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第 2章人生を台無しにする習慣をなくす

目次

「意志」の力に頼ることをやめる

自分を思うとおりに変えるためには、意志でそれを行おうとしていてはダメなのだということは、理解していただけたと思います。意志は極めて頼りないものであり、大事なのは行動なのです。

行動科学マネジメントでは結果の力をフルに利用し、意志とは関係なく望ましい行動をとっていけるようにします。

どんな大きな目標も、小さな具体的行動の蓄積によってのみ達成できると考えていて、その行動を蓄積できる仕組みをつくるのが行動科学マネジメントです。

そして、本書ではもう一つの重要な側面、ゆがんでしまっている認知から抜け出すことも取り上げていきます。すなわち、自分をうまくコントロールできないで苦しんでいる状況を、行動によって変えていこうということです。

私がいくら「いい結果を出すためには意志は必要ありません」と声を大にして言ってみても、その人の認知がひどくゆがんでいると、なかなかうまくいきません。

認知がゆがんだ状態で、事実とは違うさまざまな思い込みにとらわれていれば、明確な行動をとるより先に、曖昧な思考をすることに夢中になってしまうからです。

そして、ありもしないストーリーをつくり、その中で自己評価を落としていくことに没頭してしまうからです。

多くの人は、自分のウイークポイントや、行動の足かせになるような自らの思考の問題点に薄々は気づいています。すぐに弱気になったり、悪い方向へ考えたり、自信を失いやすいといった欠点に気づいています。

そして、できることならそうした思考の問題を直したいと思っています。でも、思ったそばから何度も同じ思考を繰り返してしまうのです。

これはまさに意志によって思考を変えようとしているからです。こんな無理なことをしていたら、ますます認知はゆがんでいきます。こうした状況から、理性的な方向に自らを立て直すためにも、小さな行動は有効です。

認知のゆがみを正していくために、今注目を浴びているのが「マインドフルネス」という手法です。

詳しくは第 3章で述べていきますが、マインドフルネスとは、徹底して「現実」と「今」だけに目を向けている状態のことです。

過去や未来にとらわれずに、目の前にあることを着実にこなしていける心の理想的なあり方です。このマインドフルネスの状態に自分を置くために役立つのが、身体感覚をとり戻す小さな行動です。

事実とは違う思い込みの世界にいってしまっている認知を、身体への刺激によって「現実」と「今」に引き戻すのです。人間の心と体は相関関係にあり、心の緊急事態は体への働きかけによって大きく軽減されます。

この章では、しっかりセルフマネジメントをしたいのに、自分を見失ってしまってそれがうまくいかない人たちの事例を取り上げていきます。そして、対策として身体感覚を戻す小さな行動を紹介していきます。

各項目の最後にある対策は、どのパターンにも応用することができます。

また、身体感覚を戻すためのこれらの小さな行動は、すべてを必ずやらなければいけないわけではありません。自分に向いていそうなこと、楽しそうだなと思うことを選んで行えばいいのです。

しばらく続けると、よけいな思い込みや考え方のクセ、認知のゆがみから抜け出し、現実をあるがままにとらえられるようになるでしょう。

[ケース 1]衝動的な感情に飲み込まれる

保険関係の企業で中間管理職の立場にある Aさんは、 42歳の男性です。ここ数か月、 Aさんが所属する営業所の成績は伸び悩んでいます。

そこで、顧客訪問から部下たちが戻ってきた夕方、みんなを会議室に集め、用意しておいた資料やグラフを広げて見せました。

「どう思う、この状況を」 いかに業績が落ち込んでいるかを説明し、部下の士気を高めようと考えたのです。

日頃から檄を飛ばして指導しているメンバーですから、現実を目の当たりにすればもっと頑張るだろうと Aさんは予想していました。

ところが、いくら口を酸っぱくして危機感をあおっても、反応が鈍いようです。この状況を打破するための対策を一人ひとりに述べさせましたが、どれも劇的に効果が得られるというものではありません。

それどころか、部下たちは厳しい現状すら理解できていないように感じられます。イライラが募った Aさんは、持っていた資料で会議机をバンと叩きました。

「とにかく今すぐ実行できて使える策を考えろ。オレが納得できるものが出るまで今日は全員残ってろ」 大声で怒鳴りつけ、その勢いで会議室を飛び出しました。

だから部下たちが顔を見合わせて困惑していたことを Aさんは知りません。結局、翌日の夕方にもまた会議をすることになりました。あくる日も Aさんのイライラは頂点のままです。

