理念系ことばの事例
この章では、ゼロベースでのビジョンのつくり方を解説します。
すでに企業ビジョンが設定されていても、その波及の度合いや効果が限定的だと考えられるなら、あらためてビジョンを設定する、もしくは見直すことには、とても意味があります。
ビジョンなど理念系のことばを生み出すことは、その過程そのものが経営トップからスタッフまで一気通貫できる思いを共有するチャンスであり、インナーブランディングの重要な局面にもなります。
場合によっては企業再生につながる作業となるでしょう。
実際にビジョンや理念づくりの現場で私が使ってきた手法を中心に、できるだけ具体的に「最高のビジョン」のつくり方をひも解いていきます。
1ビジョンを定義する曖昧な意味で使われることばたち
第一部では、ビジョンについて事例などを踏まえて語ってきましたが、ビジョンということばが何を意味するのか、その定義には言及しませんでした。
経営あるいはマーケティングの用語は、20世紀のアメリカで発達してきたため(世界的な経営学者やノーベル経済学賞受賞者の多くはアメリカ人です)、使用されている英単語が翻訳されずにそのまま入ってきています。
ビジョン、ミッション、コンセプト、ポジショニング、ターゲット、インサイト、セグメント、ブランディング、ベネフィット、ユーザー、カスタマー……。
インターネット系やデータ分析などでも同じような状態です。
ユニークユーザー、ページビュー、コンバージョン、キー・パフォーマンス・インディケーター、ライフタイムバリュー、フリークエンシー……。
私は、出身がコピーライターであるせいか、こうしたことばの意味や定義が無性に気になります。
ユーザー=利用者、カスタマー=顧客などの単純なことば、あるいはキー・パフォーマンス・インディケーター=重要業績指標、ライフタイムバリュー=顧客生涯価値など、一見意味不明に見えても中身を聞けば納得できることばは良いのです。
単純に見えるビジョン、ミッション、コンセプトなどのような大きな概念を指すことばの把握が非常に難しいのです。
なぜなら、これらのことばは、societyを「社会」、libertyを「自由」とするなど、明治期に行ったような日本語の新しいことばとして肉体化されずに、入ってきたそのままで使われているからです。
どのような文脈で、どのように作られ、どのように活用されているのか。その前提があいまいなままなのです。
そして日本語訳が単純なことばであるがゆえに、社員の行動原理や道徳律を経営ビジョンとして掲げるようなことが起こってしまいます。
この本では「ビジョン」も含め理念系のことばの意味合いを、その性質も含めて明確に規定します。
ビジョンを定義する
まず、辞書でのビジョン(VISION)の意味は、次のようになります。
「視力、視覚、(学者・思想家などの)洞察力、先見の明、(政治家などの)未来像、ビジョン、(頭に描く)幻、幻想、夢、(宗教的な)幻影」(weblio英和辞典・和英辞典)「①視覚。②幻影。③未来像。将来展望。見通し。」(広辞苑)
「vis」という接頭辞には「見る」という意味があります。そして、接尾辞の「ion」には「こと」という意味があります。
「vision」とは端的に言えば「見ること」という意味なのです。
もともとの英語単語の意味を前提にすれば「見ること」ができないものはビジョンではない、と言えるのです。
乱暴に規定すれば、ビジョンとは、一枚の「絵」でなくてはならないと言えるでしょう。
それは、あなたや、あなたが経営するあるいは属する会社や組織が共有している「視覚的なイメージ」なのです。
私には、たくさんの人を巻き込む力を持ったビジョンは、何よりも「映画のワンシーン」のように、ありありとしたイメージを喚起するものだという確信があります。
20世紀最高のビジョンを見てみよう
20世紀あるいは21世紀も含め、現時点で最高のビジョンだと思うものの一つに、マーティン・ルーサー・キング牧師の1963年のワシントン大行進での演説があります。
彼の人種差別を無くす強い意志と、人種差別がなくなった日を描くビジョナリーなことばは、英語が拙い私でも、また距離的にも時代的にも離れた、いまの日本で接しても強く心を揺さぶられます。
中でも、有名な”Ihaveadream”がリフレインされる中で語られる次のフレーズは、まさにビジョンが、どういうものであらねばならないのかをはっきりと示しています。
IhaveadreamthatonedayontheredhillsofGeorgia,thesonsofformerslavesandthesonsofformerslaveownerswillbeabletositdowntogetheratthetableofbrotherhood.私には夢がある。
それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である。
(”AMERICANCENTERJAPAN”「米国の歴史と民主主義の基本文書」内「MartinLuterKing’s”HaveaDream”Speech」及び「私には夢がある」〈1963年〉より)聞くたびに鮮烈なイメージが立ち上がります。
一度、立ち上がった、そのイメージは心に住み着いて去りません。素晴らしいビジョンとは、このような力を持っています。
ビジョンは多くの人の頭の中に、なんらかの「未来の姿」「映像」を見せます。なぜなら、それは文字通り、VISIONだからです。
つまりことば本来の意味から考えれば、視覚的なものであり、良い意味での映像を感じさせるものなのです。
ビジョンが、一つの視覚的なイメージとして描かれると、強烈な伝達力を持ちます。
そして、重要なのは、キング牧師のビジョンは単純な「絵」ではなく、明らかに「自らの意志を投影した未来像」であることです。
このことばがビジョンとして大きなエネルギーを発し続けるのは、キング牧師が多くのアフリカ系アメリカ人あるいは多くの人種差別を受けている人々の願いを、自らの願いや夢として内側に育み、こうあるべきである、という確信をもって伝えようとしたビジョンだからに他なりません。
ビジョンは、まず何よりも「自らが心から達成したいと願う未来」でなければならないのです。
それは、あなた自身がわくわくし、そのビジョンのことを考えるだけで、毎日仕事がしたくなってしまうような未来像です。
翌朝のディズニーランド行きに興奮して眠れなくなった子どもを想像してみてください。
子どもたちにとってのディズニーランドのようなイメージを、私たちがビジョンとして獲得したら、どんなに充実した毎日が送れることでしょう。
憂鬱な月曜日の朝は消え去ります。
この本で取り上げているAmazonも、Patagoniaも、さらには無印良品などでも、創業者や経営陣にわくわくするビジョンが見えた瞬間があったはずです。
ジェフ・べゾスであれば、あらゆるものがクリック一つで購入され、家に届き、家族のだれかが笑顔でそれを出迎えている瞬間。
Patagoniaのイヴォン・シュイナードであれば、美しく豊かな地球環境が世界各地に保たれていて誰もがそれを楽しんでいる世界。
無印良品であれば、簡素で、質実な生活を送る30代の若い家族の一日。それらは最初は茫洋としたイメージであっても、消せない火として彼らの胸にともったはずです。
なぜ優れたビジョンは伝染するのか
焼野原が広がるだけだった東京に、東京通信工業、のちのソニーが設立されたとき〝理想工場〟をつくると謳ったビジョンは、社内だけでなく、関わる人たちに伝染していっただろうと想像できます。
スティーブ・ジョブズが「すべての机の上にコンピューターを」と語ったとき、多くの人がそうであってほしいと強く願ったからAppleは瞬く間に巨大企業に成長しました。
Googleが、自分たちの使命は「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」と語ったとき、そこから立ち上がってくる「すべての情報にだれでもアクセスできる世界」というビジョンに衝撃を受け、興奮した人間は筆者だけでなく、世界中に無数にいたはずです。
私たち自身が魅入られる未来像でなければ、周りを巻き込み、その熱を伝染させていくことは不可能です。これらのビジョンを聞いた方は、たぶん半信半疑だったでしょう。
焼野原には食うや食わずの人々が溢れ、工場をつくろうにもないない尽くしの状態です。
インターネットはまだ勃興期で、可能性は大いに感じさせるものの、いまから考えると回線速度も、コンピューターのスペックも原始的といってよいほどのレベルです。
それでも、これらのビジョンが人を感動させたのは、微かな可能性をすくいあげた向こう側に、まったく見たことのない、つまり強烈に見たい、味わいたいと思う未来が垣間見えたからです。
それはひとりの人間や、一つの組織が立ちあげたものですが、多くの人に共有される、もしくは多くの人が共有したいと願う未来でした。
優れたビジョンは、図11のように、人や組織に固有のものでありながら、多くの人に「私の夢でもある」と思わせる力をもっています。
人々を静かに巻き込んでいく力です。
それは、たぶん個人が抱いたものであっても、その中に無私の精神が潜んでいるために、最終的には人々に共感され、共有され、みんなの夢としても力を得ていくのでしょう。
ビジョンとは、ある固有の組織や人の中に生じた「公共の夢」でもあるのです。
また優れたビジョンは、現状がどのような状態であろうと、あるべき未来を構想していく「洞察」と自らの「信念」を前提に組み立てられています。
Googleの「すべての情報にだれでもアクセスできる世界」は、まさに、現状がどうあろうと未来はこうあるべきだという強い信念にもとづいて打ち立てられたビジョンです。
あらゆる情報がデジタル化され、世界中だれでも、どこにいても、気軽にアクセスして活用できる。
これは情報の民主主義であり、情報は万人に対して徹底してオープンで、機会平等であるべきだ、という精神から生まれた、ある意味過激なビジョンです。
スタンフォード大学の博士課程で、まさにコンピューター・サイエンスの最先端にいたラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンだからこそ確信をもって描けたものです。
