第 4章これについてコーチする
1ビジョンをつくる少し先の未来を見せるビジョンはつくり続ける 2問いを共有する「問う」のではない。
問いを共有する〈問いの共有〉が行動を起こす 3個人の目標を設定する
「それで、わたしはどうなるのか?」 WIIFM互いのゴールを共有する 4今いる場所を示すフィードバックとフィードフォワード 5リソースを最大化する
第 4章 これについてコーチする
1 ビジョンをつくる ここまで、〈三分間コーチ〉にとって、頻度と場面が重要だということと、その機会のとらえ方と声のかけ方について、お話ししてきました。
では、具体的には、何がそのときのテーマになるのでしょうか? 要するに、どんなことを話したらいいのでしょうか?
少し先の未来を見せる 譜面を見ながら楽器を演奏するとき、演奏者は目の前の四分音符や八分音符を見て、その音を出しているわけではありません。
二、三小節先、あるいはもっと先を見ながら、今の音を出しています。
コーチングも同じです。
少し先の未来をコーチします。
やり方は簡単です。
「視線」を未来に向けるだけです。
このとき、上司が部下に、一方的に、自分や会社が描いた未来のイメージを見せてもうまくいきません。
たいてい、会社や部署のビジョンは、そういう形で示されますが、実は、それでは部下は動けません。
コーチングのイメージは、会話する二人が向き合ってしまうのではなく、一枚のカンバスに向かって、二人で座る。
そして、部下が絵を描くのを見ながら、会話する。
あるいは、二人で並んで座って、望遠鏡や双眼鏡で、同じ遠くのものを見る。
そして、それについて語る。
そんなイメージです。
「今日はここまでできたんだね」 「これが三年後のきみだね」 「ここには何が描かれるのかな」
ボストンシンフォニーの著名な指揮者、ベンジャミン・ザンダー氏を日本に招へいしたとき、尋ねてみました。
「指揮者は何をしているんですか? リズムをとっている? または、演奏者にキューを出しているんですか?」 「リズムなんてとらない、ダンスしているわけじゃないんだから。
それに、みんな一流の演奏家で、彼らにキューなんて出さない」 「それじゃあ、何をしているんでしょうか?」 「少し先の未来を指揮している」 未来には可能性があります。
未来をコーチするということは、すなわち、「可能性」を開くということです。
部下の可能性を開くのが上司の仕事なのだと思います。
ビジョンはつくり続ける 以前、アメリカで、ゴルフのコーチを受けたときのことです。
毎回「イメージ」をつくってからボールを打つように何度も注意されました。
そこで、聞きました。
なぜ、毎回イメージをつくる必要があるのかと。
すると彼は答えました。
「イメージは記憶できないから」 そう、イメージは記憶できないのです。
同じように、「ビジョン」も記憶できません。
人は、意識するしないにかかわらず、未来にビジョンを描き、それにしたがって行動しています。
会社におけるビジョンもあれば、個人としてのビジョンもあります。
たとえば、経営者なら、自社の商品が日本中、あるいはニューヨークでもドバイでも売られているビジョンを描いているかもしれませんし、若手の営業マンなら、堂々と大きな商談をまとめている自分の姿、そのときの話し方、表情を、ビジョンとして持っているかもしれません。
こうしたビジョンをどの程度鮮明に持てているかは、人によって異なりますし、同じ人でも、そのときによって違います。
ただひとつ、はっきり言えることは、それがはっきりしているときほど、動きやすく、モチベーションやパフォーマンスが落ちているときというのは、それが不透明になっていたり、混乱してしまったり、なくなってしまっているときだということです。
ですから、部下のビジョンを(そして、自分のビジョンも)つくり〈ビジョン・メーキング〉、つねに明確にしておくことは、マネジャーにとって重要な仕事です。
つまり、〈三分間コーチ〉の重要なミッションとなります。
では、この〈ビジョン・メーキング〉は、どのように行われるのでしょうか? 結論から言うと、ビジョンというのは、たった一人で目を閉じれば、そこに浮かんでくるようなものではありません。
それは、会話を通じ、問いかけを通じ、さまざまな可能性を思い描く過程で鮮明になっていくものです。
