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第9章コラボレーティブ・インテリジェンス:人間とAIの理想的な関係      H・ジェームズ・ウィルソンアクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所マネージングディレクターポール・R・ドーアティアクセンチュア最高技術責任者兼最高イノベーション責任者

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第9章コラボレーティブ・インテリジェンス:人間とAIの理想的な関係      H・ジェームズ・ウィルソンアクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所マネージングディレクターポール・R・ドーアティアクセンチュア最高技術責任者兼最高イノベーション責任者

人間とAIは補完し合って最大の成果を発揮する人間が機械を助ける3つの重要な役割機械が人間を助ける3つの方法5つの特性からビジネスプロセスを見直す人間とAIをつなぐ融合スキルがカギ

第9章コラボレーティブ・インテリジェンス:人間とAIの理想的な関係      H・ジェームズ・ウィルソンアクセンチュア・ハイパフォーマンス研究所マネージングディレクターポール・R・ドーアティアクセンチュア最高技術責任者兼最高イノベーション責任者

人間とAIは補完し合って最大の成果を発揮する

人工知能(AI)は、病気の診断、言語の翻訳、顧客サービスの提供など、人間の仕事を数多くこなせるようになっており、その改善スピードも速い。

これに伴い、いずれはあらゆる分野でAIが人間に取って代わるのではないかとの懸念も生まれている。

だが、それは避けられない結末ではないし、必ずしもそうなるとは限らない。

デジタルツールがこれほど敏感に対応してくれる時代はかつてなかったが、一方で我々が自分たちの使うツールにこれほど敏感になった時代もない。

誰がどのように仕事をするかという構図がAIによって激変するとしても、このテクノロジーの本領は、人間の能力に置き換わることではなく、人間の能力を補完し、強化することにある。

多くの企業が工程自動化のためにAIを使ってきたのは事実だが、ただ従業員の代わりに利用する企業は、短期的に生産性が上がるだけだろう。

1500社を対象にした筆者らの調査によると、企業が最大のパフォーマンス改善を実現するのは、人間と機械が〝協働〟した時である(図表9-1「協働の価値」を参照)。

そうした「コラボレーティブ・インテリジェンス」を通じて、人間とAIは互いの補完的な強みを積極的に伸ばすことができる。

その強みとは、人間のリーダーシップ、チームワーク、創造性、社交性、そしてAIのスピード、拡張性、量的対応力だ。

たとえば、人間にとってたやすいこと(冗談を言う)が機械には難しく、機械にとっては単純なこと(ギガバイトクラスのデータの分析)が人間にはほとんど不可能である。

しかし、ビジネスにはいずれの能力も欠かせないからだ。

この協働をフル活用するには、どうすれば人間が機械の能力を最も効果的に強化できるか、どうすれば機械が人間の得意なことを最大限改善できるか、そして、両者のパートナーシップを支えるためにビジネスプロセスをどう設計し直せばよいかを、企業が理解しなければならない。

筆者らは現場での調査・研究を通じて、企業がこれを実現し、コラボレーティブ・インテリジェンスを機能させるためのガイドラインを作成した。

人間が機械を助ける3つの重要な役割人間は、3つの重要な役割を果たさなければならない。

第1に、機械を「訓練」して特定のタスクを実行させること、第2に、そのタスクの結果を「説明」すること(特に、意外な結果や物議を醸す結果が出た場合)、そして第3に、機械の責任ある利用を「維持」する(たとえば、ロボットが人間に危害を加えないようにする)ことである。

❶訓練機械学習アルゴリズムに、想定する仕事の仕方を教え込まなければならない。

その際、訓練用の膨大なデータを蓄積し、機械翻訳アプリに慣用表現の扱い方を、医療アプリに病気の見つけ方を、レコメンデーションエンジンに財務意思決定の支援方法を指南する。

