6-1 キャッシュフロー重視時代の「利益の役割」とは何か利益とキャッシュフローの役割の違いを理解しよう ■利益とフリーキャッシュフローに違いが出る理由 これからの説明は、第 1章( 1-5)の内容をもとにしています。図 1-6を下に再び掲載しました。
第 1章( 1-5)では、投資の採算判断については、利益ではなく、フリーキャッシュフローを使うことが合理的であると説明しました。 では、フリーキャッシュフローを使うなら、利益は一体どのような意義があるのでしょうか。現実には、営業現場などでは、利益を目標にして活動していますね。 利益とフリーキャッシュフローの違いを生んでいるのは、設備の残存価額と在庫と売掛金の存在です。 3年度末の貸借対照表には、設備投資(固定資産)の残存価額 120(設備投資 300- 3年間の減価償却費 180)が表示されます。残存価額 120は、 4年度と 5年度に各 60が償却されて、 5年度末でゼロになります。 もしこの会社が 3年度末で倒産したら、どうなるでしょう。残存価額 120は、設備除却損として、特別損失に計上されます。さらに、在庫 40が廃棄され、売掛金 10も回収不能になったとします。そうすると、在庫除却損 40、貸倒損失 10が損益計算書に計上されることになります。利益は、一挙に ▲ 60( 3年度末の利益 110-在庫除却損 40-貸倒損失 10-設備除却損 120)の損失に変わります。利益 110が、損失 ▲ 60に一挙に変化します。 注目すべき点は、 3年度合計のフリーキャッシュフロー ▲ 60と事業が廃止された場合の最大の損失 ▲ 60が一致している点です。これは偶然の一致ではありません。ここに利益とフリーキャッシュフローの違いがあります。利益の計算では、設備の残存価額、在庫、売掛金が控除されていません。これらはまだ現金で回収されていないからです。これが、違いが出る理由です。
■利益は、経営が正常に推移しているときは役に立つ 経営環境は、急激に変化します。最高益を更新した翌年に、過去最大の損失ということも起こり得ます。 また、第 1章の例で考えてみましょう。 図 1-9の例では、 3年度の末で倒産ということになりました。 その原因は、残存価額 120(設備投資の未償却額)、在庫 40、売掛金 10、です。これらは貸借対照表の資産です。貸借対照表の資産には、損失が隠れているということです。在庫除却損、貸倒損失、設備除却損は、資産が損失になった例です。
一方、フリーキャッシュフローは、これらの損失をすでに加味した指標です。 経営状態が悪化している企業では、資産が損失になる可能性が高くなります。このようなときは、利益よりもフリーキャッシュフローで業績を評価するほうが、企業の状況をより適切に判断できます。 経営環境が悪化して資産が損失になると、資産を多く持つ製造業、大手小売業、不動産業などでは、突然の大きな損失が発生する可能性が高まります。 これに対して、経営環境が良好で、数年先も事業が正常に運営できることがハッキリしている企業では、資産が損失にならないので、利益で評価しても問題ないことになります。 図 1-9では、 3年度累計で、フリーキャッシュフローは ▲ 60、事業が廃止されても損失 ▲ 60で、採算はとれていません。しかし、事業が正常に進行していれば、在庫除却損 40、貸倒損失 10、設備除却損 120は回避され、利益 110が実現します。しかも、 4年目以降も、経営が順調に推移するとしたら、売掛金 10は翌年回収され、収入になります。在庫も販売されて 40以上の収入を生みます。売掛金と在庫は 3年度末ではキャッシュフローにマイナスに働いていますが、経営が順調である限り、 4年目以降には、収入になって、キャッシュフローを増やすことに貢献します。 以上から、利益での評価は、事業が順調に進んでいるときは有効ですが、先が不透明な時代には、キャッシュフローで、業績を評価する必要があります。 ■利益は期間の業績、キャッシュフローは中長期の業績に役立つ フリーキャッシュフローを 1年度、 2年度、 3年度の単年で計算すると、 1年度 ▲ 210の大幅な赤字、 2年度では投資がないので 100の黒字、 3年度も投資がないので 50の黒字になっています(図 1-9)。 フリーキャッシュフローは、単年度で見ると、業績が大きく動きます。図 1-9の例では、 1年度に投資キャッシュフローが発生しているので、赤字額が大きくなっています。 よってフリーキャッシュフローは、単年度で分析するより、投資効果が出て投資の回収の判断ができる、中長期の累計値で分析する場合に有効です。 これに対して、利益は 1年度 30、 2年度 40、 3年度 40と、徐々に採算がとれている状況を反映していきます。単年度または四半期などの短期の業績を評価する場合には有効です。ただし、経営が正常に推移していることが前提ですが……。 これまでの内容を理解できれば、設備投資などの中長期の展望が必要な経営判断(戦略的意思決定)には、キャッシュフローを使う必要があることがわかります。 戦略的意思決定の中心となる営業キャッシュフローのとらえ方、資本コストの意味、設備投資の採算計算などについて、これから説明します。
6-2 営業キャッシュフローのとらえ方を理解しよう間接法のとらえ方をマスターしよう ■投資額が回収できるかを営業キャッシュフローで考える 営業キャッシュフローは、投資額を回収する原資です。新規出店、設備の導入、研究開発、企業買収などを行なうには大きな投資(投資キャッシュフロー)が必要です。これらの投資を回収できるかを分析し、その投資を実施すべきか否かを決定することは、戦略的意思決定の典型的なテーマです。投資回収が長期になるので、長期的意思決定とも呼ばれます。営業キャッシュフローを理解することで、戦略的意思決定の考え方を理解するスタートにしてください。 ■間接法による営業キャッシュフローのとらえ方 営業キャッシュフローは、営業収入から営業支出を引いてとらえることができます。しかし、営業キャッシュフローをとらえるときに図 6-1のような間接法による把握方法を理解していると、キャッシュフローを予想するときに役立ちます。そのためには、間接法の特徴を知るのが近道です。
図 1-9を見てください。各年度の営業キャッシュフローは、以下のように計算することができます(直接法)。 しかし、 1年度の営業キャッシュフロー 90は、営業利益 30 +減価償却費 60でも求まります。同様に 2年度の営業キャッシュフロー 100は、営業利益 40 +減価償却費 60で求められます。 3年度の 50は、営業利益 40 +減価償却費 60-在庫増加額 40-売上債権増加額 10で求めることができます。 このように利益をスタートにして、営業キャッシュフローを算出する方法を間接法と言います。企業の決算書では、よく見られる方法です。
間接法は、営業利益、減価償却費などの損益情報と、売上債権、在庫などの貸借対照表の情報から、キャッシュフローを求める手法です。 したがって、間接法は、ある期間の損益計算書とある期間のスタートと終わりの貸借対照表を予想できれば、その期間の予想キャッシュフローが計算できることを意味しています。すなわち、損益と売上債権や在庫などが予想できると、予想キャッシュフローが、間接法で自動的に計算できるのです。 間接法で営業キャッシュフローを計算する例から、営業キャッシュフローの特徴を見ていきましょう。 ■減価償却費は、その金額だけ資金が残る 間接法では、営業利益に減価償却費を加算して営業キャッシュフローを求めていました。では、なぜ減価償却費を加算するのでしょうか? ①減価償却費を加算する意味 毎年発生する 60の減価償却費は、設備投資 300がその源泉です。設備投資 300を、スタート時に支出(投資キャッシュフロー)しています。 その後、設備は使用され消耗します。その消耗に応じて減価償却費を計上します。減価償却費が計上されるときは、すでに支出は行なわれた後で、それに関する支出はありません。減価償却費は計算上の費用です。このように資金の支出を伴わない費用を非資金費用とか、非資金性費用と呼びます。減価償却費は非資金費用の代表です。非資金費用は、資産の評価損、貸倒引当金繰入など、たくさんありますが、減価償却費を特に取り上げるのは、金額が大きく、投資に関連して発生する費用だからです。 売上収入で増えた資金は、費用の支出分を差し引いて営業利益として残ります。よって営業利益は、その金額相当分だけ資金を増やします。 減価償却費は、営業利益を減らしますが、資金は流出しません。つまり、計算上は営業利益が減っていますが、資金としては残っているので、売上収入で増えた資金(営業キャッシュフロー)は、減価償却費相当分だけ、企業内に残ることになります。 したがって、営業利益で資金は増え、減価償却分も資金は残るため、営業キャッシュフローは、営業利益に減価償却費を加算して求めるのです。