今日はいつもより早く会社に行って、取引先との打ち合わせの準備をしなければなりません。それというのも、やる気のない部下たちに準備をまかせるわけにはいかないからです。

それなのに、そういう日に限って妻は朝食の準備より先に犬の散歩に行ってしまって、なかなか帰ってきません。

「何やってたんだ。オレのメシより犬のほうが大事なのか」「あら、言ってくれなくちゃわからないわよ。今日は早く出るの?」「もういいよっ」 朝から不機嫌さ全開で会社に向かいました。

書類整理をしているうちに取引先との約束の時間が迫ってきたため、慌ててタクシーに乗り込み、急いでほしいと告げました。

運転手は、言われたとおりに急いで発進しました。しかし、どの道を通るかという確認はしませんでした。

「おい、どこを通っていくつもりなんだよ、確認するのが当たり前だろう」 激情がわき上がり、運転手を大声で怒鳴りつけてしまいました。

運転手はびっくりして謝りましたが、 Aさんの怒りは収まりません。運転手のネームプレートを覗き込み、捨てぜりふを吐いて途中で下車しました。

「ここで降ろせ。名前を覚えておくよ。本当に不愉快な運転手だな」 急いでいるのに、もう一度タクシーを拾わなければならなくなった Aさん。

空車を探しているうちに、やっと我に返りました。「なんかオレ、昨日から怒鳴ってばっかりだ……」 Aさんは八方塞がりになったような気分です。昨日の自分も今日の自分も、ひどくみっともなくて嫌になります。

そもそも営業所の成績が伸びないのも自分の指導力や求心力、そして営業力そのものが足りないからだという気もしてきて、いったいどうしたらいいのかわからなくなってしまいました。

どうしてこんなことに?

人はみな、「こうありたい」という理想の自分を持っています。本当は誰だって、イライラしているのではなくおおらかな自分を見せたいのです。

だから、激情にかられて怒りを爆発させてしまったとき、そういう自分に困惑し、よけいに感情コントロールができなくなります。本心では「誰でもいいから、この怒りを止めてくれ!」と願いながら。

つまり、人が激情にかられているとき、それは本人が望んでいる場所から勝手に心があちこちに行ってしまっているのです。それをいかに現実と今に引き戻すかということがポイントになってきます。

自分で自分の感情に火をつけてしまうタイプの人に知っておいてほしいのは、「怒りなどの突発的なマイナス感情は 30秒で収まる」ということです。

怒鳴ったりして感情を爆発させる前にわずか 30秒をやり過ごせば、事態はまったく変わってきます。その 30秒を待たずに感情を勝手なところにいかせてしまうから Aさんのようになるのです。

もし、「自分のマイナス感情は 30秒どころでは収まらない」という人がいたら、単にそれが習い性になっているだけです。30秒をやり過ごすための簡単な方法を二つ紹介しましょう。

怒りに限らず、不安や嫉妬などあらゆるマイナス感情を抑えるのに有効です。

対策 〈右手をギュッと握る〉 イライラを感じたら、右手を強く握り締めます。それだけで OKです。言ってみれば、「そっちに行くな、ここにいろ」という自分への合図です。

突発的なマイナス感情に襲われたらすかさず行えば、いたずらに負の感情を暴走させることなく、現実に戻ることができます。

左手のほうがやりやすければ、もちろんそれでも大丈夫です。

対策 〈呼吸を数える〉 椅子に楽な姿勢で座るか、横になって体の余分な力を抜き、ゆっくりと腹式呼吸をします。そして、息を吸って吐いたら 1、また吸って吐いたら 2、というようにして 10まで数えます。

かなり単純な作業なので、途中で仕事のことなど雑念が浮かぶかもしれませんが、「うまく数えられなかった」などと気にする必要はありません。

いくつまで数えたかわからなくなったら、また 1から数え直してください。自分の呼吸を数えることを繰り返し、雑念が浮かんだら気にせずまた数え直す。

この単純な行動に没頭することで心身をフラットな状態に戻し、現実と今に目を向ける準備を整えるのです。このとき、胸式呼吸よりも腹式呼吸が望ましいのは、腹式呼吸は副交感神経を優位にしてリラックスさせてくれる効果があるからです。

