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第6章 教えることであなた自身が成長する

目次

「教える技術」は必ず3つのどれかに当てはまる

ここまで「身体で覚える運動スキル」「頭で考える認知スキル」「心で決断する態度スキル」の教え方をお話ししてきましたが、相手に何か教えたいことがあるとき、それは必ず、運動スキル・認知スキル・態度スキルのどれかに当てはまります。

あるいは、この3つを組み合わせたものです。

ですから、教えたいことがどのスキルに当てはまるのかを判断して、それぞれの教え方のポイントにしたがって教えていけば、必ずうまく教えることができます(教え方のポイントは、運動スキルは 3章まとめ、認知スキルは 4章まとめ、態度スキルは 5章まとめを参照してください)。

最終的には、あなたが教えようと思うことはこのうちのひとつだけではなく、3つのすべてになるでしょう。

どのようなことかというと、たとえば新人に企画のプレゼンを教える場合、原稿を書くためのタッチタイピングや話し方の口癖を直すのは「運動スキル」に当たります。

その後に必要な、企画書の構成やグラフの作り方などの知識は「認知スキル」となります。

最後に、企画書作成までの計画を立てて、それをひとつひとつ進めていくために自分をコントロールするのは「態度スキル」にあたります。

つまり、どんな人でも身体(運動スキル)、知識(認知スキル)、意志(態度スキル)のバランスが大切なのです。

ですから、教える側のあなたはこの3つのスキルの教え方を習熟しておく必要があるのです。

まとめ ▼

運動・認知・態度スキルは、人生においてどれも必要なスキル

教えることは自分も深く学ぶということ

「誰かに教えているうちに、自分のなかで知識が整理されて、前よりも深く理解するようになった」と感じることはありませんか?そうなんです!教えるためには、自分がよくわかっていることが必要です。

消化しきれていない、生半可な知識ではうまく教えることができません。ですから、教えることで、自分の知識をもう一度点検しているのですね。そうすると、生半可だった知識がきれいに整理されて、もう一段深く理解することになるのです。

教えることは手間もかかりますし面倒なことかもしれませんが、教えている途中で、まったく新しいアイデアが浮かぶかもしれません。

どのように教えたら、相手が早く、簡単にわかってくれるだろうかなどと、教え方を工夫することもあるでしょう。このように考えると、教えることとは、じつはとてもクリエイティブな仕事です。

教えるという仕事をすることで、自分のためにもなっているのですね。しかも、相手から感謝される素敵な仕事なのです。

教えることが苦手だった人も、もし誰かに教えるというチャンスがあったら、面倒がらずに引き受けてみませんか? 新人にファイリングの方法を教える、職場の後輩に情報共有の大切さを教える、子どもに公共のマナーを教える、夫に料理を教えるなど。

教えるという仕事をクリエイティブなものとしてとらえれば、いろいろな工夫をしてみたくなります。

ときには「この人には別の教え方をしてみたらうまくいった」というようなことを発見したりして、教える楽しさを感じるかもしれません。

そして、そうした努力をしながら、自分自身が教える内容について深く学んでいることにもなるのです。

まとめ

▼教えることは、とてもクリエイティブな仕事である

教えることで新しい学び方を発見できる

あなたはこの本で教え方の基本的な技術を学びました。あとはそれを実行に移すだけです。

教え方の技術を使えるようになれば、教える仕事がクリエイティブで、楽しいものだということがわかるようになるでしょう。

そして、いろいろな教え方を試すことによって、どんな人にはどんな教え方が最適なのかということを学ぶことができます。

たとえば、ある人には写真やビデオなど視覚に訴える材料が効果的だけど、別の人には話をしながら教える聴覚的な方法が効果的だったりします。

また、ある人には手を動かす実習が効果的だけど、別の人には理論的な説明が効果的だったりします。このようにいろいろな教え方を試すことによって、自分がよく使う好きな教え方があるということにも気づくでしょう。