②減価償却費を減らすと営業キャッシュフローは増加する? 図 6-1の間接法の式だけ見ると、減価償却費を減らすと営業キャッシュフローは増加すると誤解する人もいますが、それは違います。減価償却費を減らすと営業利益が増えるので、営業利益 +減価償却費でとらえる営業キャッシュフローは変化しません。(試しに図 1-6で 3年度の減価償却費を 40に減らして計算してみると、売上高 400-費用 300-減価償却費 40で営業利益は 60に増えることになります)。逆に減価償却費が増えれば、営業利益は減少します。結局、営業利益と減価償却費の合計だけ営業キャッシュフローが増えるのです。
■売上債権の増加は、その額だけ資金を減らす 売上債権(受取手形と売掛金)、在庫、買入債務(支払手形と買掛金)の増減も、営業キャッシュフローに大きく影響します。 まずは、売上債権の増加の影響を考えてみましょう。 ●まず、直接法(収入-支出でとらえる方法)で計算してみよう ①利益を計算する 売上高 200-売上原価(当期仕入額) 180 =利益 20……ア ②収支(営業キャッシュフロー)を直接法で計算する 単純に売上高で計算するだけでは、掛売等があると、正確なキャッシュフローをとらえられません。ここでは、それを加味して営業キャッシュフローを計算してみます。 売上高 200-掛売上 40 +前期分売掛金の入金 30 =売上収入(売上による収入) 190 仕入支出(仕入による支出)は 180ですから、 売上収入 190-仕入支出 180 =営業キャッシュフロー 10……イ* 1 (* 1)イのように、収入-支出でキャッシュフローをとらえる方法を直接法と言います ③損益と収支の差を確認する ア-イ(利益 20と収支 10の差)は 10。この差は売掛金の増加額です。当期末売掛金 40-前期末売掛金 30で、売掛金が 10増加していることを意味します。 ●間接法で営業キャッシュフローをとらえると……
利益 20-売掛金の増加 10 =営業キャッシュフロー 10となります。 この計算は、「利益 20だけ営業キャッシュフローは増加するが、売掛金が 10だけ増加したので、その分減ってしまった」と考えるのが正確です。理解しやすいイ(直接法)の計算結果と、この間接法の結果は、一致していることを確認してください。 ■在庫の増加は、その額だけ資金を減らす 次に、在庫の増加の影響を以下の例で考えてみましょう。 ①利益を計算する 前期末在庫 10 +当期仕入額 100-当期末在庫 30 =売上原価 80 売上高 140-売上原価 80 =利益 60……ウ ②収支(営業キャッシュフロー)を直接法で計算する 売上収入* 2 140-仕入支出(当期仕入額) 100 =営業キャッシュフロー 40……エ (* 2)売上収入は、売上高のうち収入になった分です。すべて現金売上なら、売上高と売上収入は一致しますが、通常は一致しません
③損益と収支の差を計算する ウ-エ(利益 60と収支 40の差)は 20。この差は在庫の増加額です。当期末在庫 30-前期末在庫 10で在庫の増加は 20となります。 ●間接法で営業キャッシュフローをとらえると…… 利益 60-在庫の増加 20 =営業キャッシュフロー 40となります。 エ(直接法)の計算結果と一致します。 在庫の増加分だけ営業キャッシュフローが減っています。 ■買入債務の増加は、その額だけ資金を増やす 買入債務の増加の影響を以下の例で考えてみましょう。 ①利益を計算する 売上高 300-売上原価(当期仕入額) 200 =利益 100……オ
②収支(営業キャッシュフロー)を直接法で計算する 売上収入 300 当期仕入額 200-掛仕入 60 +前期末買掛金 20 =仕入支出 160 よって 売上収入 300-仕入支出 160 =営業キャッシュフロー 140……カ ③損益と収支の差を計算する カ-オ(利益 100と収支 140の差)は 40。この差は買掛金の増加額です。当期末買掛金 60-前期末買掛金 20で、買掛金の増加は 40です。 ●間接法で営業キャッシュフローをとらえると…… 利益 100 +買掛金の増加 40 =営業キャッシュフロー 140となります。 カ(直接法)の計算結果と一致します。 買掛金の分だけ営業キャッシュフローが増えています。 買入債務の増加は、支払をしない額を増やしているのですから、資金は増える方向に影響するわけです。売上債権や在庫の増加とは、逆の影響が出ることに注意してください。 ■運転資金の調達高の増加は、その額だけ資金を減らす これまで間接法を理解するために、1つの要素(在庫など)に注目して単純な動きで考えてきました。現実は、複数の動きが同時に起こるために、資金の動きが見えにくくなっています。 売上債権と在庫と買入債務の 3要素を使った指標が、運転資金の調達高です。運転資金の過不足を示す運転資金の調達高は、以下の式で表わされます。 +の場合は不足する運転資金を示し、-の場合は余る資金を示します。
運転資金の調達高は、ここまで説明してきた3つの要素が複雑に絡んでいます。しかし1つひとつの影響を理解できていれば、運転資金の調達高が増加したとき営業キャッシュフローにどう影響するか、わかりますね。 ①運転資金が不足する代表的なケース 運転資金の調達高がプラス(「売上債権 +在庫」 >買入債務)で、しかもそのプラスが増加していくケースで考えてみましょう。運転資金の調達高が増加するということは、売上債権(受取手形や売掛金)や在庫の増加スピードが、買入債務(支払手形や買掛金)の増加を上回っているケースです。 この場合、図 6-3にあるように、増加額 Aだけ、営業利益で増えるはずの営業キャッシュフローが減少します。 売上高を拡大させる過程では、運転資金の調達高の増加が起こって、資金不足に陥ることは、よくあります。特に、建設業、製造業、卸売業、小売業などではよく問題になります。売上債権や在庫管理を行なわないときや、徹底できないときに、この状態に陥ります。こうした管理をしっかり行なうことが必要です。
②運転資金に余裕が出るケース Ⅰ 運転資金の調達高がプラスでも、その額が減少する場合があります。これは、売上債権を速やかに回収して現金化できていたり、販売がうまくいって在庫が減っているというケースです。このとき、営業キャッシュフローは増加します。正確に言えば、図 6-4にあるように、運転資金の調達高が減少した額(減少額 B)だけ、営業キャッシュフローは増加します。このケースは、売上債権や在庫の管理がうまくいっている場合で、望ましい傾向です。 売上高を増加させながら、運転資金の調達高を減少させることは、なかなか難しく、経営の重要課題です。情報システムを活用した業績管理と現場の社員の意識向上によって、このような状況を生み出せます。
③運転資金に余裕が出るケース Ⅱ 自社の支払が後になる(買入債務が多い)ため、手元の現金が減らないで、運転資金に余裕のあるケースもあります。この状況は、運転資金の調達高が「マイナス」になった状態です。支払をさらに遅らせれば、このマイナス額は増加します。図 6-5で言うと、マイナス額が増加した Cの部分だけ、資金は増加します。 このようなケースは、在庫や売上債権をあまり持たないが、買入債務は発生する飲食業などのサービス業でよく見られます。仕入代金は、 1か月程度の掛仕入で、売上代金の受取りは現金という状況では、短期的には、売上高を上げれば上げるほど手元に資金が残ります。 売上高が増加して、運転資金の調達高のマイナス額が増えれば、ますます手元資金は増えるので、資金管理に甘さが出ます。飲食業が、比較的参入可能な理由の1つに、運転資金に余裕ができる点があげられます。しかし、食事の味が悪く、お客が来なければ、すぐに営業利益がマイナスになり、徐々に手元資金は減少して、経営は窮地に陥るでしょう。何事も本業で強みを発揮することが大切です。
