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第 4章 環境

1 人は環境に影響を受ける――グーグルの実験 2 自然を失い、友人を失った人類の末路 3 疲れたらマッサージ?もっといい方法がある 4 孤独だった人に友人ができると寿命が延びる 5 〝偽物の自然〟にもリラックス効果がある 6 私たちの身近にあるパワースポットとは? 7 オランダの実験でわかった自然生活の効果 8 人間の脳は人間関係をつくることが苦手 9 「時間」をかけて脅威システムをオフにする 10 「同期行動」することで絆が深まる 11 友情を育むには「互恵」が欠かせない実践ガイド

1人は環境に影響を受ける――グーグルの実験 2016年、グーグルのニューヨークオフィスで、ある実験が行われました。

研究チームは、チョコやナッツを自由に食べられるスナック置き場を起点に、 2カ所にドリンクバーを設置。

ひとつはスナック置き場から 1・ 8メートルの位置、もうひとつはスナック置き場から 5・ 5メートルの位置です。

その後、約 400人の従業員の動きを記録したところ、ドリンクバーの位置によって明確な行動の違いが現れました。

スナック置き場に近いドリンクバーを使った者は、遠いドリンクバーを使った者にくらべて、お菓子を食べる量が 69%も高かったのです。

研究チームの計算では、体重 81キロの男性が 1日 3回ずつドリンクを飲んだ場合は、 1年で体脂肪が 1・ 1キロほど増える計算になります。

ほんの数メートルの差が無意識の食べ過ぎをもたらし、長期的には大きな肥満につながるかもしれない、というわけです。

ほかにも、グーグルは似たような実験をたくさん行っています。

サラダバーを社員食堂の入り口に置いて野菜の摂取量が増えるかを確かめたり、デザートの食器を小皿に変えたら食べ過ぎが減るかを試したりと、いずれも正当な科学ジャーナルに掲載されるレベルの論文にまで仕上げているから凄いものです。

グーグルは、なぜこのような実験を何度もくり返しているのでしょう? 従業員の健康に気を使っているのはもちろんですが、さらに奥底にある答えは、彼らが「環境」の力を信じているからです。

グーグルの行動経済学部門のクリステン・バーマン氏は、次のように書いています。

「私たち社会科学者は、人々に悪影響をあたえるのではなく、彼らの助けになるように環境を設計していかねばなりません。

そうすれば、私たちはよりよく長い人生を送ることができるでしょう」 ドリンクバーが近いだけでお菓子を食べ過ぎ、入り口に野菜があるだけで健康的な食事の量が増え、食器のサイズを変えるだけで食欲が減る。

これらの現象は、すべて「環境」が私たちにおよぼす影響力の大きさを物語っています。

かくも人類は、「環境」に弱い生き物なのです。

2自然を失い、友人を失った人類の末路 現代の環境と遺伝のミスマッチには、いろいろなものが考えられます。

過剰な人口密度や大気汚染(多すぎる)、微生物との触れ合いや濃密な対人関係の減少(少なすぎる)、近代的なビルやスマホなどの電子機器(新しすぎる)……。

いずれも現代人の不調につながる重要なポイントではあります。

が、そのすべてに対策を取るのは現実的ではないため、この章では現代人への影響が大きい2つの環境に的を絞ります。

それは「自然」と「友人」です。

この2つが、現代と古代で大きく違うことは言うまでもありません。

農耕が始まってから、人類は山を切り開いて森林を削り、土壌の性質を大きく変えてきました。

土地の侵食は数百年にわたって続き、かつての農耕地からは土壌が失われて緑地帯も減少。

北アフリカなどローマ時代に農耕が盛んだった場所は、現在では広大な砂漠地帯と化しています。

18世紀に産業革命が始まると、巨大工場や鉄道が整備されて、都市の風景も激変しました。

それと同時に、かつては総人口の 7割を占めた田舎暮らしが 3割まで減り、逆に全人口の 7割が都市で暮らし始めます。

ここにおいて人類は、数百万年の歴史で初めて自然の景観から切り離された存在になったのです。

緑が豊かな環境に適応してきた人類にとっては、あまりにも異例の事態です。

「友人」にも同じことが言えます。

第 2章でも述べたとおり、狩猟採集民の暮らしは濃密そのものでした。

共同体のなかに「見知らぬ人」などはひとりも存在せず、全員が知り合いか友人といった状態です。

加えて、多くの部族には「他人よりも富を蓄えてはいけない」という掟があるため、個人間の格差や差別などもほぼゼロ。

コンゴとフィリピンの狩猟採集民を調査した 2015年の研究によれば、男女の格差も確認されませんでした。

彼らの労働時間は平均で 1週間に 12 ~ 19時間ほどで、毎日数時間ほど食料探しをしたら、あとは家族や友人たちと踊ったりと、親密なコミュニケーションを日暮れまで続けます。