[ケース 2]困難から逃げる(ネガティブな自分を変えたい)

念願かなって大手旅行代理店に就職した Y子さんは、今年 24歳になります。入社当時は、厳しい就職戦線を勝ち抜き第一志望の有名企業に入社できた喜びではつらつとしていました。

入社が決まってからというもの、両親や兄弟、親戚、友人、大学の教授など、誰もが顔を合わせるたびに「すごい」「よくやった」と褒めてくれるので、この先の人生はバラ色といった気分でした。

ところが入社してしばらくすると、そんな甘い気持ちは吹っ飛んでしまいました。

配属された部署のメンバーは一人残らず非常に忙しそうで、わからないことがあっても尋ねるのを躊躇してしまう雰囲気がありました。

それに、周りはできる人ばかりで、わからないのは自分だけという気もします。「私は足手まといになっているのかも」 Y子さんは落ち込みました。

「たくさんの希望者の中から私を選んで採用してくれた会社なのに、どうしてもっと親身に仕事を教えてくれないんだろう。私、戦力にならない人間だと判断されたのかな」 配属前には研修もありましたし、マニュアルも手渡されています。

しかしお客様相手の仕事ですから想定どおりに進むとは限りません。周りに助けを求められないまま、 Y子さんは日々小さなミスを重ねることになりました。

それにつれて、同じグループの先輩や直属の上司に注意を受けることが増えていき、さらに気分は落ち込みます。

「でも、弱気になってる場合じゃないんだ。もっと頑張らなくちゃ」 折れそうな気持ちに鞭打って Y子さんは懸命に努力しましたが、なかなか思うようにいきません。

そんなある日、お客様から怒りの電話がかかってきました。

「きみ、調べてあとで連絡すると言ってたじゃないか。待っていたのに電話 1本ないのはどういうことだ。その日のうちに何らかの連絡があって当たり前だろう。それなのに、もう 3日も経っているぞ」

Y子さんは電話越しにお客様の大声を聞きながら、背中に冷や汗が伝うのを感じていました。

記憶をたどれば、お客様が希望した内容に Y子さんの一存では決められない点があったため、先輩か上司に確認してあとで連絡しようと考えたのでした。

しかし、誰かに聞こうと思っても手の空いていそうな人が見つからず、そのうちほかの案件に気がいって確認をすっかり忘れてしまいました。

この窮地からは、自分の力ではどうやっても抜け出せないと思った Y子さんは、上司に恐る恐る切り出しました。「何だって!」 驚いた上司は、すぐに電話を代わってくれました。

そしてお客様へ何度も謝罪をし、希望どおりの条件で出発できるよう特急で手配してくれました。しかし案の定、 Y子さんは強く叱責されることになりました。

これまで小さなミスで注意されたときとはまったく違う、厳しい言葉が飛んできました。してはならないミスを犯してしまったのですから、怒られるのは当然です。

自分が悪いことは百も承知です。だからこそ Y子さんはこれまで以上にひどく落ち込みました。もともと Y子さんは、落ち込みやすいところがありました。

とくに対人関係でそれが顕著で、相手の言動を勝手にネガティブな方向に増幅してしまうのです。学生時代も、周囲の人が何の気なしにとった態度や口にした言葉に、過剰なほど傷つくことがよくありました。

だから、念願の入社を果たしたことは、これまでの自分を変えるきっかけになるかもしれないとひそかに思っていたのです。

それなのに入社以来、毎日落ち込んでばかり。

「みんなちゃんとやっているのに、私だけがダメ。同期と大きく差がついちゃったな。もう私の居場所なんてない。だって会社にとって私は迷惑なお荷物なんだから」

Y子さんは、こんな言葉を繰り返しては、さらに落ち込むというマイナスのスパイラルにどっぷり浸かっていきました。どうやっても気持ちを持ち上げることができず、とうとう出社することができなくなってしまったのです。

どうしてこんなことに?

