「のどの痛み」は上咽頭の痛み
第 3章で風邪は上咽頭の急性炎症であるとお話ししましたが、風邪のひき始めの症状として「のどの痛み」はつきものです。
この「のどの痛み」ですが、扁桃の炎症がひきおこしていると考えている方が多いのではないでしょうか。
ところが、 IgA腎症の治療のためにすでに扁桃を摘出した患者さんから、「先生、扁桃を取ったのに風邪をひいたらやっぱりのどが痛いよう……。どうして?」と聞かれることがしばしばあります。
確かに、子どもの場合は、風邪によって急性炎症を起こしている扁桃そのものがのどの痛みの原因であることが多いのですが(この場合、しばしば高熱を伴います)、大人の場合はのどが痛くても扁桃に炎症があるとは限りません。
むしろ扁桃に炎症があることは稀だと言えます。
実際、のどが痛いと訴える患者さんに口を開けてもらい口腔内を丹念にのぞいても、痛んでいる部位を見つけられないことのほうが圧倒的に多いのですが、そんなときに医者は「のどがちょっと赤いですね」などとあいまいな説明をするものです。
かくいう私も昔はそうでした。
扁桃には炎症がないのに、なぜのどの痛みは起きるのでしょうか。
実はこの「のどの痛み」こそが、上咽頭の痛みなのです。
慢性上咽頭炎に詳しい杉田麟也先生(杉田耳鼻咽喉科院長)によれば、のどの痛み(咽頭痛)のために来院した患者さんの実に 90%は上咽頭に原因があり、実際に痛みを感じる中咽頭に炎症があったのはわずか 10%にすぎなかったと報告しています(口咽科 23: 23‐ 35, 2010)。
「唾を飲み込むとのどが痛い」と感じた経験は誰にでもあると思いますが、その場合、痛みを感じるのは中咽頭から下咽頭にかけての部分です。
そこで綿棒を用いて中咽頭から下咽頭にかけてあちこち触れても、痛いと感じる部位は見つかりません。
ところが綿棒を上咽頭に入れたとたん、「あっ、そこ!」というように痛みの本丸に行き当たることが多くあります。
そしてそこに塩化亜鉛を塗ってみると、綿棒には血液がつき、強い痛みを感じます。
この血液の付着と強い痛みによってその部位に炎症が起きていることがわかります。
このように痛みの原因である炎症を起こしている部位と、実際に痛みを感じる部位が違う現象を、医学用語では関連痛といいます。
たとえば心筋梗塞を起こすと、左肩や左上腕が痛むことがあるのはよく知られています。
私の患者さんで、のどの奥の違和感が気になって耳鼻科を何件も回ったけれど原因がわからず、「精神的なものではないか」と言われた人がいます。
そこで、その人の上咽頭を綿棒で触ってみると、案の定、「アッ、そこです!」という反応が返ってきました。
これは上咽頭で起きている炎症の関連痛として、中咽頭から下咽頭に痛みを感じている証拠です。
上咽頭の炎症によって生じる関連痛は、のどの痛みだけではありません。
頭痛や肩こりとして起こっている場合も多いのです。
とくに頭痛は風邪のつらい症状の一つですが、これも上咽頭炎の関連痛です。
ひどく肩がこったと感じていたら実は風邪のひき始めだった、という経験をおもちの方も多いと思いますが、これも同じく関連痛で、この関連痛こそが上咽頭炎の特徴の一つであると言えます。
ところで、前章で風邪のひき始めに上咽頭に塩化亜鉛を塗ると劇的に効果があるとお話ししましたが、その理由はもうおわかりいただけるでしょう。
つまり、風邪の原因である上咽頭の炎症を塩化亜鉛で焼いて治してしまうのですから、ウイルスや細菌が上咽頭にとどまっている段階であれば、それ以上、風邪が悪化することはない、ということです。
慢性上咽頭炎の診断方法
これまで免疫システム、自律神経システムを通して、上咽頭の炎症が私たちの体にさまざまな影響を与えるということ、それはまさに健康の状態を測る「リトマス試験紙」のようなものだということをお話ししてきました。
