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第6章対策を実行する

STORY6対策を実行する人たちすばやく着実にやりぬくタスクを見える化する対策の実行をモニタリングする

STORY6対策を実行する人たちマルチメディア事業部の方針がはっきりしたこともあり、戸崎は大谷部長と連れだって宮里社長にこれまでの経緯を報告し、その後、無事に社長の承認を得ることができた。プロジェクトは今後、マルチメディア事業部だけで推進することになる。それから3カ月が過ぎ、木枯らしが吹きはじめた頃、戸崎は久々にマルチメディア事業部の高橋事業部長を訪ねた。対策の行方は?「その後、進捗はいかがでしょうか」会議室の椅子に腰を下ろしながら戸崎がたずねた。「おう、業務用ビデオテープは絶好調だよ」高橋は笑いながら答えた。「安心しました。我がことのように嬉しいです。もう経営企画部の出る幕はなさそうですね」短期策については事業部で推進メンバーが割り振られ、着々と実行されているようだった。業務用ビデオテープに関しては、従来からあるビデオテープチームを「業務用チーム」と「家庭用チーム」に分け、それぞれ別個に責任者を配置したという。また業務用チームについては、家庭用と市場の状況が違うことをすべての営業担当者に説明したうえで、値引きの決裁権限はチーム長以上と定めた。同時に、経営管理部から出てきた実際原価を参考にしながら、採算性を数字で判断する仕組みを構築したようだ。これらの対策は順調に推移しているようだった。戸崎は安堵したが、一つ気がかりなことがあった。「些細なことですが、ちょっと気になる点があるのでお聞きしてもいいですか」「ああ、何でも聞いてくれ」上機嫌で高橋は応じた。「実際のところ、業務用ビデオテープの売上は上がっているのですか?」「もちろん、上がってるさ」高橋は即答した。「一連の対策をしてからは、前月比でも10%程度、昨年同月と比較しても15%近くは伸びている」「それはすばらしい。では、販売単価はどのくらい向上してますか?」「販売単価か?」高橋は一瞬、考え込んでから言った。「いや、細かく見てないのでよくわからんが、たぶん……上がっているはずだ」「そうですか。小耳に挟んだところでは、最近、競合他社の工場でトラブルが発生して、代替受注が一時的に増えているということですが。その影響で数量が増えたということはないですか?」「その影響も少しはあるだろうが、軽微じゃないか……」高橋は言葉を濁した。「そうですか。平均の販売単価は重要指標ですので、追いかけていただければと思います。あと業務用チームと家庭用チームを分けましたが、これは原因分析で出てきた〈営業スキルが低い〉を解消する対策だったと思います。目論見どおり、営業スキルは向上しましたか?」「どうだろう……よくわからんな。実施してからまだ日も浅いし、あまり変わってないかもしれん」高橋はだんだん歯切れが悪くなってきた。「なるほど。先ほど、業務用と家庭用で市場が違うことを営業担当に説明したとおっしゃってましたが、理解度の確認テストやロールプレイなどを実施されたほうがいいかもしれませんね」「そうだな、俺も、もう少し細かいところまで見たほうがいいな」高橋はうなずきながら言った。見えていない人たちさらに戸崎は、中長期策についても質問してみた。「短期策はおおむね順調なようですが、中長期策のほうはいかがですか?」その質問で高橋事業部長の表情がにわかに曇った。「それがな……かんばしくないんだよ。事業部内で推進している対策はいいんだが、外と一緒になって進めている対策がガタガタで、一向に進んでいない」高橋の話によると、一網打尽の大きな対策として掲げた「事業売却」と「工場再編」は、その後うまく進んでいないようだった。事業売却については、いまや未来のないカセットテープやFDD、MOなどの事業を買いたいと名乗り出る企業は、さすがに現れないようだ。「どこかが名乗りをあげてくれると高をくくっていたが、甘かったな。事前に、もっと調査をしておくべきだった」しかも悪いことに、競合他社が時を同じくしてカセットテープとFDDから撤退したという。加えて、顧客にはまだ供給の打ち切りを伝えていないため、競合他社が打ち切ったオーダー分が一挙にバタム工場に流れて、撤退するつもりがフル操業の状況となってしまい、工場サイドは大いに盛り上がっているそうだ。状況をよく理解していない現場従業員からは、「ライン増設」という声まで上がっている始末だ。「完全にタイミングを逸してしまったよ。いずれ近い将来、消えゆく製品群なのに、今さらライン増設なんてありえない。第一、このオーダーだって一過性のものだから、数年以内に、まず間違いなく先細りしてゼロになるだろう。まずお客様に供給の打ち切りを通告したうえで、売却と撤退を両睨みでやる必要があったんだ」高橋の表情には後悔の念が浮かんでいた。一方、工場再編も難航していた。マルチメディア事業部の営業企画が、カセットテープ部門の売却交渉をつづけていたが、その情報が事業部内に広まってしまい、小浜工場にも、一人歩きした情報が伝わっているらしい。〈小浜工場は、DVDを取り上げられてビデオテープだけになり、高島工場はブルーレイをもらう。ビデオテープはいずれDVDに取って代わられ消えていくので、小浜工場は閉鎖に追い込まれる〉という噂がまことしやかにささやかれていた。また、〈高島工場がブルーレイをもらうということは、小浜より高島のほうが格上ということだ。我が小浜は評価されていない〉という、なかばやっかみとも取れるような発言や、さらには〈小浜は評価されていないので給与減額が敢行される〉といった憶測まで飛び交い、「それなら仕事を真面目にやっても未来などない」と悲観する者も出てきて、現場の士気は下がりに下がっているという。「小浜の連中はああだこうだと理由をつけて見えない抵抗をしているようで、ラインの移管が全然進んでいない。やってやれない話ではないと思うんだが」高橋は困り果てたようにつぶやいた。「そういえば……珠海工場を立ちあげたのは小浜工場の人たちですからね。移管など、お手の物でしょうが、おかしいですね。ところで、今回の事業売却や工場再編についての計画は、どの程度、説明していますか」「説明は安達君に任せたから、ちゃんと話していると思うが……確認しておこう」高橋は安達課長を会議室へ呼び出した。

