第 3章 身近な人間関係の中のダークな性格
1 恋愛関係とダークな性格恋愛スタイルの六タイプ/見知らぬ人に「今晩、一緒に過ごしませんか?」と言われたら/ナンパとダークな性格の関連 2 ダークな性格の生活スタイル夜型で街を好む性格/情緒的な結びつきのない性的関係を好む/マッチングアプリとの親和性/マッチングアプリで荒らし行為をする人々/略奪愛とダークな性格の高さ/カップルの満足度とダークな性格
1 恋愛関係とダークな性格 この章では、特に恋愛関係や婚姻関係という親密な人間関係を取り上げてみたいと思います。親密な人間関係は、私たちの心理的な特徴が如実に表れる代表的な場面だと言えます。身近で親密な人間関係の中でのダークな性格の役割について、考えていきましょう。†恋愛スタイルの六タイプ カナダの心理学者であり作家、そして活動家でもあるジョン・アラン・リーは一九七〇年代に「恋愛色彩論」と呼ばれる独自の理論を提唱しました( 65)。リーは、古今東西のさまざまな文献の中で、愛がどのように描かれているのかを調べていき、三つの主要タイプ(エロス型、ルダス型、ストルゲ型)と三つの副次的タイプ(マニア型、プラグマ型、アガペ型)にまとめました( 66)。 まずは、主要タイプについて見ていきましょう。 エロス型はロマンチックな愛を表しており、恋愛関係の中でお互いに安心した関係を築き、情熱的で親密な関係を営もうとする特徴をもつ愛のパターンです。一方で、熱しやすく冷めやすい特徴も備えており、恋に落ちやすい一方で飽きやすく、相手を独占しようとするわけではありません。 ルダス型は、ゲームのような恋愛にたとえられることがあります。このタイプは恋愛そのものに没入するというよりも、お互いに楽しむことが重要で、安定した関係を求めるわけではありません。特に、相手よりも優位な立場にいることができる場合には、複数の相手と関係をもつことも「楽しみのひとつ」となるかもしれません。 ストルゲ型は、友情に近い愛の形だとされます。強い情熱を感じるというよりも、お互いに支え合い、信じ合い、協力するような関係です。物語の中で、幼なじみの関係から次第に恋愛へと発展していく関係性が描かれることがあります。ストルゲ型の恋愛は、このパターンに近いものだと考えられます。 次に、副次的タイプです。 マニア型の特徴は、熱狂的な愛情をもつことです。「マニア」という言葉からは、趣味に熱中する人をイメージするかもしれません。心理学で「マニア( mania)」は、うつ状態とは逆に気分が高揚して危険を顧みなくなる症状を示す躁病のことを意味します。マニア型の愛は、相手を理想化し、独占したいと思い、些細なことで嫉妬心を抱くことを特徴とします。マニア型の人は、恋愛関係を求める一方で、相手の心変わりや喪失に対する不安も抱きやすいと考えられます。関係をもったとしても、相手に自分の感情を押しつけやすく、それが満たされないことから欲求不満も抱きやすいかもしれません。 アガペ型は、相手のことを第一に考える、利他的な愛の形です。自分中心ではなく相手が中心で、相手の幸せや求めることをかなえるためなら自分が苦しんでもかまわないと考えます。献身的に相手に尽くし、見返りを求めることも少なく、嫉妬心にもつながりにくい愛情のスタイルです。アガペ型の愛情スタイルをもつ人は、寛大で忍耐強く、相手への理解力も高いとされます。しかし一方で、相手に引け目や罪悪感を抱かせてしまうかもしれません。 プラグマ型は、実用的な愛のスタイルだとされます。このタイプは愛情そのものではなく、何か別の目的や期待をもつ傾向があります。自分自身に、「幸せな家庭を築く」「相性が良い」「地位を向上させる」「お金持ちになる」などの理想が強くあり、恋愛をその目的を達成するための手段だと考えます。そのため、自分が理想的だと考える相手を探し、理想から遠いと相手を拒絶する傾向があります。一見、幸せそうな関係を築いていたとしても、内面は「幸せな人生を送るためには、愛し合うべきだ」と、愛情そのものではないところに目的が置かれているかもしれません。 これらの愛のパターンはルダス型─プラグマ型─ストルゲ型─アガペ型─エロス型─マニア型そして再度ルダス型と円環状に並べられ、隣り合った類型は似た特徴を、円の反対側の類型は遠い特徴を示します。コンピュータのお絵かきツールで色を選ぶときに、円環状のパターンが表示されることがあります。この色相環になぞらえて、恋愛色彩論と呼ばれることがあるのです。 