孤独の問題やコミュニケーション障害が起きるケースは非常にまれです。

そのいっぽう、現代人は孤独をいまもこじらせ続けており、特にここ 10数年は日本での問題が激増しています。

ユニセフが 2007年に行った調査では、「孤独を感じる」と答えた 15歳以下の子供の数は 29・ 8%にものぼりました。

先進国では最高の数字です。

「友人」の問題もまた、長い人類史上で類のない異常事態と見るべきでしょう。

3疲れたらマッサージ?もっといい方法がある

数ある環境のミスマッチのなかから「自然」と「友人」の2つを選んだ理由は他でもありません。

多くのデータにより、その影響が突出して大きいことがわかっているからです。

まずは「自然」の影響度から見ていきましょう。

自然の効果を示すデータで有名なのは、 2016年にダービー大学が行ったメタ分析です。

研究チームは「自然とのふれ合いはどれだけ体にいいのか?」を調べるために、過去のデータから 871人分をまとめて大きな答えを出しました。

その結論をひとことで言えば、「自然とのふれ合いにより、確実に人体の副交感神経は活性化する」というものです。

副交感神経は気持ちが穏やかなときに働き出す自律神経で、日中にたまった疲れやダメージを回復させる働きを持っています。

つまり、自然は人体の疲労を回復する働きを持つわけです。

また、このデータでは「 d = 0・ 71」という効果量も出ています。

効果量は統計手法のひとつで、論文の中では平均値の差を標準化したものを表しますが、ここでは大ざっぱに「自然の癒し効果」を表した数字だと考えていただいて構いません。

一般的には効果量が 0・ 5を超えると「効果大」と判断されるため、「 0・ 71」はかなりの好成績です。

たとえば、自律訓練やマッサージのような定番のリラクゼーション法は、副交感神経の活性レベルが「 0・ 57」だと報告されており、自然とのふれ合いの数値を下回っています。

単純な比較は危険ですが、自然とのふれ合いに体のダメージを癒やす効果があるのは確実でしょう。

自然がここまでの効果を持つのは、人類の「感情システム」に影響を与えるからです。

「感情システム」は人間の心の働きを 3種類に分類した考え方で、次のパーツから構成されています。

・興奮 「喜び」や「快楽」といったポジティブな感情を作り、獲物や食事を探すためのモチベーションを生み出すシステム。

おもにドーパミンで制御されている。

・満足 「安らぎ」や「親切心」といったポジティブな感情を作り、同じ種属とのコミュニケーションに役立つシステム。

オキシトシンなどで制御されている。

・脅威 「不安」や「警戒」といったネガティブな感情を作り、外敵や危険から身を守るためのシステム。

アドレナリンやコルチゾールなどで制御されている。

私たちが最高のパフォーマンスを発揮するためには、3つのシステムがバランス良く機能していなければなりません。

快楽ばかりを追う人生は退廃に至り、安らぎだけの毎日に前進はなく、不安ばかりの暮らしは日々をよどませます。

それぞれがしっかり噛み合ってこそ、人間はうまく機能できるのです。

自然の環境は、3つの感情システムをバランス良く刺激します。

季節のうつろいや草木の変化がほどよい興奮を生み、緑に守られる安心感が心地よい安らぎを生み、森や川に潜む未知の脅威がときに警戒を生みます。

自然のなかにいれば、特定のシステムが暴走することがありません。

ところが、都市の暮らしでは、おもに「興奮」と「脅威」のシステムだけが活性化しやすくなります。

その極端な例といえば、古代ローマ帝国でしょう。

当時のローマは、イタリア半島の属州から莫大な富が本国内に流れ込んでいたため、ローマ市民には食料と娯楽がタダで提供されました。

世界史にいう「パンとサーカスの都」です。

快楽の追求はエスカレートを続け、やがてローマ人たちは、食べたものをいったん吐き出した後、胃袋が空になったところでまた食事を行うようになります。

鳥の羽で喉の奥をくすぐって嘔吐を繰り返しては、キジの脳やフラミンゴの舌といった珍味を貪るのです。

いっぽうで、ローマの暮らしは脅威にも満ちていました。

人口が密集したせいで伝染病に弱くなり、町中に腸チフスやマラリアが蔓延。

蚊が多い 7 ~8月には大量の遺体が路上にあふれ、当時のローマでは夏を「死の季節」と呼ぶほどでした。

さらに、この時代には、定期的な奴隷の反乱や北方のゲルマン人による侵攻が頻発しており、ローマ市民といえども安定した暮らしを謳歌できていたわけではありません。

この点から見れば、古代ローマは歴史上もっとも「興奮」と「脅威」の振れ幅が大きかった時代と言えます。

ここまで極端ではないものの、現代の都市も「興奮」か「脅威」のどちらかに触れやすい性質を持っています。

巨大なショッピングセンターやカラオケなどの娯楽施設がささやかな興奮を提供しつつも、仕事のストレスや経済的な問題によりいつも脅威の感覚がかきたてられ、そのくせ濃密なコミュニケーションが減ったせいで安らぎの感覚は低下傾向にあるからです。