■税金の支払は、営業キャッシュフローを減少させる この点は、細かい説明は不要ですね。税金の支払を少なくすればいいのです。法人税等の税率が下がれば、営業キャッシュフローは増えることになります。これは、国の財政問題と関係します。なお脱税は非合法ですが、税法の特典などを使った節税(税金の節約)は合法です。
6-3 営業キャッシュフローを予想する間接法の項目を予想する 間接法を理解できれば、この公式を利用して営業キャッシュフローを予想できます。営業キャッシュフローを予想できれば、新規の設備投資の回収はどのくらいの期間で可能で、利回りはいくらかなどを算出できます。その結果、投資を行なうか否かを判断できます。 そこで、営業キャッシュフローを構成する項目について、どの順番で予想すればいいのか、まとめてみました(計画期間は 5年とします)。 (1)投資計画に関連して初期投資額を算出する 出店計画、工場建設計画、 M& A計画などを行なうときに、総投資額を見積もります。出店計画であれば、店舗建設費、土地の保証金、什器備品の購入額などの合計が総投資額です。 (2)初期投資額に関連して、 5年間の減価償却費を予想する ①新規設備投資計画に基づき、新たに発生する減価償却費を予想する 実際は、設備ごとに耐用年数表などを参考にして計算します。 ②既存設備があれば、既存設備の減価償却費を計算する ③上の ①と ②を足して、 5年間分の全体の減価償却費を計算する (3)減価償却費を加味し、 5年間分の損益計画を作成する 投資計画によって、どのくらいの売上高が見込め、どの程度固定費(減価償却費を含む)が必要かなどを予想し、それらをまとめた変動損益計算書を作ります。主な手順は、次の通りです。 ①市場分析により、予想売上高、予想限界利益(率)を算出する ②固定費計画として、人員計画、販促計画、その他固定費を見積もる ③変動損益計算書を作成して、営業利益を予想する
④税金(法人税等)を計算・控除し、税引後利益を予想する (4) 5年間の必要運転資金(売上債権、在庫、買入債務)を予想する これには2つの方法があります。キャッシュフローを予想するためには、どうしても必要な方法です。投資計画をはじめて学ぶ人に、ぜひ理解してほしいので、詳しく説明します。 ①資産回転率を使って、売上債権、在庫、買入債務を予想する方法 たとえば、売上高を 1, 000から 1, 200に 20%上げる計画を達成するために、在庫回転率を 10回転から 11回転にアップさせることにしたとします。在庫回転率は、売上高 ÷在庫金額で求められますから、これを変形すると、在庫金額 =売上高 ÷在庫回転率となります。この式を用いて計算すると、在庫金額は 100( 1, 000 ÷ 10回)から 109( 1, 200 ÷ 11回)となり、 9だけ増加することになります。 すなわち、在庫の増加額 9だけ、営業キャッシュフローが減少するという予想が可能になります。 同様のことを、売上債権、買入債務について計画します。3つの要素が算出できれば、毎年の営業キャッシュフローの増減がわかり、間接法によって、営業キャッシュフローの予想をすることができます。 ②簡便法として、運転資金の要調達率を使う方法 運転資金の要調達率は、売上高に対して運転資金の調達高(正味運転資本)がどのくらい必要かを示す指標です。業種別の経営指標や実際の企業データから、計画する事業の運転資金の要調達率がどのくらいになるか推測します。運転資金の調達高がプラスであるなら、その割合は売上高に対して資金が不足する割合を示しています。マイナスなら、資金が一時的に余る割合を示しています。 公式としては下記のようになります。 たとえば、 1年目の年間売上高が 100億円あって、運転資金の要調達率が 10%ならば、運転資金の調達高は、 10億円( 100億円 × 10%)です。 10億円の意味は、運転資金が 10億円不足するということで、何らかの資金手当てが必要なことを示しています。もし借入金で手当てするなら、 10億円の借入が必要です。 2年目、売上高が、 120億円に 20%増加すると予想される場合、 12億円( 120億円 × 10%)の資金が不足します。すなわち新たに 2億円( 12億円- 10億円)運転資金が不足するので、借入で手当てするなら、 2億円を借増しする必要があります。 また、 2年目は、売上アップ分 20億円の 10%( 2億円)だけ、運転資金の調達高が増加するので、 2億円だけ営業キャッシュフローは減少すると予想します。 つまり、利益 +減価償却費から、運転資金の調達高の増加額をマイナスすれば、予想される営業キャッシュフローが算出できます。 もし 1年目の利益 +減価償却費 = 50億円なら、営業キャッシュフローは、 40億円( 50億円- 10億円)となります。 2年目の利益 +減価償却費が 80億円なら、営業キャッシュフローは 78億円( 80億円- 2億円)となります。この方法で、簡単に営業キャッシュフローを予想できます。
6-4 現在価値という考え方を理解しよう現在の 100万円と 2年後の 110万円のどちらを選ぶ? 5年にわたる予想キャッシュフローを使って、戦略的意思決定(投資の採算判断など)を行なうときなどには、時間価値という考え方が必要になります。 その考え方を、簡単な例で説明しましょう。 ■今なら 100万円、 2年待てば 110万円もらえる。どちらを選ぶ? あなたは、今なら 100万円もらえる権利があります。 2年待てば 110万円もらえます(投資案 A)。あなたは、どうしますか。 2年で 10%増加するので、単純に 2年後受け取ることを選びますか。 もし迷ったならば、あなたは計数感覚があります。なぜなら、何かと比較しようとしているからです。もっと有利な投資案件があれば、 100万円をすぐに受け取って、もっと有利な投資に資金を向けるでしょう。この有利、不利を決定する基準が金利などの利回りです。 現在、安全性の高い(元本割れがない)金融商品の金利が年 3%であるとします(投資案 B)。投資案 Aと投資案 Bでは、 2年後の受け取り額は以下のようになります。
投資案 Bは 2年後には 106. 09万円になります。投資案 Aは 2年待てば 110万円もらえます。投資案 Aが有利な投資です。 なお、 2年後に、経済が破綻して、もらえない可能性も考慮すべきだと考える人もいるでしょう。ここでは、そこまで考えないようにします。 ■今なら 100万円、 2年待てば 110万円もらえる。この利回りは? では、今なら 100万円、 2年待てば 110万円もらえる投資案 Aの利回りはいくらでしょうか。
rは、 5%と 4. 8%の間にあるようです。このようにシミュレーションして計算すれば、 rは約 4. 88%となります。 つまり、投資案 Aの利回り 4. 88% >投資案 Bの利回り 3%で、投資案 Aの利回りは、投資案 Bより 1. 88ポイント有利です。投資判断では、利回りを意識する計数感覚が大切です。 ■ 1年を超える投資判断で使う「現在価値」という考え方 利回り 4. 88%を前提にすれば、 2年後にもらえる 110万円と、現時点の 100万円は同じ価値なのです。利回り 4. 88%を前提にすれば、 2年後 110万円もらっても、今 100万円もらっても、もらう人にとっては、損得ゼロということです。 2年後の 110万円に対しての今の 100万円を現在価値と呼びます。つまり現在価値とは、将来あるはずの金額は、現時点でいくらの価値であるか、を示すものです。 1年を超える投資判断(これが戦略的意思決定です)では、時間とともに価値(時間価値)が変化するので、その変化を考慮して判断することが必要です。 以上をまとめると、次のようになります。頭を整理してください。
