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第 8章 遊び

1 もし「遊び」を奪われたら人はどうなる? 2 娯楽があふれているのに楽しくない 3 ルール化することで〝いまここ〟に集中できる 4 幸福感が上がりやすくなる「 3のルール」 5 現在と未来の心理的な距離を縮める方法 6 「数字」の報酬効果――シカゴ大学の調査 7 メタ認知を使ったフィードバック 8 人類は大人になっても遊ぶ必要がある実践ガイドエピローグ

1もし「遊び」を奪われたら人はどうなる? 多くの狩猟採集社会は、日々の仕事を「遊び」に近いイメージでとらえています。

「生活のために働く者がいるとすれば、それこそが彼らの真の落ち度なのだ」 ある研究では、ブッシュマンが語ったこんな言葉が記録されています。

人類学の世界では、狩猟採集社会には「重労働」や「苦役」といった概念が存在しないことが昔から知られていました。

日々の狩りや移動生活などのハードワークを、彼らは負担だと考えていないようなのです。

その代わり、野生の動物や植物を狩り、獲物に応じた料理法を工夫し、移動先で見つけた材木で住居を作る……。

これらの作業は、彼らにとってあくまでも歌や踊りに似た娯楽の一部であり、すべては RPGやシューティングゲームで遊ぶような感覚として体験されます。

狩猟採集社会では「遊び」をことのほか重視しており、幼少期から徹底的に「ゲーム感覚」が叩き込まれます。

ボストン大学のピータ・グレイ氏がアフリカのカラハリ族やナロ族を対象に行った調査では、たいていの部族は子供が 4才になったころから積極的に遊ぶように働きかけ、夜明けから日暮れまで仲間と好きに過ごすように指示します。

その間は完全に放任で、大人は子供のやることに口を出しません。

大人をまねて猛獣を狩りに出かけようが、森の奥に秘密基地を作ろうが、バナナの葉を使ったブランコに乗ろうが、何をするのも自由です。

「遊び」の期間は 14 ~ 15才まで続き、それからようやく子供たちは大人の狩猟に同行を許されます。

狩猟採集民の子供たちは、長きにわたって遊びながら暮らすわけです。

グレイ博士は、フィールドワークの成果を、こうまとめています。

「すべての狩猟採集民は、大人も子供も、つねに大量のユーモアと遊び心を表現しながら過ごす。

遊び心とユーモアが狩猟採集社会の根底にあるのは明らかだ。

『遊び』は、単に毎日の暮らしに楽しみをあたえるスパイスではなく、部族の平等を維持し、平和を保つための重要な手段だ。

それによって、彼らは生きるのに必要な環境を整えるのだ」 遊びは仕事の息抜きなどではなく、それ自体が生存の必須条件になります。

狩猟採集民にとって遊びと生活はイコール。

遊びのために生きるのではなく、生きることそのものが遊びなのです。

それでは、もし私たちが「遊び」を奪われたらどうなるのでしょうか? いくつかの動物研究で、その恐ろしさが確認されています。

2011年には、アメリカ国立衛生研究所が、年老いた猿しかいない檻のなかで子供のアカゲザルを育てる実験を行いました。

老いた猿は体力がないため、かわいそうな小猿は 1日の大半をひとりで遊ぶしかありません。

数年後、成長した小猿は、他の個体と違う反応を見せるようになりました。

普通に育った猿を新しい檻に移すと、通常は好奇心いっぱいに周囲の環境を探索し始めます。

ところが、遊びを奪われて育った猿は極度におびえた仕草をみせ、檻の隅にちぢこまったまま動かなくなったのです。

アカゲザルの結果をヒトに当てはめるのは危険ですが、心理学者のレネ・プロワイエ博士が 4100人に行ったインタビューでも、「人間の遊び心は幸福度と高い相関がある」との結論が出ています。

簡単に言えば、遊び心がある人ほど、幸福な人生を送っている傾向があったわけです。

心理学でいう「遊び心」とは、どんな状況でも、楽しさやユーモアを使って解釈できるかどうかを意味します。

まさに狩猟採集民が日常的に発揮している能力です。

プロワイエ博士は、「それぞれの年齢にあった『遊び』は、人生のストレスに立ち向かい、ポジティブな感情を引き出す最良のリソースになり得る」と指摘しています。

遊びの内容はなんでもよく、自分が安心して取り組める趣味を見つけるのが、狩猟採集民の日常感覚に近づく最初のステップです。

が、たんに「趣味を増やそう」と言っても本質的な解決にはならないでしょう。

いかに大好きな趣味を見つけても、それ以外の時間がつまらないようであれば、たんに逃避の場にしかなりません。

現代人の問題を解決するには、仕事・育児・勉強といった人生のあらゆる面を「遊び化」していく必要があります。

毎朝のように通勤ラッシュにもまれ、顧客に頭を下げながら嫌々ながらの残業をくり返し、帰ったらシャワーを浴びて寝る……。

そんな当たり前の日常を、できる範囲で遊びの場に変えていくのです。

2娯楽があふれているのに楽しくない ここで、いったん現代の生活から「遊び」の感覚が減った理由について考えてみましょう。

先進国にはさまざまな刺激と娯楽があふれているのに、なぜ楽しくない気持ちを抱えながら毎日を過ごす人が多いのでしょうか? この問題を解くには、先進国と狩猟採集民の環境を「遊び場」としてとらえなおしてみるのがわかりやすいでしょう。