ジョナソンらは、リーの恋愛類型論のうちどのパターンがダーク・トライアドに関連するのかを検討しています( 67)。三二五名を対象とした調査データを分析した結果から、ダークな性格は全体として、ルダス型とプラグマ型のスタイルに関連することが報告されました。また、女性よりも男性のほうがダークな性格からルダス型の恋愛スタイルに結びつきやすいことも示されています。ルダス型は恋愛関係をゲームのように楽しむことを重視し、プラグマ型は恋愛そのものよりも別の目的を前提として恋愛関係を営むパターンです。ダークな性格の持ち主は、恋愛そのものというよりもほかの目的を重視し、恋愛関係をその目的に利用する傾向があると言えるのかもしれません。†見知らぬ人に「今晩、一緒に過ごしませんか?」と言われたら あなたは大学のカフェテリアで一人座り、読書をしています。「すみません」と声をかけられて顔を上げると、見知らぬ異性の大学生が微笑みながらあなたに話しかけてきました。「突然で申し訳ありません。前からあなたのことが気になっていて。今晩、お時間があるようだったら、私とデートしませんか?」 いきなり声をかけられて、こんなことを言われたとしたら、あなたはどのような反応をするでしょうか。 ハワイ大学の心理学者ハットフィールドらは、大学の中でまさにこのようなフィールド実験を行いました( 68)。 時代は一九七八年です。ハットフィールドたちは、フロリダ州立大学の学生、女性五名と男性四名に協力してもらい、大学キャンパス内の異なる場所で見知らぬ異性に声をかけてもらいました。協力者たちには、機会があれば実際に一緒に一晩を過ごしてもよいと思えるほど魅力的な異性にだけ近づいて声をかけるように指示されていました(実際に、このように論文に書かれているのです)。まず、「前からあなたをキャンパスで見かけて気になっていました。とても魅力的な人だと思って」と、前振りをします。そして、次に三種類のセリフを用意しました。「今晩、私とデートしませんか?」「今晩、私のアパートに来ませんか?」「今晩、私と一晩一緒に過ごしませんか?」 ちなみに、声をかける協力者には事前にボードが手渡されており、順にページをめくっていくように指示されています。そして、そのページに書かれているセリフを言うことになっていたのでした。ちなみに、協力者たちは声をかけた異性の魅力度を 1点(全く魅力的ではない)から 9点(非常に魅力的)までの九段階で回答するようにも指示されていました。女性の協力者は声をかけた相手の男性を平均 7・ 30点だと評価しており、男性の協力者は声をかけた相手の女性を平均 7・ 70点だと評価していました。 さて、男性が声をかけても女性が声をかけても、「今晩、私とデートしませんか?」と声をかけられた異性のターゲットは、約半数が同意しました。一方で、「今晩、私のアパートに来ませんか?」と「今晩、私と一晩一緒に過ごしませんか?」への回答は、ほぼ同じパターンを示していました。どのような結果かというと、まず男性が声をかけた場合には、ターゲットとなった女性の同意率はほぼゼロ(アパートは 5%、一晩過ごすは 0%)でした。その一方で、女性が声をかけた男性ターゲットについては、七割前後が「いいよ」と同意したのです。 ハットフィールドたちは、一九八二年にも別の学生たちに協力してもらって、全く同じ実験をしています。そして、そこでの結果もほとんど同じようなものでした。
女性が声をかける場合には、男性たちは「どうして夜まで待たないといけないの?」とか「今は無理だけど、明日ならいいよ」と答えたりもしたそうです。一方で、男性に声をかけられた女性たちは「冗談でしょう」「どうしたの? 放っておいてよ」などと回答したという例が論文の中に挙げられています。 さて、予想どおりと言いましょうか、この研究が発表された後に、さまざまな議論が巻き起こったそうです( 69)。男性は軽薄なのだとか、社会的強者が弱者につけ込もうとする様子の表れだとか、多くの意見が主張されたようです。それに対してハットフィールドたちは、さらに複数の学生の顔をコンピュータで合成した架空の人物の顔写真を使って、この人物が「デートしてくれますか?」「私のアパートに来ますか?」「今晩一緒に寝ますか?」と声をかけてきたときの学生たちの反応についても実験で示しています( 70)。なお、この実験では「一緒に寝ますか?」と、以前の実験よりもより直接的な表現が用いられました。実験の結果、やはり女性よりも男性の方が、より直接的な性的な申し出を受け入れる傾向が強かったと報告されています。