また、上咽頭はつねに炎症を起こしている場所であり、その慢性炎症状態が生理的炎症(リンパ球が戦闘準備の状態)であれば体になんら悪さをしませんが、風邪やストレスなどがきっかけで、いつでも簡単に病的炎症(リンパ球が戦闘状態に入っている)に変わってしまうこともお話ししました。
そして、慢性上咽頭炎を肉眼で確認することの難しさについても、繰り返し述べてきました。
風邪で起こる急性上咽頭炎は、ファイバースコープで上咽頭をのぞくと膿汁や分泌物などがついて、表面が赤く炎症を起こしており、診断は比較的簡単にでき、分泌物を調べれば溶連菌などの細菌が認められます。
ところが慢性上咽頭炎の場合は、ファイバースコープでのぞいても、せいぜい軽度の発赤がある程度で、慢性上咽頭炎を知らない人がのぞいたら、なんら異常は見つけられません。
ところが塩化亜鉛を上咽頭に塗布すると、炎症があれば容易に出血します。
それが診断になり治療にもなると、鼻咽腔炎の治療で一世を風靡した堀口申作氏も自身の著書で書いています。
また堀口氏は、出血した慢性上咽頭炎の人の 80%は自覚症状がなかったことも指摘しています。
ちなみに、慢性上咽頭炎があれば塩化亜鉛を用いなくとも、生理食塩水(体液と同じ塩化ナトリウム濃度 0・ 9%の食塩水)をしみこませた綿棒でこするだけで出血します。
このように慢性上咽頭炎の診断はたいへん難しく、堀口氏が行ったように塩化亜鉛などを上咽頭に直接塗ることしか診断方法がないと思っていましたが、実は外からの触診で「この人には上咽頭炎がありそうだ」と予測をつけることもできることがわかりました。
そのことを教えてくれたのは、前述の杉田麟也先生です。
杉田先生は感染症の専門家として、順天堂大学耳鼻咽喉科医局長、順天堂浦安病院耳鼻咽喉科診療科長を歴任し、 200 5年、千葉県千葉市に杉田耳鼻咽喉科を開業されました。
私は内科医で、咽頭の診療技術は本職の耳鼻科医に遠く及びません。
そこで慢性上咽頭炎診療に実績のある杉田先生の言葉を借りながら、慢性上咽頭炎
の診断方法についてご紹介します。
杉田先生が大学病院で診察していたころは、上咽頭といえばガンができる場所、という認識しかなかったそうですが、いまでは朝から晩まで上咽頭炎、上咽頭炎、上咽頭炎、と診察する患者さんの約 90%が上咽頭に炎症があり、痰が出たり、咳が出たり、のどがイガイガしたり、といった症状を訴えるそうです。
杉田先生が行っている慢性上咽頭炎の診断方法の基本は触診です。
耳の後ろ、専門的には耳下部の胸鎖乳突筋付着部付近(次ページイラスト参照)を人差し指、中指、薬指の 3本でやや強い力を込めて触ると、慢性上咽頭炎がある患者さんは痛みを感じます。
杉田先生はこの痛みこそが慢性上咽頭炎がある証拠であるといいます。
上咽頭に炎症があると耳下部を触ると痛みを感じ、その炎症が強い場合には、触診したときに指先に筋肉の張りを感じますが、これは前ページのイラストのように上咽頭と耳下部は同じ高さにあることが関係しています。
つまり、上咽頭の炎症反応が付近の柔らかい組織にも及ぶために、押したときの痛みや筋肉の緊張が生じるのだと考えられます。
この触診法を使えば、塩化亜鉛を塗布しなくても慢性上咽頭炎の有無が判断できるので、たいへん便利な診断方法だといえます。
加えて、慢性上咽頭炎があるとのどに痛みを感じる患者さんはたくさんいます。
ですから、なかなか取れないのどの痛みがあり、さらに咳が出る(これは上咽頭からの分泌物が下方に流れて気管に入ることで生じます)、のどがイガイガするなどの症状があって、耳の下を押して痛みを感じた場合は、慢性上咽頭炎である可能性が高いと考えられます。
慢性上咽頭炎の治療 ①─塩化亜鉛の塗布
慢性上咽頭炎の有無を診断できたら、次は治療です。堀口氏の時代から、慢性上咽頭炎の標準的な治療は、収斂剤である塩化亜鉛の 1%溶液を直接上咽頭に塗布し、炎症を焼くことでした。
現在、積極的に慢性上咽頭炎の治療を行っている杉田先生も、塩化亜鉛の 1%溶液を用いていらっしゃいます。杉田先生の治療法は、 1%の塩化亜鉛をしみこませた綿棒を約 1分、鼻に差し入れて、薬液がしみ込むのを待ちます。炎症の度合いによりますが、慢性上咽頭炎が存在する場合、綿棒を抜くと血液が付着しています。