彼らは、正確に現状を把握できたがゆえに、その現状が向かっている流れ――未来が洞察できた。
その洞察を、信念の域にまで高めたものが、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」というミッションであり。
そこから立ち現れる「すべての情報にだれでもアクセスできる世界」というビジョンなのです。
ビジョンの性質・機能と定義
ビジョンvision優れたビジョンは、未来への洞察と自らの信念の上につくられている。であるからこそ、未来を夢見たい私たちのエネルギーを結集する力を持っているのです。
ビジョンが持つ性質は次の三点です。
ビジョンの性質
- 1.自らが心から達成したいと願う未来像である
- 2.「公共の夢」として人々を巻き込む力がある
- 3.未来への洞察と自らの信念の上につくられている
こうした性質を持ったビジョンは、企業の未来を指し示す「コンパス」であり、もっとも大きく長期的に描かれた「経営計画」であり、また「憲法」でもあります。
そのために自らの企業とビジネスがあるのですから「存在意義」「存在する理由」でもあります。
企業と一体不可分で、分けることはできないものなのです。
ジ・エブリシング・ストア、そして地球上で最もお客様を大切にする企業を目指さないAmazonが、もはやAmazonではないように。
極論すれば、ビジョンは、あなたのものではないと言えるかもしれません。特定の人のものではない。
たとえ、一人の、特定の人の頭に閃いたものであっても、世界が実現したいと願った集合的そして公共的な知恵が、「たまたま、その人を通じて現実世界に表出されたもの」ではないかと私は考えます。
ジェフ・ベゾスが居なくても遅かれ早かれ、ジ・エブリシング・ストアは誰かの頭にアイデアとして降りてきたはずなのです。
そして、こうしたビジョンは、すぐれたコンセプトがそうであるように、日々の企業活動における共有された目標となり、モチベーションの源泉となるとともに、一人ひとりの行動や判断の基準になります。
これは、コンセプトという視点でも見るなら、企業のもっとも核心にある「セントラル・コンセプト(CentralConcept)」と位置づけてもよいでしょう。
とすると次の三点がビジョンの機能になります。
ビジョンの機能
- 1.共有された目標となる
- 2.日々のモチベーションの源泉となる
- 3.行動と判断の基準になる
こうしたビジョンの性質と機能を前提にして、ビジョンを次のように定義したいと思います。
ビジョンとは、性質から見ると「多くの人に共有・共感される、未来への洞察を信念にまで高めた末に生まれた、自らが心から達成したいと願う、あるべき未来像」です。
それは企業であれば、人々の幸福につながるような価値の創造を通じて達成するものでなくてはなりません。
名著『ビジョナリーカンパニー――時代を超える生存の法則』(日経BPマーケティング)には、理念を忠実に守ろうとするビジョナリーカンパニーが、非常に高い目標を掲げ、一切の妥協を排して邁進する姿が書かれています。
自ら生み出しえる最高の価値を提供しよう、という覚悟のないものはビジョンとは言えないのです。
企業として、すぐに手に入り、すぐに提供できそうな目標は便利なものではありますが、ビジョンからは隔たっています。
そこには、あなた方が提供しうる最高の価値が含まれていなければならないからです。
そうであったら本当に素晴らしい、と思えるものだけがビジョンを名乗る資格を得ます。
そうであってこそ目標になり、モチベーションの源泉となり、行動や判断の基準という、三つの機能がちゃんと働いてくれるのです。
理念系のことばを定義してみよう
ビジョンに明確な定義が存在しなかったように、理念系を代表するミッションやコンセプトなどのことばにも、はっきりした定義は存在しません。
もちろん、ことばそのものの辞書的な意味合いは共通のものがあるのですが、それが企業経営や行政などの現場で使われる場合、明確な定義もなしに使われることがほとんどです。
それは、つまり、ミッションやコンセプトとして、あやふやなことばを掲げることが多いのが現状なのです。前項でのビジョンの定義のように、こうした理念系のことばについて本書なりに意味と働きを定義します。
本書はビジョンの働きや機能、つくり方を追求していきますが、そこで描かれた未来像を実現するためには、ビジョンを機能させるための仕組みとして、さまざまな理念系のことばの規定が必要だからです。
ここでは、最低限必要だと思われる理念系のことばの定義をはっきりさせたいと思います。やり方としては、すべてのことばの元々の意味に遡り、そこからありうべき定義を導き出します。
まずは、ミッション、コンセプト、バリューという三つのことばを定義していきます。
ミッションmission
ミッション(mission)は非常に多くの企業で使用されています。元の単語には「使命、任務、伝導、使節団、伝導団」などの意味があります。多くは「企業の使命」という意味で使われています。
元の語源であるラテン語mittereは、送るという意味合いを持っています。そこから派生したmissionは「送ること」を語源とし、伝導や使命の意味で使われるようになっています。
いわば「やむにやまれぬ熱情があって、それを使命と捉えて行動するイメージ」がこのことばの中に込められているのです。
使命とは「①使いとして命ぜられた用向き。使いの役目。②使者。③自分に課せられた任務。天職。」(広辞苑)です。
単純に解釈すれば、ミッション――使命とは〝企業が自らに課した務め〟に他なりません。
企業がミッションというとき、何者かに命ぜられて、そして何者かの使いとして事業を行うのではありません。
世の中にある、すべての企業は自らの内発的な意志(やむにやまれぬ熱情や必要性、問題意識、当事者意識)に基づいて設立されています。
従って、その中には、その意志に従った〝行うべき取り組み〟が明確に示されなければならないと、私は考えます。つまり、ミッションは次のように定義できます。事例としてAmazonを取り上げるとミッションは次のものになります。
地球上で最もお客様を大切にする企業であること、お客様がオンラインで求めるあらゆるものを探して発掘し、出来る限り低価格でご提供するよう努めること(https://www.amazon.jobs/jp/working/workingamazonより)とてもシンプルなことばが書かれているのですが、これを実際に全社的に地球規模で本気で取り組んでいるのがAmazonの凄さです。
ミッション――使命とは、日本語では「命を使う」ということでもあります。企業生命を懸けて取り組むべきことが書かれて初めて、それはミッションとして成立するのです。
コンセプトconcept
コンセプト(concept)も同様に曖昧さがただようことばです。これは日本語の辞書を見ると「概念、観念」あるいは「創造されたものの全体を貫く視点や発想」という意味が出てきます。
私たちがコンセプトということばを使うときは、おおよそ後者の意味で使っていますが、もう少し実際的な定義が必要です。
コンセプトは、実際に使っている現場では、プロジェクトや計画の骨子になることばで、関わる人たちを方向づけて自分たちが何をしようとしているのかを共有するためにあります。
つまり、事業であれば事業像を把握させ、進捗させていくテコになるようなことばなのです。
Conceptを英英辞書で引くとprinciple(プリンシプル)ということばが出てきます。
これは原理、原則、仕組み、根本方針などの意味を持っており、私はコンセプトは、この「principle」に非常に近いことばだと考えます。
それはConceptの語源をたどると「しっかりと捕まえられた」という意味にたどりつくことからも、原理、原則、根本方針などの意味をもとに定義したほうが良いでしょう。
ただし、先の辞書にもあったように、コンセプトは「創造されたものの全体を貫く視点や発想」という切り口的な要素も持っており、いままでにない概念や捉え方を言語化することが多くなります。
これは既存の考え方をなぞっただけのコンセプトでは、たくさんの人をモチベートし、動いてもらう力が弱くなるからです。
たとえば、アイドルユニットのAKB48がインドネシア、タイ、台湾、フィリピンなど世界にも輸出できたのは「会いに行けるアイドル」というコンセプトが、海外の国も含めて新鮮な切り口であり、そこに大きな潜在的な需要があったことが理由です。
人は新しい見方や、いままでにない解決の方法を喜んで迎え入れる性質があります。
こうしたことを考慮に入れて、またミッションとの関係を意識してコンセプトを定義すると次のようになります。この「新しい」という形容詞は定義においては不要かもしれません。
しかし、何かを創造するときには常にそれは新しいものとして立ち現れることを考えると、新しさが感じられる実行原理である方が稼働力があると考えて入れたものです。
コンセプトのことは、私の一冊目の著作『無印良品の「あれ」は決して安くないのになぜ飛ぶように売れるのか?』に詳細に書いているので興味がある方は手に取ってみてください。
バリューvalues
Valueは英語の辞書であれば「価格、値段、価値、重要性」などと並んで、複数形でsをつけて使うときの意味として「価値観、価値基準」が出てきます。
バリューは、後者の意味で使われることばです。海外の企業はほとんどが「values」や「corevalues(コアバリューズ)」の表記で使っています。
バリューは多くの企業で、スタッフが仕事に取り組むときの現実ベースの行動基準として定められています。日ごろ何かを行うときに優先すべき在り方、やり方です。
バリューは次のように定義できます。
これは自社を自社たらしめている文化、社風などを維持するためのものであり、ひいてはミッションを達成し、ビジョンを実現するために無くてはならないものです。
つまり、成長や目標達成がなされるための〝土壌〟の役割を果たすのが、このバリューなのです。
たとえば、Amazonには14項目の「OurLeadershipPrinciples(アウァ・リーダーシップ・プリンシプルズ)」という全スタッフに対する行動基準があります。