「ほかの選択はないの?」 「ほかの人の考えは聞いてみましたか?」 「一年後、二年後にはどうなっていると思う?」 「三年後から今の自分を見ると何が見える?」 いったん鮮明に絵が描けたからといって、それでおしまいにしてはいけません。
放っておくと、すぐに不透明になってしまいます。
イメージもビジョンも記憶できないのですから。
このプロセスを継続的にやっていくことで、ビジョンが実現する確率は格段にアップします。
【3秒間ナレッジ】 24ビジョンは、コミュニケーションを交わすなかで鮮明になっていく。
【3秒間ナレッジ】 25ビジョンは、つねにそれについて語り続けていないと、すぐ見えなくなる。
わたし自身、今もコーチをつけています(ゴルフではなく、ビジネスコーチです)。
わたしのコーチは、セッションのたびに「ビジョン」について話そうと言います。
思えば、ずっとビジョンをつくり続けています。
一年後のビジョンを一年かけてつくっているようなものです。
「ビジョンは最初につくって、あとは実行するんじゃないんですか?」 「そうだ」 「でも、ビジョンをつくるのに時間をかけすぎませんか?」 「ビジョンはつくり続けてはじめて、ビジョンなんだ。
ビジョンをつくるのをやめてしまうとその瞬間、ビジョンは力を失う。
一度完全なビジョンをつくれば、それで、未来に向けて走れると思っている人がよくいるが、そんなことはありえない」 「ずっとつくるということですか」 「そうだ、ビジョンと行動を分けて考えないんだ。
ビジョンについて話す過程で、リアリティは形づくられる」 気づいているいないにかかわらず、わたしたちが行動を起こしているときというのは、すでに心にイメージを描いているときです。
行動とイメージは、基本的にリンクしているものなのです。
ですから、 ゴルフをするときに「どんなイメージ?」。
営業前にも「どんなイメージ?」。
日ごろから、「今、どんなイメージを持っているか?」について聞くことが、部下の行動をうながす非常に効果的なコーチングとなります。
近い未来、二年後、三年後──〈三分間コーチ〉として、上司はつねに、少し先の未来を話しましょう。
未来を予測していくのです。
ときには、未来から今を見ることも試みます。
そして、今の行動に結びつけていくのです。
2 問いを共有する
「問う」のではない。
問いを共有する ホテルのスタッフに向けたサービスに関する研修で、そのホテルのゼネラルマネジャーは、そこに集まった百人近いスタッフに向けて問いかけました。
「きみはどんなサービスをしてみたい?」 みんな、しばらく考え込んでいましたが、少しずつ発言が始まりました。
一人が話すと、それにつられて、ドアボーイもコンシェルジュも自分のアイデアを言い出しました。
そこで、ゼネラルマネジャーはまた聞きました。
「きみはどんなサービスをしてみたい?」 たくさんのアイデアが出ました。
そのほとんどは、素人目にも使えないものでしたが、それでも彼は同じ問いかけを続けました。
最初から最後まで、同じ一つの問いを繰り返しました。
「どんなサービスをしてみたいですか?」 やがて、二時間が過ぎ、研修は終了しました。
彼はスタッフに向かって言いました。
「今日はすばらしい研修でした。
みなさん、たくさんの意見をありがとう。
引き続き考えてください。
どんなサービスをしてみたいか? 思いついたらいつでも教えてください。
では、今日はこれで終わります」 一人のスタッフが、彼に尋ねました。
「まだ、サービスについて何も教えていないし、何も決まっていませんよ」 「これでいいんです」 「どこが、ですか?」 「彼らは、どんなサービスをしたいか、それについて考えるようになった。
それに、その問いかけをスタッフ全員で共有しました」 「はあ」 「教えられて、マニュアルどおりにやっているのでは、サービスにはなりません。
お客さまは、サービスしてみたいというスタッフの心意気に感動するんです」 「そういう狙いがあったことには気づきませんでした」 「それに、問いは共有されたので、スタッフは、これからお互いに話すようになるでしょう。
どんなサービスをしてみたいか、それから、サービスとは何かについて」コミュニケーションが活性化するには、それなりの環境が必要です。
その環境とは、談話室ではなく、イントラネットでもなく、〈問いの共有〉です。
会社全体で、部や課で、上司部下の関係で、〈問いが共有〉されていることです。
それによって、コミュニケーションを始める動機が生まれます。
