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第7章自分の気持ちの「上手な伝え方」を身につける

目次

言い方しだいで、あなたの評価はガラリと変わるコミュニケーションを見直す

第5、第6章で、認識の修正をはかり、「怒りにくい仕組み」について、学んできました。同じ出来事を見ても、今までより怒りを抱く回数はおそらく格段に少なくなっているはずです。

ですが、いくら認識の修正をし、「怒りにくい仕組み」をつくっていったとしても、まったく怒らないことは人間であるかぎり不可能であるといえるでしょう。

よってこのラストの第7章では、怒ったとしても怒りをそのまま相手にぶつけないコミュニケーションについてお話ししたいと思います。

そのコミュニケーションの際に、とても大切なこと。それは、怒りの後ろには、伝えたい気持ちがあるということです。

その気持ちを伝え、きちんと理解してもらうためには、どのようなコミュニケーションをとったらいいのかを学んでいきましょう。

アンガーマネジメントにおいて、「コミュニケーションの修正」は、「長期の行動の修正」の中の一部です。

第4章でご紹介した「短期の行動の修正」である「衝動のコントロール」に比べて、その修正には時間がかかり、本来ならじっくり腰をすえて行うべきトレーニングです。

そもそも「コミュニケーション」とひと口にいっても、そのことを言いだすとそれだけで一冊の本が書けるくらい奥深いものです。とてもではありませんが本書では書ききれません。

そこで本章では「コミュニケーションの修正」において、一番押さえてほしい基本のみをお話しします。

怒っていても、態度に出さなければわからない

さて、あなたがテレビで感動的な話を観ていたとしましょう。

そして、あなたが本当は感動しているにもかかわらず、「こんなちんけな作り話、観てるだけでムカつくね」と言ったとしたら、まわりからあなたはどう思われるでしょうか。

あなたは感動のわからない、なんてイヤな人間なんだろうと思われるかもしれません。

逆に、まったく感動していないにもかかわらず、「本当に感動的な話だね。こういう話を観ていると、世の中もまだ捨てたもんじゃないと思えるね」と言えば、とても心優しい人に思われるかもしれません。

あなたが本当のところ、何をどのように考え、感じているのかはまわりの人にはわかりません。

だから、まわりの人があなたのことを知るのは、あなたがどのようにコミュニケーションをとるかしだいなのです。

つまりあなたがどんなに一生懸命に第5、6章で行った「認識の修正」をして怒りを生み出さないよう努力をしても、不用意な一言や不適切な言葉を言ってしまえば、あなたの努力は一瞬のうちにふいになってしまいます。

一方で、あなたがまだ怒りを上手にコントロールできないとしても、不用意なこと不適切なことを言わなければ、とりあえずは人間関係にひびを入れたり、壊したりするようなことはなくなるでしょう。

まわりの人は、口に出した言葉、目に見えるしぐさ、とった行動に関心がいきやすいものです。怒っていたとしても、「なるほど。その件はすんだことですから、あまり気にしないでください。それよりもみんなで解決策を探っていきましょう」と穏やかに言ったなら、相手はどう思うでしょうか。

逆に、落ち着いて考えればそうたいしたことのない一件でも、「何考えてるんだ!そんなことしやがって!!おまえのせいでフォローするこっちの身にもなってみろ!」と怒鳴ったらどうでしょうか?心の中では、どちらのほうが強い怒りを抱いているのかどうかは、誰にもわかりません。

ですが、後者のほうが「怒っている人」の印象を与えることでしょう。あなたが怒ったとき、どうコミュニケーションをとるのかが、とても大切なのです。つまり「何を」「どのように」伝えるか、ということが、コミュニケーションにおいては重要なのです。

「どのように」伝えればいいのか

まずはじめに、「どのように」についてを述べると、同じことを言うにしても、とにかく穏やかに丁寧に伝えることを心がけるにかぎります。

例えば、どちらのほうが明日までに報告書を出したいと思うようになるでしょうか。

激しく強い口調で「明日までに報告書を出せって言ってるんだ!」穏やかな口調で「明日までに報告書を出してもらえますか?」もちろん後者の穏やかな口調ですよね。

あなたが人を動かしたいなら、怒りにまかせて何かを言うことは逆効果です。あなたが怒りにまかせて何か言えば、相手からの反発を生むだけです。怒りにとらわれたコミュニケーションをすることは、結局は自分が一番損をします。