†ナンパとダークな性格の関連 ドイツの心理学者デュフナーやラウスマンたちは、ドイツの大都市ミュンヘンで、一八歳以上の異性愛者の男性六一名に、街の中で女性に声をかけてもらう実験を行っています( 71)( 72)。つまり、男性に協力してもらって、街中で女性に対してナンパをしてもらう実験です。この研究に参加した男性の平均年齢は二五歳でした。 研究に協力する男性たちはまず説明会に招待され、研究の目的について説明されます。そして研究への参加に同意し、いくつかの性格を評価する心理尺度に回答します。ここで、ダーク・トライアドについても評価が行われています。その後、二〇秒から三〇秒間の短い自己紹介をしてもらい、それをビデオで撮影します。この録画された自己紹介の動画を使って、全く別の人たちが、それぞれの参加者がどの程度魅力的な人物であるかを評価しました。 一週間から三週間後、それぞれの男性は約五時間かけてミュンヘンの街の中を歩き、自分で選んだ二五人の女性に声をかけます。そしてその場で、メールアドレスや電話番号などの連絡先を手に入れます。それぞれの女性に声をかけた後には、その女性の様子とどのようなやりとりをしたのかについて、またその際の自分自身の意識について簡単なアンケートにも回答しています。 なお、それぞれの男性は、女性に声をかけている最中、実験協力者である二名の女性観察者から目立たないように観察されていました。この観察者たちは、男性のやりとりを評価するだけでなく、女性に声をかけているときの状況を記録し、もしも不適切な言動を見かけたときには、いつでも中断させる役割を担ってもいたそうです。さらにこの観察者たちは、男性が去った後、声をかけられた女性に近づいていき、男性とのやりとりについて情報を収集する役割も担っていました。 なお、こういった研究を進めるためには、倫理的な配慮を慎重に行う必要があります。この研究も、ベルリンのフンボルト大学の倫理委員会で研究の手続きが審査されています。どの参加者についても、不快感を覚えたらいつでも参加を取りやめることができる状態であることや、この研究プロジェクトのすべての内容が包み隠さず参加者たちに開示されていること、じゅうぶんに説明を行った後で研究への参加の同意と本人の署名を得ることなどが、実験手続きの中で行われています。 この実験ではミュンヘンの街中で、実に一三九五名にのぼる女性が実際に声をかけられたと論文に書かれています。 そしてこの結果から、ナルシシズムの中でも自分に自信があり自らを称賛し、周囲にも優れた姿をアピールするような側面をもつ男性は、より多くの人数の女性に声をかけ、女性から全体的にも外見的にもより「魅力的だ」と評価され、より大胆な行動をすると評価される傾向が見られました。一方で、声をかけられた女性の身体的魅力についても評価が行われているのですが、ナルシスティックな男性がより外観が魅力的な女性ばかりに声をかけたのかというと、そういうわけではなかったことも報告されています( 73)。 加えてマキャベリアニズムに注目すると、声をかけるときの天気との関連で興味深い結果も報告されています( 74)。マキャベリアニズムが高い男性は晴れて明るい街中よりも、天気が悪く暗い雰囲気の場合に積極的な態度が見られ、声をかけた相手の女性から好ましく魅力的だと認識され、さらには相手の女性の笑顔が多くなる傾向も見られることが報告されています。 ラウスマンらは、ダークな性格の持ち主がより照度が低い、暗い環境の中で異性との環境が成立しやすいのではないかという仮説を立てています。そして実際に、マキャベリアニズムが高い男性は、明るい晴れた空のもとよりも暗い曇天の時に、異性へのアプローチに成功しやすいことが実験で示されたということです。ナルシスティックな男性が、全体的に女性から好ましい印象を引き出すのに対して、マキャベリアニズムが高い男性は暗い環境の中でより好ましい印象を引き出すという結果は、同じダークな性格でも実際の行動上の特徴や働きが少し異なる様子を表しています。 さて、実はこの研究についても、私は海外の学会会場の聴衆の一人として、たまたま発表の内容を聞いていたのでした。二つの論文について説明しましたが、これらのうちどの部分を学会会場で聞いたのかは、もう覚えていません。しかし、彼らの一連の実験手続きの内容を聞きながら、「なんという研究計画なのだろう。こんな大胆なことを実際に進めたなんて信じられない」と率直に思ったことを今でも鮮明に覚えています。