動きを見つづけるには?安達が会議室の席につくと、高橋が小浜の状況を説明するよう促した。「小浜工場には、高島工場からビデオテープが移管されてきて、同時に、DVDをバタム工場に移管することになると伝えています」「それ以外には説明されていないでしょうか?」と戸崎が質問した。「たとえば、マルチメディア事業部が今後、業務用ビデオテープとDVD‐Rを収益の柱としつつ、将来に向けてブルーレイを立ちあげる構想だとか、今、業務用ビデオテープは値引きしすぎて採算性が厳しいので、営業部で家庭用と業務用にチームを分けて業務用に注力していく話とか……」「そこまでは伝えていません。詳しく説明したほうがよかったでしょうか」安達の答えに、高橋は不満を隠そうともせずに言った。「あたりまえだろ!どおりで、小浜工場の連中が誤解しているはずだ」戸崎が割って入った。「まあ、いわゆるHOW指示のようになっているかもしれませんね。今回の改革がどこを目指しているのか、その背景や目的やゴールをきちんと伝えれば、誤解は生まれないと思います。ちなみに、説明の際、資料とともに説明されましたか?」「いや、口頭で軽く説明しただけですが」安達は答えた。「それも誤解を招く要因でしょうね。こういう大きな話は誤解を生むと困るので、ゴールだけでなく、いつまでに何をするかというタスクの全体像を〈見える化〉して伝えることが大切です」「おっしゃるとおりです。まことに迂闊でした。では、小浜工場で次の定例会議が金曜日に開かれますので、あらためて詳細を説明してまいります」戸崎はさらに突っ込んでみた。「ちなみに、金曜日に実施されている定例会議とは、どんな会議なんでしょうか」「はい、〈移管責任者会議〉と命名して、今回のライン移管に関係する工場の各部署の責任者を集めた会議を新たに立ちあげて、毎週金曜日に開いています」「なるほど……参加している責任者の方は、全部で何名くらいなんですか」「全員で14名ですが、みんな忙しいようで、毎回、出席するのはだいたい6~7名くらいでしょうか」それを聞くと、高橋は身を乗り出して語気を荒げた。「おいおい、参加者が半分じゃ会議にならんだろう。それじゃ、進む話も遅々として進まないんじゃないか」しかし、安達は悪びれずに答えた。「それはそうなんですが……ただ現場の皆さんは多忙をきわめているようなので、あまり出席を強制してもよくないかと思いまして……」そこで戸崎が助け船を出した。「たしか、小浜工場では毎週月曜日の午前中に、工場各部署の責任者を集めて〈生産調整会議〉を開いていますよね。その会議のなかで、議題として工場移管の話を取りあげるというのはどうでしょう。あまり議論の時間が取れないかもしれませんが、そうすれば確実に皆さん出席されると思いますが」「戸崎君の言うとおりだ。生産調整会議のなかの議題として工場移管の話を入れるよう、俺からも工場長に依頼しておく。次回からは、その線で頼むよ。欠席者が多いと、決まるものも決まらないし、情報も伝わらないし、二の足を踏むだけだ」「わかりました。では金曜日に工場へ出向いたときに、そのお話も伝えてきます」安達は手帳に何か書き込みながら答えた。

第6章対策を実行するすばやく着実にやりぬくタスクを見える化する対策の実行をモニタリングする■すばやく着実にやりぬくすばやく柔軟に実行する綿密な検討をへて、ようやく対策案の検討が終わったが、それを壁にかけておくだけでは、絵に描いた餅になってしまう。これまで述べてきたPDCAのPが重要であることは間違いないが、DCAについても同様に重要である。ここからは、対策をしっかりと実行していくためにDのポイントを見ていこう。まずは、「すばやく」というポイントを見ていこう。ビジネスのなかで痛感していると思うが、日々、環境は変化している。新しい事実が毎日生まれているのである。ということは、HOWに至るまで検討の前提にしていた事実はすでに過去のものとなっている。対策を実行するまでの時間がかかればかかるほど、環境変化は大きなものとなり、対策を打っても前提が異なるため効果がでなくなるおそれが増してくる。そのため、考えた対策をできるかぎり、すばやく実行に移すことが鍵になってくる。また、新たな事実や想定外の事実が出てくると、もともと考えていた対策を、そのままの形で実行できない場合が出てくる。そのときには「状況が変わってしまった。もうだめだ」と思うのではなく、何が違っていて、どうすればうまくいくのかを柔軟に考え、修正しながらやっていくことが必要だ。短時間で完了する対策を除き、環境は変わってあたりまえだ。着実に成果を出すためには「すばやく」かつ「柔軟に」対策を実行することが重要である。既存の取り組みを活用するHOWで考えた対策を実行する際には、より細かなTODOを考える必要がある。そこで利用したいのが、「既存の取り組みをうまく活用する」だ(図6‐1)。

ストーリーで安達課長は、対策を実行するために小浜工場の責任者を集めた「移管責任者会議」を立ちあげた。しかし、新たにつくられた会議は、出席することへの意識づけや習慣づけがなく、責任者たちの多忙もあり、欠席者が相次いだ。その結果、決まるものも決まらないという事態を招いていた。そこで戸崎が提案したのが、既存の会議を活用することだった。新たに会議体を立ちあげるより、責任者の出席が習慣化している既存の「生産調整会議」のなかで、一つの議題として取り上げるほうが、話がうまく進むのである。既存で回っている仕組みや、それまでに調査した分析情報など、企業には眠っている資産が数多く存在する。それらの資産をできるかぎり活用して対策を実行していけば、まったく使わない場合と比べて、すばやく対策を完了させることができるだろう。また、副次的に、対策が組織に浸透しやすいという効果も期待できる。対策を組織内に展開する際、まったく新しいものより既存のものを組み合わせたほうが心理的抵抗を少なくできるからだ。対策の方向性と細かなTODOを検討していく過程で、既存のもので何か使えるものはないかを考えてほしい。「下ネゴ」をして合意を取る具体的なTODOを策定したら、担当を決めて着実に実行していくわけだが、実行に移すときに大切なのは「下ネゴ」である。事前に水面の「下」で「ネゴシエーション」をして関係者の合意を取っておくという意味だ。企業において問題解決の対策を実行しようとすると、自部署はもちろん、前工程や後工程の部、上位組織など、多くの組織に影響が出る。対策を推し進めはじめてから「自分はそんなつもりではなかった」などと反論されたり、「やらないほうがよい」など、不協和音がでるのを避けなければならない。あなたも、実務のなかで何かを実行しようとしたとき、関連部署に阻まれた経験があるはずだ。先ほど、悪影響と好影響について事前に考えておくことが重要だと述べたが、その影響を事前に関連組織の長に話しておき、問題がないかどうかを確認してもらうことが大切だ。ストーリーでは、安達課長の説明不足で小浜工場の協力が得られず、進むはずの対策が思うように進んでいなかった。逆に、バタム工場にも、伝えるべき内容が伝わっておらず、一時的な増産で工場内が浮き足だってしまい、その後の対策が打ちづらい状況を招いていた。ビジネスの現場ではよくある話だが、トップダウンカルチャーがきわめて強い会社を除いて、「方針で決まったから」「経営陣からの指示だから」というお達しだけで物事が進む会社など、まず存在しない。しっかりと関係者に説明をおこない、合意を取りつけてから物事を進めていくことが大切だ。状況を共有する合意を取ったあとは、チーム内で状況を共有することも重要だ。通常、チームで対策を実行しているときは、定期的に進捗確認の会議が持たれる。その会議ごとに状況を確認するのはもちろんだが、状況によっては会議まで待つ必要はない。非公式な会議でも、立ち話でもかまわないので、状況を随時、共有したい。また、うまくいかない点が出てきたら全員で対策を打つなど、一丸となって問題に取り組むことが必要だ。これが、対策を柔軟に実行していくためのコツである。ここで注意したいのは、一人で根を詰めてやらないことだ。これをすると独りよがりになり、チームのため、会社のためにならず、非効率なやり方で進めてしまうおそれも出てくる。まずは、状況を共有することを強く意識しよう。共有することで、対策がうまく進んでいない箇所に対してすばやく異変を察知できる。小さな問題解決を繰り返す対策を実行してみると、うまくいかない箇所が出てくることも多い。すべてがすんなりと実行できるわけではないのだ。その場合は、小さな問題解決を繰り返してほしい。小さな問題解決には2種類ある(図6‐2)。一つは、上司・組織の問題解決をおこなった対策を部下・メンバーに割り振ったときに出てくる、WHERE・WHY・HOW。もう一つは、部下・メンバーのHOWが進まないことについてのWHERE・WHY・HOWだ。