現実と向き合ったときに逃げる選択をしがちな人は、将来的に得られる利益を見るのが下手なのです。その場をなんとかごまかしてみても、後からもっと大変なことになるのはわかっているはずです。それでも、とにかく目先のラクを優先してしまう。

これは、大事な提出物などがある日に限って、その仕事から逃げ出すようにネットサーフィンに時間を費やしてしまったりする人なども同様です。

Y子さんが直面したような問題は、普段からの小さな行動習慣によってかなり減らすことができます。上司へのホウレンソウをこまめに行うだけでも違うでしょう。

そのうえで、必要以上にネガティブな発想をする自分にストップをかけていく必要があります。

次に紹介する方法は、実際に多くのスポーツ選手などが用いてメンタル維持に役立てています。ネガティブ思考に苦しむ人に広くおすすめします。

対策 〈手首の輪ゴムを弾く〉 ゴルファーがよく行う手法です。

パットを打つ直前、「入らないのでは」という不安を抱くと実際にパフォーマンスが低下して入らなくなってしまいます。

この状態を「イップス」と言い、精神的な悪影響により思い通りのプレーができなくなることを指します。

そこで、イップスに陥るのを避けるために手首に輪ゴムをはめておき、マイナス思考が浮かんだら指で輪ゴムをつまんでパチンと弾き、思考を「現実」と「今」に戻すという方法がとられるのです。ゴルフ以外のスポーツでも同様のことを行っている選手が多くいます。

対策 〈輪ゴムやクリップを移動する〉 これも、スポーツ選手がよく用いる方法です。何かマイナス感情が起きるたびに、右手首にはめた輪ゴムを左手首に移していきます。

輪ゴムがわずらわしいなら、クリップを右ポケットに入れておき、それを左ポケットに移していくというのでも OKです。

そして、 1日の終わり(あるいは途中でも)に、左手首の輪ゴムや左ポケットのクリップを出して数えます。

要は、「自分はこんなにたくさんのマイナス思考を勝手につくり出しているんだ」と自覚することに意味があります。自覚したら、そんなマイナス思考はさっさと捨ててしまいましょう。

[ケース 3]流されやすい

「今日こそは早く帰って家族と一緒に夕飯を食べよう。クリスマスも近いしどこかでケーキでも買っていこうかな」 ノー残業デーの水曜日、 Tさんはウキウキした気持ちでいました。

ここのところ接待だの忘年会だので終電帰りが続いていたのです。子どもたちともゆっくり話がしたいし、それに何より自分自身疲れがたまっていました。

奥さんに「帰るコール」をしてから駅に向かうと、改札で同僚の Kさんに出くわしました。Tさんはちょっと嫌な予感がしました。

Kさんは無類の酒好きでほとんど毎晩、誰かを誘っては飲み歩いています。

「誘われても絶対に断ろう。理由は何て言おうかな……」 考えている Tさんに、 Kさんは声をかけてきました。

「よう、軽く一杯つき合えよ。ノー残業だろ?」 次の瞬間、 Tさんは反射的に答えていました。

「うーん、ちょっとだけな」 ちょっとだけで済むはずもなく、はしご酒で今日も終電です。

奥さんは「そんなことだと思ったわ」と許してくれましたが、 Tさんはほとほと自分が情けなくなりました。

「なんで断れないんだろう。なんで流されてしまうんだろう」 そんなある日、 Tさんは後輩からショックなことを言われました。

「Tさん、すごい酒好きなんですってね。どんなに疲れていても絶対に断らないそうじゃないですか。だからしょっちゅう、いろんな人から誘われているんですね」 その後輩は、 Tさんが取得を目指していた資格試験に合格したそうです。

Tさんだって受験したかったけれど、不本意なつき合いで勉強の時間がとれなかったのです。でも、これもすべて、自分が招いた結果なのでしょうか。

25歳になる S美さんは、母親に対してノーと言えない自分が嫌でたまりません。S美さんは、一人娘として両親に溺愛されて育ちました。

とくに母親とはいつも一緒で、大人になってからは「姉妹みたいに仲良しね」と周囲から言われるほどでした。でも、 S美さんにとっては「姉妹」ではありませんでした。

かといって「母娘」というのともちょっと違う気がします。どちらかというと、母は「支配者」なのです。

「S美、そんな服あなたには似合わないわよ。お母さんが選んであげる」「オペラのチケット、いい席が取れたのよ。日曜日空けておいてね」「新しくオープンしたレストラン、良さそうじゃない。いつ行く?」 なんでもかんでも、 S美さんと一緒に行動したがるお母さん。

