慢性上咽頭炎について詳しくお話しする前に、これまで私が勤務していた病院(当時:仙台社会保険病院)を受診した患者さんで、慢性上咽頭炎の治療で症状が軽減したり、薬などを飲む必要がない状態になったりした症例を紹介しましょう。
症例 ① 繰り返す咽頭痛
●患者 21歳・女性・ Bさん(大学 3年生) ●症状 1年ほど前から風邪をひきやすくなり、近ごろは毎月のようにのどが痛くなって発熱もする。
3カ月ほど前から手指、手首の関節も痛み出した。
実は Bさんは、 3年前(高校 3年のとき)、学校で行われた尿検査で尿にタンパクが検出され、検査のため当院を受診したことがある。
このときの検査ではタンパク、尿潜血(尿に血液がまじっていること)とも陰性(異常なし)、エコー検査では腎臓は正常、血液検査も異常なしで、その時点では少なくとも腎臓には異常はないと判断されていた。
当時、血清 IgA値も 240 mg/ ㎗と正常範囲であった(正常は 300 mg/ ㎗以下、 IgA腎症では上昇することが多い)。
Bさんの訴えから、のどの炎症が原因となってひきおこされる関節炎(反応性関節炎)ではないかと思われました。
念のため尿検査と血液検査をしたところ、尿の異常は見つかりませんでしたが、血清 IgA値が 362 mg/ ㎗と跳ね上がっていました。
Bさんが風邪をひきやすくなったこと、 IgA値が上昇したことから、上咽頭や扁桃などの気道粘膜で、タンパク質の一種である I g A抗体をつくり出しやすくするようなことが起こっていると考えられました。
このままこの状態を放置すれば関節の痛みだけではなく、 IgA腎症などの自己免疫疾患(体内の免疫システムが異常をきたし、自分の体に攻撃を始めて病気をひきおこすこと)が発症する恐れもあります。
こうした場合、原因として考えられるのは、口蓋扁桃と上咽頭の炎症です。
扁桃を摘出するという選択肢もありましたが、 Bさんが手術を望まなかったため、まずは上咽頭に 0・ 5%塩化亜鉛溶液を塗布することで、慢性上咽頭炎の有無を確認することにしました。
すると綿棒にはべっとりと血液が付着し、激しい慢性上咽頭炎が存在することが明らかになりました。
Bさんが「違和感がある」と訴えたのどの場所は下咽頭でしたが、上咽頭に綿棒で塩化亜鉛の局所治療(炎症のある部分に薬を直接塗って治療すること)を行ったところ、「痛いのはそこです!」と Bさんは叫んだのです。
つまり、痛みの本丸は下咽頭ではなく上咽頭であったということです。
Bさんは遠方にお住まいで通院が困難だったため、治療は 2カ月に一度、病院で塩化亜鉛塗布の局所治療を行い、家庭では、強くしみる塩化亜鉛の点鼻は希望されなかったので、刺激がなく、除菌効果の高い微酸性電解水(プレフィア、第 4章「慢性上咽頭炎の治療 ⑤」を参照* 1)での鼻洗浄を朝と晩の 1日 2回、続けてもらうことにしました。
鼻洗浄は、鼻から入れた微酸性電解水がのどに落ちてくる程度の量を目安にしてもらいました。
2カ月後に再診したときには、すでに関節痛は消失していたので、そのまま引き続き鼻洗浄を 1日 2回続けてもらいました。
半年間で治療は終了しましたが、この間、風邪を一度もひかずに過ごすことができ、 Bさんは喜んでいました。
上昇していた血清 IgA値も徐々に低下していき、半年後には 310 mg/ ㎗にまで改善しました。
ただ、 3年前の値と比べるとまだ高値であり、扁桃の炎症も原因として考えられましたが、関節痛の症状が消失したので、本人が望まぬ扁桃摘出手術は行わずに経過を見ることにしました。
Bさんのように、慢性上咽頭炎を治療することで軽快する関節炎は少なくありません。
古い論文ではありますが、耳鼻咽喉科医の岡田らは上咽頭炎の治療で改善した関節リウマチ患者約 20例を報告しています(日耳鼻 79: 878-890, 1976)。
症例 ② アトピー性皮膚炎
●患者 17歳・女性・ Cさん(高校 3年生) ●症状 3年ほど前からアトピーが悪化。