そのうえで、私たちと狩猟採集民の遊びにどんな違いがあるかを見ていくのです。

まず違うのは、狩猟採集民の世界は「遊び」のルールがシンプルな点です。

同じ時間に狩りへ出向き、獲物を仕留め、仲間たちと食料を分かち合い、あとはみんなと歌って踊る。

彼らの生活ルールはこれだけで、つねに自分が行うタスクがはっきりしています。

ただし、これは狩猟採集民の遊びが簡単だという意味ではありません。

自力で素材を集めて弓矢を作り、 200 ~ 300種類を超える野生動物の生活パターンを記憶し、砂や泥に残る痕跡をもとにターゲットの狙いをつける作業は、いずれも高度な認知機能が必要です。

この点で狩猟採集民の遊びは、チェスや囲碁のようにシンプルながらも奥深い構造を持っています。

いっぽう現代の生活環境はどうでしょう? 長期にわたってローンの支払い計画を立てたり、初対面の人に商品を売り込まねばならなかったり、面識のない政治家に一票を投じさせられたりと、ヒトの脳にとって「新しすぎる」タスクを次々と要求されます。

しかも、そのルールは社会システムが変わるごとに変更され、キャッチアップしていくだけでも一苦労。

ルールが整備されていない遊びほど、プレイヤーのやる気を削ぐものはありません。

さらに違うのが、フィードバックの即時性です。

良くデザインされたゲームは、プレイヤーにすぐ反応を返すように設計されています。

シューティングゲームで敵を倒すたびに得点が入ったり、 RPGで新しい武器を手に入れたキャラの攻撃力が上がったり、プレイヤーが失敗したらステージの最初からやり直しになったりと、目に見える形でなんらかの変化が起きないと、プレイヤーはゲームを先に進めるモチベーションが得られません。

この点で、狩猟採集民の暮らしは合格です。

狩りに出れば獲物が手に入るかどうかはすぐにわかり、弓矢を作ればその場で性能を試すことができ、建材を組み上げれば半日で住居ができあがります。

自分が立てた仮説の妥当性はすぐに検証され、プレイヤーのモチベーションも維持されるのです。

ところが、先進国ではそうもいきません。

自分の行動に即時のフィードバックがあることは少なく、たいていはひとつのプロジェクトが形になるまで数カ月を要し、社会で使えるスキルが身につくまでは数年かかり、それまでは達成感のない毎日が続きます。

自分がどんなに良い手を指しても、相手がいっこうに次の駒を動かしてくれないチェスのようなものです。

その結果、あなたの満たされない欲望は、ネットニュースや SNSのように、即時のフィードバック性を持つ媒体に向かいやすくなります。

ブラウザを立ち上げれば新しい情報が得られ、インスタグラムに写真をあげればすぐに「いいね!」を得られるからです。

が、第 5章でも述べたとおり、これらの反応は脳の快楽システムを疲れさせるだけの超正常刺激にすぎません。

刺激の質はファストフードやお菓子に近く、摂取しすぎれば、やがて反応の快楽だけを求めるフィードバックゾンビと化すことになります。

つまるところ、私たちの環境は「遊び場」としては粗悪品です。

ルールは人為的で理解が難しく、明確なゴールもなく、即時のフィードバックが少ないせいで未来への不安も増します。

こんな状況では、おちおち安心して遊べないでしょう。

この問題に対して、「人生はゲームだ」や「仕事を遊びに」といったお題目を唱えても役には立ちません。

そもそも現代の環境から「遊び」が失われたのは、農耕の開始で生まれた遠い未来の出現に起因しています。

これだけの変化に精神論で立ち向かうのは無理筋です。

私たちにできるのは、狩猟採集民から「遊び」の基本を学び、いまの暮らしに応用すること。

そのためのキーワードは、「ルール設定」と「フィードバック化」の2つです。

3ルール化することで〝いまここ〟に集中できる ドラウジエム社は、ラトビアで最大クラスの I T企業です。

2004年に立ち上げた SNSのユーザーが数年で 230万人を超え、北ヨーロッパでもっとも成功した会社と呼ばれてきました。

が、そんな成功とは裏腹、同社は 2010年から従業員のマネージメントに苦しみはじめます。

社員の作業効率にいちじるしい差が出はじめ、およそ全体の 10%しか求める生産性をクリアしていなかったからです。

悩んだ同社は、上位 10%の社員はなにが違うのかを調べはじめました。

時間管理アプリを使い、すべての従業員がどのように働いているかをトラッキングしたそうです。

上位 10%と残り 90%の社員とのあいだには、明確な違いが見られました。

生産性が高い従業員ほど決まった間隔で仕事をしており、平均で 52分ほど働いたら 17分だけ休むというインターバルを守る傾向があったのです。

彼らは意識的にこのメソッドを組み立てたわけではなく、試行錯誤をくり返すうちに特定のインターバルに行き着いたと言います。

その後も似たようなリサーチが行われ、トップパフォーマーには以下のような傾向が見られました。

・精肉工場の従業員: 51分の労働と 9分の休憩をくり返す・農業従事者: 75分の仕事の 15分の休憩をくり返す・プログラマー: 50分の作業と 7分の休憩をくり返す こうして見ると、世に言われる効率アップ術の多くは、同じ発想がベースになっていることに気づくでしょう。