それが当たり前だと思っているお母さん。しかも、すべて自分で決めてしまうお母さん。

思い返してみれば、小学生のときから「あの子と仲良くしろ」だの、「そんな遊びはするな」だの、 S美さんの交友関係にも口を挟んできた母でした。就職だってそうでした。

本当は金融関係に勤めたかったのに、「転勤があるから絶対にダメ」「あなたにできるはずないわ」と法律事務所の仕事を選ばされたのです。

この調子だと、恋人選びにもどれだけ関与してくるかわかりません。そういえば、去年、大学時代の友人から気になることを言われました。

「S美さ、少し母親離れしたほうがいいよ。S美のうちに遊びに行くと、ちょっと緊張するよ。なんだかお母さんに品定めされているみたいでさ。私は女だからまだいいけど、男だったらびびって敬遠しちゃうよ」

もしかして、 25歳になっていまだに特別な彼氏ができないのは、母親のせいなのかも。そして周囲からすれば、自分は少し幼稚に見えるのかも。

S美さんは、それまでも何人かの男性に好意を示されたことがあります。自分自身、嫌いな相手ではなかったので、母親にも報告していました。

でも、そのたびに母親から何かしら相手の欠点を指摘され、きっぱりと交際を否定されました。

S美さんのことを誰よりもよく知っていて、かつ弁も立つ母親の言うことを聞いていると「そのとおりだな」と思ってしまったのですが、果たしてそれでよかったのか……。

こんな S美さんの変化に気づいたのか、最近、母親はますます支配を強めてきているように思えます。どうやら、結婚相談所のようなところに勝手に S美さんの名前を登録しているようなのです。

相当に危機感を募らせている S美さんですが、母親と面と向かってしまうと、結局何も言えないだろうという予感があります。

いったい私は、母が好きなのか嫌いなのか。そもそも私は自分の人生を生きていると言えるのか。すっかりわからなくなってしまいました。

どうしてこんなことに?

もともと日本人は、自分の意向をはっきり述べるのが苦手な民族です。しかし、ここに登場してもらった二人の場合、そういうレベルを超えています。

「嫌だ」と思いながら他者に流されてしまうのは、いったいどうしてなのでしょう。おそらく、そこには大きな認知のゆがみが介在しています。

「断ったら嫌われてしまう」「言うことを聞いていなければとんでもないことになる」といった事実と違う思い込みにとらわれているのです。

しかし現実には、本人が思っているほど他者は自分に強い関心を持ってはいません。

S美さんの場合においても、長い間従ってきたことで母を支配者に仕立て上げてしまったとも言えるのです。

対策 〈第三者になって考える〉

流されてしまう自分を変えるには、第三者の客観的な目を持つことが大事です。「信頼する ◯◯さんだったら、今の状況をどうするだろう」と考えてみましょう。

「遠慮せずに NOと言うだろうな。それで全然、問題ないな」と思えるはずです。

これは、目の前の出来事に深く入り込みすぎて自分では気づきにくくなっていることを客観的に見るために非常に役立つ方法です。

対策 〈好きな音楽を聴き込む〉

よけいな思考を排除するためには音楽も効果的です。心身をリラックスさせることで、出来事に対して冷静な判断ができる状態をつくります。また、自分自身の世界を取り戻すきっかけにもなります。

自分の好きな音楽に身も心も委ねるようにして聴き込みましょう。何かをしながら聴くのではなく、没頭して聴き込むのがコツです。

聴いているうちにまたいろいろな思考が浮かぶかもしれませんが、あまり神経質にならなくて結構です。

緊張を強いられる場面の前にはゆったりした曲、少し気が緩みすぎだなと感じたら自分を鼓舞するようなビートのきいた曲を聴くというのもいい方法です。音楽の力をどんどん利用して、心の状態を積極的に整えてください。

