MENU

第6章 鼻づまりに悩む患者さんのためのQ&A

第 6章 鼻づまりに悩む患者さんのための Q& A Q 1青っぱなを垂らした子供を見なくなった理由/ Q2年を取ると、鼻づまりが起こりやすくなるのはなぜ?/ Q 3鼻水が長く続いているときは「耳鼻咽喉科」に行ったほうがよいか?/ Q 4鼻づまりがつらいとき、市販薬を使い続けていいか?/ Q 5抗生剤の使いすぎの注意点とは?/ Q 6なかなか治らない後鼻漏の対処法/ Q 7メガネをかけていると、鼻づまりになりやすいのは本当か?/ Q 8孫の鼻づまりは病院で診てもらったほうがいいか?/ Q 9 PM 2・ 5は、日本人の花粉症などにも影響しているか?おわりにスタッフ デザイン ●川尻裕美・岩本和弥(エルグ)/イラスト ●橋爪かおり・(株) i and d岡安/編集協力 ●速水千秋

Q 1 昔は、青っぱなを垂らした子供がたくさんいたものですが、最近は、そういう子供を全く見かけなくなりました。それは、どうしてでしょう? A 1 そもそも「青い鼻」というのは、あくまでも見た目の印象です。正確にいえば、色でいうと、ブルーではありません。どちらかというと、イエローとグリーンの中間くらいの色合いかと思います。基本的には、細菌感染を伴った鼻水、ということになります。俗にいう、「膿」の色です。 アレルギー性鼻炎の鼻水は、サラサラと透明ですから、これには当てはまりません。膿の出る疾患としては、副鼻腔炎が大半ということになるでしょう。 副鼻腔に炎症が起こると、軽症のうちはそれほどでもありませんが、重症化すると、膿がたくさん出る傾向があります。 また、さほど多くはないですが、お子さんが、鼻に異物(食べ物、おもちゃなど)を入れてしまい、そこに感染が起こると、片方の鼻から、青い鼻(細菌感染を伴った鼻水)が出てくることがあります。 以前は、副鼻腔炎は「蓄膿症」と呼ばれていました。ご年配のかたには、今も、蓄膿症のほうがとおりがいいかもしれません。蓄膿症という言葉自体は、最近はあまり使われなくなっています。 ともあれ、ここ 30年ほどの間に、耳鼻咽喉科の治療がかなり進歩しました。 昔は、今ほど C Tが簡単に撮れず、撮っても単純レントゲン写真だけでした。このため、副鼻腔に膿がたまっているかどうかも、きっちり確かめられませんでした。 それが、開業医でも、レントゲン写真や、 C T(当院でも C Tが撮れます)が簡単に撮れるようになり、実際に副鼻腔の様子を確認できるようになっています。 しかも、耳鼻咽喉科や小児科のクリニックがふえて、親御さんが子供さんの調子が悪ければ、わりと初期段階から、すぐに病院に連れていくようになりました。 比較的使いやすい抗生剤が処方されるようになり、さほど膿がたまらないようになってきました。軽症化してきたのですね。 昔は、よほど悪化しなければ病院には行かなかったので、重症化し、膿が出て、青っぱなを垂らした子供がたくさんいたのでしょう。最近では、そうした子供たちはへりましたが、それは、副鼻腔炎が重症化しなくなったのではありません。 抗生剤などで、膿をある程度抑えることはでき、青い鼻は垂らさなくなりましたが、慢性副鼻腔炎が治り切らずに、治療を続けている人は、まだたくさんいるのです。 Q2 年を取ると、鼻づまりが起こりやすくなるのはなぜですか? A 2 鼻や咽頭だけに限りませんが、年を取るに従って、粘膜機能全般が低下してきます。すると、乾燥しやすくなります。また、その結果として、鼻づまりや、もろもろの鼻の不調も多くなってくるのです。 加齢性鼻炎も起こりやすくなります。加齢によって粘膜機能が低下すると、粘膜が持つ水分吸着力も弱くなるため、水っぽい鼻水が流れ出るようになります。加齢性鼻炎の鼻水の特徴は、無色透明で、粘り気のないサラサラの鼻水ということになります。 高齢者は、そもそもポリファーマシー(多剤服用)の傾向が強く、それこそ十種類以上の薬を飲んでいる人もいます。