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第 5章落とし穴をよける

目次

「将来のために我慢しよう」で人生を終えないために

日本にも外国にも、その土地ならではのお祭りがあります。外国人が日本のお祭りに参加して不思議に思うことの一つに、「節度をもって乱れる」というのがあるのだそうです。

お祭りが最高潮に達し、みんなで飲めや歌えと騒いでいたと思ったのに、ある程度の時間になったら帰って行く。その理由を問うと「明日の仕事があるから」と答える。

私たち日本人からすれば当然のことに思えますが、「今」を楽しんでいるはずなのに「明日」を心配することが、彼らには理解しがたいようです。

私は、「お祭りを楽しんだせいで翌日の仕事ができなくていい」などとは思いませんが、このエピソードから学べることがあります。

よく、「将来のために今を我慢すべき」というストイックな考え方をする人がいます。とくに、起業を目指している若者に多く見られます。

その将来の目的が明確になっているならまだしも、「今を苦労して我慢していれば、将来はいいことがある」と漠然と考えているのなら、その思考はさっさと捨てましょう。

それは人生に立ち向かっているようで、実は現実から顔を背けているだけなのかもしれないということに気づいてください。

人生は今日という日の積み重ねです。「苦労」した日が続いた 1か月は、苦労の 1か月です。その 1か月が続いた 1年は、苦労の 1年です。その 1年が続いた一生は、苦労の一生でしかありません。

人生設計をしっかり立てることは大事です。しかし、それは「まだ来ぬ未来」にこそ自分の人生の価値があると思い込むことではありません。

「今」を充実させる一日一日を積み重ねていくということです。10年後のあなたは、今つくられるのです。このことを、常に忘れずにいてください。

「勝手な想像」でストレスをためない

私は仕事柄、経営者から若手のビジネスパーソンまでたくさんの人たちと接する機会があります。そこでわかるのは、どういう立場の人であれ何らかのストレスを抱えているということです。

なかには過剰なストレスによって不安神経症やうつ病に悩む人も少なからずいます。「今」を充実させるには、ストレス解消は重要なテーマです。

ストレスの発生は、出来事と直結していると思われがちです。しかし、実は「出来事 ストレス発生」ではなく、「出来事 個人の認知 ストレス発生」というように、その人が出来事をどのようにとらえるかという「認知」が間に入ります。

この認知がゆがんでいると、些細な出来事を過剰にネガティブにとらえ、自分で勝手にストレスを増大させてしまうことがあるわけです。認知のゆがみは、もともとネガティブな感情が強い人のみに起きるのではありません。

人の感情は常に一定ではなく、普段は物事を前向きに考えられる人でも、疲れていたり余裕がなかったりするとイライラ、クヨクヨして普段の認知とは大きく違った否定的なとらえ方をすることがあります。

「上司は陰で自分のことを悪く言っているのではないか」「あの人は私とは相性が悪いような気がする」「取引先の担当者に嫌われたらどうしよう」 実際には何もトラブルは起こっていなくても、人は妄想でネガティブワールドをつくりあげます。

そのうち、現実に起きていることと妄想の区別がつかなくなり、妄想こそ事実だと思い込みます。すると、世界は不安なことや嫌なことだらけ。これでストレス知らずでいろというのは無理な話です。

では、そうならないために私たちは何をしたらいいのでしょうか。それは、出来事や物事の「ありのままを見る」ということに尽きます。この、ごくシンプルな行動だけが、あらゆる問題を解決してくれます。

目の前のことを、ただありのままにとらえるということができるだけで、ストレスや苦しい感情の多くの部分が解決します。

「メディテーション」の習慣を身につける

ありのままの現実を客観的に受け止める試み、それが「マインドフルネス」です。マインドフルネスでは、過去や未来ではなく「今」「現実」にフォーカスすることに徹します。

常に「今起きていること」のみに意識を向けるように心がけると、出来事や物事をよけいな色眼鏡をかけて見ることがなくなり、むやみに自分を追い詰めることをしなくてすみます。

