第7章介護のツクイ創業者に魅せられて
ツクイが誕生するまで介護のない町に人は住めない「介護は文化だ」~ツクイの考える、地域包括ケア~なぜ介護は「3K」と言われるか~情報の非対称性~発見!介護文化を担う介護職の「3KM」/ツクイの社訓【事例研究】訪問介護現場の人間模様「Alltheworld,sastage」~働くところすべて人生の舞台~介護ビジネスの未来は明るい/「アウエアネス」の高い人間になる私たちが何年も福祉事業を続けられた理由
ツクイが誕生するまでツクイの創業者である津久井督六氏(現ツクイ名誉会長)のリーダーシップには、格別なものがある。
今から35年前、津久井氏は家族や役員に反対され、同業者からバカにされながら、自らの土木建設事業(津久井土木株式会社)を投げ打って、民間企業がどこも挑戦しなかった「福祉事業」に乗り出した。
そして、「世のため人のために」と信念を持ちながら福祉事業に取り組み、のちにツクイは東証一部上場企業となったのだ。
今やツクイは、全国に事業所を展開し、持続的な成長を遂げている。
そもそも津久井督六名誉会長は、なぜ介護ビジネスに挑戦しようと決意したのか。
そこには、こんな背景がある。
山梨に故郷を持つ督六氏は、父を早くに亡くし、実兄は生コンクリートを扱う会社の仕事、母親と兄嫁は農業に勤しんでいた。
督六氏は、土木建設の会社でノウハウを学んだのちに独立し、1969年に「津久井土木株式会社(以下、津久井土木)」を設立した(1978年に「津久井産業株式会社」と社名変更)。
そんななか、60代を迎えた母親が「痴呆症(現在の認知症)」になってしまう。
督六氏は、ときどき母親に会いに行くようにしていたが、母の認知症はますます進行し、母親の介護をしていた兄夫婦は、介護に疲れ切ってしまった。
督六氏は、そんな状況を大変申し訳なく思っていたという。
そんな矢先、横浜にある津久井土木の資材置き場の周りで「住宅開発」が進み、騒音の苦情が寄せられるようになる。
夜間に行われる「道路工事」や「下水道工事」のために、夜間(ときに早朝)に資材や機械の出し入れを行なう必要があり、周辺住民に迷惑がかかってしまったのだ。
このことを横浜市に相談をしたところ、「公園用地に寄贈するか、福祉施設を建ててみてはどうか」という提案がなされた。
それを聞いた督六氏は、「人をつなぐ橋を架けたい」と思い至り、津久井産業株式会社(以下、津久井産業)の事業の一つとして、福祉施設を作ることを迷わず決断した。
これが1983年のことである。
ちなみに、のちの1999年に、津久井産業は福祉事業に専念するために、社名を「株式会社ツクイ」に変更している。
督六氏は福祉施設を作りながら、「これからの世の中では、私たち家族のように親の介護で途方に暮れる人たちが多くなるに違いない。
そんな人の介護を、きれいな花園のある立派な施設で手助けしてあげれば、きっと喜ばれるに違いない。
いずれは、この施設に自分の母親も入居させて、面倒をみてあげるのだ」と考えていた。
しかし、福祉施設が完成したとき、母親はこの世の人ではなくなっていた。
督六氏は、「そのことが悔しくてたまらなかった」という。
福祉施設を無事に完成させた督六氏だったが、福祉事業のさらなる挑戦が待っていた。
督六氏の福祉事業に対する強い想いを、誰も信じてくれなかったのだ。
しかし、督六氏はそれでも福祉事業を続けた。
督六氏は、「世の中には、認知症や寝たきり状態の要介護者の介護に困っている家族が多いはずだ。
なかには、寝たきりの要介護者を風呂に入れてあげることができず、困っている家族もいるだろう。
要介護者をお風呂に入れてあげたい。
そうだ、浴槽を車で運び、要介護者の自宅で入浴してもらえるようにする、訪問入浴サービスにニーズがある」と考えた。
そこで、全国を駆けずり廻り、「訪問入浴サービス用の特殊車」を開発してくれる業者を探した。
のちに、ボイラーと浴槽を備え、訪問先でもお風呂の湯が沸騰する仕組みの「訪問入浴車」を業者と開発している。
そして、福祉事業部を立ち上げた1983年、ときを同じくして「訪問入浴サービス」をスタートさせた。
1996年の深まる秋、私はツクイの社長に呼ばれ、「ツクイもマクドナルドのようになりたい、どうか手を貸してくれ」と頼まれた。
