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第6章明日からパフォーマンスが上がる5つのステップ

目次

第6章明日からパフォーマンスが上がる5つのステップ

結果を出すための5つのステップ

多くの会社が結果に目を奪われている。結果さえ良ければ、それがどのように達成されたかは問わない。良い結果を出す人はパフォーマンスが高いと判断され、指導者は別の人の指導に向かう。

しかし、結果だけを見て経営するのは危険である。社員は不正な取引方法で業績を上げているかもしれないし、単に数字をごまかしているだけかもしれない。

順調なときにはどうして順調なのか理由を知る必要がある。順調でないときはなおさらだ。

目標がどのように達成されたか、どのように達成されなかったか、マネジャーは常に注意していなければならない。

そして、どんな結果が求められているか、その結果を出すためにどんな行動が必要かを正確に知らなければならない。

本章では、いよいよあなたが会社で実戦でき、大きな効果を目のあたりにする5ステップの方法を公開する。

明日からでも使える方法なのでぜひ会社で実践してほしい。5ステップは「ピンポイント」「メジャーメント」「フィードバック」「リインフォース」「評価」から成っている。

一つひとつ順番に説明していこう。

ステップ1「ピンポイント」

5ステップの第一は「ピンポイント」を見つけることである。ピンポイントとは、望んでいる結果に直結する行動を言う。

売り上げに直接結びついている行動、顧客増加に直接結びついている行動などをピンポイントと呼ぶ。

そもそも、全ての結果は行動の連続の延長線上にある。行動の連続がなければ結果は得られない。連続する行動の中には、結果に直接結びついている行動がいくつかある。

それを探すことが結果を変える近道である。ピンポイントさえ見つかればあとは非常にスムーズだ。結果を増やしたいならピンポイントを増やす。結果を減らしたいならピンポイントを減らす。このシンプルな法則を知ると、たやすく結果をコントロールできるようになるだろう。

さっそく作業を始めよう。

まず、結果を出すための一連の行動を分解して、一つひとつ書き出していく。すでに「行動のチェックリスト」を作っているなら、それを流用してもいい。その中には必ず「結果に直結した行動」が隠れている。

レストランを例に取ろう。

ウエイターの行動を分解すると、次のようになる。

  • ・「いらっしゃいませ」と挨拶をする
  • ・人数を訊く
  • ・禁煙席か喫煙席かを訊く
  • ・お客をテーブルまで案内する
  • ・水とメニューとおしぼりを運ぶ
  • ・水を一人ひとりに配る
  • ・おしぼりを一人ひとりに配る
  • ・メニューを渡す
  • ・今日のランチスペシャルの説明
  • ・注文を訊く
  • ・できた食事を運ぶ
  • ・水がなければ注ぐ
  • ・食後のデザートを勧める
  • ・食後のコーヒーを勧める

このレストランが売り上げ増加をめざしているとしよう。

その場合、売り上げに直接結びついていそうな行動を五つピックアップする。

仕事内容が単純であれば五つも必要ないかもしれないが、基本的には五つを目安とする。

五つのポイントを見つけたら、それを二つか三つに絞り込む。

常識的に見て、レストランの売り上げに直結しているのは「今日のランチスペシャルの説明」と「注文を訊く」であろう。

そして、これらが本当に結果に直結しているかどうかを調べる。調べるには二つのグラフを作るといい。一つは、時間の経過と行動の増減を表すグラフ。

もう一つは、時間の経過と結果の増減を表すグラフである。どちらのグラフも欠かせないので、必ず二つとも作る。

そして「結果に直結していると思われる行動」を増やしてみて、結果が増えたかどうかを観察するのである。

観察には二〜三日、長くてもせいぜい一週間もかければ十分だろう。全員を観察する必要はない。一人あるいは数人でいい。

上司はチェックリストなどを使って行動を観察する。

どうしても観察が難しければ本人の申告に頼るしかないが、できることなら上司の目で観察するのが理想である。

グラフを作ると、四つのパターンが出てくるはずだ。行動が増え、なおかつ結果も増えている場合(図19)。これは行動が結果に直接結びついていることを示す。すなわち「ピンポイントの行動」である。

行動が増えているのに結果は減っている場合(図20)。これは、行動が結果に直接結びついていないということだ。行動が減っているのに結果は増えている場合(図21)。このパターンも「ピンポイントの行動」ではない。

行動の増減にかかわらず、結果が増えもせず減りもしない場合。これもやはり「ピンポイントの行動」ではない。

「ピンポイントの行動」とは、結果の増加に直接結びつく行動である。

売り上げを伸ばしたい場合、あるいは結果を増やしたい場合、いかに「ピンポイントの行動」を見つけるかが問題になってくる。

ピンポイントの行動はそう簡単には見つからない。感覚的に捉えようとすると失敗してよけいに時間がかかるので、グラフを用いて正確に検証する必要がある。

反対に結果を減らしたい場合―すなわち何らかの問題をなくしたい場合には、これと同じプロセスを踏んで「減らしたい行動のピンポイント」を探せばいい。

部下が報告をしない癖とか、無駄が多すぎる作業とか、法に触れるような問題が起きたときなど、結果に直接結びついたピンポイント行動を減らすことで結果も減らすことができる。

このように、行動分析ではグラフを多用する。実験再現性をきわめて重視するのだ。感覚的に「たぶんこれだろう」と選んだものは、あくまでも感覚であって分析学ではない。

全てをグラフで検証してこそ分析学たり得る。結果をグラフや表にしている企業は多いが、もっと重要なことがある。

それは「結果に結びついた行動を計測しているかどうか」だ。それでは具体的に、組織としてこれを使うにはどのように組み立てればいいだろうか。

まず「戦略上の目標」を掲げる。そこには当然、ビジョンやミッションが入ってくるはずだ。結果の測定も必要になる。そして「結果のピンポイント」。どのような結果を望むのか明確にする。

ここまではほとんどの企業がやっていると思う。重要なのは「行動のピンポイント」である。これによって「結果に直結する行動」を見つけ出す。グラフを使った検証が必要不可欠だ。

わが社では、社員に理念をインストールするのに「ポイント倍率法」というツールを使用している。社内で実験した結果、最も効果の大きかったものだ。

これは月単位のシートになっており、結果に結びつく行動がいくつか記入されている。

達成できたらポイントを与える仕組みだが、重点目標として取り組んでほしいものは倍率を変えられるようにしたのがミソだ。

たとえばリーダーが「今月は売り上げをアップさせたい」と考えたら、売り上げアップの行動に高い倍率をつける。

あるいは会社全体で経費削減を目指すことになったら、その部分の倍率だけを高く設定する。社員はポイントをたくさん集めようとして自発的に行動することになる。

社員はこのシートを見て、多くのポイントを効率的に得るにはどの行動をとればいいかを一目で理解する。

シートは毎月全員に配付しているので、「今月の重点目標は」などと経営陣やリーダーが言わなくても理解してくれる。

大事なことは、どの行動が結果に直結するかをリーダーがきちんと「ピンポイント」で見極めることだ。

あとは倍率さえ変えれば、どの行動でも自発的にとらせることが可能になる。行動を測定しないと、プロセスが把握できないため、結果にばかり目を向けてしまう。

5ステップの中でも、測定(次で説明する「メジャーメント」)は最も重要である。

ステップ2「メジャーメント」

5ステップの第二は「メジャーメント」である。ここでは行動の数を調べるのだが、調べる方法は二つある。

実際に行動が起きたかどうか目に見える場合は測定する。また、顧客満足度のように数として測定できないものは「判断」する。

メジャーメントには、このように行動の数が数えられる「測定」と、数えられない「判断」がある。

数えられないものであっても、できる限り数値化して数えることが望ましい。行動を具体化して数値化したほうが測定精度はより高まるからだ。

たとえば、チェックリスト化するのも一つの方法だろう。各項目に丸印をつけ、その数をカウントすれば測定が可能になる。

測定不可能なものを判断する方法として「クオリティ評価法」がある。まず、判断基準を五段階で表現する。

図23のような「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」などがいいだろう。五段階は真ん中がニュートラルになって評価しやすい。

最も効果があるのは数値による測定だから、数値化できるものは極力数値化すべきだ。ただ、目に見えない行動の結果はどうしても数値化することができない。

その部分についてはリーダーが「判断」する。いずれかの方法によるメジャーメントが大事だ。一つ気をつけたいことがある。

測定というとランクづけを連想しがちだが、ランキングは避けるべきだ。順位をつけると勝者が限られ、社員に競争心を植えつけてしまう。

しかもトップに立てるのはたった一人に過ぎない。評価する上で比較に用いるのは、他人の成績ではなく、設定した目標である。目標をどこまで達成できたかによって評価する。

この方法だと、多くの社員がトップパフォーマーとして評価されるだろう。勝者の多い会社は業界で勝者になれる。敗者を作るマネジメントは意味がない。

メジャーメントとは問題解決の共通言語である

行動分析による効果を確認するには測定が必要である。本当に効果があったか、またどれだけ効果があったかを客観的に測定することによって、その方法が正しいかどうかが分かるし、その方法を改善することもできる。

