おわりに主な参考文献
スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ……などいろいろな花粉症をもっています。年々症状がひどくなり、いまでは一年中、抗アレルギー剤を飲んでいます。薬を飲みながら上咽頭炎の治療をしても大丈夫ですか。
上咽頭炎の治療と薬を併用しても問題ありません。 塩化亜鉛による治療も、そのほかこの本で紹介した溶剤による鼻洗浄でも、上咽頭炎の治療をしながら抗アレルギー剤を服用しても、なんら問題はありません。実際、上咽頭炎治療を行うことで、抗アレルギー剤を減らせる例は少なくありません。中止できる例もあります。
4歳の子どもの喘息がひどくて困っています。子どもに上咽頭炎の治療をしてもいいですか。
子どもにも上咽頭炎の治療は可能です。 この本でも何度もお話ししてきましたが、上咽頭炎の治療をすることで、喘息が起こりにくくなることはしばしば経験されていますから、試してみる価値はあるでしょう。しかし、上咽頭に強い炎症があると、塩化亜鉛の局所治療は痛くて辛いものであるので、 4歳の子どもに塩化亜鉛塗布治療を続けることは容易ではありません。また、 4歳では、鼻で吸って口から出す、鼻うがいを行うのも、やはり難しいと思います。簡単に行える治療としては、梅エキス(ミサトールリノローション)などの鼻洗浄がおすすめです。子どもが比較的嫌がらずに続けやすいという点からも良いと思います。 また、このようなお子さんはたいてい口呼吸の習慣をもっています。口呼吸を鼻呼吸に替えるだけでも喘息に好影響を与えます。それには、鼻呼吸の習慣を獲得する口の体操が役立ちます。
塩化亜鉛はどこで手に入れることができますか?
個人で入手することはできません。 上咽頭炎の治療に欠かせない塩化亜鉛ですが、残念ながら個人で入手することは不可能です。また、薬事法で劇物指定されているため、医師の指導がないと使うこともできません。上咽頭の治療には塩化亜鉛 1%溶液(私は 0・ 5%溶液を使います)を使いますが、この調剤は薬局などに頼んでやってもらわなければなりません。そのようなこともあり、塩化亜鉛を常備する耳鼻咽喉科そのものがかなり少なくなっているのが現状です。
2交代制の工場で働いているので、生活が不規則です。数年前から、慢性じんましんや大腸炎に悩まされていますが、薬を飲んでも治りません。上咽頭炎の治療をすれば、生活が不規則でも症状はよくなりますか。
治療を続けながら、なるべく規則正しい生活を心がけてください。 上咽頭炎は、不規則な生活やストレスでもひきおこされます。また上咽頭炎が、治すことが難しい慢性のじんましんや大腸炎の引き金になっている可能性は十分に考えられます。まずは耳鼻咽喉科を受診して、上咽頭炎があるかどうかを調べてみてください。近くに慢性上咽頭炎治療をしてくれる耳鼻咽喉科がない場合は、紹介した耳の後ろの張りをチェックしてみましょう。上咽頭に炎症があれば、ここを押せば圧痛を感じるはずです。できればしっかりと治療をし、なるべく規則正しい生活を心がけてください。また、鼻うがいはご自分で簡単にできるので試みる価値があると思います。
口呼吸かもしれませんが、一人暮らしなので、睡眠中、口を開けて口呼吸で寝ているかどうか、様子がわかりません。寝ている間に口呼吸をしているかどうか、どうすればわかりますか。
朝起きたとき、のどがひりひりする人は、口呼吸の可能性が高いです。 毎朝、起きたときにのどがひりひりとする人は、睡眠中、口呼吸をしている可能性が高いと考えられます。口を開けて寝ているかどうかを確かめるために、絆創膏を口に垂直に貼って寝てみましょう。朝起きたとき、絆創膏が口からはがれていたら、睡眠中の口呼吸が疑われます。口に貼る絆創膏は、 1 ㎝幅の紙絆創膏で大丈夫です。口呼吸の疑いがある場合は、絆創膏 2本貼るか、幅の広い絆創膏を貼って寝ることを続けてみましょう。続けることで、徐々に鼻の通りがよくなり、朝まで絆創膏がはがれずに眠ることができるようになります。 また、風邪のひき始めには口テープを貼って寝れば、風邪の悪化を防ぐことができます。睡眠中に口呼吸を続けると、浄化されていない冷たい乾燥した空気が、長時間にわたり直接咽頭に流れ込み、一部は上咽頭に入るため、上咽頭炎を悪化させる原因となります。そうならないためにも、鼻呼吸を習慣づけましょう。