まず一つ目について、ストーリーで考えてみよう。マルチメディア事業部という組織全体の問題解決を考えた結果、「DVDとブルーレイの材料を共通化する」という対策が出てきた。組織全体からすれば、これはHOWにあたる。しかし、材料検討をおこなっている担当者個人からすれば、これが新たな問題解決のテーマになってくる。すなわち「どこの材料が共通化されていないのが問題か?原因はなぜか?どうするか?」という検討につながっていくわけである。この問題解決を検討した結果、ある樹脂材料が共通化できていないことが問題で、その原因は、顧客に設計変更の承認をもらえなかったからだとしよう。その対策として、営業に依頼して、顧客に設計変更の承認をもらうという対策を進めたとする。これがうまく進まない場合、二つ目の問題解決が登場する。すなわち「顧客からの設計変更の承認が進まない」ことが新たな問題解決のテーマとなり、「どこの顧客、どの製品、どの営業担当で承認が進まないのか?原因はなぜか?どうするか?」という検討につながっていく。以下同様に、さらに細かく三つ目、四つ目……と問題解決がつづいていくわけである。大きな問題解決を実行するなかで、小さな問題解決をおこなわなければならない局面はよく起こる。小さな問題であっても、統一した考え方を用いて着実に問題解決することが必要である。着手タイミングを計る対策はすばやく実行したほうがよいのだが、時として「着手タイミング」が重要となる場合がある。たとえば繁忙期でみんなが忙しいなかで、いろいろなことをやろうとすると、既存の業務への悪影響が出て、思わぬ失敗を招いてしまう。また、忙しいからと中途半端なタイミングで実行すれば、結局、成果が上がらなかったということにもなりかねない。このような場合には、対策に関わる関係者の繁忙も探ったうえで、あなた自身や、あなたのチームが、やりぬけるタイミングで実行することが望ましい。また「お金が使いやすいタイミング」や「失敗したときにリスクが許容できるタイミング」なども考慮したい。ベストなタイミングを見計らうと、対策が実行しやすく、成果も生まれやすい。大きな対策を実行に移せるタイミングはそうそうあるものではないため、機が熟していなければ、時がくるのを待つのも大切だ。拙速に取り組んで失敗するより、じっくりとタイミングを見計らおう。組織の不文律を踏まえる問題解決を実行していくうえで、「組織の不文律」という、組織内に存在する見えないルールに配慮することも必要だ。不文律とは、これまで組織を回してきたイナーシャー(慣性)とも言うべきものである。ストーリーでいえば、小浜工場の人たちが、高島工場でブルーレイを生産すると聞いたとき「最新製品をつくるということは、高島工場のほうが格上である」と理解し、それは即ち「自分たちの仕事が評価されていない」と受け取った。「最新製品をつくる工場のほうが格上だ」や「そうではない工場の仕事は評価されない」などは、おそらく社内のどこにも書かれていないはずなのだが、社内の評価制度なのか、過去の出来事なのか、長い歴史の積み重ねなのかはわからないが、「最新製品をつくる工場は格上」という暗黙のルール、すなわち不文律ができあがっているのだろう。不文律は必ずしも悪ではないが、会社が進む方向性と不文律がずれていると面倒なことが起きる。ストーリーでも、小浜工場にブルーレイが移管されるのであれば、会社が進む方向と不文律が一致しているため円滑に事が運んだと予想されるが、小浜工場には最新製品が移管されなかったために「自分たちは評価されていない」と受け取り「真面目に仕事をしても仕方ない」といった抵抗勢力につながっていったと考えられる。対策を実行するうえで、これから実行する内容が不文律に真っ向から反していないかを考え、もし反している場合には、その対処方法も検討しておく必要がある。やりぬく意志を持つ最後に、すばやく着実にやりぬくうえで何より大切なのは、とにかく解決しようとする意志をしっかり持つことである。私たちはトヨタ自動車をはじめ多くの企業で、それぞれの企業状況にあった業務の進め方を検討してきたが、「やりぬく意志」は多くの企業で最重要視されている。対策は一筋縄ではいかないことが多い。そのとき「やはり無理だった」とあきらめてしまうと、すべてが無駄になってしまう。また、問題は何ひとつ解決しない。何よりも強い意志で実行すること。そのためには問題解決の目的を堅持し、すべては他部署、企業全体、お客様につながる活動だと肝に銘じて、しっかりとやりぬいてほしい。■タスクを見える化する実行計画全体を見える化するあなたは「見える化」という言葉を聞いたことがあるだろうか。見える化とは、文字どおり見えるようにすること。一般的には「可視化」という言い方もある。見える化をすると、「考え」という、目で見ることができず共有することが難しい事柄について、チームでの認識をそろえることができる。また、共有が容易になるだけでなく、事後の確認や振り返り、果ては検討内容や実施内容の引継ぎを容易にできるという効果もある。組織で活動していくためには、「見える化」はきわめて大切である。ストーリーでは、小浜工場に対して、移管の目的や計画の全体像をしっかりと「見える化」しなかったために趣旨がきちんと伝わらず、計画どおりに物事が進まないという状況に陥っていた。HOW思考・HOW指示にならないためにも、どのような狙いで、どのような全体観のなかで、これらの対策を実行していくのか実行計画全体を「見える化」して伝えていくことはとても重要だ。実行計画をつくる際には、まずタスク1をやって、次にタスク2、タスク3というように、どのような手順でその状態を実現するのかを具体化していく。実行計画は通常、対策を実現するために実行する「タスク」、いつまでにそのタスクをするのかという「期限」、さらにそのタスクを誰が実行するのかという「分担」が記載されている。それらを表の形にまとめたものを「ガントチャート」や「実行計画表」などと呼ぶ(図6‐3)。

では、実行計画を策定するための注意点を見ていこう。

ゴールと制約要件を明確にするまずは、対策が完了した状態であるゴールを明確にする。「いつまでに、何がどのような状態になっていることがゴールなのか」、また「それに向かってどんなリソースを使っていいのか」を確認するのである。チームで問題解決に取り組む場合、対策を実行する段階からは作業者が増えることが多い。計画を考える段階では、少人数でも検討作業を進めることはできるが、実行段階に入ると、行動すべきことが数多く出てくるので人数が増える。その際、対策の実行段階から参加した人は、なぜその対策を実行するのかがわかっていない場合も多い。そこで、対策を実行する目的は何か、そもそもの問題意識は何かを再確認し、新たに参加した人たちと共有しておく必要がある。そうすれば、しっかりと問題に効く対策を実行できるだろう。ここで、ゴールを明確にするための一つの考え方として、5W2Hを紹介しておこう。5W2Hとは、WHY・WHAT・WHEN・WHO・WHERE・HOW・HOWMUCHである(図6‐4)。それぞれ「なぜするのか?(目的)」「何をするのか?」「いつまでにやるのか?」「誰がやるのか/誰に報告するのか?」「どこでやるのか?」「どのようにやるのか?」「いくら使っていいのか?」などを確認する。