さらに、人間との上手なやり取りの仕方をAIシステムに教えなければならない。

さまざまなセクターの組織では全般的にまだトレーナーの役割を果たし始めたばかりだが、有力な技術系企業や研究組織はすでに熟練のトレーニングスタッフを擁し、訓練の専門知識も備えている。

マイクロソフトのAIアシスタント「コルタナ」について考えてみよう。

このソフトウェアに正しい個性─―自信と思いやりがあって役に立つが、けっして威張らない——を身につけさせるには、相当な訓練を必要とした。

詩人、小説家、脚本家を含むチームが、数え切れないほどの時間をかけてこうした特性を教え込んだ。

同じく、アップルの「シリ」(Siri)や、アマゾン・ドットコムの「アレクサ」に、それぞれの企業ブランドに合った個性を身につけさせるには、やはり人間のトレーナーが必要だった。

たとえばシリは、消費者が抱いているアップルのイメージに近い、ちょっとした生意気さを備えている。

AIアシスタントはいま、もっと複雑で繊細な人間的特性も示せるよう訓練を受けている。

たとえば、共感もその一つだ。

マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボから生まれたスタートアップ企業Kokoは、AIアシスタントが同情してくれているように見せるテクノロジーを開発した。

たとえば、ユーザーに嫌なことがあった時、Kokoシステムは「お気の毒です」のような判で押したような答えは返さず、詳しい状況を尋ね、問題を別の角度から考えるためのアドバイスをしたりする。

もしユーザーがストレスを感じていたら、それを行動につながる前向きな気持ちととらえるよう進言することもありうる。

❷説明AIが不明瞭なプロセスを通じて結論を導くようになると(いわゆるブラックボックス問題)、その道の専門家(人間)が専門家でないユーザーに、AIの振る舞いを説明しなければならない。

この「説明者」は、法律や医療など、エビデンスに基づく業界では特に重要である。

たとえば、インプットをAIがどのように吟味して、その判決や治療上の提言に至ったのかを、実務家が理解する必要がある。

同様に、自動運転車が事故につながる(または事故を回避しない)振る舞いを起こした理由を、警察や保険会社が知るうえでも、説明者は重要である。

また、規制が強い業界でも、説明者は欠かせない存在になりつつある。

実際、一般消費者向け産業では、AIのアウトプットは不公正、違法、または単に間違いだとされることがある。

たとえばEUの新しい一般データ保護規則(GDPR)は、クレジットカードやローンの利率など、アルゴリズムに基づく決定に関して消費者が説明を受ける権利を認めている。

この点では、AIは雇用の増加に貢献する。

専門家の試算では、GDPRの要件に対応するために、企業は7万5000の雇用を新しく創出しなければならない。

❸維持AIの出す結果を説明できる人に加えて、AIシステムが適切かつ安全に、責任を持って機能するようたえず目配りする「維持者」も必要である。

たとえば、安全エンジニアと呼ばれることもある多数の専門家が、AIによる損害の予測・予防に焦点を当てる。

人と一緒に働く産業ロボットの開発者は、ロボットが近くの人間を認識し、危険にさらさないよう注意を払ってきた。

これらの専門家はまた、自動運転車が死亡事故を起こした時など、AIが害を及ぼしてしまった時に、説明者の分析をチェックすることもある。

その他、AIシステムに倫理規範を守らせるための維持者もいる。

たとえば、与信承認を扱うAIが一定のグループに属する人々に差別的な処遇をしているのがわかったら(実際、そういうことがあった)、この倫理マネジャーが責任を持って問題を調査し、対応策を講じる。

データ・コンプライアンス・オフィサーも同じような役割を果たす。

AIシステムに提供されているデータが、GDPRなどの消費者保護規制を遵守したものであるよう目を光らせる。

データ使用に関連する役割としては、AIに責任を持って情報管理させる仕事もある。

技術系企業の多くがそうだが、たとえばアップルもAIを使って、同社のデバイスやソフトウェアを利用したユーザーの詳細な個人情報を集めている。

目的はユーザー体験の向上だが、際限なきデータ収集はプライバシーを侵害し、顧客を怒らせ、法律に違反する可能性がある。

そのため、同社の「差分プライバシー」(differentialprivacy)チームは、AIがユーザーグループについて、統計的な意味でできるだけたくさんのことを知ろうとする一方で、個々のユーザーのプライバシーは保護するような施策を講じている。