[ケース 4]タバコや食事、酒への依存

Fさんは、学生時代に覚えたタバコが習慣となり、かれこれ 20年ほどの喫煙歴になります。ある日、親友と久しぶりにお酒を飲みにいった Fさんは言われました。

「お前まだタバコ吸ってんの? やめたほうがいいよ、体にいいことないし」 かつて自分よりヘビースモーカーだった親友は、 3年前にきっぱりと禁煙しています。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)という肺の病気についてテレビで放送していたのを見て、怖くなったのがきっかけだそうです。COPDは、最近多くの人の知るところとなりました。

別名「タバコ病」とも呼ばれ、喫煙者にとくに多い慢性呼吸器疾患です。

原因の 9割以上が喫煙とされ、進行すると少し動いただけでも息切れするようになり、日常生活を送るのが難しくなります。

さらに病状が進むと呼吸不全や心不全が引き起こされ、死に至ることもあります。

話を聞いていて、 Fさんも不安になってきました。Fさんの子ども二人は中学生と小学生。まだまだ元気で働かなければ家族が路頭に迷ってしまいます。そこまで考えて、ようやく Fさんは重い腰を上げました。禁煙を決心したのです。

さて、翌日から Fさんはイライラしどおしになりました。

顧客からのクレーム、部下の稚拙な仕事、上司の言ってくる無理難題、妻との口喧嘩、苛立ちのタネは生活のあちこちに転がっています。

Fさんはこれまで、ムシャクシャしたときは常にタバコを吸うことでしのいできました。しかし今は禁煙中です。

「ああ、タバコが吸いたい。ここで一服したらさぞかしうまいだろうな」 しょっちゅうこんな思いが浮かびましたが、 Fさんは歯を食いしばって我慢しました。

ところがある日、成功の一歩手前まで進んだプロジェクトがチームメンバーのミスによって白紙に戻ってしまったとき、 Fさんはついにタバコの自販機のボタンを押してしまったのです。

しばらくぶりに肺の奥まで煙を吸い込んだときの、えも言われぬ心地よさ。

しかし、次の瞬間、 Fさんは激しい後悔に襲われます。

「オレってやつはなんて意志の弱い人間なんだ。誰もがやっている禁煙すらできないなんて、何か欠陥があるのかもしれない」 Fさんは自己嫌悪に陥り、自分を責めています。

過食が習慣化している 30歳の H子さんも、「やめたいのにやめられない」ことで悩んでいます。

会社の仕事は入社した頃は覚えるのが大変でしたが、基本的にルーティンワークなので、今では大きなミスもなくこなしています。

これといった趣味もなく、社交的でもなく、交際している男性もいないので、会社と自宅の往復だけで過ぎていきます。実家暮らしのため家事はすべて母親まかせです。

「30歳にもなってこのままでいいのかな」とは思いますが、目の前にラクな道があるのに努力するというのは難しいものです。だから、結局同じような日々を送っています。

H子さんの楽しみは、夕食後に自室でお菓子を食べながら DVDを観ることです。

最近は、会社帰りにコンビニに寄ってお菓子を買うのが習慣になりました。コンビニには、小袋のお菓子がたくさん売られています。夕食後に食べるのですから少量で充分。

小袋のビスケットやチップス、チョコレートなどを買い込んでおいて、 1日 1袋食べるようにしていました。

ところが、その日に限って、 1袋でやめることができませんでした。人事異動で上司が替わることを知って、ちょっと不安だったのです。DVDを観ながら、 2袋、 3袋と空けてしまいました。

「ああ、食べ過ぎちゃった。まあ、今日だけね」 H子さんはとくに気にすることもありませんでした。しかし、その日を境にコンビニで買うお菓子の量はどんどん増えていきました。

1か月もした頃、 H子さんは母親に注意されます。

「掃除に入ってみたら、あなたの部屋にお菓子がものすごくたくさんあってびっくりしたわ。どうりで最近太ったと思ったわ。体に悪いわよ」 H子さんはその言葉にイライラしました。

お菓子は自分の働いたお金で買っています。ほかにムダ遣いしているわけじゃないし、何が悪いのかと。けれども同時に、気になることもありました。スカートのウエストがきつくなったのです。

会社の人たちの自分を見る目も変わった気がしました。何となく遠巻きにされている感じもします。でも、なんだかすべてがどうでもよくなって、今日もまたお菓子を買ってしまうに違いないと思っています。

どうしてこんなことに?