この薬の副作用の影響もあると考えられます。粘膜の分泌作用を低下させたり、乾燥させたり、そうした傾向が多剤服用によって強められている可能性があります。 また、鼻の基本的な役割の1つである、空気の加湿・加温機能も低下します。そのため、鼻がつまるだけではなく、のどにも不調が起こりやすくなります。のどの粘膜も乾きやすくなり、かつ、そこに、乾いた・冷たい空気が入ってくるので、それが刺激となって、のどの痛み、異物感、セキなども起こりやすくなるのです。 Q 3 鼻水が長く続いているときは、「内科」ではなく、「耳鼻咽喉科」に行ったほうがよいですか? A 3 くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった鼻炎の 3大症状があるかたは、たいてい近くの内科を受診されることが多いかと思います。あるいは、市販のカゼ薬などに頼るかたも少なくないでしょう。 もちろん内科で診察を受けて、 2週間以内にキッチリ症状が改善できたなら、問題はないと考えてけっこうです。しかし、治療を受け、 2週間以上薬を飲んでいるのに、なかなか症状が改善されない。しつこく鼻水が出続けている。こうした場合は、耳鼻咽喉科で、一度は専門的な診察を受けることをお勧めしたいと思います。 耳鼻咽喉科には、鼻腔内を詳しく見ることができる専門設備がそろっています。鼻やのどの奥など、直接見えないような鼻腔内の状態を、内視鏡を用いることでしっかりと観察できます。また、耳鼻科用 C Tが導入されている病院ならば、内視鏡でも確認できない副鼻腔などの様子をチェックできます。 こうした検査によって、初期の腫瘍や鼻たけなどを見つけることができます。また、鼻の仕切りとなっている鼻中隔が曲がっている、鼻中隔湾曲症なども発見できます。耳鼻科以外では発見しにくい症状や疾患もありますから、鼻の症状が長く続く場合は、耳鼻咽喉科の受診を検討してみてください。

また、忙しいからといって、市販薬でなんとかその場をしのいでいるかたも多いと思いますが、市販薬に頼りすぎるのもよくありません(この問題については、次の質問でお答えします)。 Q 4 鼻づまりがつらいとき、市販薬を使い続けてはいけませんか? A 4 市販薬には、即効性が求められているため、血管収縮作用のある成分や、抗ヒスタミン作用のある成分が多く含まれています。 血管収縮作用がある薬は、鼻づまり改善効果が確かにあり、即効性もあります。 しかし、その分、長期使用をすると、高血圧、緑内障、循環器疾患などの副作用をきたすリスクが高まるとされています。また、使い続けると、効果がだんだんと弱まってきます。しだいに使用頻度がふえてきてしまうのです。こうなると、薬剤性鼻炎のリスクが出てきます。鼻の粘膜が肥厚したままになってしまうおそれがあるのです。 一方、抗ヒスタミン作用の強い薬は、粘膜を乾燥させてしまい、かえって鼻やのどの乾燥や異物感を強める可能性があります。 市販薬で状態がよくならない場合も問題といえば問題ですが、市販薬で少し症状が改善した結果、病院に行く時期が遅くなってしまったり、正確な診断を受ける機会を逃したりすることも考えられます。 ですから、市販薬には、あまり頼りすぎないことが肝心です。使うにしても、限定的に、短期間だけ利用するようにしましょう。 Q 5 抗生剤の使いすぎも体によくないという話を耳にします。抗生剤を使いすぎると、どんな悪い点があるのでしょうか? A5 抗生剤を使いすぎた場合、懸念されるのは、次の 3点です。 ①薬剤耐性菌の問題 ②菌交代現象 ③腸内菌叢の悪化 もともと抗生剤は、細菌感染を予防し、治療するために使用されてきました。しかし、細菌もまた生き物ですから、生き延びようとします。厳しい環境の中で生き延びようとして、抗生剤に耐えられるように自らの性質を変えていくものが現れるのです。これが、薬剤耐性菌です。抗生剤を使えば使うほど、耐性菌の現れる確率も上がっていきます。 