それはあなた自身の個性です。自分が好きな教え方というものは、自分が何かを学んでいるときに好んで使う方法なのです。

しかし、相手に合わせた教え方を試すために、普段自分が使わない教え方も使う必要があります。それは、自分にとっては不慣れな方法を使うという意味で、ちょっと面倒なことかもしれません。

でも、普段自分が使わない方法を使うことで、意外にもそれがおもしろく効果的であることを発見するかもしれません。それは、実際にやってみなくてはわからないことです。教えることには、自分に合った新しい学び方を発見することができるという、良い作用があるのです。

まとめ

さまざまな教え方を試すことで、新しい世界が広がる

上手に教えられるようになれば信頼される人になる

教えることによって、いいことがたくさんあることをお話ししましたが、なかでも一番いいことはなんだと思いますか?それは、「みんなから信頼されるようになる」ことです。

イライラせず部下にうまく教えることができれば、部下から信頼されるようになるでしょう。それは、職場の士気を上げていくことにもつながり、仕事でいい結果を出すことにもつながります。

そうなのです! 上手に教えることができれば、いいことずくめなのです。

しかし、たいていの人は、教えることは面倒だと思っています。おそらく、うまく教えてもらったことがないからでしょう。

そのため、「自力でやってこい。それがあなた自身のためだ」と言って放置するか、「オレの言う通りにやってみろ」と言って自分のやり方を押しつけたりするだけになるのです。

でも、もうあなたはうまく教える方法を知っています。

あとは、それを実行に移すだけです。部下や後輩に教えることは、大切な仕事です。それは、本業よりも大切な仕事だと言えます。

なぜならば、私たちが生きている意味は、自分の子どもたちや会社に新しく入ってくる人たちを育て、私たちが生きている社会をより良いものとして持続させることだからです。

私たちが学んでいろいろなことができるようになるのは、それを若い人たちに伝えるためなのです。教えることこそが一番大切な仕事です。だから、うまく教えることができる人は、みんなから信頼されるのです。仲間に貢献している人だからです。

まとめ ▼学んだことを若い人たちに教えることこそ、一番大切な仕事

教えたがりにならないこと

これで、あなたは教えるための技術の基本もわかり、また実際に教えることであなた自身とあなたの周りに良い変化が起こるということについてもわかったはずです。

でも「教えたがり屋」さんにはならないように気をつけてください。教えるためには、相手が必要を感じていて、さらに本人が教えてもらうことに合意していることが前提条件です。

相手が必要を感じていないのに教えることはできません。それでも教えようとするなら、それは単なる「押しつけ」です。また、相手が教えてもらうことに合意していないときも教えることはできません。