そのいくつかを紹介すると……・CustomerObsessionリーダーはカスタマーを起点に考え行動します。
カスタマーから信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合に注意を払いますが、何よりもカスタマーを中心に考えることにこだわります。
・Ownershipリーダーにはオーナーシップが必要です。リーダーは長期的な視野で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。
・InventandSimplifyリーダーはチームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索します。
リーダーは状況の変化に注意を払い、あらゆるところから新しいアイディアを探しだします。それは、自分たちが生み出したものだけには限りません。
私たちは新しいアイディアを実行する上で、長期間にわたり外部に誤解されうることも受け入れます。
興味がある方は、ぜひAmazonのホームページ(https://www.amazon.jobs/jp/principles)でご覧になってください。
Amazonでは、すべての成果は、この「OurLeadershipPrinciples」がなされたかを前提に評価されます。
アイデンティティidentity
もう一つ、こうした理念系のことばとして置きたいものがあります。英語ならselfdefinition(セルフ・ディフィニション)あるいはidentity(アイデンティティ)です。要は「自分は何者か」を規定することばです。
ここでは「正体、身元、自己同一性、独自性、個性」という意味を持つidentity(アイデンティティ)を使用します。
用語としては「Corporateidentity(コーポレート・アイデンティティ)」のように使用されています。
私は、このことばを学生時代に精神分析の用語として知りました。
友人から〝自分が自分であることの証明〟あるいは〝自分としてあり続けている自分〟というような説明を聞いても、よく理解できなかったことを覚えています。
しかしその後、この用語は一般化します。
いまでは「自分のアイデンティティは……」というような会話をすることも珍しいことではなくなりましたが、私たちにとって明確な概念として定義されているかというと、そうではありません。
企業におけるアイデンティティとは何か。これもソニーを例に簡単に読み解いてみましょう。
ソニーは立ち上げ当初は「自由闊達にして愉快なる理想工場」ということばを掲げてスタートしました。
これは、ソニーが、そうであったということではなく「そうあるべき、また目指すべき姿」として捉え、事業の進捗がそういう自己認識をもたらすように努力したということです。
ソニーにとって、このことばは明らかにアイデンティティとなることばです。
この自己規定を最初に行ったということは、そうした資質を当初から内側に持っていたということでもあります。
企業も人も、自分に内在しないものをカタチにしていくことはできないからです。さらに、こうしたアイデンティティを確かなものにすることが会社のためだけでなく、世の中のためにもなる。
設立趣意書からは、そうした気持ちを持っていたことが明らかに読み取れます。
つまり、企業におけるアイデンティティとは、世のためになり、多くの人が受け入れる自己像なのです。ほとんどのスタートアップは独自の自己規定を持っています。アイデンティティがはっきりしていることが多い。
しかし、その後、発展し、さまざまな事業内容を有するようになるにつれ、自己規定は揺らぎ始めます。
ソニーは、本業であるAV機器などの製造販売メーカーの顔以外に、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの映画、ソニーミュージックグループの音楽、ソニー銀行などの金融という幅広い業種に携わっています。
AV機器、映画、音楽まではハードとソフトという概念で区分けでき、「『感動』の開拓者になる」(ソニーのビジョンより)ということばで括れますが、金融を包含することはなかなかに困難です。
ここにおいて自己規定は非常に難度の高いものになります。どうしても抽象度が高く、実感をともなわないものになるからです。巨大なシステムと化した企業のアイデンティティをどう定義するのか。これは一朝一夕に解けない問題です。
理念系のことばの相関図
こうして定義した理念系のことばをまとめると図12のようになります。これらの理念系のことばの位置関係や関わりを簡単に解説します。
図13をご覧ください。
イラストでは、企業そのものにあたるのは弓を射る人です。
人《企業》は、弓を射る能力と、そのための優れた道具を持っていることを自覚し、あるべき自己像《アイデンティティ》をおぼつかないながら定めます。
私はこう生きるのだ、このように世の中に貢献するのだと決めます。この人の中には、こんな世の中であってほしい、こういう未来が来てほしいという思いが渦巻いています。
切れ切れに閃いて見えてくる未来を、分かりやすい一つのイメージ、魅力的な一つのフレーズにしたものが《ビジョン》です。
そして、ビジョンのために私にできること、できそうなこと、高い目標だけれど未来のためにやりたい、やらなければならないと思う取り組みである《ミッション》を定めます。
この取り組みを最大限効果的に実行していくには、どんな原理原則で行えばいいのか。それが《コンセプト》です。私の能力と資源を使って世の中の問題を解決すること。そのことにより自分の力をつけ、思い描いたビジョンを実現する。
その日々の行動のときに優先する価値基準が《バリュー》になります。これら理念系のことばは、どれも重要なのですが、もっとも重要なのはアイデンティティとビジョンです。
なぜなら、アイデンティティによりビジョンは生まれ、ビジョンによりアイデンティティは活性化し、成長するからです。
図13はまとめると次のような文章になります。
弓を射る人というアイデンティティを持つ自分がバリューという心構えのもとコンセプトという強力な弓を使ってミッションという矢をビジョンという的に向けて放つ
それは、私たちが思春期あるいは20代や30代のときに自分は何が好きなのか、何が得意なのかを試行錯誤しながら探り、将来的な夢を描くと同時に、世の中に自分の居場所や社会的ポジションを得ようと格闘することとまったく同じなのです。
あるべき自己像《アイデンティティ》を構想すると同時に、その自分が世の中の問題解決をし、理想とする未来《ビジョン》を招き寄せる。
これらは企業活動でも、私たち個々の人生においても車の両輪のような存在だと言っても過言ではありません。両輪が定まってくると、自らが行うべき取り組みが(たとえそれが困難な取り組みであっても)《ミッション》として明確になってきます。ミッションとはビジョンを達成するため、つまりビジョンという的を射るための矢であり、必要な武器です。
そして、その矢をもっとも効果的に射るための弓が新しい切り口やアイデアを含んだ実行原理としての《コンセプト》なのです。
《バリュー》は、この弓を射るときの心構えと言ってもよいでしょう。このサイクルの中で企業は成長し、ビジョンは実現へと歩みを進めます。
理念系のことばの事例企業の理念系のことばを、いくつかの資料に当たりながら、この本での定義に沿って整理してみましょう。
Amazonなら以下のようになります。
コンセプトは、アマゾンデータサービスジャパン株式会社・社長の長崎忠雄氏の講演「アマゾンはなぜクラウドサービスでも成功できたのか?ジェフ・ベゾスの思考を読み解く3つのキーワード」(『logmi』より)を参考にさせていただいています。
- ・ビジョン………………ジ・エブリシング・ストア
- ・ミッション……………地球上で最もお客様を大切にする企業であること
- ・コンセプト……………徹底的な顧客志向/発明と革新/長期的な視点
- ・バリュー………………全スタッフがリーダーとして行動する(アウァ・リーダーシップ・プリンシプルズ)
- ・アイデンティティ……地球上で最もお客様を大切にする
企業もう一つ、事例を上げます。ユニクロを展開するファーストリテイリングです。
代表取締役会長兼社長である柳井正氏の個性が色濃く出た理念系のことばは、規模の大きな日本企業にはめずらしく意図を明解にしたもので、一つの優れた事例であると思います。
ホームページなどに掲載されていた理念系のことばをまとめます。
- ・ビジョン………………(服のチカラを、社会のチカラに。※サステナビリティステートメントより)
- ・ミッション……………服を変え、常識を変え、世界を変えていく
- ・コンセプト……………LifeWear
- ・バリュー………………お客様の立場に立脚/革新と挑戦/個の尊重、会社と個人の成長/正しさへのこだわり
- ・アイデンティティ……世界No.1のアパレル情報製造小売業グループ
ファーストリテイリングには、現状、ビジョンというタイトルで書かれたものはサステナビリティステートメントと題された「服のチカラを、社会のチカラに。」ということばがあるだけです。
残念ながら企業体として発信しているようなビジョンは記載されていませんでした。
しかし、この「服のチカラを、社会のチカラに。」やミッションである「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」ということばは、私が定義するビジョンに近いものです。
実際のビジョンとしては、柳井氏が掲げる「世界No.1のアパレル情報製造小売業グループ」かもしれません。
ただ、これは企業目標であり、多くの人に共感される〝公共の夢〟としての要素が少なく、この本で定義しているビジョンには該当しません。
私がビジョンを感じるのは、世界中の人にとっての「究極の普段着」あるいは「服のインフラ」を提供するというLifeWearというコンセプトや、服をとりまく情報を高速でやりとりして製品として無駄なく届ける「情報製造小売業」というファーストリテイリングのアプローチそのものです。
