉徴収票などの年収ベースの資料しか手元にないことが多く、夫側がしっかり説明しない限りは、年収に占めるボーナスの割合が多いことを把握できないのです。
審判で金額が確定してしまったら内容の変更は難しいので、気をつけなくてはいけません。
②住宅ローンを考慮せずに決められた
あなたが住宅ローン対象の自宅に住んでいる場合、一人暮らしには広すぎることや、妻が一方的に出て行ったためにそういう事情が生じた旨を説明すると、金額を決めるうえで考慮される可能性もあります。
ですから ①と同様に、こちらの言い分を裁判所にしっかりと伝える必要があります。ただし、裁判所が必ずしも夫側の住宅ローンを考慮してくれるとは限らないので、過剰な期待はできません。
なお、妻が住宅ローン対象の自宅に住んでいる場合は、家賃相当額分を婚姻費用から控除するなど、話し合いの余地は十分にあります。
③未払い分を一括払いにされてしまった
審判における決定では、調停申立時から審判のときまでの未払いの婚姻費用を一括で支払うことになるのが通常です。半年分だけでもかなりの額になります。夫側が一括で支払えない場合、妻側は給料を差し押さえる権利をもっています。
給料を差し押さえられることになったら、裁判所から会社に通知が行き、未払い分を給料から天引きされてしまいます。天引きされる額は、手取り額の半分までで、ボーナスからも同じく天引きされます。
審判で決定される前に話し合いで支払額を決めていれば、こんな事態にはならず、分割払いが認められた可能性が高いでしょう。
2 慰謝料
離婚の際の慰謝料といえば、男性から女性に払うものというイメージがあるかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。ここではまず、慰謝料とはどういうものかというところから説明していきます。
◉慰謝料は必ず男が払うもの?
離婚における慰謝料とは、離婚の原因を作った側が、離婚という精神的苦痛を受けた側に対して支払う損害賠償金です。
そして、慰謝料の法律上の根拠は「不法な行為によって他人に損害を与えたら、その損害を賠償する必要がある」というルールです。
交通事故の損害賠償や、物を盗んだ際の損害賠償などにもあてはまる、きわめて一般的なルールです。
離婚における代表的な「不法な行為」は暴力や浮気です。「損害」とは精神的な苦痛を指します。
つまり慰謝料を支払わなければならない場合というのは、自分が暴力や浮気という不法行為をして、相手に精神的苦痛(たとえば、幸せな家庭を築く夢を壊された心の傷)を負わせてしまったときです。
したがって、不法行為なくして離婚にいたった場合には、慰謝料を支払う必要はありません。ですから、「慰謝料は男が必ず払うもの?」という質問に対する答えは「 NO」です。不法行為を行っていなければ、慰謝料を支払う必要はないのです。
慰謝料は餞別などではなく損害賠償金なので、妻から夫へ慰謝料を支払うケースも当然あり得ます。妻が不法・違法な行為をした場合には、夫が妻に慰謝料を請求できるのです。とはいうものの、実際には妻から夫に慰謝料が支払われるケースはまれです。
妻には収入や財産がない場合が多いことに加えて、男が女からお金をもらうなんてみっともないという考え方も根強くあるのかもしれません。
ただ、不法行為という法律の理屈上では完全に男女平等なので、妻側に非があれば、夫から慰謝料を請求してしかるべきですし、裁判所も妻の非を認定すれば慰謝料の支払いを命じます。
◉慰謝料の相場は 2 0 0万 ~ 3 0 0万円
先に説明したように、慰謝料とは「不法な行為によって損害を与えたら、その損害を賠償する必要がある」というルールに基づくものです。
それに照らして考えると、慰謝料の額は、「不法行為によって生じた精神的苦痛をいくらに換算できるか?」という問題なのです。
ただ、精神的苦痛というものは、故障の度合いによって修理代が決まる家電製品と同じように金額に換算するわけにはいきません。
苦痛の程度で額が決まるというのであれば、精神的苦痛を感じやすい人に支払われる額は多くなり、感じにくい人に支払われる額は少なくなるということになりかねませんが、それでは明らかに不公平です。
慰謝料の額をいくらにするかについて、法律に規定はありません。ですから裁判で慰謝料の額を決める場合は、裁判官の裁量に委ねられているということです。とはいえ、完全に裁判官の自由裁量では、びっくりするような判決が頻発することになりかねません。そこで、実際には相場に沿って決まる部分が大きいといえます。離婚の場合は、おおよそ 2 0 0万 ~ 3 0 0万円程度です。
この慰謝料の相場を考えるうえで、注意しなければならないことが 2つあります。
1つめは、繰り返しになりますが、暴力や浮気といった違法・不法なことがなければ、基本的には慰謝料は払う必要がない、つまり 0円であるということです。
2つめは、すべての離婚に相場があてはまるとは限らないということです。ここでいう相場は、あくまで裁判官が判決で慰謝料額を決めるときの相場です。ですから、話し合いの中で決まる慰謝料の相場とは異なります。
話し合いで決まる慰謝料は、どちらが離婚を急いでいるか、離婚を望む側が有責配偶者(離婚の原因を作った側)かどうか、婚姻費用の額、財産や収入の額など、交渉での力関係に左右されるさまざまな要素によって決まってきます。
◉慰謝料が高額になる場合とは?