機械が人間を助ける3つの方法スマートマシンは、3つの方法で人間の能力拡大を手助けしている。

第1に、我々の認知的な強みを増幅させること、第2に、顧客や従業員と交信・交流し、我々がもっと高いレベルの仕事ができるようにすること、第3に、人間の技能を体現して、我々の物理的能力を
拡大することである。

❶増幅AIは正しい情報を正しいタイミングで提供することにより、我々の分析能力や決定能力を高めることができるが、それだけでなく創造性を高めることもできる。

たとえばオートデスクの「ドリームキャッチャー」は、優れたデザイナーの想像力をも強化できるAIだ。

デザイナーは求められる製品の基準をドリームキャッチャーに知らせる。

椅子であれば、最高300ポンド(約130キロ)の重さに耐え、地面からの高さ18インチ(約45センチ)、材料費75ドル未満……という具合である。

また、自分が魅力的だと考える他の椅子に関する情報も与えることができる。

すると、ドリームキャッチャーはその基準に合ったデザイン案を何千通りも提出する。

考えもしなかったようなアイデアが出てくることも少なくない。

デザイナーは、どの椅子が気に入ったか、気に入らないかをドリームキャッチャーに教え、次なるステップへと進む。

こうした反復作業の間、ドリームキャッチャーは、それぞれのデザイン案が指示された基準を満たすよう無数の計算を行う。

おかげでデザイナーは、人間ならではの強み——プロとしての判断、美的センス——を活かすことに集中できる。

❷交信・交流人間と機械の協働により、企業は従業員や顧客と、これまでにないもっと効果的な方法で交信・交流できるようになる。

たとえば、コルタナのようなAIエージェントは、会議の内容を書き写し、音声検索可能なバージョンを出席できなかった人に配付するなどして、人々のコ

ミュニケーションを円滑にすることができる。

このようなアプリケーションは基本的に拡張性が高い。

たとえばチャットボット一つで、さまざまな場所の多数の人々に所定の顧客サービスを同時に提供できる。

スウェーデンの大手銀行SEBは、「アイダ」と呼ばれるバーチャルアシスタントを使って、何百万という顧客とやり取りしている。

自然言語での会話ができるアイダは、膨大なデータにアクセスし、口座の開き方、国境を越えた支払いの仕方など、数多くのFAQ(よくある質問)に答えることができる。

また、電話をかけてきた相手にフォローアップの質問をして問題解決を図ることもできれば、電話の相手の声の調子(いらいらしている、感謝しているなど)を分析し、その情報をもとに追って適切なサービスを提供することもできる。

それでも問題を解決できない時は(およそ30%の確率で起きる)、人間の顧客サービス担当者に引き継ぎ、そのやり取りをモニターして将来的に同様の問題を解決するための参考とする。

いずれにせよ、アイダが基本的なリクエストなどに応えてくれるため、人間の担当者は、困っている顧客へのさらなる支援など、もっと複雑な問題への対応に集中できるのである。

❸体現アイダやコルタナといった多くのAIは、主にデジタルなものとして存在しているが、他のアプリケーションでは、人間の働き手の能力を強化するロボットに知性が体現されている場合がある。

高度なセンサーやモーター、アクチュエーターを備えたAI対応マシンはいまや、人やモノを認識し、工場や倉庫、研究所で、人間と並んで安全に仕事をすることができる。

たとえば製造業の場合、ロボットは危険をはらんだ「黙って決められた作業をする」産業機械から、スマートでコンテキスト・アウェアな(周囲の状況を感知できる)、「コボット」(協働ロボット)へと進化している。