肺炎や結核といった感染症が、耐性菌の出現によって、抗生剤で治りにくくなっています。耐性菌によって、治療がより難しくなっているのです。この薬剤耐性菌の問題は、世界的にも大きな問題になっているといってよいでしょう。 しかし、まだ、なかには、「熱が出たら抗生剤」というイメージをお持ちのかたもいらっしゃるでしょう。 熱が出る病気でも、抗生剤が必要なときと、そうでないときがあるのです。ウイルスによるカゼのときも、抗生剤を求めるかたがいらっしゃるのですが、抗生剤は細菌には効きますが、ウイルスによるカゼには効きません。 抗生剤は、必要な場合を選んで使うことが肝心で、本当に必要なケースかどうか、担当医ともよく相談なさってください。 また、抗生剤が処方されたときは、処方分を飲み切るようにしましょう。自己判断で薬の量をへらすと、細菌が完全に死滅せず、病原菌が抗菌薬に徐々に慣れ、耐性を獲得しやすい環境になってしまうことがあるからです。 体内には、さまざまな細菌がすみついています。健康な人の口腔内や咽頭、気管、腸管、膣などには、いつも一定の細菌がいるのです。それらは常在菌と呼ばれます。この常在菌のほかに、病原性の真菌などもいます。 通常は常在菌が病原性の菌類の繁殖を防いでいるため、発症しません。ところが、ある種の抗生剤を使うと、常在菌も死滅してしまうことがあります。すると、今まで常在菌の存在によって抑えられていた、真菌などの病原性細菌がいっせいに増殖を始め、体に害を及ぼすのです。 この現象が菌交代現象と呼ばれています。抗生剤を使った結果として、口腔内、食道、腸内、膣など、予想外のところに真菌が増殖することがしばしばあります。 3つめが、抗生剤が腸内環境に与える影響です。 抗生剤は、人体に害を与える細菌だけでなく、有用な働きをしている細菌にも作用してしまうことがあります。 結果として、腸内の善玉菌(ビフィズス菌など)の数がへり、悪玉菌や日和見菌の割合がふえて、腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスがくずれてしまうことがあるのです。これも、1つの菌交代現象と見ることもできるでしょう。 特に、 4 ~ 5歳くらいまでに、そのひとの一生の腸内細菌叢バランスが決まるといわれています。ですから、幼少期に抗生剤を必要以上に、また長期間使うと、腸内細菌の問題を一生かかえてしまうことにもなりかねません。 抗生剤を使う際の備えという意味でも、日ごろから、腸内環境をよくする食事を心がけておくことが大切です。 Q 6 後鼻漏がなかなか治らなくて困っています。どうしたらいいでしょうか? A 6 後鼻漏は、お困りのかたが多い症状でもあり、かつ、対応が難しい症状でもあります。 そもそも鼻から出る鼻水を「鼻漏」といいます。鼻漏は通常、鼻腔内で生じ、前方にある鼻の穴から出ます。鼻漏が、鼻の奥からのどのほうに流れてしまう

ことがあります。これが、「後鼻漏」です。 後鼻漏は、健康なかたでも、毎日、生じています。 1日に出る 1・ 5 ℓの鼻水のうち、その半分は、のどや喉頭を加湿するために使われています。 このときの後鼻漏はサラサラであるため、のどに流れても不快に感じません。 また、アレルギー性鼻炎の場合も、後鼻漏が生じます。 ただ、鼻漏は鼻腔の下甲介という粘膜から生じるため、多くは前方の鼻の穴から出ていくので、後鼻漏にはなりにくいのです。もし仮に、それが後鼻漏となったときも、アレルギー性鼻炎の鼻水はサラサラなので、のどに流れ落ちても不快と感じません。 一方、副鼻腔炎は違います(ほかに、好酸球性副鼻腔炎も同じようなことが当てはまります)。副鼻腔炎の鼻漏は、粘っこく、重いので、鼻の奥に流れていきやすく、したがって、後鼻漏にもなりやすいのです。しかも、ネバネバしているため、のどに流れ落ちたときに、違和感が生じたり、不快に感じたりするのです。 また、慢性上咽頭炎でも、後鼻漏が生じやすくなります。 