かの有名な「北風と太陽」の童話をあなたも知っていることでしょう。

旅人から洋服を脱がすために、北風と太陽が競争をします。北風は風を強烈に吹きかけることで旅人から洋服を力ずくでとりはらおうとしました。太陽は暖かくすることで旅人から洋服を自然と脱いでもらおうとしました。

結果はご存じのとおり、太陽の勝ちでした。

北風のやり方は怒りをぶつける方法と一緒です。

どんなに強くあなたの怒りを誰かにぶつけたとしても相手を変えることはできません。相手を変えられないどころか、相手の態度はよりかたくななものになってしまうでしょう。

太陽の方法は無理強いをすることなく、自分の思い通りになっています。人間関係を上手につくるコミュニケーションも同じなのです。

「どのようにして」コミュニケーションするかは、とにかく穏やかな口調を心がけ、ゆったりとふるまうようにすること。

カッときたら、第4章の衝動のコントロールを思い出してください。

その上で、一呼吸置いて、ふだんのペースで話すのです。

「何を」伝えればいいのか

もう一つ、「何を」についてお話ししましょう。

コミュニケーションとは、「相手に自分の心を伝えること」です。

その伝える際に、どういう言葉、表現を用いるかはとても重要です。

私たちが意識している以上にたった一つの言葉のもつ力は強力だからです。何気ない一言で人間関係を一瞬にして壊すこともできます。

ふだん使っている一言の中にも、知らず知らずのうちに、人間関係を壊しやすい言葉や表現は意外に多いものです。

そうした言葉や表現を使うと、誤解を生みやすく、またうまく意思疎通がはかれなくなりがちです。

これからご紹介する言葉や表現は、人間関係を壊しやすいものです。会話の中で、とくに怒りを抱えた状態では、できるだけ使わないようにしてください。

言ってはいけない言葉・表現のツボ「絶対」「いつも」「必ず」を避ける

では、さっそく、人間関係を壊しやすい言葉・表現をご紹介していきましょう。

ふだん、私たちは実に多くの回数、「絶対」「いつも」「必ず」という言葉を使っています。もし数えれば、自分が思っている以上に使っていることでしょう。

なぜ私たちはこれほど、「絶対」「いつも」「必ず」という言葉を使うのでしょうか。

それは、これらの言葉を使ったほうが会話が簡単でラクになるからです。

例えば「お前は絶対遅刻する」「お前はいつも遅刻する」と誰かに言うとき、本当ならばこれまでに100%遅刻していないといけません。

10回に1、2回遅刻するのでは100%ではありません。

本来、正確に言うのであれば「お前は10回に1、2回は遅刻する」、あるいは「この前は遅刻したから、お前は今回も遅刻するんじゃないか心配だ」ということになります。

ですが正確に伝えようとするのはいちいち面倒くさいものです。つい、正確さを無視して強調した言い方をしてしまうのです。ただ、考えてください。

正確でない物言いはどうなるでしょうか。あなたが事実と違う物言いをされたらどう思うでしょうか。快くは思わないでしょう。

言われた相手にしてみれば「『絶対、いつも、必ず』って言うけど、100%遅刻してるわけじゃないのに」と言い返したくなることもあるでしょう。

また、あなたが「絶対、いつも、必ず」を使うとき、あなたは「自分が言っていることが正しい」と無意識に思っていたりします。

その思いが相手に伝わるから、不快感をもたれるのです。

「絶対」「いつも」「必ず」という言葉を使いたくなったら、ほかに正確な表現ができないか、置き換える言葉や表現を探してみましょう。

「決めつけ」「レッテルをはる」のはやめる

「お前は何もわかってない」という決めつけや、「君は感情的だ」というレッテルをはるのも、人間関係を壊す省略した表現です。

「お前は何もわかってない」といった場合、本当に何もかもをわかっていないということなのでしょうか。そんなことはないはずです。

それでも、私たちは決めつけをしがちです。なぜなら、決めつけたほうが簡単だからです。決めつければ、いちいち相手のことを細やかに理解しなくてもすむからです。