ポジティブな感情が多すぎてもネガテイブな感情が少なすぎても、私たちの体はうまく機能しません。

そのためには、できるだけ自然とのふれ合いを取り戻し、失われつつある感情システムのバランスを正していくべきなのです。

4孤独だった人に友人ができると寿命が延びる「友人を大切に」と言われれば、古臭い道徳訓のように響くかもしれません。

しかし、ここ数年のデータは、いずれも良好な人間関係がもたらすメリットをはっきりと示しています。

代表的なのは、ブリガムヤング大学による 2010年のメタ分析です。

研究チームは、過去に行われた「孤独と健康」に関する研究から 31万人分のデータを精査し、人間の寿命を延ばす効果が高い要素を抜き出しました。

その結果は、「良好な社会関係」の数字がずば抜けており、孤独だった人に友達ができた場合は最大で 15年も寿命が延びる傾向があったとのこと。

健康への効果はエクササイズやダイエットの約 3倍に当たり、なんと禁煙よりも「友人」のほうが影響が大きいというから衝撃的です。

もうひとつ興味深いのが、ハーバード大学が行った「成人発達研究」です。

これは 1939年からスタートした研究で、約 80年間にわたって 724人の人生を記録し続けたもの。

全員が 10代の学生だったころから調査を始め、定期的に体調や幸福度を尋ねるのはもちろん、かかりつけの医者からカルテを手に入れたり、家族との会話をビデオで収めたりと、膨大な労力が注ぎ込まれ

ました。

参加者の行く末は幅広く、弁護士や医者になった者、サラリーマンや工場労働者になった者、ボストンのスラム街でホームレスになった者まで様々。

彼らの多様な人生をすべてパッケージ化したうえで、「人間の幸福にとって最も大事なものとは?」の答えを数字で割り出したわけです。

研究のリーダーであるロバート・ウィルディンガー教授は言います。

「彼らの人生から得られた、何万ページにもなる情報から明らかになった事は何でしょう? それは富でも名声でもがむしゃらに働く事でもありません。

私たちの体を健康にし、心を幸福にしてくれるのは『良い人間関係』です。

これが結論です」 考えてみれば当然でしょう。

いくら富や名声を得ようが、病気にならない完璧な肉体を持とうが、人類の3つの感情システムは最適化されません。

身近な人たちとの関係が悪ければ「満足」の機能は活性化されず、手に入れたものはすべて無に帰すはずです。

もしあなたが幸福よりも富や名声を追うタイプの人間だったとしても、良い友人の重要性は変わりません。

「成人発達研究」のデータでは、人間関係が悪い人にくらべて、良い友人が多い人は 3倍も仕事で成功しやすく、年収も高い傾向が見られたからです。

再びウィルディンガー教授の発言を引きましょう。

「良い人間関係は私たちの脳も守ってくれます。

周囲との良い関係を 80代までキープできた人や、何か困ったときに助けを求められる相手がいる人は、はっきりした記憶を長く持ち続けられます。

しかし、困ったときに頼る相手がいないと、早い段階で記憶力が低下し始めるのです」 孤独から来る炎症で体調が崩れ、さらには脳の機能まで衰えてしまうのだから、仕事のパフォーマンスが下がっていくのは当たり前の話。

幸福、富、名声、健康は、すべて人間関係の土台があってこそです。

最新の科学からみれば、「自然を大事に」や「友人を大切に」といったフレーズは、古臭いお説教などではありません。

遺伝と環境のミスマッチが起きた現代においては、「自然」と「友人」への投資こそが、もっとも費用対効果が高い行為なのです。

5〝偽物の自然〟にもリラックス効果がある もっとも、いくら自然が体にいいと言っても、現代人が急に「森の生活」を始めるわけにもいきません。

いまの暮らしの範囲内で、できるだけ自然を取り入れていく方法を模索するのが現実的でしょう。

果たして、自然のメリットが得られる最低ラインはどこにあるのでしょうか? スタートとして効果的なのは、「自然音」または「自然画像」です。

川のせせらぎ、木々を吹き抜ける風の音、雄大な森林の映像、波が押し寄せる海の光景など、種類はなんでも構いません。

まずはデジタルのデータを使い、スピーカーやモニタ越しに自然との接触回数を増やすのです。

狩猟採集民とくらべればささいなものですが、これがどうしてバカにできません。

自然に飢えた現代人の脳には、たとえ偽物の自然でもかなりのインパクトがあることがわかっています。

たとえばアムステルダム自由大学の実験では、 60人の学生に複雑な数学の問題を解かせて精神的なストレスをあたえた後、半分には緑が豊かな公園の写真を 5分だけ見せ、残りには一般的な都市の光景を眺めるように指示。