世の中には面白いことを考えて、実際に行ってしまう研究者がいるものだと感心した出来事の一つでした。 2 ダークな性格の生活スタイル†夜型で街を好む性格 そもそも、ダークな性格の持ち主は、朝型というよりも夜型の生活を好む傾向があるようです( 75)。ある個人が日々の生活の中で、どの時間帯にもっとも活動的になり、どの時間に睡眠をとりがちなのかというパターンのことを、クロノタイプと言います。平たくいうと、朝型か夜型かという個々人の生活パターンのことです。 ジョナソンらは、クロノタイプとダーク・トライアドとの関連を検討し、ダーク・トライアドの高い人達が夜型のクロノタイプをもつ傾向にあることを報告しています。先ほどの男性が女性に声をかける研究でも報告されたように、ダークな性格の持ち主は朝よりも夜になると、活発に活動しがちなのかもしれません。 ちなみに、イグ・ノーベル賞という、「人々を笑わせ考えさせる研究」に対して贈られる賞があります。これはノーベル賞のパロディーなのですが、であるにもかかわらず世界中で知られており、毎年ハーバード大学で行われる授賞式の様子は動画でも中継されますし、ニュースとして報道もされます。日本人研究者も毎年のように受賞していますので、ニュースを見かけたことがあるのではないでしょうか。そしてジョナソンは、ダークな性格の持ち主が夜型だというこの論文で、二〇一四年のイグ・ノーベル賞を受賞しているのです。 またジョナソンらは二〇一八年の論文で、ダークな性格の持ち主がどのような場所に好んで居住しがちかということも検討しています( 76)。性格と居住地との関連は、二一世紀になってから注目されるようになった研究テーマの一つです。 たとえば、活発で社交的な特徴をもつ外向的な人は、海辺や開けた広い場所を好み、内向的な人は山や木々が茂った土地を好むという報告があります( 77)。また、アメリカ合衆国では、知的好奇心が高く創造性豊かで多様性を受け入れる特徴をもつ開放性が高い地域では、共和党支持者よりも民主党支持
者が多く、リベラルな政治的志向をもつ人々が多く、特許出願数や芸術文化系の職業が多い傾向があると報告されています( 78)。 さて、ではダークな性格の持ち主たちは、どのような地域に住む傾向があるのでしょうか。論文の中では三つの調査結果が報告されています。最初の調査では、いずれのダーク・トライアドも高い人々は、人口密度の高い地域に居住する傾向が見られています。しかし部分的に男女差があり、サイコパシーの高い男性は人口密度の高い地域に居住し、サイコパシーの高い女性はむしろ人口密度の低い地域に住む傾向が見られています。 また二つ目の調査では、ダーク・トライアドの高い人々が、田舎よりも都会に住む傾向が見られることが報告されています。そして三つ目の調査では、どのような地域に住みたいかが検討されました。その結果、ダーク・トライアドの高い人々は田舎や郊外よりも、都市部に居住したいと考える傾向が見られることが示されています。 朝型というよりも夜型で、田舎よりは刺激の多い都市部に住みたいと思い、実際に居住する傾向がある人々の間で、ダークな性格が高い傾向があるようです。もちろんこれらの結果は、確率的にその傾向が高いということを示しているに過ぎません。しかし、このような人たちは、穏やかで安全な環境よりも、刺激が多く危険に巻き込まれる可能性のありそうな場所に魅力を感じるのかもしれません。†情緒的な結びつきのない性的関係を好む ソシオセクシャリティという言葉をご存じでしょうか。これは、情緒的な結びつきがない相手との間で、性的な関係を築く傾向のことを指します( 79)。多くの相手と性交渉を行うこと、一度きりの性交渉をした相手が多数いること、深い愛情を伴うことなく性交渉を行うこと、また、会ったばかりの相手との性交渉について何度も空想してしまうことなどが具体的な例です。実際の行動や相手に対する態度、そして願望という側面から成り立ちます。 研究結果によると、ソシオセクシャリティは女性よりも男性で顕著に見られ、浮気をしたり不倫をしたりすることにも密接に関係しています。 ドイツで企業のコンサルタントもしつつ心理学の研究もしているフリースと、ここまで何度も登場している心理学者ジョナソンは、ダーク・トライアドとソシオセクシャリティとの関係を検討しています( 80)。ドイツ語圏で約五〇〇名を対象にオンライン調査が行われ、ダーク・トライアドとともに、行動・態度・願望の側面からソシオセクシャリティが測定されています。 