10年、 20年、当たり前だった行動を変える 今まで、獲得の手助け、参加の手助けの具体的な方法を見てきましたが、最後に、相手の「変化」を手助けする教え方について見ていきましょう。 長期的に考えれば、教える(獲得や参加といった学習を手助けする)ことで、相手の行動は変化していきます。しかし、情報社会と呼ばれ、日々、物事が新しくなっていく今の世の中で、相手が変化するのをゆっくり見守る余裕がないのも事実です。 ここでは、相手の言動が変わるよう促していくやり方を見ていきましょう。自然と変化していくのを待つのではなく、変化するように誘導するイメージです。「変化させる」と聞くと、高圧的で、上から目線で、自分本位な印象を受けてしまいますが、好ましくない言動であれば、それを正すということも教える側の重要な役目です。 しかし、言動を変えるといっても、相手が大人であれば一筋縄ではいきません。これまでの経験、自分なりの考え、プライドもある大人相手に、自分の言動を変えてもらうのは難しいものです。 10年、 20年、それが当たり前だと思って過ごしてきた行動や考え方を変えるためには、かなり意識して直さなければならないからです。ただ、少し厄介なだけで、不可能なわけではありません。 そこで、変化の手助けをよりスムーズに行えるポイントを3つ挙げたいと思います。 ●ターゲット(標的) ●シナリオ(筋書) ●フォロー(追跡) です。 それでは、次のページからひとつずつ見ていきましょう。「良い言動」と「悪い言動」の両方をターゲットにする まず、ターゲット(標的)を明確にします。ここでいうターゲットとは、相手の変えてほしい言動のことです。私たちが「変えてほしい」と考えるということは、その言動はどちらかというと「悪い」あるいは「望ましくない」言動であるといえるでしょう。例えば、服装、立ち居振る舞い、言葉遣い、お客様や周囲の人への接し方、仕事の進め方などです。 会社のメンバーとしてふさわしくない言動があるならば、改善してもらう必要があります。誤ったパソコンの操作方法や資料作成の仕方、 TPOにそぐわない身だしなみなど、仕事上必要な最低限の知識から教えなければいけない場合もあります。 それだけではなく、あいさつをしない、返事の声が小さい、お礼が言えないなど、教える立場の私たちとしては、正直「そんなことまで言わなくちゃいけないの」と思いたくなるようなことを指導することもあるかもしれません。特に、指摘する内容がマナーや言葉遣いなど、基本的な内容であればあるほど大人相手に言いづらくなりますが、それらの「悪い言動」を「望ましい言動」に改めるように指導しなければなりません。 ちなみに「良い言動」あるいは「望ましい言動」は、そのまま「続けてほしい言動」になります。「悪い言動」だけではなく、相手の「良い言動」もきちんと把握しておきます。その言動が「望ましい」ものであるということが、本人に伝われば、その後もその言動
言動を続けてくれる可能性が高くなるからです。逆に、いつも「悪い言動」ばかり指摘されていたら、相手も嫌になってくるでしょう。「変えてほしい言動」というターゲット(標的)を設定する目的は「現状と目標の差」を埋めるためです。「変えてほしい言動」(現状)は何で、「望ましい言動」(目標)は何なのか、教える私たちがはっきりさせておく必要があります。ターゲット(標的)というぐらいですから、相手の言動をよく観察する必要があります。的がきちんと見えてないと、当てることもできないので、明確にさせることが大切なのです。「望ましい言動」について考える際には、職場の他のメンバーの「良い言動」も参考にしてみてください。「変えてほしい言動」は多くても2つまで ターゲット(標的)という「変えてほしい言動」が明確になったら、次はシナリオ(筋書)を作ります。 シナリオ(筋書)といっても大げさなものではなく、「こういう順番で、こんな感じで伝えよう」と大まかな流れでかまいません。大人の言動を変えてもらうというのは、相手のプライドの問題もあり、かなり難しいことです。そのような難しいことに挑戦するわけですから、私たちも事前にある程度の準備をする必要があるのです。 シナリオ(筋書)の大まかな流れを考えるときは、次の2つを参考にしてみてください。 ●「良い点から改善点へ」 ●「吐く・吸う・吐く」 相手の言動を変えてほしいときは、まず「良い点」から伝えます。「良い言動」は今後も「続けてほしい言動」なのですから、それらの言動はこれまで通りしっかり継続してもらえるよう伝えます。行動分析学では、良い言動を誉めることで、その言動が「強化」され、繰り返されるとしています。 など、こちらが相手のことをきちんと見ているということを伝えるのです。そのためにも、抽象的な言い方ではなく、具体的な言動を伝えることが大切です。下手に、「すごくいいですよ!」と言っても、何が良いと感じているのかはっきりしていないと、「この人、何を言っているんだろう」とかえって不信感を抱かせてしまう可能性があるからです。 この後、耳に痛いことを言わなくてはいけないわけですが、相手を誉めるというワンクッションを入れることで、相手も「ここまで見てくれているこの人に言われるなら仕方ない」と思ってくれる可能性が高まります。