問題解決のWHERE・WHY・HOW・WHATとは異なる意味で用いられている点に注意してほしい。これらを確認することで、その対策を打つ目的や、リソースの制約、期限などを見落とすことなく、メンバーへの共有もたやすくなるだろう。タスクを分解するゴールが明確になったら、次にタスクを分解していく。タスクを分解するとは、どういうことか。簡単な例で考えてみよう。図6‐5を見てほしい。たとえば「カレーをつくる」という活動を考えた場合、「材料を買いそろえる」「下準備をする」「野菜と肉を炒める」「水を加えて煮込む」「ルウを入れる」というような手順で分解される。このように、ある大きなタスクがあったとき、それをより詳細な手順に分解すると、具体的に何をするのかが見えてくる。それをさらに詳細な手順に分解していくことも可能だ。たとえば「材料を買いそろえる」という手順は、「家にある材料をチェックする」「スーパーに行く」「不足分を買いそろえる」「家に持って帰る」というように、さらに細かく分解できる。分解すれば分解するほど、より丁寧な実行計画になる。

このタスク分解をどの程度の細かさで書くべきかというと、チームメンバーのスキルによって変わってくる。たとえば、あなたがリーダーで、タスクの分解と各タスクの担当を決める場合、チームメンバーでスキルが高い人については、比較的粗いままのタスクを渡してあげる。粗いままでも自分で考えて進めていくことができるからだ。一方、新入社員などの場合は、大きく割り振ったタスクをさらに細かくしておく。こうすることにより、より活用しやすい実行計画ができあがってくる。タスクの始まりと終わりを考えるこのようにタスクを分解していくと、誰でも手順のイメージが湧いてくると思うが、その際に注意すべきことは何だろうか?それは、各タスクについて「何がそろっていればタスクを開始できるか」と「何が完成していればタスクを終了できるか」を明確にすることである。たとえば「下準備をする」というタスクは、材料がそろっていないと始められない。よって、開始の条件は、「材料がすべて買いそろえられている」こととなる。では、「下準備をする」というタスクが終了した状態はどのような状態か?それは、カレーに使う材料すべてが、必要な分量だけ用意され、かつ調理に適した大きさになっており、かつ必要な材料については下味がついていることが「終了した状態」と定義することができる。この条件をクリアしていれば、次工程の「野菜と肉を炒める」手順に進めることになる。こうした開始条件と終了条件は、自分一人でタスクを実行しているときにはそれほど意識しなくても大丈夫だが、分担して作業をしている場合にはとても重要だ。各担当が、どういう状態のものを引き受け、どういう条件をクリアしたら次の担当に渡せばいいかを把握していると、工程間での認識の齟齬がなくなり、対策をスムーズに進行していくことができる。自分はどこまで完成させて次工程に渡せばいいのかを考えることは、きわめて重要である。タスクを分解し、開始条件を書き出しておくと、同時並行で進められるタスクが見えてくるときがある。このようなタスクが見つかった場合、同時並行でタスクを実行することで対策の実施完了までにかかる時間を短縮できる。同時並行で進められるタスクを探しだし、実行計画表に記載しておこう。マイルストーンを設定する実行計画表をうまく活用する際に必要となるマイルストーンという考え方を説明しよう。マイルストーンとは語源のとおり、「マイル」ごとに置いた「石」のように、途中途中でチェックをおこなうポイントを指す。対策を実行していくうえで、中間報告などを入れ、うまく進んでいるかどうか振り返るのがマイルストーンだ。このマイルストーンをしっかり入れておき、必要に応じてチームメンバーで進捗を共有したり、対策実行時の問題に対して解決策を考えたりすることで、チームメンバーで一体感を持ちながらタスクを片づけていくことができる。さらに、マイルストーンが適切なタイミングで設定されていれば、納期ぎりぎりになって慌てることも少なくなる。簡単な例で説明しよう。図6‐6を見てほしい。たとえば、あなたが2週間後の会議に向けて資料の制作を依頼され、3日後にマイルストーンを設定したとする。そうすると、この段階で求められる成果とそのときの進捗状況を比較し、上司や関係者にフィードバックをもらうことができる。そこで進捗が思わしくない場合には何らかの手を打って挽回することが可能になる。

マイルストーンを設定しなかった場合、期日になって初めて、成果が期待に到達していないことに気づくが、時すでに遅し、致命傷を負ってしまう。このように、マイルストーンを設定して早め早めに確認していくことが、対策を実行していくうえでは重要である。このマイルストーンの設定の仕方には、二つある。「定期タイミングで実施するやり方」と「タスクの区切りごとに実施するやり方」だ。「定期タイミング」とは、2週間ごとや1カ月ごとなど、時間で区切る考え方である。一定間隔でプロジェクトのメンバーと顔をしっかり合わせて議論できるため、タスクの進め方の細部まで共有しやすい。「タスクの区切りごと」とは、ある程度、固まったタスクが終わるタイミングでマイルストーンを置く考え方である。タスクが予定どおり進んだか、進んでいないかという結果を中心に議論が交わされることになる。この二つをうまく組み合わせることで、プロジェクトを円滑に進めていくことができる。若手や新人層がプロジェクトのメンバーに多く、自分でタスクを組み立てたり業務プロセスの改善をすることが難しい場合は、定期タイミングでマイルストーンを設定することが望ましい。定期的に状況を聞くことで、難航している状態を早めに察知し、手を打つことができる。一方、ある程度、業務を回せる人が集まっている場合は、大きなタスクのくくりで報告をあげてもらうほうが効率的だ。単に定期的に集まることで報告に時間を使うより、早くタスクを実行してもらったほうが効率的というわけだ。チームのメンバーの状況により、二つのマイルストーンをうまく使い分けてほしい。■対策の実行をモニタリングする対策実行モニタリングとは考えを共有して実行すれば、必ず問題解決できるのかといえば、そんなことはない。実行計画を策定し実行したとしても、すぐに期待どおりの成果が得られるわけではない。実行そのものに時間のかかる対策もあるし、終了しても効果が現れるまでに時間のかかる対策もある。すべての対策が最初からうまくいくともかぎらない。予想外の出来事で頓挫したり、やり直しを余儀なくされるのは日常茶飯事だろう。それでも最後まで対策をやりぬき、成果を出すにはどうすればよいか。鍵は「モニタリング」にある。対策がきちんと遂行されているかどうかを定量的に測定し、思いどおりに進んでいない場合に、すぐに軌道修正できるような体制をつくっておくこと、これを対策実行時の「モニタリング」という。モニタリングをすることで、小さな問題解決をより早く、より確実に回すことができる。ストーリーでは、高橋事業部長は、業務用ビデオテープとDVD‐Rに関する短期策はうまくいっていると認識していた。だが、本当に対策がうまくいったのか、それとも競合他社がトラブルを起こしたという外的要因がたまたま影響したのか、その詳細が把握できていなかった。戸崎から指摘されたように、本当に「値引きしすぎ」が原因なら、対策を打てば販売単価が向上しているはずだ。また「営業スキルが低い」が原因なら、対策を打てば営業スキルは向上するはずだ。販売単価は計算すればわかるし、営業スキルについても、戸崎が提案したように、理解度の確認テストを実施したり、ロールプレイで評価したりすれば、モニタリングが可能となるだろう。このように、本当に対策が実行できて、それが目論見どおり成果につながっているかどうかを確認することで小さな問題解決を回し、確実な成果につなげることが可能になるのだ。モニタリングをおこなうためには、状況を的確に把握するための指標となる「KPI」と、状況が正常か異常かを判断する論拠となる「基準値」、軌道修正のための「アクション」を、あらかじめ設計しておく。さらに、モニタリングを効率的におこなうための「運用方法」も設計しておく必要がある(図6‐7)。順に説明していこう。