印象や直感に頼ってはならない。

パフォーマンスは向上したか?低下したか?あるいはほとんど変化がないか?これらはデータによって測定しない限り、正確に見極めることができない。

科学は測定によって進歩してきた。

天文学の分野では望遠鏡が、生物学の分野では顕微鏡が、それぞれ著しい発展をもたらした。

裸眼による測定に頼っていたのではスペースシャトルも飛ばせないし、HIVウイルスも発見できなかっただろう。

パフォーマンスにおいても同じである。測定こそが進歩を生み出す。正確な測定なくして行動の微妙な変化を見つけることは困難である。

部下たちを効果的にマネジメントするにはパフォーマンスのデータ収集が欠かせない。評価するデータを持っていないと、導入前と導入後の比較ができないだろう。

現状を正しく把握すればマネジメント手法を検証することもできるし、部下たちに対する説得力にもつながる。

主観だけでは改善が難しい。継続的に収集されたデータがあると、部下たちのパフォーマンスの傾向はより明らかになってくるだろう。

それは管理職間に実利ある対話をもたらし、問題の早期解決を可能にする。

会議などにおいても、客観的なデータを提示することができれば、パフォーマンスに焦点を置いた話し合いが可能になる。

適切なデータを持っている人は、問題解決策を考えるための共通言語を持っていると言えるのである。

たとえ話をしよう。百メートル走のタイムを測るときにはストップウォッチを使うのが一般的だ。これがすなわち共通言語である。

ところが、選手が思い思いの方法で測定したらどうなるだろう。ある選手はデジタルストップウォッチを使い、ある選手はアナログの腕時計を使った。またある選手は校舎の壁時計を使った。さらにある選手は時計を使わず、心の中で秒数を数えた。別の選手はトラックに顔も見せず、以前の四百メートル走の記録を四で割った。

このようにバラバラな測定方法で順位が決められたとしたら、それはもう正確な順位とは言いがたい。

測定には公平な統一手段を用いることが必須条件である。行動分析は分析学であるから、この点を特に重視する。

いつ・どこで・誰がやっても同じ結果が出るという実験再現性を確保するには、一定の手法を決めておかなければならない。

行動分析において、測定は欠かすことのできない重要な要素である。

部下たちのパフォーマンスを最大限に高め、維持し、効果を加速させるには、正確な測定によって客観的データを蓄積することが大切である。

メジャーメントの障害となるもの

ところが、人は測定することを避けてしまいがちである。これだけ測定が有用であるにもかかわらず、なぜそれをしようとしないのだろうか。

大きく分けて四つの理由がある。

  1. 自分の仕事は測定できないと考えている
  2. 測定するのは大変だ
  3. 測定されると罰が待ち受けている
  4. 測定する時間がない

測定しない人の大部分がどれかに当てはまるはずだ。

一つひとつ見ていこう。

自分の仕事は測定できないと考えているこの人はおそらく理系出身であろう。学生時代にさまざまな測定や計測を手がけた経験から、現在従事している仕事は測定と無関係だと頭から決めつけているのである。そのため、人間の行動を計測するという発想が信じられない。

しかし、パフォーマンスの測定は店舗営業から会社組織の運営まで、幅広い業種で実施されている。

反対の立場をとるよりも、全てのものを測定できるとポジティブに考えたほうがたくさんの測定方法を見つけられる。

測定を得意とする理系の人こそ、行動科学に目覚めたとき多くの発見をするものである。測定は大変な仕事だと考えている一見、測定が困難に思われる職種・業種はたしかにある。だが、それは誤解に過ぎない。

人間の行動である以上、いかなる仕事においても測定は可能である。協調性やチームワークを測定したければ、次のように考えるといい。

「部下たちに何をしてほしいのか?」「部下たちに何をさせたいのか?」ここから考えていくと測定は容易になるはずだ。

測定の後に罰が待ち受けていると考えている個人の営業成績を競わせる部署では、ある種の測定をしている。各人の成果によって評価するという手法だ。

パフォーマンスを測定するように勧めたとき、消極的な態度になる人がいるのは、このイメージが強いからである。

つまり、ノルマを達成できない人に何らかの罰を与えると考えてしまうのだ。パフォーマンスの測定は、えてしてアベレージ以下の社員を見つけるのに使われがちである。目標という名のノルマを課し、期日までに達成できた人だけを評価する。

測定と聞いていやな顔をする人が多いのは、ビジネスにおける測定がしばしば罰則と結びついてきたからであろう。明確な罰則はないにしても、無言の叱責という方法で有形無形の圧力を加えるのがこれまでの常識であった。

すなわち測定は義務を意味し、個人やチームを罰することにつながっていた。行動分析における測定は、このような手法とは一線を画する。それは決して罰するための測定ではない。過去と現在を比較し、マネジメント手法の効果を確認するための測定である。

したがって成果だけを見るのではなく、成果を生むまでの行動そのものを測定しなければならない。測定を始めようとするとき、部下たちに受け入れてもらうためにはこの誤解を解く必要がある。

「測定の後に罰が待ち受けている」という誤解を解き、罰ではなくほうびが手に入ることを教えなければならない。すなわちリインフォース(強化)である。

リインフォースについてはすでに述べたが、この仕組みが正しく理解されたとき、人々は測定を嫌がらなくなる。むしろ測定を楽しみにするだろう。

自分のデータを嬉々として提出し、リインフォースを促す。自分のデータが思わしくない場合は自発的に改善するようになる。そこには強迫観念など存在しない。

導入企業の例を見ても、社員たちはまさに「自発的に」動くようになっている。

測定を避ける言い訳として「準備ができるまでもう少し時間を下さい」「繁忙期を過ぎてから始めてほしい」「私たちより先に測定するべき部署があるはずだ」などがあるが、リインフォースの仕組みが理解されると、これらの言い訳を口にする者はいなくなるだろう。

逆に、自分の部署にも導入してほしいという希望があちこちから出てくるはずだ。測定システムを作る時間がないと考えている私が測定の重要性を説くと、しばしば次のような言葉が聞かれる。

「そんなシステムを作る時間はありません」測定システムは、最初から精巧に作り上げる必要はない。むしろシンプルであればあるほどいい。

まずは簡単なシステムでスタートし、使いながら少しずつ改良していけばいいのである。自社に導入するときはそうやってすすめるべきだ。

時間に追われている人は測定されることを拒む傾向が強い。現在の仕事だけで手一杯だからであろう。

たしかに、初めのうちは余分な時間が必要かもしれない。しかし長い目でみれば、逆に時間を節約することができる。測定はパフォーマンスの改善を助け、時間を浪費している多くの問題を減らしてくれるのである。

メジャーメントに必要な要素

ここには四つの要素がある。質、量、時間、そしてコストだ。

これらすべてを満足させるものが正しいメジャーメントであり、どれが欠けてもよくない。

ビジネスにおいては、どんなに量があっても質が悪ければ売れないし、質が良くても高価だったら売れない。質と量が良くても、納品が遅くては価値がない。

すべてのパフォーマンスは、四つのカテゴリから測定されるべきである。

質の測定

パフォーマンスの質を測定するとき、何を測定するかが重要である。

私たちはパフォーマンス自体を測定しなければならないが、えてしてパフォーマンスからどれだけ脱線しているかを測定しがちだ。

たとえば工場において、質の点検とは製品の欠陥チェックを意味する。しかし製品に欠陥が見つかったからといって、必ずしも行動に間違いがあるとは限らない。

間違いを探すというより、仕事を正確にすることを考えるべきなのだ。行動分析で言うところの測定とは、正確さを測定することにほかならない。正確さが増えれば増えるほど、パフォーマンスにおける間違いは減っていく。間違いや欠陥のデータももちろん必要である。

ただ、この情報は望ましい行動を増やすために提供されなければならない。それらの情報が正しく分析されたなら新しい行動の基礎が見つかるだろう。

量の測定

これは単純に数をカウントすることだ。

測定においては最もよく使われる指標であり、数量、割合、頻度などとして報告される。

量だけをカウントするマネジメントは、ほぼ確実に失敗をもたらす。「五百個売れたらボーナス、しかし二百個以下ならペナルティ」と告知したらどうなるか。二百個も売れそうにない場合、営業マンは不正を働くことになりかねない。伝票の操作によってボーナスを得ようとする者も出てくるだろう。質に目を向けず、ひたすら量だけを強化すると、このようにトラブルを招きがちである。