上咽頭は、鼻の奥の突き当たり、のどの天井部分にありますから、ここに炎症が起こると、できた後鼻漏がのどの真下へ落ちやすくなります。 さらに、加齢に伴って、粘膜が乾燥したり、粘膜の分泌機能が低下したりすると、後鼻漏が量的にさほど多くなくても違和感を覚える人が多くなります。加齢性鼻炎の典型的な症状といってもよいでしょう。 前にもふれましたが、これは、「後鼻漏」ではなく、「後鼻漏感」に当たる症状です。内視鏡で見ても、のどに変調は見られませんが、実際に患者さんにとっては、不快な感覚が否定しがたくあるのです。 慢性上咽頭炎の場合も、この後鼻漏感に悩まされるかたが多いといってもいいかもしれません。本来、炎症の起こっているのは、のどの天井に位置する上咽頭なのですが、それを、のどの違和感や、後鼻漏感として感知するのです。 さて、こうした後鼻漏は、どのように対応するのがよいでしょうか。 原則としては、それぞれの原因疾患を突き止め、その治療を行うことです。 例えば、慢性上咽頭炎でしたら、 EAT(上咽頭擦過治療)を行うと、後鼻漏も改善される可能性が高いということになります。 後鼻漏や慢性上咽頭炎、加齢性鼻炎も、いずれも治りにくい疾患でもありますから、耳鼻科に通って治療を続けながら、鼻うがいなどのセルフケアをあわせて行うことをぜひお勧めしたいと思います。 Q 7 メガネをかけていると、鼻づまりになりやすいという話を聞いたことがあります。本当にそうでしょうか? A 7 ちょっと話は遠回りになりますが、スマホやパソコンの話から入りましょう。スマホやパソコンを長時間やっていると、どうしても姿勢が悪くなりがちで、だんだんと顔を上げて、あごを前に突き出す姿勢になってしまいます。 この姿勢がいけません。 この姿勢になると、あごの下から首に広がっている薄い筋肉(広頸筋といいます)が下に引っ張られて、口が開きやすくなります。 つまり、スマホなどをしていると、姿勢が悪くなった結果、口が自然に開いてしまい、口呼吸になりがちなのです。 口呼吸では、鼻呼吸で行っている重要な機能(空気の加湿・加温機能など)を果たせなくなりますから、そのぶん、体に負担をかけることになります。結果として、鼻づまりなどの鼻の症状も起こりやすくなってしまうのです。 メガネ、特に老眼鏡や遠近両用のメガネを使っていると、焦点を合わせるため、顔を上に向けたり、口を開けたりしがちで、スマホと同様に、体に悪影響を及ぼすリスクがあるということなのです。 もちろん、メガネをかけているかたが、みんな口呼吸になりやすい、ということではありません。 この姿勢の問題に加えて、かけている本人が気づかないうちに、メガネがずり落ちないよう、側頭部の筋肉を収縮させてしまっていたり、フレーム周辺の小さな血管が圧迫されたりすることがあります。 ちょうど、フレームが当たるところには、顔の表面に血液を送っている浅側頭動脈(外頸動脈の枝)が走っているので、幅の狭いフレームのメガネをかけていると、この浅側頭動脈が圧迫されてしまうことがあるのです。 姿勢をよくすることも、広い意味でのセルフケアに入ると、私は考えています。 よい姿勢を意識して保つように、日ごろから心がけたいものです。 Q 8 孫が、いつも鼻がつまっているようで気になっています。病院に行ったほうがいいでしょうか? A 8 鼻づまりは、特に小学校くらいまでのお子さんにとって、改善しておきたい症状です。鼻呼吸の大切さは本書でもふれてきました。 子供たちは、少しくらい鼻がつまっていても何も訴えませんし、実際につまっているのに、自分がつまっているとは感じていないこともしばしばあります。・いつも口を開けている・口がにおう