それから全員の自律神経を計測したところ、公園の写真を見た学生は 2倍も副交感神経が活性化し、心拍数も有意に低下していました。

自然の写真を 5分ほど眺めるだけでも、かなりのリラックス効果が得られるようです。

また、自然の写真ほどではないものの、自然音についても研究が進められています。

2017年にサセックス大学が行った実験では、風の音や虫の声を 5分 25秒ほど聞いた被験者は、車のエンジンやオフィスのざわめきを聞いたときよりも、有意にリラクゼーション反応が起きていました。

まずは PCやスマホの壁紙を森や海の風景に変え、通勤電車の中では風や潮騒の音を聞くのが、いまの暮らしに自然を取り込むはじめの一歩になります。

自然の写真と音声で副交感神経が鎮まったら、次のステップです。

ここからは、一歩進んで「観葉植物」を取り入れてみましょう。

やはり狩猟採集民の暮らしにはほど遠いものの、こちらも多くのデータで効果が示唆されています。

ノルウェーで行われた実験では、 385人のオフィスワーカーの年齢や仕事内容といった因子をコントロールしたうえで重回帰分析を行ったところ、はっきりとした違いがみられました。

デスクの上に観葉植物を置いた従業員ほど主観的なストレスが低く、病気で会社を休む回数は少なく、仕事の生産性まで高い傾向が見られたのです。

このような現象が起きる理由には諸説あるものの、 1998年のデータでは観葉植物の近くで働くオフィスワーカーは肌荒れが減ったとの報告も出ており、やはり副交感神経の活性化によって体内の炎症が治まったのが大きいようです。

さらに嬉しいことに、観葉植物には幸福度や集中力を上げる効果も確認されています。

350人のオフィスワーカーを対象にしたある実験では、観葉植物を前にしながら作業をした被験者は幸福感が 47%アップし、作業の効率が 38%も上がったそうです。

これは、観葉植物のおかげで作業中の緊張がやわらいだために起きる現象で、心理学の世界では「注意回復理論」と呼ばれます。

これほど手軽で生産性が上がるテクニックも珍しいでしょう。

身近に置く観葉植物の種類はなんでも構いません。

多くの実験ではポトスやドラセナを使うのが定番ですが、基本的には自分が好きな植物を選べばいいでしょう。

ただし、ここでは観葉植物選びの参考として、 1989年に NASAが行った「クリーンエア研究」のデータを紹介しておきます。

これは、観葉植物の空気を清浄化する働きを調べたもので、一部の品種には、ベンゼンやホルムアルデヒドといった大気中の有機化合物を吸い取る作用が認められました。

つまり、観葉植物は天然の空気清浄機としてシックハウスの対策にも使えるわけです。

植物の清浄効果を高めるには、およそ 10平方メートルごとに直径 15 ~ 20センチの鉢植えを 1個置くのがベストです。

6私たちの身近にあるパワースポットとは? 観葉植物を取り入れたら、続いて3つめのステップです。

さらに自然との接触を増やすために、今度は「公園」を積極的に活用しましょう。

仕事のあいまに公園で休憩を取る人は多いでしょうが、その効果は多くのデータでも確認されています。

クイーンズランド大学が 2016年に行った研究では、 1538人のオーストラリア人を対象に、全員が 1年のあいだに公園などで自然と触れ合った量を調べたうえで、鬱病や高血圧の発症率とくらべました。

そこでわかったのは、思ったよりも簡単に自然のメリットが得られるという事実です。

具体的な数字を紹介しましょう。

・鬱病の場合は、週に 1回 30分ほど自然のなかにいれば、自然とのふれ合いがない人にくらべて発症リスクが 37%も低下する ・高血圧の場合は、週に 1回 30分のラインを超えたあたりから症状が改善していく これらの数値は自然の接触時間とほぼ連動しており、公園に行けばいくほど心と体は改善していきます。

