はじめに ゴボウを食べると花粉症が治る!
花粉症でお困りの日本人 4000万人のみなさま、はじめまして。私は東大名誉教授で農学博士、さらに東大の微生物学博士の小柳津広志と申します。
肩書きを見ると非常に権威的で近寄りがたく思われるかもしれませんが、そんなことはまったくありません。ただ、ほんの少し自己紹介させていただけますと、じつはアレルギー治療では世界一詳しいと自負しております。
また、腸内微生物と微生物系統進化の分野で引用度の高い英語論文を多数発表しているため、微生物分類学と微生物生態学の分野では、日本よりも世界で知られる存在なのです。
ですから、これから紹介する私の話を、ぜひ真剣に聞いていただければと思っております。
* * * 花粉症対策は数多くありますが、私は花粉症の人には毎日ゴボウを食べることをおすすめしています。
ゴボウを食べれば間違いなく花粉症は治るのですが、完璧に治すためには大量に食べる必要があります。
目安としては、毎日、ゴボウ 1本です。もちろん、毎日ゴボウを食べることは簡単ではありません。
しかし、ゴボウを食べることで、腸内細菌の働きを改善 =「腸活」(大腸の働きを活発にすること)し、花粉症によって起こる炎症を抑えることによって、花粉症はほぼ 100%治ってしまうのです。
「花粉症が必ず治る」と書くと、多くの疑問の声や批判の声があがるかもしれませんが、花粉症は炎症の一種であり、炎症を抑えるメカニズムを知ることによって、年齢や性別を問わず治すことができるのです。
その治療法のカギを握るのが、「酪酸菌」 です。酪酸菌は、だれもが大腸に「飼って」います。そして、その働きを活発にするには、「フラクトオリゴ糖」 という水溶性食物繊維をエサとして与える必要があるのです。
このフラクトオリゴ糖が最も多く含まれていて、最も手軽に食べることができるのが、食物繊維の王様である、ゴボウです。
もちろん、ゴボウだけではなく、たまねぎ、にんにく、ネギ、アスパラガスなどの野菜にも含まれています。
新鮮なヤーコンには 100グラムあたり 13グラムのフラクトオリゴ糖が含まれており、ゴボウの 6グラムをはるかに凌駕しています。
「だったら、ヤーコンを食べればいいんじゃないか!」 という声が聞こえてきそうですが、 みなさんの近くの八百屋さんでヤーコンは売られていますか? キクイモ 100グラムにもフラクトオリゴ糖が 15グラム含まれていますが、やはりキクイモも八百屋さんでは入手が困難です。
ですから、どこの八百屋さんやスーパー、デパートにも売っていて、日本人になじみのある野菜としてゴボウが一番手っ取り早いのです。
* * * 毎年、2月から4月の花粉症の季節になると、約 4000万人の花粉症患者の方々が鼻水、くしゃみ、目のかゆみを訴え、病院やクリニックや薬局にかけこんで、注射をしてもらったり、目薬やマスクやアレルギーを抑える薬を大量に、そして長期にわたって購入しています。
その市場規模は、わかっているだけで 1000億円超。しかし、そのうち 9割の花粉症対策が意味をなしていません。
本書は、花粉症を炎症としてとらえ、その炎症を抑えるため、 1.食事療法 2.腸活(酪酸菌の増加)
に焦点を当て、 100人の花粉症患者がいたら、すべての方の症状が寛解され、そして治す方法を教える本です。
極端な話、酪酸菌にフラクトオリゴ糖をエサとして与えるだけで、理論的には、たった 6時間で花粉症は治ってしまうのです。花粉症の強度によって個人差はありますが、本当に花粉症が 1日で治ります。
あなたが、明日から、目薬、抗ヒスタミン剤、マスクの無い、快適な鼻呼吸生活が送れることを心から願っています。
なぜ花粉症を治せるようになったのか?