たとえば、「ポモドーロテクニック」という有名な時間管理術です。

ひとつの仕事を 25分ごとに区切り、その間に 5分の休憩をはさむテクニックで、あらかじめ目標の時間を設定しておくことで作業に明確なルールを設定し、作業への没入感を高める効果が得られます。

同じように、「締め切りを作る」という手法も似た発想にもとづいています。

期日がない仕事でもあえて「今日の 10時までにやる」と決めれば未来の姿が明確になり、やはり現在との心理的距離が縮まります。

そのぶんだけ、気を散らさず目の前の作業に取り組めるわけです。

また、時間ではなく「作業」を区切っても似た効果は得られます。

たとえば「企画書の提出」といったゴールがあった場合、「企画の決定」「執筆」「確認修正」などの小さな目標にわけていくのが定番のやり方です。

俗に「逆算思考」と呼ばれる手法で、大きなゴールを設定するよりも未来がクリアになり、モチベーションが上がりやすくなります。

かように人生をルール化する手法は多様ですが、すべてに共通するのは「未来を刻む」というポイントです。

時間を区切るにせよ作業を分けるにせよ、いずれも未来と現在との心理的な距離を縮める効果を持ち、そこにはジョー・シンプソンが下山中に体験したような〝いまここ〟の感覚が生まれます。

すなわちルール化とは、自分をマインドフルネスに導く道のひとつでもあるのです。

4幸福感が上がりやすくなる「 3のルール」 それでは、正しく未来を刻むにはどうすればいいのでしょう? 仕事のように明確な目標があるものは分解しやすいですが、人生のゴールの多くは漠然としていますし、達成した場合でも本当に幸せになれるかもわかりません。

「金持ちになる」や「有名になる」といった目標が典型的な例です。

この問題について、もっとも定量的なリサーチで効果が示されているのは、第 6章でも紹介した「 PP A」です。

もともと「幸福度を高めるための目標管理術」として生まれた手法なので、あいまいなゴールを処理する点では一日の長があります。

ここでは、まず「下位プロジェクト診断」というツールを使いましょう。

方法は簡単で、まずは 6章『 7 さあ実践!「人生の満足度を高める自己分析」のステップ 2』でリストアップした「 PP Aレーティングマトリックス」から合計点が高いコアプロジェクトを5つ選択。

それぞれのプロジェクトについて、次の質問を自分に投げかけていきます。

・このプロジェクトを進めるために必要なプロジェクトはなにか?・このプロジェクトよりも小さなプロジェクトはなにか? 一例として、「食べ過ぎを止める」というプロジェクトを下位に展開させてみたのが次の図です。

このように何度も問いを重ねていって、どうしても下位のプロジェクトを思いつかなくなったら終了してください。

一番下位に出てきたものが、もっともあなたの幸福度のアップにつながるプロジェクトです。

この手法は、「価値評定スケール」に書き込んだ項目で行っても構いません。

たとえば「他人の役に立つ」が最上位の価値観であれば、これを「ボランティア活動をする」や「職場の友人を手伝う」といった下位プロジェクトに分解し、それをさらに「ネットでボランティアグループを探す」や「同僚に困りごとがないか聞く」のように細かく砕いていくとよいでしょう。

当然ながら、自分が重視する価値観にもとづくプロジェクトのほうが未来と現在の心理的な距離は近くなり、モチベーションと幸福感も上がりやすくなります。

あとはリストアップしたプロジェクトを実践するだけですが、ここで大事なのが、「遊びのルールはシンプルにすべし」という狩猟採集社会から学んだポイントです。

やるべきプロジェクトが 1日に 20 ~ 30もあるようでは未来の姿が複数に分岐し、やはりモチベーションは下がってしまいます。

この問題については昔から多くの対策が考じられ、デビッド・アレン『ストレスフリーの仕事術( GTD)』やスティーブン・コヴィー『7つの習慣』といったタスク管理システムが生まれてきました。

両者とも複雑化しすぎた未来をシンプルにまとめ、現在との心理的な距離を縮める効果を持っています。

興味がある方は、それぞれの書籍をあたってみるとよいでしょう。

が、本書では、数あるテクニックのなかでも、特にシンプルにデザインされた「 3のルール」を採用します。

これは、ソフトウェア工学における「アジャイルソフトウェア開発」のなかから生まれた技法のひとつ。

念入りな計画と設計を行いながらプロダクトを生み出すのではなく、短期間で小さなプロジェクトのサイクルを何度も回すことで、最終的な仕上がりを向上させていくという考え方です。

アジャイルソフトウェア開発の世界には「プロジェクトは変わるもの」という前提があり、タスク管理にも柔軟性が欠かせません。

それゆえに、「 3のルール」では、以下の点だけを徹底します。

・今日やりとげたいことを毎朝3つ書き出して実践・今週やりとげたいことを週の頭に3つ書き出して実践・今月やりとげたいことを月初めに3つ書き出して実践・今年やりとげたいことを年始に3つ書き出して実践・毎週末にレビューを行い、うまく行った点を3つ、改善できる点を3つ書き出す 実際に運用するときは、まずその日に集中したいことを朝のうちに3つだけ紙に記入します。