その意味では、どのような世界を目指すのかは不明ですが「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」はアパレル産業の中で、自社の在り方を規定し、公共的な未来を意志しているという意味で、ビジョンに近づいていることばだと言えます。
続いてのページでは、実際のビジョンづくりをひも解いていきます。
2ビジョンを見出す ビジョンのためのチームづくり
まず、ビジョンを創るチーム「ビジョン創生チーム」を編成します。
経営幹部全員の参加が理想ですが、経営企画などの部署があれば、その部署を中心に特任チームを編成してもよいでしょう。
なるべく会社のいろいろな部署から発想が異なる多様なメンバーを集めた方が良いと思います。チームは経営トップ直轄、少なくとも経営陣直属のチームにします。
同質性の高いメンバーは、現在の延長上に想定内の〝正しそうな答え〟を出すことにはたけていますが、意外性や驚きのある、つまりはインパクトのある答えにたどり着く力は少なくなります。
当初のメンバー間のすり合わせや調整に多少の手間はかかっても、多様なメンバーでのビジョン作成をお勧めします。
人数はリーダーを入れて、多くても7名以内がベストです。人がチームを率いて能力を最大限発揮できる人数は7名までと聞きます。
私が知るコンサルティング企業はすべてのチームを7名以下で構成しています。7名を超えて増えるなら二つに分けます。会社の組織を構成する人員は、すべて7の倍数で出来ているそうです。
できればリーダーを入れて7名で構成するようにしてください。それ以上であれば1名のリーダーの下にサブリーダー2名と2グループを置き、グループ活動を分けて考えた方が良いでしょう。
私がコンサルティングする場合も、できるだけ7名以内に絞り込んでもらいます。
経験的にもそれ以上だとまとまりが悪くなり、コミュニケーションが密に取れない部分が出てきます。
複数名が原則ですが、たとえば起業準備中で自分しかいない場合は、周りに意見を聞くようにしてください。視点を一つにしないことが重要です。
チームに、こうしたビジョンなどの創作経験のある人員を外部からアドバイザーとして迎えるのも良いでしょう。社内だけだと思考が固まりがちになりますが、外部の人がひとり入るだけで思考をほぐしてくれます。
同時に全体の進捗についてのアドバイスをもらったり、ファシリテートを依頼したりすることもできます。なお、チームを事務局として置き、全社員参加型でつくることも大いにあります。
時間はかかりますが、全員でつくるプロセスそのものがビジョンをより効果的なものにしてくれます。チームメンバーが固まったら、リーダーを決め、チームの名称を決めます。そして、理念系のことばの各規定をメンバーですり合わせ、目的と目標を確認します。
次にチームで、ビジョンが出来上がるまでのステップとざっくりとしたスケジュールを作成します。
私の経験では、ビジョンの草案ができるまでの期間は、従業員100名前後まででチームが専任で行う場合は、どんなに急いでも最低4カ月、120日前後は必要だと思ってください。
これでも短いほうだと思います。企業規模が大きくなれば1年近い、あるいはそれ以上のスケジュールを組むこともあります。
全員参加型であれば時間は長くなります。企業の根幹にかかわるものですから、拙速につくることがもっともリソースを無駄にします。ビジョンは自動販売機でコーヒーを買うように簡単には手に入りません。
企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)に意外なほど時間がかかるのも、ロゴやスローガンなど、単純でごまかしがきかず何十年も使用されるものだからです。
いったんつくったら簡単に建て替えられない自社ビルのようなものです。社内社外誰にとっても同じ意味合いが伝わり、発想をインスパイアし、古びないものを目指してください。
ただ、これから起業する場合は、設立目的などはっきりしていることが多く、また、Amazonを例に引くまでもなく、ビジョンありきで創業することも多いので4カ月、1年という時間にとらわれる必要はないかもしれません。
自分たちのスキルや持っているリソースを活用することを目的に起業する場合など、ビジョンなしで起業する場合も多々あります。
この場合はビジョンを創業に合わせて用意しなくとも、ビジネスを組み立てながら、そして自分たちのビジネスの行く末を見つめながら、他の理念系のことばとともにつくっていっても良いでしょう。
ビジョンづくりのステップ
ビジョンづくりは次のように大きく三つのステップに分かれます。
探索ステップ創出ステップ・マッピング・バリューグラフ・言語化定着ステップ探索ステップは自社を取り巻く状況を俯瞰できるよう、さまざまなデータを取得したり、企業の歴史を振り返ったり、経営幹部へのインタビュー、いろいろな部署のスタッフ、顧客や関係者へのインタビューやアンケートを行います。
創業の志、将来にわたっての事業の可能性、利益を生み出す源泉、社風やカルチャーなど、自社の企業的な本質がどこに、どのようなカタチであるのかを見定めるためのリサーチです。
詳細な数字の検討などは不要です。自社のアイデンティティをチームで把握するための前作業だと考えてください。探索ステップをベースに、創出ステップに時間をかけて取り組みます。
創出ステップは「マッピング」「バリューグラフ」「言語化」の三つの作業で出来ています。
マッピングは企業を要素に分解し、客観化する作業になります。マッピングとは、要素と要素の関連づけを発見していく作業で、企業に眠るポテンシャルや方向性などを探るものです。
私が自分のクライアントのビジョンづくりや理念づくりで、必ずこれを行うのは、表面に現れないもっとも根源的な企業の思いを発見できるからです。
さまざまな角度からこの作業を行うことで、ぶれない核心が発見できる。ビジョンづくり、理念づくりでは、この作業は絶対に欠かすことはできないと思います。それは3人の企業でも30万人の企業でも同じことです。
バリューグラフは、マッピングで引き出した重要な要素(ビジョンの種となるもの)の背後にある思いや願望を探り、さらに、その具体的な方法論を導き出します。
ビジョンの種からちゃんと花が咲くのかを確かめる作業とも言えます。創出ステップではどれだけ進んでも必要があれば何度も戻って作業を進めます。
そしてディスカッションしながら、言語化でビジョンを生み出します。このステップに80%の時間を掛けるイメージでいてください。
最後の定着ステップは時間を掛けて全社に浸透させていくための期間と捉えてください。スタッフに対して、理解と共感ベースでの浸透を図る過程です。
ビジョンづくりの工程を二つに分けるなら、定着ステップは探索ステップ、創出ステップ以上の重みを持ちます。
最終的にはスタッフの行動レベル、思考にまでビジョンを落とし込むことを目指します。定着ステップは次の第6章で詳述します。
いずれにしても、ビジョンは、自分たちの出自のもっとも深い根を明らかにすることから始めなければなりません。
ゆるぎないビジョンは、図14のように、土壌に張った企業の根から強い思いが成長して初めて姿を現します。
ビジョンは、あなたの会社、あなたの事業の外にはありません。ビジョンは、自分の深い根の中から芽を出します。内側から見出すしかないのです。
もし、それを外に求め、お仕着せのものをビジョンとして置くなら、遅かれ早かれ、そのビジョンがダメになるか、会社がダメになるかでしょう。
ビジョンを創るとは内側に光るものを見つけ、形にする行為なのです。
それを頭の片隅に置いて始めてください。
探索ステップ1創業の歴史を振り返る
企業のビジョンづくりで、必ず行ってほしいのが〝創業の志〟をひも解くことです。
その企業が生まれた瞬間に戻って、誰が、どのような目的や志を抱いて立ち上げたのかを探ってください。
社史などがあればそれを参照したり、OBを訪問して当時のことを聞いたりしてもよいでしょう。
また取引先などでも当時を知る人がいればインタビューを行ってもよいと思います。企業の創業当時の姿には、現在に続くその企業のDNAがはっきりと表れています。
その後の歩みを見ていけば企業として「絶対に外せないこと」「変えてはいけないこと」がはっきりしてきます。
先に取り上げたPatagoniaで言えば、自然を慈しみ楽しむこと、そういうことが大好きな人たちがつくった企業であり、ブランドであるという出自はこれからも変わることはありません。
Patagoniaの活動は、すべてがその延長線上にあります。経営幹部あるいは主要メンバーで、それらのことを深く認識しているからブレないものが出来上がるのです。
事実とともにエピソードや発したことばなども丁寧に拾ってください。メインストーリーではない、こうしたサイドストーリーに企業の本質を表すヒントは眠っていることが多いものです。
創業当時を知る貴重な機会でもあるので、社内外に積極的なインタビューをお勧めします。インタビューは書き起こし、全員で共有するようにします。
探索ステップ2経営幹部インタビュー
1の「創業の歴史を振り返る」と同時に、代表取締役も含めた経営幹部全員のインタビューを行ってください。
創業のリサーチと重複する内容がある場合は割愛していただいて結構です。
インタビューは一人ひとりの生まれから家族関係、幼少時代の思い出も含め、その人の自分史をヒアリングし、書きとめることからスタートします。
なぜここまで行うのかというと、組織は、5名にも満たない組織も、トヨタのような一つの街とでも呼べるような大きな組織も、経営トップや経営トップ層の考え方や体質で組織の体質が決まってしまうからです。
それは仕事であらゆる業種の企業とお付き合いしてきた私の実感でもあります。
誤解を恐れずに言えば、組織とは経営トップの願望を実現するために存在するとも言います。次の質問に答えてもらいます。
全部で15問あります。一つずつゆっくり思い出しながらで構いません。誰かをインタビュアーに仕立てて質問してもらい、それを録音していただいても構いません。
ただ録音は書き起こして必ず文字化してください。このインタビューはビジョン創生チームのメンバー同士でも全員行ってください。お互いがお互いのパーソナリティと思いを深く知ることはチームビルディングの第一歩となります。
探索ステップ3スタッフインタビュー&アンケート