マインドフルネスの状態に自分を持っていく手法はさまざまあります。なかでも、 10年後のあなたのために、身につけておいて損はないのが「メディテーション」です。

日常的にメディテーションを取り入れている人は、世界的な成功者にも多くいます。

前出の故スティーブ・ジョブズ氏、米国の元副大統領でノーベル平和賞を取ったアル・ゴア氏、京セラ、 KDD Iの創業者で破綻した日本航空を立て直した稲盛和夫氏、経営の神様と呼ばれた故・松下幸之助氏、サッカー日本代表の長谷部誠選手など、数え上げたらきりがありません。

一般の人間からすれば、有名な成功者には鬱屈や煩悩など微塵もないだろうと思ってしまいますが、彼らとてストレスと無縁なわけではありません。むしろ、一般人には想像もつかないようなストレスを抱えているのではないでしょうか。ここで大事なのは、成功者たちは心の問題を放置しなかったということです。

だからこそ、今日の彼らがあると言えるでしょう。

精神面で何らかの不都合が起きたときに、それをどう解決するか積極的に情報を集め、その中から、たとえばメディテーションという行動を選んで実行する。こうしたセルフマネジメントこそ、彼らに大きな成功をもたらしたのでしょう。

ストレスから逃げるとさらに大きなストレスになる

「ストレスなんていちいち気にしてたら、やってられないよ」 完全にストレスから解放されるのは不可能だから、対処すること自体をやめてしまおうという意見も一部にはあります。

「根性」があれば、どんなことでもなんとかなるというわけです。年齢の高い人ほど、そういう傾向が見られます。しかし根性でなんとかなったのは、日本が高度成長期にあった頃までです。

グローバル社会にあって世界は複雑に入り組み、必要でないものまで含めて情報の波が私たちを襲っています。子どもが子どもらしくいられないから陰湿ないじめが起き、自殺事件にまで発展しているのです。

それと同じように、誰もが自分らしい自分でいられない局面がたくさんあるのが現代社会です。こうした時代に旧態依然とした根性論で乗り切っていこうとすれば、事態は悪化するばかりでしょう。

成功したい、幸せに過ごしたい、お金を稼ぎたい……。どんな欲求であるにしろ、それをかなえるためには心身の健康が必要です。

そして、現代社会において心身の健康を保持するためにはストレスコントロールが必須なのです。これまで、さまざまなストレス解消法が提唱されてきました。

スポーツ、旅行、買い物、友人とのおしゃべりなど、あなたもいろいろやってみたことでしょう。外に向かって発散するそうした方法も悪くはありません。しかし、最も重要なのは自分との向き合い方です。

行動科学マネジメントと根っこを同じにする認知行動療法でも、ストレスから逃げるのではなく、そのおおもとを見つめ行動することにより根本的な解決を図ろうとしています。

認知行動療法がうつ病などの治療法として多く取り入れられるようになったのは、「行動を変えることで心の困った事態を解決に導くことができる」と科学的に実証されたのだと言えるでしょう。

心の困った事態は、あなたが弱いからとか意気地がないからという原因で起きるのではありません。まるで根性の問題であるかのように曖昧なとらえ方をしていたことに大きな間違いがあります。現実を見て行動を起こす。これが、どんな問題も解決する唯一無二の方法です。

目先の快楽に打ち克つには

禁煙したいのに「もらいタバコ」をしてまで吸ってしまう。ダイエットしたいのに食事を減らせず間食までしてしまう。英会話を身につけたくて教材を揃えたのに少し聴くと飽きてやめてしまう。私たちは、自分の願望をかなえるのとは逆の行動をよくとります。

なぜなら、タバコを吸えば一時的にリラックスできます。おいしい食べ物は確実に満足感を与えてくれます。英会話の教材を聴くのをやめれば、聴くために強いられる我慢から解放されます。私たちは目先の快楽に弱いのです。