学校でのトラブルが引き金になったようで、精神的ストレスもたいへん強い様子だった。皮膚科に通院していたが、顔面のアトピーは改善せず、ステロイド入り軟膏の使用も拒否。
初めて私の外来を受診した Cさんに、「表情が暗いな」という印象をもちました。年ごろの女性の、まして顔に広がったアトピー性皮膚炎が、その暗い表情をつくっている原因であると思われました。
ステロイド入り軟膏の治療は嫌だということだったので、さっそく上咽頭に 0・ 5%の塩化亜鉛溶液を塗布してみました。
すると綿棒に血液がべっとりと付着し、強い慢性上咽頭炎があることが見て取れました。
Cさんは週 1回の通院が可能であったので、週に 1度、 0・ 5%の塩化亜鉛の塗布治療と、塩化亜鉛 0・ 5%溶液の点鼻を 1日 2回、朝と晩に続けることにしました。
点鼻する分量は、鼻から入れた塩化亜鉛溶液がのどに落ちてくる程度を目安としてもらいました。
すると 3週間ほどで、顔のアトピーは見違えるほどに改善したのです。
治療開始当初、 Cさんの慢性上咽頭炎はかなり強く激しいものでしたが、治療を続けるうちに綿棒に血液が付着しなくなり、塗布治療時に感じる強いしみと痛みもどんどんと軽くなっていったのです。
さらに治療を続け、アトピー性皮膚炎の症状が改善してくると、 Cさんの表情もどんどん明るくなっていき、受診のたびに、かわいらしい笑顔を見せてくれるようになりました。
週 1度の通院と家での 1日 2回の塩化亜鉛点鼻を 2カ月ほど続けた後、通院が途絶えましたが、治療開始が夏休みだったこともあり、「学校も始まり忙しくなったのだろう」と解釈し、日常の診療に忙殺されて Cさんのことは頭から消えていきました。
再びアトピーが悪化して、私の前に Cさんが現われたのは、それから 4カ月後のことでした。いったんは改善した Cさんのアトピーでしたが、また以前のように悪化していたのです。そしてまた、以前の暗い表情の Cさんに逆戻りしていました。
幸いCさんと私の間の信頼関係は、前回の通院を通じて構築されていましたので、今回は Cさんの生活環境についても詳しく話を聞くことができました。
そして、学校での人間関係のストレスが、かなり強いものであることを知りました。
上咽頭に塩化亜鉛を塗布すると、最初のときのように綿棒に血液がべったりと付着し、 Cさんはかなり強いしみを感じたようです。
そしてまた前回と同じ治療を続けたところ、前回同様、慢性上咽頭炎の症状が軽快するのに伴いアトピー性皮膚炎も、 Cさんの表情も改善しました。
その後も強いストレスがあると上咽頭炎が悪化するので、そのつど、塩化亜鉛治療を行うことで改善しています。Cさんの場合、極度の精神的なストレスそのものが慢性上咽頭炎を悪化させ、その結果アトピーが悪化したものと考えられます。
上咽頭の天蓋部(上方の壁)は脳のストレス中枢である視床下部とは比較的近い位置にあって(第 1章「ココが上咽頭」のイラスト参照* 2)、上咽頭がストレスに影響を受けやすいことが想像できます。
Cさんの症例は、まさにこうした上咽頭の特徴によってひきおこされたものと考えられます。
症例 ③ 掌蹠膿疱症
●患者 52歳・女性・ Dさん、愛煙家 ●症状 15年ほど前より掌蹠膿疱症に悩まされる。
ビオチン(ビタミン B ₇:体内で抗炎症物質をつくることによってアレルギー症状を緩和する作用があるとされる)の内服はすでに経験済みだが効果はなかった。
のどにものがつかえたような感じがあり、朝方に痰と咳が出ることを自覚している。
掌蹠膿疱症とは、手のひらと足の裏に左右対称性に無菌性の膿疱ができて、悪くなったり、良くなったりを繰り返しながら、次第に発赤(皮膚が赤くなる)と角化(角質化して硬くなる)をきたす原因不明の慢性皮膚疾患です。
極めて治りにくく、 50代以降の中年層によく発症し、とくに女性の割合が多い病気です。治療法は扁桃摘出やビオチンの内服が有効とされています。Dさんはすでにビオチンを内服していましたが効果はありませんでした。