経営幹部と同じ15項目について社内スタッフにインタビューを行います。
部署はできるだけ多様な部署からピックアップするようにし、満遍なく社内の状況が分かるような人数のインタビューを行います。
私が手掛ける場合であれば各部署から2名ずつ(小規模の場合は1名)を選抜し、インタビューを行います。
インタビュー内容はチーム内では詳細まで共有しますが、できるだけバイアスを取り除くため、非公開が原則です。
内容はそれでも仕事内容などが入るため個人が特定されやすくなりますが、できるだけ個人特定ができないようにして共有していきます。
すべてのリサーチをまとめます。
創業者も含めインタビューも一つの資料にまとめておきます。
また全員参加型の場合、WEBアンケートを使って、簡易的に、自社をどう見ているのか、社員にとっての事業の未来像はどのようなものなのか。
また、自社の強み弱み、課題や問題点などをクリック形式とフリーアンサー形式で集めることもできます。
無料有料どちらでも多様なサービスがあります。集計も楽でグラフ化などデータでの参照もできるので導入を検討されてもよいでしょう。
探索ステップ4顧客および社外関係者へのインタビュー
顧客や取引先などへのインタビューもできれば行ってください。
フリーアンサー形式のアンケートなら属性(年代、性別、業種)などを記載してもらい無記名で行ってもよいでしょう。
簡単に行うためにアンケート専用サイトを開設し、メールでそちらに誘導してもらって回収する方が労力も少なくて良いかもしれません。
次のようなことを聞いてみて下さい。
探索ステップ5環境を分析する
自社の現状を把握するために環境分析を行います。
さまざまな分析用のフレームワークがありますので、良く仕事で使われるフレームワークがあればそれをお使いいただいて構いません。
詳細な分析より、概要や流れを把握することを優先させてください。
「3C分析」もしくは「SWOT分析」と、外部の大きな環境に特化した「PEST分析」の併用をお勧めします。
いずれも、ごく一般的な手法でご存知の方も多いと思いますが、復習の意味で簡単にまとめておきます。
・3C分析
3Cは企業を取りまく環境を分析する手法で、環境を市場・顧客(customer)、自社(company)、競合(competitor)に分け、それぞれの特徴、強み、弱みなどを見ていきます(図15)。
顧客は市場規模や成長の度合など、市場全体の環境も含めて整理しながら、顧客の特徴や傾向、消費行動などを洗い出します。
競合は想定される市場環境の中で、どのような競合が存在し、どのような戦略を描いているのか、特徴は何か、現状はどうかを分析・整理します。
マークしているライバルがいれば、該当企業を中心に分析していただいてもよいでしょう。
自社は、この2項目を前提にどのような状況にあるかを見ていきます。売上推移や成長率など定量的なものから、戦略や課題まで分析・整理します。
・SWOT分析
SWOTは、現状から将来にわたってどのようなビジネスチャンスがあるかを明らかにしていく分析手法です(図16)。
企業環境を外部環境や内部環境の面から、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)として整理します。
内部環境では強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、たとえば技術や資源、コスト、市場での知名度や認知率、ブランドイメージなどを見ていきます。
外部環境では機会(Opportunities)と脅威(Threats)、市場の環境や競合他社の動向、技術進化や社会の動向などを見ます。
強みと機会がポジティブ要因で、弱みと脅威がネガティブ要因になります。
ただし、注意してほしいのは、できるだけ客観的に、またデータを使いながらこうした分析を行っていっても、最終的には主観的な要素は排除できないことです。
したがってこうした分析は、絶対的なものとして扱うのではなく、概要という意識で使用していくと良いでしょう。
・PEST分析
最後はPEST分析(図17)です。ビジョンづくりにはとても重要だと考えます。
なぜならビジョンは「自社の夢」と「公共の夢」が重なる領域に生まれるもので、それには未来を見通す作業が不可欠だからです。
PESTは、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字を取ったもので、マクロ環境をもれなく把握するために行います。
SWOTの「機会と脅威」を詳細に分析するものと言えばよいでしょうか。
政治(Politics)は、規制や緩和など市場や競争環境の変化に結びつく法律や法改正、税制などの変化、国内また国際政治の動向、傾向などの要因を整理します。
経済(Economy)は、業績に反映されやすい景気動向や経済成長率、為替などの動き、各種経済指標を分析・整理します。
社会(Society)は、市場環境そのものを左右させる人口動態や、高齢化などの社会的な要因、流行や世論、文化の動向などを見ます。
技術(Technology)は、できるだけ最新の動向を見ていってほしい項目です。
AIやロボティクス、フィンテックなど爆発的な技術進化があちこちで起きている状況なので、世界的なトレンドと動向、自社が関わる分野のさまざまな技術的な芽をキャッチアップした上で、整理してみてください。
PEST分析で10年後、20年後といった先を見るポイントは、人口動態などのように、ほぼ予測通りに進行する事象を把握するようにすることです。
そうするとその他のものの予測もしやすくなります。
また、こうしたマクロ環境分析は、日本の高度成長をかなり初期から予測していたイギリスの経済紙「TheEconomist」が行うものなど定評のあるものが存在するので、そういったものを参考にするとよいでしょう。
分析はチームで行います。自社の現状を分析した資料も用意します。
こうした分析をもとに自由にディスカッションしながら進めていきましょう。集めた素材、資料、書籍などはすべて次のステップのヒントになります。
全員で使えるように分かりやすく整理し、クラウドに保管するなど共有しやすい状態をつくってください。
創出ステップ1最初の問いを確認する
ここから集めた素材をもとに、自社を深く掘り下げるステップに入っていきます。自由に議論をして視野を広げていきます。
ここの役目は、探索ステップで得た素材をヒントに、問いを発して、企業の自画像を描き、アイデンティティを探り、多くの個が集まった組織体が心から強く望むものは何かを探ることです。
そのときに忘れてほしくないのが「WHY」の意識です。「なぜ?」と問う意識です。
画家のポール・ゴーギャンにタヒチ時代に描いた、ゴーギャンの代表作ともいうべき絵があります。
アメリカのボストン美術館に収蔵されている、この絵のタイトルは「我々はどこから来たのか我々は何者か我々はどこへ行くのか」です。
ビジョンの持つ意味、機能、創るときに問わなければならないことは、ここに言い尽くされています。
ゴーギャンが彼の中から湧き出てきた〝根源的な問い〟をタイトルにした絵は、一人の人間としての私たちにとっても、企業にとっても等しく〝根源的な問い〟です。
こうした質問を「根源的質問」と呼びます。ビジョンづくりは、この問いに向き合う過程に他なりません。
次の質問を投げかけるセッションをまずチームで行ってください。もっとも重要な問いです。
まずは、WHYなのです。この問いの答えがビジョンに直結します。原点の意志を問います。
1970年代から80年代にかけてのロックミュージックの評論でよく使われたことばに、「初期衝動を対象化する」ということばがありました。
音楽評論家の渋谷陽一氏が使っていたと記憶しています。
当時のロックは、若者がやむにやまれず歌い、ギターをかき鳴らす、叫び出したいような衝動だけで出来ているような音楽でした。
しかし、それだけでは音楽表現として成長することはできません。
音楽を、本当に自分の表現手段とするには、心の奥深くにある最初の衝動を冷静に見つめ、自分のアイデンティティとして対象化し、使えるものとしなければいけない。
それが「初期衝動を対象化する」ということでした。
どんな事業にも、この本で取り上げた事例を見るまでもなく、初期衝動が存在します。
ビジョンをつくるとは、事業を始めたときから現在を経て未来までの、企業の全体像を対象化する作業です。
対象化とは、それまで主観的にしか把握しえなかったものを、いったん自分の外に置き、外の世界との関係を考えながら、意味を明確にしていくことです。
そのための質問が「なぜ、私たちは、この事業を行っているのか」なのです。この質問は顧客の視点からも考えることが有効かもしれません。
その場合は、顧客のエンドベネフィット、最終的な便益を考えていくことです。
トヨタは自社視点であれば自動車の製造販売会社ですが、顧客視点であれば、移動サービスを提供する会社です。
以前掲げていた「Funtodrive」という企業スローガンは自由な移動にともなう感動を提供する会社という意味を伝えています。
トヨタは、今後、自動運転が普及し始めると「移動のための快適を提供するインフラ企業」になる可能性もあります。
Appleは、スティーブ・ジョブズの「Acomputeroneverydesk(すべての机の上にコンピューターを)」というビジョンを実行した会社です。
これも単純な視点であれば自己規定はパーソナル・コンピューター製造販売会社です。
しかし、ジョブズは、人々の手に当時のIBMと同じような高機能のコンピューターを与えて、人々の創造力を開放することを夢みました。
1991年、日本で発売当時のAppleComputer,Inc.(アップルコンピュータ)のCMが「トツゼン自転車に乗れるようになった、あの感じです。」という、人とコンピューターの関係を言い表したことが象徴するように、ただの電子計算機ではなく、人をエンパワーする、活力を与える道具として捉えていました。
Appleという社名にはニュートンのリンゴの次のリンゴという意味が込められていると言います。1976年の創業当初のロゴ(図19)はそのことを表しているのでしょう。