その後、咽頭捲綿子に 1%の塩化亜鉛溶液をひたして、口から上咽頭に塗布します(次ページイラスト参照)。この治療を 1週間に 1回行い、最初の短期間だけ少量のステロイド剤を併用しているそうです。
私は臆病な内科医で、自分が行った医療行為により、患者さんが痛がったり出血したりすることには抵抗感があるので、通常の半分の濃度の 0・ 5%塩化亜鉛溶液を使っています。
それでも患者さんの炎症が強い場合は、かなりの痛みを伴います。
杉田先生も、「この治療の欠点は、痛みを伴うことです。けれど、確実に効果があることも事実です。〈もう二度とこの治療をしないでくれ!〉と、すごい剣幕で怒って帰った患者さんが、 1週間後、〈ウソみたいに症状が軽くなった。もっと早くこの治療をすれば良かった〉というほどです。良さがわかれば、その痛みは我慢できるんですね」とおっしゃっています。
このようにすぐに効果を実感できる塩化亜鉛の塗布ですが、本来は毎日行うのがもっとも効果的といえます。
しかし私の外来に来られる患者さんは遠方の人が多く、頻繁に通院することは困難なため、必要な患者さんには同意を得て、 1日 1回(夜)から 2回(朝と夜)に塩化亜鉛 0・ 5%溶液の点鼻をしてもらっています。
点鼻を始めたきっかけは、慢性上咽頭炎の塩化亜鉛点鼻に関する 1960年代の記事を見つけたからです。
点鼻を行うときには、塩化亜鉛の塗布で患者さんがどの程度しみたり、痛みを感じたりするかによって、塩化亜鉛の溶液濃度を 0・ 5%にしたり、半分の 0・ 25%にしたりしています。
もちろん、激しい慢性上咽頭炎がある場合、点鼻も最初はかなりしみますが、続けるうちにだんだんとしみなくなります。しかしいったんしみなくなっても、風邪のひき始めや風邪気味のときに塩化亜鉛を点鼻すると、また強くしみて痛みも感じます。そして、点鼻をすれば、風邪は軽症で済み、治りも早いことは、どの患者さんも指摘しています。
ただし、塩化亜鉛の点鼻は決して標準的な治療ではないことは申し上げなければなりません。
私の外来に来られる患者さんは遠方の方が多く、耳鼻咽喉科で行うような、頻回の塩化亜鉛の塗布が難しいため、やむなく点鼻を行っているというのが実情です。
また改善効果が高い塩化亜鉛溶液の点鼻ですが、注意しなければならない点があります。鼻腔の炎症が強い場合、点鼻をするときに頭を下げすぎると、まれに嗅覚や味覚が低下することがあるということです。
これは、鼻腔奥の上壁に分布する嗅神経が塩化亜鉛によって障害されるためと考えられますが、すぐに点鼻を中止すれば、数週間で嗅覚も味覚も完全に回復します。
そこで私は患者さんには、枕を首から頭にあてて頭が下がらないようにしてから、点鼻するように指導しています。
前述の堀口氏も、まれに塩化亜鉛塗布で嗅覚がなくなることがあると報告しています。では、この慢性上咽頭炎に劇的に効く塩化亜鉛はどこに行けば手に入るのでしょうか。
塩化亜鉛は、「副作用が一切ない薬品」(堀口氏)と言われています。
鼻腔や上咽頭への塩化亜鉛塗布が、現在に至るまで、 50年以上にもわたって細々とはいえ続いていることが、安全な治療であることの裏づけでもあると思います。
しかし、現在の薬事法では塩化亜鉛は劇物指定されていて、ふつうの人は入手することはできませんし、医者でさえ、 1%の塩化亜鉛溶液はわざわざ調剤薬局などに頼んでつくってもらわなければなりません。
加えて塩化亜鉛を常備している耳鼻咽喉科が、いまではたいへん少ないという現実があります。
また、塩化亜鉛の点鼻は治療薬として認可されていないので、病院などで医師に処方してもらうことはできません。
つまり、現状では塩化亜鉛治療を受けることは、簡単ではないのです。
耳鼻科医である杉田先生も「上咽頭に塩化亜鉛を塗ることの効果を、ほとんどの耳鼻科医は知りません」と指摘します。