・集中力がない・カゼをひきやすい・寝るときにいびきをかいたり、しんどそうな寝息で寝ていたりする こういった症状が子供にあるようでしたら、鼻づまりが疑われます。一度、耳鼻咽喉科で診てもらうといいでしょう。 小学生くらいまでは、扁桃(口の中の扁桃は口蓋扁桃と呼ばれます)、アデノイド(鼻の奥にある扁桃)が生理的に大きめなので、より鼻づまりを起こしやすいことがあります。場合によっては、口蓋扁桃やアデノイド切除手術がとても有効な子供もいるので、耳鼻科で診断を受け、必要な治療を受けるといいでしょう。 Q 9 PM 2・ 5は、日本人の花粉症などにも影響しているのですか? A 9 PM 2・ 5とは、大気中に浮遊している直径 2・ 5 μ m以下の超微小粒子です。 PMは、「 particulate matter(粒子状物質)」の頭文字。工場や自動車などから排出された煤煙や粉塵、硫黄酸化物( SOx)など、大気汚染の原因となる粒子状の物質を指します。 近年、中国で発生した PM 2・ 5などによる大気汚染の影響が日本にも及ぶようになり、懸念されています。そのなかでも気がかりなのが、花粉症との関連です。 実際に花粉症を発症させるのは、花粉内部にあるアレルゲン(アレルギーの原因物質)です。この原因物質が、割れた花粉から放出され、人体内に侵入して抗体と結合すると、花粉症を発症します。 花粉自体は約 30 μ mと大きいので、直接、呼吸器系の深部には入れません。一方、原因物質は 1・ 0 μ m以下と小さいので、簡単に体内の呼吸器深部まで侵入できます。 花粉が割れると、この原因物質が放出されますが、この花粉からの原因物質の放出を助長させてしまうのが、大気中の汚染物質なのです。 PM 2・ 5自体も、アレルギーの原因になりますが、それだけではなく、 PM 2・ 5が鼻腔、副鼻腔、気管、肺に入り込み、種々の炎症を起こすことも問題です。こうして痛んだ粘膜に花粉がさらに入ってくるため、花粉症が重症化してしまうのです。 花粉症などをお持ちのかたは、なるべく PM 2・ 5を吸い込まないよう対策を立てましょう。1つは、やはり、マスクをすること。ただし、 PM 2・ 5の超微粒子が通り抜けない規格のマスクを着用する必要があります。また、室内にいるときは、空気清浄機を使用する、掃除機をこまめにかけるなどの対策も有効でしょう。 セルフケアとしてお勧めしたいのが、鼻うがいとオイル点鼻です。 特にオイル点鼻をすると、オイルが鼻腔粘膜を保護します。そのうえ、花粉が割れて、アレルゲンが飛散することを防ぐ効果も期待できます。

おわりに 私が大阪府守口市に自分の医院を開業したのは、 2005年のことでした。 それまでは、滋賀県彦根市の総合病院で、耳鼻咽喉科の医長を務めていました。 同じ耳鼻科なのですが、大きな病院の勤務医と、個人病院では、全く違うのですね。 言葉は悪いですが、大きな病院では、患者さんをある程度機械的に次々診ていかないと、診察が進みません。しかし、開業医として働き始めると、機械的に診療をこなしていくのでは、じゅうぶんではないということが、すぐにわかってきました。 一方で、個人病院には、いろいろな患者さんがやってきます。耳鼻科は初めてという人もいれば、大学病院に行ってもよくならなかった人が、また、舞い戻ってきたり、文字どおり、バラエティに富んでいます。 患者さんというのは、 1人ひとり、みんな違うのだ。そういうことを、開業医として、日々思い知らされることになるのです。特に、治りにくい鼻の症状になると、 3分診療のような機械的な対応ではほとんどよくなりません。 そのうち、私は自由診療の日を設けて、患者さん 1人ひとりから、しっかり話を聞くようになりました。 患者さんがどんな性格で、どういう仕事をしているか、何を食べているか、その人の生活史をよく知って、初めて見えてくるものがあります。地道なコミュケーションの積み重ねの先に、治療の筋道が見えてくることが多いのです。 本文にも書きましたが、患者さん自身が何に困っているのか、実は、ご本人もわかっていないこともよくあります。 同じ副鼻腔炎といっても、鼻がつまるのか? 鼻水が出て困るのか? 頭が痛いのか? 