〈問いが共有〉されていればこそ、問いかけに対して、自分はどのような行動をとるべきか、どのような判断を求められているのか、また、自分はどの位置にいるのか、それらを知るために、コミュニケーションを交わす必要が出てくるでしょう。
いっしょに仕事をしている人たちとの間でコンセンサスをとる必要も感じてくるでしょう。
だから、声をかけ、話す。
そして、相手の考えに耳を傾けるようになります。
【3秒間ナレッジ】 26会社のコミュニケーションを活性化するには、〈問いを共有〉する。
すでに組織はいくつもの〈問いを共有〉しています。
「顧客は我々のサービスに満足しているだろうか」 「社員は仕事の何に満足しているだろうか」 「会社の未来とは」 もっと身近な問いもあるでしょう。
「次のイベントのテーマは何にしようか」 「このプロジェクトの売上げゴールはいくらに設定しようか」 「これをなんとしても納期に間に合わせるには、どういう手があるか」 「このクレームから何が学べるか」 「もっとよいネーミングはないか」 「彼を元気づけるいいアイデアはないか」 こうした、今、社内で起こっているさまざまな問題、あるいは大小さまざまなプロジェクトそのものが〈問いかけ〉となり、〈三分間コーチ〉にとってのテーマとなります。
わざわざ特別な〈問いかけ〉を考える必要はなく、すでに問われていることをクローズアップするだけです。
特に未来に向けて共有したい〈問い〉をクローズアップするのです。
それと、もうひとつ。
答えを強要してはいけません。
一人ひとりが自由に考えることに意味があります。
〈問いの共有〉を消滅させるのは簡単。
たったひとつの正しい答えを強要することです。
〈問いの共有〉が行動を起こす このように、コーチングのベースには、〈問いの共有〉があります。
そして、それは無理につくり出すものではなくて、すでにそこにあるものです。
あとはそれに気がつくだけです。
それに気がつけば、いつでもそれについて声をかけ、その「共有されている問い」について話し始めることができます。
自由に話させることができます。
部下は、問いかけられることによって、ふだんは持っていなかった視点を持つことになります。
自分だけの小さな世界ではなく、もっと大きな世界からの視点、複数の視点を持つことになります。
それによって、組織の中における自分の責任や、役割に対する意識も高まります。
また、ほとんどの〈問い〉は未来に向けられているものなので、当然、視線は未来に向けられ、より自律的、自発的な行動が促されることになります。
人は未来に向けて動くことを好む傾向にあるからです。
「近い将来、我々が遭遇するリスクには何があるだろうか?」 「我々のサービスは今世界一だろうか?」 「今、仕事に情熱を持ち込んでいるか?」 そもそも〈問い〉には、人を「わかったつもり」から、行動へと移行させる力があります。
問われれば、どうしても「わかったつもりでいたのに、まだわかっていないことがあった」ということに気がつかないわけにはいかないからです。
「わかったつもり」とは「安定」した状態です。
いわば、現状に胡坐をかいた状態ですから、当然、行動は起こりにくくなります。
「わかったつもり」になっている人たちは、「そんなことはもうわかっている」「だから、言っただろう」「だって、こうなんですから」と決まり文句を言います。
彼らの行動は遅く、パターン化していて、ときに、強面の上司ですら、このわかったつもりの部下を動かすのはむずかしいのです。
けれども、恒常的に「問われ」続けると、これはもう「わかったつもり・安定」から「わからない・不安定」へとシフトしないわけにはいかなくなります。
すると、どうなるか? 行動が起こるのです。
人は不安定になると、安定するために行動を起こすものです。
そして、そのときは、新しい仕事のアサイン、新しい役割を任命するなどのよいタイミングともなります。
もうひとつ、〈問いを共有〉することの大切な働きがあります。
それは、わたしたちの頭の中に常駐する、非生産的な「問い」を追い出す働きです。
実は、わたしたちは最初から、頭の中で常に自分に問いかけているのです。
いつもほとんど同じ問いです。
「ほんとうかな?」 「このままでいいんだろうか?」 「だいじょうぶだろうか?」 これは無意識に発せられる「問い」なので、放っておくと、すぐにこれでいっぱいになってしまいます。
別の「問い」を積極的に起こさない限り、この「問い」が頭の中を占拠してしまいます。