そういう意味では、初期のAppleは「人間の能力を拡張する会社」だったのです。答えは簡単に出ないでしょう。
出るようであれば世の中には、素晴らしいビジョンを掲げた会社が林立しているはずですが、そのような様子はありません。皆、仕事にまぎれて忘れてしまうのです。
または、その問いを自らに発したことがないか、問い続けている最中なのか、諦めてしまったか。あるいは、さほど重要ではないと思っているのです。
この問いを中心に置きながら、さまざまなディスカッションで、その答えに迫って行きます。
強く意識してほしいのは、この問いを中心に置くということは、ビジョンづくりは「企業の自己変革の始まりであり、また停滞している組織であれば再生のチャンスである」ということです。
存在意義を問い直す根源的な質問とは、そういう働きを内包した質問なのです。
20文字にも満たないことばに、そんな大きな意味が込められていると想像しなかったかもしれませんが、事実です。
気をつけてほしいのはWHAT?と最初に問わないことです。初めに「何を?」と問うてはいけません。
何をすべきか、何に向かって進むべきかと問うことは、自分がなぜ存在しているのかを明確に規定したあとに考えることです。
分からないままの状態で目標や目的を考えることは、すべてをあやふやにした土台の上に、未来を組み立てることに他なりません。
孫子の兵法書にあるとおり「彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し」(『新訂孫子』岩波書店)なのです。
まずは「己を知る」状態に自分を持っていくことが、このステップです。
自分を知ることが、ビジョンをつくるのみならず、すべての理念系の規定をつくりあげるときに必須のステップです。ただ、このステップで最終的な答えを出す必要はありません。
ここでは〝仮説〟としておおよそチームメンバーで合意できるものを出しておきましょう。
創出ステップ2マッピング mapping要素に分解して整理する
前項の問いに対する答えの仮説を頭に、次に自社を俯瞰する作業を行います。
これはリサーチのステージで集まった素材を要素に分解して、どのように自社が成り立っているのかを一歩引いた眼で見るための作業です。
ビジョンをつくるためのピースを集める作業になります。行うことはシンプルです。
インタビュー、分析などのデータからキーワードとなることば(単語か短いセンテンスに限ります)をピックアップしていきます。
まずは、すべての資料を、メンバー各自が読みながらキーになることばに印をつけ、ポストイットなどの付箋紙に一枚一文で書き写します。
頻出することば、気になることば、明らかなキーワードなどを抜き出していきます。抽出作業は個々で行い、書き写し以降をチーム全員でやるやり方でも構いません。
付箋紙は大きめのものにして、文字も油性マジックなどではっきり書き込むように簡単なルールを決めてください。
この作業後は、全員でことばを検討しながら絞り込んでいくので、遠くから見てもハッキリ分かるように書きます。
こうした作業をPC上で行う「テキストマイニング」という手法もあります。集めたテキストデータをすべてPCに読み込ませて処理し、ことばの出現頻度や相関などを解析する手法です。
WEB上で実行できる簡易的な無料サービスやフリーソフトもありますので、参考として使っても良いかもしれません(参考:ユーザーローカル提供「テキストマイニングツール」https://textmining.userlocal.jp/)。
顧客の声の分析などによく使われる手法で、精密なものは専用ソフトもしくはこうしたことを行えるところにアウトソースする必要がありますが、リサーチでアンケートなどが膨大にある場合は労力なく一気に処理できますのでお勧めです。
ことばの出現頻度などやことば同士の関係性が客観的にデータ化されるので、インタビューやアンケートなど膨大な資料の中から、自分たちが何を大切にしているのか、また、どういったことに関心があるのかがデータとして示されます。
ただ、テキストマイニングを行ったとしても、基本的には付箋紙に書き写し、デスクや壁に貼って全体を一覧できるようにします。
貼るときに、似た意味合いのことばはまとめながら貼ると良いでしょう。こうして同一の意味や要素を持つことばをグルーピングしていきます。
同じようなことばが集まれば代表して一枚の付箋紙にそのことばを書きつけ、さらにピックアップされた、同じ意味だと考えられる付箋の数を小さく隅に「正」の字などで書きつけて壁に貼り、無駄なものは外しておきます。
「正」の数はそのことばや考え方の重みづけ、重要性を表すものとなります(図20)。
また、誰がそのことばをピックアップしたか分かるように付箋紙の片隅にイニシャルを書く方法もあります。これは、こうした要素分解をもとに個々に意見を出し合い、議論する時に便利です。
壁などに貼れる巨大なポストイット用紙があるので、それを壁に貼って付箋紙を貼る、もしくはポスター用のスチレンボードを必要枚数使って、グループ分けに使用すると展開、片づけが楽です。
もっとも良いのは、このビジョン創生チーム専用の部屋をプロジェクト期間中、用意することです。
メンバーに時間があるときに、いつでも検討でき、通常の業務からの切り替えもしやすく、作業もはかどります。
ぜひ、余裕があれば用意することをお勧めします。この作業は何かを創造をするときの拡散のステージに当たります。
何か新しいもの生み出すこと、創造することは基本的にアイデアやイメージを広げて、可能性をすべてテーブルに載せていく右脳的な「拡散」と、検討材料としてテーブルに載せたものを論理的、理性的に判断して絞り込んでいく左脳的な「収束」という二つの思考からできています。
創出ステップでは、マッピング、バリューグラフ、言語化のそれぞれで、この拡散・収束の思考を行っていきます。
始まりの質問である「なぜ、私たちは、この事業を行っているのか?」という文章は大きく紙に書き、作業する部屋に貼っておくとよいでしょう。
創出ステップ3マッピングmappingグルーピングで意味合いを引き出す
ここからは、AIのテクノロジーに特化した架空の会社ABC社があるとして、その会社のビジョンをつくるという形で事例を示していきます。
数多く出てきたことばから、以下のことば(次の図21「正」の字とカラーリングは使用していません)を最終的にピックアップしたと仮定してください。
おおよそ無駄なものは、もう外された状態です。
こうしてピックアップされたことばを一望しながら、意味合い、ジャンル、価値が近いことばをグルーピングしていきます。
グルーピングを一度したものを検討しながら、グルーピングの精度を上げていきます。意味合いやジャンル、価値の近いことばを集約させていきます。
これは親和図法というやり方をベースにした方法です。
次の図22の事例のように感覚的な判断で大丈夫なので、まずは、ざっくりと区分けしてしまいます。
この時、グルーピングの過程をスマートフォンの写真や動画で収録しておくと、あとで自分たちがどのような思考過程で、判断を行っているかを検証できます。
こうしてグルーピングしていくと、不要なことばや、一つにまとめられることばが出てくることがあります。
その時は、はがすなり、まとめるなりして減らしていきます。こうしてできたグループを、それぞれ時系列に並べます。
左側に実現できていること(現在)、右に行くにしたがって、まだ実現できていないこと(未来)を置きます。
そして、これらのグループは、ほとんどの場合「取り組んでいること」と、その「取り組みで得たい成果」という大きな二つのグループに分けられます。
この大きなグループを上下に分け、図23のように並べてみましょう。
次に、それぞれのグループに名前をつけていきます。グループの意味、価値、位置づけを考えながら、自分たちにとって分かりやすいことばでグループの名前を決定します(図24)。
そして、グループの名前を貼り込み、グループ同士の関連性を矢印などで明らかにして全体の構造を視覚化していきます。
すべてのことばの中で(おおよそグループに一つあるかないか)重要なものに印をつけ、その関係も、やはり矢印などを使って視覚化します。
ABC社は次のようになりました(図25)。
多くのことばを整理しながら、その結びつきや流れをはっきりさせていくと、企業が向かうベクトルと構造が明らかになってきます。
取り組みと期待している成果を見ることで、自分たちがどこへ行こうとしているのかが明確になってきます。
ビジョンが成り立つ上での見取り図のようなものが完成します。
この中でも「公共の夢」として社会と共有できることば、気になることばに印をつけ、その代表となるキーセンテンスをピックアップします。
ことば同士の関係が図示され、議論を重ねることで私たちABC社は単なるテクノロジー企業ではなく、社会の変革に取り組みたい熱意を創業から持ち続けていることが明らかになってきました。
「人生をサポートするテクノロジーを可能に」「テクノロジーが人の喜びに奉仕する」「人生のOSをアップデートできるAI」など、いまは想像もつかないけど、そうなったらいいなあと思えるキーワードが未来の方向に並んでいます。
そこで、これらのすべてを結ぶことばとして「社会の仕組みのためのAI開発」ということばをピックアップしました。
ここを起点に考えれば、自分たちの願望、思い、ポテンシャル、あるいは社会へのインパクトなど、そのすべてを統合できる可能性があると考えたのです。
このマッピングは、こうして企業内の価値や意志、ポテンシャル、リソースなどを一望するための俯瞰図として構成されます。
そして、それらを現在から未来の意志として整理していくと、グルーピングの所々にビジョンにつながることばが出てきます。
要素を整理していくマッピングを行うだけで、ビジョンを創る大前提が整理でき、そのヒントとなることばを拾うことができるのです。
ただ、注意してほしいのは、このビジョンづくりのすべての過程には正解がないことです。
グルーピングは、視点を変えれば幾通りもの切り取り方ができます。
固定的に考えずに、いかにゆらぎながら考えられるかが大きな視点で未来を捉えた駆動力のあるビジョンにつながっていきます。
創出ステップ4バリューグラフvaluegraph なぜ私たちはそれをしたいのか?
