第 3章そこに、その〈場所〉をつくる
1どうやって、声をかけるのか?気のきいたことを言わなくていい「何かあったらいつでも聞いてね」では、聞けない「質問」と「質問のようなもの」部下はそもそもエモーショナルワークで疲れている That’ s it!それだよ!部下の話を聞く部下が話す機会をつくる 2どうやって部下に話させるのか?そもそも部下は話さないなぜ、部下は黙ってしまうのか?どんな条件がそろったら話し始めるのか? 3信頼関係を築く互いに〈居場所〉をつくる好意を伝える要望する
第 3章 そこに、その〈場所〉をつくる
1 どうやって、声をかけるのか?
気のきいたことを言わなくていい 〈三分間コーチ〉によって双方向のコミュニケーションの〈場〉をつくっていくことが、組織の成長と目標達成に必要だということ、そして、その〈場〉のためには、何をどう話すかではなくて、その頻度と場面が大事だ、という話をこれまでしてきましたが、とはいっても、具体的に、どんなふうに声をかければいいのか? というのが、本書を読んでいる方にとっての大きな関心事のひとつだと思います。
実際、声のかけ方、質問の仕方次第で、部下は思っていることを自由に話しもすれば、表面的なこと以外は口をつぐんでしまいもするのを、マネジャーたちは身にしみて知っています。
まず、最初に知っておいていただきたいのは、気のきいたことを言わなくていい、ということです。
気のきいたことを言おうと気負って部下の前に立てば、その気負いだけが伝わってしまいます。
〈三分間コーチ〉は、気のきいたことを言う必要などありません。
起承転結もいりません。
ともかく、三分間の会話の終わりは、「続きは、また明日」「今日は話せてよかった」で十分です。
「何かあったらいつでも聞いてね」では、聞けない 前の章でもお話ししましたが、「何かあったらいつでも聞いてね」、これでは、部下は聞きに来られません。
だいたい、何かあったら、なおさら聞けません。
それに、そもそも何を聞いたらいいのか、それがよくわからないというのが現状です。
何を知らないのか、それを知らない人には、そもそも質問などできないのです。
では、どうすればいいかというと、まず、上司であるあなたから部下に対して具体的な質問をすることです。
その質問を通して、部下は質問の仕方を学びます。
そのようにして、部下が質問できるようにするのが上司の仕事です。
ある自動車販売会社のマネジャーは、部下が営業に出かける前、以前は、ただ「がんばれよ」と言っていたのを、コーチングの研修後、 「どこに行くの?」 「今日どんな感じで売っていくの?」 と、具体的に尋ねるようにしました。
すると、それだけで、部下の売り上げが上がったといいます。
営業前に話をさせることで、部下の頭が整理されたり、足りないところが明らかになって準備し直したり、その場でロールプレイをすることができるようになったからだそうです。
さらに、部下が営業から帰ってきたあとも、それまでは漠然と、「どうだった?」と聞いていたのを、「朝言っていたような感じで売れた?」とか「で、朝、言っていたあのお客さまはどうだった?」と、具体的に聞くことができるようになったそうです。
三分間は、〈コーチング・カンバセーション〉には十分な時間ですが、雑談を交えるには短すぎます。
できるだけ具体的に、そして、率直に本題に入りたいものです。
・「スケジュールについて聞きたいことがある」 ・「会社のビジョンやミッションについて、どう思っているか聞きたい」 ・「営業のスキルについて尋ねたいことがある」 ・「ストレスはたまっていない?」 ・「休みのとり方、相談してね」 ・「パソコンなど、ツールの使い方で、困っていない?」 ・「人間関係、コミュニケーションについて、少し話そう」 このように、上司のほうが具体的な質問をしていけば、やがて、部下も具体的な質問ができるようになります。
もちろん大きな質問と小さな質問を織り交ぜながら会話します。
要するに、上司が質問の仕方のモデルになることです。
そうやって、部下に質問の練習をさせることもできるのです。
【3秒間ナレッジ】 18部下が質問できるようにするのが、上司の仕事。
「質問」と「質問のようなもの」 基本的には何を聞いてもいいのですが、気をつけなければいけないことがいくつかあって、その代表的なものが、相手が「はい」としか答えようのない質問をしてしまうことです。