エビデンスの質はさほど高くありませんが、当面は「最低でも週 1で 30分は公園に行く」のをベースラインにしつつ、少しずつ接触時間を増やしていくのがいいでしょう。

公園で軽く運動をするもよし、のんびり読書にいそしむもよし。

1日のリラックスタイムの数分を公園で過ごしててみてください。

ちなみに、公園や森林は、腸内フローラの改善にも重要な役割を果たします。

緑が多いエリアには、空気中に有用な微生物が漂っているからです。

3章『 2 衛生的な生活が免疫システムを狂わせる』でも紹介したグラハム・ロック博士の言葉を再び引きましょう。

「自然の大気には大量の微生物がふくまれており、空気中で代謝と増殖をくり返している。

花粉のような微粒子が微生物を運んでいるからだ。

大気中の微生物は、わたしたちの呼吸器から体内に入って腸へ向かい、免疫システムに影響をあたえる」 自然の大気を吸い込むだけでも、わたしたちの腸内環境は改善していきます。

自然のなかで過ごすと体調が良くなるのは、腸内環境が正常化したおかげも大きいのでしょう。

まさに公園こそ、科学的に正しい「パワースポット」なのです。

7オランダの実験でわかった自然生活の効果 ここから先、どこまで日々の暮らしに自然を取り込むかはあなた次第です。

キャンプ、釣り、トレイルランニング、山登り、トレッキングなど、自然とふれ合うアクティビティを増やすほど、あなたの体内の炎症は鎮まっていきます。

いまの研究レベルでは「どれぐらい自然のなかで過ごすのが最適か?」という疑問に答えは出せないため、最終的には自分のライフスタイルを崩さない範囲で、自然との接触レベルを最大化していくのが答えになるでしょう。

その一例として、 2016年にドイツのセバスチャン・シュワルツ博士が興味深い実験をしています。

健康な 13人の男女ををドイツの森林公園に送り込み、 3泊 4日だけ旧石器時代に近い暮らしをさせたのです。

・スマホやパソコンなどの電子機器はすべて没収 ・朝食は抜いて昼過ぎに根菜類・フルーツ・ナッツなどで軽い食事 ・夜は野菜を中心に加熱調理した肉を食べる ・睡眠は必ず 8時間より多く取る いかにも健康的な暮らしですが、その成果は予想以上でした。

被験者の体重は平均で 7・ 5%減り、内臓脂肪も 14・ 4%改善。

インスリン抵抗性(糖尿病リスクの指標)にいたっては 57・ 8%もの改善を見せていました。

たった 4日の実験としては、驚くべき改善ぶりです。

シュワルツ博士は言います。

「旧石器時代に近い暮らしには大きなメリットがある。

肥満や糖尿病といったメタボリックシンドロームのリスク要因を減らせるのだ。

自己免疫疾患や神経炎症といった現代病は、自然の多いライフスタイルによって治療できるかもしれない」 まだ初歩的な実験ながら、可能なレベルで真似してみる価値はありそうです。

さらに極端な例としては、オランダで行われた実験があります。

研究チームは、 22 ~ 67才の男女 55人を夏のピレネー山脈に送り届け、 10日ぶっ続けでアウトドア生活をしてもらいました。

飲料は自然のオアシスからくんだ水だけを使い、給水のために水場まで毎日 14キロを徒歩。

食料のチキンや魚は生きたまま配給され、被験者は自分で動物をさばいて食べねばなりません。

夜は地べたで寝るように指示され、みんな平均で 7 ~ 8時間の睡眠を取ったようです。

その結果、 10日後の身体検査では平均で体重が 5%減り、インスリン抵抗性は 55%改善、善玉と悪玉のコレステロール比率も 19・ 3%ほど良くなっていました。

やはり素晴らしい数値です。

とはいえ、一般人がここまでハードな作業をする必要はありません。

3泊 4日のアウトドアでも成果は出ているため、おそらく年に 3 ~ 4回、ぜいたくを言えば月に 1回のペースで 3 ~ 5日ほど自然のなかで暮らす時間を作れば、感情システムのメンテナンスとしては十分でしょう。

それだけでも、あなたのパフォーマンスは最大まで引き出されるはずです。

8人間の脳は人間関係をつくることが苦手 世の中には、多くの「コミュニケーション術」が存在します。

「上手にあいづちを打つのが大事」「話し上手よりも聞き上手」「世間話をうまく切り出そう」……。

その科学的な根拠はさておき、これだけのアドバイスが世にあふれている現状は、多くの現代人が人間関係に困っている事実を示しています。

「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」と言ったのは心理学者のアドラー氏ですが、なぜ私たちはかくも他人とのコミュニケーションに悩まされるのでしょうか? それは、もともと私たちの脳が、見知らぬ他人とうまく人間関係を作れるように設計されていないからです。