コボットのアームが重いものを持ち上げる反復作業を担当する一方、人間はギアモーターの組み立てなど、器用さや人的判断を要する補完的タスクに携わるという具合である。

ヒュンダイはさらに、外骨格を使ってコボットの概念を広げている。

こうしたウェアラブルロボットは、ユーザーやロケーションにリアルタイムで適応するため、産業労働者は超人的な耐久力や強さで仕事ができる。

5つの特性からビジネスプロセスを見直すAIから最大限の価値を引き出すには、オペレーションを再設計する必要がある。

そのためにはまず、改善可能な業務領域を発見・記述しなければならない。

それは社内の思うようにならないプロセス(人事部が必要なスタッフを採用するスピードが遅い、など)かもしれないし、かつては手に負えなかったが、いまはAIを使って対応可能な問題(患者集団に対する薬剤の副作用を素早く特定する、など)かもしれない。

さらに、AIをはじめとする数々の新しい先端分析技術は、かつては見えにくかったが、AIでの解決に適した問題を表面化させる効果がある(章末「見えない問題を明らかにする」を参照)。

次に、価値共創を通じてソリューションを生み出さなければならない。

つまり、AIシステムとの協働によってプロセスを改善するにはどうすればよいかを、関係者に構想させるのだ。

ある大手農業関連企業のケースを考えてみよう。

この会社はAI技術を使って、農家を支援したいと考えていた。

土質、天候パターン、過去の収穫高など、データは大量に揃っていた。

当初は、将来の収量をもっと正確に予測できるAIアプリケーションをつくる計画だったが、農家と話し合う中で、もっと差し迫ったニーズのあることがわかった。

彼らが本当に求めていたのは、どうすれば生産性が上がるかをリアルタイムで提言するシステムだった。

たとえば、どの作物を植えればよいか、それをどこで栽培すればよいか、土壌中の窒素はどれくらいの量にすべきか……。

同社はそうしたアドバイスを提供するAIシステムを開発した。

結果は上々で、AIの指導により得られた収穫量に農家の人々は満足していた。

同社はこの初期テストの結果をシステムにフィードバックし、アルゴリズムをさらに改良した。

前述の発見ステージと同じく、AIなどの新しい分析技術は、プロセス改善の新たな手法を提案することで、価値共創の手助けができる。

第3のステップは、ソリューション案を拡張し、そのまま維持することである。

たとえば、前出のSEBはもともと、1万5000人の行員を支援するためにアイダを導入したが、その後、100万人の顧客にそれを拡大適用した。

何百社と接するうちに、企業が改善したいと考えるビジネスプロセスの特性を筆者らは特定することができた。

「柔軟性」「スピード」「規模」「意思決定」「個別化」の5つである(図表9-2「パフォーマンスの強化」を参照)。

ビジネスプロセスをとらえ直す際は、希望する変革の核となるのはどの特性か、それに対して知的協業をどのように活用すべきか、他の特性との調整やトレードオフがどのように必要となるかを判断しなければならない。

❶柔軟性メルセデス・ベンツでは、柔軟性のない工程が問題を大きくしていた。

同社の最も収益性が高い顧客の間では、Sクラスセダンの個別化を求める声が高まっていたが、同社の組立システムはそうしたカスタマイゼーションの要望に応えられなかったのだ。

伝統的に自動車の製造工程は硬直的で、「黙って決められた作業をする」ロボットが自動化された手順を実行してきた。

メルセデスは柔軟性を高めるため、そうしたロボットの一部をAI対応コボットで置き換え、人間と機械の協働を中心に工程を設計し直した。

ドイツ・シュツットガルト近くの工場では、人間の作業員が操作するコボットアームが、まるで体の延長であるかのように重い部品を持ち上げ、取り付け作業を行っている。

このシステムによって作業員は、それぞれの車の構造をコントロールしやすくなる。

手作業が減り、ロボットを使った操縦のような仕事が増えるからだ。

メルセデスの人間・機械協働チームは、小回りの利く対応ができる。

工場のコボットはタブレットPCで容易にプログラムし直せるので、ワークフローの変更に応じてさまざまなタスクをこなすことができる。

こうした機動性のおかげで、同社はこれまでにないレベルでカスタマイゼーションを実現できるようになった。

ディーラーでの顧客の選択をリアルタイムで反映して、ダッシュボードのコンポーネントからシートレザー、タイヤバルブキャップまで、あらゆる点で自動車生産を個別化できるのだ。