実際、上司のする質問の多くは、部下に「イエス」を言わせるためのものです。
「元気か?」「はい」 「仕事は順調か?」「はい」 あるいは、自分の求めている答えに誘導するための質問もあります。
「今日のわたしのプレゼン、どうだったかな?」 「いやあ、さすが、感服いたしました」 それから、質問を使って相手を貶める、というのもあります。
「どうもわたしの求めている答えは、きみからは得られないようだね」 これでは、最初から正解を持って質問しているわけで、正確には部下を試しているだけのことです。
また、質問を投げかけているようでいながら、結局は、自分の意見をそこで展開する、というのも上司のよくやる芸当です。
「僕はこう思うんだよ、それはね、ぺらぺらぺらぺら……」 これらを通して部下は学習します。
「適当に答えておこう」 「当たり障りのないことを答えておこう」 で、結局、上司は部下からほんとうに価値のある情報を引き出す機会を失うわけです。
部下には、質問に対して伸び伸びと自由でいられるようにしてやりたいものです。
正解だけを求められるようになると、部下は萎縮してしまいます。
それでは、部下を育てることはできません。
部下の創造性を引き出すことは、部下育成の重要な課題のひとつですから、当然、〈三分間コーチ〉の目的のひとつともなります。
そして、創造性というのは「 Beyond」つまり、「超える」ときに生じます。
これまでの思い込み、枠を超えるときに生まれます。
ところが、正しい答えを要求し続けると、創造性はどんどん萎縮してしまいます。
もし、部下の創造性を引き出そうと思うのであれば、「イエス」を要求しないこと。
使えそうもないアイデアを一〇〇〇は聞く覚悟がいります。
部下はそもそもエモーショナルワークで疲れている だいたい、会社の中で部下たちは、上司に対してエモーショナルワークを強いられているものです。
エモーショナルワークというのは、人に気を遣うこと。
もとより、部下は、上司の機嫌を損ねることを恐れています。
特に、上司のプライドやエゴを傷つけないように注意し、コミュニケーションを交わすときも、気を配っています。
仕事上の提案や要望の内容よりも、むしろエモーショナルワークに、エネルギーが割かれてしまいがちです。
コミュニケーションは、基本的に対等な立場で交わされるものです。
たとえ上司、部下の関係であっても、コミュニケーションを交わすときにはできるだけ自由な関係が望ましいのです。
そうでなければ、コミュニケーションによってもたらされる成果が薄まってしまうからです。
部下に気を遣わせて、それで自分のアイデンティティーを保ったり、自分の不安を払拭するために、部下に「イエス」と言わせるような関わりの持ち方は改善されるべきです。
【3秒間ナレッジ】 19正しい答えや「イエス」を要求し続けると、創造性は萎縮する。
創造性を引き出すには、使えそうもないアイデアを一〇〇〇は聞く覚悟が必要。
That’ s it! それだよ! 教えたり注意したりするのではなく、よく観察していて、もしかしたら本人さえも気がついていない言動や行動に「それだよ!」と伝える。
それが、もっとも効果的な「声のかけ方」のひとつです。
これを〈アクノレッジメント(承認すること)〉といいます。
上司はよく「ほら、またやった!」と言わんばかりに、失敗のほうを観察しては、それを注意してしまい、本人も、その周囲の人たちも萎縮させてしまいます。
しかし、この〈アクノレッジメント〉では、うまくいっていること、これからうまくいきそうなことを部下がやったとき、そのことを指摘します。
ほめるのではなく、事実を事実として伝えます。
そうやって、方向性を示します。
たとえば、 ・会議の時間に全員がそろったら「時間どおりだね」。
(遅れたときに注意するよりも効果的です) ・クレームの電話を自分からとったときには、「自分から電話をとったんだね」。
・朝早めに出社して、仕事の準備をしているのを見たら、「毎朝早く来ているね」。
・失敗を報告に来たときには「自分から言いに来たんだね」。
・メールへの返事があったときには、「返事、受け取りました」。
・約束が守られているときは、「約束が守られているね」。
・企画書がよかったときは、「きみのつくった企画書はそのまま客先に出したよ」。