裁判官が決める慰謝料の相場は、高くて 3 0 0万円くらいです。「高くて」というのは、ひどい違法・不法行為があった場合ということです。たとえば長期間にわたり暴力を振るい続けたとか、何度となく浮気を繰り返して家庭を顧みなかったといった場合です。
では、 3 0 0万円を大幅に超えるような高額な慰謝料になるのは、いったいどういう場合なのでしょうか。それは話し合いで決まる場合で、典型的なのは、浮気をした夫が妻と別れるためにお金を支払うケースです。
浮気をした夫は、基本的には離婚原因を作り出した側なので、裁判で離婚を認めてもらうためには、長期間の別居と誠心誠意の努力などが必要となり、早期に離婚することはできません。
もし夫が浮気相手の女性と一緒になりたいのなら、妻に離婚に応じてもらう必要があります。
そんなときは、「これだけのお金を出すから、頼む! 別れてくれ!」と、多額の慰謝料(長期の生活保障を含む)を提示するしか、離婚できる道はないのです。
こういう場合、妻は夫と浮気相手の女性の新しい門出の助けになるようなことは一切したくないのが普通です。
まずは「絶対に別れてやらない」、次に「相手に相当なダメージを与えるほどの額の慰謝料を請求する」という考えになります。
そのくらいのことをしないと、腹の虫がおさまらないのでしょう。夫側の財力にもよりけりですが、 1 0 0 0万円単位の慰謝料も珍しくありません。
◉慰謝料を請求された場合の基本戦略
では、あなたが妻から慰謝料を請求された場合、どのように対応するべきでしょうか。
基本戦略は次の 3つです。
①不法行為がない場合は支払う約束をしない
繰り返しになりますが、慰謝料はあくまで暴力や不貞などの不法な行為に対する損害賠償金ですから、不法行為をした覚えがなければ支払う必要はありません。
ただ、不法行為がなくても離婚協議書で慰謝料を支払う約束をしてしまえば、その約束は有効になります。後ろめたいことがなければ、そのような約束をする必要はありません。
なお、暴力や不貞以外の行為でも、たとえば精神的暴力(モラルハラスメント)を受けた、ひどいことを言われた、大事にしてもらえなかったといったことについて、慰謝料が問題になることもあります。しかし、これに対しては、基本的には慰謝料を支払う必要はあまりないと考えていいでしょう。
実際に裁判になった場合に、モラハラなどで慰謝料が認められるかどうかは、担当する裁判官の裁量次第です。
先に、慰謝料の額は法律に規定はないため、裁判官に自由裁量権があると書きましたが、それと同様に、何が不法・違法行為であるかについても、裁判官がある程度自由裁量で判断することができるのです。
つまり、担当裁判官が夫婦生活上の諸々のことを、法律上〝違法〟というほどのひどい状況にあったと感じたら、違法行為による慰謝料が認められる可能性があります。しかしこれは、夫婦間の会話ややりとりについて国家がルールを定めて介入することを意味します。
大げさなようですが、現実的にはそういうことですので、穏当なバランス感覚をもった裁判官であれば、よほどのことがない限り、夫婦間の会話ややりとりについて慰謝料を認めることはありません。
しかし、裁判官の価値観や感じ方もいろいろです。思わぬ事が、担当裁判官にとって「よほどのことである」と感じられることもあります。
ですから、暴力・不貞以外の諸々については訴訟になっても基本的には慰謝料の対象にはならないが、裁判官によっては認められることもまれにある、というふうに考えておいてください。
以上のことから、自分の行いに恥じるところがないのであれば、少なくとも裁判で負けるか、負けることが明らかになるまでは、モラルハラスメントなどで慰謝料を支払う必要はありません。
また判決に不服がある場合は、高等裁判所に控訴することができます。
②相場より過大な額の支払いを約束しない
前述のように、暴力や不貞などをしていて慰謝料を支払わざるを得ない場合、相場は 2 0 0万 ~ 3 0 0万円です。ただし、この額を必ず支払わなければならないわけではありません。あなたにお金がないのであれば、もっと少額ですんだり、事実上勘弁してもらえたりすることもあります。
特に、妻がお金より離婚を望んでいる場合は、「慰謝料を払わなくていいのであれば離婚してもよい」という話をして、離婚協議書や念書などに「慰謝料は一切請求しない」旨を書いてもらい、それと引き替えに離婚届にサインするという方法をとれば、慰謝料は支払わずにすみます。
一方、相場からみると過大な額を約束してしまった場合は、約束した以上、支払い義務があるということになる可能性が高いです。あまりに高額、たとえば 1億円であれば、現実離れした過大な額ということで、無効になる余地もあります。
しかし 1 0 0 0万円程度までは、個々の事情によりますが、約束通りの支払い義務が生じる可能性が高いです。つまり、後悔しても取り消せないということです。
実際の裁判で 3 0 0万円を超えるような判決が出るケースはまれです。
3 0 0万円以上の金額については、裁判になってからの話し合いの段階で、相場よりも高額な慰謝料を認める旨の裁判所の示唆があってから考えるという対応で十分です。
要求された金額が妥当かどうかや、支払う必要性などについては、弁護士に相談するようにしましょう。
③婚姻費用の負担がある場合は多めに支払う決断も必要
離婚の裁判の決着がつくまでには、長い期間がかかります。その間、たいていの場合、夫側は婚姻費用という「妻子の生活費」を払う義務があります。
離婚してしまえばこれを支払う必要はなくなり、養育費という「子どもの生活費」の支払いだけが残ります。逆にいうと、裁判が長引けば長引くほど、出費が増えるということです。
表 3‐ 1で、別居開始から離婚までに 1年半かかった のケースと、別居開始後半年で離婚した のケースについて、別居開始から 1年半の間に夫が支払った総額を比較してみました。
表では婚姻費用 10万円、養育費 5万円として算出しましたが、離婚が 1年早まるだけで支払総額は 60万円少なくてすみます。婚姻費用の支払いがもっと高額の場合、支払総額の差はさらに広がります。
つまり費用対効果を考えると、多少、筋が通らなくても、裁判で負けた場合に支払う慰謝料の額より多く支払っても、早期に離婚してしまったほうがダメージが少ないということもあります。
こうして離婚が決着するのは珍しいことではありませんが、「何も悪いことをしていないのに慰謝料を支払うなんて……」と抵抗がある場合は、名目を慰謝料ではなく「解決金」とするというのもよくある方法です。
◉慰謝料を請求する場合の基本戦略
では、前項の立場とは逆に、あなたが妻に慰謝料を請求する場合、どんな方針をとり、どんなことに注意すればいいのでしょうか。
①収入や財産がない相手への請求に深入りしない
現在の法制度は、収入も財産もない相手にお金を支払わせるうえでは、あまり役に立ちません。
裁判だ、強制執行だ、差押えだという、いわゆる法的手段というものは、裁判を起こして判決をとり、その判決によって相手の給料の一部を直接もらったり、財産をお金に換えてそこから回収するという方法です。ですから、収入も財産もない妻からは何ももらえません。
では、妻を破産させるという方法はどうでしょうか? 現行の破産制度は、借りた人の借金をなかったことにして救済することがメインです。
財産のない人にとって破産宣告を受けることのデメリットはほとんどありません。ですから、破産を申し立てても何の意味もないのです。
ということで、仮に妻があなたに慰謝料を支払うべきであったとしても、妻が専業主婦で収入も財産もない場合は、「払えません」と開き直られて終わり、ということです。