そのとき、督六氏から創業までの道のりを聞き、「純粋に人助けがしたい」という彼の想いに心打たれ、「なんて心の優しい人なのだ」と思ったことを今でもよく覚えている。
やはり、立派な野望を持っている経営者は、ひと味違う。
督六氏は、マクドナルド創業者レイ・クロック氏の「粘り強さと決断こそが絶対的な力を持つ、衆智を集めた全員経営」という言葉に惚れていた。
ところで、奈良の大仏建立は「国家プロジェクト」だったといえるだろう。
聖武天皇は、「疫病」「凶作」「地震」「天変地異」といった国民の恐怖を収めるために、国難救済策を講じた。
そのなかで国民は、自ら進んで大量の銅銭を寄進し、労働奉仕にも汗を流した。
そして、見事に大仏が完成した結果、観光客がお参りや物見遊山のために訪れ、旅館やお土産、食堂などで経済は潤い、国は安寧して救われたといわれている。
経世済民、すなわちこれが「経済」である。
介護も、それと同様なのだ。
介護は、工場のように「モノ」を生産しているわけではない。
そのため、自動車産業のように、直接的な富国強兵(国を富ませ兵力を大きくして、国の勢力を強めること)にはならないが、高齢社会の重要な社会インフラとして機能する「国家プロジェクト」だといえる。
介護のない町に人は住めない「介護は文化だ」~ツクイの考える、地域包括ケア~今や、介護のない町に人が住むことはできない。
人が生まれ、人生を刻み、世のため人のために尽くす人生─。
その尊厳に誰が寄り添い、自立を促し、QOL(生活の質)の向上を喜び、そして最期を看取ることができるかが注目されている。
2025年には、約800万人いるといわれている団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳(後期高齢者)を迎えるが、これは「2025年問題」と呼ばれている。
日本の高齢者人口は3600万人に到達し、「全人口の4人に1人」が後期高齢者となる計算だ。
このように、今後ますます高齢者が増加していくなか、ビジネスとしての「介護サービス」の質を担保するために、科学的な合理性が求められている。
その本質的な精神とは「マス・カスタマイゼーション」であり、「介護全体の合理性」「介護度」「介護計画」に則り、ご利用者様一人ひとりの状態に寄り添った、温かいホスピタリティある介護が必要とされている。
そして、介護が「単なる作業」にならず、介護サービスが在宅介護における「地域包括ケア」として機能し、医療と連携した「自立支援」になることが重要だ。
さらに、国の「介護方針」や「介護保険制度」に準拠することが決め手である。
少ない時間のなかで効率的に、効果的な在宅介護サービスを行い、ご利用者様の尊厳を奪うことなく、コミュニティに必要不可欠な存在にならなくてはいけない。
「サービス」とはいえない、いい加減な介護事業者は、今後消えゆく運命にあるだろう。
どんな境遇の人でも、介護がほんとうに必要となったとき、介護が充実している社会であり、その恩恵のなかで穏やかな最後を迎えてほしい。
「あなたが生まれたとき、あなたは泣いていて周りは笑っていたでしょう。
だから、死ぬときは周りが泣いていて、あなたが笑っているような人生を歩みなさい」『アメリカインディアンの教え』(加藤諦三(著)、ニッポン放送出版)よりなぜ介護は「3K」と言われるか~情報の非対称性~
世間一般には、「介護=3K(きつい、汚い、危険)」というイメージが付いてしまった。
そのようなイメージが先行し、介護職の尊厳と魅力がなかなか理解されづらいのは、「世論」と「現実」の双方で、情報と知識の共有ができていない状態、いわゆる「情報の非対称性」があるからだ。
情報の非対称性は、よくこのように例えられる。
「客は、八百屋でスイカを買って、家で切って食べるまで、スイカが美味しいかわからない。
しかし、八百屋のおやじはスイカを切らなくても、おいしいスイカがわかる」。
それと同じように、介護も端からは理解されず、携わった人にしか理解されない仕事なのだろうか。
「介護」は人間の尊い命にかかわる、崇高な仕事だ。
それにもかかわらず、同じ人体にかかわる「医師」や「看護師」とは違い、「底辺の仕事」という認識を強く持たれていることが残念だ。