時間の測定

これは分かりやすく言えば、納期を守れるかどうかである。顧客サービスはもちろんのこと、小説家のような職業においても締め切りは重大な問題だ。どんなに質のいい読み物を仕上げたところで、雑誌の発売日に間に合わなければ意味がない。

漁師は卸市場が開いているうちに水揚げしなければならないし、警官は勾留期間中に容疑を固めなければならない。

経理課は給料日までに全社員の給与を計算する。営業マンは約束の日までに商品を渡す。社会が発展するにつれて納期短縮はますます重要な課題となってきた。

インターネットの普及によって、たくさんの会社が納期短縮に取り組んでいる。銀行では昔から待ち時間の長さが問題とされてきたが、それも今ではネットバンキングという手法で多少なりとも改善されつつある。

ただ、時間的な効率ばかり追い求めていると、やはりトラブルを招くことになる。自動車の整備士は「客に引き渡す時間だからブレーキは点検したことにしよう」と考えるかもしれない。

通販業者は「注文の品が間に合わないから、別の商品を発送して時間を稼ごう」と考えるかもしれない。納期に心を奪われすぎると顧客満足を忘れてしまう。コストの測定コストとは、一般的に原料費や人件費などを指す。

しかし行動分析の場合、主に問題とするのはパフォーマンスにかかるコストである。製造コストとパフォーマンスのコストは明確に区別しなければならない。

コストには大きく分けて三種類ある。給与・原材料費・経営費の三つだ。パフォーマンスにかかるコストの大部分は、三番目の経営コストに含まれる。

これは望む結果を出すために必要な支援にかかる費用なのだが、残念なことに、業績が悪化してくると真っ先に削減される。

何度も言うように、ビジネスとは人間の行動の集積である。行動を促すためのコストは削られるべきではない。

メジャーメントの実際・その1

クライアント企業の事例から分かりやすいものを挙げてみよう。ある住宅リフォーム会社では、営業成績を上げるために見込み客の訪問について測定を取り入れた。新人の場合は訪問件数そのものをカウントし、ベテランはクロージング件数をカウントする。

その結果をグラフによって本人にフィードバックし、かつリインフォースしたところ、それぞれの件数は見事に増加した。

このようにストレートな測定でなくとも、たとえば顧客との会話内容をチェックリスト化してカウントするなど、方法はいくつも考えられる。

要は測定する項目が結果に直結しているかどうかである。わが社においてもあらゆる場面で測定を取り入れている。

ビラの配布枚数、新規獲得件数などの各種コンテストは、測定の代表的なものと言えるだろう。このほか、保護者への電話連絡も測定している。

成績が伸び悩んでいる生徒に対しては授業を増やすことも必要なのだが、そのときポイントとなるのは保護者の理解をいかに得るかである。

生徒の現状を説明し、「これこれのレベルをめざすには授業をこれだけ増やす必要がある」ということを筋道立てて話し、保護者の同意を得なければならない。

ただしこの場合、電話の回数だけを測定しても結果に結びつきにくい。

電話の内容や、それによって保護者が授業増加に同意してくれたかどうかを測定することにより、電話という行動が結果に直結していくのである。

測定したら必ずフィードバックにつなげることが必要だ。測定しただけでは効果が得られない。

私自身の失敗例を紹介しよう。きちんと測定したにもかかわらず、その結果をリーダーだけで共有していた時期がある。このときは一般社員の行動自発率を全く上げることができなかった。

測定結果を公表し、各人にフィードバックしたとき、初めて全員がやる気を見せたのである。測定は基本的にリーダー自身が行うべきだが、必ずしもそうでなくても構わない。

ある保険会社の場合、測定そのものは自己申告に任せており、集計作業は事務員がやっている。現場と本部が離れているからだ。

各支店から寄せられるデータを入力し、社内ブログにアップロードするのは事務員である。機械的に打ち込むだけなので、他の作業と差はない。会社の状況によってはこのような方法も可能なのである。

直属リーダーによる測定には主観が混じる可能性があるが、事務員ならば客観的に処理できるというメリットもある。

わが社では、部下とのコミュニケーションを管理するツールとして「コミュニケーションシート」がある。

マネジメント項目をチェックリスト化したものだが、これも数をカウントしたり内容をカウントしたりすることで測定が可能だ。

あるいは、コミュニケーションシートを作らなくても「成長対話」を取り入れて管理する方法もあろう。一日五分、明日は何をするか部下と話すのである。

この場合も、会話の回数やその内容をカウントすることで測定が可能になる。気をつけてほしいのは、測定にコストをかけないことである。

高価な集計ソフトを導入したり、測定専任スタッフを雇ったりする必要は全くない。費用対効果でペイしなければやる意味がないと言っていい。

アメリカの大企業の例を見ても、ほとんどコストをかけていないことが分かる。

数人のチームを作り、リーダーが行動をカウントし、その結果を本人にフィードバックするという単純な仕組みがあるだけだ。

メジャーメントの実際・その2

測定には、このほか「チームワーク調査」「タスクワーク調査」「リーダーシップ調査」などがある。ここでは「リーダーシップ調査」について説明しよう。

これはリーダーの資質を問い、上下関係がうまくできているかどうかを調べるマネジメントサーベイ(調査)である。

一般スタッフが直属上司に対する評価をアンケート形式で記入し、上級管理職に提出する。無記名方式なのでスタッフの本音が引き出せる。

内容については、原則として上級管理職しか見ることができない。回答用紙に目を通すと意外な事実が明らかになる。

上の人間が思っていることと、下の人間が感じていることのギャップである。人気があるように見えるリーダーが酷評されていたり、目立たないリーダーが人望を集めていたりする。

誰にどんな行動が足りないか、どんな行動が評価されているかが一目で分かるのだ。これはサーベイをしてみないと絶対に読み取れない。

リーダーシップ調査は、まさにそれを調べるためのツールである。

信頼されていないリーダーが部下の行動をリインフォースしても効果がなく、一人よがりに終わって行動を続けさせることができない。

下の人間の意識を探り、リーダー自身の向上を促すと同時にリインフォースの効率アップを図るためには欠かせない調査である。

前述したように、メジャーメントは5ステップの中で最も重要なステップである。だからと言って、何でもかんでも測定するのは無駄なことだ。

そもそも測定する目的は何か。それは行動を継続させることにある。

だからこそ、ピンポイントによって結果と直結した行動を見つけ、それを測定することが大切なのである。

間違った行動をフィードバックすると、間違った結果が増えることになる。ピンポイントから測定に至るプロセスは慎重に進めなければならない。

ステップ3「フィードバック」

測定の次は「フィードバック」である。

一般的な情報やデータをフィードバックするのとは異なり、最適に働くための情報、すなわちパフォーマンスを調整するための情報を本人にフィードバックする。

一言で表すなら、効果を実感して自発的意欲を維持するための方法である。以前に比べてどれだけ効果が出たかを本人に示す。自分が今どの段階にいるかが分かると、やる気が違ってくるものだ。

ボウリングで球を投げるとき、全ゲームが終わるまでスコアが分からないとしたら二ゲーム目も闘志を燃やせるだろうか。

陸上で百メートルダッシュを繰り返すとき、一日が終わるまでタイムを教えてもらえないとしたら、毎回全力で走れるだろうか。

5ステップで言うフィードバックとは、このようなものである。フィードバックは部下のモチベーションを高めるのにきわめて重要だ。今までほとんどの職場では、結果が出たときにしかフィードバックをしていなかった。