とくに、風邪の症状である急性上咽頭炎にはこの治療はたいへん効果があることは、私も自分で経験済みです。
この本の出版を契機に、多くの耳鼻咽喉科でこの治療を受けられるようになることを私は祈念しています。
慢性上咽頭炎の治療 ②─生理用食塩水で鼻うがい
塩化亜鉛の溶液を上咽頭や鼻腔に塗るという方法は、確かに効果的ですが、患者さんにとっては、痛いし、苦しいし、まれに嗅覚が低下してしまうこともある治療です。
また塩化亜鉛は劇物で一般に手に入れることが不可能な薬品で、加えて、塩化亜鉛を塗布する治療を行っている耳鼻咽喉科は全国でも数えるほどしかありません。
このような現状から、私は患者さんが自分でできる、安全でやさしい治療法を模索してみました。もっとも単純で簡単な方法は、生理食塩水を使った鼻うがい(鼻洗浄)です。
生理食塩水とは 0・ 9%の濃度の食塩水で、水と食塩の割合を 1000: 9にして作ります。
水 1 ℓなら 9 gの食塩、水 500 ㎖なら 4・ 5 g(小さじ 1〈 5 g〉から、耳かき 1さじ分ほど減らした量)の食塩を入れます。
水は蒸留水や精製水(コンタクトレンズ用のもので可)を使うようにし、水道水は残留塩素を含むので避けたほうが良いでしょう。
鼻うがいの方法は、エネマシリンジ(鼻洗浄用シリンジ)や市販の鼻洗浄器具やスポイトなどを用います。エネマシリンジを用いる場合は鼻から入れて「エー」と声を出しながら口から出します。
1回の鼻洗浄に用いる生理食塩水の量は 100〜 200 ㏄です。スポイトを用いる場合は 2〜 4 ㏄(のどに落ちてくるのがわかる程度)ずつ、両方の鼻に入れます。この場合は少量なので、口から出すのは難しいので飲んでもかまいません(次ページイラスト参照)。
注意する点は、鼻洗浄後すぐに鼻をかまないことです。まれに中耳炎などになることもあります。
日本では昔から風邪の予防に鼻うがいをしている人がいましたが、私は「のど」のうがいよりも数段の効き目があると思います。なぜなら、私たちが習慣にしている「のど」のうがいは、表面が繊毛上皮ではなく扁平上皮で覆われている中咽頭を洗浄、消毒しているにすぎないからです。
京都大学保健管理センター長の川村孝教授の研究では、「水うがいで風邪の発症を 4割程度減少させたが、ヨード液のうがいでは風邪の発症は低下しなかった」( Am J Prev Med 29: 302‐ 307, 2005)と報告しています。
川村教授の結論は、ヨード液より水うがいのほうがいい、ということでしたが、別の見方をすれば、「のど」うがいそのものにたいした効果がないという解釈もできます。
実際、日本以外のアメリカ、イギリス、カナダ、韓国などでは風邪の予防のためにのどうがいをするという習慣はないようです。
つまり、ほこりや病原菌が付着しやすいのは上咽頭であって中咽頭ではありませんから、上咽頭に付着したウイルスや病原微生物を洗い流すためには、鼻うがいのほうが効果的なのです。鼻うがいは、コツをつかめば比較的簡単にできるようになりますので、ぜひとも習慣にしていただきたいものです。
先日、ハワイに留学していた知人から、ハワイでは昔から、風邪のひき始めには海に入って、鼻から海水を入れて口から出す、鼻洗浄の習慣があるということを聞きました。これはまさに塩水を使った鼻うがいです。
このように風邪の予防には手ごたえがあった生理食塩水を使った鼻うがいですが、血尿が消えない IgA腎症の患者さんたちに生理食塩水で鼻洗浄をしてもらったところ、必ずしも満足のいく治療効果を得ることはできませんでした。
上咽頭に付着した病原微生物を生理食塩水で洗い流す方法は、風邪予防としては効果があっても、すでに起こっている炎症を抑えたり、上咽頭の繊毛上皮細胞にすでに感染を起こしているウイルスや細菌を完全に除去することは難しかったようです。
そこで私は引き続き別の治療法を探してみることにしました。
慢性上咽頭炎の治療 ③─馬油の点鼻