では、もし目先の快楽に勝利して願望をかなえることができたら、あなたは、そしてあなたの生活はどのように変わるでしょうか。

禁煙できれば健康上の不安をぐんと減らすことができます。無駄なお金を使わなくてすみますし、歯の汚れや口臭なども減らせます。

ダイエットに成功すれば、美しい外見を手に入れることができ、生活習慣病を予防できます。やせて魅力的になった自分を、今よりずっと愛することができるでしょう。

教材を聴いて英会話の習得に成功すれば、やりたかった大きな仕事が回ってくるかもしれません。

自分は英語が話せないという引け目がなくなり、自信を持って行動できるようになるので、仕事全体のパフォーマンスも上がるでしょう。

「こうしたい」「こうなりたい」をかなえれば、ちょっと考えただけでもこれほどのメリットが生まれます。そのメリットにもっと着目しましょう。

認知のゆがみによる被害妄想はいただけませんが、目先の快楽に打ち克ったときのことは大いに妄想して結構です。

「自分はこんなに素敵になっている」という姿を思い浮かべ、紙に書いてみましょう。そしてそれを何度も眺めてみましょう。

目先の快楽に打ち克つには、「人間は続けるのが苦手なのだ」ということを充分に理解したうえで(つまり続けられない自分を責めるのではなく)、続ける仕組みを用意するのが一番です。

「不足行動」か「過剰行動」かを見極める

あなたが継続したいと思っている行動は、二つのパターンに分けることができます。

一つは、英会話学習やランニングをするなどの「不足行動を増やす」パターン。「 ○ ○をやればいいのはわかっているのにできない」というケースです。

もう一つは、タバコや過食などにストップをかける「過剰行動を減らす」パターン。こちらは、「 ○ ○をやめればいいのはわかっているのにやめられない」となります。

行動科学マネジメントでは、増やしたい不足行動と減らしたい過剰行動を合わせて「ターゲット行動」と呼びます。

ダイエットのためのランニングや英会話習得のための勉強といった不足行動がなかなか増えないのは、それらが、長く続けなくては成果が見えないからです。

そのため、目先の快楽に負けやすいのです。このときの「目先の快楽」を「ライバル行動」と言います。

たとえば、早朝ランニングに行こうと思っているときの心地よい朝寝。勉強しようと思っているときの好きなテレビ番組。

なかなか結果が見えない「不足行動を増やす」という作業よりも、ベッドに潜り込んだり、テレビのスイッチを入れたりするほうを人は選んでしまいがちです。

一方の「過剰行動」は、ライバル行動と似ています。

喫煙や過食、ギャンブルなど、将来の自分にデメリットがもたらされることがわかっているのに、目先の快感がすぐに得られるからやめられなくなってしまうのです。

あなたのターゲット行動は、足りないから増やしたい「不足行動」でしょうか。それとも不要だから減らしたい「過剰行動」でしょうか。まずそれを明確にしましょう。

そこから、 10年後のあなたのために、今のあなたを変えていきましょう。

「ABCモデル」でアプローチする

さて、ここで、あなたのターゲット行動について第 1章の「 ABCモデル」に当てはめて考えてみましょう。

できれば紙に書き出してみてください。

C(結果)については、いいものも悪いものも出してみましょう。

たとえば、過剰行動の代表格である「タバコを吸う」の場合、「食後には一服する習慣がある」「常にタバコを携帯している」「同僚に一服しようと誘われる」といった、さまざまな A(先行条件)が見つかるでしょう。

そして、 C(結果)についても「リラックスする」「吸ってしまって後悔する」など人によっていろいろ考えられます。

不足行動の一つ「ランニングする」ならば、「健康診断で異常を指摘された」「太ってスーツが入らなくなった」「友人に一緒に走ろうと誘われた」といった A(先行条件)があり、「走ったらスッキリした」「やせた」「健康になった」「疲れた」などの C(結果)があるかもしれません。