そして、やるべきことを書いた紙をつねに目の前に置き、あとは決めた作業をこなしましょう。

これ以上ないほどシンプルなルールです。

「3のルール」が効果的なのは、そもそも人間の脳は、一度に「 4 ± 1」種類の情報しか処理できないからです。

たとえば「リンゴ・トマト・にんじん・白菜・かぼちゃ・キャベツ・ナス」といったリストを見せられた場合、特定の記憶術を使わない限り、 9割の人は 3 ~5つまでの野菜しか覚えられません。

かつては「人間が短期的に記憶できるのは 7個まで」と言われましたが、 2001年にミズーリ大学のネルソン・コーワン氏が厳密な実験を行い、現在では「 4 ± 1」が限界だと判明しています。

この数字は、人類学の研究でも裏付けられています。

マイアミ大学のケイレブ・エバレット氏は、アマゾンのムンドゥルク族やピダハン族に調査を行い、狩猟採集民の「数の感覚」をチェックしました。

どちらの部族も「数字」の概念を持っておらず、動物の数が 2匹を超えた場合は、そこからいくら個体数が増えても「たくさん」としか表現しません。

エバレット博士は空き缶に木の実を 4 ~ 5個ずつ入れていき、その様子を部族の大人たちに見てもらいました。

続いて、今度は缶から木の実を取り出しながら「缶が空になったら手をあげてください」と指示したところ、彼らは正確な合図のタイミングがまったくわからなかったのです。

エバレット博士は言います。

「数字のサポートが存在しなければ、健全な大人は 4までの数量を正確に区別し思い出すことができないようだった」 どうやら、私たちが正確に4つ以上の物をカウントできるのは、シュメール人が記数法を編み出してくれたおかげのようです。

「数の概念」が生まれたのは紀元前 3100年ごろですから、まだ脳の進化が追いついていないのも当然かもしれません。

その意味で、すべての作業を3つまで絞り込む方法は、生まれ持った認知のリソースをいたずらに浪費しない点で理にかなっています。

もし複雑なタスク管理システムを使いこなせなかったときは、「 3のルール」に切り替えてみるといいでしょう。

5現在と未来の心理的な距離を縮める方法 もっとも、ここまで未来を刻んだとしても、決めた作業に手が付けられないケースはよくあります。

先にも見たとおり、現代のプロジェクトは狩猟採集社会とは違うため、「結果が出るまでの時間が長い作業」や「数字の操作がからんだ作業」には遺伝とのミスマッチが発生しやすいからです。

体型が変わるまで数カ月かかるダイエット、実感のわかない統計データの処理、初対面の相手と親密な関係を築かねばならない営業活動……。

いずれも狩猟採集社会には無縁のタスクなので、うまく処理できないのが当然です。

残念ながら、この問題に根本的な解決はありません。

そもそもヒトの脳がまだ現代的なタスクに対応できていないのだから、どんなに優秀な管理テクニックも応急処置にしかならないでしょう。

私たちにできるのは、そんな限界を認めたうえで、現在と未来の心理的な距離を縮めることだけです。

その点でもっとも効果が高いのは、「イフゼン( if-then)プランニング」という技法です。

1980年代に社会心理学の世界で生まれたテクニックで、「実行意図」と呼ばれる心理現象をベースにしています。

やり方はとてもシンプルで、自分が決めたプロジェクトについて、「もし Xが起きたら、 Yをやる」といった形式で実行のタイミングをルール化しておくだけです。

具体的には次のようになります。

・ 6時になったら掃除をする ・月曜になったら会社の帰りにジムに行く このように、達成したいプロジェクトに対して、必ずトリガーになる条件を付けるのが基本です。

実行の合図( if)と行動( then)をまとめて設定するため、私たちの心理のなかでは 2段構えで将来の時間が固定され、そのぶんだけ未来が今に近づくことになります。

その効果は多くの研究で確認されており、なかでもニューヨーク大学のピーター・ゴルウィツァー氏が行ったメタ分析が有名です。

実行意図に関する 94件のデータを精査したところ、結論は次のようなものでした。

「イフゼン・プランニングにより日常の目標を達成する確率は格段に高まる。

その効果量は 0・ 65だ」 0・ 65という効果量はかなり優秀で、これほどのスコアを出したテクニックは多くありません。

禁煙、禁酒、ダイエットなど、なんらかのゴールを持っている人はまず試すべきだと言えるでしょう。

「イフゼン・プランニング」のメリットは、あらゆる状況への応用が効くところです。

たとえば、次のような使い方も考えられます。

・状況 計画を予定どおりに進める自信がない 設定「 12時までに原稿が終わっていなければ、ほかの作業を止めて最優先で取り組む」 ・状況 嫌な顧客と話さねばならない 設定「顧客からクレームが入ったら、いったん深呼吸をする」 ・状況 健康を維持したい 設定「肉を 100 g食べたら野菜を 300 g食べる」「 13時になったら薬を飲む」 ・状況 誰かの役に立ちたい 設定「仕事中に頼み事をされたら、 5分だけ手伝ってあげる」 いずれも状況はバラバラですが、「もし Xが起きたら Yをやる」のフォーマットにさえ落とし込めれば実行意図は起動します。