私は20年以上もの間、介護者をみてきたなかで、確信していることがひとつある。
それは、介護現場で刻苦勉励(心身を苦しめて仕事や勉学に励むこと)をして、自らの経験を生かし、人のために尽くしている人は必ず「よいリーダー」となり、高い地位の職に就いているということなのだ。
発見!介護文化を担う介護職の「3KM」世阿弥の能楽師であり、日本M&Aセンター株式会社の創業者でもある分林保弘氏(現:日本M&Aセンター代表取締役会長)は、「社員個人の成長」を3KMと定義した。
そして、「ワクワク感」を持ちながら「社会貢献」ができる「自利利他」の精神を説いている。
また、分林氏によれば、演者は客観的に己の芸をセルフフィードバックする、つまり「離(り)見(けん)の見(けん)」が大事とされる、風姿の世界観であるという。
そもそも、3KMとは、次のことを指す。
・個人生活のマネジメント・家族生活のマネジメント・会社生活のマネジメントこれは、人とのつながりを大切しながら生きることであり、周囲の人が犠牲になってはいけないということだ。
いつも「自利」が相手にプラスの「利他」をもたらし、自分の考えや行動、言葉が他の人からどのように受け止められているかを「離見の見」を持って検証する必要がある。
お互いの価値観や情報の「非対称性」がないことは、「自利利他の自己実現」を可能にするといえるだろう。
職業人として、自分の仕事に使命と誇りを持ち、人様から感謝されることこそ、「自利利他」の実践なのだ。
今後は福祉産業イノベーション、医薬産業イノベーション、健康産業イノベーションが起こり、介護のあり方が様変わりするはずだ。
そのなかで、ツクイはイノベーション(技術革新)を主体的に開発する戦略を立てて、組織としての能力を磨いていく。
そして、さらなる労務環境や処遇の改善を図り、介護職の3KMマネジメントが自己実現できるように努めていく。
その結果、ツクイで働く職員は、「介護職として働いてよかった」と思えるようになるだろう。
やがて介護事業は、壮絶な国家プロジェクトである「介護文化」として、歴史に刻まれることは明白だ。
ツクイの社訓一、顧客重視一、個人尊重一、チームワークこのように、ツクイの社訓は簡潔明瞭である。
多くを語らずとも、深い意味を含んでおり、「人間中心の企業である」ことを彷彿とさせている。
1983年に福祉事業部を設立して35年間、ツクイは「福祉に・ずっと・まっすぐ」をスローガンとして掲げてきた。
世間では、働き方改革が急がれているなか、「人材有機養成」を基本としているツクイは、従業員あっての会社として、事業所を全国682か所に構え、そこで2万人を超える従業員を雇っている。
ツクイの教育研修「ツクイ大学」のモットーである「人材有機養成」は、不祥事や不正のない健全なツクイという、会社の企業風土があるからこそ活かされる。
介護ビジネスは、社会的使命を持ったソーシャルビジネスであり、立派な「文化」である。
ツクイでは、「顧客を重視した介護」というブランドを構築し、「機能的価値」「情緒的価値」「感覚的価値」のすべてを大切にしてきた。
ツクイ大学では、毎回事前にテーマを決めて、受講生である幹部社員に「小論文の提出」を求めている。
これは自分の仕事をしっかりと考えさせ、課題(Issue)を掴んでマネジメントさせるためである。
また、リーダーは職場環境を整備する、すなわち「環境整備業」であり、その正しいあり方を求めるためでもあるのだ。
【事例研究】訪問介護現場の人間模様24時間対応している「地域包括ケア」の現場には、いろいろな人間の葛藤がある。
今回は、志の高い、ある女性介護職員の挑戦実録を紹介したい。
●人生は自分磨き彼女はツクイで働く前、他社の介護施設で「洗い場のおばちゃん」として働いていた。
当時は調理場から、フロアにいるスタッフの歓声を聞く側にいた。
そして、ご利用者様と楽しそうに話しているスタッフのことを羨ましく思っていたそうだ。
そこで、一念発起した彼女は、「ヘルパー資格2級」の資格を取得して、ツクイに入社した。
彼女は、ツクイの資格支援制度を生かして、合格祝い金を貰いながら、「ヘルパー1級」「介護福祉士」「ケアマネージャー」の資格を取ってスキルアップしていった。