後鼻漏がつらいのか? など。困っている内容によって、対処法も違ってきます。そして、当然ながら、患者さんによって、治療のゴールも、それぞれ、違ってくるのです。 最近、私は、治療の過程で、「自身自医」という言葉を使うことがあります。 治す主体は、医師でもなく、薬でもなく、あなた自分自身であるということです。患者さん自身が自分の主治医となって、自分で治そうとしてもらうことが必要なのです。 自分が自分の主治医となって、自分に見合ったセルフケアをやってこそ、セルフケアも生きたものとなり、効果が出てくる。それが治癒へとつながっていくのです。 なかなか治りにくい症状の場合も、そうした、一見、遠回りに見える方法が、けっきょく、近道となるケースが多いのです。実際、調子がよくなった人のほとんどが、セルフケアを熱心にされています。 ある年配の女性は、何十年も治らなかった鼻がスッキリ通るようになりました。 その女性は私に大変感謝して、「先生、ありがとうございました」と言葉をかけてくれましたが、「治したのは私じゃない。あなたがセルフケアで、自分で治したんですよ」というと、彼女は笑っていました。 その女性が私に見せてくれた晴れやかな笑顔。それは、勤務医時代には、巡り合えなかったものかもしれません。 治すために、 1人ひとりの患者さんと向き合って、じっくりつきあうこと、そこから治療が始まると私は考えています。 今回の本をまとめるにあたっても、私は、診療室にいるときと同じ姿勢で皆さんに向き合おうと考え、そのような構成を目指しました。 本書が、慢性副鼻腔炎をはじめとする病気や、鼻づまり、鼻水、後鼻漏など、鼻のつらい症状に悩んでいるかたたちのもとに届き、皆さんのお役に立てることを願っています。 本書を通じて、皆さんが自分自身の主治医となり、症状を少しでも軽快させることができるなら、これほどうれしいことはありません。 2020年2月きたにし耳鼻咽喉科院長 北西 剛

北西 剛(きたにし・つよし)きたにし耳鼻咽喉科院長。医学博士。 1966年、大阪府守口市に生まれる。滋賀医科大学卒業後、病院勤務を経たのち、故郷の守口市で 2005年にきたにし耳鼻咽喉科を開院。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医。日本アーユルヴェーダ学会理事長。日本胎盤臨床医学会認定医・理事。日本統合医療学会認定医。日本ホメオパシー学会認定医。そのほか、森林セラピスト、野菜ソムリエ、阪神タイガースネット検定合格など、多彩な活動をしている。主な著書に『耳鼻咽喉科医だからわかる意外な病気、治せる病気』(現代書林)、『難聴・耳鳴り・めまい「治る」には理由(わけ)がある』(ルネッサンス・アイ)、『「うるうる粘膜」で寿命が延びる』(幻冬舎 M C)などがある。きたにし耳鼻咽喉科ホームページ https:// kitanishi-ent. jp/

■ビタミン文庫慢性副鼻腔炎を自分で治す 2020年2月 10日 第 1刷発行著 者 北西 剛発行者 室橋一彦発行所 株式会社マキノ出版 〒 101-0062東京都千代田区神田駿河台 2-9 KDX御茶ノ水ビル 3階電話 03-3233-7816ホームページ https:// www. makino-g. jp/ ⓒ Tsuyoshi Kitanishi 2020, Printed in Japan本電子書籍の内容を無断で複製・複写・改ざん・公衆送信すること、および有償・無償にかかわらず本電子書籍の内容を第三者に譲渡することは固くお断りいたします。お問い合わせは、編集関係は書籍編集部(電話 03-3233-7822)、販売関係は販売部(電話 03-3233-7816)へお願いいたします。定価はカバーに明示してあります。 ISBN 978-4-8376-1356-5

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次