利回り 4. 88%を前提にすると、以下の3つのように説明することができます。ア. 2年後の 110万円の現在価値(現価)は、 100万円イ. 100万円の 2年後の価値(終価)は、 110万円
ウ.上のア、イより、 110万円と 100万円は、時間価値を考慮すると同じ価値になる 現在価値は、一般的に以下のような式で計算します。
6-5 資本コストとは何か収益性の目標は、資本コストを参考にする ■「資本コスト」は、最低限の期待利回り 「今 100万円を受け取るか、 2年後に 110万円を受け取るか」という意思決定において、重要な判断材料は、ほかに有利な利回りの投資がないかということでした。先ほどの例では、元本割れがない金融商品(投資案 B)の利回りが年 3%であったので、 3%が判断基準になったのですね。 この金融商品の利回り 3%は、「今 100万円を受け取るか、 2年後に 110万円を受け取るか」という意思決定において最低限期待する利回り(期待利益率)で、この利回りを資本コストと呼びます。つまり、期待利益率より大きければ「 2年後に 110万を受け取る」と判断できます。 2年後に 110万円を受け取れる金融商品の利回りは 4. 88%でした。 4. 88%が有利か不利かは、これだけではわかりません。 3%という判断基準があるから、 4. 88%が有利・不利かを判断できるのです。資本コストは、意思決定者において、最低限の期待利回りであり、投資の判断基準になるものです。 ■企業が資本コストを意識しなければならない理由 企業は資本コストを意識しなければなりません。その理由を説明します。図 6-7を参照しながら読んでください。
①資金提供者に対する報酬が資本コスト 企業は、金融機関(有利子負債)や株主からの出資(自己資本)で資金を集め、設備投資、企業買収(子会社株式の購入)などに投資し(投下資本)、利益を出します。 事業のために有利子負債を使ったら、債権者(金融機関や社債権者など)への利息の支払が必要になります。自己資本を使えば、株主配当や株価アップによる値上り益を提供するなどして、株主の期待に応えなければなりません。値上り
値上り益を決める大きな要素は、利益剰余金の増加です。利益剰余金は、税引前利益から税金と配当を支払った残りです。 では、支払利息(金利)、株主配当、値上り益に相当する金額を稼げたかどうかを見るには、どうしたらよいでしょうか? その指標となるのが、支払利息、株主配当、値上り益(利益剰余金の増加)を合計した利益です。要は、必要な支払利息(金利)、株主配当、値上り益を加算すればよいのですから、考え方は簡単です。 財務会計で使う利益で言えば、税引後営業利益が最適です。税引後営業利益のことを管理会計では、 NOPAT( Net Operating Profit After Tax)と言います。一般には、次のようにしてとらえます。 (*)税引後利益 +支払利息-受取利息-受取配当金でもよい ②資本コストを上回る収益性を目指すことの必要性 企業活動は、先行投資して、その投資利益がどのくらいになったかを、利益額や収益性(利回り)で判断します。利益額とは、営業利益、当期純利益、フリーキャッシュフローなどです。収益性とは、投資額に対する利益の割合で、投下資本利益率( ROIC: Return On Invested Capital)です。次のような式で表わすことができます。 新規事業の ROICの目標値は、資本コストを超える必要があります(図 6-8)。もし超えなければ、資金提供者への付加価値が稼げていないことになります。この場合は、たとえ利息を支払うことができても、配当や株価のアップを達成できないことになります。このような計画は、不採用とすべきです。
資本コストは、目標 ROICが超えるべき最低限の目標値になります。資本コスト以上の投下資本利益率を達成できないと、資金提供者への分配分を稼げていないことになります。利害関係者に貢献できていない事業であれば、今後、縮小すべきでしょう。 投資の例では、資本コストは最低限期待する利回りでしたが、ビジネスにおいては、その投資で必要な収益の割合(投資の必要投下資本利益率)となります。したがってこの数字は、投資案で超えなければならない基準値(ハードル・レート)となりますし、これを超えられなければ不利な投資案であるとして捨てるための基準値(切捨率)です。 つまり、資本コストは、最低限の目標利回りとして、新規投資の採算を判断するために、将来のフリーキャッシュフローの現在価値を計算するときの割引率(利回り)として使われるのです。 ■有利子負債の資本コストを計算してみよう 最低限期待される利益率である資本コストは、資金提供者への報酬のようなものです。資金提供者には、これ以上の利回りを実現して安心させなくてはなりません。
ここで、資金提供者別に資本コストを計算してみましょう。 まず、有利子負債の資本コストの考え方を紹介しましょう。簡単に考えれば、借入金の金利が有利子負債の資本コストです。しかし、支払利息は、損金に参入できる(税務上、必要経費になる)ので、節税効果があります。よって節税効果を考慮した有利子負債の資本コスト(税引後)を算出するには、以下のように計算します。 A銀行から 1, 000万円を金利 4%で借りた場合、有利子負債の資本コスト(税引後)はどうなるでしょう。法人税率 35%とします。 1, 000万円 × 4% ×( 1- 35%) = 26万円…… A A銀行以外に B信金から 2, 000万円を 3%で借りているとしたら、その有利負債の資本コスト(税引後)は、以下のようになります。 2, 000万円 × 3% ×( 1- 35%) = 39万円…… B これでそれぞれの資本コストが計算できました。 全体の平均資本コストは、いくらになるでしょうか。そのためには、 Aと Bの加重平均資本コストを求めます。加重平均とは、複数のパターンの平均値を出すことです。以下の要領で、算出できます。 公式としては、以下の通りです。
■自己資本の資本コストの計算 ①一般的な考え方 自己資本の資本コストは、株主の期待利益率です。株主は、配当と株式の値上り益を期待しています。投資額は株価です。以下の式で計算された投資利益率が、自己資本の資本コストになります。 2つ注意点があります。1つは、自己資本の資本コストは、税引後の資本コストである点です。配当や値上り益は、税引後利益から支払われ、節税効果がないからです。 2つ目は、値上り益は通常予想できないことです。このため上場企業の株主の期待利益率については、資本資産評価モデル( CAPM: Capital Asset Pricing Model)を使います。 ②資本資産評価モデル( CAPM) 資本資産評価モデルは、市場平均株価(日経平均など)の動きと、個別企業の株価の動きや長期金利を使って、株主の期待利益率を予測する方法です。次の式で計算することができます。
無リスク資産の利子率(リスクフリーレート)は、長期国債の利回りを使います。日経新聞などで毎日公表されています。市場全体の期待利益率は、日経平均や東証株価指数( TOPIX)の平均的な変動率を使います。 β値は、市場の株価変動に対する個別企業の感応度(市場の動きに対してどれだけ反応するか)のことで、証券会社などが計算し、ウェブサイト上にも公表されています。 β値が 1. 0ならば、市場平均の株価の変動率と個別企業の変動率が同じであることを意味します。 A社の β値が 1. 5ということは、市場全体が 10%上昇すると、その企業の株価は 15%上昇し、逆に市場全体が 10%下落するとその企業の株価は 15%下落する傾向があるということです。 計算例を示しますので、確認してみてください。 【Question】長期国債の平均利子率 2%、市場の直近 60か月の平均投資収益率 5%とします。甲社の β値は 1. 6です。 甲社の期待利益率は次のようになります。 ③非上場企業での資本コストをどうとらえるか