そのほか、 ・ルーティーンの仕事に変化をもたらしたとき ・小さな創意工夫があったとき ・他人に対する思いやりを示したとき ・気のきいた行動があったとき 部下が、目標やビジョンが持てない、仕事に自信を持てないでいるとき、部下の顧客志向を高める必要を感じたときには、この〈アクノレッジメント〉が特に機能します。
部下の肯定的な態度や行動を〈アクノレッジメント〉することで、部下を方向づけすることができます。
賞賛は評価ですが、〈アクノレッジメント〉は、「方向づけ」です。
「ここまで来たね」という到達点と未来を示すものです。
〈アクノレッジメント〉の定義をより正確に言うと、「相手に現れている違いや変化、成長や成果にいち早く気づき、それを言語化して、相手にはっきり伝えること」です。
そして、望ましくは、相手が自分自身ではまだ気づいていないことを、先に察知してそれを伝えることができれば、より効果的な〈アクノレッジメント〉になります。
人は、自分のやったことを通して、自分自身の成長や変化を知ることに喜びを覚えます。
そのこと自体に達成感を持ちます。
この「自己成長感」が、人のやる気や自発性を強く促すエネルギー源となり、人を結果重視型から、プロセス志向型に移行させます。
そして、仕事自体を楽しむようになります。
〈アクノレッジメント〉は、部下の自己成長に対する認知を援助するスキルとして、また、無理なく変化に適応していく力を育成するスキルとして、〈三分間コーチ〉が行うコーチングの重要な柱となるでしょう。
【3秒間ナレッジ】 20部下の肯定的な態度や行動をアクノレッジメントすることで、部下を方向づけることができる。
部下の話を聞く 一昨年、ニューヨークで行われたエグゼクティブ・コーチングの国際カンファレンスで興味深い発表を聞きました。
アメリカのあるコンサルティング会社が過去半年以内に自社を退職した退職者について、なぜ辞めたか、その理由を第三者機関を使って調査した結果です。
なかでも印象的だったのは、同社のシニアパートナーだった女性のインタビュー結果で、彼
女は、高い業績をあげ、社外、社内の両方から信頼が厚く、将来を嘱望されていた女性だったので、彼女が辞めたことは同社にとって大きな痛手でした。
仕事もうまくいっていたのに、なぜ、彼女は転職してしまったのか? 彼女がインタビュアーに語ったところによると、彼女は、半年にわたり外部のヘッドハンターから、ヘッドハンティングを受けていたそうです。
ヘッドハンターは頻繁に電話をかけてきて、そこで、将来どうしたいのか、何を実現させたいのかなど、彼女のビジョンについて、たくさん話を聞いてくれました。
そのヘッドハンターとの会話がきっかけとなって、彼女は将来について考えはじめ、そして、転職を決めたということでした。
最後に、彼女は調査会社のスタッフにこう言ったそうです。
「社内には、そのヘッドハンターのように熱心に、わたしのビジョンを聞いてくれる人はいませんでした。
そもそもわたしの話を聞くために時間をとってくれる人はいなかったのです」
部下が話す機会をつくる 上司は、何をどうやって部下と話したらいいのかとそのことを心配しますが、それよりも心配しなくてはいけないのは、いかに部下の話に耳を傾けるかです。
いかに、今やっている仕事の進捗状況を、彼らに彼らのことばで話す機会を与えるかです。
話す機会が与えられれば、部下は、懸命に自分の仕事の状態を説明しようと試みます。
人に自分のやっていることを聞かせることができるようになるには、自分がそれについて十分理解していなければなりません。
したがって、話すことを通して、自分の業務についての理解も、自然と深まります。
部下に仕事の進捗を話す機会を与え、そして、提案・要望を伝えることは、部下のモチベーションをあげるのに、もっとも近道のスキルです。
実際、わたしどもが、企業のマネジャークラスとその部下に対して行った「コーチング・スキル・アセスメント( CS A)」(対象者本人による評価とその部下からの評価を測定し、そのギャップを明確にするもので、対象者自身の課題を明らかにするとともに、全員の結果を集計・分析することにより、組織の課題も把握することができる)でも、上司の〈聞く〉スキルの高い部署では、全体に業務がうまく回り、かつ部下のモチベーションも高く、結果として、業績も高くなっていることが認められました。
2 どうやって部下に話させるのか?