こうして、まずはあなたの状態を客観的に観察します。そのうえで、あなたのターゲット行動が減らしたい行動、すなわち過剰行動である場合、まず A(先行条件)を取り除き、行動を起こしづらくさせる必要があります。

たとえば、「タバコを吸う」という過剰行動を減らしたいなら、タバコは買わないし携帯しない、家の灰皿は捨てる、愛煙家のそばに行かないといったことをします。

しかし、 A(先行条件)よりも影響力を持つ C(結果)をそのままにしておいたら、また吸ってしまいます。

タバコを吸うことで「リラックスできる」というすぐに得られるいい結果を経験しているため、人からもらってでも吸おうとします。

そこで、「リラックスできる」という C(結果)を得られる「代わりの行動」を用意します。これを「チェンジ行動」と言います。

リラックスできるほかの行動、「お茶を飲む」「深呼吸する」「メディテーションする」などなど何でもいいですから自分なりのチェンジ行動を持ちます。

そしてもう一つ、「行動しなかった場合の C(結果)」にも目を向けましょう。タバコを吸わなければ「健康になれる」「お金も貯まる」「人から嫌がられない」ない」といったメリットを強く意識して、よけいな行動をやめていきましょう。

一方、ターゲット行動が増やしたい行動、すなわち不足行動である場合は、喫煙など過剰行動のときとは逆に、 A(先行条件)をどんどん設定して、行動できる確率を高めます。

たとえば、「ランニングする」という不足行動を増やしたいときは、「カッコいいシューズを買う」「走るのが楽しくなるようなコースを見つける」「好きな人を一緒に走ろうと誘う」などによって、ランニングをする動機づけを積極的に行うのです。

また、不足行動を増やしてもなかなか出ないいい結果に代えて、すぐに手にできる目先の快楽を用意しておくことも重要です。

「走り終えたときに飲むためのおいしいドリンクを用意する」「シャワーを浴びるときにいい香りの石鹸を使う」などというご褒美によって、不足行動を継続させていきましょう。

「ストレッチ目標」はかえって自己評価を下げる

システムエンジニアとして会社から期待されていた 30代の男性がいます。仮に Iさんと呼ぶことにしましょう。なぜ「期待されていた」と過去形にしたかというと、うつ病になって退社してしまったからです。

もともと人よりも機械が好きな Iさんは、入社して数年は仕事が性に合っていきいきと働いていました。ところが 20代後半で部下を持ってから、悩みが多くなりました。

部下をどう育てていいかわからず、部下はもちろん、上司とも衝突することが増えました。こうした場合、行動科学マネジメントでは、 Iさんにできる小さな行動をとってもらうことから始めます。

たとえば、社内では大きな声で挨拶をするといったようなレベルでいいのです。ところが Iさんは、自分を大きく変革したいとあせり、会社帰りにはセミナーや勉強会に通い、自らを追いつめました。

そんなある朝、会社に行こうと玄関で靴を履いていたら涙が止まらなくなり、自分でも「これはまずい」と病院に向かいました。二人の子どもを持つ主婦の Kさんは、ダイエットに励んでいました。

無神経な夫から、「ずいぶん太ったなあ」と言われたのがきっかけでした。夫を見返してやろうと無理な減量計画を立て、 1か月に 3キロペースで落としていきました。夫は仕事が忙しく、家で夕食を食べるのは週末ぐらい。だいたい、いつも二人の子どもと Kさんで食卓を囲みます。

育ち盛りの子どもたちはガツンとしたおかずを欲しがるため、 Kさんは自分だけ別のダイエットメニューを用意していました。その日も、子どもたちは旺盛な食欲を見せ、食べたいだけ食べて食後はスマホをいじり始めました。子どもたちとしては、いつもと同じようにしただけです。

しかし、 Kさんの中で突然、何かが切れてしまいました。「いいかげんにしてよ! 少しは片づけなさい」 子どもたちを怒鳴りつけると、油だらけのお皿を床に叩きつけたのです。