KPIとKPI基準値とは対策が順調に進んでいるかどうかを確認するには、遂行状況を「定量的に」測定することが重要である。定量的に測定できないと、人によって見方が異なり、迅速な判断をしにくい。たとえば、ある店舗の来客数を見たとき、「今月の来客数は、昨年度の同時期に比べて少し改善している」という状況を見て、「うまくいっている」と思う人もいれば、「このままではまずい」と思う人もいるだろう。当然、これでは状況認識をあわせることができない。そのためには、まず「少し」とはどのくらいなのかを明らかにする必要がある。たとえば「今月の来客数は、昨年度の同時期に比べて、5%改善している」と数値化して示す。こうすれば、どの程度増えているかが共有できる。しかし、それでもまだ「うまくいっている」と思う人もいれば、「このままではまずい」と思う人もいるだろう。そこで、「来客数」という指標に対して「昨年度比10%増」という基準値を設定し、判断の閾値とする。そうすれば、基準値と比較することで全員がすぐに「うまくいっていない」「何か次の対策を講じよう」と判断できる。この、状況を把握するための指標を「KPI(重要業績評価指標)」、定められた具体的な閾値を「KPI基準値」と呼び、いずれも対策を実行するにあたっては事前に設定しておくことが重要となる。*KPI:KeyPerformanceIndexKPIの数値を見ることで「対策がうまくいっているのか」、最終的には「問題の解決につながっているのか」を判断できる。図6‐8を見てほしい。これが、KPIと、問題解決の目的・目標の関係である。KPIには、より「対策の実施状況」に近いものと、最終的な「結果」に近いものがある。

最も「対策」に近いものを「活動KPI」と呼んでいる。これは、HOWで検討した対策を「実施したかどうか」を見る指標だ。そして、その効果を見るための指標が「効果KPI」。さらに、その結果を見るための「結果KPI」とつづき、最終的には問題解決の目的そのものが達成されたかどうかを見る「KGI(重要目的達成指標)」へとつながっている。**KGI:KeyGoalIndicator対策が十分に実行されれば「活動KPI」の数値が基準を満たし、その活動が期待する効果につながれば「効果KPI」の数値として現れ、さらにKGIに変化が出るだろう。なお、どの指標がどのKPIなのかを厳密に分類することはあまり重要ではない。活動に近いKPIと結果に近いKPIがあることを知り、それらが問題解決の最終目的であるKGIに必ずつながっていることをつねに意識しよう。KPIの設定方法問題解決の課題設定では「目的(何をどうしたいのか)」と「目標(いつまでにどの程度、達成するのか)」を定めた。発生型の問題解決でも同様に、WHEREで特定された問題点に対して、「目的」と「目標」を定めることを忘れないようにしたい。問題解決に限ったことではないが、具体的な「目標」を事前に定めておかないと、対策を打ち終わったあとに、その効果を確認して振り返ることができなくなってしまう。KGIは、問題解決の目的・目標を達成したか否かを定量的に示すものである。それに対して、KPIは、対策の実行の度合い、問題解決の進捗の度合いを定量的に示すものである。KGI達成に向けて対策が適切に実施されているかどうかを中間的に計測するのがKPIといえる。では、KPIは具体的にどのような指標を設定すればよいか。答えは、これまでのWHERE、WHY、HOWの検討のなかにある。すなわち次のようになる。活動KPIの設定対象HOWで選んだ「対策」効果KPIの設定対象WHYの因果の構造図のなかから選び出した「手を打つべき原因」結果KPIの設定対象「手を打つべき原因」からWHEREで特定した「問題点」へとつながる「原因」ここで、図6‐9を見てほしい。これは前にとりあげた事例で、「営業利益が低下しているが、国内向けの新製品が売れていないところに問題がある」というWHEREに対し、「営業担当の提案スキルが低く、新製品の差別化ポイントを理解していないため、顧客に訴求できていない」という原因に対策を打ったものである。手を打つ原因として「勉強会の開催回数が少ない」と「訪問候補先がリスト化されていない」の二つを選んだとしよう。

まずは、対策をおこなったかどうかを活動KPIで見る。その結果、「手を打つべき原因」に対して効果が現れたのかどうかを効果KPIで見る。深いところにある原因が解消されると、当然その上にある原因も変わっていくはずだ。そしてそのさらに上にある原因にも影響が出てくる。これら各原因に対応する結果KPIを順に確認することで、原因がどこまで解消されているかがわかる。もちろん、特定した問題点に対する目的であるKGIにまで変化が出ていれば、問題解決アプローチとしては大成功だ。しかし、たとえKGIまで届かなくても、因果の構造図の途中にある結果KPIまで改善されていたら、その途中部分にある他の原因について同様の問題解決をおこなうことで、最終的なKGI達成に近づくことができる。逆に、対策をおこなっているのに、因果の構造図にある結果KPIが期待どおりに向上していない場合は、問題解決の手順がどこかおかしいということになる。その場合は、もう一度、問題解決の流れにそって検討してみよう。KPIツリーを描くこのように、対策から因果の構造図をさかのぼって取り出した複数のKPIは、その関係をツリー構造で整理することができる。そうすると、流れがよく見えるようになり、あとでどのKPIを管理すべきか選択しやすくなる。図6‐10は、先ほどのKPIをツリー構造で整理したものである。