マッピングには、私たちがどうしても行いたいことが書かれていました。具体性のある事柄もあれば、抽象的なこともあるでしょう。
ここからは「なぜそれをしたいのか?」ということを問うていきます。ABC社では、最終的に「社会の仕組みのためのAI開発」ということばを選びました。
では、なぜ、ABC社は、それをしたいのか。この「なぜ」をはっきりさせるために、ここからは別のフレームを使って考えていきます。
バリューグラフと言います。
バリューグラフは、システムデザインやデザイン思考でつかわれるフレームワークで「WHY?(なぜ)」と「HOW?(どうやって)」という隠れた概念を探るのに適しています。
どのように行っていくかというと、マッピングでピックアップしたキーセンテンス(ABC社の「社会の仕組みのためのAI開発」に当たるもの)を起点に、「なぜ私たちはそれをしたいのか?」という問いを繰り返して、背景や根っこにあるものを探っていきます。
図26を見てください。
「社会の仕組みのためのAI開発」に、「なぜそれをしたいのか?」と問いかけて思ったことを書き出していきます。
たとえばABC社であれば「大きな課題に取り組むと大きなビジネスになるから」「世界をよりよくしたいから」「私たちにそれができる技術的なリソースがあるから」などが出てきました。
こうして書き出したことに対して、さらに問いを繰り返して、図26のようにチャンク・アップさせていきます。
チャンク・アップは「chunkup」と書きます。「chunk」はかたまりという意味合いです。かまたりをアップさせる。つまり、その思いの裏側にある本当の思いを探っていく作業です。
たとえば図26の中央「世界をよりよくしたいから」とあれば、「なぜ、それをしたいのか?」と問いかけて本当の思いを探っていきます。
そうすると「私たちが心からをそれを欲したから」と出てきました。さらに問うていくと「その目的だと熱中できる本当のやりがいを感じる」と出てきます。
さらに、それに対して問いを繰り返し、上位のものが出なくなるまで、これを続けます。
では、次に違う問いでバリューグラフを作っていきます。今度は「どうやって、それを行うのか?」と問います。こんどは上ではなく、下に伸ばしていきます。
チャンク・アップではなくチャンク・ダウン(chunkdown)です。
最上位にある目標を実現するためには、何が必要か、より具体的な実行可能な方法や概念などを導き出していくもので、下方にグラフを伸ばします。
私は、こうしたチャンク・アップ、チャンク・ダウンは、もともと発想法や思考法を学ぶなかで知りましたが、コーチングや心理学プログラムで使われていたりもします。
つまり、欲求や行動の裏側を知るのに非常に適した方法でもあるのです。
ここでは組織の、ある意味での暗黙知的な、はっきりと言語化されていない部分にスポットを当て、実現するために何が必要なのかを明確にしていく目的で使います。
図27はABC社のチャンク・ダウンの事例です。こうして、おおよそ次が出なくなるまでチャンク・アップ、チャンク・ダウンの作業を行います。
ABC社は「社会の仕組みのためのAI開発」に「なぜ私たちはそれをしたいのか?」という問いをぶつけてチャンク・アップすると、まずは図26のように一次的なメリットや欲求が現れました。
これらに対しても、同様に「なぜ私たちはそれをしたいのか?」という問いをぶつけていくと、その裏側にある欲求が現れてきます。
こうして次々と繰り返し問い続けていくと、ほとんどの場合は欲求というより願いや祈りのようなものが出てきます。
たとえば、この事例で行くと最初の問いの答えとは似ても似つかない「楽しく豊かな社会になれそうだから」「私たちが人生を楽しめるから」ということばが出てきました(図28)。
これは発想が飛躍したわけではなく、一つずつ真摯に問いかけていくと、ほとんどの場合はこうした概念に行きつきます。
作業を続けていくと背景にある思いのようなものが顕になっていきます。そして、そこにビジョンの種のようなことばが出てきます。
また、隠れていた本音「インサイト」が垣間見えることがあります。これらをマーキングし、明確化します。
こうして図28や図29のように欲求や願望の背後にある、根源的な欲求(公共の夢とつながるもの)やアイデアを引き出していきます。
実際に行ってみましょう。ブレーンストーミングしながら書き込んでいきます。
思考の実験室で実験を行っているイメージで、自由に、日常の枠を超えて発想することを楽しんでください。
ビジョンづくりの工程として拡散と収束を意識するようにすれば、飛躍した考えや思いつきも大歓迎です。
恐れずに進みましょう。いずれの作業も付箋紙とホワイトボードなどを使って行うとやりやすいでしょう。
ここでも作り上げる過程を写真で残すなどしておくと、のちのち議論になったときに立ち戻りやすくなります。
創出ステップ5バリューグラフvaluegraphインサイトとビジョンの種を探る
次に、バリューグラフをつくることによって現れた要素を、チームで検討します。
ビジョンの定義は「自らが生み出しえる最高の公共的未来像」でした。
チーム内で、抽出した要素一つひとつを〝自らが生み出しえる最高の未来像〟か、〝世界が共感できる公共の未来像〟に近づける土台となりえるか、という視点でディスカッションしていきましょう。
こうした議論を行っていくと、導き出した要素の背後にいろいろな傾向や視点が隠れていることに気づきます。
要は、企業の無意識層にあるものが顕になってくるのです。前の図28はバリューグラフのチャンク・アップの完成図です。
チャンク・アップのその先には「人や社会の役に立ちたいから」「楽しく豊かな社会になれそうだから」あるいは「私たちが人生を楽しめるから」「私たちが自己実現できるから」などビジョンと関わることばが出てきます。
このことばが出てくるということは、現状がそうではない、と思っており、そこに自分たちの力を使うことができると思っているということでもあります。
またこのグラフを細かく見ると、二つのラインの背後には「社会のために自分たちの力を100%使えることはとても幸せだ!」「問題解決は面白くて利益にもなる」という意識が隠れているように思えます。
この意識は、ビジョンに向かうエネルギーの源泉であり、企業の推進力かもしれません。
チャンク・ダウンの場合は「どうやって、それを行うのか?」と問い、下の方に具体的な方法を書いていきます。
ABC社の場合は「社会の仕組みのためのAI開発」を実際に行う場合は、どのようなことが必要なのか、問い続けます。
前の図29をご覧ください。
すると、まずは「社会の仕組みの課題を明らかにする」ということばが出てきました。
そして課題を明らかにするためには、ということで「そもそも、どんな仕組み?」「どういう分野があるのか」また「教育、行政、政治の専門家との対話」「倫理学者、哲学者、宗教家との対話」などの具体的な取り組みが出てきます。
こうしてチャンクを下へ下へと伸ばしていくと、より具体的な「人の自己実現を助けるAI」や「教育分野」「XラーニングAI」など、実際の取り組みの起点になるようなことばが出てきます。
そして、このチャンク・ダウンのグラフにも、企業としての次のステージ、ビジョン設定後のステージの取り組みのヒントのようなものが見えたります。
このようにしてバリューグラフで、日常の仕事からは見えてこない、高次の目標や欲求を見つめていきます。
重要と目されることばも、壁の片隅に貼られたことばも、もう一度確認しながらピックアップします。
そのときの条件は根源的質問「なぜ、私たちは、この事業を行っているのか」に答えるヒントが、そのことばにあるかどうか、です。
これらのキーワードを手掛かりに本格的なビジョンづくりに取り掛かります。
創出ステップ6言語化wordingビジョンのキーワードをピックアップする
ここからはビジョンづくりに取り掛かりますが、重要なことを一つ伝えておくと、ビジョンづくりはアイデンティティ(自己規定)といっしょにつくっていきます。
それは前項「理念系のことばの相関図」の矢を射る人の図13で示したようにアイデンティティとビジョンは出発点と目的地の関係になっているからです。
この図30でいえば矢を射る人が居なければ、また射る的がなければ、この絵は成立しません。
意志を持った行動する主体と、その主体が働きかける未来。この二つの概念を規定することがビジョンをつくることなのです。
最終的にはこの二つの根源的な質問に答えるのです。我々は何者か我々はどこへ行くのか。
ゴーギャンの絵のタイトル通りです。
マッピングやバリューグラフから引き出したキーワードを使いながら、自社のアイデンティティとビジョンを言語化していきます。
基本的には、ここで抽出されたことばが、企業の根本的な志向、思想を表すもっとも根幹となることばになります。
ここに創業の志から経営陣や社員の思い、企業の存在理由が含まれています。
そのため、いままでの過程を振り返り、またPEST分析などの時代の流れを加味しながら、ことばの中から重要単語をピックアップし、これらを題材にビジョンとアイデンティティ、ミッションを創ります。
次の図31はABC社の最終的に選んだキーワードと、そこから引き出した6単語の最終ピックアップワードです。
次の空欄が埋まれば完成です。
企業が何者であり、何を目指して活動しているかが明確化されます。ビジョンは天から降るようにやみくもに生まれるわけではありません。
それは、企業の創業の歴史、そこにあった思いと、現在の資質、資産、あるいは課題などと、そしてこれからの時代の潮流、この三つの要素の掛け算の上に成り立ちます。
これらは順に、過去、現在、未来の掛け合わせでもあります。
どこかだけに立脚するのではなく、企業のすべての時間軸を意識しながらつくらないと、根のない、ふわふわしたものになります。
この本で書かれている手順を守るなら、ほぼこうした時間軸を外すことはありません。
ただ、未来にあたる「時代の潮流」に関しては、何度も言いますが、大きな流れは分かっても、どういうステップを踏んで、いつごろそこに行くのかは誰にもわかりません。注意深く、最先端の動きをキャッチしながら把握するしかありません。
ビジョンは「なぜ、あなたはこの事業を行っているのか?」「何のためにあなたの会社はこの世に存在するのか?」という存在意義を問うことに直結していました。
それはこの掛け算の三つの要素の中を貫く問いです。
企業はどのような企業も一人もしくは複数名の人間が出資・設立して初めて活動できる、私的な出自を持つ組織体ですが、どんな企業も、世の中の問題解決を担うことから利益を得ることで存続しています。
「企業は社会の公器である。したがって、企業は社会とともに発展していくのでなければならない。」
という故・松下幸之助氏のことばがあるように、企業はさずかった使命を果たすためにある公共の存在という側面から、自らの存在意義を見る必要があります。
ソニーであれば「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」と記し、Amazonであれば地球上で最もお客様を大切にする企業としての「ジ・エブリシング・ストア」、Googleであれば「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」と書いた存在意義です。