そのときの子どもたちの驚いた顔に、さらに Kさんは傷つきました。おそらく、 Iさんも Kさんも、自分がどれほど無理をしているか気づいていなかったのでしょう。

どれほど立派な目標を立てようと、途中で挫折したら、かえって自己評価を落とすだけです。目標を達成したり、自分を変える過程における鉄則は、決して無理をしないことです。長く染みついた行動習慣を変えるには時間がかかって当然。焦りは禁物です。

今、多くの企業で従業員にストレッチ目標を強い、個人もまた自分にストレッチ目標を課す傾向にあります。「ストレッチ目標」とは、思い切り背伸びをしてやっと手が届くくらいの高い目標のことです。

しかし、行動科学マネジメントではストレッチ目標を安易に用いません。背伸びは数回はできたとしても、必ず限界が来て倒れてしまうからです。

引っ張りすぎて切れてしまったゴムひもは、二度とゴムひもの働きができません。自分を引っ張りすぎない目標設定が大事です。

もし、無理な目標設定をしているとしたら、「こうあらねばならない」という世間一般の物差しに自分を当てはめようとしている可能性があります。

本来、無理をしたいと思う人はいません。それなのに、世の中の価値観に合致しなければいけないと思うのは、認知のゆがみにほかなりません。

自分軸で無理をすることなく少しずつ変わっていってこそ、その変化が定着します。

本気で自分を変えたいのなら、周りの価値観に左右されず、本当に自分がやりたいと思うことだけを少しずつ進めていくことが重要なのです。

「数値化できないもの」は行動ではない

そもそも、ストレッチ目標は、曖昧でいるからこそ立てられるのです。今の自分を明確に把握できていたら、その自分に最も適した目標設定しかできないはずです。

漠然と「変わりたい」と考えているから、適当に 2割増しや 3割増しの目標を立ててしまう。まさに「丼勘定」をしていることになります。何事につけ、もっと正確な「数値」を用いましょう。数値ほど信頼できるデータはありません。

第 4章の「 MORSの法則」で説明したとおり、行動科学マネジメントでは、数値化できないものは行動と認めていません。

たとえば、社内コミュニケーションを図るための挨拶を増やしたいと考えたとき。「もっと積極的に挨拶しよう」などというのでは、曖昧過ぎます。

1日に何回挨拶すればいいのか、今より何回増やせばいいのか、数値で示してこそ誰もが同じように理解でき、同じように行動できます。

ある営業主体の企業で、新入社員の挨拶が問題になったことがありました。

「毎朝、出社したら元気に挨拶しろ」 これが部長の指導でした。ところが、みんなうつむきがちで小さな声しか出しません。営業という仕事柄、挨拶は重要であり、部長は困り果てました。

しかし、この部長の指導こそ曖昧なのです。「元気に挨拶しなさい」の元気とは、いったいどの程度のものなのかが新入社員にはわからないのです。だから「元気がない」と言われて、今度はやたらと大声を出す人も出てきました。

そこで、この企業がとった策は、音声量を機械で測定するというものでした。理想とする音声量の範囲を「デシベル」で具体的に示し、各人に自分の挨拶音声を測定させました。

それによって求められている「元気な挨拶」を全員が理解し、確実にできるようになったのです。

あなたが自分に求めていることは、数値にしてどのくらいのことなのでしょう? そして今のあなたは、数値にしてどのくらいの位置にいるのでしょう? 毎日、無理なくできることは、数値にしてどのくらいですか? 信頼できる数値で把握することは、いい行動を習慣化するために非常に重要です。