山登りが趣味です。熱中症予防のため暑いときは首を冷やしていますが、上咽頭炎にはよくないのでしょうか。
なるべく首は冷やさないようにしましょう。 上咽頭は冷えに敏感な部位です。首を冷やすだけで上咽頭炎になります。反対に首を温めることは上咽頭炎の改善に有効です。ですから、熱中症予防のために体を冷やすなら、頭や腋下を冷やすようにして、首の上部は冷やさないほうが良いでしょう。
ミサトールリノローションで上咽頭炎の治療を続けていますが、いつまで続ければいいのでしょうか。
上咽頭炎治療の終了の時期は、治療目的によって異なります。 上咽頭炎治療の目的が健康維持であれば、ふだんから生理食塩水での鼻うがいを習慣にするだけで十分です。たとえ習慣になっていなくても、風邪のひき始めに上咽頭炎の治療を行うことは、早く風邪を治すためには極めて効果的な方法です。 一方、関節炎、膠原病、腎炎、アトピー、喘息などの二次疾患の治療目的で上咽頭炎治療を行っている場合は、その二次疾患の症状の状態によって治療の終了時期は異なります。また、たとえ二次疾患が寛解(薬を飲まなくてもいい)状態になっていても、再発予防のためにふだんから鼻うがいなどをして慢性上咽頭炎を悪化させないようにすることは、たいへん意義があります。
自宅近くの耳鼻科で慢性上咽頭炎の治療をしてもらいたいのですが、どうすればいいですか。
この本をもって、相談してみてください。 風邪による急性上咽頭炎を起こしている場合は、上咽頭に粘液などが付着しているので、ファイバースコープなどを用いれば診断は容易です。しかし、慢性上咽頭炎の場合、肉眼で判断することはたいへん難しく、よほど診断し慣れていないと正常な場合との判別は不可能です。通常、慢性上咽頭炎を診断するためには塩化亜鉛を塗布した綿棒で擦過する必要があります。これで綿棒に血液が付着していれば、慢性上咽頭炎であると診断されます。しかし、残念ながら「慢性上咽頭炎」という概念が耳鼻科医の中でも十分に普及しているとは言い難いため、慢性上咽頭炎に詳しい耳鼻科医を選ぶことが必要です。
いつも鼻がつまっている感じが消えず、鼻水が咽喉へ落ちてきます。耳鼻科に行きましたが「軽い副鼻腔炎ですね」といわれ、抗生物質を処方されました。薬を飲むといったんよくなりますが、また少しすると症状がぶり返します。
上咽頭炎の治療を続ければ、副鼻腔炎にもなりにくくなります。 慢性上咽頭炎があると上咽頭の繊毛の働きが悪くなります。そのため、上咽頭より気道の入り口に近い鼻腔、副鼻腔に炎症が起こりやすくなります。副鼻腔炎を繰り返す人は、まず耳鼻咽喉科で副鼻腔炎の治療をきちんと済ませてから、上咽頭炎の治療を始めましょう。副鼻腔に炎症が残っていると、慢性上咽頭炎が治りにくいといわれています。また、慢性上咽頭炎の治療は、上咽頭の浄化機能を高めるので副鼻腔炎になりにくくなることが期待できます。
喫煙と飲酒がやめられません。どちらか一つだけならやめられそうですが、どちらをやめるべきですか。
禁煙をおすすめします。 タバコは上咽頭にとって天敵です。本気で慢性上咽頭炎やそれに伴う二次疾患を治そうと思うのであれば、禁煙は避けては通れません。一方、飲酒は適量であれば問題はありません。ただし、キンキンに冷えたビールは咽頭まで冷やすので、おすすめできません。もちろん飲みすぎはダメです。飲みすぎは体にとってはむしろストレスになり上咽頭炎を悪化させます。二日酔いで頭が痛いというときは、上咽頭炎が悪化していることが多いようです。これは情けない話ですが自分で確かめました。