だから、これらの「問い」の居場所がなくなるよう、つねに、〈未来に向けた問い〉を投げかけ、そして、共有していくのです。
【3秒間ナレッジ】 27〈未来に向けた問い〉を共有し続けないと、人の頭はすぐ非生産的な問いに占拠される。
3 個人の目標を設定する
「それで、わたしはどうなるのか?」 会社の少し先の未来を見せ、わくわくするようなビジョンを語り、〈問いを共有〉する。
さあ、それに向けていっしょに走りだそう! としても、口で言うほどには、部下が本気になっていない、今ひとつ情熱が感じられない、というようなことはないでしょうか。
その場合、たいていは、いちばん大切なことが抜けているからです。
彼らにとって、いちばん大切なことが……。
わたしたちの関心事とは、すべて自分に関することです。
組織においても、そこで働く個人にとってのいちばんの関心事は、自分自身に関わることです。
経営者が、会社の目標や目的、輝かしい未来をどんなに力説しても、社員の関心事は、要するに、 「それで、わたしはどうなるの?」 耳は経営者の熱弁に向けながらも、意識は、この最大の関心事に集中しています。
それが、変革をともなうものであればあるほど、「で、わたしはどうなるのか」と、心の中で不安を駆り立てています。
それは決して、会社のことをないがしろにしているということではありません。
ただ、会社のゴールに向けて仕事をしながらも、社員のいちばんの関心事は、「わたしの未来」にあるのです。
WIIFM このことについて、わたしのコーチだったダグはよく言っていました。
「どんなときにでも、 WIIFMが大事だ」と。
WIIFMというのは、「 What’ s in it for me?」の頭文字をとったことば。
日本語にすると、 「わたしが手にするものは何?」となります。
たとえば、部下が目標を設定するときに、彼らの目標を聞いて、「それが目標なんだね」なんて、簡単に理解したようなふりをするのは問題です。
ダグは言います。
「みんな、会社や組織の求める目標を、まるで自分の意志であるかのように口にするけれど、たいてい、その目標は完璧には達成されない。
必要なのは、一人ひとりに自分個人の目標を見つけさせることなんだ」 「ほんとうのゴールは、一見、目標と思えるようなものの先にある。
それを見誤ってはならない。
上司は、そのことを頭において、部下の目標設定をコーチする」 「それだけではなく、スタッフ一人ひとりの目標が、会社の目標とつながっているかどうかを確認しなければならない。
そのために、一人ひとりに、自分の目標は何であるかを考えさせるんだ」 「 What’ s in it for me ?」 = WIIFM、つまり、これをすることで、わたしが手にするものは何か? ということを考えさせるんだ」 「大事なのは、一方的に会社の目標を与えるだけでは、目標には至らないということ。
それ以前に、部下一人ひとりの持つ目標が何であるかを知る必要がある、ということだ」 会社の目標を達成することで自分は何を手にするのか? =一人ひとりの「 WIIFM」を明確にすることが目標設定のプロセスには不可欠なのだと、彼は強調しました。
「『 WIIFM』をスキップして、アクションプランやスケジュールを決めたとしても、目標には至らない。
たとえ、部下に目標に対するコミットメントを誓わせたとしても、彼らが、目標に向けて情熱を持ち込むことはない。
重要なのは、部下が、頭で約束すること(コミットメント)をやめて、心(情熱)で動くようになることなんだ。
それが、目標達成に向けた真の原動力だからだ」 ダグは、カナダやアメリカのローイング(ボート)のオリンピック強化選手のコーチとして、何人かの金メダリストを育てたのち、今は金融関係のエグゼクティブコーチとして活躍しています。
そこで、彼に尋ねました。
「オリンピックの選手にも、やっぱり『 WIIFM』が必要なんですか?」と。
「 Absolutely! もちろんだよ。
金メダルをとることで、自分がほんとうに何を手にするのか、何を手にしたいと思っているか、それがはっきりしていない選手で、金メダルをとった選手はいない」 「『 WIIFM』がはっきりすると、練習に対する姿勢も、練習の質も変わる。
そして、意識が変わる。
金メダルをとって当然だというところへ意識がシフトする。