裁判をすれば慰謝料を払えという内容の判決をもらうことはできますが、それ以上は何もできません。仮に妻の実家が資産家であっても、その実家から強制的に回収することはできないのです。
つまり、妻に慰謝料を請求することはできますが、妻が実家から援助を受けるなどして自らすすんで払ってこない限り、法的手続きをすすめても費用倒れになりかねません。
というわけで、現実的な資金回収を望むのであれば、収入も財産もない妻に対する慰謝料請求への深入りはおすすめできません。
さらに、次の ②で説明する点を考えると、深入りするリスクが明確になります。
②婚姻費用の負担に気をつける
夫婦が別居していて、夫のほうが収入が多い場合、通常、夫は妻に婚姻費用を支払う必要があります。婚姻費用は夫婦間の協力義務なので、妻に暴力や浮気などの不法行為があって、夫が妻に慰謝料を請求できるという話とは基本的には別問題です。
しかし、さすがにそんな妻が生活費を求めるのは身勝手だということで、婚姻費用の請求を認めなかった裁判例も多くあります。
ただし調停では、調停委員がこのことを知らずに押し切ってくる可能性もありますし、仮に裁判官の判断になった場合でも、浮気した妻に婚姻費用を認めるかどうかは個々の裁判官の裁量次第であるため、場合によっては婚姻費用が認められてしまうかもしれません。
婚姻費用は、離婚が成立するまで毎月発生しますので、決着が先延ばしになればなるほど、額が積み上がっていきます。
これでは妻から慰謝料が支払われることになったとしても、毎月婚姻費用分だけ慰謝料が目減りしていくことになるため、争いが長引くことは、妻側にとって有利になります。
慰謝料の額は重要ですが、長期化した場合に婚姻費用がトータルでどのくらいかかるかを常に意識する必要があります。慰謝料については後から決めることにして先に離婚してしまい、婚姻費用の負担から逃れるというのも一案です。
③浮気相手からの回収を考える
妻の不法行為が浮気の場合は、浮気相手に対しても慰謝料を請求することができます。妻からも浮気相手からも慰謝料をもらうことができるのです。妻に収入や財産がなくても浮気相手にある場合には、そちらに請求するとよいでしょう。
まとめ
- 不法行為がない場合、慰謝料を支払う必要はない
- 慰謝料と婚姻費用、どちらを妻に支払うのが得策かを考える
- 妻への慰謝料請求は可能だが、納得できる結果にならないことも多い
離婚のリアルストーリー [ケース 4]
浮気をして高額の慰謝料を請求された Dさん :42歳/結婚歴 10年/妻は専業主婦/子どもなし
妻に浮気が発覚し、離婚と慰謝料 1 0 0 0万円を請求された。浮気をしたことは確かなので、離婚はしかたない。ただ、俺に蓄えがないことを知っていて 1 0 0 0万円を請求するなんてどうかしている。
支払いが困難なのは向こうもわかっているだろうから、何とか話し合いができないかと考えていた。
しかし、妻は 1 0 0 0万円を強硬に主張して譲らず、妻の実家も乗り出してきて支払いを迫る始末。こちらに非があり反論しにくい状況の中で、毎月 10万円ずつ 1 0 0回払いで計 1 0 0 0万円の慰謝料を約束させられてしまった。
最終的には公正証書を作成することになり、そこには支払いを 2回怠ったら全額一括払いとの内容も盛り込まれた。そして、ついに離婚届を提出。
後日、弁護士に相談してみたところ 1 0 0 0万円はかなり高額だが、すでに約束してしまった以上、反故にするのは難しいと言われ愕然とした。あのとき押し切られて約束してしまった自分が情けない。
毎月 10万円の支払いが 8年以上続くため、生活も苦しいし再婚も困難だ。
いっそ破産して出直そうかと考えたが、破産してもこの支払いは免除されない可能性があるという。
俺の人生、これからいったいどうなってしまうんだろうか……。
どうすればよかった?
離婚の慰謝料の相場は、判決になった場合 2 0 0万 ~ 3 0 0万円です。それより大幅に高額な慰謝料は、こちらに離婚を急ぐ事情がない限り、支払う必要はありません。
この場合は、妻が 1 0 0 0万円にこだわるのであれば、拒絶し続けて妻が調停を申し立ててくるのを待ちます。調停になれば、調停委員から慰謝料の相場の話が出ますので、妻が軟化する可能性もあります。
一方、妻がなかなか調停を申し立ててこない場合は、あなたが申し立てるという手もあります。
この段階、あるいは調停が不調になりそうな段階では、妻側も弁護士に相談すると思いますので、やはり慰謝料の相場について説明を受けるでしょう。
この段階までいけば、相場程度の額で話がつくことが多くなります。
[ケース 5]
妻に浮気をされた Eさん :45歳/結婚歴 5年/妻は専業主婦/子どもなし
妻の浮気が発覚した。妻を問いただしたところ、あっさりと浮気を認め、実家に帰ってしまった。その後、妻との間で離婚の話を進めた。
妻が結婚前からの貯金として 3 0 0万円くらい持っているのを知っていたので、離婚の慰謝料の相場と思われる 2 0 0万円の支払いを求めた。
しかし妻は支払いを渋っており、なかなか話が進まない。そうこうするうちに、妻が私に対して婚姻費用の支払いを求める調停を申し立ててきた。
常識的に考えて、浮気をして出て行った妻に、別居している間の生活費まで渡す必要はないじゃないか。調停で事情を話したところ、調停委員は「奥さんはすぐには仕事が決まらず、生活に困っていると言っています。
あなたには 1 0 0 0万円の年収があるのですから、応分の支払いをすべきです。算定表に照らすと婚姻費用の額は月 15万円です」と言う。
別居の経緯を話しても「離婚するまでは婚姻費用の支払い義務がある」の一点張りで、話が進まない。調停で話がつかないと審判となって婚姻費用が決められ、支払わないと給料が差し押さえられてしまうらしい。
仕方なく、婚姻費用を月 13万円で合意したが、いまだに妻は慰謝料を支払わないと言っている。
離婚が成立するまで婚姻費用を支払うとなると、最悪の場合は調停 →訴訟 →控訴で 1年半以上かかるとして、 2 3 4万円! 私が請求できる慰謝料以上じゃないか! まったく、これじゃあどっちが悪いのかわからなくなってしまう。
どうすればよかった?
こうしたケースでは、まずは慰謝料を求めず、早めに離婚してしまうのがいいでしょう。離婚が成立するまでの期間の婚姻費用の負担を考えると、離婚を早急に成立させるのが得策です。
慰謝料は離婚と同時に決める必要はなく、離婚のときに慰謝料の放棄をしていなければ、後から請求することができます(ただし、離婚から 3年を経過すると基本的に時効により請求できなくなりますので、 3年以内に行う必要があります)。
また、実際の婚姻費用分担審判では、妻が浮気など婚姻関係を破壊した側(有責配偶者)の場合、夫の支払い義務は減免されることもあります。そういった観点からは、今回の件も、審判まで頑張ってもよかったように思えます。
ただし、調停は話し合いの場ですので、調停委員から支払いを説得されることもありますし、審判で必ずしも免除されるとは限りませんので、離婚先行が上策でしょう。
なお、浮気相手が特定できれば、その男に対しても慰謝料を請求することができますが、そのときに離婚が成立していないと、浮気相手は美人局を疑ってくることもあるので、その点からも、離婚を先行させたほうがよいといえます。
3 財産分与
ここでは、離婚にかかわるお金の中で、いちばん大きな額になることも多い財産分与について説明します。
◉財産分与とは?