「このままじゃ必ず失敗するだろうな」と思われるときでも、合意していなければこちらから手を出すことはできません。

それでいいのです。失敗することで学ぶことのほうが多いのですから。何度も失敗してもらって、最後に「ちょっと教えてください」と言われたら、教えればいいのです。

世の中には、「教えたがり屋」の人もいるようです。でもそういう人は煙たい人です。それは、教えるという行為で、何か別のことを得ようとしているからかもしれません。

たとえば、教えることで何か自分が偉い人であると感じたがっているのかもしれません。

しかし、教える人と教えられる人とは、常に対等の立場です。教えられる人は、教えてもらうことで、新しい技術を身につける手助けを受けます。

そのことに対して、教えてくれる人に感謝することでしょう。一方、教える人は、その人のお手伝いをすることでより深く学び、自分をさらに成長させることができます。

そのことに対して、同じように教える相手に感謝するのです。このようにお互いに、相手から何かを得ています。

しかし、「教えたがり屋」さんは、一方通行です。そういう人にならないように注意してくださいね。

まとめ ▼

教える人と教えられる人は、対等な立場でなければならない

「教える技術」をあなたからみんなに広めよう

教えているあなたを見て、周りの人はきっとこう言うでしょう。

「教え方が上手ですね! いったいどういう工夫をしているのですか?」そうしたら、この本で学んだ教え方のヒントをどんどん伝えてください。

教え方を教えることで、自分の教え方をふりかえることになります。さらに良い教え方にするためのアイデアを思いつくかもしれません。

そして何より素晴らしいことは、あなたから教え方を教えられた人が、上手な教え方を身につけてくれることです。そんなふうにして、みんなが上手な教え方を身につけていったら、素晴らしい社会ができあがることでしょう。

料理の仕方がわからなければ、それを教えてくれる人がいる。算数がわからなければ、それを教えてくれる人がいる。仕事をてきぱきとこなすためのコツが知りたければ、それを教えてくれる人がいる。

そして、上手な教え方が知りたければ、それを教えてくれる人がいる。そういう社会になるといいと思いませんか?何かを学ぶことは楽しいことです。

今までわからなかったことがわかるようになり、今までできなかったことができるようになれば、いつまでも若々しく楽しい人生を送ることができますね。

でも、一人で学ぶことは難しいことです。途中で投げ出してしまうこともあるでしょう。

そんなときに、手助けをしてくれる人がいれば、何倍も速く学ぶことができます。「教える」とはそういうことです。

その人が学ぶことはその人自身の喜びです。そして、それを手助けすることは、教える人の喜びなのです。この喜びをみんなで分かち合いましょう。

まとめ ▼教えられる喜び、教える喜びを分かち合おう

おわりに

教えるという仕事は、直接何かを生産するというものではありません。しかし、会社や組織や共同体が、文化や伝統を発展させて、次の世代につなげていくためには必要不可欠な仕事です。

職場に「教え上手」な人たちがたくさんいれば、そこには強力なチームができるでしょう。

チーム内で人を育て、その結果として生産性の高いチームができあがります。教えることで人を育てる仕事は、やりがいを生み出します。教えること自体が喜びの源泉なのです。

それを、この本を活用することで実感していただければと思います。

*この本は、 2018年に永岡書店から出版された『世界一わかりやすい教える技術』の内容をそのまま引き継いだものです。

今回、版権を技術評論社に移すことを快諾していただいたことにとても感謝しています。

この本のルーツは、 2012年出版の『いちばんやさしい教える技術』(永岡書店)です。

もともとは子どもを持つ親に読まれることを想定して書いたこの本はロングセラーとなりました。

それを職場やビジネスの場面で使えるように改訂したのが『世界一わかりやすい教える技術』です。

この本には、私が考える「教える技術」の最も中心的な内容が込められています。

それだけに思い入れの強い本です。

*この本を手に取っていただき、ありがとうございます。

どうぞこの本の内容をマスターして「教え上手」な人になってください。

それは生涯にわたって役立つスキルになるでしょう。

2020年 10月 所沢にて 向後千春

著者向後千春(こうごちはる) 1958年生まれ。

早稲田大学人間科学学術院教授。

博士(教育学)(東京学芸大学)。

専門は教育工学、教育心理学、アドラー心理学。

著書に『幸せな劣等感』(小学館新書、 2017)、『 18歳からの「大人の学び」基礎講座』(北大路書房、 2016)、『人生の迷いが消える アドラー心理学のススメ』『アドラー“実践”講義』(技術評論社、 2016、 2014)、『コミックでわかるアドラー心理学』(中経出版、 2014)、『上手な教え方の教科書 入門インストラクショナルデザイン』(技術評論社、 2015)、『教師のための教える技術』(明治図書出版、 2014)、『統計学がわかる』『統計学がわかる【回帰分析・因子分析編】』(技術評論社、 2007、 2008)など。

カバーデザイン西岡裕二マンガ羽生シオン本文デザイン・ DTP BUCH +編集協力 RIKA(チア・アップ)

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