第6章……ミスを99%潰す、超アナログの情報管理
【Q34】マグネットを使ったチェック表、何が便利?
次の写真のチェック表、どこがすごいか分かるでしょうか。

ルートセールスを手掛ける、ダスキン事業の法人部門で使っています。武蔵野が業務改善の取り組みを始めた時期の歴史的な作品です。
この表は、左端に8人の営業スタッフの名前を並べ、それぞれが、お客様から受け取ったレンタル料の入金を済ませたかどうかを、黄色のマグネットを使ってチェックしています。基本的にはミスを防止する仕組みです。
始業時は、「入金してない~」と一番上に表示された列に、黄色のマグネットが8つ並びます。
そして営業スタッフが外回りを終えて事務所に戻り、入金を済ませると、マグネットを左側の「入金しました~」の列に移します。
だから、終業時には8つのマグネットが左側に縦一列に並ぶことになります。
問題は、次のステップです。翌朝には、8つのマグネットは再び、「入金してない~」という列に移っていなければなりません。
こういうとき、ほとんどの会社は、マグネットを1つずつ移します。移動回数は、合計8回です。
我が社の仕組みでは、マグネットの移動1回で済ませます。チェック表の上部にある「入金してない~」と「入金しました~」の項目もまた、マグネットです。
2つのマグネットを入れ替えれば、それでおしまい。
次ページの表も同じ仕組みです。

些細なことと、侮ってはいけません。
こういう小さな手間を徹底して潰してきたから、赤字続きの零細企業だった武蔵野が、30年後の今は高収益企業です。
8個のマグネットを1個ずつ移動する仕事を、最初は「面倒臭い」とちらりと感じても、3回繰り返せば、社員は慣れて忘れます。
その手間を省く手段を考案するなど、まずできません。相当にレベルが高いことです。ある会社に経営指導に行ったときのことです。
本社の1階が事務所で、2階が倉庫でした。1階で、事務職の女性社員に尋ねました。
「朝、出勤してから退勤するまでに何回くらい、事務所の外に出ますか?」「せいぜい1回か2回でしょうか」彼女はそう答えました。
私は、さらに尋ねました。
「この事務所には毎日、お客様がいらっしゃいますか」「ほとんど来ません」そう彼女が答える間にも、2階は頻繁に人が出入りしています。
なんと愚かなことでしょう。それなら1階を倉庫にして、2階を事務所にすればいい。
商品の入出荷で階段を上り下りするのは、健康にはいいですが、儲ける観点で考えれば、バカバカしいことこのうえありません。
しかし、この会社を笑い飛ばせる資格のある人など、ほとんどいません。こういう類のムダが放置されている会社は、数限りなくあります。人間は本質的に、だらだらと効率悪く働くのが好きです。
そして多くの社長は、そんな社員の姿を見て「頑張っている」と、勘違いします。社員が面倒臭いことをやるのが好きなら、社長も面倒臭いことをやらせるのが好き。これでは儲かるはずがありません。
そういう意味で、先ほどの写真は試金石です。この写真を一目見て、移動の手間を8分の1にする工夫に気づけるか。そもそも社長が気づけるか。そして社員はどうか。現場の底力が問われます。
【A】移動の手間が8分の1に。大幅な効率アップ

【Q35】大事な情報はアナログで共有。
それはなぜ?次の写真は、仕事の「見える化」の実例です。
同じ職場で働くスタッフのスケジュールを、オフィスの壁に大きく貼り出し、情報共有しています。