財産分与とは、結婚期間中に作り上げた財産を夫婦で分ける手続きです。慰謝料はどちらかが不法行為をしなければ発生しませんが、財産分与は不法行為の有無にかかわらず、財産がある限り必ず発生します。
ただし、結婚期間が短くてその間に築き上げた財産がない場合には、財産分与の請求は発生しません。
せいぜい数百万円のことが多い慰謝料に対して、財産分与は、熟年離婚の場合では数千万円単位になる場合もあり、離婚の際のお金に関する争点のメインになることも少なくありません。
養育費も総額としてはかなりの金額になりますが、財産分与は一括払いなので、離婚に関するお金の問題の中でも存在感は大きくなります。
財産分与の対象財産として代表的なものは、預貯金と自宅です。それ以外に、車、株、財形貯蓄、保険、退職金なども対象となります。いわゆる年金分割も、一種の財産分与の性質をもっています。
◉結婚期間中に作った財産だけを分ける
一般的に、夫婦は役割分担をします。典型的なのは夫が外で働き、妻が家のことを預かるという高度成長期の夫婦モデルです。
その役割分担の結果、自宅や預貯金といった財産が形成されます。それらの財産は、便宜上、夫名義または妻名義にします。子ども名義にしている場合もあるかもしれません。
普通に生活している分には、それでも何の不都合もありません。
しかし、いざ離婚になったとき、夫名義のものは夫のもの、妻名義のものは妻のものということになると、不公平が生じかねません。
そこで、夫名義であれ、妻名義であれ、結婚期間中に作った財産は公平に分けましょう、というのが財産分与の趣旨です。
ただし、夫や妻名義になっている財産のすべてが財産分与の対象になるわけではありません。対象となるのは夫婦の協力で築き上げたものだけです。
夫婦の協力と無関係な財産は、財産分与の対象にはなりません。具体的には、・結婚前から持っていた財産(結婚前に貯めた預貯金など) ・実家からの相続によって手に入れた財産の 2つです。
また、ある程度の別居期間をおいたうえでの離婚の場合、別居後は夫婦の協力関係がありませんので、別居のときまでに作り上げた財産を対象にするのが通常です。
預貯金や生命保険の解約返戻金については、別居した日の額を基準にすることが多いです。
◉なぜ半分もとられてしまうのか?
財産分与では、基本的には夫婦で財産を半分ずつに分けることになります。2で割ればいいのですから、一見単純に決まりそうですが、実際にはいろいろな問題があります。
たとえば、自宅を購入した際に頭金を結婚前からの預貯金と一方の親からの援助金で出し、離婚の際にはまだ住宅ローンが残っている、といったことはよくある話ですが、そういう場合の計算はかなり複雑になります。
ところで、財産分与は半分ずつと法律で決まっているわけではありません。法律には、「まず話し合って決めなさい。話し合いがつかなければ裁判所が決めるが、裁判所はいろいろな事情を総合的に考えて決めなさい」と定められています。ですから、話し合いで夫が 6割、妻が 4割と決めても何ら問題はありません。
また、いろいろな事情を総合的に考えて決めるという法律の考え方からすれば、「妻は仕事をしていないし、子どももいない。飯といえば食べ物とはいえないようなものが出てくるし、俺も仕事が忙しいからほとんど家では食べない。部屋も散らかしっぱなしで、少しは掃除しろと注意すれば、家事は男女平等に分担して、と言ってくる。そのせいで喧嘩になって、仕事中もイライラするし、協力というよりは妨害だ。財産分与でお金を払うどころか、逆に俺が渡した金を戻してほしいくらいだ」──夫のこういった主張は、どんな事情があっても機械的に半分にするという考え方よりも、法律の趣旨に即しているといえるでしょう。
ところが残念ながら、いまの裁判における財産分与の現状では、こんな妻の場合でも半分は持って行かれてしまいます。
「いまの」といいましたが、以前は、専業主婦の場合は 3割程度のことが多かったのです。財産分与の本来の考え方は、〝貢献度に応じた分配〟ということです。
民法には、「裁判所は財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうかや、分与の額を決める」とあります。つまり本来の考え方からすれば、ろくに家事をしない〝自称〟専業主婦に、分与の権利はないことは明らかです。
ところが実際は、このような場合でも、裁判所が半分の権利を認めてしまうというのが現状です(図 3‐ 1)。その理由のひとつとしては、貢献度を決めるのがきわめて難しい、ということがあると思います。
たとえば専業主婦の場合、どの程度の家事を負担していれば貢献したと認められるのか基準が不明確ですし、それを裁判所が判断することは困難です。
また、共働きで仮に夫婦の収入が同じであっても、家事負担は妻のほうが大きい場合には、妻の貢献度をどの程度大きいとみなすか、という問題が生じます。
しかし一番の理由は、これまでの離婚裁判で、妻側が「財産分与は半分が妥当だ」と強く主張し続けて、裁判所の運用を変えてきた歴史があることだと思います。
逆にいえば、現状の半分という割合に納得がいかないのであれば、あきらめることなく、自らの言い分を粘り強く主張し、徐々に裁判所を動かしていくことが必要です。
たとえば、あなたが人よりも頑張ったから、有能だったから増やすことができた預貯金、あなたが嫌なことに耐えてきたから多く手に入れることができた退職金、そういった血と汗と涙の結晶が財産分与の対象になるわけですから、貢献度は堂々と主張していくことをおすすめします。
もちろん、現実の裁判の見通しとしては、やはり 2分の 1になってしまうことを覚悟する必要はあります。