お酒、ギャンブル、ゲーム、セックス……人はいろいろなものに依存します。「ワーカホリック」という言葉があるように、仕事にすら依存材料を見出してしまうのが人間です。

最初から胴元が儲かる仕組みになっているギャンブルなど、確率論で考えたら手を出さないのが一番なのは明らかです。それでも「自分だけは得をする」とばかりにのめり込んでしまうのです。依存は別世界の話ではありません。

人の我慢できる範囲には限界があり、何かをうまくやり遂げるために、ほかの何かに依存するという傾向が問題を複雑にしています。

頑張っている人ほど、何かに依存したい欲求を持ちかねません。

たとえば、ゲームにハマる人というと、「オタク」「引きこもり」といったイメージが先行するかもしれません。しかし、最近では、一流大学を出て有名企業に就職し、仕事をバリバリこなしているような人の中に、ネトゲ(オンラインゲーム)依存が増えています。

対策 〈環境を変える〉

タバコをやめたいなら家にある灰皿やライターを全部処分する。ダイエットをしたいならケーキ屋の前を通らない。ギャンブル依存なら、電話番号を変えてギャンブル仲間には教えない。ゲームをやめたいなら、ゲーム機は友人にあげてしまう。こうした環境づくりが依存から抜け出すために重要です。

依存したいものがそばにあれば、依存し続けるのは当たり前のこと。意志の力に頼るのではなく、依存したくても依存できない環境をつくることです。

対策 〈エンデュランス系のスポーツ〉

同じ動作を淡々と繰り返す運動を「エンデュランス系スポーツ」と呼びます。バスケットボールや野球など団体競技は、メンバーと協力しながら次々と変わる場面に瞬時に適応する必要があります。それに対して、ランニング、水泳、自転車、ウォーキングなどのエンデュランス系スポーツは、個人で単純な動きをひたすら行うため「無」になることができます。

何か一つエンデュランス系スポーツに挑戦しましょう。

心を空っぽにして同じ動作を続けることは、メディテーションにも似た効果をもたらし、心の状態を整えることができます。依存したい欲求も遠ざけてくれるでしょう。

[ケース 5]直らない遅刻グセ

大学 3年生の I子さんは、だらしない自分を責めています。I子さんはどうしても時間を守れないのです。とくに大学の 1限目の講義など、間に合ったことがありません。

2年生になって、 1限に出席を厳しくチェックする語学の授業が集中したときは、留年しないか本気で心配しました。

かといって、 I子さんは大幅な遅刻をするわけではありません。5分とか 10分といった短い時間、遅れてしまうのです。

「I子、あと 5分早く家を出れば遅刻しなくてすむじゃない。どうしてそのくらいのことができないの?」 クラスメートからは、何度も同じことを言われています。

そのたび I子さんは、同じ答えを返すことになります。

「わかってるのよ。わかっているんだけど、家を出るのがちょっと遅くなっちゃうの」 いつも出がけになってから、持っていくはずのものを用意し忘れたことに気づいたり、髪型やメイクが気になったり、一度着た洋服を全部取り替えたくなってしまう I子さん。

愛嬌のあるタイプであることも手伝って、今までは「しょうがないんだから……」と、友人たちは呆れながらも許してくれていました。

そんな I子さんが自分の遅刻グセを猛烈に反省することになったのは、本格的な就職活動を目前にした秋でした。I子さんにはどうしても入社したい企業があります。

大学の就職課で、同じ大学の先輩が男女一人ずつその会社で働いていることを教えてもらったので、さっそくその先輩たちに連絡を取り、 OB・ OG訪問の約束を取りつけました。

最初に会ってもらえることになったのは女性の先輩でした。ところがいつものクセで、 I子さんが約束の場所に着いたのは約束の時間の 10分後でした。

I子さんの焦った様子に先輩は笑って「大丈夫よ」と言ってくれましたが、質問をしてもあまり親身になって答えてくれていない感じがしました。話を終えてお礼を述べると、先輩は I子さんに言いました。

「社会人になったら、遅刻は大きなポイントダウンになるからね」 I子さんはこれ以上下げられないというぐらい深く頭を下げ、「本当に申し訳ありませんでした」と謝りました。