この部署が手掛けているのは、飲食店などのお客様に、ゴキブリなどの害虫獣駆除のサービスを提供する「ターミニックス事業」です。
スタッフは、お客様の店舗を定期的に訪問します。
青や白のマグネットを使ったスケジュール表から、3人のスタッフが各自、何月何日の何時に、どのお客様を訪問してサービスを提供するかが、一覧できます。
青や白のマグネットに、お客様の店名が書かれています。片面が青で、裏が白です。サービスを提供する前は青い面を表にして、終わると、裏返して白にします。
だから、担当者が予定通りに仕事を進めているかが一目瞭然。ヌケモレを防げます。
マグネットから分かる情報は、それだけではありません。先ほどの下の写真を見てください。
お客様の店舗の所在地と、1回当たりのサービス単価が書かれていて、請求のミスなどを防いでいます。
さらに、オレンジや赤、白など、様々な色の丸いシールが貼られているのに、気づかれたでしょうか。
これらは色ごとに意味があり、「お客様からカギを預かっている」「このお客様は、特に丁寧にあいさつしないとダメ」といった具合です。
こうしておけば、新人スタッフも初日から、何に注意したらいいかが明確に分かります。
礼儀にうるさいお客様に、新人がおざなりな挨拶でクレームを招くといった事態が防げます。
上司がこと細かに教えなくても仕事のコツが分かり、指導の手間が省け、新人のストレスも軽減できます。
最近では、このような職場での情報共有に、グループウェアの「サイボウズ」をはじめ、IT(情報技術)ツールを導入する企業も増えていて、我が社も積極的に活用しています。
しかし、本当に大事な情報は、絶対にアナログで共有します。
なぜなら、ITツールを活用したデジタル情報の使いこなしは、誰にでもできないからです。
自分から「サイボウズ」にアクセスして、明日の仕事のスケジュールを確認する。
こういう働き方は、ITが使いこなせるだけでは不十分で、高度な自己管理能力が求められます。
一方、先ほどの写真のように、壁に大きく掲示されれば、誰だって嫌でも目に入ります。
自己管理能力が低くても、必ず、自分のスケジュールを確認し、それに従って行動する。こんな話をすると、次のような勘違いをする人が出てきます。
「うちの会社(職場)は、自己管理能力が高い人ばかりだから大丈夫」「自己管理能力が低い人だけ、アナログで管理すればいい」「そもそも自己管理能力を高める教育をすることが重要ではないか」
このような考えが間違っているのは、なぜか。まず、会社の仕組みは、基本的に能力が低い人を基準に設計すべきです。
今いる社員が高い能力を持っていても、です。会社は絶えず、新しい人材を入れます。ITで管理をしている職場に、ITスキルが低い新人が入ってきたら、どうなるか。
仕事を教えられません。能力が低い新人でも、最初からある程度の仕事をしてもらわなくては、会社は儲かりません。
だから、最初から必要なことは、絶対にアナログで情報共有する。そして、アナログで情報共有する仕組みをつくったら、全員が同じ仕組みを使う。
自己管理能力が高い社員に例外を認めたら、仕組みの運用が面倒です。そもそも、自己管理能力は、一朝一夕に身につきません。
個人差も大きく、頑張っても、一生、身につかない人もいます。そういう人が会社にとって不要か。そんなことはありません。
自己管理能力は低いが、コミュニケーション能力は非常に高い。そういう人には、弱みを潰すより、強みであるコミュニケーション能力の発揮に力を入れてもらったほうが、会社のメリットは大きいです。
会社の仕組みは、能力が低い人でも成果を出せるようにつくる。
多くの経営者や幹部は、「社員全員が、仕事ができる人」の前提で、仕組みをつくります。ここに落とし穴があります。
「仕事ができる人」を前提とした仕組みに、「仕事ができない人」を置くと、まったく身動きが取れない。
しかし、「仕事ができない人」を前提とした仕組みのなかに「仕事ができる人」を置いても、ほとんど問題は起きません。
そして、「仕事ができない人」を前提とした仕組みは、超アナログ。壁に色とりどりのマグネットを貼ったスケジュール表は、その一例です。
【A】「能力の低い人」に合わせたら、アナログになる


【Q36】お客様の声をアナログで共有。
それはなぜ?お客様の声に真摯に耳を傾け、お客様の様子を注意深く観察する。その重要性は、どんなに強調しても、強調しすぎることはないでしょう。
最近は、お客様とのコミュニケーションもITを活用する場面が増えましたが、お客様満足を高めるには、アナログのコミュニケーションが欠かせません。
人間が深い喜びを感じるのは、他人に手間をかけてもらったときです。
「ITで効率化」は、業務連絡や経費精算などのバックヤード。そこで浮いた時間を、お客様と直に接するフロントエンドに回す。それが原則です。
次の写真は、家庭向けの清掃サービスを手掛ける「サービスマスター(SM)事業」の部署が、お客様の声を集めるために考えたアナログのツイッターです。
スタッフが現場でお客様から聞いた声をフセンに書き、貼り出します。誰が一番多く集めているかが一目瞭然。
クレームや褒め言葉などに分けてフセンの色を変えて、どんな声が多いかもパッと見て分かります。

このようなお客様の声は、デジタルでも共有できる。
では、この部署はなぜ、アナログなフセンで共有しているのか。まず、みんなに見てほしい大事な情報です。それに加えて、そもそもアナログで入った情報です。
メール発注など、デジタルで届いた情報のプリントアウトは、余計な手間がかかるだけでムダです。社内は「デジタルのまま流通、処理」が効率的です。
しかし、口頭で受けたクレームの情報をデジタルに変換すると、意外に手間がかかります。
会話の流れを思い出して文章化し、キーボードで入力。これは面倒です。しかも、手間がかかるわりに、うまく書けません。
ほとんどの人は、アナログの情報が持つリアリティーを、デジタルで再現するだけの文章力を持ちません。
アナログで入った情報は、アナログで処理したほうがいい。クレームの重大性は、口頭の報告が早く、正確に伝わります。
そこで私は、ボイスメールを頻繁に使います。サービスマスターのスタッフを通じて、お客様の声が届くのは、ご自宅で清掃したとき。
まさにアナログな現場です。お客様と会話しながらiPadにメモを残すなら効率的ですが、さすがに失礼です。
許されるのは、せいぜいフセンにさっとメモする程度です。ご自宅を後にしたら、「デジタルに入力」より「アナログに手書き」が早い。
デジタルな手法を使うと、作文に時間がかかりがちです。部下を褒めたり、叱ったりも同じです。
部下の頑張っている姿、サボっている姿は、アナログの情報です。それに対する自分の気持ちを、デジタルで伝えるのは、作家並みの文章力を持たないかぎりはムリです。
だから、口頭で返す。手書きのハガキを出す。手間ひまをかけた事実で、思いの深さが伝わるのも、アナログな手法の良さです。
【A】アナログな情報を、デジタルに変換するのは大変



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