次に試してみたのが、馬油です。馬油は炎症を和らげる効果があり、昔からやけどの治療などに使われています。
調べてみると、すでに馬油の点鼻が花粉症の治療に使われている実績があることがわかりました。
そこでインターネットで点鼻できる無香料液状タイプの馬油を見つけ、純馬油 100%で、口中に入っても無害なことも確認し、患者さんの了解を得て、さっそく上咽頭炎の治療に試してみました。
そもそも馬油には抗炎症作用があるため、結果としてそこそこの効果を認めることができましたが、油であるため、鼻に入れたときの違和感を訴える人が多く、患者さんの評判は必ずしもいいとは言えませんでした。
慢性上咽頭炎の治療 ④─青梅搾汁濃縮液で鼻うがい
生理食塩水を使った鼻うがいや馬油の点鼻は、臨床効果や患者さんの評判がいま一つだったため、引き続き別の治療法を考えてみました。
その一つが、青梅の搾汁濃縮液を使う方法です。日本では昔から梅肉には殺菌効果があることはよく知られています。
実際、ご飯に梅干しをのせる「日の丸弁当」は、ご飯の腐敗防止効果もある優れものとして、いまでも多くの人に親しまれています。
また梅には殺菌効果に加えて、抗炎症作用があるといわれ、人間の体にも安全であることから、梅のエキスを鼻洗浄の溶液として使えないかと考えました。
そんな思案をしていたころ、運良く梅の成分を研究開発するアダバイオ株式会社の足立正一社長と出会う機会があり、上咽頭炎の重要性を理解していただくことができました。
そして、同社の大澤立志氏らの尽力によって、慢性上咽頭炎治療に使えそうな梅エキス洗浄液「ミサトールリノローション」の開発にこぎつけることができました。
この商品は、調製容器に梅エキスをしみ込ませて乾燥させた綿球を入れ、少量の水に浸したあと専用洗浄器具を使って梅エキスが溶け込んだ洗浄液を吸い取り、鼻を洗浄します。
洗浄後は梅エキスが上咽頭にいきわたるように、仰向けの状態で 5分間待ちます。これを朝、晩の 1日 2回行います。
風邪のひき始めや炎症がひどい場合には、少ししみますが、塩化亜鉛を塗布したときのような痛みはなく、ミサトールリノローションで鼻洗浄を続けることで、徐々に炎症が鎮静化していき、次第にしみなくなってきます。
まだ実用化されて間もない商品なので評価はこれからですが、これまでのところ、使用に伴う不快感など問題になるような報告もなく、患者さんたちからの評判はおおむね良好です。
また、ミサトールを用いた基礎的研究でも抗炎症効果が認められています。ただし、ミサトールリノローションは医家向けの商品なので、原則的に医師の紹介がないと購入できません。
ミサトールリノローションの詳しい情報は、アダバイオ株式会社( ℡ 027‐ 343‐ 8601 http:// www. adabio. co. jp/)にお問い合わせください。
慢性上咽頭炎の治療 ⑤─微酸性電解水で鼻うがい(* 1)
もう一つの治療法として、次亜塩素酸を含み殺菌効果の高い微酸性電解水「プレフィア」を使った鼻うがいを紹介します。
この水を知ったのは、とあるアレルギー疾患のセミナーで「微酸性電解水を用いた加湿装置を使えば、インフルエンザウイルスが除菌できる」という内容の講演を聴いたことがきっかけです。
講演を聴きながら「これは上咽頭炎の治療に使えるのではないか」と考え、講演終了後、演者の浅井重臣氏(微酸性電解水を製造販売している有限会社グローバルアイ社長)に病巣感染の概念について説明しました。
そして、浅井氏にこの概念をご理解いただけたことで、上咽頭洗浄用の微酸性電解水をつくっていただくことができました。
この商品は浅井氏によって「プレフィア」と名づけられましたが、 Prevent Focal Infection Aqua(病巣感染を防ぐ水)という意味があります。
この商品の特徴は高い殺菌効果で細菌、ウイルス、真菌の除菌ができます。