しかし、ボウリングや百メートルダッシュの例を見ても分かるように、部下に対しては随時フィードバックしてやらなければならない。

さて、フィードバックの方法には次の三種類がある。

  • 言葉にする
  • 態度で示す
  • グラフ化して随時提示する

このうち、最も容易で、しかも効果が一定しているのはグラフ化である。特別な技術も要らず、上司の気分や体調に左右されることもない。

部下たちがいつでも目にすることができるため、同僚との比較によって自分でモチベーションを高められるというメリットもある。

フィードバックで大切なことは、自分のスコアが今何点なのか、今走ったタイムが何秒なのかを常に本人に分からせることである。

日本でコンサルティングをやっていると気づくことだが、日本人は概して言葉や態度で示すのが苦手である。

やはり私たちにとっては、行動の数をグラフ化して提示する方法が最も適しているのではないだろうか。

本人が見たいときにいつでも見られるようにしておく。ボウリングであれば、スコアが今いくつなのか、見やすい場所に置いておくことである。

ボウリング場では近年、スコアを大画面に表示しているが、あれはまさにグラフを掲示するのと同じ効果がある。

グラフには三つのパターンがある。折れ線グラフ、棒グラフ、累積グラフだ。

ある塾の場合、教室を中部地方全域に展開しているため、各教室の社員が本社に顔を出すのはせいぜい週一度である。

本社にグラフを貼っておいても普段は見ることができない。

そこで、全社員のポイント獲得状況を携帯サイトのブログに公開することにした。

パスワードさえあればいつでも携帯電話からアクセスできるので、自分のチームが現在何ポイントなのか、上にどのチームがいて下にどのチームがいるかがすぐ分かる。

画面を見ながら「あとどれぐらい頑張ればいいか」「こういうふうにしてみよう」などと自分で考えることもできる。ブログの更新は簡単で、お金もかからないから便利だ。

悪いフィードバックの例

部下の行動自発率を高め、維持するのにフィードバックが有益であることはお分かりいただけたと思う。

しかし、そんなフィードバックも手段を間違えるとかえって逆効果だ。中国の百貨店で、マネジャーがフィードバックを取り入れた。

服務員(店員)の月間成績を集計したまではよかったが、なんと最低の三人を公表してしまったのである。

ご丁寧にも顔写真入りで。本書をここまでお読みになった方はお察しであろう。そう、これは最悪の方法である。

「彼らが足を引っ張っている」と言わんばかりのフィードバックは厳罰に等しい。

店員たちは恐れをなして行動が慎重になり、かえってパフォーマンスを下げるだろうし、槍玉に挙げられた本人は居心地が悪くなって辞めるかもしれない。

前向きな提案をする者もいなくなるだろう。罰を与えることはできるだけ避けよと述べたが、この百貨店は強烈すぎる。

恐怖政治そのものであり、職場にいいことは何ひとつない。店員たちはさらし者にされる屈辱と恐怖に怯えながら、重苦しい雰囲気の中でいやいや働かなければならないのだ。

こんな状態で全体の売り上げが伸びるとは思えない。フィードバックは最適に働くための情報を共有することである。

何をいつどこでやれば効果的かといった前向きな情報を提供しなければ意味がないのだが、このマネジャーは浅はかな考えで逆の方法に走ってしまったのだろう。あなたの会社では、どうかこのような過ちを犯しませんように。

フィードバックにも測定が必要

フィードバックは行動分析に必要不可欠な要素である。これを使う場合にも測定が必要だ。

データを測定しないと、結果に直結しない行動を繰り返させることになりかねない。「どうも効果が出ない」という場合、的外れな行動をフィードバックしていることが往々にしてある。

この見極めによって行動分析の効果は大きく左右されるので、測定の手を抜いてはいけないのである。

学習塾での勉強の例をとりあげてみる。

たとえば英語の点数を二十点上げようとする場合、講師はそのための行動をピックアップする。

「英単語を覚える」「構文を覚える」「リスニングを増やす」「長文を数多く読みこなす」などの行動が挙げられるだろう。

集中的に学習させて短期間で効率よく点数を上げるには、これら全てをまんべんなく実施するわけにはいかない。

一体どれがその生徒に必要なのかを早く判断するには、やはり測定が欠かせないのである。

測定に手間がかかるように思われるが、それによって効率的な学習が可能になるため、結果として時間の節約につながる。

行動が増えているのに結果が増えていない場合、その行動はピンポイントではなかったことになる。

両者がそろって上昇を示しているとき、その行動は結果に直結したピンポイントと言える。

ステップ4「リインフォースR+」

望ましい行動を繰り返させるためにフィードバックを行うが、それだけでは自発的意欲を維持することが難しい。そこで出てくるのが「リインフォース」つまり強化である。

部下が望ましい行動をとったとき、すかさずリインフォースをして、その行動を継続させなければならない。

行動を繰り返させるときに大事なのは、本人が望む結果を与えることである。行動を増やすか、行動を減らすか。マネジメントの要諦は二つに一つだ。

本人が望むものを与えたとき、それは「R+」として作用し、行動を増やす。罰やペナルティなど、望まないものを与えるとその行動を減らす。

ほうびに使われるデントン紙幣(第5章参照)やポイントカードを「リインフォース因子」と呼ぶが、行動をポジティブにリインフォースするのはこうしたものである。

望ましい行動をとった人に対して、いかに「ポジティブなリインフォース」を与えるかが重要となる。

私の塾では、文具類のほかに、アイスクリームやゼリーのようなお菓子もごほうびに使っている。

アメリカ企業では、リインフォース因子としてデントン紙幣のようなトークン(token=券、擬似通貨)がよく使われている。

このほか「言葉で褒める」「握手」「社内報やニュースレターに名前を載せる」「ありがとうの手紙を渡す」「休暇」といったものもあるし、「コーヒーのチケット」「映画鑑賞券」「商品券」「ランチに招待する」「チョコレート」「音楽CD」「テレフォンカード」「宝くじ」なども多い。

これらを使えとか、全部使わないと効果がないということではない。

重要なことは、とにかく本人が望むものを与えることだ。本人が望まないものはリインフォースとはなり得ない。

たとえば、女性に花束をプレゼントしたら喜ぶかもしれないが、男性が喜ぶとは考えにくい。したがって男性にとって花束はリインフォースとならない。

ならばワインはどうだろう。お酒が好きな人にはいいが、飲めない人にとってはありがた迷惑である。そういった人にとっては、やはりリインフォースとはならない。

リインフォース因子の必要条件は「本人が望むもの」だ。リインフォースは物であるとは限らない。

社長と一緒に食事することは、上昇意欲の高い社員にとって名誉なことだからリインフォースとなりうる。しかし、別の社員にとってはとんでもない罰ゲームとなるだろう。

第四章で述べたように、その価値観は人それぞれで違う。本人が望むものは何かを見極めることが重要だ。

経費の枠の中でリストを作っておき、その中から選ばせるのも一つのやり方だろう。わが社でもその方式を取り入れている。それよりもはるかに良い方法がある。

貢献項目リスト」だ。

貢献項目リストを作り、個人個人がどの項目にどれだけ貢献したかをポイントとしてカウントする。

同時に、社員それぞれのリインフォース因子リストを作っておき、好きなものと交換できる仕組みを整える。

「たとえばお金、時間、職務、名誉、研修、家族へのサービスなどなど、個人のニーズやライフデザインによってリインフォースが選べるようにする。

社員の行動をリインフォースしようと思ったら、ここまできめ細かい対応が求められる。独善的な押し付けは効果を発揮しないどころか、逆効果になる場合もあるのだ。

これを専門用語で「動機づけ条件」と言う。

動機づけ条件

行動をリインフォースするに当たって、この「動機づけ条件」という概念はきわめて重要だ。

要するに、本人が一体何を望んでいるのかということである。それを事前によく調べておかないと、せっかくのリインフォースがリインフォースにならない。リインフォースへのニーズを高めるための環境条件が動機づけ条件である。

たとえばお金による動機付け条件をするなら、その人がどれだけお金を欲しがっているかを正確に知っておく必要がある。

意識調査はもとより、実際のニーズを客観的に把握しなければならない。調査項目としては家族構成、年齢、ローンの有無と規模、健康状態などが考えられよう。

ある企業で「お金が欲しい」と言う社員がいた。よくよく聞いてみると、欲しいのはお金そのものではなかった。

なんと、家族と一緒にゆっくり食事をする時間が欲しかったのである。

「お金があれば残業しなくて済む。早く帰宅して家族で食事できる。だからお金が欲しい」というのが彼の言い分だった。

そこで彼のポイントがたまったとき、給料を上げるのではなく、家族で食事をする時間をプレゼントした。

週に一回、家族と一緒に昼食を食べてから出社することを認めたのである。これは大変喜ばれ、彼にとってのリインフォースとなった。

自分の望むものが手に入る形にすると、誰もが自発的に仕事に取り組むようになる。動機づけ条件を見つけることがいかに重要か、お分かりいただけただろうか。

繰り返しになるが、非常に重要な概念なのでよくご理解いただきたい。動機づけ条件によって本人が望んでいるものを与えるには、過去の本人のリインフォース歴を調べるのである。

つまり先行条件・行動・結果の、結果の部分がカギとなる。そして、ここでの注意点は、絶対に大金をかけないことだ。高価なものを与えたほうが効果的ということは全くない。大事なことは、タイミングと確率なのである。

デントン紙幣の換算レートは一〇〜二〇セントだから、十円か二十円あげているようなものだ。

スターバックスのコーヒーチケット一枚をプレゼントしている企業もある。動機づけ条件で渡す場合、極力お金をかけないこと。

もっと言えば、物を与えるよりも社会的な賞賛を与えるほうがはるかに効果的だ。

たとえば表彰する、みんなの前で褒めるなどの方法は予想以上に大きな効果をもたらす。一番良くないのが、一律に給料を上げるとか、全員に休みをあげるといった方法である。これらはほとんど効果がない。