家に帰る道すがら、 I子さんは泣きそうな気分でした。こんなことではいけないと心から思え、これからは絶対に遅刻はしないと決意しました。

ところが後日、今度は男性の先輩との約束の際、 I子さんはまた家を出るのが遅くなってしまったのです。全力疾走しながら、 I子さんは自分が情けなくてたまらなくなりました。

5分遅れで待ち合わせのカフェに着き、「遅れてすみませんでした」と謝ると、男性の先輩はこう言いました。

「きみさ、この間、うちの社の ◯◯と会ったときも遅刻したらしいじゃない。いったい何考えてんの? こっちは忙しい中、きみに頼まれたから時間をやりくりしてるんだよ。それなのに、先輩より遅れるなんてあり得ないよ。そんなんじゃうちに入るのは厳しいと言うしかないよ。それどころか、どこの会社だってどんな仕事だってうまくいくとは思えないな」 I子さんは奈落の底に突き落とされたような気持ちです。

男性の先輩は、最初に厳しいことを言いましたが、それ以降は充分にアドバイスをしてくれました。でも、自分の至らなさをズバリと指摘された I子さんは、落ち着いて話を聞ける状態ではありませんでした。すっかり肩を落として帰途についた I子さん。

自分の首を絞めているのは、だらしない自分自身なのだと思うと、やりきれない気持ちになります。どうして自分はこうも時間にルーズなのか。もう遅刻はしないと決めたのに、結局、約束が守れない……。I子さんは自分のことが大嫌いになりました。

どうしてこんなことに?

自分のだらしなさに気づかないまま、だらしないことをしているなら悩みもありませんが、いったん気づいて自分を責め出すと非常につらくなってきます。

「だらしない」という言葉の威力はかなり強く、「自分はだらしない人間だ」という認識は、人を打ちのめすからです。「片づけられない」人たちも、この自責の念に苦しめられます。

「部屋を片づける」などというのは子どもだってできることなのに、どうして自分はそんな基本的なことができないのかと。

しかし、こうした自責の念は事態を少しも好転させません。意志の問題から脱却し、とにかく行動していきましょう。

対策 〈最初だけ人の力を借りる〉

いい結果を出すために、最初だけ人の力を借りるのは効果的な方法です。時間にだらしない人は「自分基準」で行動するから遅刻を繰り返します。

一度、誰かに一緒に行動してもらって時間の感覚を補正し、そのとおりに動くようにしてみましょう。自分は 30分前で充分だと思っていたのに、その人は 40分前に出発したなら、次回からはその基準に合わせます。

片づけられない人は、ごく親しい知人や業者の力を借りて一度リセットしましょう。「汚部屋」にいては、気分がふさぐばかりだからです。

対策 〈リマインダーで意識を戻す〉

スマートフォンのアプリケーションである「リマインダー」で、やらなければならないこと、やりたいことなど自分の行動を管理しましょう。

「会議用の資料を作成する」「スポーツジムに行く」「旅費の振り込みをする」など、どんな行動でもいいので入力して日時を設定しておくと、そのときが来たらアラームが鳴って知らせてくれます。

スマホにはたいてい無料でセットされています。

単に予定の時間に間に合わせるために使うのではなく、 1日数度、定期的にアラームが鳴るように設定しておけば、その音で現実に意識を戻すことができます。

「おい、ちゃんと現実を見ているかい?」「本当にやるべきことをやっているかい?」 と、スマホから問いかけてもらうのです。

ほかにも、同様の用途を持つアプリに「 Beep Me」などがあります。また、締め切り時間を設定するとそれまでの残り時間が表示される「楽タイマー」というアプリも、現実にやらなければならないことに意識を向けるために役立つでしょう。

※「 Beep Me」 素早くリマインダーを設定できるアプリ。時計でアラームを設定するよりも簡単にできるのが魅力です。メモを書き込んで時刻を設定するか、希望する数分後にビープ設定するだけなので、操作がラク。

無料版と有料版があります。

※「楽タイマー」 残り時間を画面いっぱいに表示してくれるタイマー機能のアプリ。

スタートもストップも画面のどこでもタップすれば簡単に操作できます。スポーツや勉強のときに使うと便利でしょう。無料でダウンロードできます。

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