第 2章でも述べたように、人類は数百万年前から小さな集団のなかだけで生きてきました。

まったくの他人と交流することは滅多になく、周囲には家族か顔見知りしか存在しません。

このような状況で必要なのは、内側に向けた対人スキルだけです。

家族や友人のように自分に好意を持っている相手との仲さえ深めれば良く、それ以外のコミュニケーションは基本的に不要です。

つまり、私たちの頭には、そもそも外向きのコミュニケーション回路が備わっていません。

いっぽう人口の流動性が高まった現代では、外部との交流は日常的なことです。

仕事場で毎日のように初対面の相手と会話したり、知らない人だらけの飲み会に参加したりと、誰もが外側のコミュニティに出て行くことを余儀なくされます。

それなのに、私たちの頭には外向きのコミュニケーション回路が内蔵されていないため、本来は内向き用に作られたスキルセットだけで赤の他人と付き合っていかねばならないのです。

これもまた、現代人を苦しめる遺伝のミスマッチのひとつです。

が、いくら不得意だからといって、孤独感があなたのパフォーマンスを下げてしまうのはすでに見てきたとおり。

現代に生きる私たちは、生まれ持った内向きのスキルセットを活かしつつ、コミュニケーションの問題に立ち向かう必要があります。

なんとも難しい課題ですが、どう対処すべきなのでしょうか? ここで大事なのが、「友人は多ければ多いほどいいのか?」というポイントです。

SNSの発達により、友人の数だけは好きに増やせるようになった現代において、その健康や幸福感のメリットは青天井に増えていくものなのでしょうか? オックスフォード大学の調査によれば、その答えはノーです。

2014年、進化心理学者のロビン・ダンバーは、学生たちの協力を得て全員の電話の通話記録を入手。

彼らの人間関係の変化を 18カ月にわたって追跡し続けました。

そこでわかったのは、ほとんどの学生が、いつも一定のコミュニケーションサイズを維持し続けているという事実です。

たとえば、調査のスタート時点で、ある学生に 5人の親友がいたとしましょう。

彼が日常的にコンタクトを取るのは親友か家族だけで、もし他に「やや格下」の友人がいたとしても、全体のコミュニケーションの 9割は親友との会話に費やされます。

が、ここで彼が大学を出て就職し、職場で新たな親友が 2人ほど加わったらどうでしょう? 彼の友人関係は、そのまま 7人にふくらむわけではありません。

かつての親友から 2人が間引きされ、以前と同じように 5人のコミュニケーションサイズを保ち続けるのです。

ダンバー博士は言います。

「多くの人は、自分のネットワークに新たな友人が加わると、昔のネットワークとはコンタクトしなくなっていく。

親密な関係を維持するためには、多大な認知機能と感情の投資が必要になるのが大きな原因だろう」 ヒトの認知リソースは大勢の友人をさばくようにはできていないため、 1回につき 5人前後としか親密な人間関係を築けない、というわけです。

確かに、タンザニアのハッザ族やパプアニューギニアのキタヴァ族のデータを見ると、たいていの男はいつも 3 ~ 4人の決まったメンバーとチームで狩りに出かけ、あとの時間は妻や子供、両親などとコミュニケーションを取る作業に当てています。