「良い点を伝えてから、改善点を伝えてください」と言うと、ここの切り替えを難しく感じる人もいるのですが、「今伝えた点は、良い点として今後も続けてほしいんですが、1つ改善してほしい点があるんですよ」と前置きをしてから、改善点の指摘に入っていけば、よりスムーズに改善点の話ができるようになります。 良い点を伝え終わったら、改善点を伝えましょう。改善点も良い点同様、何をどうしてほしいのか具体的に伝えるようにしてください。 また、改善点は、あれもこれも言わずに、まずは1つあるいは多くても2つぐらいに留めることをお勧めします。私たちがついやってしまうのが「あれもこれも」伝えてしまうことです。私たちも言いたくないことを言っているので、少し感情的になったりすると「この機会に、まとめて言ってやろう!」と歯止めが利かなくなることもあるでしょう。しかし、一方的に改善点を伝えた場合、実際は半分以上伝わっていないことが大半です。相手も大人ですから神妙に聞いてくれていますが、心の中では納得がいってなかったり、あるいは聞き流していたりするからです。
こういう厳しいことを言う場面では、「言うべきことを言った」ことに満足し、「これで自分の役目は果たした」と考える人もいますが、教える側が目指している目的は「現状と目標の差」を埋めることであり、ターゲット(標的)である「変えてほしい言動」が目標である「望ましい言動」に変わらなければ意味がないのです。 相手にとっては耳が痛いことを言われているので、一度にあれこれ言ってもいきなりは変われません。ターゲット(標的)である「変えてほしい言動」は、絞り込んだほうがよいでしょう。そして、この「改善点を伝える」ときは、「上手な説明の仕方」でもお伝えした、「吐く・吸う・吐く」を意識されることをお勧めします。 良い点を伝えたら、「改善点」を指摘し、それに対する自分の考えや意見、時には反論や言い訳をきちんと吐き出してもらいましょう。 といったように、相手に吐き出してもらうためのきっかけとして、改善点の指摘はさらっと行うようにします。相手が自分の意見や考えを吐き出してくれたなら、その上でこちらの言い分を吸わせます。 と、改善してほしい理由( Why)と共に伝えます。具体的な改善点を伝えた後は、もう一度「吐かせ」ます。こちらの言い分を吸わせた上で、更に反論があるなら吐き出してもらいます。その上で大事なのは「今後の合意」です。 と、今後どのような言動を取ろうと考えているのか、相手に言わせるのです。ここで相手が言ってくれた内容が、今後、実際にやっていく言動ということで、次のフォロー(追跡)につながっていきます。 ここでのポイントは、今後の言動を「本人に言わせる」ことです。こちらが「今後、クレームが発生した際には、出先からでもいいので、すぐに連絡するようにして下さい」と言ってしまうのではなく、相手に言わせましょう。自分の口に出して言った言葉であれば、より納得性の高い約束になります。そのためにも、「今後、どうしますか?」と問いを投げかけた後の「間」が重要になります。相手が考え、言葉を出すまでの「間」を取ること。沈黙に耐えきれず、こちらが言葉を挟まないよう、我慢してみてください。 そして、もうひとつアドバイスをするとしたら、教える側と教わる側とで、良好な人間関係を築いておくということです。「改善点を指摘する」という、相手にとって厳しいことを言い、それをきちんと受け止めてもらうためには、「この人に言われるなら」と相手に思われるような信頼関係が必要になってくるからです。 1年でも 2年でも変わるまで気長に見守ろう「相手の変化を手助けする」の仕上げは、フォロー(追跡)です。「変えてほしい言動」(ターゲット)を相手に「改善点」として筋書(シナリオ)を通して伝えたとしても、次の日から相手の言動が変わることはないでしょう。本人なりのこだわりがあったり、プライドが邪魔をしたり、あるいはそうでなくても、今まで慣れ親しんだ言動を変えていくのは困難なものです。 そこで必要になるのが、「フォロー(追跡)」です。「今後の合意」で約束した言動をきちんと行えているのかを見ていきます。きちんとできているならば、良い点として伝えます。例えば、「 Aさん、あれから報告についてきちんと実践されていますね。さすがです」といったように、その都度声を掛けるようにします。 繰り返しになりますが、大事なのは相手の言動をよく観察することです。仮に「今後の合意」で約束したことができていないとするならば、また折を見て伝えることも必要になるかもしれません。 手間はかかりますが、大人の行動はそう簡単には変わりません。私たち自身もそうでしょう。数日、数週間で変わるときもあれば、場合によっては、数ヶ月あるいは数年かかってしまうときもあるでしょう。そのときは、気長に見守るぐらいの覚悟も必要になってき
ます。 最後に、大事なことをひとつ付け加えさせて下さい。相手に「変わってほしい」と思った時は、まず自分の行動を省みることも必要です。相手の行動を変えてほしいと思ったときは、まずは自分の行動を変えてみます。 例えば、相手に自分のことを「もっと感謝してほしい」と思ったときには、まずは自分が相手に感謝してみる。相手を変えようとするよりも、自分が変わる方が簡単です。自ら態度で示すことで、信頼関係が築かれ、教わる側も受け入れやすくなります。
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