2016年3月、定年まで 2年ありましたが東京大学を早期退職しました。私自身も高齢者の一員になりましたが、なんとか高齢者の生活をサポートしたいと考えたのです。
そこで、私は得意な料理を活かそうと考え、高齢者のための減塩レストランを開店。私の料理は『世界一受けたい授業』(日本テレビ系列)で紹介され、腕には自信がありました。レストランは繁盛して、いくつかのメディアでも紹介されました。
ところが、高齢者と接するうちに、「糖尿病を治してほしい」「血圧やコレステロール値を下げるにはどうしたらいいか」「喘息や老人性かゆいかゆい病(乾皮症)を治す方法はないか」 などの相談をつぎからつぎに受けるようになったのです。
あげくの果て、「認知症はなんとかならないか」 などの話もありました。
しかし、私は微生物学の専門家で、栄養学には詳しくありませんでした。そこで、私は栄養学の本を購入して、丹念に繰り返して読みました。
しかし、栄養学の先生が書く本には、何を食べたら病気が治るのか書いてありませんでした。
まず私は、腸内フローラを変えたらどうなるかを、聞こえは悪いかもしれませんがレストランのお客さんで人体実験をすることにしたのです。
最初に思いついたのは、腸内の酪酸菌を増やすことでした。なぜなら腸内フローラの研究をしていた時に、フラクトオリゴ糖で酪酸菌が増えるということを知っていたからです。
早速、フラクトオリゴ糖を糖尿病のお客さんに摂ってもらったところ、予想したように、空腹時血糖値は下がりました。
ところが、食後血糖値にはほとんど影響を与えず、数か月のあいだの血糖値の平均を表すヘモグロビン A 1 c値はそれほど下がりません。
2018年春、数十人のお客さんがフラクトオリゴ糖を摂っていましたが、驚くことに、ほとんどの方の花粉症が治ってしまったのです。
また、老人性かゆいかゆい病や気管支喘息の方もほとんど症状が出なくなりました。そこで、フラクトオリゴ糖を大量に販売して、さらなる人体実験を行うことにしました。花粉症が治ることが口コミで伝わり、数か月で数百人が使うようになりました。
驚くことに、ほとんどの方が翌日に治ってしまい、人によっては摂取後、 5 ~ 6時間で治ったのです。
私自身の花粉症と蕁麻疹(アトピー性皮膚炎)もすぐに治りました。それだけでなく、下痢の症状も無くなり、痔もすぐに治りました。
その後も、口コミで評判が伝わり、利用者はまたたく間に数千人に。私は花粉症を 1日で治せるようになったのです。
花粉症は炎症反応による病気にすぎなかった
私は運よくフラクトオリゴ糖の効能を発見して、花粉症を 1日で治せるようになりました。
すると、花粉症の治療以外にも驚くべきことが起こったのです。
数千人のフラクトオリゴ糖の利用者のうち、多くの人から、 「よく眠れるようになった」 「朝まで起きないでぐっすり寝られるようになった」 という声を頻繁に聞くようになりました。
「夫が急に活動的になって、頻繁に外出するようになった」 「怒りっぽくなくなった」という声もよく聞きます。
さらに、ある時からうつ病、パニック障害の方が多く来店するようになりました。私の周りにはうつ病の方はいませんでしたので、フラクトオリゴ糖がうつ症状に効くとは、気がつきませんでした。正直に言うと、うつ病についてまったく知識がなかったのです。
うつ病について調べを進めていると、ケンブリッジ大学精神医科学長のエドワード・ブルモアという著名な精神科医の『「うつ」は炎症で起きる』(エドワード・ブルモア著、藤井良江訳/草思社)という本を見つけました。
その時、私の頭の中で、「花粉症」と「うつ病」が「炎症で起こる病気」としてつながりました。じつは、人の気分も炎症が起こると「落ち込み」、炎症が抑えられると「爽快」になるのです。炎症の抑制は、腸内フローラの一つである酪酸菌が行います。
私の「気分」も「鼻のむずむず」も、大腸の酪酸菌によって決められていたのです。
画期的アレルギー治療技術の発見
私の「食べ物による病気の治療」の試みは、精神医学の分野に広げられました。
すると、アトピー性皮膚炎やうつ病は、食べたものに含まれるミネラルやビタミンの不足によっても悪化することがわかったのです。栄養状態が悪ければ、活発には動けなくなり、疲れやすくなります。悪化したアトピー性皮膚炎では、皮膚の再生のため大量のタンパク質が必要です。
もともと、私のレストランは高齢者用の減塩レストランですので、来店者の平均年齢は 70歳を超えていました。
高齢者は食が細く、ごはんをたくさん食べておかずをあまり食べない傾向にあります。