自分が目標に向かって変化しているかどうか自信が持てなくなったら、数値で客観的に現状をとらえ、次に打つ手を検討していきましょう。

失敗したときの三つのスタンス

人間に失敗や挫折はつきものです。それを「想定外」にしてはいけません。失敗や挫折を「受け入れがたいもの」と考えるから不要な落ち込みに見舞われるのです。

あなたが「自分を変えよう」「目標を達成しよう」と頑張ってきたのに途中で困った状況になったら、傷つくのではなく、そうなった理由を論理的に分析してください。

できれば紙に書き出してみましょう。

せっかく 3か月も禁煙が続き、「今度こそいけそうだ」と思っていたのに、飲み会の席で隣の人のタバコを 1本もらってしまった。それをきっかけに 1箱買って、 1日で空っぽにしてしまった。

こんなとき、多くの人が「オレはダメな人間だ」と自己批判をします。その自己批判はたいてい投げやりなものです。

「この反省を生かして二度と吸うまい」ではなくて、「どうせ吸ってしまったんだから、禁煙はあきらめよう」となるのです。

おかしな話だと思いませんか? 原因はたった 1本のタバコにあります。飲み会で 1本もらいタバコをしたことがいけなかったのです。だとしたら、これからは喫煙者の隣には座らないなど、もらいタバコができない環境を整えればいいだけの話です。

食べ過ぎにストップをかけたいのに、よく会う友人からいつも食べ放題の店に誘われていたら、それはとても難しくなります。

自分と相談し、「今は自分を変えることが第一義だ」という結論に至ったら、その友人に理由を話して、会うのをしばらくやめることも必要でしょう。

いい行動を習慣にしたかったら、それができる環境をつくりましょう。

先日、金融機関で働く女性からこんな相談を受けました。「仕事のためにどうしても取得しなければいけない資格があり、平日の退社後も週末も勉強をしているのですが、どうしても眠くなってついベッドに入って寝てしまうんです。本当に私って意志が弱くて……。いったいどうすればいいでしょうか」

「困った状況が起きたら、その理由を論理的に分析する」という原則に従えば、解答は明らかです。勉強しているときに、ベッドがある環境に自分を置いているからいけないのです。

家を出てカフェや図書館で勉強をすればいいだけのこと。私がそう答えると、彼女は目から鱗が落ちたという顔をして言いました。

「どうして、そんな単純なことに気づかなかったんでしょう」 繰り返しますが、どんなに困難な状況でも「自分はダメだ」と思うだけではまったく意味がありません。

いたずらに自分を卑下するのは認知がゆがんでいるからです。

冷静で客観的な状況分析によって解決策を探り、それを実行すれば、根拠のない認知のゆがみに陥ることはありません。

「感情的にならず論理的に」「主観的でなく客観的に」「抽象的ではなく具体的に」 落ち込みの堂々巡りにハマりそうになったら、常にこの三つのスタンスで考え、対策を練りましょう。心が整い、やるべきことに集中できます。

アクシデントに強い人になるには?

人生には、思ってもみなかったことが降って湧いたように起きることがあります。

機械メーカーに勤める Nさんは、大切な商談で地方都市の取引先に向かうため、羽田空港にいました。ところが搭乗手続きをすませてしばらく経ったとき、アナウンスが流れました。

機材トラブルのため便が欠航になるというのです。掲示板を見ると、その地方都市に向かう次の便は 2時間も先です。Nさんは焦りと怒りのあまり、カウンターに駆け寄って女性係員に言いました。

「機材トラブルってどういうことなんだ。こっちは大事な仕事抱えてるんだよ。どうしてくれるんだ。航空会社で責任とれるのかよ!」

「大変申し訳ございません。次の便をお取りいただくしか方法がありません」 この言葉に Nさんの怒りは頂点に達しました。

「バカな! それじゃ困るんだよ! 責任者を呼べ、責任者を!」 すごい剣幕に、女性係員は上司の男性を呼びましたが、その回答は同じでした。

とにかく次の便を押さえさせたものの、それでは約束の時間に到底間に合いません。Nさんの怒りは収まらず、ヒステリックに抗議を続けました。

自分で自分の怒りに油を注いでいるようだと感じながらも、そのときは怒りを目の前の相手にぶつけることぐらいしかできなかったのです。

「まったくふざけんじゃねぇよ。機材トラブルってなんなんだ。何で今日に限って!」 2時間遅れで機内に入ってからも、 Nさんはずっと同じことをつぶやき、今日の商談までこぎつけるのにどれだけ苦労したかを思い起こしていました。