貢献してもしなくても得られるほうびは行動自発率の向上に結びつきにくいのだ。ここまでの要点をまとめると、まず本人が望んでいるものを与えること。できれば物でないほうがいい。

物である場合は、なるべく経費をかけず安価なものにする。一個十円とか百円でいい。

あるいは、ポイントがたまったら千円から二千円程度のもの。このあたりが限度である。お金をかけすぎると、やがて満腹して効果が得られない。

日本の企業でやっている例の一つに「プライドカード」がある。これを何個もらったかを個人別グラフにまとめ、掲示している。お金は全くかからない。

アメリカ企業の事例では「take10token」というトークンがある。十分間の休みをもらえるトークンだ。

ピンポイントの行動を一つクリアしたとき、このトークンが与えられる。「昼休みを十分間延長する権利」と書かれている。

リインフォースにも測定が必要

効果的なリインフォースの方法を見つけたいとき、測定はきわめて有効な手段である。

測定データなしでは、間違った行動をリインフォースしたり、間違った時期にリインフォースしたりする可能性がある。

言い換えると、何をいつリインフォースするかをデータによって見つけることである。

データを見ることによって、適切なときに適切なリインフォースをすることができる。

効果的なリインフォース因子を与えているつもりでも、望ましい行動が一向に増えていないとしたら、それはリインフォース因子でないことになる。

リインフォース因子の効果を測定すると間違いかどうかがすぐに分かる。リインフォース因子は飽きられることがある。

次項で詳しく説明するが、測定によってそれを防ぐことも可能になる。

リインフォースしているにもかかわらず、パフォーマンスが下降してきたら、それはリインフォース因子の効果が下がったことを意味する。

このように、リインフォースにおいても測定がきわめて重要なのである。

ステップ5「評価」

第5段階は「評価」である。再度言うが、まずは「ピンポイント」。その次に「メジャーメント(測定)」する。

「フィードバック」で本人に返してやる。「リインフォース」で本人が望むものを与える。そして最後に「評価」する。

この流れを順に追っていくことが「行動の反応率」を上げるための大きなステップとなる。評価は数字上の評価で構わない。

「いつまでも褒め続けなければいけないのか?」「いつまでも与え続けなければいけないのか?」こんな質問をよく受ける。

それに対する回答として、「連続リインフォース」と「分化リインフォース」の実験例をご紹介しよう。

ある行動をさせて、ずっと褒め続ける。これを「連続リインフォース」と言う。

一方、ある行動をさせて、最初のうちは褒め続ける。ある程度できるようになったら褒めるのをやめ、たまに褒めるようにする。これを「分化リインフォース」と言う。

連続リインフォースと分化リインフォースでは、どちらがより効果が長続きするか。それは分化リインフォースである。

最初は連続して褒め、承認やトークンを毎回与えなければいけない。しかしある程度の段階を過ぎたら、たまに与えるだけで十分なのだ。そのほうが人間は行動を繰り返す。満腹させてはいけない。

スポーツのコーチを集めて話をしたときにも、やはり「選手のことをずっと褒め続けなければならないのか」という質問が出た。

そこで分化リインフォースというテクニックを公開し、もう一段レベルの高いプレーを求めていくことが大切だと説いた。

コーチたちは納得してくれたようだ。なぜ評価が必要なのだろうか。その行動が結果に直結しているからである。

ただ、誤解してほしくないことがある。

コンサルティングに入ったとき、しばしば見受けられる勘違いだが、「結果に直結した行動」という言い方にとらわれすぎる人がきわめて多い。

実は、単に結果に直結しているだけでは駄目なのである。その行動が会社のビジョンやミッションと同一線上になければ、いくら評価しても意味がない。

ビジョンやミッションを外れたところで「結果に直結した行動」をあぶり出しても無意味なのだ。ビジョンやミッションにつながる行動だからこそ、その行動によって結果を出したとき評価される。

そのことをよく理解した上で評価に臨んでほしい。

望まれる行動をとらせたいとき、一回や二回のリインフォースを与えたからといって、その社員がすぐに自発的にその行動を繰り返すとは限らない。

リインフォースを最初に与え、いかに内発的な動機付けをして習慣化させるかが大事である。ある程度の回数をこなさないとそこまではなかなか到達しない。

せっかく行動科学マネジメントを始めたのに、一、二回やって結果が出ないからやめてしまうというケースが結構ある。これでは途中で止まってしまい、元の木阿弥だ。

最初のうちこそある程度の時間はかかる。しかし、その段階を越えると習慣化して楽になる。

導入当初はトークンを与えたり、褒め言葉や表彰を随時与えたりということを積極的に繰り返していただきたい。

慣れてきたら分化リインフォースに切り替える。あとは自然と習慣化していく。

5ステップの実践例

ある住宅機器商社の営業所長の話を紹介しよう。彼は5ステップを使って営業マンのパフォーマンスを最大限まで高めることに成功した。

この会社では社員がすぐに辞めてしまい、定着率が低かった。飛び込み営業が辛いことは所長もよく知っていたが、定着率を上げるため、なんとか仕事に楽しみを生み出そうと考えたのである。

まず、ピンポイントを見つけるため一週間にわたって観察を続けた。そして「訪問先で元気よく名乗る」「断られてもチラシだけは必ず渡す」などの行動をピックアップし、チェックリストを作成した。

同時にポイントシステムを考案。フィードバックとして、大きなグラフを事務所に掲示した。グラフに表すのはもちろん売り上げではない。

その行動を何回とったかである。社員は二人一組で行動しているので、チーム単位でエントリーする。

目標を一ヶ月で達成したチームには千円程度の報酬を出す。商品券やビール券などから好きなものを選べる仕組みだ。

プログラムを始めた直後から著しい変化が表れた。営業マンたちが自発的に動くようになり、受注実績が上昇したのである。

チームのコンビはお互いに励まし合い、助け合い、目の色を変えて働いた。遅刻や無断欠勤も皆無になった。彼らはお互いを褒めた。

他のチームに対しても賞賛を惜しまず、職場の雰囲気が一変した。所長も意図していなかった出来事である。

そして翌月、営業マン全員がごほうびを手に入れた。プログラムを開始して以降、退職者はゼロである。

月々わずかな経費で営業所は劇的に変わった。同じ経費を昇給に回したとしても、こうはならなかっただろう。

営業マンは出社するのを楽しみにしており、チームで成績を競いながら嬉々として働くようになった。

彼らは「行動分析は楽しい」と口をそろえる。この成功を見て、他の営業所でも「行動分析を取り入れたい」との要望が出ているという。

5ステップの実践例

次は新規開店した居酒屋の事例である。店長はリピーターを増やすことに腐心していた。誘客には主にチラシを使っているが、再来店につなげるのが難しい。素材と調理法にこだわっているぶん、価格競争では不利である。なんとか二度目の来店につなげて常連客化を図ることが最大のテーマだった。

そこで「お会計一〇%OFF!○月○日まで有効」というカードを作ってみた。これを客に渡し、次回の来店につなげようと考えたのである。

ところが、アルバイトの店員たちは接客に追われ、カードを渡すのを忘れがちであった。何度も注意し、更衣室に張り紙もしたが、一向に改善されない。

店長は5ステップを導入した。

店員を二人一組に分け、どんなタイミングでもいいからとにかくカードを渡すことを義務づけた。

カードにはチームごとに印をつけておき、再来店した客がどのチームのカードを持参したか集計した。

更衣室にグラフを掲示し、再来店があるたびにシールを一枚貼っていく。

月間二十枚のカードを回収できたチームには、ごほうびとして特製バッジを与えた。これによって月間三ケタのリピート客を確保することに成功したのである。大の大人がバッジとは、ばかばかしく感じるかもしれない。

しかし彼らは仕事の成果を本気で競っている。実際、やってみると楽しいのだ。この居酒屋が負担しているコストはバッジの製作費とグラフに要する経費だけである。ほんのわずかなコストで売り上げが急増した。