加えて、これまでの人生での性的パートナーの人数、一夜だけをともにした相手の人数、避妊なしでの性交渉、出会い系アプリを介したセックス・パートナーの人数、さらに女性の場合にはセックスワークに従事した経験、男性の場合には客として利用した経験があるかどうかなど、多岐にわたる合計で二二個の側面からソシオセクシャリティに関連する行動や特徴が測定されました。 ソシオセクシャリティの二二側面のうち、マキャベリアニズムと関連が見られたのは一四側面( 64%)にものぼりました、またサイコパシーは一〇側面( 45%)と関連が見られ、ナルシシズムと関連が見られたのは四側面( 18%)にすぎませんでした。また男女別で見ると、マキャベリアニズムは女性よりも男性において、ソシオセクシャリティとの関連が多くみられました。一方で、サイコパシーに関しては、男性よりも女性で性的活動と密接な関係が見られたということです。カジュアルな性交渉を行うのは、マキャベリアニズムが高い男性と、サイコパシーが高い女性の組み合わせだということなのでしょうか。†マッチングアプリとの親和性 二〇二〇年以降、インターネット上でユーザー同士を引き合わせるサービスであるマッチングアプリの市場が日本でも急成長を遂げています。特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック中には、現実の人間関係が大きく制限されてきました。このような背景の中で、ますます多くの人々がこのサービスを利用するようになってきたように感じます。大学の中でも学生たちが当然のようにマッチングアプリを利用しており、実際にカップルになる事例も珍しくありません。 スマートフォンが普及する以前にも、パソコンを使って電話回線経由で通信をしていた時代からオンラインの出会い系サービスは存在していましたし、一九九〇年代には電話回線のダイヤルQ2(キュー・ツー)サービスを利用したツーショットダイヤルも話題になっていました。時代は移り変わり、現在では圧倒的にスマートフォン上のアプリを介したサービスが多くなっています。この手のアプリは、位置情報ベースのリアルタイムデーティング( Location-Based Real-Time Dating: LBRTD)と呼ばれています。 オンラインを介したサービスは、身のまわりを中心としたネットワークに比べると、より広いネットワークの中で恋愛相手や結婚相手の候補と出会うことを可能にします。また、事前に詳細な個人情報を登録しておくことで、同じような性的嗜好性や同一の宗教的背景をもつパートナーとマッチングすることもできます( 81)。 マッチングアプリを用いる背景には、さまざまな要因があることでしょう。結婚相手を求めることを婚活、婚活になぞらえて恋愛相手を求める活動を恋活と言ったりもします。また、一時的な遊び相手を求めるために、マッチングアプリを使用する人もいることでしょう。各社のマッチングアプリ、それぞれ目的を絞る傾向もあります。 さて、ここまで見てきたように、ダークな性格の持ち主は一時的な恋愛を求める傾向があるようです。この特徴からすると、マッチングアプリの利用率も高いのではないかと予想されます。では、実際に関連を検討した研究の結果は、どうなのでしょうか。 実際に普段のマッチングアプリの利用状況と、性格との関連を検討した研究があります( 82)。ドイツで五〇〇名以上がアンケート調査に参加し、さらに約半数がスマートフォンの利用状況を追跡するアプリをインストールしています。この方法で、アンケートによる自己報告でマッチングアプリをどの程度利用しているのかと、実際にスマホでどれくらいマッチングアプリを利用しているのかという両方の情報を得ているということです。 そして結果から、ナルシシズムとマキャベリアニズムが、全体的なアプリの利用と一日あたりのアプリの利用にそれぞれ関連することが示されました。加えて、ダーク・トライアド以外の一般的に見られる性格の枠組みである、ビッグ・ファイブ・パーソナリティ(外向性・情緒安定性・開放性・協調性・勤勉性の五つ)と比べると、明らかにダークな性格の方が、マッチングアプリの利用率に強く関連するということが示されています。 性格特性の中でもダークな性格群は、マッチングアプリとの親和性が高いようです。†マッチングアプリで荒らし行為をする人々 日本国内では参入障壁の低さからか、非常に多くのマッチングアプリがサービスを提供しています。一方で、世界最大のマッチングアプリといえば、ティンダー( Tinder)です( 83)。