青梅搾汁濃縮液「ミサトールリノローション」のような抗炎症効果はありませんが、この水で鼻洗浄をすることで、上咽頭に付着した病原微生物を洗い流し、上咽頭を除菌することが期待できます。
使用方法は、鼻から入れた水がのどに落ちてくるのがわかるくらいの量を鼻から入れて、出てきた水を口から吐き出すか、少量の場合はそのまま飲み込みます。1日に何度か使用すれば、それだけ効果を感じられるので、家で手軽にできる上咽頭洗浄液としておすすめです。
微酸性電解水は食品添加物としても認可されており、安全性に関する情報も確認したうえで、塩化亜鉛点鼻の代替として、患者さんには一昨年末より了解を得て使い始めました。
「プレフィア」に替えたことで症状が悪化した人はいませんが、しみなくていいという患者さんが多い半面、しみないために効果に疑問を感じてしまい、「塩化亜鉛のほういい」という患者さんもいます。
プレフィアは通信販売で購入できます。グローバルアイの HP (http:// globaleye-yamagata. jp/ medic/ prefia. html)から商品購入サイト( http:// junka. ocnk. net/)に入ってみてください。
「ミサトールリノローション」も「プレフィア」も使用した患者さんの評判はおおむね良好で、効果も期待できるので、耳鼻科で塩化亜鉛治療ができない方にもおすすめの治療法であるといえます。
慢性上咽頭炎の治療はいつまで続ければいいのか
これまで何度もお話ししてきましたが、上咽頭というのはつねに炎症が起こっている部位です。この炎症は、われわれ人間が空気を吸って生きているという体の仕組みから考えても、避けられないものです。
その炎症が生理的炎症、つまり健康であるのか、病的炎症、つまり病気であるのか、それが問題なのです。ただし、上咽頭の炎症が病的炎症なのか、生理的炎症なのかを判別することは、多くの場合、実際には困難です。
たとえば塩化亜鉛を塗ったとき綿棒に血液が付着すれば病的炎症といえますが、血液が付着しなくても痛みだけがある場合、はたして病的炎症なのか生理的炎症なのかの判断はたいへん難しいからです。
したがって慢性上咽頭炎の治療は、片頭痛やめまい、吐き気、咳、痰などの自覚症状が完全になくなったときが、治療の終了といえます。
また、腎臓病、関節炎、皮膚疾患などの病巣感染による二次疾患の原病巣として慢性上咽頭炎を治療する場合は、こうした疾患の病状が治療目標に達したときが、治療終了の目安となります。
治療目標とは、腎臓病であれば血尿が消えたとき、関節炎なら関節の炎症が治まり炎症マーカー( CRP)が陰性になったとき、アトピーなどの皮膚疾患なら皮膚の症状が軽快したときなどです。
ただし慢性上咽頭炎の治療を続けて慢性上咽頭炎そのものは改善したのに、二次疾患の症状が消えなかったり、よくならなかったりしたら、その疾患の原因は慢性上咽頭炎にあるのではなく、ほかの部位に病巣感染の原病巣が存在するという可能性があります。
したがって慢性上咽頭炎の治療を 3カ月続けても、二次疾患に関連する症状に改善が認められない場合は、原則として治療を終了します。
また、慢性上咽頭炎は治療によっていったん症状が改善しても、上咽頭が空気の通り道であるかぎり、症状が再発する可能性はつねにあります。
摘出することで病巣がなくなって再発しない扁桃の病巣感染とは違って、二次疾患の原病巣が慢性上咽頭炎にある場合、どうしてもこの再発という問題は避けて通れません。
現在のところ慢性上咽頭炎が再発したとき、どの程度の割合で二次疾患も再発するのかというデータがないため、それについては述べられませんが、今後は科学的根拠となるデータの蓄積が必要になるでしょう。
ただ、いまの段階でできることは、せっかく治療してよくなった慢性上咽頭炎を、再び悪化させないようにする工夫です。次章では、慢性上咽頭炎を悪化させないためのさまざまな予防策について紹介します。
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