そもそも部下は話さない 前の項の最後に、自分が話すことより、いかに部下の話を聞くか、いかに部下に話させるかが重要なポイントだとお話ししました。
けれども、実際のところ、部下はいつでも何でも、自分から話してくるわけではありません。
というより、そもそも部下というのは話さないものです。
特に、若手の社員は決して自分からは話しません。
話したとしても、ごく限定的なことしか話しません。
部下を一人でも持ったことのある人ならだれでも、部下をコミュニケーションする気にさせるのがそうそうたやすいことではないのを知っていると思います。
部下とのコミュニケーションでいちばんむずかしいのは、あまり話さない部下との間に、いかにコミュニケーションを起こすかでしょう。
または、決まったことしか話さない、本音の見えない部下と、いかに本音のコミュニケーションを交わすかでしょう。
たとえば会議では、よほどうまく進行しないと、話す人が限られてしまいます。
一般に、会議の席上、面と向かって話しているときに、部下が黙りこんでしまったり、決まりきった反応しかしなくなるときほど、上司が自分の無力を感じることはありません。
面談でも同じことが起こります。
黙って聞いているからといって、彼らが自分の考えに同意しているわけでないことは十分察知できます。
いかに自分の考えていることや会社の方針をうまく部下に伝えるか、または、彼らを説得できるか、それも大事ですが、それ以上に、彼らをコミュニケーションを交わす気にさせることのほうがずっとむずかしいと、多くの上司が感じていると思います。
なぜ、部下は黙ってしまうのか? では、なぜ自発的に発言しないのか? なぜ質問しても答えないのか? なぜ何の提案もないのか? なぜ黙ってしまうのか? これらについては、あまり理解されていないように思います。
そこで、さまざまな機会に、わたし自身の部下たちにインタビューをしてみました。
どちらかというと、わたしには言い詰めてしまう傾向があり、このインタビューの最中も、沈黙の反撃を何度か受けました。
こちらが思ったような答えを要求したり、せかしたりすると、相手は黙ってしまいます。
または、こちらの思うような答えをしてきます。
それでは役に立ちません。
多くの場合、この手のリサーチは外部の調査会社に依頼する理由のひとつが、そこにあるのでしょう。
さて、どんなときに黙ってしまうのか? 「自分の意見に自信がないとき」 「ふだん、あまり業績がよくないのに、意見だけ言うのはまずいと思う」 「思っていることをうまくことばにできない。
まとめている間に話が移ってしまう」 「変なことを言って浮いてしまいたくない」 「意見を言える立場ではない」 「あまり役に立ちそうな考えがない」 「言いたいことを他の人が先に言ってしまったから」 「何を言っても結局、上司の意図したところに誘導されるのがわかっているから」 「最初から求められている答えが決まっているから」 「上司の意に沿わないことを言ったら、責められるから」 「自分には重要なことでも上司は軽視している。
そこではとても話せない」 「自分の話以前に、上司は自分に興味を持っていない」 「自分がしゃべることを期待されているとは思えないから」 「どうせ言っても無駄だから」 「上司が明らかに自分の話を聞いていないのが態度でわかるとき」 部下の言い分が全部正しいわけではありません。
けれども、彼らが黙っているときにはそれなりの理由があります。
一人ひとり理由は違いますが、黙っていることには理由があるのです。
人と話すことに慣れている人は忘れてしまっているかもしれませんが、初対面の人と向き合ったとき、自分が失敗をして弁明をするとき、自分の要望を伝えるとき、お願いするとき──それはちょうど、飛び込み台の上から、プールを見下ろしているときと同じ心境なのです。
続けて何度も飛び込んでいればどうということもないでしょうが、慣れていない者にとっては、いきなり高さ十メートルの飛び込み台の上に立って飛び込めと言われても無理な要求なのです。
もちろん、いずれどこかでジャンプする必要はあります。
でも、そのためには練習の機会が必要です。