ここで、さらにテクニックの効果を高めたければ、「予想される障害に対して事前にプランニングをしておく」という手法も有効です。

具体的なステップは次のようになります。

①やりとげたいプロジェクトをひとつだけ選ぶ ②そのプロジェクトを達成するときの障害を3つ書き出す ③3つの障害のなかから、もっとも現実に起きる可能性が高いものをひとつだけ選ぶ ④選んだ障害を「イフゼン・プランニング」のフォーマットに落とし込む たとえば、「ジムに行く」というプロジェクトなら、まずは「急にやる気がなくなる」「同僚から飲みに誘われる」「急な仕事が入る」といった障害を3つほど想定します。

そのうえで、「急にやる気がなくなったら、とりあえずジムの近所まで行ってみる」のように対策を立てておくわけです。

なんとも単純なテクニックですが、前出のメタ分析によれば、普通の「イフゼン・プランニング」より 20 ~ 30%ほどプロジェクトを達成する確率は高くなります。

ぜひ試してみてください。

6「数字」の報酬効果―シカゴ大学の調査 報酬が嫌いな人はいないでしょう。

大きな仕事を成しとげたあとのボーナスはもちろん、路上でもらえるティッシュですら何となく良い気分になるものです。

それでは、その報酬が完全に無意味なものだったらどうでしょう? 実生活に何も役だたなければ、いくら無料でも嬉しくはないと思うのではないでしょうか? 2017年、シカゴ大学のクリストファー・ハシー氏は、「無意味な報酬に人間はどう反応するか」を調べました。

被験者はネット広告のレーティング作業を指示されたのですが、その画面上にはつねに〝謎のスコア〟が表示されています。

このスコアは被験者が作業を終えるたびにランダムで増加しますが、作業のパフォーマンスを評価しているわけでもなく、得点を稼いだからといって賞品がもらえるわけでもありません。

あくまでただの数字であり、被験者の多くも途中からその事実に気づいていました。

しかし、被験者のパフォーマンスには大きな違いが出ます。

無意味な数字を見ながら作業を行ったグループは、そうでない被験者にくらべて達成率が 25%多く、その増減値はスコアの加算スピードと連動していました。

つまり、〝謎のスコア〟が速く上がるほど被験者のモチベーションも上がり、スコアが増えないときには作業効率が下がってしまったわけです。

この結果についてハシー博士はこうコメントしています。

「数字のフィードバックは、低コストで大きなインパクトを持つ。

この現象は、エクササイズでもビデオゲームでも政策提言でも同じように使えるだろう」 確かに、無意味な数字ですらモチベーションが左右されるのですから、人間はよほどフィードバックに飢えているのでしょう。