ティンダーは二〇一二年にサービスが開始され、現在では一九〇カ国以上でサービスを展開しています( 84)。 マッチングアプリについては、利用に伴って危険性が指摘されることもあります。特にティンダーは無料で利用できることもあり、「 Tinder」を検索しようとするときの検索サイトのサジェスト機能(自動的に検索用語を表示する機能)でも、「危険」「身バレ」などあまり望ましくない言葉との組み合わせが表示される印象があります。 マッチングアプリ上で、迷惑行為は生じるのでしょうか。一般的に、ネット上の荒らし行為というのは、他人を意図的に挑発し、争いや感情的な反応、コミュニケーションの分断を引き起こす欺瞞的で破壊的な行為とされるものを指します( 85)。ネット上で人々を困らせることを意図して投稿したり、物議
を醸すような話題を SNSで拡散したり、面識のない人を困らせるようなコメントを残したり、攻撃的な投稿をして相手が困っている様子を面白がったりすることです。このような行為をする側は、される側の気持ちをあまり考慮しないのではないでしょうか。 SNSなどネット上で辛辣な言葉を投げかけられたり、迷惑な行為をされたりすることの悪影響は、実際の対人場面でハラスメントを受ける際の心理的な悪影響と似たものだという指摘があります( 86)。実際、何気なく書き込んだ投稿に対して攻撃的な反応が返ってくると、目の前で言われたかのように腹が立ち、この出来事が何度も頭の中で反芻されてしまうものです。「何か相手に返した方がいいのではないか」「でも、このまま放っておくのがいいのか」と思い悩み、苦しい思いをする人もいることでしょう。しかも相手は匿名で、誰なのかもわかりません。冷静に考えてみれば、些細なことですしどうでもいいことなのかもしれませんが、この些細なことで思い悩んでしまうこともあります。 もしも相手が意図的に、あなたが思い悩むことになるだろうと想像してあえてこの攻撃的な書き込みをしてきたら、どうでしょうか。悪意をもって攻撃的な書き込みをすることも、ネット荒らしの例です。そして、これらのネット上の荒らし行為は、ダークな性格に関連することが報告されています( 87)。そしてダークな性格の中でも特に関連するのは、他者が苦しむ様子を見て喜ぶ特徴をもつサディズムなのです。 では、マッチングアプリ上での荒らし行為とダークな性格との関連はどうなのでしょうか( 88)。研究の中で検討されているのは、攻撃的なコメントを投げかけたり、荒らし行為を楽しんだり、アプリに参加している人を悲しませようと意図してやりとりをしたりすることを行う傾向についてです。 結果から、マッチングアプリ上の荒らし行為は、ダークな性格の中でも特にサディズムとサイコパシーと強く関連することが示されました。この結果は、他の人をバカにしたり辱めたりすることの中に楽しみの要素を見出し(サディズム)、他の人の苦痛を深刻に捉えない(サイコパシー)傾向が、マッチングアプリ上の荒らし行為に関連することを意味します。ナルシシズムやマキャベリアニズムが関連しなかったということは、自己を素晴らしく見せようとしたり、他の人を思い通りに利用したりするよりも、より衝動的で悪意を伴う要因が、マッチングアプリ上の荒らし行為に関連することを示唆しています。†略奪愛とダークな性格の高さ マッチングアプリを、浮気や不倫に使うというケースがあるかもしれません。恋愛関係における略奪( mate poaching)という行為があります。これは、すでに恋愛関係にある個人を惹きつけようと意図された行動であり、ほかの人の恋愛パートナーを自分の交際相手にするために奪う行為のことです( 89)。調査によると、日本では男性の 12・ 5%、女性の 8・ 1%はほかの人のパートナーを奪った経験があり、男性の 12・ 2%、女性の 4・ 8%は自分のパートナーを誰かに奪われた経験があるそうです( 90)。恋愛関係の中でパートナーを誰かに奪われたり、また自分が奪ったりする現象というのは、思ったよりも身近にあるようです。 そして、この「奪ったり奪われたりする」恋愛関係のあり方が、ダーク・トライアドに関連するのかどうかを検討した研究があります( 91)。この研究では、平均年齢二〇代後半の男女三三六名を対象にした調査が行われています。調査の内容は、ダーク・トライアドと交際関係を維持する努力、そして略奪や被略奪関係についてです。 ここでの交際関係を維持する努力というのは、相手に愛情を注ぐことというよりは、うまく相手をつなぎ止めておくテクニックに近いものです。