でも、皆が 2分の 1でもしかたがないと思って何の主張もせずにいたら、 10年後も 2分の 1ルールは維持されているでしょう。逆に、多くの人が納得がいかないと言い続けていれば、 10年後は変わっているかもしれません。
ですから、将来、裁判で「夫の取り分は 2分の 1以上」が認められるためにも、現状にとらわれず、自分の思うところを堂々と主張していきましょう。
◉扶養的財産分与に注意
「たいした財産はないから、財産分与については気にしない」または「財産はあるにはあるが、半分あげるのは覚悟のうえだ」と考えている場合でも、落とし穴になることがあるのが扶養的財産分与です。
これは、いまある財産の清算ではなく、離婚した妻が今後生活していくための費用を財産分与名目で払うというものです。
子どもについては、離婚してもあくまであなたの子どもですから、子どもの生活費 =養育費を払う必要があります。
でも、妻は離婚したら他人であり、本来なら生活費の面倒をみる必要はありません。
ただ、現実の男女の結婚状況をみると、夫婦共同生活の都合によって、女性が結婚にともなって退職することは珍しくありません。
その場合、離婚後に再就職しようとしても、通常は、結婚退職せずに仕事を続けていた場合よりも大幅に不利な条件になります。
ですから、自分の生活の糧を自分で稼げといっても、その通りにできるとは限りません。
一方、ずっと仕事を続けてきた男性は、結婚・離婚という過程でそのような不利益は受けません。
こうした事情を考慮して、離婚後もある程度は妻の生活費の面倒を夫にみさせるべきという考えに基づくのが扶養的財産分与です。
扶養的財産分与が問題になりそうな場合には、「妻は結婚を区切りに会社を辞めたが、それ以前から職場の人間関係に行き詰まり転職を考えていた」といった退職の経緯、「結婚している間に社会保険労務士の資格をとったので、それを活かして働けるはずだ」といった今後の収入を得る能力、また、本来なら扶養義務を負うべき妻の実家に十分な資力があることなどを主張していくことが必要となります。
◉財産分与の基本戦略
財産の範囲が明確な場合、じつをいうと財産分与はあまり大きな争いにはなりません。あなたが納得いくかどうかは別として、単にそれを半分にするだけです。
財産分与が大きく問題になるのは、財産隠しが疑われる場合や、住宅ローンが残っている自宅がある場合、妻の実家名義の土地に夫名義の家を建てたため自宅の権利関係が複雑な場合などです。
これらのケースの戦略として、次の 2つが考えられます。
①裁判を覚悟して、妻の財産隠しを暴く
家計の管理を妻に任せっぱなしにしていた場合、いざ蓋を開けてみると、預貯金などの財産がほとんどないということもあります。そうなると疑われるのが、妻の財産隠しです。家計から少しずつへそくりを捻出し、妻名義の預貯金にしてどこかに隠してあるのではないか、ということです。
このような場合、妻は離婚に備えて必死に隠し財産を作ってきたわけですから、出せと言ったところで素直に従うはずがありません。これは、調停に進んでも同じです。
妻が隠し財産を明らかにしない場合は、「調査嘱託」という裁判上の制度を利用する方法があります。
調査嘱託とは、離婚調停や離婚訴訟になった場合、裁判所から銀行などに対して、預貯金の有無や取引内容について調査を求める手続きです。調査嘱託を利用すれば、相手名義の口座の取引履歴を調べることができます。
もっとも、日本に存在するすべての銀行を網羅的に調べることができるわけではなく、「 ○ ○銀行の ○ ○支店」というレベルまでわかっている必要があります。
もし銀行名・支店名が判明していない場合は、まず自分の取引銀行に連絡をして、自分の給料の振り込み口座からの送金履歴を照会し、妻名義の口座が出てこないか調査します。
そこで妻名義の口座が判明したら、調査嘱託を利用して取引履歴を調べます。その取引履歴上に別口座への送金などがある場合は、さらに調査嘱託を利用して、その振り込み先口座を調査します。
こうして、相手が隠している定期預金などを発見することができる場合があります。
調査嘱託は調停でも利用できますが、調停では自発的な情報開示を尊重して、当事者が自分から情報を出してくるまで待つことが多く、裁判所はあまり積極的ではありません。
その点、訴訟になれば有効に利用できることが多いです。
ただし、調査嘱託を利用すると、妻側も対抗して「夫にも隠し財産があるはず」と言い出し、こちらの預貯金口座の履歴も裁判所の手続きで明らかにするよう求めてくることになります。
あなたにも隠し財産がある場合や、見られたくないような取引履歴がある場合はヤブヘビになりかねないので、注意が必要です。
②住宅ローンが残っているときは、養育費の支払いを考慮して交渉する
あなたが自宅の住宅ローンを負担している状況で、その自宅に離婚後も妻子が住み続けたいという話になることは珍しくありません。このような場合、形式的な理屈からすると、住宅ローンは夫個人の借金であり、財産分与とは無関係。したがって養育費の算定にあたっても借金の支払いは考慮しない、などということになりかねません。
そんなことになったら、あなたの生活が破綻します。
住宅ローンが残っている場合は、妻子があなた名義の自宅に住む分の利益を考慮して、養育費の減額などの交渉をしていく必要があります。
妻側はこれまでの生活を維持することに固執し、あなたが破綻しかねない要求を平気でしてくることも多いので、強気の交渉が必要になることもあります。
まとめ
- 結婚期間中に夫婦で築いた財産は、半分ずつに分けるのが基本
- 財産に対する妻の貢献度が低いと考えるなら、あきらめずに交渉すべし
- 妻の財産隠しが疑われる場合、調査嘱託を利用して追及できる
columnあなたの収入は妻の貢献によるものなのか?