どんな条件がそろったら話し始めるのか? ではいったい、どういう条件がそろったら、話し始めるのでしょうか? 「頼られている、任されている、認められていると感じるとき」 「話してもいいという安心感があるとき」 「答えやすい質問を受けたとき」 「受け入れられていると感じるとき」 「具体的な質問を受けたとき」 「自分の意見を尊重してくれていると感じるとき」 「自分へのリクエストがはっきりしているとき」 「それは何? どんなこと? と、興味と関心を持ってくれていると感じるとき」 「自分と話すために時間をとってくれている」 「結論だけではなく、プロセスにも興味を持ってくれている」 「押しつけてこない」 「ブレーンストーミングなのか、何かを決定する会議なのか事前にわかっているとき」 「身を乗り出して聞いてくれているとき」 十メートルの高さから飛び込ませるのではなく、一メートルとか三メートルのところから少しずつ毎日なら、飛び込ませることはできます。
継続的な〈三分間〉には、その意味も込められています。
さて、あるガソリンスタンドの店長は、スタンドの中をいつも忙しく動き回り、スタッフに声をかけます。
彼が店長になるお店はつねに売り上げがトップになります。
彼は当時弱冠二十六歳。
「今、お昼ごはんのことを考えていなかった?」 「いえ、考えていませんでした」 「そうか」 そう言って、ほかのスタッフのところへ行ってしまう。
そして、また戻ってきて、 「今、頭に浮かんだこと、言ってみて」 「今ですか?」 「そうそう、頭に浮かんだこと、何でもいいよ」 彼は無理に返事を要求しません。
たとえ挨拶をして返事がなくても、それをとがめることはありません。
挨拶に返事がなくてもいいのです。
むしろ、返事がなくて不安になるのは上司のほうで、その不安を解消するために部下を叱ってしまうのです。
でも、それでは、何のためのコミュニケーションかわからなくなってしまいます。
彼は言いました。
「わたしの仕事は、彼らが話してみたいと思わせること。
そして、彼らが話すことを通して、自信を持って仕事ができるようにすることです。
だから返事はなくても、とにかく声をかける。
そして、少しずつ彼らについて知っていって、そして、少しずつ話をするようにするんです」
3 信頼関係を築く
互いに〈居場所〉をつくる わたしたちは人と関わるとき、まず、お互いの距離を測るものです。
相手にどこまで近づいていいのか、どこまでことばにしていいのか、その距離をつかむ。
そうしないと、いつまでたっても、自由にものを言うことができないからです。
この、お互いを詮索するためのコミュニケーションを交わさなくてよくなった状態が、「お互いに理解し合っている状態」だともいえます。
それは、ことばを替えれば、互いに〈居場所〉を持つことです。
わたしたちは、自分のことについて知っている、理解してくれている人がいることで、そこに自分の〈居場所〉を持つことができます。
たとえば、だれでも、仕事で失敗することがあります。
その背景に、仕事の能力だけではなく、家庭の事情やプライベートな事情がある場合があります。
たしかにそれを会社に持ち込むのは問題ですが、それでも、そのことを知ってくれている人がいれば、特にそれが上司なら、そこに〈居場所〉ができます。
このように、わたしたちには、完全に否定されてしまわない、または、事情を理解してくれている、むしろ受け入れられている、そういう〈居場所〉が必要です。
〈居場所〉があること、安心感があること、それが人間が行動するときのベースになります。
戻るところがあればこそ、行動も起こせます。
〈居場所〉のあることが行動の起因になります。
もう一点、相手を理解することの重要性は、そもそもわたしたちが〈関わり〉の中に存在しているという点にあります。
わたしたちは孤独な存在ではなく、〈関わり〉の中に存在しています。
だから、人との〈関わり〉が薄くなると、孤立感が生まれ、孤立感が強くなると、自意識過剰になったり、被害者的な心理状態になったりしがちです。
そうなると、人との関係はますます疎遠になってと、負のスパイラルに陥ってしまいます。