ただし、この実験は同時に、私たちがいかに簡単にフィードバックを得られる生き物であるかも示しています。

学校のラジオ体操でもらった出席シール、 TODOリストのチェックマーク、釈放までの日数を独房の壁に刻む囚人……。

ゴールまでの進行度と平行して数量が増えていくものであれば、人間の脳はなんでも快楽を得られるようにできているのです。

その意味でもっとも手軽なフィードバックは、カレンダーを使った作業のトラッキングでしょう。

方法は簡単で、その日のプロジェクトを達成したら、カレンダーに ◯印を付けるだけです。

原始的な方法ながらフィードバックの効果は高く、同じ原理を使ったスマホ用のアプリも公開されています。

ただし、どちらかと言えば、スマホよりアナログの手帳やカレンダーを使ったほうが効果は高くなるので注意してください。

ハシー教授の実験によれば、モニタのスコアを消した瞬間に、被験者のモチベーションも下がる傾向があったからです。

フィードバックはいつでも確認できる状態にしておきましょう。

もうひとつ、フィードバックに効果的なのが、オハイオ州立大学の藤田健太郎氏が考案した「アカウンタビリティチャート」です。

こちらもシンプルなメソッドで、次のように行います。

①ノートの真ん中に区切り線を引く ②右側に 1日の作業時間を 90分区切りで書く ③左側に実際にこなした作業内容を書く

藤田博士の実験によれば、この作業を続けた被験者はセルフコントロール能力が上がり、目標の達成度が有意に向上しています。

その理由は、第一に「やりとげた作業を書き残す」という行為が、自分へのフィードバックとして働く点です。

プロジェクトの進捗が記録として残るため、チャートをながめるだけでも脳は満足感を得られます。

第二に、「実際の作業にかかった時間」を記録していくことで、少しずつ時間の見積もりがうまくなっていく点。

記録を続けるほど正確な所要時間を出せるようになるため、そのぶんだけ未来の姿はクリアになっていきます。

フィードバックの効果を得ながら、同時に現在との心理的な距離も縮めてくれるわけです。

ここでは 1ブロックの時間を 90分ごとに区切っていますが、「 50分の作業 → 10分の休憩」といったインターバルを使っても構いません。

自分の好きなインターバルで取り組んでください。

7メタ認知を使ったフィードバック ヒトの脳はどんなフィードバックでも喜びますが、その反応は多様です。

当たり前ですが、自分のパフォーマンスやプロジェクトの内容を反映した内容のほうがフィードバックとしての質は高く、モチベーションも上がりやすくなります。

そこで最後に、「メタ認知」を使ったフィードバック法も押さえておきましょう。

「メタ認知」はヒトの脳に生まれつき備わった能力で、「思考について考える」という一段上の認知機能のことです。

誰でもふと「いま自分は晩御飯のことを考えていたな……」などと思った経験があるでしょうが、これなどはメタ認知が起動した典型的な例。

物事を抽象的に理解するために欠かせない能力なので、原始の世界においては、獲物の生息地域を推測したり、弓矢のような武器を作るときなどに使われてきました。

しなった枝の反動を使って別の物体を飛ばす発想は、メタ認知なしには生まれなかったでしょう。

逆に言えば、メタ認知がなければ、「作業の進行度」や「自分のパフォーマンスレベル」といった抽象的な内容はうまく把握できません。

なにがプロジェクトのポイントなのかがわからないため、「なにがわからないのかがわからない」と答える子供と同じような状況になってしまうのです。

この問題を解決するには、意識的にメタ認知を起動させたうえで、プロジェクトの要点をつかむのが一番です。

具体的には、毎日のプロジェクトに対して、以下の 4ステップで自分に質問をくり返してみてください。

・ステップ ①「事前評価」 この後に掲げる「プロジェクトを始める前に使う質問」を自分に投げかけてメタ認知を起動。

「企画書を仕上げるには前期の業績データが必要だな」や「ジムに行くのは健康のためだ」など、そのプロジェクトのゴールやリソース、現時点での疑問や価値観などをあらためて確認する。

・ステップ ②「混乱ポイントの把握」 この後に掲げる「プロジェクトの途中で使う前に使う質問」を自分に投げかけ、「なにがわからないのかがわからない」状態を抜け出す。

「企画書が進まないのはデータがそろっていないからだ」「エクササイズのやる気が出ないのは、いつ効果が出るかわからなくて不安だからだ」など、プロジェクトが前に進まない原因を明確化するのが基本。

・ステップ ③「事前評価の評価」 この後に掲げる「プロジェクトが終わった後に使う質問」を自分に投げかけ、事前評価のときから自分の認識がどう変わったかを正しく認識する。

「企画書を書く前はデータ集めが重要だと思っていたが、いまは文章の論理構造のほうが大事だと思っている」や「いざエクササイズを始めてみると思ったより辛くない」など、ギャップを確認するのがポイント。

以上のガイドラインは、サンフランシスコ州立大学が取り入れている教育法のひとつです。

その効果は多くの教育機関で認められつつあり、近年では麻薬中毒などの更生プログラムなどにも採用されています。

実際、メタ認知を使ったフィードバックは、あらゆる分野への応用が可能です。

新たな仕事に取り組むとき、 PDCAのチェック段階をスムーズに進めたいとき、読書の理解度をあげたいとき、子育てに困ったとき、人間関係で壁にぶつかったときなど、どんな悩みにも使える汎用性の高さが魅力です。

が、唯一の難点は、時間がかかる点でしょう。

質問の量が多岐にわたるため、下手をすればフィードバック作業だけで 1日が終わりかねません。

それだけの見返りはあるものの、すべてのプロジェクトに行うのは現実的ではないでしょう。

そこでおすすめなのは、「 3のルール」における毎週末のレビュー用に使うことです。

その週に行ったプロジェクトをメタ認知でふるいにかけ、うまくいったポイントと改善点を3つずつ抽出し、これをもとに次週のプロジェクトを事前評価していくのです。

「週末はメタ認知フィードバックをする」といったように、あらかじめ「イフゼン・プランニング」に落とし込んでおけばいいでしょう。

[メタ認知の質問] ▼プロジェクトを始める前に使う質問 このプロジェクトの具体的なゴールはなんだろう? このプロジェクトをこなすためにできる準備はなんだろう? 目の前のプロジェクトについて、現時点でどんな疑問があるだろう? 上司やクライアントが自分に期待するゴールはなんだろう? このプロジェクトをうまく達成するのに必要な要素はなんだろう?

プロジェクトの達成にかかる時間はどれぐらいだろう? 時間をかけるべき部分と、時間をかけないようにすべき部分はどこだろう? このプロジェクトを達成することで、自分は何を得られるだろうか? ▼プロジェクトの途中で使う質問 いま使っている戦術は上手く機能しているだろうか? このプロジェクトでもっとも困難なポイントはどこだろうか? 困難なポイントに対して、違うアプローチはできないだろうか? 自分が悩んでいるポイントは明確にできているのか? 漠然とした悩みどうすれば明確にできるだろうか? 大量の情報のなかから、重要なものだけを見抜けているだろうか? プロジェクト中に浮かんだ疑問を、どこかに記録しただろうか? プロジェクトを楽しめているだろうか? モチベーションは維持できているだろうか? このプロジェクトを行っている自分は、どんな経験が得られているだろうか? いまのプロジェクトにもっと興味を持つ方法はないだろうか? どれぐらい自信をもって遂行できているだろうか? プロジェクトへの興味と自信を増やす方法はないだろうか? ▼プロジェクトが終わった後に使う質問 今回のプロジェクトは、自分の理解と食い違いがなかっただろうか? 事前の計画と照らして、どこが計画どおりに進んでどこが進められなかったか? うまくいった理由とうまくいかなかった理由はなんだろうか? 自分が今回のプロジェクトについて抱いた疑問や難点を記録に残しただろうか? 疑問や難点を明確化して、解決していくためにはどうすればいいだろうか 上司やクライアントの立場から見て、どのポイントが欠点と感じられただろうか? 今後もし同じプロジェクトをするときが来たら、次はどこを変えるべきだろう?あるいは、どこは変えずに残すべきだろう? 友人が似たようなプロジェクトをすると想像して、どんなアドバイスをしてあげられるだろう? 今回のプロジェクトでもっとも興味が持てたポイントはどこだろう? このプロジェクトから学んだことで、自分の未来や大きな目標に活かせるポイントはどこだろう? 8人類は大人になっても遊ぶ必要がある さまざまな手法を取り上げてきましたが、状況が違っても「遊び化」のパターンは変わりません。