先述したとおり、介護は「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが強いが、それを嘆いたとしても、何もはじまらない。
やるべきことを確実にマスターしながら自分自身を磨き、ステップアップすることで、顧客満足を提供することができ、自社の業績向上につなげられるのだ。
「Alltheworld’sastage」~働くところすべて人生の舞台~人生とは、働くことを通じ、いかに人のためになれるかといえる。
職場は、役者にとっての「舞台」と同じだ。
役者は、舞台で名演技をみせて、観客に感動を与え、成功を自覚しながら成長していく。
あなたが志を持つプロであるならば、介護も立派な仕事である。
どこで、どんな仕事をしようとも、仕事に誇りを持つことこそ、プロといえるのだ。
劇作家であるウィリアム・シェイクスピアの名言「Alltheworld’sastage」(全世界は一つの舞台)は、そのようなことを意味しているに違いない。
また、幕末の志士である吉田松陰は、次のように述べて、人生は志の高さ次第であることを伝えようとしている。
夢なき者に理想なし
理想なき者に計画なし計画なき者に実行なし実行なき者に成功なし夢なき者に成功なし介護ビジネスの未来は明るい心理学者である多湖輝氏によれば、ボケないためには「キョウヨウ」と「キョウイク」が必要だという。
しかし、キョウヨウとは「教養」という漢字のほうではなく、「今日、用事がある」こと。
また、キョウイクも「教育」のほうではなく、「今日、行くところがある」ことをいう。
ツクイのご利用者様は、デイサービスに来て安全に入浴し、みんなと楽しく語らい、食事をして、生きがいツリーに自分の目標を掲げて希望を持ち、機能訓練に励むことができているので、「キョウヨウ」と「キョウイク」をクリアしている。
しかも、リハビリ専門の作業療法士(OT)、理学療法士(PT)が科学的なリハビリを行っていて、その効果をエビデンスで示す仕組みも整っているのだ。
ツクイはしっかりした内部統制「内部監査システム」を確立し、全事業所の業務監査を厳しく実施している。
監査結果は、計量監査しながら評価され、取締役会に諮られる。
企業は外的要因では潰れないからだ。
不正防止や事故防止に努め、それが持続し続ける仕組みを確立している。
「アウエアネス」の高い人間になるどんな仕事をするにしても、「アウエアネス」を高く持っていなければいけない。
アウエアネスとは、「自覚」「認識」「注意力」などを意味するのだが、仕事でミスを出さずに、アウエアネスを発揮するには、「専門的な仕事の正しい知識」が不可欠だ。
なぜなら、人間は「知らない」ことに対して、正しい反応を示せないからである。
また、人間としての思いやりや情熱、心配り、精神性の高さも必要とされる。
とくに、サービス業にとってアウエアネスは重要であり、「高感度人間」でなければ、正しい反応を示すことができない。
たとえば、よくある「失言」は「aMomentofAwareness」(意識の瞬間)であり、一瞬の注意力があれば防げる。
だが同時に、頭を高速で働かせないと、正しい反応を示すことができない。
そのため、一呼吸おいたのちに、瞬速で判断して発言すれば、失言やミスは防げるだろう。
掃除でも「汚い」と気づくのは、もともと綺麗な状態を知っているからだ。
「危険だ!」とヒヤリハットの気づきがある人は、それだけ有能な意識を持っている。
事前に、もっと気づけるようにするには、「前始末」や「後始末」をしっかりとしておくことが大事なのだ。
介護の仕事は専門性が高く、「介護保険法」に基づいた法律知識なども理解しておかなければいけない。
介護は立派な「知的労働産業」といえる。
私たちが何年も福祉事業を続けられた理由私はツクイで、笑顔に溢れるいきいきとした、やる気の塊のようなベテラン女性フィールドマネージャー3人のオリエンテーションをしたとき、「あなた方は、なぜそんなにモチベーションが持続できたのですか?」と質問をした。
それに対する彼女たちの精神性(スピリッツ)の高さは、どれも共通して超越していることを感じた。
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