けれども、そういう状態にある人でも、ひとたびお互いを理解する機会があると、相手を理解し自分を理解してもらう過程で、〈関わり〉を取り戻すことができます。
必要以上にプライバシーに踏み込まなければいけないわけではありません。
しかし、仕事で見せている以外の、人間的な〈生〉のその人に触れることで、〈関わり〉を取り戻すことができます。
〈関わり〉があるという実感は、〈居場所〉そのものなのです。
【3秒間ナレッジ】 21部下は、職場に〈居場所〉を求めている。
好意を伝える 上司の仕事は、部下に仕事をさせることではありません。
部下を自分から進んで仕事をやろうという気にさせることです。
そのためには、部下に期待や要望などを一方的に伝えたり、正論を言うだけでは十分ではありません。
ふだんから部下との間に、「いい関係」を築いておく必要があります。
部下との約束を大事にすること。
それと同時に、部下にどれだけ「好意」を示しているか、部下をどれだけ「承認」しているかが問われます。
人はだれでも、自分を認めてくれる人と仕事をすることを好みます。
また、自分のことを好きな人を好きになる傾向がありますから。
仕事の出来不出来とはまた別に、いっしょに仕事をしている仲間として承認する。
たとえ会社の中で上下関係があるとしても、部下をひとりの人間として認め、尊敬する。
「いっしょに仕事ができてうれしい」「きみといっしょに仕事をするのは楽しい」と伝えるのです。
講演でこの話をすると、そんなことはできない、言わなくてもわかっているはずだという声があがります。
たしかに、いつの時代でも自分の好意を伝えるのは勇気がいることです。
自分自身を振り返ってみてもそうです。
今伝えたほうがいいと思っても、踏み出せないことはよくあります。
それに一度できたからといって、次から自動的にできるようになるわけでもありません。
毎回、勇気が必要です。
さらに、好意はことばだけで伝わるわけではありません。
そのときの声のトーン、目つき、顔つき、姿勢などが大きく影響します。
腕組みして斜に構え、「きみを信頼している」と言っても伝わるものではありません。
【3秒間ナレッジ】 22お金のためではなく、恐れからではなく、好意と信頼のなかで、人は進んで仕事をする。
さて、部下との信頼関係は毎日築いていくものですので、部下の一人ひとりについて、次のことをときどき振り返ってみます。
・今日一日に部下の名前を何回呼んだか? ・部下とどのくらい視線を合わせていたか? ・部下にいちばん最後に自分の好意を伝えたのはいつか? ・部下が昨日どんな洋服を着ていたか思い出せるか? 毎日見ているつもり、聞いているつもりになっていても、案外見てもいないし、聞いてもいないものです。
要望する 部下と「いい関係」を築くということは、部下におもねることでもなければ、言うべきことを言わないことでもありません。
それは、また、あなたがしてほしいと思うことを真正面から〈要望〉することによっても醸成されます。
多くの場合、上司は、要望する代わりに、上から命令するか、会社の方針だからと相手に迎合するか、こうすべきではないかと正論を述べます。
そうやって、部下を動かそうとします。
はっきりと要望することを避けようとします。
上司もまた、部下からの「ノー」を恐れているからです。
しかし、ほんとうの信頼関係は、してほしいこと、してほしくないことを要望することによって築かれます。
そもそも、コミュニケーションとは、相手に要望することなのですから。
話を聞いてほしいときには、 「わたしが話しているときには、こちらを見て聞いてください」。
後輩の育成を求めるのであれば、 「後輩の話を聞いて、彼を育ててください」。
納期を守らせたければ、 「納期を守ってください。
時間どおりに出社してください」。
決して脅すのでもなく、命令するのでもなく、〈要望〉する。
目を見て、はっきり〈要望〉する。
遠まわしな言い方ではなく、直接、毅然と要望する上司を部下は尊敬し、信頼します。
【3秒間ナレッジ】 23直接、毅然と要望する上司を部下は尊敬し、信頼します。
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