つねにのどにものがつかえたような感じがあって、加えて、朝方に痰と咳が出ると訴えました。
そこで私は、 Dさんに扁桃摘出をすすめたところ、「手術は怖い」ということでしたので、まずは慢性上咽頭炎があるかどうかを調べることにしました。
いつものように 0・ 5%の塩化亜鉛溶液を Dさんの上咽頭に塗布したところ、綿棒にはべったりと血液と膿が付着しました。Dさんは痛がって、目には涙があふれていました。
私が上咽頭炎の塩化亜鉛塗布治療を始めたのは 6年ほど前からですが、いつしか、この治療をした後に「ごめんなさいね」と言う癖がついてしまっています。それほど患者さんは痛がりますし、涙を流す人もいます。
Dさんには、家庭でも 1日 2回、朝と晩に塩化亜鉛 0・ 5%溶液の点鼻をするように指導して、 1週間後に再び受診してもらうことにしました。
初めて塩化亜鉛の治療を受けた患者さんを送り出した後、思うことがあります。
「症状の改善を自覚しなければ、患者さんにお会いするのは今日が最後だろうな」 私は約 30年間にわたり多くの腎臓病の患者さんを治療して、それなりの経験を積み重ねてきたからこそ、腎臓病に関しては私が選んだ治療の成果を、患者さんごとにかなりの精度で予測することができます。
ところが、扁桃や上咽頭の炎症がひきおこすさまざまな病気を治療する際の壁、とも言えることですが、「慢性上咽頭炎が関係している掌蹠膿疱症がある」ことはおそらく間違いのない事実ですが、「すべての掌蹠膿疱症患者さんの原因が慢性上咽頭炎ではない」こともまた、まぎれもない事実なのです。
つまり、目の前の患者さんの掌蹠膿疱症が、慢性上咽頭炎を原因にするものであるのかどうかは、慢性上咽頭炎を治療してみないとわからないということです。
また慢性上咽頭炎がある場合、塩化亜鉛塗布治療は、患者さんにはそれなりに辛い治療であることも残念ながら間違いのない事実です。
ですから、患者さんにとって、その治療の辛さが小さなことに思えるような治療効果があって初めて、患者さんは再び治療を受けるために私のところへやって来てくれるのだと思います。
うれしいことに、 Dさんはニコニコしながら 1週間後、外来にやってきてくれました。
塩化亜鉛治療開始後の経過が良かったのです。
2回目の塩化亜鉛塗布をしたときは、血液の付着はごく軽度で、しみも初回に比べると軽度になっていました。
約 3カ月間、週に 1度の塩化亜鉛塗布と 1日 2回の塩化亜鉛の点鼻治療を続けたのち、 Dさんの掌蹠膿疱症は薬が必要ないほどに回復(寛解)しました。
その後、ストレスなどが重なって体調不良になると、手のひらにわずかな膿疱が出ることがありますが、そのつど、慢性上咽頭炎治療をすることで消えています。
症例 ④ 潰瘍性大腸炎
●患者 26歳・男性・ Eさん
●症状
Eさんは 12歳のときに潰瘍性大腸炎を発症して以来、 10年以上にわたり血便、下血に悩まされ続けている。
下血がひどくなるとステロイドを服用して炎症を抑えるが、ふだんは飲み薬のメサラジン(商品名ペンタサ)を服用している。
しかし仕事が忙しくストレスがたまってくると、再び下血の症状は悪化してしまう。
潰瘍性大腸炎は原因不明の大腸粘膜の慢性炎症で、大腸にびらん(ただれ)や潰瘍ができる治療が難しい疾患として厚生労働省の特定疾患に認定されています。
厚生労働省の調査によると、全国で約 10万人の潰瘍性大腸炎の患者さんがいるといわれ、毎年約 5000人ずつ増加しています(平成 20年度特定疾患医療受給者証交付件数より)。
30歳以下の若い成人に多く発症し、下痢、粘血便、腹痛などの症状があります。また心理・社会的ストレスで発症したり、悪化したりすることが知られている病気です。
Eさんは製薬関係の仕事に就かれています。そもそも私を訪ねてこられたのも、仕事上の用件があったためでした。