あなたの収入が多い場合、それは妻の貢献によるものなのでしょうか? そうとは限らないでしょう。
同じだけ働いたとしても、給料のいい会社もあれば、そうでない会社もあります。また、専門職として資格をもって働く人とそうでない人とでは、やはり給料の額も変わってくるのが通常です。
でも、その間の妻の支え、つまり家事労働の内容は、給料のよい会社でもそうでない会社でも、専門職でもそうでなくても、あまり変わらないと考えることもできます。そうすると、収入が多いのは妻の貢献とはさほど関係ないといえるかもしれません。
給料のいい会社に就職できたのは、結婚前に努力していい大学に入ったという学歴によるものかもしれませんし、収入が何らかの資格に基づくものであれば、その資格を取得できたのは、結婚前にあなたがいろいろなものを犠牲にして頑張ったからかもしれません。
つまり、高収入を生み出しているのは、あなたの結婚前の頑張りによる貢献が大きいという可能性もあります。
もしそうであれば、その結果積み上げることができた財産の貢献度が半分ずつというのは、いささか不合理です。
もちろんあなたが、「思いっきり仕事に専念できたのは、妻が家事を完璧にこなし、しっかり子どもを育ててくれたおかげだ。さほど多くない給料から家計を上手にやりくりしてくれた結果、自宅も手に入ったし、多少なりとも蓄えもできた。妻には頭が上がらない」などという状況なら、半分でも納得がいくかもしれません。
離婚のリアルストーリー [ケース 6]
妻の実家の土地に家を建てた Fさん :46歳/結婚歴 10年/妻は専業主婦/子ども 1人
結婚してからずっと、妻とも妻の実家とも関係は良好だった。子どもが生まれ、賃貸アパートでは手狭になったため、妻の実家の土地に自分名義の自宅を建てた。自分名義でローンを組み、毎月 10万円を支払っている。土地はタダで使用させてもらっていた。
ところが徐々に夫婦関係がおかしくなり、ついには離婚という話に。すでに妻への愛情はなくなっていたから、離婚自体はやむを得ない。子どもも妻が引き取ることになった。
問題は、家をどうするかである。
自分としては売るしかないと思っているが、妻の実家は土地を手放す気はないという。建物だけの売却などできるはずもなく、話はまったく進まない。妻は、このまま自宅に住み続けたいが住宅ローンは負担できないという。
自分が住むのにローンは俺に払わせるなんて、そんな虫のいい話が通ると思っているのだろうか? 結局、この問題が進まないために調停が不調に終わり、離婚訴訟になった。
そして出たのが次の判決だ。
- 子どもを引き取る妻は現状維持の生活ができることが望ましいため、夫婦の共有財産である建物は妻が手に入れる
- この建物の価値は、所有者である夫に土地を利用する権利がなく無価値であるから、妻が建物を入手する代価として、夫に支払われるべきものはない
- 夫の住宅ローン月額 10万円は夫個人の債務にすぎず、離婚手続きでは判決の対象外。つまり、今後も夫が負担し続ける
- 子どもの養育費は毎月 8万円支払う必要がある
裁判所は俺に死ねと言っているのだろうか? 住宅ローンと自分の家賃と養育費を払い続けるなんて、無理に決まっている。
裁判所と妻はグルなんじゃないかと疑いたくもなるが、判決後に相談に行った弁護士によると「淡々と手続きを進める裁判官にあたった場合には、あり得る判決ですね。
良識的な裁判官であれば、もう少し事情を考慮した判断をしてくれるかもしれませんが、あなたは運が悪かったのでしょう」だそうだ。
どうすればよかった?
この場合、夫には破産をする覚悟が必要になります。しかし交渉が成立しさえすれば、実際に破産することはありません。タフな交渉が必要になりますが、それには以下の 2点を交渉材料として使います。
まずは、夫が破産したらどうなるかということです。
破産というと非常に抵抗を示す人もいますが、他に財産がなく、たとえば警備員や保険外交員(保険募集員)のような破産が欠格事由となる(資格が剝奪されるなど)職業でなければ、大きなデメリットはないのです。
破産した場合、住宅ローンの滞納ということになり、自宅が競売に掛けられます。妻は当然、自宅に住めなくなります。親の土地が抵当に入っている場合は(たいていはそうです)、それも競売になってしまいます。
もう一点は、妻側にはこの競売を防ぐ方法がないということです。さらに、妻はローンの支払い状況を把握することすらできず、夫がローンを滞納していても知るすべはないのです。
滞納が続くと、ある日突然銀行から一括請求の通知がきて、払えない場合は自宅と土地が競売にかけられます。
それを防ぐために、妻は自分名義の通帳からローンを支払う、と言ってくるかもしれませんが、銀行はローンの債務者の名義以外の口座からの引き落としには、なかなか応じてくれません。
妻が銀行に問い合わせたところで、住宅ローンの支払い状況は債務者本人でないと教えられない、と言われる可能性が高く、夫から銀行に「妻から連絡があっても教えないでくれ」と一報を入れられれば、もはや知ることはできません。
つまり妻側からみれば、夫の一存によって、滞納 →一括請求 →競売という最悪のストーリーがいつ始まってもおかしくないということです。こんな不安定な生活がローン完済まで続くのは、妻にとって耐えられるものではないでしょう。
このように現実的に考えてみると、一見、妻にとって有利な状況ですが、じつは必ずしもそうとはいえないことがわかります。
前述のような判決が出ることは、その実、妻にとっても良い解決方法とはいえません。
これを妻側に理解させることができれば、夫名義の建物の価値を正当に評価して、妻の実家に買ってもらうなり、共同して売却して清算するなり、妥当な解決方法に向かって進む可能性が高くなります。
ですからまずは妻側に、住宅ローン・養育費・自分の家賃を背負わされたら破産するしかないこと、すぐには破産しないにしても、破産したらいつでも家が競売にかけられてしまうことを明確に伝えることが肝要となります。
ところで、ここで説明したのは、相手との任意の交渉による場合です。ではこれが、裁判の判決の場合はどうなるでしょうか。
先に「良識的な裁判官であれば……」と書きましたが、その良識的な裁判官に期待できる判決を考えてみましょう。まず、自宅建物の名義は夫のままで妻の賃借権を設定し、妻が夫に家賃を払うという方法が考えられます。
ただし、財産分与として賃借権を設定するというのは、かなり特殊な例になります。
そして、ローン完済後に妻が、「子どもも成長したし、家を出たい」となった場合、土地は妻の実家のものなので、夫は自己負担で家を撤去しなければならなくなります。
そうすると、必ずしも妥当とは思えません。
最終的には、
- 自宅を妻の名義に変更する
- その対価として、妻は自宅の価値相当額(建物の評価額)を財産分与として夫に分割で支払う( 1回の支払額は家賃相当額程度)
という方法が、もっとも妥当な気がします。
ただし、特殊な内容であり、このような内容の判決が出るかどうかは、正直なところ、やってみないとわからないというのが本音です。
また自宅建物の評価額についても、住宅ローン残額相当額と評価されれば問題はありませんが、それよりもかなり少ない額になってしまう(市場価値としては 0円でしょう)可能性もあります。
[ケース 7]
妻の財産隠しが疑われる Gさん :43歳/結婚歴 20年/妻は専業主婦/子どもは 2人
妻とは大学で知り合った。おとなしくて真面目な性格を気に入って、卒業後に結婚。その後 20年間、妻を信頼して家計の管理はすべて任せていた。
自分はあまりお金に頓着しない性格だし、妻は適宜うまくやってくれているだろう、いや、専業主婦なんだからそのくらいやってくれないと困る、そう考えていた。
まさか、その信頼が裏切られる日が来ようとは。突然、妻に離婚を言い出され、別居後に調停を申し立てられた。たしかにここ 10年ほど、妻との会話はほとんどなかった。
もともと無口な妻は、自分の感情を口に出して訴えることもなかったから、相当ためこんでいたのだろう。気持ちはわからなくもないし、離婚はやむを得ないと思った。そこでふと頭をよぎったのが、預金の残高だ。
一切を妻に任せていたため、自分ではどこの銀行に預けているかすら知らない。妻に聞いてみると、「ほとんどない」と言う。
そんなはずはない! いまの俺の年収は 1 0 0 0万円を超えている。贅沢はほとんどしていないし、妻も地味なタイプだ。そんなに使っているわけがない。
しかし、何度問いただしても、「ないものはない」の一点張りだった。
しかたがないので、「預金がないはずがない」という言い分を調停で主張したが、通帳などの確たる証拠がないのだから、ただの絵空事としてしか扱われない。
結局、「別居時に残っている財産を分けるのが財産分与だから」という調停委員の言葉通り、ほとんど何の財産もない状態のまま離婚になってしまった。いまにして思えば、妻は無口な仮面の裏で計画的に財産隠しをしていたのだろう。
汗水たらして働いた金をとられたのだから悔しくてならないが、それもこれも妻に家計を任せていた俺がまぬけだったのだ。「げに恐ろしきは無口な妻」である。
どうすればよかった?