相手の気持ちが離れないように警戒することや相手の時間を独占すること、相手の嫉妬心を誘発するような行動をすること、相手が不倫をしたら罰を与えること、性的な魅力を相手に示すこと、恋愛のライバルに対して脅したり暴力をふるったりすることが含まれます。略奪関係については、自分が奪った経験、ほかの人に奪われた経験、パートナーを奪われた経験、一時的な浮気の経験などが尋ねられています。 分析の結果から、交際関係を維持する努力についても、略奪・被略奪関係についても、ダークな性格の高さに関連していることが示されました。また、ダークな性格の高さが略奪関係の多さにつながり、そこから交際関係維持行動へとつながることも示されました。加えて、先に述べたような極端な交際関係維持行動を行うことで、かえって交際相手が去っていく傾向が高まることも示されています。 ダークな性格の持ち主は、パートナー自身への関心があまり高くなく、関係性そのものを楽しんだり関係をもったりすることで得られるメリット(性的、金銭的、地位など)に焦点が向きやすいと考えられます。そして、進行中の関係から新しい関係へと移行することについても、あまり躊躇がありません。新しいパートナーを得たり、人から奪ったり、自分自身が誰かに奪われたり、一時的な関係性をもったりすることで、結果的に多くの相手との関係をもつことへとつながります。 さらに、ダークな性格の持ち主は、略奪されそうになる状況に気づくと、あの手この手で交際を維持しようと行動するようになります。しかしその行動には、相手を縛り付けて自分の思いどおりにしたいとする意図や欲求が伴いがちです。その結果、最終的に関係が長続きしていないことを、この研究の結果は示しています。†カップルの満足度とダークな性格 カップルにとって互いの関係に満足することは、関係の継続や終了に大きく影響する要因の一つです。しかし、関係性と満足度は、完全に合致するわけではありません。互いのやりとりが少なく密な関係性がなくても、十分に満足しているカップルもいますし、やりとりが多くてもお互いにあまり満足していないカップルもいます。また、満足するから密接な関係性が生じるのか、密接な関係性が形成されるから満足するのか、両者の因果関係についても明確ではありません。 これらの因果関係については、カップルの関係性が自動車の実際の速さ、満足度がスピードメーターのようなものだと考えるとよさそうです。自動車が速く走れば、スピードメーターの数字は上昇します。同じようにカップルの関係性が形成されていけば、その関係の中で満足を得やすくなるでしょう。つまり、関係の満足度は、関係性の内容で上下するメーターのようなものだという考え方です。一方で、スピードメーターを無理やり操作しても自動車のスピードは速くはなりません。同じように、無理やり認識を変えたり思い直したりして満足度だけを高めても、実際の関係性が進むという保証はありません。関連があることと、因果関係があることとは異なるのです。 さて、カップル二〇五組を対象として、ダークな性格と関係性の満足度とのあいだの関連を検討した研究があります( 92)。調査対象者のうち、既婚のカップルが約三割、交際中のカップルが約七割でした。年齢は一八歳から五六歳で、交際期間は一年間から二二年間、平均は約六年間です。カップルの両者が、自分自身やパートナー、そして両者の関係性についてアンケートに回答しています。 分析結果から、まずダーク・トライアドについては、本人の認識とパートナーが抱く印象が、ある程度一致する傾向が見られています。この中で、報告がより不一致になるカップルほど、関係の満足度が低下することが示されました。また、各自のダークな性格が顕著になるほど関係の満足度は低くなること、パートナーのダークな性格が高まることも関係を悪化させる要因になることも示されています。加えて、サイコパシーとナルシシズムに関しては、カップルの男女間でレベルが大きく異なるほど、関係の満足度が低下する傾向も見られました。さらに、男性側よりも女性側のダークな性格のレベルが、関係の悪さに影響するという傾向も報告されています。 非常に複雑な結果ですが、単にダークな性格が高くなれば関係が悪くなりやすいというだけでなく、関係性や満足度について考える場合には、カップル両者の性格の組み合わせも考える必要がありそうです。
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