まず、最終的な到達点として、もともとの問題であった「国内向け新製品の営業利益」をKGIとしてツリーを書きはじめる(左端)。その右側には因果の構造図で設定したKPIとして「コンペへの参加件数」「コンペでの勝率」「1受注の平均売上高」を置いた。コンペへの参加件数は、つまるところ「訪問社数」に起因しており、また「コンペでの勝率」「1受注の平均売上高」は提案の善し悪しに起因するため、「勉強会への出席回数」が関係してくる。また勉強会に出席するなら、そもそも開催されていなければならないため「勉強会の開催回数」も関係がある。このようにツリー構造で整理したもののなかから、情報の取りやすさや管理のしやすさなどの観点で「これをKPIとして設定しよう」というものを選んでいくこととなる。ツリーを描くのはあくまで整理のためなので、計算やロジックが厳密に成り立っている必要はない。まずはこれまでの検討過程を振り返り、管理指標として選ぶべきKPIの候補を洗い出そう。KPIセットを選定するKPIの候補が洗い出せたら、次は、実際に数値を取得して、運用するKPIセットを選び出す。ツリーで洗い出したKPI候補をすべて実際に管理するのは手間やコストもかかるため、現実的には難しい。なかにはデータを取得するのが困難なものも含まれるだろう。そのため、候補のなかから重要なものをいくつか選ぶことになる。選ぶ際の視点としては、以下の要件をできるだけ多く満たすことが望ましい。●「活動KPI」「効果KPI」「結果KPI」からまんべんなく選定し、対策とKGIのつながりの全体を押さえたものであること●KGIよりも先行して値の変化が起きるKPIが含まれていること●管理するKPIが多すぎないこと●実際にデータを取得できること●定量化しやすく、また基準値が設定しやすいこと●基準値を外れた場合のアクションが明確に定まるものなお、KPIは、あくまでモニタリングのツールである。KPIを管理することが問題の解決につながるわけではない。最初から完璧なKPIセットを目指して時間をかけるより、最低限の指標取得にとどめ、さっさと対策を実行したほうがよい。KPIセット自体も、運用しながら改善していけばよいのである。KPI基準値を設定する管理すべきKPIセットが決まったら、それぞれのKPIに対して具体的、定量的に基準値を設定する。その際に考慮すべき観点は二つある。「目的の達成(目的に効果があるかどうか)」と「実現可能性(実現できるかどうか)」である。「目的の達成」とは、「全KPIが基準値を満たしていれば、KGIの基準値が達成されるか?」という観点である。「KPIが基準値を満たしているので特にアクションをとらずにいたら、最終期限になってもKGIは達成されていなかった」では困るのである。KPI基準値は、それを満たせば最終的にKGI基準値を満たせるように設定しなければならない。次に「実現可能性」とは、いくらKPI基準値を満たせるように設定しろといっても、実際に達成することが不可能であれば、そのKPI基準値は意味をなさない。よって、実現可能性を睨みつつ設定することとなる。では、実現可能性を考慮した結果、全KPIが基準値を満たしたが、KGIの目標値が達成されなかった場合はどうすればよいか。その場合はHOWに戻って、より効果の見込めそうな対策を選びなおすか、実施する対策を増やせばよい。一つの対策でKGIにたどり着けないのであれば、複数の対策をおこなえばよい。それでも足りないのであれば、WHYに戻って、手を打つべき原因を増やせばよい。一度にすべてをおこなうことは難しいかもしれないが、一つひとつ解決することで、最終的な問題解決に一歩一歩近づいていく。具体的・定量的・挑戦的に設定するKPI基準値を設定する際には「具体的・定量的・挑戦的」に設定することが大切である。まず「具体的」であるが、基準値が抽象的だと、達成したのかしていないのかわかりにくい。たとえば「新規訪問数」というKPIに対して「訪問数を100件にする」という基準値を設定したとしよう。これだと抽象的で、新規に訪問さえすれば、購入見込みがゼロの相手でもよいことになってしまう。より具体的に「ターゲット企業への訪問数100件」というような書き方が望ましい。「定量的」も同様だ。たとえば「より多くのターゲット企業を訪問する」というような書き方だと、人によって「多い」の解釈がばらついてしまい、あとで「できた・できていない」という水掛け論になりかねない。「挑戦的」に基準値を設定する理由は、「うまくいかなかったときの保険」だと考えるとよい。たとえば「ターゲット企業への訪問数100件」というKPIを設定したうえで、これを全員で分担して実行したとしよう。もしかすると、誰かが何らかの理由で訪問できなくなるかもしれないし、思ったように成約率が上がらないかもしれない。であれば少しだけ多めに、たとえば「ターゲット企業への訪問数120件」といった具合に「挑戦的」に設定しておく考え方である。ただし、手が届く程度にとどめておくことが大切だ。あまりに挑戦的すぎると無謀な基準値となってしまうので気をつけよう。どの程度「挑戦的」にすればよいかは会社や組織によって経験値・感覚値があるので、それに従うとよい。たとえば、トヨタ自動車で話をしていた際に、基準値を「50%増し」に設定したところ「それは無謀だ」と言われ、逆に「10%増し」では「挑戦的ではなさすぎる」と言われた。理由はよくわからないが、「トヨタ的な感覚としては、30%増しくらいが挑戦的」というのがそのときの結論であった。アクションを設計する実行計画表が完成し、KPIの設計が終わったら、具体的な活動を実行することになる。ただ、実行に移すまえに、もう一つ検討しておきたいものがある。KPIが基準を満たせなかったときの「アクション」である。KPIが基準値を満たせないのは、対策がうまく実行できていないからだ。それには必ず理由があるはずである。その原因をさぐり、次の手を打つためのアクションを先に検討しておく。たとえば、新規顧客からの売上低迷に悩んでいる会社で、営業担当者ごとに「新規顧客売上高」というKPIに対し、「前年同期の+20%」という基準値を設

定したとする。この基準値を下回っている営業担当者に対するアクションとして、「上司が個別面談をおこない、コンペ状況のヒアリングや提案書の個別レビューをおこなう」といった内容を事前に、具体的に決めておくのである。もちろんアクションの内容は、対策を実行に移すなかで変更してもかまわない。あるいは、対策を実行しながら検討することもあるだろう。しかし、事前に、ある程度決めておくことで、対策につまずいたときに時間を無駄にしたり慌てたりすることなく、冷静に次の手を打つことができる。このように、対策が実行完了できるように随時小さな対策を打つことが大切だ。また、何か解決不能な問題が起きた場合は、HOWのツリーに立ち返り、別の対策案を実行してもよい。賢明な皆さんはお気づきだと思うが、「KPIが基準値を外れたら、アクションを打つ」ことも「問題解決」の一つなのだ。KPIや基準値、アクションをあらかじめ決定しておくことは、問題解決のWHERE・WHY・HOWを事前におこなっておくことともいえよう。モニタリングの運用を設計する以上で、対策のモニタリングに必要な、KPI、基準値、アクションについて説明した。最後にやるべきことは、KPIの値を監視し、必要に応じたアクションをおこなう業務サイクルを「仕組み」に落とし運用することである。先にも述べたが、KPIを管理すること自体は問題の解決にはつながらない。KPIの管理自体が目的化してしまったり、手間がかかりすぎてしまっては意味がないのである。そのため、いかに効率よくモニタリングをおこなうかが重要になってくる。モニタリングの運用で決めておくべき業務は、大きく二つある。「KPIの値の監視」と「必要に応じたアクション」である。「KPIの値の監視」については、「データの計測と集計は、誰がどのタイミングでおこなうか」「集計結果の報告は、誰から誰へ、どのタイミングでおこなうか」といったデータの取得から処理、報告までの一連の監視業務の流れを、業務フローで整理しておく。担当者も決めて、忘れず業務付与しておこう。「必要に応じたアクション」については、「KPIごとに、どの程度の異常値なら現場レベルで〈対処〉するのか」「どの程度の異常値なら管理職レベルで〈対策〉を立てるのか」をあらかじめ決めておき、業務フローに盛り込んでおく。異常値が出るたびに、誰がどう対応するのかを議論していたのでは時間がもったいない。KPI、基準値、アクション、そしてモニタリングの仕組みについては、対策を実行に移すまえに、あらかじめ検討しておくことが望ましい。そして、「どのタイミングでKPIをモニタリングしていくのか」「手を打つのか」「どのタイミングでKPIそのものを見直していくのか」などもあわせて実行計画に盛り込んでおこう。また、実行計画に載せるべきは、対策そのもののタスクだけでは不十分である。対策をモニタリングするためのタスクもいっしょに記載し、関係者全員で共有しておこう。とはいえ、始めからモニタリングを万全にやることを重視しすぎて検討に時間をかけると、対策そのものを実行に移せなくなってしまう。実際のビジネスでは、KPIをまったく設定しないで、何か問題が発生するたびに後手後手の対応を迫られたり、逆にKPIのモニタリングを厳密化しすぎて数字にがんじがらめになり、非効率になったりといったことがよく起こる。それを防ぐためにも、まずは本当に必要なKPIのモニタリングから始め、徐々に精度を高めていくことが安定的な運用につながることを覚えておいてほしい。