その訪問時、たまたま雑談で慢性上咽頭炎の話をしていると、突然 Eさんは 10年以上も潰瘍性大腸炎で難儀していると訴えられたのです。
Eさんの話を詳しく聞いていくと、日ごろからかなりの頭痛もちで肩こりもひどいと言います。
そこで、「もし慢性上咽頭炎があったら治療してみますか?」と伺ったところ、「ぜひに!」ということでしたので、早速 0・ 5%塩化亜鉛溶液の上咽頭塗布を試みました。
すると綿棒にはべったりと血液が付着し、すごくしみたようで、痛がりました。
Eさんの潰瘍性大腸炎に、慢性上咽頭炎がどの程度関与しているのかはわかりませんでしたが、 Eさんには激しい慢性上咽頭炎があり、少なくとも頭痛と肩こりにはこのひどい慢性上咽頭炎が関連している可能性が高いと思われました。
Eさんの職場は東京で、仙台へは出張で来られたということもあり、都内で慢性上咽頭炎治療を専門にしている耳鼻科医を紹介し、通院することをすすめました。
さらに Eさんには明らかに口呼吸(鼻ではなく口で呼吸する。第 5章「口呼吸をやめる」を参照* 3)の習慣があったため、口呼吸を直す口の周囲の筋肉を鍛える体操も指導しました。
それから 3カ月後、再び Eさんにお会いする機会がありましたので、治療の効果を尋ねてみました。
すると、肩こりと頭痛がなくなっただけでなく、それまでしばしば出ていた血便がすっかり消えたという、うれしいご返事をいただきました。
Eさんは週に 1回程度の通院で 1%の塩化亜鉛溶液を塗布し、毎日寝る前に口呼吸を直すための体操をしたといいます。
大腸ファイバーで大腸炎の改善具合を確認したわけではありませんが、潰瘍性大腸炎が改善していることは明らかなようでした。
そして私がいちばん印象的だったのは、 Eさんが見違えるほどはつらつとした明るい表情の好青年になっていたことでした。
『Bスポットの発見』の著者である堀口氏も、かつて慢性上咽頭炎治療が潰瘍性大腸炎に効果があるということを報告しています。
私も、これまでに Eさん以外にも数例の比較的軽症の潰瘍性大腸炎の患者さんに慢性上咽頭炎治療を行っていますが、いずれの場合も症状は軽くなっています。
症例が少なく、潰瘍性大腸炎に対する慢性上咽頭炎治療の評価は現段階ではできませんが、少なくとも、慢性上咽頭炎治療で改善する症例が一部に存在することは確実であるように思います。
症例 ⑤ ネフローゼ症候群
●患者 23歳・男性・ Fさん ●症状 16歳のときにネフローゼ症候群(尿に多量のタンパクが出て、体にむくみが出る病気)を発症。
地元の青森の病院で腎生検(腎臓の組織を少し採取して検査する)を行い、治療の難しい難治性の巣状糸球体硬化症の診断がくだり、ステロイド剤と免疫抑制剤などの治療を受けたが十分な改善は得られなかった。
18歳のときに進学で仙台へ転居され、私の外来へ紹介されてきた。初めて会ったとき、肌はかさかさ。小学生低学年のころからひどいアトピー性皮膚炎があったという。
また通年性のアレルギー性鼻炎もあり、鼻声であった。私たちの病院に転院されてきたときの、 Fさんの 1日のタンパク尿排泄量は 3 gを超えていました。そこですぐに入院してステロイドパルス療法を行いました。
また、 Fさんは子どものころから扁桃炎を繰り返し起こしていたというので、扁桃摘出手術も行いました。
扁摘パルス治療の結果、タンパク尿の排泄量は 1 g程度までは減少したのですが、残念ながら陰性化(正常値)には至りませんでした。
パルス療法を行った結果、アトピーもアレルギー性鼻炎もいったんはかなり改善し、 Fさんもたいへん喜びました。
ところがステロイドを減量するにつれて、再び少しずつ悪化していき、かゆみのために外来の診療中でも体をボリボリかくようになっていました。加えて鼻炎による鼻声も、元に戻ってしまいました。
私のこれまでの経験では、腎炎やネフローゼ症候群の患者さんで鼻づまりが続いているほとんどの人に、強めの慢性上咽頭炎が存在します。
ステロイドを減量してもタンパク尿排泄量は 1 g程度で持続していましたが、アトピーと鼻炎が悪化したこともあり、私は慢性上咽頭炎を疑いました。