成熟企業は、配当を中心に株主還元を実施し、値上り益はあまり期待できません。このような場合は、配当利回り(配当 ÷株価)を自己資本の資本コストと考えることもできます。 非上場企業で株価が不明な場合は、資産を時価評価し、そこから有利子負債を控除して、時価ベースの自己資本を求め、それを発行済み株式数で割って株価を求めたり、類似業種の株価と比較して、株価を推定する方法もあります。株価の推計ができれば、配当利回りを計算することは可能です。 ■加重平均資本コスト( WACC)の計算 有利子負債と自己資本の資本コストがわかれば、有利子負債と自己資本の平均資本コストである加重平均資本コスト( WACC: Weighted Average Cost of Capital)を計算することができます。これが全体の資本コストです。 WACCは、ワックと読んでください。次のように計算します。 【Question】自己資本 20億円(自己資本の期待利益率 15%)、銀行借入 30億円(金利 5%:税引前)として、加重平均資本コストを求めなさい。ただし法人税等 35%とする。 今までの解説のように、自己資本の資本コスト(自己資本 ×期待利益率) +有利子負債の資本コスト(借入金 ×借入金利 ×( 1-法人税率))で計算します。 銀行借入金の金利( 30億円 × 5% = 1. 5億円)は、損金算入できるので、税金の分( 30億円 × 5% × 35% = 0. 525億円)だけ税金が節約できます。よって実質 1. 5億円- 0. 525億円 = 0. 975億円の負担でよいことになります。 ただし、自己資本の期待利益率は、節税効果はないので税引後で計算します。 また加重平均資本コストは、有利子負債と自己資本の構成比を使って計算することもできます。 計算としては、有利子負債と自己資本の割合 =構成比を出し、それに資本コストを掛けます。ただし、有利子負債は法人税を考慮する必要がありますので、( 1-法人税)を掛け算します。それぞれの資本コストを足すと、全体の加重平均資本コストとなります。先の例の場合、有利子負債 30億円と自己資本 20億円の金額割合は、( 60%: 40%)となります。
6-6 投資の採算を判断する方法(時間価値を考慮しない方法)事例で見る投資の収益性と安全性 投資の採算を判断する方法として、まずは簡単な、投資利回りと回収期間から判断する方法を紹介しましょう。 ■投資利回り(収益性)を単純計算してみよう 【Question】 1, 000万円の投資で、毎年末に 210万円を 5年間受け取れる以下のような年金型プラン Aがあります。あなたは、どう考えて意思決定するでしょうか。
このような金融商品の場合、リスクの説明(条件)が必要ですが、単純化のために、確実に受け取れる前提で考えることにしましょう。 まず単純に考えてみましょう。 210万円を毎年末に 5年間受け取ると、 5年間の合計で、 1, 050万円(収入額)を受け取ることになります。はじめの投資額が 1, 000万円ですから、 1, 050万円- 1, 000万円 = 50万円の利益が出ます。この投資利回りは、 50万円 ÷ 1, 000万円 × 100 = 5%ですね。ただし、この 5%は、 5年間合計の投資の収益性を示しています。そこで年平均利回りを計算してみましょう。 1年当たりの利益は 10万円( 50万円 ÷ 5年)なので、年平均利回りを単純に計算すると、 1%( 10万円 ÷ 1, 000万円)となります。 ■投資の回収期間(安全性)を単純計算してみよう 初期投資 1, 000万円を、毎年 210万円で回収すると考えると、 1, 000万円 ÷ 210万円 = 4. 76年となり、投資は約 4. 76年で回収できることがわかります。 12か月 × 0. 76 = 9. 12か月なので、 4年と 9. 12か月で回収ができるわけです。 そして残り 2. 88か月( 12か月- 9. 12か月)で利益 50万円を出していますが、利益を出している期間が非常に短いことが気になりませんか? そこで、損益分岐点の話で出てきた「経営安全額」の考え方を用いて、次のような計算をしてみましょう。 受取総額 1, 050万円を 5年( 60か月)で割ってみます。すると、 1か月当たり 17. 5万円( 1, 050万円 ÷ 60か月)受け取る計算になります。 実際の計算例を示します。 57. 12か月(損益分岐点)で、やっと投資を回収し、利益(経営安全額)が出るのは、わずか 2. 88か月です。確実に受け取れるとは言え、もっと利益が出る期間が長くないと、安心(安全性)は高くありませんね。
6-7 投資の採算を判断する方法(時間価値を考慮する方法)正味現在価値( NPV)と内部利益率( IRR)を理解しよう 前項で説明したように投資利回りと投資回収期間を単純計算する考え方は、入門者にとって理解しやすいのですが、いろいろ問題があります。これまで説明してきた、資本コストや現在価値のような時間価値を考慮していないからです。 1年を超える期間での意思決定(中長期の意思決定)では、資本コストと現在価値の考え方を取り入れ、計算する必要があります。次にその考え方を、説明しましょう。 ■正味現在価値( Net Present Value: NPV) 前項の問題を資本コストと現在価値の考え方を取り入れて考えてみましょう。年金型プラン Aは、 1, 000万円の投資を行なうと、毎年末に 210万円を 5年間にわたって受け取れるというものです。ここでは、この投資のほかに、年利回り 4%の投資プラン Bが存在しており、元本割れなどのリスクについては、年金型プラン Aと同等とします。 投資プラン Bの年利回り 4%は、年金型プラン Aの導入を考えている人にとって、資本コストになります。年金型プラン Aの利回りが 4%を超えているか否かが判断の分かれ目です。 4%は超えねばならないハードル・レートであり、年金型プラン Aをやめる切捨率になります。また、プラン Aの最低限の期待利益率です。単純計算では利回り 1%(前項参照)なので、年金プラン Aは導入できませんね。 中長期にわたる投資をする場合は、この資本コストと時間価値を考慮する必要があります。 そこで、資本コスト 4%を考慮して、 5年間の純現金収支(利益)の現在価値を計算した図 6-9を見てください。
1年後、 2年後、 3年後の 210万円を現在価値に置き直すとどうなるでしょうか? まずは現価係数を算出し、それに毎年の利益を掛けて求めていきます。要領としては、次のようになります。 現価係数を求める 毎年の現在価値を求める
正味現在価値を求める 現価係数を求める 現価係数は、将来受け取る金額から見た現在の価値を表わすもので、図 6-10のように計算します。 毎年の現在価値を求める 毎年の収入額(図 6-9参照)から投資額を引いた純現金収支は、現金ベースの毎年の利益に相当します。この純現金収支に現価係数を掛けて、毎年の純現金収支の現在価値を求めます。 スタート年の 0年において、初期投資の ▲ 1, 000万円の支出が発生します(初期投資の現価係数は 1)。その後、毎年 210万円ずつ入ってきますから、これにそれぞれの年の現価係数を掛け算します。 結果、 1年後 201. 9万円、 2年後 194. 2万円、 3年後 186. 7万円、 4年後 179. 5万円、 5年後 172. 6万円の収入となります。収入額の現在価値の合計は 934. 9万円で、単純合計の収入 1, 050万円より小さくなります。 正味現在価値( NPV)を求める 初期投資 ▲ 1, 000万円と収入の現在価値合計 934. 9万円の合計が正味現在価値です。時間価値を考慮しない純現金収支は 50(図 6-9)ですが、正味現在価値は ▲ 65. 1万円とマイナスです。正味現在価値がマイナスということは、資本コスト