こうした公共的な存在であろうとすること、つまり「みんなの幸福を考える姿勢」は、「売り手によし、買い手によし、世間によし」という近江商人の三方よしや、渋沢栄一の『論語と算盤』のように、私的な利益追求は全体の幸福と一致すべきであるという、きわめて伝統的な日本のアプローチとも一致します。
ビジョンは私的な領域ではなく、私的な領域と公共の領域が重なる部分に生まれる夢です。まずは、このことを前提として作成してください。
創出ステップ7言語化wardingビジョンとアイデンティティを形にする
議論しながら創りあげてもよいし、各自が案を持ち寄るカタチでもよいでしょう。
一度、これらのことばを織り込んだビジョンのための文章を書くと、その中に良いフレーズが入っていることがあります。
慣れていない場合は、文章化してから短くする手法で行っていただいてもかまいません。
このとき、いわゆる誰でも想像できる、あるいは納得できる答えだけなく、既成の考え方や捉え方から外れたものも積極的に出していくことにトライしてください。
チームで行っているなら、全員で案出しをするようにしてください。
あるいは規模にもよりますが、社員全員参加でのクリエイト集会や、社内に募集をかけてメンバーをグループに分け、一堂に会してワークショップ形式で行っても良いでしょう。
このときのコツは量です。ビジョン、アイデンティティともに、いったん量を出すようにしましょう。プロのクリエイターは基本的に量を出すことを最初に訓練させられます。
なぜなら量が質を担保するからです。
キーワードをジャンプ台に発想を飛躍させるために、マインドマップのような発想を広げるツールや、SCAMPER(スキャンパー)のようなチェックリストを使ってもよいでしょう。
スキャンパーは、課題に対してsubstitute(代える)、Combine(結び付ける)、Adapt(適応させる)、Modify(修正する)、Puttootheruses(他の目的に使用する)、Eliminate(除く)、Reverse/Rearrange(逆にする・並べ変える)のリストで質問をして、強制的にアイデアを生み出す方法です。
私がよく使うのは自分自身が開発に携わった、発想専用のカードです。
「イノベーションカード」(@デキル。株式会社)と名付けられたカードにはシンプルな質問が、発想のステージごとに整理されて並べられていますが、この中の「概念を操作するMANIPULATE(マニュピレート)」のカードがこうした発想にはぴったりです。
SCAMPERと似たものもありますが、いくつか抜き出しますので活用してみてください。
上げる下げる大きくする小さくする名前を変える違うジャンルのものに例えるくっつける切り分ける極端にする逆さまにするこうしたツールを使いながら、スピード重視かつ量を出していきます。
熟考しないでください。発想を飛躍させる拡散のステージでは、考えずに直観的に出していくのがコツです。
次のものはキーワードを織り込みながら、ABC社のビジョンのイメージ、アイデンティティのイメージを文章化したものです。
また、バリューグラフのチャンク・ダウンで出てきたイメージなどを使って、ミッションも同時につくってみました。
・ビジョン(未来像)
私たちは、人が自分自身であることでその人らしく自らの能力で生き、幸せを見つけられる社会、つまりどんな人も自己実現できる社会を夢見ている。テクノロジーは、もうそのことを実現できる一歩手前まで来ている。
だから、私たちは私たちの意志として、私たち自身が持つ高度なAIのテクノロジーを使って、その社会が一日でも早く実現できるような取り組みを行っていく。
・アイデンティティ(自己規定)
私たちは、私たちでアプローチできる世界的な根本的課題を、私たちのアイデアとテクノロジーで解決したいと考えている。
その課題を解決することで人が幸せになることを目的に、私たちは日々の活動を行っている。
そして、そのことに最高の充実感を覚えている。
・ミッション(使命)
私たちは、人々の自己実現できる社会を創造することを目的とした、AIテクノロジーを使った革新的なシステムの開発に取り組む。
そして、それを世界のさまざまな国へと広げ、人が自分自身であることでその人らしく生き、幸せを見つけられる社会を実現する。
この文章に含まれていた太字の部分に着目しながら仕上げたのが次の完成版です。
・ビジョン(未来像)
すべての人が自己実現できる社会Justbeyourself!
・アイデンティティ(自己規定)
世界の根本的課題を新しいテクノロジーと仕組みで解決する会社
・ミッション(使命)
人が自己実現するためのAIプラットフォームを社会に実装する
最後のことばとしてのアウトプットは、そこに含まれる考え方も含めて、ことばとしてインパクトがあり、かつ平明に理解できるように作り込んでいってください。
創出ステップ8言語化wardingビジョンをチェックする
完成したビジョンをチェックしていきます。
まず、最初に述べた通り、ビジョンをつくる過程は「なぜ、私たちは、この事業を行っているのか」という根源的な問いに答える過程でした。
その答えとして納得いくものができたか、検証してください。
そして、私たちの夢でもあり、公共の夢でもあると言えるかどうかも見ていきます。
また、この質問と対になりますが「私たちは「」である。」「私たちは「」を目指している。
」の空欄に入れることばとしても矛盾なく、確信をもって発することができるものができたか、検証してください。
ABC社であれば………私たちは「世界の根本的課題を新しいテクノロジーと仕組みで解決する会社」である。
私たちは「すべての人が自己実現できる社会」を目指している。……となります。ビジョンの時間的な射程は長くあるべきです。
3年や5年で実現するものは、ビジョンではなく目標です。
ましてやシェアNO.1や数字を入れてビジョンと称するものも時に見かけますが、残念ながら、それはビジョンとはかけ離れた、企業の願望としか表現しようのないものです。
少なくとも10~30年以上の使用に耐えうる、時間経過による劣化が少ない普遍的な価値を盛り込んでおくべきです。
キング牧師の人種差別のない世界を目指すビジョンは、昔はそうだったんだねと人々が振り返るような世界が来るまでは、(残念なことではありますが)今後数十年あるいは100年という単位で生き続けるでしょう。
Amazonの「ジ・エブリシング・ストア」「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」も、Googleの「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」も今後、少なくとも半世紀は使い続けられるものになっています。
ぜひ、こうした時間経過に耐えうるものを生み出してください。
また、ビジョンづくりで注意すべきは、そのビジョンに、あなたの感情、チームメンバーの感情が動くかどうかです。
この本で紹介したビジョンの創り方の特長は、企業活動の背景に潜んでいる企業のビジネスとしてのポテンシャルと、そのビジネスを動かしている感情的なエネルギー、思いを引き出して一つにすることにあります。
次にビジョンやアイデンティティのチェックリストを上げます。創りあげたものが合致するかどうかの確認に使ってみてください。
私が近年、感心することの一つに、若い世代に、どのような業種であれ、大きなビジョンを描き、経営を行っている企業が増えていることです。
また、問題解決の意識、そして利益を追求すると同時に、自らの業種や分野で社会の役に立つことを目的とした企業が増えていることを日々体感します。
最近、私がビジョン策定にかかわった企業に、とあるファッション系のD2C企業があります。
D2Cとは「DirecttoConsumer」の略で、簡単に言えば、自社で商品を企画・製造し、流通・販売までを一気通貫で手掛けて、顧客に届ける新しい業態です。中間業者を入れず、すべてを自社で行います。
SPA(製造小売業)などのユニクロなどとよく似ていますが、大きな違いは実店舗で展開するか、オンラインで展開するかの違いです。
東京にある、設立後、数年の企業ですが、経営者は30代前半、経営の主要メンバーはほとんどが30代でした。成長の途上にあり、順調に業績を伸ばしている最中でした。
しかし、設立時につくった理念が徐々に合わなくなってきたということで、もう一度それらを見直し、ブランディングの基礎を固めることにしました。
まず、経営陣一人ひとりにディープインタビューを行い、さらにステップに沿い、朝から夕方までのビジョンづくりのセッションを、3カ月半の間に東京と箱根で合計5日間ほど行い、徹底的に議論し、煮詰めていきました。
その間も、彼らは自主的に泊まりがけの合宿を持ち、未来に対して我々のビジネスはどうあるべきかの議論を行っています。
また、私からの宿題もあります。通常業務に加えての作業ですので、かなりきつい3カ月半だったと思います。
ビジョンやミッションなどの理念系のことばは、こうしたセッションの工程で早めに見つかることもあれば、ぎりぎりまで見えないこともあります。
ぼんやりとした「感じ」は、確かに誰の胸にもあるのに、それにフィットしたことばがなかなか見つからない状態というのがよくあるのです。
このときは後者でした。なかなか見つかりませんでした。
実はファシリテートする私には、おおよそ見当はついていたのですが、本人たちにとっては、それがあまりにも当たり前で、キーワードとして取り出すことを思いつかなかったのです。
そのことばは「オープン」でした。開かれたという意味での「オープン」です。
彼らはそれぞれ有名スタートアップの出身であったり、財務やシステムのプロであったり、ファッション業界の製造、店舗設計で十分に経験を積んだメンバーです。
でも、よく考えたら現状のファッション業界に満足できず、D2Cという新しい業態で、もっと顧客のためになり、また自分たちも満足できる在り方を懸命に探っていました。
その中で出てきたことばが「オープン」だったのです。
それに彼ら自身が気づいたのは、セッションの最終日の最後の数時間でした。
自分たちはファッションであれ、社会であれ、自由でオープンな仕組みを作りたいんだ、ということに彼ら自身が気づいたのです。
結果、まとまったビジョンは「だれもが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできるオープンな社会をつくる」です。
ビジョンも含め、出来上がった理念系のことばを、一人ひとりにOKかどうかを確認し、全員の承認が取れた時点ですべてが確定しました。
チェックリストにも合致する素晴らしいビジョンでした。こうして確定したことばをベースに、彼らはホームページなどの見直しを進め、さらには社名変更、ブランド名の変更まで行い、見事にブランドとしてのステージを上げています。
ブランド名はFABRICTOKYO(ファブリック・トーキョー)。インターネット(https://fabrictokyo.com/)で、ぜひ検索してみてください。
まだまだ、これから伸びる会社ですので、理念系の浸透はこれからだと思います。
しかし、こうしてビジョンをしっかりと定めて、経営を進めている企業が増えてきていることを個人的に非常に喜ばしく思っています。
このビジョンなら共感できる、自分たちも成長できると感じるなら、それは良いビジョンだと言うことができます。
ビジョンを文字にし、口に出し、心が動くのなら、完成です。次のステージに進みましょう。
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