「先方になんて謝ればいいか……」 ここまで思いが至ったとき、 Nさんは頭から水を浴びたような気がしました。商談相手に何の連絡も入れていなかったことに気づいたのです。急いで携帯電話を取り出すも、客室乗務員に強い口調で止められました。

「お客様、ただいま電子機器のご使用は固くお断りしております」 今度ばかりは反論もできませんでした。あまりの動揺に Nさん自身が思考停止し、固まってしまったのです。結局 Nさんが電話できたのは、約束の時間を 30分以上過ぎてからでした。

Nさんが着く頃には、相手は別件のため社を出なければならないとのことで、商談は翌日に持ち越しになりました。商談そのものが流れなかったのは不幸中の幸いでしたが、結局 Nさんはまったく無意味に飛行機で往復をすることになりました。

「予定の飛行機が飛ばないとわかった時点ですぐに電話をすればよかった」 Nさんは自分に対して腹を立てるしかありませんでした。

「感情的にならず論理的に」「主観的でなく客観的に」「抽象的ではなく具体的に」 まさに Nさんにはこれらのスタンスが欠けていました。

乗るはずの飛行機にトラブルが発生したことは、たしかに不運でした。しかし、いくら状況を呪っても飛行機が飛ばないという事実は変えられません。

それなのに Nさんは過剰な被害者意識でパニックになり、その後の適切な対策をとることができませんでした。そして自分をさらに混乱、動揺させる激情に呑まれてしまったのです。

これからのあなたにどんなことが起こっても、三つのスタンスを忘れないでください。

このスタンスで物事をとらえられるようになれば、突発的なアクシデントに強くなり、パニックを避けられるでしょう。

心が整えばいつでも事態を打開できる

デザイン会社で働く C子さんは、クライアントとのコミュニケーションが苦手です。もともと人見知りが激しく、黙々と作業することが好きなのでデザインの仕事を選んだのです。

しかし実際に入社してみると、当然ながら社外の人とのやり取りを頻繁にこなさなければなりませんでした。そんな C子さんにとって、今回のクライアントとのつき合いはとくにつらいものとなりました。

案を出してもなかなか OKが出ず、何度やり直しをしても色よい返事がもらえません。それどころか、居丈高な態度で C子さんの仕事の甘さを突いてくるのです。C子さんはすっかり自信をなくしてしまいました。

こうなると、クライアントに連絡を入れようと思っただけで心臓がドキドキし、気分が悪くなってきます。ある日 C子さんは、どうしても電話をすることができず、「まずはお昼を食べてから。そのあとにしよう」と先送りしました。

ランチから帰った C子さんの机にメモが置かれていました。

「L社の ○ ○さんより電話ありました。午前中に連絡を待っていたとのこと。かなり怒っておられるようです」 思い返してみると、たしかに「午前中に」と言われていたかもしれません。

でも、いつもあまりにガミガミ言われるのでパニックになってしまい、相手の言うことをきちんと記憶する余裕が C子さんにはなかったのです。

そのメモを見た C子さんがとった行動は、あり得ないものでした。

上司に相談するなりして事態打開に動けばいいものを、「もうダメだ」と思い込み、そのまま逃げるように家に帰ってしまったのです。

もちろん C子さんは仕事を失いました。そして、会社にもクライアントにも大きな迷惑をかけることになりました。

アクシデントの際にパニックに陥りやすい人は、パニックに陥っていながら自分ですべて背負い込む傾向があります。事態を打開するには、別の視点から物事を見られる人の力を借りるか、自分で別人物の役割を担ってあげる必要があります。