そこで Fさんの了解を得て、 0・ 5%塩化亜鉛溶液塗布を行うと案の定、 Fさんには激しい慢性上咽頭炎が認められ、塗布した綿棒には血液がべっとりと付着しました。
そして、この塗布治療によって、 Fさんが強い痛みを感じたことは言うまでもありません。
Fさんの通院は 2カ月に 1度であったため、自宅で 0・ 5%塩化亜鉛溶液の点鼻をのどに落ちる程度の分量で 1日 2回、朝と晩にしてもらうことで、慢性上咽頭炎の治療を続けることにしました。
最初のうちは塩化亜鉛点鼻でもかなりしみて痛みもあったようですが、治療を続けるうちにだんだんしみなくなり、 2カ月後の外来受診時には、 0・ 5%塩化亜鉛溶液の塗布を行っても綿棒に血液がつかなくなりました。
半年後には、 0・ 5%塩化亜鉛溶液塗布によるしみも痛みもほとんどなくなっていました。
うれしいことに慢性上咽頭炎治療を開始したのち、タンパク尿の排泄量は徐々に減少していき、約 1年後には完全に陰性化しました。
ちなみに、ステロイドは 1年半あまり投与しましたが、ステロイドを中止した後も現在に至るまで 3年間、タンパク尿は陰性のままです。
また、注目すべきことに鼻炎とアトピーも見違えるほどに改善しました。ステロイドをやめたにもかかわらず、です。
現在も 3カ月に 1度の通院は続けていらっしゃいますが、もはや Fさんが外来で診療中に体をボリボリとかく姿は見られません。
症例 ⑥ I g A腎症
●患者 30歳・女性・ Gさん
●症状 9年前に会社の健康診断で血尿が、さらに 1年後の健康診断では血尿に加えてタンパク尿も見つかったが、微量であったため定期検査をしながら様子を見ていくことになった。
ところがその後、タンパク尿の排泄量が増加したため、 2年前、地元大阪の病院で腎生検を受けたところ、 4段階中、進行度 3の IgA腎症の診断が確定。
扁摘パルスの治療を受けたが、 2年経った現在も尿潜血の改善が見られずにいる。
Gさんが私の外来に来られたときは、タンパク尿が 1 g/日から 0・ 3 g/日に改善したにもかかわらず、尿潜血(尿に血液がまじること)がまったく改善しないという状態でした。
腎症が進行してしまった症例では、尿をつくる糸球体の膜がすでに障害を受けてザルのようなスカスカの状態になってしまっているため、扁摘パルスをしてもタンパク尿は完全には消えないことが多いのですが、 Gさんはそうした状態に加え、尿潜血も消えないため、その原因を探しに紹介されてきたのです。
IgA腎症の血尿の原因は、糸球体血管炎により糸球体の血管が破れるために起こります。
たとえ腎症が進行した症例であっても、扁摘パルスは糸球体血管炎を完全に消滅させる治療であるため、治療後 2年も経過すれば、約 8割の患者さんの血尿は陰性となります。
ところが、 Gさんはそうはならなかったのです。
Gさんの場合、尿潜血が消えない原因として、 ①扁桃の取り残し(遺残扁桃)、 ②慢性上咽頭炎の二つを考えました。まず Gさんの口蓋扁桃をチェックしたところ、口蓋扁桃はきれいに摘出されており遺残扁桃はありません。
そこで 2番目の原因として考えられる慢性上咽頭炎の有無を、 0・ 5%塩化亜鉛溶液の塗布によって確認してみました。
すると案の定、 Gさんの上咽頭には強い炎症が認められたのです。
Gさんが大阪在住であるため、通院治療ではなく、約 20日間入院していただき、 1日 1回の 0・ 5%塩化亜鉛溶液塗布による慢性上咽頭炎の徹底した治療と、追加の 3日間連続のステロイドパルスを休みを入れながら 3回行いました。
その結果、血尿もタンパク尿も消失させることができました。
その後、 Gさんに再び血尿とタンパク尿が出ることはなく、追加のステロイド内服は必要ありませんでした。
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