からだを作るのに摂らなければならない栄養素は、「必須アミノ酸」「必須脂肪酸」「ビタミン類」「ミネラル類」です。これにエネルギー源として「タンパク質」「脂質」「糖質」を、大腸の腸内フローラを整えるための「食物繊維」を加える必要があります。
それでは、いったいどのような食べ方をしたらより多くの病気を治せるのでしょうか。これが、私の新たな課題となりました。
認知症、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病はどうしたら治り、予防できるのだろうか? 私はまず、糖尿病治療に取り組みました。
当然、「糖質制限」をターゲットとし、これが糖尿病治療に効くか試したのです。
糖質制限食では、ごはん、パン、うどんなどの麺類、スナック菓子、砂糖などの糖質過多食品を摂りません。
これらの糖質過多食品はビタミン類、ミネラル類をほとんど含みませんので、当然、糖質制限をすれば栄養バランスは抜群になります。
そこで私は、レストランのお客さんを使った人体実験を始めました。
「糖質制限食講習会」を開催し、糖尿病の方を集めたのです。参加者にはフラクトオリゴ糖を摂ることと、糖質制限が課されます。
当たり前のように、ほぼ全員の血糖値ヘモグロビン A 1 cは数か月で正常になります。驚いたことに、認知機能も良くなるのです。軽度認知症の方が、周りが驚くほど改善されました。
私自身も糖質制限を始めていましたが、 1年で体重が 10 ㎏減少。記憶力が格段によくなり、人の名前が出てこないことはほとんど無くなりました。
ここで、認知症、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病も、炎症が原因の病気だという事実にたどり着いたのです。アルツハイマー病では、脳の免疫細胞が神経細胞を破壊する炎症が起こります。心筋梗塞、脳梗塞は、血管や心臓に高血糖などによる炎症が起こることが原因です。糖尿病も肥満などによる全身の炎症反応から起こります。
私は、とうとう、フラクトオリゴ糖と糖質制限の2つの炎症抑制作用で、がん、遺伝病などの遺伝子が原因で起こる病気以外のほとんどの病気を治せるようになったのです。
花粉症を 1秒でも速く治したいという方は、第 6章だけ読めば、すぐに鼻のむずむずは解消されます。
第 1章 ~ 5章は、花粉症が増えた背景、花粉症の発症メカニズム、医療における花粉症治療の現状、花粉症を治す食事法について紹介しています。
第 7章では、これからの世の中について、私の展望を書きましたので、第 6章以外も、ぜひ、お読みください。
また、本書は、専門用語はできるだけ使用しないで書きました。
たとえば、腸内細菌の生態系のことを「腸内フローラ」と書いていますが、正確な表現は「腸内細菌叢」です。腸内細菌叢などという言葉は一般の方は使わないので、あえて腸内フローラとしました。
学術雑誌に掲載された文献の引用はしていません。なぜなら、発表された文献はそれぞれ結果と見解が異なり、情報過多となってしまうからです。
読者のみなさんを混乱させないように、文献の情報を私の考えでまとめております。
第 1章 日本人の 4割が花粉症で泣いている
日本人の 4割は花粉症!
花粉症、アトピー性皮膚炎は最もよく知られたアレルギー疾患です。
花粉症やアトピー性皮膚炎がアレルギーであることを知らない人は、 100人のうち一人くらいしかいないでしょう。
ところが、統計的に花粉症や蕁麻疹を含めたアトピー性皮膚炎の患者がどのくらいいるかを調べることは不可能です。なぜなら、軽い花粉症、アトピー性皮膚炎の人は決して病院に行かないからです。
私も 40年ほど花粉症で苦しめられましたが、一度も病院には行っていません。
ところが、アレルギー性鼻炎(ほとんどが花粉症)、アトピー性皮膚炎、喘息の割合を、 NPO法人日本健康増進支援機構が報告しています(図 1)。

いったいどうやって、日本国民全体でこのようなデータを手に入れたか定かではありませんが、このデータによると 20年ほど前に花粉症は日本人の 3割という結果でした。現在はおそらく 4割程度が花粉症だという調査報告が出ています。
アトピー性皮膚炎と喘息も合わせると、 2人に一人はアレルギーを持っているのです。日本健康増進支援機構の調査でも 1970年代以前は、アレルギーを持つ人はほとんどいませんでした。
ここ 50年間、花粉症は増え続けている
私が経営している喫茶店「カフェ 500」にも、多くの花粉症の方が通っています。そのうち、 80歳以上で花粉症の方は一人もいませんでした。しかし、 70代には非常にたくさんの花粉症の方がいます。
この違いは何なのでしょうか?