価値にもとづいたプロジェクトを決め、ルールを設定し、自分にフィードバックを与えればいいのです。

その目的は、人生に遊びの感覚を取り戻し、遠くなった未来を現在に近づけることです。

このポイントさえ見失わなければ、どんな状況にも対応できるでしょう。

ドイツの哲学者カール・グロースは、 1901年の著書「人間の遊戯」のなかで、ほかの哺乳類の幼児期にくらべて人間の子供のほうがよく遊ぶという事実に触れ、「人類は他の種よりも複雑な生存スキルが欠かせないため、大人になっても遊びを通して認知機能を発達させ続け続けねばならないのではないか?」と推測しました。

この仮説がどこまで正しいかはわからないものの、狩猟採集民の多くが老人になっても遊び心を保ちながら生きているのは事実。

おそらく私たちは、生涯を通じて遊び続けねばならないのです。

第 8章 実践ガイドルール設定・下位プロジェクト診断:人生を「遊び化」するためには、まず「下位プロジェクト診断」から始めましょう。

あなたの価値観かコアプロジェクトを細かく分解し、「これなら今日すぐにでも取りかかれそうだ」と思えるレベルまで落とし込んでください。

・インターバル設定:下位プロジェクトがわかったら、そのタスクを行うための作業時間を決めます。

ただし、あなたにとって最適のインターバルは、個人の時間感覚や作業の難易度によって変わります。

もしあなたの現在と未来の心理的な距離が遠ければ、「ポモドーロテクニック」のように細かく時間を刻んだほうがいいかもしれません。

逆に心理的な距離がもっと近いときは、トップパフォーマー研究が示唆する「 50分の作業 → 10分の休憩」といったインターバルをくり返すほうが有効でしょう。

何度かタスクををこなして、最適なタイミングを見つけてください ・3のルール:下位プロジェクトの実践は、「 3のルール」に従って行います。

その日にやるべきタスクは、いつも目に入る場所に置いてください。

ヒトの脳は「未来」の取り扱いが苦手なので、少しでも先の見通しがぼやけただけで不安が生まれてしまいます。

この点でデジタルデバイスは不利なため、めんどうでも紙に書き出したほうが効果は高くなるでしょう。

・イフゼン・プランニング:「 3のルール」で設定したタスクは、さらに「イフゼン・プランニング」のフォーマットに落とし込んで最終的に運用します。

こちらも、リストアップした紙は、いつも目の前に置くようにしてください。

フィードバック化・作業トラッキング:特定のタスクが終わったら、必ず記録を残してください。

カレンダーに丸印をつけてもいいし、シールを貼ってみるのもいいでしょう。

「 Streaks」や「 Strides Habit Tracker」のようなトラッキングアプリを使っても十分な効果が得られます。

・アカウンタビリティチャート:カレンダーや手帳へのトラッキングに慣れてきたら、「アカウンタビリティチャート」も導入してみましょう。

普段の手帳を使ってもいいですが、専用のノートを用意しておくとさらに効果が高まります。

・メタ認知:日常的なフィードバックは「アカウンタビリティチャート」でも十分ですが、さらに高みを目指すなら「メタ認知」が有効です。

週に 1回、「 3のルール」のレビューを行う際に、本章『 7 メタ認知を使ったフィードバック』の「メタ認知の質問」を自分にぶつけてみてください。

エピローグまず何から始めるか? 費用対効果の高い方法 不満や悩みの形は人によって大きく異なるため、本書で紹介したテクニックにも「これを先にやるべき」といった順番はありません。

手当たりしだいに試してみたうえで、しっくりくるものを続けていくのがベストでしょう。

とはいえ、それぞれのエビデンスには質の差があるため、ある程度はテクニックの優先順位をつけられます。

基本的なガイドラインを紹介しましょう。

▼炎症 もっとも手軽でメリットが多いのは、自然との接触を増やすことです。

ストレスが劇的に下がるのはもちろん、自然のなかにいれば大気にふくまれる細菌が腸内環境にも良い影響をあたえ、自律神経が整うおかげで睡眠の質も高まり、同時にデジタル断食の効果も得られます。