おそらく、これぐらいが親友の上限なのでしょう。

言い換えれば、いくら SNSで 1000人の友達を作っても「満足」の感情システムは活性化されません。

それどころか、自分との比較対象が増えたぶんだけ「興奮」と「脅威」のシステムが優位になるばかりでしょう。

先に挙げたハーバードの成人発達研究でも、ひとりの親友さえいれば孤独がもたらすダメージはかなり下がることがわかっています。

自分にとっての真の理解者をひとりだけ得られれば、それで十分なのです。

それでは、具体的に親密な人間関係を築くためには何をすればいいのでしょうか? 進化のミスマッチという観点からすれば、本当に意識すべきポイントは3つしかありません。

それは「時間」「同期」「互恵」です。

9「時間」をかけて脅威システムをオフにする 第一に重要な要素が「時間」です。

アイオワ州立大学のダニエル・フルシュカ氏は、 2010年のレビュー論文で「良好な友人関係を保つためにはなにが必要か?」を調べ上げました。

個人の性格やコミュニケーションスキル、社会的地位など、人間関係に欠かせない要素のなかから、重要度が低いものを取り除いていったのです。

結果、最後に残ったのは「一緒に過ごす時間の長さ」でした。

「近接の原理」をご存じの方も多いでしょう。

50年以上前に社会心理学者のセオドア・ニューコム氏が発見した現象で、簡単に言えば「人間は近くに住む相手ほど好意を抱きやすい」というものです。

隣県の人よりも隣町の人を、隣町の人よりも隣に住む人を、私たちは好ましいと思う傾向があります。

その理由は簡単で、近くに住むほど接触の時間が増えるからです。

心理学者のロバート・ボーンスタイン氏によるメタ分析では、「特別な刺激がなくても他者と接触する時間を増やすだけで好意は増す」と結論づけています。

つまり、親密な会話を交わしたり、一緒にイベントに参加したりせずとも、シンプルに相手の顔を見る回数が増えただけでも 2人の仲は自動的に深まっていくわけです。

進化の過程を考えれば、当然の現象でしょう。

狩猟採集社会の小さなグループにおいては、わざわざ相手の性格やコミュニケーションスキルを審査する必要はありません。

「どれだけ顔を見たことがあるか?」さえ判断できれば、その時点で相手が部族の一員である証拠が得られ、互いの親密さも判断できるはずです。

そのため私たちの脳は、相手の顔になじみさえあれば、反射的に警戒心を解くように進化してきました。

よく知った顔を見るだけでも感情の「脅威システム」はオフになり、代わりに「満足システム」が起動するのです。

孤独に悩む人にとっては、これほどシンプルな解決策もないでしょう。

もしあなたが内向的で人見知りだったとしても、コミュニケーションに自信がなかったとしても、接触の時間さえ増やせば相手の好意は得られるのですから。

先のメタ分析によれば、この効果の影響が最大になる接触回数は 10 ~ 20回とのこと。

このレベルを達成するまでは、まずは淡々と接触を積み重ねていきましょう。

10「同期行動」することで絆が深まる 次のキーワードは「同期」です。

2016年、オックスフォード大学が「趣味で人間は幸せになれるか?」という問題について調査をしました。

被験者は 40代の男女が 135人で、研究チームは実験のために「中年向けの習い事コース」を創設し、すべての被験者を「合唱クラス」「美術クラス」「創作文芸クラス」のいずれかに割り振りました。

7カ月後、クラスを終えた被験者を調べたところ、おもしろい結果が得られました。

すべてのグループにおいて、人生の満足度、自分に対する肯定感、炎症レベルの低下といった変化が確認されましたが、なかでも「合唱クラス」に参加した人の改善値が飛び抜けて高かったのです。

研究チームは次のように言います。

「合唱クラスの成績が良かったのは、ほかの活動よりも他者との関係を結びやすかったからだろう。

みんなで歌うという行為が、他のグループよりも全体感を高めてくれたのだ」 この現象を、心理学では「同期行動」と呼びます。

その名のとおり他人と同じような動きをすることで、ナチスドイツ軍の一糸乱れぬ行進や北朝鮮で行われるマスゲームなど、集団の結束を高めるために昔から使われてきたテクニックです。

そこまで行かずとも、かつて体育の時間で習ったラジオ体操や組体操なども同期行動の一種に入ります。

信頼感の研究で有名なスコット・ウィルターマウス氏によれば、現代社会で同期行動を活かすには、次のポイントさえ押さえておけば問題ありません。

・全員が近い場所で行うこと ・同じタイミングで同じ行動をすること この2つの条件が合えば、同期行動の内容はなんでも構いません。

ランニングでもいいし、格闘技でもいいし、ジムで集団エクササイズをしてもいいでしょう。

どれを選んでも親密さを高める効果は大きく、正しく使えばピグミー族による祝福の歌となり、悪用すれば独裁国家のマスゲームになります。

11友情を育むには「互恵」が欠かせない 友情を築くための最後のポイントは「互恵」です。

簡単に言えば「好きな相手に利益をあたえること」となります。

プレゼントで好きな異性の気を引こうとした経験は誰にでもあるでしょうが、ここでいう利益はもっと幅が広いものです。

古代社会の友情について考えてみましょう。

人間の認知が処理できる親友の上限が 5人ならば、私たちの祖先は、いったいどんな相手を仲間に選んできたのでしょうか? 普通に考えれば、自分が生き延びる確率を高めるために、様々なスキルに対して分散投資を行ったことでしょう。

狩りが得意な者、火を起こすのがうまい者、歌と踊りが達者な者、健康的な体を持つ者など、なんらかの得意分野を持った仲間が増えるほど、自分の遺伝子を後世に残す比率は高まるからです。