例えば、「君は感情的だ」とレッテルをはる場合、もしかしたら、その人は過去に何度か感情的な話し方をしたのかもしれません。

ですが毎回そうなわけではないのです。

なのに、悪いようにレッテルをはられた側はどう思うでしょうか。「自分のことをそんなふうに決めつけて、ひどい」と思うでしょう。

あなたもレッテルをはられたら、どう思うでしょうか。そのレッテルをはってきた人に好意的な感情をもつことができるでしょうか。答えはノーでしょう。

決めつけやレッテルをはる言葉や表現をしていないか気をつけてみてください。

大げさに言わない、オーバーに言わない

「俺は世界一ついてない」「なんで自分ばっかりがこんな目にあうんだ」「こんな部下がいるから、俺は出世できない」「あんな上司がいるから、結果を出せない」私たちが何かを大げさに言ったり、オーバーに言ったりするのは、自分の考えや感情が正しいということを正当化したいからです。

本当に自分は世界一ついていないのでしょうか。本当に自分ばかりがそんな目にあうのでしょうか。その部下がいることだけが、あなたが出世できない理由でしょうか。その上司がいることだけが、あなたが結果を出せない理由でしょうか。

「大げさに言う」「オーバーに言う」ということは、事実とは違います。この「大げさに言う」「オーバーに言う」というのも避けたほうがいいでしょう。

大げさに言っている側は、自覚があまりありませんが、聞いている側は、なんでそんなに大げさに言っているのかが理解しづらいものです。

大げさに言っている側は「なんでこんな大事なことがわからないんだ?」と思い、聞いている側は「なんでそんなことで大騒ぎするんだ?」と思います。

大げさに言っている側は、自分が言っていることが伝わらないことにイラつき、聞いている側は、何をたいしたことでもないのに騒いでいるんだとイラつきます。

言っている側、聞いている側の双方がイラつくのですから、上手な人間関係がつくれるはずがありません。

あなたがもし、このように大げさに表現をするクセがあるのなら、大げさな表現、オーバーな表現を使わずに、できるだけ正確に言うようにしてみましょう。

「べき」という言葉に気をつける

「上司の言うことは聞くべきだ」「こういうときはきちんと説明するべきだ」「これが正しいやり方で、他のやり方はやるべきじゃない」〝べき〟もたくさん使うと人間関係を壊しやすい言葉となります。

私たちが〝べき〟を使うとき、それはどういう意味で使っているのでしょうか。〝べき〟を使うとき、それは自分が言っていることが正しい、自分の言うとおりにしたほうがよいということを意味しています。

「一般的に正しいルール」だったり、「社会人として当たり前のこと」として自分の考え方、価値観を相手に押しつけているケースが多いものです。

ですが、その「一般的に正しいルール」「社会人として当たり前」とはどのようなものでしょうか。

「一般的に正しいルール」や「社会人として当たり前」といった言動は、多くの人がなんとなくそうだと思っていることはあっても、それぞれ微妙に違うものです。

例えば、目上の人にフランクな言葉づかいをする人を見て、「その話し方は常識はずれだわ。きちんとした言葉をつかうべき」と注意した場合、注意された側からすれば、「親しい気持ちをもったからそう言っただけ。悪気があるわけじゃないし、いいじゃない」と不満に思うかもしれません。

あるいは、チーム全体の仕事が立て込んでいて、みんなが残業しているときに、一人だけ自分の仕事が終わったから帰ろうとしている人がいたとします。

「みんな残っているんだから、あなたも帰るべきじゃない」と言えば、「私の仕事が終わったんだから帰ってもいいんじゃないですか。自分の考えを押しつけないでください」と反発されるかもしれません。

それなのに、あなたの〝べき〟を相手に押しつけようとすれば、相手との感情的な対立は深まることでしょう。〝べき〟はとても都合のいい言葉です。一見するとあたかも正しいことを言っているように聞こえます。ですがその〝べき〟は、あなたの独りよがりかもしれないのです。