5ステップの実践例

ある草野球のチームは試合に勝てないのが悩みの種だった。レクリエーションだから勝負にこだわる必要はないが、あまりに弱すぎても楽しくない。

事実、メンバーは練習に身が入らず、覇気に欠けていた。監督は5ステップを応用することにした。

まずはポイント制度の導入である。メンバーを二人一組の単位に分け、練習に出てくると一ポイント与える。

バッティング練習で一ポイント、投球練習で一ポイントを与える。平日のランニングは一回当たり三ポイントを与えた。

この成績を各チームで競わせ、月間二百ポイントを達成したチームにはビール券をプレゼントした。

ここで見落としてはならないのは、試合の結果に対してポイントを与えるシステムではないということだ。

監督は成果そのものではなく、成果を生むプロセスに目を向けた。プロセスさえきちんと踏めば、いずれ成果はついてくると考えたのだ。これは正しい判断である。

5ステップはめざましい効果を上げた。練習をさぼるメンバーがいなくなり、全員が皆勤となったのである。平日のランニングによって基礎体力もついた。

たった一枚か二枚のビール券欲しさに、メンバーは練習に打ち込んだ。数ヶ月後、彼らはついに初勝利を手にした。

自信をつけたチームは着実に勝ち星を増やしていき、ある試合ではなんと完封の快挙も成し遂げたという。弱小チームは強豪に生まれ変わった。

5ステップの実践例

今度はセルフマネジメントの事例である。ある学校では、生徒の礼儀を重要視している。

どんなにテストの成績が良くても、日ごろの生活態度がなっていない子がいたのでは塾として恥ずかしい。

大げさに聞こえるかもしれないが、しつけを含めた全人教育がうちのモットーである。

礼儀の代表的なものとして、あいさつがきちんとできることを目標にした。

私はあいさつという行動を分解し、教室の入り口に「あいさつ線」を設けた。入退室するときは必ずここで立ち止まり、大きな声であいさつをする。できた子にはシールを与え、一定の枚数に達するとごほうびを出す。

これも効果てきめんであった。

シールとごほうびの関係が分かったとたん、教室にあいさつの声が響き始めたのである。どんなに内気な子も、必ず大声であいさつできるようになる。この成功に気をよくして、靴をそろえることも義務づけた。

望ましい行動をリインフォースしてやれば、子供でさえも自発的に行動する。今では「あの塾に入ると礼儀正しくなる」と評判になっているほどだ。

5ステップの実践例

もう一つだけセルフマネジメントの事例を紹介しよう。同じく私が経営している塾で成功しているものである。講師がいくら熱心に指導しても、それだけでは成績を上げることができない。

最も大切なのは本人の自発的な学習意欲である。ある生徒は英語の点数が低かった。塾では真面目にやっているのだが、自宅でほとんど学習しない。

そこで講師は5ステップによって学習意欲を高めさせることにした。この生徒に欠けているのはヒアリング能力であった。そこで、毎日三十分のヒアリングをさせる。

この行動をカウント(測定)するのは難しいが、ヒアリングをした日は一ポイントと数え、小さなカレンダーに丸印をつけさせた。

つまり自己申告である。塾に来るたびにカレンダーを見せてもらい、褒めたり励ましたりを繰り返した。

スモールゴールを設定しながら、三十日継続できたらごほうびを与える約束である。最初のうちは空欄が目立ったが、講師の激励が功を奏し、ついに三十日という課題をクリアできた。

丸印が続くと本人の行動自発率も高まってくるのだ。目標を達成したことで満足感を得た生徒は、その快感を再び得ようとして自宅学習が習慣になった。自発的な学習を成功させた好例である。

メソッド導入に際しての留意点

以上、5ステップの実践方法について説明してきた。

行動分析は業種・職種にかかわらず、またいかなるビジネスパーソンに対しても即効果を発揮するものであることがお分かりいただけたことと思う。

すでに述べたように、このメソッドには動物行動学上の成果が豊富に取り入れられている。

主にアメリカの研究者によって実験が重ねられ、そこから導き出された行動原理が行動分析を形づくる大きな要素の一つとなった。

われわれ人間も動物である以上、その行動原理から逃れることはできない

動物行動学の実験の話を持ち出すと、「マネジメントする側もされる側も心理的に抵抗があるのではないか」という疑問の声を聞くことがある。

「科学的すぎて非人間的だ」との反発を受けたことも一度や二度ではない。要するに「人間を動物のように手なずけるつもりか」という生理的な拒絶であろう。

このメソッドを取り入れる際は、社員に対して事前にすべてを包み隠さず話しなさいということだ。

どんな目的で導入するのか。なぜこの方法なのか。導入したら何がどう変わるのか。社長自身が説明してから、行動の分解やリインフォースに着手するべきだという。

私も全く同じ考えである。秘密主義はあらぬ疑いをかけられ、猛烈な反発を招くことになりかねない。私自身、このメソッドを自社に導入するときには全社員に説明した。

「経営者に操作される」という誤解から反対意見も出たが、決して社員を操作するようなメソッドではないことを丁寧に説明し、全員の合意を取り付けてからスタートしたのである。

アメリカで生まれたこのメソッドを日本に広めたいと考えた最大の動機は、根本にある「できる・できないは能力の差ではない」という思想に強く共感したことである。

この考え方を紹介し、わが国のマネジメントのあり方に一石を投じたかった。もちろん個人の能力もある程度は影響するだろう。

しかし、社員たちを見ているといつも感じるのだ。

「できない人間は、やり方が分からないか、分かっていても持続できないだけだ」と。

一握りのトップだけではなく、全員の力量のアップを図りたい。そのためにはこれが最も適切なメソッドだと確信していた。

この思いを伝えたとき、全社員が「やりましょう」と言ってくれたのである。

ロボットみたいに人を操るとか、社長が儲けるための理論といった捉え方はやめていただきたい。

仮にそんな使い方をしたところで長続きしないだろうし、紹介者として迷惑である。

行動分析の根底には、人間に対する優しいまなざしがあると私は考えている。誰もが本来の能力を発揮できる素晴らしいメソッドなのだから。

導入するときには、全てを包み隠さずに話してほしい。

この本を回し読みでもして、全員がメソッドの概要を理解してから始めていただきたいのだ。

人の行動を支配しようと考える人や、ロボットのように動かしてやろうと考える人に対しては、何ひとつお教えしたくない。それが私の本音である。

できない理由はたった二つだ。「やり方自体が分からない」「やり方は分かっているが継続できない」。この二つしかないのである。

もう一度、5ステップの分析をおさらいしておこう。

「ピンポイント」「メジャーメント」「フィードバック」「リインフォース」「評価」常にこの5ステップで考えていただきたい。

応用編として、ダイエットにおける5ステップを考えてみよう。このメソッドを使えばセルフマネジメントも容易にできる。私が考える5ステップは次のとおりである。

「ピンポイント」の行動一日三キロ走る。

「メジャーメント」一日三キロのジョギングを一週間ほど実行し、体重が少しでも減っているかどうか測定する。効果が確認できたらジョギングを続ける。

「フィードバック」測定結果をグラフにする。

「リインフォース」一週間継続できたら好きなCDを買う。

評価どれだけ体重が落ちたかを検証する。

ダイエットや禁煙、英語学習などについては、大学の先生が行動分析を用いて論文を発表している。

また、タイムマネジメントにも非常に有効だ。

5ステップのやり方、考え方は決して難しいものではない。社員の結果に結びつく行動をいかに見つけ、実行させるかだけである。

行動分析が目指すのはどういう会社かというと、スポーツを楽しむ感覚で仕事をする会社である。

たとえば、ある工場に二つのラインがあるとしよう。片方のラインは年に一回だけ評価される。仕事中の遊び感覚は一切ない。

もう一方のラインでは評価が日々行われる。表彰は少ないときでも週に二回から三回。

だからといって経費はほとんどかかっていない。全員がゲーム感覚で楽しみながら仕事をしている。

さて、ここで問題である。

一人ひとりのパフォーマンスレベルが上がり、会社全体のパフォーマンスを引き上げていくのはどちらのラインだろうか。

当然、後者のラインだ。

「仕事に遊びを入れてはいけない」「物を与えたりしては駄目だ」「楽しく仕事をするなど意味がない」「とにかく成果主義だ。できる人間にはたくさん給料を出すから仕事だけをやれ」

こういう考え方では、下の八割の社員にとって会社は面白くも何ともないところになってしまう。

リーダーの仕事とはいったい何だろうか。

リインフォースや罰の部分で、リインフォースを与えたり、罰を与えられた場合、そこでの環境や人・物が、本人にとって行動を増やしたり、減らしたりすることにつながる原理(派生の原理)というものがあるが、いかに仕事を好きになってもらうか、いかに会社を好きになってもらうか、いかにチームを好きになってもらうかがパフォーマンスを上げる上で非常に重要なのだ。

リーダーはそのような社内環境を整えなければならない。そんなユートピアみたいな会社があったらいいね、と言いたいわけではない。そのほうがはるかにパフォーマンスレベルが上がるという話である。