財産分与では、基本的には別居時に存在している(額が判明している)財産を分けることになります。
ですから、この件のように、何かおかしい、どこかに隠しているはず、という疑いがあっても、隠し財産が発見できなければ何もできません。したがって、かなり本腰を入れて調査に取り組む必要があります。
離婚調停や離婚訴訟になった場合、裁判所から銀行などに対して預貯金の有無や取引内容について調査を求める「調査嘱託」という手続きを利用できます(本章前出)。
ただ、調停の場合は裁判所が消極的なことも多く、弁護士に依頼せずに対応している場合は、調査嘱託の存在すら知らされないまま、という可能性も少なくありません。
隠している(と予測される)額にもよりますが、少なくとも 1 0 0万円単位の預貯金隠しが疑われる場合には、訴訟手続きへの移行も考え、弁護士に依頼して調査嘱託を利用することを考えたほうがいいでしょう。
ただし、相手が徹底的に痕跡を消すために、振り込みを利用せず現金で動かしていた場合は、隠し預貯金が発見できないこともあります。
column妻の貢献度を正しく算出する方法はある?
夫婦の財産に対する妻の貢献度は、いったい何パーセントが妥当なのか? それをざっくりではなく、緻密に出す理論を考えるのは、なかなかたいへんです。
一案として、賃金センサス(官庁の行う大規模調査で、職種や学歴別の平均賃金がわかる)などの平均賃金データと、結婚当初から現在にいたるまでの給与収入(源泉徴収票があればすぐにわかりますが、長期にわたり保管している人はまれかもしれません)の推移を比較し、平均的な収入までは妻の貢献度を半分としても、平均を超える部分は夫の頑張りによるところが大きいとみなして妻の貢献度を半分以下の割合で考える、という方法があるかもしれません。
さらに、平均的な収入分と、平均を超える部分とが、それぞれどの程度財産に貢献しているのかを検討する。
そのうえで、その他の事情(妻が家事をどの程度頑張っていたのか、一方だけが贅沢をしていないかなど)も考慮して最終的な割合を決める……かなり複雑になりそうですね。
また、共働き夫婦の場合、単純に家計全体に対する妻の収入の割合がそのまま貢献度になる、と考える人もいるでしょうが、そうはなりません。
なぜなら、それでは家事や育児に対する貢献度がまったく考慮されないことになるからです。
そのため、夫婦が分担していた家事や育児について、それぞれがどの程度の割合で貢献していたかを検討する必要があります。しかし、これも簡単に数値化できるものではありません。
以上のような次第で、結局は「なんだかわからないから」「うまく数値化できないから」半分ということになってしまったのではないかという気がしてきます。
4 養育費
離婚にともなうお金のうち、養育費は子どもがいなければもちろん問題になりませんし、子どもがいたとしても毎月の支払いは大きな額ではないので、慰謝料や財産分与に比べると目立った争いにはならないこともあります。
ただ、支払総額で考えると、仮に毎月 5万円ずつ支払っても 1年で 60万円、 15年支払えば 9 0 0万円と、かなり大きな額になります。
◉養育費とは?
養育費とは、離婚後の子どもの生活費です。離婚をすれば妻とは他人ですから、妻の生活の面倒をみる義務はありません。
しかし、親子関係は切れませんから、母親が親権者となり、子どもは母親と同居することになっても、父親として、子どもの生活の面倒をみる義務は残ります。一緒に住んでいなくても、養育費を払う義務があるのです。
◉金額はどう決める?
養育費の金額は、当事者間の話し合いによって決まります。ですから、払うという合意がなければ基本的には払わなくてもいいですし、一度合意してしまえば、いくら多額であっても払う義務が生じます。
ただし、払うという合意がなくても、相当額の子どもの生活費を後日請求されることがないわけではありませんので、ある程度の覚悟はしておいたほうがよいでしょう。
また、話し合いで額が決まらない場合は、裁判所が決めます。離婚訴訟に進んだ場合は、通常、判決で離婚と同時に決めます。離婚の際に養育費を決めなかった場合は、離婚後に調停や審判を起こして決めることになります。
裁判所が額を決める際には、一般的には「養育費の算定表」(巻末資料)を基準とします。この算定表はよくできたもので、通常、算定表より少しでも多く払った途端に、払う側の生活は厳しくなりますし、逆に少しでも少なくした途端に、もらう側の生活が苦しくなります。
算定表からずれた額で合意してしまうと、どちらかにしわ寄せがくることを覚悟する必要があるといえます。
◉支払い期間は?
養育費の支払いは子どもが成人( 20歳)になるまで、と決めることが多いようです。しかし、大学に進学した場合、 20歳ではまだ卒業していません。
大学進学中の費用をどうするかについて厳密な決まりはないのですが、両親とも大卒の場合や、両親ともに子どもの大学進学を望んでいる場合などは、大学卒業まで面倒をみることが多いです。
また、子どもが高校を卒業後すぐに就職して自活したような場合、たとえ支払い期間を 20歳までと決めていたとしても、自活後は支払う必要がありません。
養育費は、自分で収入を得ることができない子どもを養うためのものですから、子どもが自活した場合は受給の対象にならないのです。
◉途中で減額できる?