その結果、シュツットガルト工場の組立ラインから出てくる車に二つと同じものはない。

❷スピード事業活動の種類によっては、スピードが何よりも重視される。

クレジットカード詐欺の発見もその一つである。

ある取引を承認するかどうかを一瞬で判断しなければならない。

もし不正利用なら、その損失を負担しなければならないからだ。

だが、もし合法的な取引を拒絶したら、手数料が入らないうえ、顧客を怒らせてしまう。

大手銀行はたいていそうだが、HSBCも不正検出のスピードと精度を高めるAIベースのソリューションを開発した。

AIは毎日何百万という取引を監視・評価する。

購入場所や顧客の振る舞いに関するデータ、IPアドレスなどの情報を使って、不正が疑われる微妙なパターンを特定する。

米国でまずこのシステムを導入したところ、不正を見逃す確率や誤判定となる確率が大幅に低下したため、英国とアジアにも拡大導入した。

デンマークのダンスケ銀行が利用する別のAIシステムは、不正検出率を50%高め、誤判定を60%減らす効果があった。

誤判定の数が減ると、調査担当者は、AIがどちらともいえないと判定し、人間の最終判断が必要となる取引にもっぱら労力を割くことができる。

金融詐欺との戦いは軍拡競争に似ている。

検出能力が向上すると、犯罪の手口はより巧妙になり、するとまた検出能力が向上し……というサイクルが続く。

したがって、不正検出のアルゴリズムや評価モデルは寿命が短く、たえず更新する必要がある。

さらに、国や地域が違えば、使用するモデルも違う。

こうした理由から、人間と機械の接点には、ソフトウェアが常に犯罪者の一枚上を行くよう、多くのデータアナリスト、IT専門家、金融詐欺対策の専門家が必要とされる。

❸規模多くのビジネスプロセスにとって、拡張性の乏しさが改善・改良の大きな障害となる。

特に、たくさんの人手に頼り、機械の支援が少ないプロセスの場合はそれが当てはまる。

たとえば、消費財大手のユニリーバの社員採用プロセスを見てみよう。

同社は17万人規模の従業員を多様化する方法を模索していた。

それには、新入社員に焦点を合わせたうえで、優秀な人材を経営陣に引き上げる必要があると人事部は考えた。

ところが、既存のプロセスでは、一人ひとりの志望者に個別に注意を払いながら、多様な優れた人材を確保できるだけの人数を評価することができなかった。

そこでユニリーバは、個別採用の規模を拡大するため、人間とAIの能力を組み合わせた。

まず、志望者に、リスク回避などの特徴を評価できるオンラインゲームをしてもらう。

ゲームに正解・不正解はないが、特定の職種にどの人が一番向いているかをAIが判定するのに役立つ。

次に、志望者にビデオを提出してもらう。

彼らはその中で、自分が関心を持つ職種向けの質問に答える。

AIがその回答を分析するが、その時、発言内容だけでなく、ボディランゲージや声のトーンも考慮する。

こうしてAIが選んだ優秀者を会社に呼んで面接し、その後、人間が採用の最終的な判断を下す。

この新しい採用プロセスによって、社員の質が向上したかどうかは、まだわからない。

ユニリーバは入社後の社員の実績を追跡しているが、まだまだデータを蓄える必要がある。

ただし、同社の採用活動の規模が大幅に拡大したのは間違いない。

求職者がスマートフォンで簡単にこのシステムにアクセスできるせいもあって、志望者の数は1年もしないうちに3万人に倍増した。

出身大学の数も840から2600に急増し、新規採用者の社会経済的多様性が高まった。

さらに、志望から採用決定までの平均時間は4カ月からわずか4週間に短縮し、採用担当者が志願者について検討する時間は75%も減少した。

❹意思決定AIは、個々の必要性に応じた情報や指示を提供することで、社員の意思決定の向上を手助けできる。