仕事のやり方は、まず細かく分解する。その中から結果に直結する「ピンポイント」の行動を見つけ、その仕事だけを徹底してやらせる。

途中で、その行動のフィードバックをする。行動は増やすか減らすかのどちらかしかない。なおかつ、行動を実施したら即座にリインフォースする。

リインフォースするときにお金をかける必要はない。何十万円もボーナスを出さなくてもいいのである。

映画のチケット一枚、コーヒー券一枚で十分だ。シール一枚でも効果がある。ただし、それを即時に与える。

こうすれば会社の雰囲気も変わり、社員たちは必ず仕事が好きになっていく。会社に行くこと自体が好きになるだろう。

行動分析を取り入れたアメリカの会社に行けば、そのことが実感として伝わってくる。みなさんにもそういう会社を目指していただきたい。

私は当時、社員のことで非常に悩んでおり、会社をたたむことも考えていた。

しかし、私を信じてついて来てくれた社員たちを食べさせるために何とかしなければいけない。すがるような思いで渡米し研修を受けた。

先生と私がなぜこのメソッドを日本に導入しようと考えたか。

一つは、本文で述べたようにアベレージ(平均)以下の八割の社員を引き上げたいということ。

ロボットのように人を動かしたり、動物実験のような感覚でやったりすることは全く望んでいない。

それからもう一つは、仕事のやり方が分かって本人さえやる気になれば誰でもできるようになるという事実を、おおぜいの人に体験してほしいこと。

職場にその土壌を作るのがリーダーの役目だと考えている。このメソッドは当然ビジネスの世界へ導入していくが、もう一つ大きな夢がある。教育への応用である。

アメリカのシアトルにモーニングサイド・アカデミー(MorningsideAcademy)という学校がある。

この学校は、教育に行動分析学を導入している。

行動分析家のジョンソン博士(Dr.KentJohnson)が一九八〇年代に設立した私立校で、学習障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)の小中学生のみを受け入れている。

行動科学マネジメントのメソッドを用い、一学年のうちに最低でも二学年分の学力をつけさせるのがモットーで、できなかった場合は授業料を全額返還する。

しかし設立以来、返還した例はほとんどない。毎年、最低でも二学年分以上、多い子は三学年分以上の学力向上を果たしている。生徒たちは学力が追いついた時点で元の学校へ帰っていく。なんという素晴らしい学校だろうか。

行動科学マネジメントを教育に導入する動きは、全米の公立校にも出てきた。インストラクショナル・デザイン(instructionaldesign)という言葉をご存知だろうか。

行動科学マネジメントを用いた教育のことである。モーニングサイド校で開発された教材や指導方法が、すでに全米の公立校で使われ始めている。

このメソッドはもちろんビジネスにも使えるが、教育にも使えるものなのである。子どもたちばかりでなく、社員教育にも使える。

「PST」の概念はアメリカにしか存在しないと思われる。これを日本に紹介する上で強調したいのは、ビジネスであれ教育であれ、このメソッドを使えばできない人もできるようになるということだ。

私は教育者の一人として、この事実を広く証明していきたいと考えている。

おわりに

明治維新以来、日本は国を挙げて近代化と工業化を推し進めてきた。

第二次大戦の失敗によって一時停滞したものの、その大方針は戦後も脈々と受け継がれ、ついに世界第二位の経済大国と言われるまでに成長を遂げた。

ところが、団塊の世代が定年を迎えて一斉退職することにより、労働人口が今後数年で急減する。国力を維持するには、限られた労働人口をいかに効率的に活用するかが鍵となろう。

そこで必要になってくるのが新しい時代の人材マネジメントである。私はコンサルタント業務を通じて多数の企業を内部から見ているが、以前の日本と違ってマネジメントそのものが機能しなくなってきたことを痛感させられる。

それはたとえば、若年層の早期退職という現象を見ても明らかであろう。新卒採用者の三〇%以上がわずか三年以内に辞めていく現状は尋常ではない。

バブル崩壊によって終身雇用制が根底からゆらいだ結果、日本人の労働意識がアメリカ型に変わりつつあるのだ。

さらに付け加えるとすれば、労働市場の門戸開放という問題も控えている。労働者人口が減少していく中、従来どおり門戸を閉ざしたままだとどうなるか。国内生産の弱体化である。

少子化によって人口減少が現実のものとなった今、外国人労働者を受け入れない限り生産力が低下するのは当然である。

日本政府は医療分野などで試験的に市場開放に取り組んでいるが、この流れは今後あらゆる産業分野に広がっていくものと予測される。

マネジメント対象である労働者が変わるとすれば、必然的にマネジメントメソッドも変えざるを得ない。

ところが、このように大きな変革が押し寄せているにもかかわらず、企業は自らの進むべき道を見出せずにいる。経済環境が激変する時代にいかに対応すべきか、具体的な方策を見つけられないのだ。

このまま手をこまぬいていれば、混迷する経済はいよいよ救いようのないところまで落ち込むのではないだろうか。

教育産業に長年携わっていると、教育現場から日本の将来が見通せる。

わが国の次代を担う子どもたちと日々接する仕事であるがゆえに、子どもの現状については誰よりも敏感であるとの自負がある。

政府による教育政策を見るにつけ、将来の日本に必要な人材が果たして育成されていくのだろうかと不安を覚えざるを得ない。

端的な例として、悪名高い「ゆとり教育」が挙げられよう。政府はようやく見直しに着手する模様だが、どれだけ改善されるかは不透明だ。

国際的に見て学力の劣る子どもたちが成長したとき、日本の競争力が現状を維持できるだろうか。このことについて私は強い危惧の念を抱くものである。

実際、サービス業における生産効率の悪さは先進国でも最低と言われる。すでに日本の地位低下は始まっているのだ。

思えば、バブル崩壊とそれに続く「失われた十年」は一時的な要因に過ぎなかった。たしかに経済は停滞したが、いずれ持ち直すだろうという希望も決してゼロではなかったのである。

しかし今回の社会変革はそのような楽観を許さない。労働者の意識、働き方自体が根底から変わりつつあるため、じっと耐えているだけでは転落が待ち受けているだけである。

このような諸問題を抱える日本において、最優先されるべき問題は何であろうか。それはマネジメントの変革である。

人材マネジメントをいかに変えていくかによって企業の明日が決まると言っても過言ではない。企業を支えるものは人材なのである。

私の提唱する行動分析は、上記の諸問題に対する解決策のひとつになるものと信じている。なぜなら、これは単なる精神論や経験則ではなく、分析学に則った実践的メソッドだからである。

具体的な仕組みを企業に提供できるメソッドは決して多くない。

「結果は行動の集積である」。

このきわめてシンプルな原理を基本とする行動分析こそ、日本の将来を保障する唯一のメソッドなのである。

人の行動が変わらない限り、企業の未来は変わらない。裏返せば、人の行動さえ変ることができれば企業も変わるのだ。

行動分析を基にしたマネジメントが貴社を、ひいては日本という国を、さらに発展させる一助となることを願ってやまない。

平成十九年九月吉日ウィルPMインターナショナル代表石田淳

語彙解説

※1日本型マネジメント

わが国独特の組織運営の形態。個人的能力よりも人と人の和を重視する。スタンドプレーを排し、チームプレーを極限まで推し進めるやり方。

戦後の高度経済成長を支えたのがこのマネジメント手法であり、象徴的なものとして東京オリンピック直前の高速道路・新幹線などの突貫工事が有名である。

※2成果主義、能力主義

個人の能力を重視する組織運営の形態。ある人がどれだけ具体的な成果を出したかを見て給与その他の評価を与えようとするもので、旧来の日本型マネジメントとは対極にある。

バブル崩壊以降、多くの日本企業が成果主義、能力主義を積極的に取り入れたが、これによってモチベーションが高まったのはごく一部のトップ社員にとどまった。

多くの社員は勤労意欲を失い、結果的に会社全体の競争力を下げてしまった。そればかりか、会社に対する忠誠心や社会的モラルの低下を招くなど弊害が多い。

※3行動の分解

初めてのことをするとき、たいていの人はやり方を知らないため失敗する。最初からうまくできる人はごく一部に過ぎない。行動科学マネジメントでは、このような場合にまず行動を分解して考える。

たとえば車を売るとき、新入社員に「売ってこい」と命じてもそう簡単には売れないものだ。具体的にどうすれば売れるかを知らないからである。ここでつまずいて自信を失うケースが多い。

「車を売る」という行動を分解すると、どのようなステップを踏めば車が売れるか具体的に分かる。

※4チェックリスト

行動のやり方を具体的に教えるためのツール。細分化された行動を文書化したもので何十項目、場合によっては百項目以上にわたる。各項目を自分でチェックしていくと、できる部分とできない部分が明らかになる。

できない部分をトレーニングすることで効率的に上達する。行動科学マネジメントで特に重視するツールである。

※5ポイントカード

行動の動機づけを促すためのツール。ある行動をしたとき、上司は「よくやった」と言葉をかけて本人の努力を認めなければならないが、そのたびに言葉をかけるのは不可能に近い。そこで、言葉の代わりにポイントを与える。