『あなたの体は 9割が細菌』(アランナ・コリン著/河出書房新社)では、「抗生物質の使用がアレルギーの原因となっている」と主張されています。
抗生物質は、 1944年、ノルマンディー上陸作戦時に負傷した兵士たちの治療に使われたのが始まりです。
その時には価格が高くて兵士にしか使われませんでしたが、 1950年代に入ると安価になり、淋病、結核、肺炎などに大量に使用されるようになりました。
日本でも同じように、 1950年代から一般向けに使用されています。
現在、 80代の方は 1950年代には既に成人になっており、感染症などに罹患しない年齢となっていました。
つまり、現在 80代以上の人は、抗生物質を投与されていなかったのです。抗生物質が花粉症の原因かどうか断定できませんが、明らかに花粉症の患者は抗生物質が普及したあとに急激に増えました。
花粉症は大気汚染も原因の一つとも言われていますが、この説には疑問符がつきます。
私は、 80代の方が花粉症にならなかった事実を知ってから、花粉症の根本原因は、抗生物質の使用にあると確信するようになりました。
女性を悩ます自己免疫疾患
関節リウマチなど、自分の免疫が自分の体のいろいろな臓器を攻撃する自己免疫疾患も花粉症と同じように 1970年代から急増しています。
というより、 1970年代以前はほとんどこれらに悩む人はいませんでした。
自己免疫疾患も抗生物質が腸内フローラを攪乱することによって、起こしている疾患です。
自己免疫疾患というと女性に多いという印象を抱く人が多いと思います。すべての自己免疫疾患が女性に多いのではなく、いくつかの疾患が女性に圧倒的に多いのです。

女性に多い自己免疫疾患の関節リウマチは、患者数が 60 ~ 100万人もいます。
関節リウマチは膠原病という Ⅲ型アレルギー(アレルギーについては後で詳しく説明します)の一つです。
膠原病には全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などが含まれ、全体では非常に多くの患者がいる自己免疫疾患です。
関節リウマチは自分の臓器を攻撃する抗体が関節を攻撃します。全身性エリテマトーデスは関節、皮膚、腎臓、肺、中枢神経などさまざまな臓器を攻撃します。
膠原病というと皮膚に蝶のような赤い紅斑ができると教わりますが、これが全身性エリテマトーデスの皮膚への攻撃です。
シェーグレン症候群は自己抗体が唾液腺と涙腺を攻撃します。目が乾き、口が乾く症状を来たします。
膠原病は理由は分かりませんが、なぜか、女性に圧倒的に多い病気なのです。
女性は、関節リウマチでは男性の 4倍、全身性エリテマトーデスでは 9倍、シェーグレン症候群ではじつに 17倍も多く発症します。
全身性エリテマトーデスの推定患者数は 6 ~ 7万人、シェーグレン症候群は 10 ~ 30万人もいます。
関節リウマチも含めた膠原病患者は、自己免疫疾患のなかで圧倒的に多いのです。膠原病には3つの代表的疾患以外にも多くの病態が含まれます。
膠原病は全身に存在するコラーゲンを攻撃する疾患で、攻撃する場所が人によって少しずつ異なり、また、少しずつ重なったりしています。
たとえば、関節リウマチの人がシェーグレン症候群でもあるなどです。
自己免疫疾患では、神経細胞を囲む髄鞘という部分を攻撃する多発性硬化症も女性に多い( 3 ~ 4倍多い)疾患です。
患者数は約 2万人で、 1970年代から急激に増加しています。
50歳以上の人に発症するパーキンソン病の発症メカニズムはよくわかっていません。自己免疫疾患あるいは腸内フローラが原因となって起こる病気と考えられています。
リン酸化 α‐シヌクレインというタンパク質が中脳黒質のドーパミン神経細胞に蓄積してドーパミンが不足することによって起こります。
この αシヌクレインは腸の神経から迷走神経を伝わって脳に到達するという仮説が有力となっています。パーキンソン病は女性が 1・ 5倍多い疾患です。患者数は推定 15 ~ 20万人で 1970年代から急増しています。
精神疾患患者は 400万人を超えている
精神疾患も急激に増えています。患者数は毎年約 30万人ずつ増え、 400万人を超えています。
厚生労働省の統計では、うつ病・躁うつ病などの気分障害、神経症性障害・ストレス関連障害、精神作用物質使用による精神及び行動の障害、アルツハイマー病が増えています。これらの疾患は、すべて 1970年代以降に増加しています。