4%を考慮すると年金型プラン Aは ▲ 65. 1万円だけ赤字であることを意味します。複数年にわたる投資の採算を判断するときは、時間価値を考慮する必要があるので、正味現在価値で判断することにより、利益や赤字額を計算することができます。 ■内部利益率( IRR: Internal Rate of Return)を用いた投資判断 ①投資額と収入額が同じになるときの資本コスト「内部利益率」 内部利益率という考え方があります。内部利益率は、正味現在価値がゼロになるときの、資本コストです。つまり、投資した額と同じだけの価値のフリーキャッシュフローが得られるときの資本コストです。 別な言い方をすれば、投資額(支出額)の現在価値と収入額の現在価値が一致するときの資本コストのことです。年金型プラン Aで説明すれば、図 6-11のような式が成り立つときの r(資本コスト)のことです。 rは、予想される rを推計し、シミュレーションを行なって求めます。エクセルの IRR関数を使えば、簡単に求められます。 年金型プラン Aの内部利益率は 1. 65%です。 1. 65%のとき投資額と収入額の現在価値合計が一致し、正味現在価値がゼロとなることを示します。 1. 65%は、年金型プラン Aの年間利回りそのものを意味します。 単純計算した年金型プラン Aの年間利回りが 1%なのでそれよりは大きいことがわかります。
②内部利益率と期待される利回り(期待利益率)は差が出る! 内部利益率(利回り)が 1. 65%の年金プラン Aは、それ以上の利回りを期待する投資家からは選ばれません。例のように利回り 4%の投資プラン Bが存在するから、なおさらです。年金型プラン Aが投資家に選ばれるためには、投資家が受け取る収入額をもっと増やす必要があります。 表計算ソフトで、資本コスト 4%、正味現在価値がゼロになる毎年の収入をシミュレーションしてみました(図 6-12)。 224. 63万円の収入を 5年間にわたり達成することができれば、収入の現在価値合計は、ほぼ 1, 000万円となります。そのために毎年の収入額を 14. 63万円増やす( 224. 63万円- 210万円)ような運用をしないといけません。資本コストが大きくなればなるほど、この差は広がります。
■資本コストが大きくなると、どんな影響があるか 次に資本コストが大きくなると、実際にどういう影響があるかを考えてみましょう。
①利回りが大きい投資商品が出てくるケース 資本コストが大きくなるというのは、金融商品で言えば、利回りが大きい競合商品が出てきたときです。 4%の投資プラン Bとリスクが同じで、もっと利回りが大きな投資プランが出てくれば、年金型プラン Aは、毎年の収入額を 224. 63万円より、さらに増やさなければなりませんし、投資プラン Bも選ばれないことになります。 そこで、プラン Aや Bを扱う企業では、毎年の収入額をどうやって増やすかという経営課題が生まれます。 ②企業の資本コストが大きくなるケース 企業の資本コストが大きくなるとは、加重平均資本コストがアップすることを意味します。すなわち有利子負債の金利か、株主の期待利益率がアップすることによって加重平均資本コストがアップします。 次に、アップするケースを説明します。ア.有利子負債の資本コスト(金利)がアップするケース 外部環境が影響する場合と内部環境が影響する場合に分かれます。 外部環境が影響する場合は、たとえば景気が過熱した結果、資金需要が増加し、金融機関の貸出金利がアップするケースです。また財政悪化で国債が売られるなどして長期金利がアップし、その影響で、銀行の貸出金利が上がる悪いケースも考えられます。 内部環境が影響する場合は、企業の財務の安全性が悪化し、金融機関の貸出金利がアップするケースです。イ.自己資本の資本コスト(期待利益率)がアップするケース 企業の業績が好調な場合や、戦略が高く評価され、株価がアップしている場合には、株主の期待利益率がアップします。 増配が想定されるケースでも、株価がアップし期待利益率もアップします。たとえば手元資金を多く所有していて、投資を積極的に行なわない企業は、増配期待で株価がアップすることがあります。 アやイの結果、資本コストがアップした企業は、 ROICを高める必要があります。すでに説明したように、資本コストがアップすると、収益性( ROIC)を高める必要が出てきます。つまり、将来の純現金収支(利益)を増加させるような成長戦略を市場から迫られることになります。 その期待に応えられない上場企業は、市場からの圧力を避けるために、子会社を完全子会社として吸収したり、 MBO( Management Buyout)によって、経営陣が株式を購入し、上場廃止して、資本コスト、特に自己資本の資本コストの低下を図るケースが見られます。 業績が悪化した企業が、リストラを徹底するために、目標 ROICを下げる必要から上場廃止するケースもあります。上場企業やファンドが出資する企業は、資本コストを意識した経営が求められるようになってきたことを考えると、納得がいくでしょう。
6-8 キャッシュフローの予測と採算判断(事例で総まとめ) 5年間限定のプロジェクトを採用するかどうかの判断をする これまで勉強してきた営業キャッシュフローの予測、資本コスト、現在価値などの考え方を整理するために、事例で考えてみましょう。 【Question】以下のデータや条件から、投資の採算を判断しなさい。
■中期計画の手順と内容を理解しよう 大手企業の社内ベンチャーが、 5年限定の製品販売プロジェクトを立ち上げて、 5年後に解散します。この中期計画を立ててみましょう。 必要なデータと、中期計画作成の手順を以下にまとめますので、概要をつかんでください。 ①初期投資額の見積りア.設備投資 4, 000万円( 5年間で定額償却する。残存価額はゼロ)イ.営業を開始するために必要になる運転資金の調達高* 1として、 1年目の売上高の 10%(運転資金の要調達率)* 2を投資する (* 1)運転資金の調達高 =売上債権 +在庫-買入債務 (* 2)運転資金の要調達率(%) =運転資金の調達高 ÷売上高 × 100 ② 5年間の損益予想を行なうア.販売計画(詳細は省略)に基づき売上高と限界利益率を予想イ.人件費の予想は、労働分配率を 40%と設定して予想ウ.毎期の減価償却費は、 4, 000万円 ÷ 5年 = 800万円エ.その他の固定費は、予想データの通り(詳細は省略)オ.法人税等は、営業利益の 35%とする ③キャッシュフローを予想するア.間接法を使って、営業キャッシュフローを予想する 税引後利益(営業利益-法人税等) +減価償却費-運転資金の調達高の増加(減少は +)で計算します。イ.運転資金の調達高を予想する 翌年売上高 ×運転資金の要調達率 10%で、前年末の運転資金の調達高を予想します。 この例では、売上債権、在庫、買入債務をそれぞれ予想せず、運転資金の調達高をダイレクトに予想することにしています。 5年目の運転資金の調達高は、売上高が増加しないので、 4年目と同額と予想しています。 5年目の運転資金の調達高 2, 222万円は、プロジェクト終了に伴い現金で回収します* 3(投資清算の欄)。ウ.投資キャッシュフローを計算する この例では、初期投資 4, 000万円だけです。エ.フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー +投資キャッシュフロー)を計算する (* 3) 5年目で、設備などの残存価額があれば、投資キャッシュフローに加算して、残存価額を回収する処理を行ないます。この例では、残存価額はゼロであるので、この処理は行なっていません ④予想貸借対照表も作ってみよう 予想損益計算と予想キャッシュフローが計算できると、それに基づいて、予想貸借対照表を作ることができます。予想貸借対照表によって、計画値での財務の安全性分析も可能になり、計画の妥当性を判断するデータが増え、説得力のある
計画になります。 ビジネスプランでは、ぜひ予想貸借対照表を作成しましょう。ア.資産の内容をピックアップする この例では、現金、運転資金の調達高(正味運転資金)、固定資産の3つの項目が登場しているので、それを資産としてピックアップします。イ.現金の残高は、各年のフリーキャッシュフローを累計したもの。 4年末の現金( 5, 715万円)は、 1 ~ 4年のフリーキャッシュフローの合計( 977万円 + 919万円 + 1, 478万円 + 2, 341万円。本項冒頭の図参照)と一致していることに注目してください。 この例では加算する超過額はありませんが、スタート時に、初期投資額 5, 700万円以上の現金が用意されていれば、それを加算します。たとえば、 6, 000万円の現金があれば、初期投資を除いた 300万円をフリーキャッシュフローと現金に加算します。ウ.運転資金の調達高を記入 翌年の売上高の 10%という条件なので、その金額を記入します。エ.固定資産を記入