〝べき〟という言葉で、あなたの価値観や考えを押しつけないようにしましょう。

相手を責める言葉を使わない

「このミスはあなたのせいでしょ」「君の責任です。どうしてくれるんですか!?」「なぜできないんだ?できないわけがないじゃないか」このように相手を責めていては、相手と上手な人間関係はつくれません。

相手を責める言葉は、人間関係を壊す代表的な表現です。

「あなたのせい」「君の責任」と直接相手を責めたり、「なぜやらない」「どうしてできない」と相手の能力、仕事ぶりを責めたりすることはありませんか。

誰も好きで責められたい人はいません。責められた側は、本当のところ自分に責任があろうがなかろうが、気持ちのいいものではありません。

また、そもそも責任のありかを追及するときは、トラブルや事件の起きたときです。

そんなとき、感情のままに「あなたのせいだ」といったところで、問題は解決するでしょうか。誰かを責めても、問題は解決しないし、状況もよくなりません。

ふだんの会話はもちろん、とりわけ怒りの感情をもったときほど「相手を責める言葉」を使わないようにしてください。

もし相手を責めたくなったら、第3章で学んだ衝動のコントロールのテクニックを試してみましょう。

そして怒りをいったん抑えた上で、話すようにするのです。いかがでしたでしょうか。

これらがコミュニケーションの中で、言ってはいけない、最も基本的な「言葉」「表現」です。なるべく使わないようにふだんから心がけてください。

まずは自分がこれらの人間関係を壊しやすい言葉や表現をどれくらい使っているのかチェックしてみましょう。

アンガーログやストレスログ、3コラムテクニックなどの記録用紙を見てみてください。自分の放ったセリフや、心の中の思いを記した中に、これらの言葉や表現が出てきていませんか。これらを使わなくても会話はできます。

これらの言葉や表現に置き換える言葉や表現を見つけ、使っていくことで、相手に誤解を与えたり、人間関係をこじらせるようなことがないようにしていきましょう。

会話の主語を〝私は〟にしてみる いつの間にか相手を責めていませんか

コミュニケーションの中で、もう一つ大切なことをご紹介しましょう。

「お前が連絡をよこさないから、私が怒られたんだぞ」「君が遅刻をするから悪いんじゃないか」「あなたが今さらそんなことを言うから、問題になるんじゃないか」「○○さんがいい加減だから、いつもこの仕事がうまくいかないんです」こういう言い方をしたことのある人は多いのではないでしょうか。

実はこれらの文章は、すべて他の誰かが主語になっています。

「お前」「君」「あなた」「○○さん」と、いずれも「自分」ではありません。目の前にいる相手を主語にしています。自分が困っている、問題を抱えている、苦しんでいる、悲しんでいる、怒っているはずなのに、主語は〝私は〟ではないのです。

他の誰かを主語にしている間、あなたはあなたの怒りの矛先を他の誰かに向けています。怒りはあなたの選択の結果です。誰かがあなたを怒らせているわけではありません。そのことを忘れていると、自分の怒りの責任を誰かのせいにしようとします。そうすると、他の誰かを主語にして会話をしようとします。

他の誰かを主語にするということは、まずは他の誰かを責めたり、他の誰かの責任を追及するということです。自分が怒っている、困っている、悲しんでいるのに他の誰かに責任を押しつけ、それをわからせようとします。

責められる側にしてみれば、たまったものではありませんし、よい気持ちはしないでしょう。

他の誰かを主語にして会話をするとき、あなた自身は気づいていなかったかもしれませんが、このようなことをしていたのです。

主語を「私」にすると思いが伝わる

怒ったとき、ムカついたときは、会話の主語を〝私は〟にしてみましょう。すると、他の誰かを直接的に責めるようなことはなくなります。

「あなたが先方に連絡をしないから、私が怒られたんだぞ」と言えば、言われた側は責任を感じたとしても、あなたへよい感情はもたないかもしれません。

けれども「先方に『連絡がこない』と怒られて、私はイヤな思いをしたよ」と言った上で、「だからあなたのほうでも連絡ミスが起きないやり方を考えてくれないか」と言えば、相手の印象は大きく異なるのではないでしょうか。