これは特に、現場の最前線で働く人にとって価値がある。

正しい判断をできるかどうかが、利益に大きな影響を及ぼすからだ。

「デジタルツイン」(物理的機器のバーチャルモデル)を用いて機器のメンテナンスを改善している様子を見てみよう。

ゼネラル・エレクトリック(GE)は、タービンをはじめとする自社の産業用製品について、そうしたソフトウェアモデルを構築し、機器から実際に得られる稼働データでそのモデルを、たえず更新している。

現場の数多くの機械から得られるデータを収集することで、GEは正常・異常なパフォーマンスに関する情報を豊富に蓄積している。

機械学習アルゴリズムを用いた「プレディクス」というアプリケーションは、いまや、個々の機械の特定部品がいつ頃故障しそうかを予測できる。

このテクノロジーは、産業用機器のメンテナンスという、多くの意思決定が関わるプロセスを様変わりさせた。

プレディクスはたとえば、タービンのローターの思わぬ摩耗を特定し、そのタービンの稼働履歴を調べ、この数カ月で損傷が4倍になったことを報告し、何もしなければローターは耐用年数の7割を失うだろうと警告することができる。

次いで、その機械の現状、作動環境、他の機械の同様の損傷・修理に関するデータなどを参考に、適切な対応策を提言することができる。

合わせて、提言内容に関わるコストや経済的メリットを算出し、分析で用いた仮定の信頼度(95%など)を提示することもできる。

プレディクスがなければ、定期保守点検では、ローターの損傷が運よく見つかるかどうかだろう。

ローターが故障するまで損傷が見つからず、結果的に機械が停止し、多額のコストがかかってしまう可能性もある。

その点、プレディクスがあれば、保守担当者は潜在的な問題点が深刻化する前に察知し、正しい判断に必要な情報を手にできる。

これにより、GEは何百万ドルというコストを節減できることもある。

❺個別化それぞれの顧客に応じたブランド体験の提供は、マーケティングの究極の目標である。

AIのおかげで、そんな個別化もかつては考えられなかった精度で大規模に実現できるようになった。

たとえば、音楽ストリーミングサービスのパンドラは、AIアルゴリズムを使って、何百万というユーザー一人ひとりの音楽、アーティスト、ジャンルの好みに応じた個別のプレイリストを作成している。

また、スターバックスでは、顧客の承認を得たうえで、AIを使って彼らのモバイルデバイスを認識し、その注文履歴を呼び出して、バリスタがメニューを提案する際の一助としている。

このように、AIテクノロジーはAIが最も得意なことを行い(大量のデータをふるいにかけて処理し、一定のサービスや行動を提案する)、人間は人間が最も得意なことをする(直感や判断力を駆使して提言をする、選択肢の中から最善のものを選ぶ)のである。

カーニバル・コーポレーションはA
Iを使って、何百万という休暇旅行者のクルーズ体験を個別化している。

具体的なツールは「オーシャン・メダリオン」と呼ばれるウェアラブルデバイスと、スマートデバイスの接続を可能にするネットワークである。

メダリオンならびに船内各所のセンサーやシステムからのデータを、機械学習によってダイナミックに処理し、乗客が休暇を最大限楽しめるようにする。

メダリオンは乗船・下船プロセスを効率化し、乗客の活動を追跡し、彼らのクレジットカードをデバイスにつなげて買い物を便利にするほか、ルームキーの役目も果たす。

また、乗客の嗜好を予測するシステムに接続し、その人に合ったアクティビティプランや食事体験を提案、乗員が乗客一人ひとりに個別サービスを提供できるようにしている。

人間とAIをつなぐ融合スキルがカギビジネスプロセスのとらえ直しには、AI技術の活用だけでなく、筆者らの言う「融合スキル」を備えた人材の育成にも注力する必要がある。