人の気分や情動は腸内フローラが支配していることが明らかとなってきています。
腸内フローラが気分や情動にどのように作用しているか詳細は第 2章で説明しますが、簡単に言うと、脳に炎症が起こると気分が悪くなり、消極的になるのです。
脳に炎症を起こすのは、ストレスや病気です。ストレスがあると落ち込むことはわかると思いますが、インフルエンザや風邪で熱が出れば心は落ち込みます。熱が出た時に、気分が〝るんるん〟な人はいません。
脳の炎症を抑えるのが良好な腸内フローラです。腸内フローラを破壊する抗生物質が、精神疾患の原因になっています。
社会的な問題になっている発達障害
文部科学省は「通級による指導を受けている児童生徒数の推移」というデータを報告しています。
通級とは、なんらかの障害のある子どもが普通の学級に在籍して、個別に特別支援教育を受けることです。この統計から、注意欠陥多動性障害、学習障害、自閉症、情緒障害の子どもが急激に増えていることがわかります。これらは発達障害と呼ばれています。
図 4を見ると、平成 5年にはこれらの障害のある子どもはほとんどいなかったことがわかります。

多くの論文、書籍で、腸内フローラが幼児の脳の発達に大きく影響することが報告されています。また、子どもに限らず、大人でも腸内フローラは〝やる気〟〝気分〟〝感情〟〝行動性〟〝精神の安定性〟を支配していることも認められつつあります。
それでは、人の脳の発達と情動に関係する疾患はなぜ増えたのでしょうか。答えは簡単です。腸内フローラが悪くなったからです。そして、腸内フローラを悪くする最強の薬物が抗生物質なのです。
脳の発達障害と情動障害は抗生物質の使用が始まった 1950年代から増え、特に 1970年代から急増しています。
抗生物質が脳の発達などに影響していることを詳しく知りたい方は、『失われてゆく、我々の内なる細菌』(マーティン・ J・ブレイザー著、山本太郎訳/みすず書房)をお読みください。
じつは花粉症とうつ病は同じ病気
「花粉症とうつ病が同じ病気である」というと、「え!? そんなことないだろう」と思う人が多いと思います。
ところが、花粉症もうつ病も免疫細胞が起こす炎症が原因となっています。花粉症では、炎症が鼻、目、喉、皮膚などに起こり、うつ病では、炎症は脳に起こります。
「花粉症では花粉というアレルギーの原因となるアレルゲンが目や鼻に侵入するから起こるのに、うつ病ではアレルゲンがないではないか」という人もいると思いますが、炎症はアレルゲンだけで起こるものではありません。
炎症とは、体の中で免疫が活発化することで、そのタイプはさまざまです。
うつ病の炎症は、ストレスが加えられ脳の中にダメージ関連分子パターン( DAMPs)という物質が作られ、これが炎症を起こします。
炎症が続くと脳の免疫細胞が神経細胞のシナプスを破壊し、セロトニンなどの精神を安定化するホルモンが減少します。
ここで、脳内の細胞を紹介しましょう(図 5)。

神経細胞は脳の機能の主役ですが、脳全体では 1000 ~ 2000億個しかありません。その他の細胞はグリア細胞と呼ばれ、神経細胞の 10倍も存在します。
グリア細胞には機能の違うアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアの 3種類があります。
アストロサイトの数が最も多く、脳全体を埋め尽くすように存在します。アストロサイトは脳全体に栄養を供給し、不要なゴミを除去する働きをしているのです。
オリゴデンドロサイトは神経細胞のシナプスを囲む髄鞘を形成します。
ミクログリアは免疫担当です。
神経細胞を破壊するのが仕事ですが、じつは胎児から幼児の時の脳全体の形と配置を決めるのもミクログリアです。
つまり、ミクログリアは脳の発達の司令塔なのです。
脳の機能として重要な〝記憶〟は、シナプスが伸び神経細胞間が網の目のようにつながって作られます。
ミクログリアは夜間にこれらのシナプスのつながりを適度に切り、これによって記憶を固定させます。ミクログリアは記憶の形成に関わっているのです。
腸内フローラが悪くなると脳に炎症が起こり、脳内には炎症性サイトカインである I L‐ 1、 IL‐ 6、 TNF αが増加して、このサイトカインによってミクログリアが神経細胞を攻撃します。