おわりに 〜木を見て森も見る医療 現代の医療は専門分化がどんどん加速する方向に進んでいます。その傾向はこれからも当分の間は変わることはないでしょう。 たとえば腰が痛かったり、膝が腫れたりすると、読者のみなさんは何のためらいもなく整形外科を受診すると思います。ところが、整形外科医の世界では膝の専門家、腰の専門家、肩の専門家、手の専門家、脊髄の専門家など部位別に専門家がさらに分化していて、整形外科と一口に言っても医師や施設によって得意とする分野が異なっています。なぜならば、細分化したほうがよりレベルの高い医療を効率よく行うことができますし、また特殊技能を早く身につけて一流のエキスパートになるためには、いろいろな領域に手を出すよりも、細分化した一つの領域に特化したほうが効率的で成果も上がるというメリットもあるからです。 このような流れは現代の医療が「疾病の局在論」をベースにして、医療レベルの向上と効率化を追求していった必然的な結果といえるでしょう。 しかし、一方で現代の細分化した医療は、しばしば「木を見て森を見ず」と揶揄されます。それぞれの患者さんにとっての最善の医療とは、 ①長期的に ②多面的に ③根本的に治療を考えることです。その場しのぎの医療でごまかしてはいけないのです。「ふだんから頭痛もちで、今日はとくに頭が痛い」と訴える患者さんがいたら、とりあえず鎮痛剤を出すというのはテレビのコマーシャルレベルの「木を見て森を見ない診療」です。患者さんの話をよく聞けば、頭痛以外にも「胃の調子が悪い」「肩こりがひどい」「何もする気が起きない」などの訴えが出てくるかもしれません。そこで首を触診して、耳下部に筋肉の張りと痛みがあれば慢性上咽頭炎の可能性が高いといえます。 そして実際に、上咽頭炎の診断的治療として、塩化亜鉛を綿棒につけて上咽頭に塗布すれば、患者は痛がりますが、治療のあとは頭痛だけでなく患者を悩ましていたさまざまな不快症状からも解放されるかもしれません。その後は、慢性上咽頭炎が悪化しないような生活指導を行い、患者さんがそれをきちんと実践してくれれば、その後の生活の質が変わってきます。 私は対症治療を否定するつもりはありません。日々進歩を続ける対症治療が患者さんの悩みや苦しみを軽減していることは間違いありません。しかし、対症治療のみでは、とくに免疫異常が関連する慢性疾患の患者さんが病気から解放される日は到来しません。 医療が患者さんに最大限の幸福をもたらすためには、患者さんの全体像を俯瞰して、対症治療に加えて、目の前の患者さんに対する根本治療(病気のもともとの原因から治すこと)がないだろうかと考えること、すなわち「木を見て森も見る医療」が極めて重要です。今回、私は根本治療の一つとして慢性上咽頭炎治療を紹介しました。 そして読者のみなさんが本書を通じて上咽頭の重要性を知ることで、ご自分で体の不調の根本原因に気づいて、慢性上咽頭炎の治療を試してみようと思っていただけるならば幸いです。たとえ塩化亜鉛塗布をしてくれる医師が近くにいなくても、本書で紹介した自分でできる慢性上咽頭炎の対策を行えば、不快症状の軽快が期待できると思います。 本書は古くて新しい概念である慢性上咽頭炎の重要性を、内科医の視点から記述したものです。本書がアレルギー性疾患や免疫疾患をはじめ、多くの治療が困難な疾患に悩んでいる患者さんの治療や日常生活に役立つことを願っています。そして、将来、病的な慢性上咽頭炎をふだんから予防する生活習慣が、国民の間に定着して、さまざまな慢性疾患におちいる患者さんの数が減少し、対症療法のために莫大な医療費が投入されているわが国の医療の現況が好転する日が到来することを願っています。 稿を終えるにあたり、最初に本書の執筆をすすめてくれた梶葉子さんに感謝します。また、わかりやすいイラストを描いてくれた川口澄子さんに感謝いたします。そして、本書の出版のために日夜奔走していただいた角川マガジンズの内田朋恵さんへ心からの深謝を申し上げます。 2011年2月堀田 修
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