いろいろなポイントが改善していくため、費用対効果としては最強クラスです。

続いてデータが多いのは、人間関係と食物繊維の2つです。

どちらも複数のメタ分析でメリットが確認されており、普遍的な効果が期待できます。

友達づくりは一朝一夕にはいきませんが、食物繊維の増量は即効性が高いため変化を実感しやすいはずです。

また、睡眠と運動の重要性についても言うまでもありません。

睡眠の改善には自然とふれ合うのがベストですが、最低でも夜中に PCやスマホを使わないぐらいはやっておきましょう。

運動の種類については、軽いウォーキングから格闘技までどんなものでも構いません。

ただし、せっかくなので仲の良い友人と楽しめるようなものを選び、さらにはそれを自然のなかで行えば効果が倍になります。

以上の4つを試してみたうえで慣れてきたら、発酵食品やプロバイオティクス、呼吸法、リアプライザルといったテクニックを加えていきましょう。

いずれにせよ、自然との接触を増やすのが最優先です。

▼不安 第一にすべきは価値の設定です。

すべての土台になる要素なので、まずは価値観を固めないと、どんなテクニックも効果が半減してしまいます。

価値観が定まったら、あとは PP Aの下位分析で細かいプロジェクトに分解。

「 3のルール」で毎日の計画を決めつつ、それぞれのプロジェクトは「イフゼン・プランニング」に落とし込んでインターバル形式で実践。

そのうえで、月に 1 ~ 4回ほどのペースで、「メタ認知」を使ったプロジェクトのレビューを行うのが基本的なフローになります。

もちろん、すべては遊びの感覚で行うことを忘れないでください。

と同時に、中長期的には、「畏敬」と「マインドフルネス」のメンテナンスを行うといいでしょう。

畏敬の念を維持するには大自然に触れるのがベストですが、時間がなければ歯ごたえのある小説や映画に触れてみます。

やや背伸びをして、自分の理解の範囲を少しだけ逸脱した作品を選んでみてください。

マインドフルネスは、自分が続けやすい手法であれば何でも構いません。

何もせず座る作業が苦痛でなければ瞑想をすればいいでしょうし、体を動かしたほうが取り組みやすければ有酸素運動や家事をしながらのマインドフルネスを選んでください。

どの手法を使うにせよ、一番大事なのは日常にマインドフルネスの感覚を溶け込ませることです。

最初のうちは「寝る 30分前はマインドフルネスに過ごす」といったように、「イフゼン・プランニング」のフォーマットに落とし込んでおくといいでしょう。

本書をどう使うかはあなた次第ですが、困ったときに考えることはひとつ。

「この問題における進化とのミスマッチとは何か?」だけです。

つねにヒトの根本に立ち戻って考える限り、道に迷うことはありません。

「最高の体調」を手に入れるための第一歩 最後に本書の弱点を告白しておきましょう。

それは、人間の脳と体が、決して私たちを幸福にするためにはデザインされていないという点です。

第 2章でも述べたとおり、すべての生物は「長寿と繁栄」を目指して環境の変化に適応してきました。

後世に遺伝子さえ受け渡せれば手段は問わないため、進化の仕組みは私たち個人の幸福や不幸など気にもかけてくれません。

つまり、本書の内容を完璧にやりとげたとしても、あなたが幸せになれるとは限りません。

ここで示したのは幸福への道筋ではなく、あくまで遺伝のミスマッチが引き起こした「不要な苦しみ」を減らすための方法論です。

その結果として幸福感が増すケースはよくありますが、これはあくまでオマケのようなもの。

遺伝子に刻み込まれた根源的な不満や苦しみを消し去ることはできません。

ブッダが「悟り」を究極のソリューションとして提示したのは、この限界に気づいていたからです。

そもそも人体が幸福を目指して設計されていないのなら、そのシステムの外に出るしか真の満足を得る道はありません。

いわばゲームから完全に降りてしまったうえで、ゲームマスターのように生きる道です。

が、残念ながら「悟り」は大半の人にとって現実的な解ではありません。

ゲームから降りるためには、 600万年の歴史を持つ進化のルールを破らねばならず、そのためには、やりがいのある仕事や温かい家族といった人並みの幸せすら手放す覚悟が必要になります。

しかし、幸いにもブッダは、「悟り」のほかにも、ゲームのなかで幸福を最大化する方法を提案しています。

それが、「抜苦与楽」です。

これは「悟り」と並ぶ仏教の基本テーマで、文字どおり「万物の苦しみを取り除き、安楽を与えること」を意味します。

要するに、自分はもちろん他人のために生きよ、とブッダは説いたわけです。

何度も見てきたように、この主張は定量的なデータで裏づけられた事実です。

他者への貢献こそが普遍的な人類の価値観だと明らかにした、ミシガン州立大学のメタ分析。

幸福への唯一のカギは「良い人間関係」だと結論づけた、

ハーバード大学の成人発達研究。

患者との交流によりモチベーションを取り戻したミッドウエスト病院の清掃チーム。

そして、つねに平等を掟としながら仲間に尽くす狩猟採集社会。

それぞれの立場は違えど、遺伝子が定めるルールのなかで幸福を最大化させるには、「抜苦与楽」が最適解なのでしょう。

もし本書の「文明病」というアイデアであなたの問題が改善したら、次は友人を助け、さらに周囲の人まで広げていってください。

かつて学生から「人間は何のために生きているのか?」と質問されたアインシュタイン博士は、こともなげに答えました。

「他人の役に立つためです。

そんなことがわからないんですか?」 みなさまのご多幸をお祈りしています。

本書の参照文献は筆者のサイト( https:// yuchrszk. blogspot. com/ p/ best_ condition. html)からご確認いただけます。

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