STORY7結果を評価し、定着化させる人たちなぜ、話が変わったのか?2カ月が過ぎ、京都の町には底冷えする厳しい冬が訪れていた。社内は次年度の部門中期計画の策定で慌ただしさを増していた。毎年、各部門から提出された部門中期計画を経営企画部が取りまとめ、経営陣の方針と突きあわせて次年度の中期経営計画を策定している。「マルチメディア事業部の立て直し」というミッションについては、前回の宮里社長への報告ですでに一区切りついていた。とはいえ、会社にとって重要なテーマであるだけに、戸崎はその後もマルチメディア事業部の状況に目を光らせていた。そんな折り、マルチメディア事業部から次年度の部門中期計画が提出されてきた。さっそく戸崎は内容に目を通したが、ある箇所で自分の目を疑った。中期計画は次のようになっていたのだ。〈マルチメディア事業部部門中期計画〉①DVD‐R事業、業務用ビデオテープ事業への注力②ブルーレイディスクへの参入と工場再編③カセットテープ・FDD・MO事業のコストダウン推進①と②は、これまでプロジェクトで検討してきたとおりだが、③はこれまでの検討とまったく違う話をしている。カセットテープ・FDD・MO事業は、売却の方向で動いていたはずだ。なぜ〈コストダウン推進〉になってしまったのか。戸崎はすぐにマルチメディア事業部に赴いた。高橋事業部長のドアをノックしてあけると、書類から顔をあげた高橋が手招きした。「おお、珍しいな……その節は世話になったな」と高橋は上機嫌だった。「突然すみません。実は部門中期計画の件で少し確認したいことがありまして。三つ目の項目に〈カセットテープ・FDD・MO事業のコストダウン推進〉と書いてあるのですが、なぜプロジェクトでの検討結果と異なる内容になったのか、経緯を教えていただけますか」「ああ……その件か」と言いながら、高橋は受話器に手を伸ばし、「ちょっと説明を要するので、安達君に来てもらう」と内線番号を押した。仕組みとして定着させる安達が席につくと、戸崎はまず事業部の概況について高橋に質問した。「先日もお聞きしましたが、実際に売上高は上がっているのでしょうか」「その後も順調さ」高橋が答えた。「君のアドバイスを受け、そのあとにKPIとして設定した販売単価についても、営業担当のロールプレイでの評価についても、着実に上がっている」「すばらしいですね」戸崎は笑顔で応じ、付け加えた。「現在は、どうやって販売単価を把握されているんでしょう?」それには安達が答えた。「毎週、私のほうで集計して、高橋事業部長に提出しています」「なるほど」と戸崎は言った。「その業務は、事業部の定常業務として、誰か担当をつけて任せることはできないんでしょうか?」「もちろん、できると思います」安達が答えた。「私も、そろそろ今月くらいから担当に任せようと思っていたところでした」「それはいいですね。たぶん、平均の販売単価という情報は、事業部の状況を知るうえで非常に重要だと思います。ですから、継続的にモニタリングできるよう、きちんと仕組みに落とし込んでおいたほうがよいでしょう」戸崎の意見に、安達がうなずいた。標準化し、横展する戸崎は、次に、DVD‐R事業、業務用ビデオテープ事業について質問をつづけた。「ところで、これまでの分析だと、業務用ビデオテープは値引きをしすぎていて、その原因は、営業担当のスキル不足だったということでした。他の製品群で、似たような状況は起きていませんか」「他も皆、似たり寄ったりさ」高橋が答えた。「業務用ビデオテープは顕著だったが、DVD‐Rにしても家庭用ビデオテープにしても、基本的にスキルがない営業担当は値引きに頼って売ってくるからな」安達がそれに付け加えた。「そうですね、事業部長がおっしゃるとおり、営業担当の教育は、事業部のなかでも大きなテーマなんです」そこで戸崎は提案してみた。「今回、業務用ビデオテープでは、営業担当の教育がうまくいったみたいですね。同じやり方で、他の営業担当の教育をおこなうことは可能でしょうか」「可能だと思います」安達が即答した。「それについても、事業部でそろそろ取り組もうという話をしていたところでした」「なるほど。これは問題解決の最後のステップである〈標準化・横展〉にあたる考え方ですが、今回うまく成果が出た対策については、誰がやっても同じ結果が出せるように、仕組みに落とし込んで標準化しておくことが大切ですね。また、同じ組織内で似たような問題を抱える別のテーマに対して横展しておくことも重要かと思います。こうした考え方を、四つ目の視点として、部門中期計画に織り込むというのはどうでしょう。今日が一次締切ですが、来週末が二次締切になるので、それまでに追記していただければ間に合いますが」戸崎の提案に、高橋は乗り気になった。「たしかに。強い組織をつくるには、そういう考え方は重要だな。よし、事業部で検討したうえで織り込む方向で考えてみよう」HOW指示をなくし、やる気になった現場さらに戸崎は、ブルーレイディスクへの参入と工場再編についての進捗を確認してみた。「先日、プロジェクトチームで話し合った結果をもとに」安達が説明を始めた。「あらためて、小浜工場に趣旨をきちんと説明しましたが、ようやく乗り気にな