養育費の額は、一度決めても後から変更することが可能です。むしろ、子どもの成長や親それぞれの収入の変化など、実状に合わせて変更していくべきものです。
養育費の減額を求め得る事情としては、次のようなものがあります(母親が親権者となり父親が養育費を負担している場合)。
- 母親の収入が増えた
- 父親の収入が減った
- 母親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をした
- 父親が再婚して子どもができ、扶養すべき親族が増えた
ただ、こういった事情があればすぐに減額できるというわけではありません。
たとえば収入の増減であれば、養育費を決めた時点で予測できる範囲を超えて収入の増減が生じたと認められる場合は、決め直すことができるとされています。
相手が減額の要求に応じない場合は、裁判所に調停を申し立てます。調停が始まっても相手が頑として減額に応じない場合は、審判で裁判所に決めてもらうことになります。
また、子どもの成長にともなって必要な生活費が高額になることや、父親の収入の増加、母親の収入の減少によって、養育費が増額される可能性もあります。
◉養育費の基本戦略
養育費には算定表という基準があるので、戦略によって大きく額が変わることはありません。
ただ、長期にわたるため、月額ではわずかな金額差であっても支払総額では大きな差になり得ますし、はじめに額を決めた当時から事情が変化する可能性もあります。それを踏まえた養育費の基本戦略は、次の 3つです。
①わずかな額でも節約
養育費は「月額 ○円」と決めることが通常です。その額は、 1年、 5年、 10年と経ったときの総額も考慮して決めたほうがよいでしょう。
たとえば、 5万円と 6万円では、毎月の支払額でいうと 1万円の差ですが、 1年では 12万円、 10年では 1 2 0万円の差になります。
きりのよい数字にこだわらず詳細に検討し、 5万 5 0 0 0円など、半端な額になってもよいのです。
子どものためのお金ですから、あまり出し渋るのもどうかと思うかもしれません。もちろん、支払い可能な額であればいいのですが、養育費を調停で決めたり、公正証書にしたりした場合は、決めた額を支払わなければ給料が差し押さえられてしまいます。
急に収入が減るなどして支払いが困難な事情が生じたとしても、その額を変更するには相応の手続きが必要になってきます。あえて最低ラインの額に決めておいて、余裕があるときに余分に支払うようにしておくと安心でしょう。
また、たとえば月に 5万円か 6万円かという場合に、頑張って 6万円にしても、妻子からの感謝は一瞬です。そのあとは 6万円が当たり前になってしまうでしょう。
月額は 5万円にしておいて、余裕があれば年に 1回 12万円を別途送るほうが、感謝される可能性が高いといえます。このように、離婚の条件として決める養育費の額はできる限り節約しておくことが肝要です。
ただし、養育費の額にこだわりすぎて離婚交渉や調停が長期化すると、婚姻費用の支払い期間も長期化するため、男性側にはデメリットが大きいことも覚えておきましょう。
②複雑な場合は、専門家に相談する
養育費は、算定表に沿った額にすれば妥当な場合が多いです。それ以上の額を支払うと、かなり困窮してしまうことも少なくないので、算定表の額以上は約束しないほうが無難です。
ただ、算定表を利用して額を決めても、男性側に過酷なことになってしまう場合があります。
たとえば、あなたが住宅ローンを負担していて、その家に別れた妻と子どもが住む場合や、子どもが複数いて、あなたも子どもを引き取る場合などです。このような場合、交渉次第では養育費を算定表の額以下に減額してもらえる可能性があります。
ただし、妻側の弁護士はあえてこちらに有利な話は教えてくれませんし、調停委員に知識があることも期待はできません。
ですから、離婚案件の経験が豊富な弁護士に相談して、算定表通りの額を支払わなければならないのかどうか、どうすれば減額してもらえる可能性があるのか、助言をもらったほうがいいでしょう。
③状況が変わったら額は変更できることを覚えておく
離婚の際に養育費の額を決めたからといって、いかなる事情があっても支払わなければならないわけではありません。
たとえば、こちらが病気で失職して無収入となった場合は、子どもを養育する義務もなくなり、養育費を支払う法的な根拠がなくなります。
養育費は借金をしてまで支払うものではないので、事情が変わった場合は減額や免除を求め、話がつかないようであれば調停などの手段を講じましょう。
ところで、一度決めた養育費の変更は、いつからできるのでしょうか。たとえば、失職した場合はいつから支払い義務がなくなるのでしょうか。失職したときでしょうか。調停を申し立てたときでしょうか。裁判所が変更を決めたときでしょうか。裁判所が決めたときであれば、どこまで遡って変えてくれるのでしょうか。
じつは、変更については明確な基準や運用が定まっているとは言い難い部分があります。
ですから、できるだけ早く別れた妻に事情を話し、応じてくれなければ早めに調停なり審判なりを申し立てたほうがいいということになります。
まとめ
- 子どもと一緒に住んでいなくても、養育費の支払い義務がある
- 養育費の額は、通常は算定表に沿って決める
- 子どもの成長のほか、失業、再婚といった状況の変化に応じて、支払額は変更できる
離婚のリアルストーリー [ケース 8]
養育費のため多重債務者になった Hさん :40歳/ 5年前に離婚/元妻は離婚後パート勤務/子どもは 2人
調停で離婚するにあたり、妻が 2人の子どもの面倒をみて、俺が 2人分の養育費を月に 10万円支払うことになった。
当時の俺の収入は比較的高かったし、幸いにも会社の配慮で社宅に入ることができたので、なんとか普通の生活が送れていた。
もし学費などで臨時の出費があるときは、いつでも相談に乗るつもりだったし、それに備えて多少の貯金もしていた。その状況が変わったのは、離婚から 2年後。
会社の業績が著しく悪化し、ボーナスの額は 3分の 1以下になった。さらに、残業がほとんどなくなったので月収も大幅にダウンし、年収ベースでみると離婚時の 7割程度になってしまった。
そうなると、毎月 10万円の養育費が重くのしかかる。
自分の生活が成り立たなくなり、はじめのうちは貯金を切り崩していたが、あっという間に底をつき、子どものための臨時の出費に備えていた貯金にも手をつけざるを得なくなった。
やむなく別れた妻に養育費の減額を相談したものの、「子どもが大きくなってお金がかかる、もっと増やしてほしいくらいだ。減収はそちらの事情であって、こちらには関係がない」と言って話にならない。
そうはいってもこちらは家賃さえ払えなくなると説明したところ、「一度でも支払わなかったら、裁判所に行って給料を差し押さえる」と切り返されてしまった。
そんなことになったら会社での立場が危うくなり、さらに支払いが難しくなるだろう。しかたがないから、カード会社から借り入れして支払うことにした。
しばらくは乗り切っていたが、そのうちカードの借り入れ枠も一杯になり、いつの間にか多重債務の状況に陥ってしまった。このままでは、破産するしかない。
どうすればよかった?
今回のような大幅な減収の場合は、養育費の額を決め直したほうがよいでしょう。いつから減額にすべきかという点については、給料が下がったときからという考えもあれば、調停申し立てのときからという考えもあります。ですから、相手との交渉が進まないときは、すぐに調停を申し立てたほうがよいでしょう。
なお、妻も仕事をしているのであれば、その際には妻側の収入なども明らかにするよう求めることができます。離婚時よりも妻の収入が増加していれば、その点も考慮して減額することができます。
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