このように、主語を「自分じゃない誰か」から「私」に変えるのです。

先ほどの言葉の例でいえば次のようになります。

×「君が遅刻をするから悪いんじゃないか」○「君が遅刻すると私はスケジュールがずれるので困ります」×「あなたが今さらそんなことを言うから、問題になるんじゃないか」○「今さらそれを言われても、私はどうしたらいいかわかりません」×「○○さんがいい加減だから、いつもこの仕事がうまくいかないんです」○「○○さんがそういう仕事ぶりだと、私はつらい思いをするのです」いかがでしょうか。

主語を「私は」にすると、伝わるのはあなたの思いです。責任追及をしたり、考えを押しつけたりするニュアンスはグンと減るのではないでしょうか。

相手が責められていない、怒りの矛先を向けられていないと感じれば、相手も一緒になって問題を解決する方法を前向きに考えてくれるでしょう。

会話の中のささいな言葉かもしれません。ですが、そのほんのささいな言葉を変えるだけでも人間関係は変わるのです。

まわりの人とうまく仕事をしていきたいと思うのであれば、会話の主語を〝私は〟にできないかを考えて実践していきましょう。

相手の立場、気持ちを思いやる「攻撃」と「主張」の違い

コミュニケーションのコツは、怒りにまかせてよけいなことを言わないこと、ふだん使う言葉、表現を見直すことです。また〝私は〟を会話の主語にして、なるべく相手を責めるような姿勢はやめることだと述べました。

ここではもう一歩だけ踏みこんで、私たちが今後目指していきたいコミュニケーションの形である「アサーティブコミュニケーション」についてちょっとだけお伝えしたいと思います。

アサーティブコミュニケーションは、つまり、「相手の立場や気持ちを尊重しながら、穏当な調子で自分の言いたいことを正確に伝えるコミュニケーション」のことです。

一つ、わかりやすい例でご説明しましょう。

営業マンの原さんは、仕事を頼まれると断ることができません。

「忙しいときに、仕事を頼んでくるなんて、なんて非常識な人だ。俺だって忙しいんだから自分のことは自分でやるべきだ!」と頼んできた相手にムカッとはするものの、それを口に出すことはできない性格です。

結局仕事をうまく断れない原さんは、仕事がいっぱいいっぱいになってしまい、イライラしがちです。また、頼んできた同僚に対しても不満を抱えてしまっています。そんな原さんのところに同僚がやってきたときの会話です。

同僚「原、悪いけど、この書類のチェックやってくれないかな?」原「えっ、いやっ、今はちょっと、他のことで忙しいっていうか……」同僚「俺も忙しくてできないんだよ。いつもやってくれてるじゃないか。

なっ」原「ん、でも、やっぱり……」同僚「頼んだぞ!あとはよろしくな!!」こんな感じで、結局は断れません。

そして、断れなかったあとで、自己嫌悪に陥るのです。

原さんは、「はっきりと意見を言うこと」が苦手です。「はっきり意見を言うこと」は「相手を不快にすること」だと思ってしまっています。

もっというと、「はっきり言うことは相手を攻撃するようなもので、言えばケンカになる」と思っているふしがあります。

「イヤだ」と思っても、「俺も忙しいから、やりたくない。自分のことは自分でやってくれ」と言えば、人間関係を荒立てるように思ってしまっているのです。

そのようなことはありません。

自分の意見をはっきりと伝えること、自分の主張を通すことと、相手の立場を思いやることはなんら問題なく両立できることです。

「イヤだ」と思ったら、それを怒りながら言うのではなく、「イヤだ」と思った理由を相手にわかってもらえるよう丁寧に説明すればいいのです。

相手の「忙しいから仕事をお願いしたい気持ち」を尊重して受け取るのと同時に、「自分だって忙しいから、引き受けられない」という気持ちを尊重してもらえるよう正確に素直に伝えるのです。