って協力してくれることになりました。結果、ラインの集約や設備の共通化が進んでいます」「戸崎君の指摘どおりだったよ」高橋が付け加えた。「やはり説明不足が原因で、大きな誤解が生じていたようだ。HOW指示とならないように、我々が検討した経緯や、対策の全体像を伝え、タスクの詳細やマイルストーンなどを示したが、連中も理解して、やる気になってくれた」「よかったですね」戸崎は言った。「現時点で、大きな障壁もなく順調に進んでいるようなら、この対策は次年度も継続していけばいいですね」「そうだな」高橋は異論なしを示すかのようにうなずいた。そこでドアをノックする音がして、コーヒーをお盆にのせたスタッフが入ってきて、コーヒーブレイクとなった。苦しまぎれのHOW思考一段落したところで、戸崎はいよいよ本題に切り込んだ。「さて、気になっているのは、部門中期計画の三つ目の項目、〈カセットテープ・FDD・MO事業のコストダウン推進〉なんですが。プロジェクトでの検討結果では事業売却だったはずです。それが、どんな経緯でこの結論となってしまったのでしょう?」「それは……」高橋は言いよどんだが、重い口をゆっくりと開いた。「まあ、つまりだな、要するに、事業売却はギブアップということだよ。あちこちの企業に声をかけて交渉を進めたんだが、消えゆくカセットテープやFDD・MOなどの事業をこのタイミングで買い取ってくれるような会社が見つからない。競合他社が撤退したことで、バタム工場もフル操業になってるだろ。だったら、もう少し踏ん張って、コストダウンすれば戦えるんじゃないかという話になったわけだ」「なるほど……」戸崎は頭をめぐらせた。「たしかに、経営環境が変化しているので、対策が変わっても不思議ではありません。ただ気になるのは、これ以上コストダウンできるのかということです。仮にできたとして、どれだけの売価で売れるのか。さらに、この事業がいつまで継続できるのかといった点です。それらも踏まえて検討された結果でしょうか」「いや……」安達がうつむいて言った。「時間もなくて、そこまでは検討していません」戸崎はさらに突っ込んでみた。「もうひとつ気になるのは、事業売却の交渉がどこまでしっかりとおこなわれたかという点です。日系企業だけでなく海外系にも声をかけたのか。あるいは、事業そのものの売却ではなく、設備だけの売却とか知的財産だけの売却といったオプションを検討したのか。さらに、売却だけでなくジョイントベンチャーとして切り出して出資するなど、資本形態に関するオプションなども検討したのかということです」「いや、そこまでは検討してない。日系企業を中心に、数社に声をかけた程度だ」高橋が答えた。「なるほど……」しばし考えてから戸崎はきっぱりと言った。「申し上げにくいのですが、これまでの対策の実行状況や、経営環境の変化で生じた新たな論点についてしっかりと再検討をしないままに次の対策を掲げると、どうしてもHOW思考に陥ってしまいます。問題解決はPDCAですから、新しい計画を立てたり、新しい対策を実行したりするまえには必ず、これまでの成果や取り組みを再度しっかりとチェックする必要があるのではないでしょうか」「そうだな、そのとおりだ。うまくいかないので対策を投げ出して、苦しまぎれに次の対策に飛びつくような思考になっていたかもしれない」高橋も安達も、神妙な顔でうなずいた。振り返り、あぶりだす戸崎はそこで救いの手を差しのべた。「事業売却については、経営企画部が引き取ったほうがいいかもしれませんね。そのためにも、経緯を詳しく振り返りながら、状況を教えていただけますか。振り返りをおこなう際には、まず結果を振り返り、次に取り組み過程を振り返ります(図7‐1)。今回、事業売却という対策が出た発端は、DVD‐R事業で売上が伸びていないことでした。そもそも、DVD‐R事業で新しい商売がどんどん取れていれば、カセットテープ事業を売却する必要もなかったかもしれませんが、そのあたりはどうなんでしょう?」

高橋と安達は顔を見合わせたが、すぐに高橋が答えた。「いや、やっぱり状況は変わってないな。営業担当は担当製品数が多すぎて客先に十分な提案ができてないし、新しい商売は相変わらず失注している状況がつづいている。数字も伸びておらず、結果にはまったく結びついていない」「そうですか。結果が出ていないのであれば、取り組み過程を振り返る必要がありますね」戸崎は言った。「では、まず実行計画や実行の状況を確認しましょう。事業売却に向けた交渉はきちんと計画どおりに進んだのでしょうか」「進んだと思っています」安達が答えた。「では実行計画そのものは、これでよかったのでしょうか?」「そう言われると……」高橋が首をかしげた。「実行計画では日系企業を中心に3社ほどリストアップして訪問計画を立てたが、海外企業なども含めて、もっと広くあたってみる必要があったかもしれん」「なるほど、そうかもしれませんね」戸崎はあいづちを打ちながらつづけた。「対策について振り返ると、複数の細かな打ち手をまとめて〈事業売却〉としていますが、対策はこれで正しかったのでしょうか?」「今となっては微妙だな……事業売却ではなく、事業撤退のほうを考えるべきだったかもしれん」高橋が言った。「そうですか。では、もう少しさかのぼって、原因を検討した際、営業担当が提案できていないとか、営業担当の扱う製品数が多すぎるというものがありました。この原因は正しいですか?」「営業担当の提案力には、まだまだ向上の余地があると思います」安達が答えた。「なるほど。状況はだいたいわかりました。WHERE・WHY・HOW・実行計画、そして実行そのものと、振り返りをしてみると、2点ほど出てきました。実行計画で対象先のリストアップに少し不足があったかもしれない点と、HOWが事業売却ではなくて事業撤退でもよかったのではないかという点の二つです。経営企画部に戻って大谷部長とも相談してみますが、実行計画がよくなかったのだとすれば、経営企画部でいったん引き取って実行計画を練り直したうえで、再度、事業売却にチャレンジしてみたいと思います。それでも難しい場合には、事業売却という対策は諦めて、事業撤退という対策に切り替えましょう。その際にはまた、マルチメディア事業部に対応していただくことになりますが……。ですから〈カセットテープ・FDD・MO事業のコストダウン推進〉という方針は、いったん部門中期計画から除外したほうがよいかと思います」実行計画を練り直す経営企画部に戻った戸崎は、大谷部長にマルチメディア事業部とのやり取りを報告した。「このような経緯で、プロジェクトの検討結果とは異なる〈カセットテープ・FDD・MO事業のコストダウン推進〉という方針を掲げていたようです。それはHOW思考であり、PDCAになっていないことは理解してもらいました。しかし、結局のところ、事業部サイドでは事業売却には慣れていないこともあって、実行計画が正しく策定できていなかったようです。いったん経営企画部で引き取ったうえで、本当に事業売却に可能性はないのか、実行計画をあらためて詰め直してから事業売却に再チャレンジしてみてはどうかと打診しました。私の一存で、マルチメディア事業部サイドで検討していた事業売却を経営企画部で引き取るなどと提案してしまい、申しわけありません」恐縮しながら話す戸崎を尻目に、大谷はいつもながらの穏やかな口調で答えた。「それでいいんじゃないでしょうか。問題解決の振り返りのプロセスを正しく踏んでいるでしょうし、会社にとっては、その挽回策が最善だと思いますよ。事業売却は経営企画部で引き取って、次年度のテーマとして掲げて取り組みましょう。そのかわり、戸崎君には引きつづき担当してもらいますからね」「もちろん、全力であたります」戸崎は元気よく答えた。宮里社長からのねぎらい年度末の社長ヒアリングで、経営企画部が次年度の部門中期計画を説明した際、マルチメディア事業部の事業売却を経営企画部で引き取る計画を宮里社長に伝えた。宮里は満足した表情で、大谷と戸崎にねぎらいの言葉をかけた。「君たちにマルチメディア事業部の立て直しを頼んでから、もう1年になるか……。二人とも、マルチメディア事業部のメンバーをうまく巻き込み、状況をよく整理して、彼らによく考えさせてくれたと思う。事業部の業績も少しずつ回復してきているし、高橋君も今までにはなかった視点で事業部の方針を立てられるようになったんとちゃうかな。問題を解決するのは難儀なことや。解決しても解決しても、新たな問題が次々と出てきて、ひきもきらない。おまけに、問題を解決する社員、チーム、組織のスキルを育てて定着させていくことも、同じくらい大変なことや。君らは、ほんまによう頑張ってくれた。おおきに」そう言うと、宮里は豪快に笑った。早朝、さわやかに晴れわたる上賀茂の空を見ながら、戸崎は1年まえを思い出していた。あのころは、売上の下落に歯止めがかからず、原因もまったく見えていなかった。さわやかな青空とは裏腹に沈み込んでいた戸崎だったが、今は違う。1年ちかくマルチメディア事業部と検討を重ねてきて、PDCAを一度回し、二巡目の検討で挽回策を引きだした戸崎の心は、やる気と責任感に満ちあふれていた。

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