4, 000万円から毎年の減価償却費 800万円を控除して、表示します。オ.投下資本を求める このケースでは、投下資本は、自己資本と利益剰余金の合計になります。投下資本は、スタート時の自己資本( 5, 700万円)に利益剰余金を加算して求めます。利益剰余金は、毎年の税引後利益の累計額です。 投下資本 =総資産なので、投下資本 =現金 +運転資金の調達高 +固定資産となります。カ.各年度の、 ROIC(投下資本利益率)を計算 式は、税引後利益 ÷前期・当期の平均投下資本(%)* 4です。 (* 4)平均投下資本 =(前期末投下資本 +当期末投下資本) ÷ 2となります。たとえば、 1年末の ROIC = 1年目の税引後利益 347万円 ÷(〈 5, 700万円 + 6, 047万円〉 ÷ 2) = 5. 9% 貸借対照表が、利益とキャッシュフローの影響で、変化していく姿を次の第 6章( 6-9)で、詳しく図解しています。損益計算、キャッシュフロー、貸借対照表の関係を理解するためにもぜひご覧ください。 ■正味現在価値と IRRを計算して、プロジェクトを実施するか否かを判断する 損益予想とキャッシュフローの予想ができたら、正味現在価値や計画の利回りである内部利益率( IRR)を計算しましょう。投資を実施するか否かを判断する材料が整います。 ①正味現在価値を計算してみましょう(図 6-14) 以下の手順で正味現在価値を計算してみましょう。なお、このプロジェクトが目指す資本コストは 7%とします。* 5ア. 1 ~ 5年の現価係数を計算して、各年のフリーキャッシュフローの現在価値を計算するイ.現在価値を累計して、正味現在価値を計算する* 6 (* 5)会社の財務構造や経営リスクを考慮して、資本コストを決定します (* 6)正味現在価値は、各年のフリーキャッシュフローの現在価値の合計値です
②このプロジェクトの利回り(収益性)はいくらか計算しよう 内部利益率( IRR)を求めれば、それがこのプロジェクトの利回りです。スタートの ▲ 5, 700万円を加味して、フリーキャッシュフロー(各年)の 1年後から 5年後と、投資精算 2, 222万円( 5年後)の数値を表計算ソフトの IRR関数を使って計算すると、内部利益率は 15. 79%となります。 7%の資本コストに対して、倍以上の利回りが実現できるようです。収益性の視点では、問題がなさそうです。 ③このプロジェクトの回収期間(安全性)はどうでしょう 正味現在価値(現在価値の累計:図 6-14の最後の行)を見てください。 4年目までは赤字です。 5年に入って黒字になっています。投資の回収に 5年を要するプロジェクトは、どう考えたらいいでしょうか。
業績が計画より下回って推移した場合は、回収が遅れる恐れもあります。安全性の視点では、問題がある投資と言えるでしょう。
6-9 予想貸借対照表をイメージで理解しよう図で見る 5年間の財務三表の変化 前項で取り上げた 5年間限定のプロジェクトの事例を、 5年間の貸借対照表の動きを中心に、損益、キャッシュフローの関係も図にしました。 特に、損益プランだけならわかるけれど、貸借対照表とキャッシュフローを連動させたビジネスプランの作成が難しいと感じている方は、ここで再確認してください。図で見れば、3つの決算書の関係がハッキリ見えてくるはずです。 ■事業スタートのための準備(図 6-16、図 6-17) まずは、スタート時の貸借対照表を見てみましょう。
①は、現金 5, 700万円を用意した、事業スタート時の貸借対照表です。 ②そこに、在庫投資など 1, 700万円、設備投資 4, 000万円を行ないました。運転資金への投資額(運転資金の調達高)は、営業キャッシュフローとなり、設備投資は、投資キャッシュフローとなります。 運転資金への投資は、売上債権、在庫、買入債務で考えてください。3つの項目については、回転率などを利用して予想する方法もあります。この例では、3つの項目を正味運転資金として、運転資金の調達高を直接予想しています。 図 6-17を見てください。貸借対照表では、売上債権と在庫は資産、買入債務は負債です。運転資金の調達高 A( 1, 700)は、資産と負債の差として表われています。
■ 1年後と 2年後の貸借対照表 次に 1年後と 2年後の貸借対照表を見てみましょう。
1年目の営業キャッシュフロー 977万円が、現金となっています。 2年後の現金は、 977万円 + 919万円 = 1, 896万円となります(図 6-18 ④)。 利益剰余金は、損益計算書の税引後利益が積み上がったものです。初期の投下資本(自己資本) 5, 700万円が利益剰余金だけ増加して、 2年後の自己資本は、 6, 540万円( 5, 700万円 + 347万円 + 493万円)となっているのがわかります。 固定資産( 4, 000万円)は耐用年数 5年なので、毎年、減価償却費 800万円だけ資産価値を減らします。
■ 3年後と 4年後の貸借対照表 3年後の貸借対照表では、 2年末の現金 1, 896万円に営業キャッシュフロー( 3年目 1, 478万円)が積み上がり 3, 374万円、 4年末の現金も同様に考えて、 5, 715万円となります。 利益剰余金は、税引後利益( 3年目 902万円、 4年目 1, 295万円)が積み上がり、 4年末で 3, 037万円となっています。 4年後の自己資本は、 8, 737万円( 5, 700万円 + 3, 037万円)になります。
■ 5年後の貸借対照表 4年末の現金 5, 715万円に営業キャッシュフロー( 5年目 1, 768万円)が積み上がり、 5年末の現金は 7, 483万円となります。 利益剰余金は、税引後利益( 5年目 968万円)が積み上がり、 5年末で 4, 005万円となっています。 5年後の自己資本は、 9, 705万円( 5, 700万円 + 4, 005万円)となっています。
■ 5年間のフリーキャッシュフロー(純現金収支)を見る
事業に投資した現金 5, 700万円は、 5年後に 7, 483万円になっています。この時点では、 1, 783万円( 7, 483万円- 5, 700万円)がフリーキャッシュフローです。はじめの投資 5, 700万円を回収し、かつ 1, 783万円の現金を増やしたということです。 未回収の運転資金(の調達高)が 2, 222万円あるので、最後は資金化します。するとこれが加わって、 9, 705万円の現金が残りました。 最終的なフリーキャッシュフローは、 4, 005万円( 9, 705万円- 5, 700万円)となっています。 もし 2, 222万円の回収がうまくいかないときは、 1, 783万円までフリーキャッシュフローが減少してしまう可能性(リスク)を含んでいると考えてください。
6-10 企業価値が向上するという意味将来のフリーキャッシュフローを増大させること ■企業価値とは、予想されるフリーキャッシュフローの現在価値である 「企業価値を高めよう」という掛け声をよく耳にします。 では、企業価値とは、何を意味するのでしょうか。株価と考えることもありますが、もう少し広義で考えるほうがいいでしょう。 企業価値とは、企業が今後生み出すと予想されるフリーキャッシュフロー( FCF)の現在価値の合計です(図 6-22)。このように価値を評価する方法を DCF法( Discounted Cash Flow)と呼びます。