金メダルをとるということは、『 WIIFM』をはっきりさせるプロセスでもある」 【3秒間ナレッジ】 28「それでわたしはどうなるのか?」部下はいつもそれを気にしている。
たとえば、月初め、部下と目標を設定するとき、 「今月の目標は?」 「はい、五百万円です」 「がんばってね」で、終わってはいけません。
「今月の目標は?」 「はい、五百万円です」 コミュニケーションは、そこから始まります。
互いのゴールを共有する 個人の目標設定が終わったからといって、それで終わるわけではありません。
部下を取り巻くチームメートや上司、さらには部下の部下たちは、彼の目標を知っているのか、それを確認する必要があります。
「彼の今月の目標は?」 「で、彼の WIIFMは?」 目標達成も、物事の実現も、たった一人でやれるわけではありません。
それらはつねに、周囲との関係、協力によって達成されるものだからです。
もし、目標達成に対して、単独でエベレストの山頂を目指すようなイメージを持っているとしたら、ただちに、その絵を描き替える必要があります。
そこには、必ず、周囲のサポートと物心にわたる協力があります。
そのような環境をつくり上げていくためにも〈問いかけ〉ます。
「彼の目標は?」 「彼の WIIFMは?」 もちろん、答えを強要しないこと。
先ほども言ったように、大事なのは答えを求めることではなくて、〈問いを共有〉することですから。
さて、ダグは経営者のコーチングをするときに、必ず次のように尋ねるそうです。
「あなたの秘書がどんな目標や WIIFMを持っているか知っていますか?」 「……」 「彼女が自分のゴールを達成するのをサポートしてください。
そうでなければ、彼女があなたのゴールをほんとうに理解し、その達成をサポートしてくれることはないですよ」 「思いもよらなかった。
彼女はただわたしのサポートをするためにいる、それ以上のことは考えたこともないし、知ろうともしてこなかったから」 サポートしてくれて当然と思っている部下の目標、 WIIFMを知らなければ、あなたの目標も達成されません。
だれも、たった一人で目標を達成することはできないのです。
互いの目標を達成に向けて協力し合う環境づくり、それもマネジャーの仕事です。
そして、そのために必要なのは、まず、互いの目標と WIIFMを知ることです。
【3秒間ナレッジ】 29互いの個人の目標を公開すると、その達成に協力し合う環境が生まれる。
4 今いる場所を示す
フィードバックとフィードフォワード ビジョンを共有し、 WIIFMを明確にし、目標を設定した! さて、その目標の達成へ向けて、いよいよこれからがコーチングの本番です。
もちろん、これまでのことも、ずっと続けていくわけですが、ここでは、それら以外に、目標達成の過程で、〈三分間コーチ〉としてマネジャーが扱うとよいテーマをあげます。
まず、〈フィードバック〉と〈フィードフォワード〉です。
〈フィードバック〉は、システムに備わり自らを守る、つまり壊れないようにするための制御機能です。
たとえば、サーモスタットのように、温度が上がりすぎたときにそれを下げようとする機能がその代表ですが、急に雨に降られて軒下に避難するような場合、雨に少し濡れることもフィードバックになります。
それを受けて人は避難行動を起こします。
一方、〈フィードフォワード〉もシステムの制御機能ですが、〈フィードバック〉が、「ある事態が生じ、その結果に対して制御機能を働かせる」という働きをするのに対し、フィードフォワードのほうは、その名のとおり、何かの兆候を感じたら、まだ起こっていなくても、すぐに制御機能を働かせることになります。
先ほどの例で言えば、雨が降っていなくても、雲行きがあやしければ、傘を持って出かける。
この場合のあやしい雲行きとか天気予報が、フィードフォワードになります。
上司は、部下に今いる場所を知らせるために、このフィードバックとフィードフォワードを無意識のうちに行っているものですが、意識して、さらに積極的に用いるとよいでしょう。
実際、部下の多くは、それを求めています。
自分が今やっていることは、はたして目標に向かうことになっているのか、自分以外の視点を求めています。
フィードバックとフィードフォワードを通じて、わたしたちはより正確に自分の位置を測り、方向を定めることができます。
これを生かしたコーチングは、たとえば、こんなふうに始められます。