原さんの例でいえば、先ほどの状況で次のように言うことができました。

同僚「原、悪いけど、この書類のチェックやってくれない?」原「申しわけないけど、今はA社の見積もりを3時までに作らなきゃいけないから引き受けられないよ」同僚「そんなこと言わずになんとか頼むよ、なっ」原「君が忙しくて大変なのはわかるよ。

でも僕も今はこの仕事を仕上げなきゃいけないんだ。今の仕事が終わったあとでいいなら、できる範囲で協力はできると思うよ」同僚「そうか、わかった。またあとで話にくるよ」これがアサーティブコミュニケーションです。

アサーティブコミュニケーションのルール

私たちが目指したいアサーティブコミュニケーションにはいくつかのルールがあります。

◎まず、あなたには言いたいことを言う権利があります。

◎次に、あなたが言いたいことを言ったからといって、それは必ずしも相手を傷つけることにはなりません。

ただし、自分が言いたいことを言える権利があるからといってなんでもかんでも言ってよいというわけではありません。

◎その一方で、相手にも相手の言いたいことを言う権利があります。

あなたは自分の意見を一方的に相手に押しつけることはできません。

◎逆に相手の意見に一方的に従わなければいけないということもありません。

上手に人間関係をつくるコミュニケーションには、お互いに認める「交渉」と「妥協」があります。どちらか一方の意見だけを通すことは優れたコミュニケーションとはいえません。

アサーティブコミュニケーションにとって大事な発想は、「自分の思いを主張すること。と同時に、相手の思いを聞くこと。その二つを考えながら、攻撃的になることなく、素直で率直に自分の思いを伝える」ことです。怒りにふりまわされがちな人は、これらの発想が欠けていることが多いものです。

第1章でも詳しく述べたように、「怒り」は「お互いの考え方や価値観の違いを受け入れられないこと」が原因でした。

だからおおざっぱにいえば、お互いの考え方や価値観の違いを受け入れられるのであれば、怒りは生まれにくいのです。

アサーティブコミュニケーションの理屈もこれと同じです。アサーティブコミュニケーションをとるためには、人の権利、義務、欲求の違いを理解することです。

その上で相手の権利、義務、欲求を尊重すれば、まわりの人と上手なコミュニケーションがとれるようになるでしょう。

以上がアンガーマネジメントの「行動の修正」の大事な一つであるコミュニケーションの修正において大切なことです。

第4章でも「衝動のコントロール」としての「行動の修正」を学びましたが、本章は、その衝動のコントロールでいったん、怒りを静めたあとに、自分の気持ちや意見を話す際に気をつけることを学びました。

こうしたコミュニケーションの習慣が身につけば、ムッとしたことがあったり、「イヤだな」と不快感を抱いたとしても、周囲との関係を台なしにするようなことはグッと少なくなっていくはずです。

安藤俊介(あんどうしゅんすけ)1971年群馬県生まれ。

日本アンガーマネジメント協会代表理事。

外資系企業、民間シンクタンクなどを経て渡米。

2003年、ニューヨークにて、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の理論、技術を習得し、以降、日本に導入した第一人者。

ナショナルアンガーマネジメント協会(米国)で、1000名以上在籍するアンガーマネジメントファシリテーターの中で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに米国人以外では唯一登録されている。

野村證券、三井物産などの民間企業をはじめ、各教育委員会、医療機関など数多くの研修・セミナーを担当。

著書に、『「怒り」のマネジメント術』『怒りに負ける人怒りを生かす人』など。

本作品の著作権その他の法的権利は、本作品の著作権者ならびに朝日新聞出版その他第三者に帰属します。

本作品の全部または一部について、権利者に無断で、複製、公衆送信、出版、貸与、翻訳、翻案および改変するなど、本作品の権利を侵害する方法で利用することを禁止します。

アンガーマネジメント入門発行日平成28年9月25日著者安藤俊介発行者河内真人発行所朝日新聞出版〒104─8011東京都中央区築地5─3─203─5540─7857©2008ShunsukeAndoPublishedinJapanbyAsahiShimbunPublicationsInc.●朝日文庫『アンガーマネジメント入門』(2016年9月30日第1刷発行)に基づいて制作されました。

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