成長戦略によって、将来の営業キャッシュフローを大きく伸ばし、投資額(投資キャッシュフロー)を早く回収できれば、 FCFは早期に黒字になります。この黒字額を積み上げると、企業価値は高まります。 第 6章( 6-8)の製品販売プロジェクトの評価の問題で登場した、プロジェクトの正味現在価値 1, 852万円は、プロジェクト価値(事業価値)です。複数の事業を行なう企業では、各事業価値の合計が企業価値となります。 たとえば、小売事業、宅配事業、輸送事業、不動産事業などを手がける電鉄会社は、各事業を相互に関連をさせながら(シナジー効果を発揮しながら)、将来のフリーキャッシュフローを増加させることで各事業の価値を高め、その合計としての電鉄会社の企業価値をアップさせています。 企業価値から、現時点の有利子負債を引いたものが株主価値です。株主価値を発行済み株式数で割って求めた 1株当たりの株主価値、すなわち株価を推計することができます。
■加重平均資本コストが大きいほど、企業価値は小さくなる ~資本コストが上がると株価が下がる理由 ~ (加重平均)資本コストが大きいほど、企業価値は小さくなります。図 6-23を見てください。資本コストが、 5%、 10%、 15%のときの企業価値の違いを計算してみました。 4年間にわたり、毎年フリーキャッシュフローが 100億円、合計 400億円発生するとして計算しています。
資本コスト 5%と 10%の企業価値の差は、 ▲ 37. 61億円です。 10%と 15%の差は、 ▲ 31. 49億円です。 5%と 15%の差は、なんと ▲ 69. 1億円も違います。 大手企業の規模になると、将来発生するフリーキャッシュフローが同じでも、資本コストのアップによって、企業価値は大きく下がってしまうことを意味しています。 この企業が現在、 150億円の有利子負債を抱えているとします。有利子負債を企業価値から控除すると、株主価値が求まります。 発行済み株式数が 1億株ならば、株価は次のようになります。 このことは、資本コストが大きくなると、株価が下がることを意味しています。 金利が上がると、株価が下がるという話は、よく聞きませんか。一般的には、次のように説明されます。 1つは、金利が上がると、借入金で設備投資をしている企業の支払利息が増加して、減益要因になるからです。 2つ目は、金利が上がるとリスクの高い株式投資より、リスクの少ない債券を買う人が増えて、株式の相対的魅力が薄れるからとも説明できます。 3つ目として、金利が上がると、資本コストがアップして、企業価値が下がるからだと説明できます。 いずれも見る視点が異なるだけで、企業価値と株主価値が下がる点では同じ結果です。せっかく資本コストを勉強したのですから、資本コストと企業価値の関係から株価を推計できることを知っておいてください。 ■加重平均資本コストが示す「資本コストの下げ方」 資本コストを下げると、企業価値が上がり、株価(株主価値)もアップすることが理解できたでしょうか。 では、資本コストを下げるにはどうしたらいいでしょうか。 資本コスト(加重平均資本コスト)は、有利子負債の資本コストと自己資本の資本コストで構成されていましたね(第 6章( 6-5)参照)。一般的に、自己資本の資本コストのほうが高いのです。その理由を考えてみましょう。 あなたが株主(自己資本の所有者)なら、 100万円を株式に投資している場合、年間でどのくらいの投資利回りを要求するでしょうか。 1%、 2%という人よりも 10%、 20%と 2桁以上の利回りを求める人が多いのではないでしょうか。値下がりでの元本割れも覚悟しているので、儲けるときは、その反動で高い利回りを得たいと考えています。リスクを負っている場合は、リターンの幅も大きくなるのが経済原則です。 これに対して、有利子負債を提供する金融機関は、自己資本コストよりも大きな利回りは、要求しないでしょう。なぜなら、金融機関は、元本は必ず返済を受ける契約なので、リスクは、株主よりも小さくなります。自己資本コストのほうが、高くなる理由です。 このように高い自己資本の資本コストを下げることは、企業価値を高める経営にとって重要です。その方法を考えてみましょう。 ①有利子負債を活用する方法 工場建設等の新規の投資を行なうときなどは、有利子負債を活用する方法があります。金利が低い時期に比較的財務の安全性が高い企業が行なう手法です。 これは「レバレッジを利かせて(負債を活用して)資本コストを下げる」などと言います。金利には節税効果があるので、資本コストの低減効果はさらに大きくなると言えます。ただし、財務の安全性が悪い企業では、借金するときの金利がアップして、資本コストの低下にはつながらないことがあります。
②自社株買いによって、自己資本を減らす この方法を使うと、自己株式は、発行済み株式数から除かれ、自己資本からもマイナスされます。自己資本比率は低下して、資本コストの低下につながります。ただし、過度な負債の活用は財務の安全性を悪化させ、過度な自社株買いは、株価のアップにつながり期待利益率をアップさせるという副作用もあるので注意が必要です。
●実践コラム 企業価値を高めることの問題点 ~企業を計る新たな視点の提案 ~ 企業価値は、将来のフリーキャッシュフローの現在価値の合計で決まります。フリーキャッシュフローは、現金ベースの純利益です。純利益は、利益剰余金を増やし、自己資本を増やし、株主価値のアップに貢献します。 すなわち、フリーキャッシュフローをアップさせて、企業価値を高めることは、株主価値(株価)を高めることと同じことです。この点は第 6章で説明したので理解できますね。 問題は、純利益やフリーキャッシュフローは、配当の原資になり、株主に帰属する点です。従業員などの給与、賞与などはすでに支払われていますから、フリーキャッシュフローは、付加価値全体を示していないのです。 付加価値は、さまざまなステークホルダー(利害関係者)への分配原資です。本書では売上高から変動費を控除した限界利益を付加価値と位置付けて説明してきました。付加価値の分配先は、ヒト(人件費)、モノ(減価償却費、地代家賃)、カネ(支払利息)、国(税金)、株主(純利益)になります。ヒトへの分配割合を労働分配率、純利益への分配を資本分配率(株主分配率)と言います。 株主重視の経営は、純利益をいかに増やすかということです。その半面、ヒト・モノ・カネ・国に対する分配をいかに抑えるかという思考に陥る恐れがあります。株主重視の経営が悪い方向に進むと、短期的な利益を追求するマネーゲームが市場を支配してしまう可能性があるのです。バブル崩壊、金融危機などは、悪い方向が現実になった例として、記憶に残っているでしょう。 もし、あなたが企業の成長を実感できないとしたら、純利益、企業価値、株価で成長を計っているからではないでしょうか。 その反省から、新たな経営尺度を模索する動きがはじまっています。 たとえば本書で扱った付加価値はどうでしょう。以前からあるものですが、管理会計では重要な指標です。これらを財務会計、すなわち公表される情報として標準化して、企業間や時系列で比較可能な状況を創り出すことができれば、世の中でも「企業の成長」という視点がより重要視されることになるでしょう。 利益が増えても、それが労働分配率(人件費)などの固定費への分配を抑え、純利益への分配を増やした結果ならば、株主は株価アップで成長を実感しても、経営者や従業員は実感できないでしょう。役員報酬や給与がアップせず、福利厚生も削減されるからです。 継続的に付加価値が増加していなければ、企業は成長しているとは言えません。付加価値が増えなければ、経営者は、増配も、給与アップもできません。固定費を抑えていては、将来の付加価値は高まるどころか、下がっていくでしょう。 付加価値を重視することで、次のような発想も引き出されます。戦略投資によって、減価償却費、リース料、人件費などの必要な固定費をかけます。その結果、付加価値が創出され、それを戦略的にステークホルダーに分配し、さらなる付加価値アップに向けて、株主、従業員、金融機関、国から新たな投資(資金)を引き出すことができます。 掛け声だけの付加価値アップではなく、付加価値を経営指標として目標化してはじめて、継続可能なマネジメントサイクルが実現できるのではないでしょうか。すなわち、企業価値の増加は、付加価値の増加によって実現できるという認識が必要であるということです。 みなさんはどう考えますか?
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