「この行動をすればポイントがもらえる」という因果関係を作ると、人は必ず行動したくなる。一定数のポイントがたまった人にはコーヒーチケットや休憩タイムをプレゼントすることが多い。成果を上げたときではなく、行動をしたときにポイントを与えるのが正しいやり方。

※6個別分析シート

その人のニード(必要性)とメソッドを知るためのツール。ある人に行動をさせようとするとき、その「欲しいもの」と行動を直結させるとうまくいきやすい。欲しいものが必ずしもお金であるとは限らない。

※7行動分析学

心理学や動物行動学をベースに、人間の行動原理を明らかにしようとする学問。行動科学マネジメントの基礎となった。

※8スキナー

行動分析学の創始者。人間の自発的行動というあいまいな領域に初めて科学を持ち込んだ。

※9徹底的行動主義

意識(こころ)を明らかにするために行動を調べるのではなく、明らかにすべきは行動であり、意識や思考も行動の一部とみなして研究するという考え方。徹底的行動主義はまた徹底的環境主義でもある。

※10応用行動分析

行動分析学の一分野で、研究知見を実社会で活用しようとする実践的学問。障害児教育への応用から始まったが、現在では、医療・福祉・教育・産業へと応用範囲が広がっている。

※11実験再現性

ある仮説を立証しようとするとき、同一条件の下で追試した場合に必ず同じ結果が得られること。実験再現性がなければ因果関係を立証したことにならない。水を電気分解すると必ず酸素と水素が得られる。これが実験再現性である。

※12イーストマン・ケミカル・カンパニー

アメリカの化学メーカー。イーストマン・コダックから分離独立した。

※133M・デンタル

3M・デンタル・プロダクツ社。アメリカの歯科医療品メーカー。

※14ソレクトロン

アメリカの電子機器メーカー。一九七七年カリフォルニア州で創業。九二年には日本法人も設立されている。

※15コンピテンシー

一般に「高業績者の行動特性」と訳される。アメリカの心理学者マクレランドが提唱した。常に高い業績を上げる人の行動を分析し、そこに見られる特性を他の人に応用すれば業績が上がるとする考え方。

※16プロセスマネジメント

最適なプロセスを設計し、それをもとにシステムを作り上げていく方法。近年、日本でも注目されている。

※17二割八割の法則

「全体の二割の社員(商品)が売り上げ全体の八割を形作る」という現象を言い表したもの。別名「パレートの法則」。

※18スコアカード

財務・顧客・業務・イノベーションの四点から業績評価するシステム。顧客満足度や社員のパフォーマンスを数値化する。バランスト・スコアカード。

※19パフォーマンス評価

成果を客観的な基準によって評価しようとする方法。アメリカで普及しつつあるが、実際に運用されている事例を見ると、人を罰することで行動を律しようとしているケースが多い。

※20クレル

パフォーマンス評価というメソッドをビジネス界に取り入れた。

※21カンバン方式

トヨタが発案した生産管理法。必要なものを、必要なとき、必要なだけ作り、在庫をできるだけ持つまいとする。ジャストインタイム生産方式。

※22洗脳

人の思想や主義を意図的に変えさせること。心理学を悪用し、人を思いのままに操ろうとする。英語でbrainwashing。

※23マイクロマネジメント

部下に最も嫌われるマネジメント手法。独断、押しつけ、指図などを招きやすいが、マネジャー本人はなかなかそれに気づかない。ある種の人は、この手法をやり始めると部下の管理に嗜虐的な喜びを見出すようである。

※24反復

トレーニングチェックリストを渡しただけで安心してはいけない。できない部分を徹底的に反復させ、できるようになるまで繰り返す。行動を変えるには反復トレーニングが必要である。

※25パフォーマンスマップ

分解した行動を一目で見ることができるようにマップにしたもの。

※26マニュアル偏重主義

マニュアルを作成する企業は多いが、マニュアルを絶対視するのはよくない。金科玉条は思考停止を招き、マイクロマネジメントの罠に陥りかねない。

※27アップセールス

顧客が欲しがっている商品より単価の高いハイグレード商品を売ること。単価が上がれば結果的に売り上げ全体がかさ上げされる。アップセリング。

※28ポイント制度

行動を促すポイントカードを活用したマネジメント。

※29MORSの法則

これに当てはまらないものは行動と認められない。裏を返せば、この定義に当てはめることによってその行動を習慣化することができる。

※30ディスクレーショナリー・エフォート

自発的行動と言い換えてもよい。各人のディスクレーショナリー・エフォートを引き上げることが全社的に業績を上げる近道である。

※31PIP分析

会社や個人のポテンシャルを割り出す方法。行動科学マネジメントを取り入れた場合の効果が予測できる。

※32プレマックの原理

行動にはその場面で起こりやすいものと起こりにくいものがある。起こりやすいものを制限して、起こりにくいものをやったら起こりやすいものを許すという場面にすると、起こりにくかった行動が強められてよく怒るようになる。これをプレマックの原理と言う。人間は嫌いなこと、苦手なことを後回しにしようとする。これを克服する知恵として、アメリカでは古くから「おばあちゃんの知恵」が知られている。好きなおかずを最後まで取っておき、嫌いなおかずをきれいに食べさせる子育ての知恵である。この場合、好きなおかずそのものが「ごほうび」となるため、嫌いなおかずを食べるようになる。

※33ABCモデル

スキナーが提唱した概念。三項随伴性ともいう。

人間の行動は先行条件(Antecedent)・行動(Behavior)・結果(Consequence)の三つから成っている。

これから変えようとする問題行動もABCモデルから成っているため、それを分析することが問題解決の第一歩である。

※34先行条件

ビジネスにおける先行条件の代表例は、数値目標などのゴール設定である。

※35マーティン・セリグマン

ペンシルバニア大学教授。『世界でひとつだけの幸せ』(アスペクト)、『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社)など。

※36サブゴール

目標を示すことでモチベーションを高めようとするのも一つの方法だが、最終目標だけではうまくいかないことが多い。示された目標を「高すぎる」と感じたとき、人は行動を躊躇する。もしくは最初からあきらめてしまう。そこでサブゴール(中間ゴール)を設けるのである。

※37PIC/NIC分析

ある行動が継続しやすいかどうかを客観的に判定する手法で、ADI社が開発した。PIC/NIC分析を用いると、タバコがやめられない理由もダイエットできない理由も明白となる。日本向けにアレンジしたものを特に「PST分析法」と名づけた。

※38PST分析

Positive・Sokuji・Tashikaの頭文字から命名した。PSTに当てはまる行動は継続しやすい。

※39六十秒間ルール

行動の直後にリインフォースを行うとき、この「直後」とは、実際には六十秒以内ということ。行動が発生してから60秒以内にリインフォースしなければ、行動を再び繰り返すことにつながらない。

※40動物行動学

生物学の一分野で英語名はethology。動物の行動がいかなる原理に基いてなされるかを科学的に解明しようとする学問。鳥類の刷り込み(インプリンティング)を発見したコンラート・ローレンツが有名である。日本では日高敏隆氏の名が知られている。

※41デントン紙幣

行動科学マネジメントにおけるごほうびの一種。事例として大変分かりやすく、講演や書物でしばしば取り上げられる。

※42クオリティ評価法

単純に行動を数値化し測定できない場合の評価法。複雑な連続した行動のつながりを測定するため、基準値を設定してその基準値に従って測定をする方法。

※43コミュニケーションシート

会社としてぜひやってほしい項目を列挙したもの。上司はこのシートによって部下の行動を評価する。

※44成長対話

目標を達成しようとする部下をサポートするため、上司が目的を持って対話すること。部下の育成に有効とされている。

※45トークン

社内でだけ通用する擬似通貨。ポイント制でもよい。具体的なニーズのあるものと交換可能な制度を確立しておくことが重要で、その制度をトークン・エコノミー・システムという。

※46貢献項目

リスト個々人の欲しがっているものを把握するツールとして個別分析シートがある。貢献項目リストはそれを補強するツールである。

※47プライドカード

望ましい行動をした生徒に与えるごほうびの一種。ポイントカードと違い、品物とは交換できない。プライドカードはカード自体に価値があり、これをもらえることは大変な名誉なのである。

※48モーニングサイド・アカデミー

日本でも学習障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)が増加傾向にあることから、マスコミなどで取り上げられる日も近いであろう。

※49ADHD

発達障害の一種。注意力が散漫で、一つのことに集中できず、授業中に立ち上がったり、教室内を歩き回ったりする。衝動的な行動が目立ち、じっとしていられない。大人にも見られる。

※50インストラクショナル・デザイン

モーニングサイド・アカデミーの成功によって、アメリカの教育界で脚光を浴びている。日本でも法政大学の島宗氏が同名の本を出している。

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