ここで言う融合スキルとは、人間と機械の接点で効果的に力を発揮するためのスキルである。

まず従業員は、AIという新しいテクノロジーに仕事を任せることを学ばなければならない。

医師がコンピュータを信頼し、その助けを借りてレントゲンやMRIを読み取るのと同じである。

従業員はまた、ロボット支援手術のように、人間ならではのスキルとスマートマシンのスキルを組み合わせて、単独の場合よりも優れた成果を出す方法を知らなければならない。

作業者はAIに新しいスキルを教えることができなければならず、また、AIで強化されたプロセスの中でうまく仕事をするためのトレーニングを受けなければならない。

たとえば、必要な情報を得るため、AIにどのように質問するのが一番よいかを知らなければならない。

そして、アップルの差分プライバシーチームのよう

に、会社のAIシステムが責任を持って利用され、違法な目的や非倫理的な目的で使われないようチェックする従業員がいなければならない。

将来的には、企業の役割は、新しくとらえ直したプロセスを通じて望ましい成果を出せるよう、再設計されるだろう。

そして企業は、硬直的な肩書きや役職ではなく、さまざまな種類のスキルを中心に組織編成されるだろう。

AT&Tは、すでにそうした変革に着手している。

固定電話サービスからモバイルネットワークへの事業シフトに伴い、10万人の社員を新しいポジション向けに再教育し始めている。

その一環として、組織図を一から見直し、約2000の役職を、同じようなスキルを含む少数の幅広いカテゴリーに再編した。

それらのスキルの中には、ごく当たり前のもの(データサイエンスやデータ・ラングリングの技能など)もあれば、比較的特殊なもの(シンプルな機械学習ツールを使ってサービスをクロスセルする能力など)もある。

***人間と機械の接点で生じるほとんどの活動において、人はこれまでと違う新しいことを行う(チャットボットを訓練するなど)必要があるし、物事をこれまでと違うやり方で行う(そのチャットボットを使って顧客サービスを向上させる)必要もある。

しかし、ここまでのところ、筆者らが調べた企業で、コラボレーティブ・インテリジェンスの最適化へ向けて、ビジネスプロセスのとらえ直しに着手したところは極めて少ない。

だが、学ぶべき教訓は明らかである。

従業員を機械に置き換えて自動化するだけの組織は、AIのポテンシャルを十分に活用できない。

そのような戦略は最初から間違っている。

明日のリーダーと呼べるのは、コラボレーティブ・インテリジェンスを受け入れ、自分たちのオペレーションや市場、業界を変革し、さらに同じぐらい重要なこととして、従業員を変革していくリーダーである。

見えない問題を明らかにする米国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルドが「既知の知」「既知の未知」および「未知の未知」(知らないということさえ知らないこと)を区別したのは、よく知られた話である。

企業の中にもAIを使って、自分たちの事業の「未知の未知」を明らかにしているところがある。

たとえばGNSヘルスケアは、機械学習ソフトウェアを使って、患者のカルテなどのデータの間に見過ごされた関係がないかを探っている。

何らかの関係が明らかになったら、ソフトウェアはそれを説明する仮説をいくつも導き出したうえで、どれが最も可能性が高いかを提示する。

おかげで同社は、未整理のカルテに隠された新たな薬物相互作用を知ることができた。

CEOのコリン・ヒルは、これは俗に言うデータマイニングで関連を探す作業ではないと指摘する。

「当社の機械学習プラットフォームは、単にデータのパターンや相関を見つけるのではなく、きちんと因果関係を発見するのです」

 

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