サイトカインはさまざまな細胞が連携をとるための情報伝達物質です。炎症性サイトカインは他の細胞に「炎症を起こせ」という指令を出しています。いずれにせよ、花粉症とうつ病は炎症によって起こる病気です。
じつは、良好な腸内フローラはこれらのさまざまな炎症を強力に抑えています。
アルツハイマー病も花粉症と同じ病気だった
アルツハイマー病の増加は高齢者の増加が原因と考える人が多いかもしれません。
そして、アルツハイマー病ではアミロイド βというゴミが脳に蓄積するということは、多くの方が知っているでしょう。
ゴミは高齢になれば蓄積するのは当たり前ですが、じつは、アミロイド βが溜まったことと脳細胞が死滅することはまったく違うのです。
多くの製薬企業が、蓄積したアミロイド βを減らしたり、蓄積させないような薬剤を探索してきました。
ところが、アミロイド βを減らしたり、蓄積させないようにしても認知機能の低下を防げないことがわかってきたのです。
その結果、ほとんどの巨大製薬企業は、 2019年までにアルツハイマー病治療薬の開発を諦めました。
最終的に認知機能を低下させるのは、脳に存在する免疫細胞(ミクログリア)が神経細胞を破壊することが原因だったのです。
免疫の暴走をコントロールするのは腸内フローラです。腸内フローラが悪くなれば免疫は暴走します。その腸内フローラを悪くする主犯は抗生物質なのです。
アルツハイマー病も抗生物質が増やしている病気なのかもしれません。
驚愕の事実!「人は体の炎症を抑える仕組みを持っていない」
「すべての病気は炎症を起こし、炎症が病気を発生させる」とお伝えしてきました。
おそらく、「体には炎症を抑える仕組みがあるのだろう」と考える人が多いでしょう。
ところが、人は炎症を抑える仕組みを持っていません。それどころか、すべての哺乳類が持っていないのです。繰り返しになりますが、炎症は良好な腸内フローラが抑えます。
腸内細菌は体内ではなく、体外に生息しています。ですから、人は炎症を抑えることができないのです。人の外にある良好な腸内フローラを壊せば炎症が抑えられなくなります。
人は、普通分娩では肛門の周りに存在する腸内細菌を母親からもらいます。膣に生息する乳酸菌ももらいます。母乳にはオリゴ糖類が数%入っていて、これがビフィズス菌だけを増殖せます。
ビフィズス菌は大腸に酢酸と乳酸を充満させ、大腸を酸性にすることによって、大腸菌などの有害細菌の侵入を防ぎます。
やがて、離乳すると、大腸では野菜に含まれるオリゴ糖や多糖類をエサにして酪酸菌が優占してきます。酪酸菌が作る酪酸は大腸細胞のエネルギー源となり、免疫系を発達させて不要な炎症を抑えるようになります。じつは、すべての哺乳類はこのような仕組みで炎症を抑えているのです。
抗生物質は良薬か悪者か
私は、抗生物質は「悪い物質」だと言ってきましたが、すべてがそうではありません。抗生物質は肺炎、敗血症、結核、性感染症などの病気の治療に不可欠。幼児の死亡率を大きく低下させ、人の寿命を延ばした良薬です。

図 6は 1903年 ~ 1978年までの死因別の死亡率(人口 10万人あたりの死亡人数)の変遷を示しています。抗生物質が一般的に使用され始めたのは、 1950年代です。
これより以前には、肺炎・気管支炎、胃腸炎、結核、腎炎・ネフローゼで死亡する人が多かったのですが、これらは細菌感染症です。
胃腸炎は腸チフス、コレラなどで、胃が荒れたことではありません。1950年以前は、細菌感染症が子どもの命を奪っていたのです。
この経緯を知ると、抗生物質は間違いなく「良薬」です。ところが近年、抗生物質に対する耐性を持った日和見感染菌を生んでいます。
日和見感染菌は健康な人には病気を起こさず、病気で免疫力が低下した人に感染する細菌です。病院内ではこの日和見感染菌が抗生物質の効かない耐性菌となっています。薬剤耐性の日和見感染菌は多くの人の命を奪っており、人類の脅威になっています。
厚生労働省は薬剤耐性菌の出現を減らすため、抗生物質の使用を減らす努力をしています(薬剤耐性〈 AMR〉対策アクションプラン)。
この問題とは別に、私が説明してきたように、抗生物質の使用はアレルギーと自己免疫疾患を増加させています。抗生物質の歴史にはこのような〝光〟と〝影〟があるのです。
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