〈フィードバック〉としては、 「今のきみのやり方を見ていると、わたしははらはらする」 「少し急ぎすぎているように見える」〈フィードフォワード〉としては、 「チームの未来はどういうものに見える?」 「我々の顧客は、我々のサービスにどのぐらい満足しているだろうか?」 わたしたち──個人も会社も──が成功する鍵は、いかに未来を正確に予測できるかにあります。
そのためには、まず、現状を明らかにすること。
そして、雨にできるだけ早く気づくこと。
できれば、雲行きを見て最初から傘を持って出るなど、先手先手を打っていくことです。
〈フィードバック〉と〈フィードフォワード〉の習慣が欠かせません。
5 リソースを最大化する マネジャーの役割、そして、コーチングの目的は、直接的には、部下の目標達成にありますが、それだけではありません。
そのことを通じて、部下その人の能力を引き出すことにあります。
つまり、彼自身のリソースを最大化させることです。
リソースとは、その人の持つ知識、スキル、ツール、経験、ネットワーク、及び、それらのリソースにアクセスできる能力、スキルをいち早く身につけるスキルなどです。
つまり、「その人そのもの」であるとも言えます。
自分のリソースにアクセスし、それを表現できるようになることで、人は有能になります。
人は、それぞれの〈場〉において自分の役割を満たし、仕事やプロジェクトで、より高く、より速く、パフォーマンスを発揮することによって、より有能になっていきます。
ところが多くの場合、わたしたちは自分が持っているリソースの存在自体を把握していません。
たとえば、陸上の短距離走の選手の場合、持てる筋肉、神経系、フォーム、精神力、自分の身体をコントロールできる感覚、走るための動機などがすべて、彼のリソースになるわけですが、それらのリソースに気づいていないこともあるのです。
自分のリソースに気づいていても、新しい状況で、それを活用する方法がわからないでいる場合も少なくありません。
かくして、リソースの棚卸し、強みの発見、チームメンバーの組み合わせの考慮、リソースを発揮する環境の選択などは、〈三分間コーチ〉にとってのテーマとなります。
個人のリソースというと、独立したその人のもの、というイメージがあるかもしれません。
しかし、どんなに豊かなリソースを持っていたとしても、ただ持っているだけでは活用できません。
それを発揮する〈場〉がなければ、活用しようにも活用できません。
たとえば、リフティングやシュートのうまいサッカー選手がいるとします。
しかし、一人でリフティングしているだけでは、ただのショーです。
有能な人とは言われないでしょう。
ゲームの中でそのスキルが活用され、さらにそれがチームの勝利に貢献してはじめて、「有能な選手」となります。
オフィスでも同様です。
個人のスキルや知識を効果的に活用し、それによって組織に貢献してはじめて、その人は「有能な人」となります。
能力だけを磨いても引き出しても、それを発揮する〈場〉、表現する〈場〉がなければ、その人は「有能」とはなりません。
では、〈場〉とは何か? といったら、人と人、全体との関係性そのものです。
つまり、自分のリソースを活用するためには、リソースにアクセスする手段を持ち、そのリソースを表現する〈場〉にいる必要があるということです。
リソースは、人との〈関わり〉によって引き出され、〈関わり〉の中で表現されます。
そこに、〈関係を築く能力〉が備わっていなければ、リソースにアクセスすることも、それを表現することもできません。
【3秒間ナレッジ】 30一人では、自分のリソースを発揮できない。
〈関わり〉の〈場〉があってはじめて、人は有能になれる。
会社だけがうまくいくということはありません。
同じように、そこで働く個人だけがうまくいくということもありません。
わたしたちは「二重生命」を生きています。
人間の身体で言えば、わたしたちは細胞の一つとしても生きているし、身体全体としても生きています。
その二つの生命を生きているという意識を持てないと、どちらもうまくいかなくなります。
自分自身との関係性、自分と相手、そして、自分と全体、これらの関係性を察知し、感じられる能力を持つとき、リソースは最大化されます。
部下を、そして、自分自身を育てていくとき、このことを忘れないでいたいと思います。
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