この見方からすれば、現代で有利なのは、お金を持っている者、社会的な地位が高い者、頭が良い者、人間関係のネットワークが広い者などでしょう。

身もふたもない結論ですが、新約聖書にいう「与えよ、さらば与えられん」は世の習い。

友情を育むには利益の与え合いが欠かせません。

この考え方を、心理学の世界では「同盟仮説」と呼びます。

人類が生き延びるためには、いざというときに助け合えるような仲間が欠かせず、そのため私たちは互いの利益になりそうな相手を友人に選ぶように進化してきたわけです。

そう言われると、「相手に与えられるようなものがない人間はどうすればいいのか?」といった疑問がわくかもしれません。

そこまで利益の相互提供が大事なら、財力も特技もない者にはなすすべがないのではないか、と。

それは、大きな間違いです。

というのも、どんな人でも、生まれつき最強の贈り物を必ず持っているからです。

私たちが他者に与えられる最強のプレゼントは「信頼」です。

相手に「こいつは絶対に自分を裏切らない」と感じさせれば、そこには必ず強固な同盟関係が生まれます。

マーク・トウェインが残した「彼は人を好きになることが好きだった。

だから、人々は彼のことを好きだった」という一文は、科学的にも正しいのです。

相手に信頼感を抱かせるには向こうに好意を伝えるのが第一ですが、心理学で重視されているのが「セルフディスクロージャー」です。

これは自分の悩みや秘密を隠さずに打ち明ける行為を意味しており、相手に対して「私はあなたのことを信頼しているからここまで話せるのだ」というシグナルとして働きます。

いかにも当たり前のようですが、実際のコミュニケーションで「セルフディスクロージャー」を成功させている人は多くありません。

いきなり深刻な話をして引かれてしまったり、逆に浅すぎる情報を伝えて退屈されてしまったりと、適度なレベルを守るのは意外と難しいものです。

そこで使えるのが、社会心理学者のゲイリー・ウッド氏による古典的な研究です。

博士はいくつかの実験をくり返し、「セルフディスクロージャー」を効果的に行うための話題を 10種類のパターンにまとめました。

1 お金と健康に関する心配事 2 自分がイライラしてしまうこと 3 人生で幸福になれること、楽しいこと 4 自分が改善したいこと(体型、性格、なんらかのスキルなど) 5 自分の夢や目標、野望など 6 自分の性生活に関すること 7 自分の弱点やマイナス面 8 自分が怒ってしまう出来事について 9 自分の趣味や興味 10 恥ずかしかった体験、罪悪感を覚えた体験 これらの話題は、いずれも適切なレベルのセルフディスクロージャーを促進し、相手の心の「友達ランキング」を上げる効果を持っています。

同盟関係を結びたい相手がいたら、ここから好きな話題を振っていくといいでしょう。

本章では「自然」と「友人」の重要性を見てきましたが、ここで取り上げたフィックスがすべてではありません。

原始人が失いつつある「満足」の感情システムを活性化させるためには、やるべきことは無数に存在します。

ただし、古代の人々がどんな暮らしをしていたかを想像してみれば、大きく道を外すことはないでしょう。

進むべき方向に迷ったときは、周囲の環境から「多すぎる」「少なすぎる」「新しすぎる」のいずれかを探し、できる範囲で調整していけばいいのです。

第 4章 実践ガイド自然・デジタルの自然を増やす: PCやスマホの壁紙を山や海を写した画像に変更。

可能であれば、作業中はノイズキャンセリングヘッドホンを使い、川や鳥の音を聞くようにしてください。

また、 1日に 1回はネットで大自然の動画に触れてみましょう。

・観葉植物: NASAが推奨する観葉植物を参考に好きなものを選び、いつもの作業場や自宅のリビングなど、つねに目に入る場所に置いてください。

観葉植物は多ければ多いほど効果は高くなりますが、何もないよりは、鉢植えを 1個だけでも置いた方が格段にメンタルへの影響が違ってきます。

・公園の活用: 2日に 1回は公園に出かけ、木々の中で最低 10分は過ごしてください。

余裕があれば、 1ヶ月あたりの自然との接触時間を 150分以上にまで伸ばすように意識してみると、さらに大きなメリットが得られます。

・太陽:最適な太陽光の摂取量は住む場所に大きく左右されるので、最低でも 1日に 6 ~ 20分は陽光を浴びる。

夏場は肌が痛むぐらいの日焼けはしないように注意。

・アウトドア:年に 3 ~ 4回はキャンプや山登り、魚釣りなどに行く時間を持ちましょう。

できれば 2週間に 1回は大自然に身を置くことを心がけ、可能な限り摂取時間を増やしていってください。

友人・接触時間:多くの研究では、平均 200時間ほど他人とのコミュニケーションを重ねれば、たいていの人とは深い仲になれるという結論が出ています。

一方で 50時間ぐらいの接触時間だと、どんなに会話がうまくいっても友情は深まりにくいようです。

まずは 200時間を目指して、気になる相手との接触を積み重ねましょう。

・同期行動:ランニングクラブ、合唱部、楽器のサークルなど、だれかと同じような行動を取れるようなコミュニティに参加してみましょう。

こちらも、総計 200時間をめどに参加していくと、周囲との親密度が格段にアップします。

・信頼:ゲイリー・ウッド博士による「効果的なセルフディスクロージャー」(本章『 11 友情を育むには「互恵」が欠かせない』)を参考に、親密になりたい相手と深い会話を行うように意識してください。

「最近お金がなくて‥‥」や「怒りっぽい性格をなんとかしたいんだよね……」など、相手への相談という形で話を振って行くと、自然に親密さを深めることができます。

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