たとえば、あなたがホテルのティールームで取引先の数人と打ち合わせをしているとしましょう。テーブルの上には大事な書類が広げられています。そのとき一人の袖口が水の入ったグラスにひっかかり、グラスが倒れてしまった。

そんなとき、グラスを倒した当人は頭が真っ白になって慌てふためきます。しかしほかの人たちは案外冷静で、ある人は書類が濡れないように持ち上げ、ある人はウェイターを呼び、ある人はハンカチを出し……というように行動し、たいしたことなくおさまるものです。

あなたの場合も、グラスを倒した当人の立場だったらパニックになっても、そうでなければいろいろ助け船を出せるでしょう。あなたには、そういう能力があるのです。

トラブルがあったときは、当人視点から客観的視点にシフトすることで心が整い、「今何をすべきか」が見えてきます。

「すべき」を捨てて「したい」を思い出す

「目標を達成したい」「自分を変えたい」と前向きに生きるのは素晴らしいことですが、人生においては、そんなスタンスでいられないこともあります。

ときには「やりたくない自分」を認めるのも大事なことです。

「自分なりにいろいろやってはみたけれど疲れた。今は何もしたくない」 これも重要なメッセージであり、耳を澄まして聞いてあげる必要があります。

忘れないでほしいのは、「あなたが何を成し遂げたいか、どう変わりたいかは、今のあなたが決める」ということです。

世間の価値観や流行を基準にして、「 ○ ○すべき」と思うことはありません。

あなたが、これまで本当に満足いく人生を実感できていなかったとしたら、そうなれるような行動がとれずにいたからです。

「こんなことをやったら世間の人に笑われるんじゃないか」「もっとみんなが認めることをしなくちゃ」 世間の価値観最優先で、本当にやりたいことをやらず、不本意なことのために一生懸命になっている人は案外多いのです。

取締役を目指さなきゃ。マイホームを買わなくちゃ。結婚しなくちゃ。語学力をつけなくちゃ。

それぞれ本当に自分のしたいことならすべてやればいいのですが、「 ◯◯をしないと世間的に評価されない」などという誤った決めつけは捨ててください。自分のものではない価値観に縛られ、人生を複雑にするのはやめましょう。

あなたは本当は何がしたいのか? あなたは本当はどうなりたいのか? そのシンプルな問いを大事にしてください。

感情を整理してシンプルに行動しよう

思考がシンプルになれば、自ずとストレスは減っていきます。人は自分で認識する以上にいろいろな荷物を背負っており、自分の思考に多くのよけいなものをくっつけています。

あらゆる生き物の中で人間だけが「体はここにあるのに心は別のところにある」という生き方をしており、「心ここにあらず」が常態化することで、たくさんの弊害が生じています。

動物は、獲物が捕りたいなら迷わず捕りに行きます。交尾がしたいなら明確に相手に合図を送ります。それがかなうかどうかは、やる前から考えることではありません。

動物は、いつでも「なりたい自分」に向かっています。変わりたいように変わっているのです。それなのに、最も高等動物であるはずの人間にそれができないとは。

このことだけを見ても、人間ならではの思考のクセが、いかに大きな問題かがわかるというものでしょう。好調なときも不調のときも、「人間は勝手な思い込みをする」ということを忘れないでください。

どうしてもネガティブになってしまうこと。悲観的な妄想をしてしまうこと。

人間である自分には、そうした思考が起きやすいのだということを認識したうえで、日々の中に感情を整理する時間を持ちましょう。座禅でも、散歩でも、何でもいいのです。目を閉じるだけでもいいでしょう。

「今、自分は感情を整理していて、ゆがんだ認知から抜け出し、現実に意識を戻そうとしている」 こう思えれば、それで充分です。

1日の終わりに 5分でもこうした時間が持てれば、かなりのストレスはあなたから遠ざかっていくことでしょう。それをせずに、ゆがんだ認知のままマイナス感情を抱き続ければ、あなたの明日がいいものになるはずがありません。

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