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第5章……願望を貼り紙にしない

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第5章……願望を貼り紙にしない

【Q26】業務改善に不可欠な情報とは何か?

次ページの「スキル表」は、新人スタッフに職場で求められるスキルを分解して、誰がどの仕事に、どの程度、習熟したかを一覧できるものです。

スタッフが、身につけるべきスキルの目標を定めやすく、モチベーションアップにつながります。新人のスキルアップの目安があるので、上司が指導しやすいメリットもあります。

我が社が最初に取り入れたのは、もう20年以上前のことです。

最初は1部署でしたが、後述する「バスウォッチング」(第9章参照)で、ほかの部署の人たちが「スキル表」を見て、「これは便利だから、うちも導入しよう」となり、どんどん全社に広がっていきました。

しかし、私は現場を回るうち、同じスキル表を導入していても、成果が上がる部署と、上がらない部署があることに気づきました。

両者の違いは何だろう。あれこれ考えるうち、分かりました。第1に、スキル表が見やすいかどうかです。

表に入れるイラストがゴチャゴチャしていたり、文字が多すぎたりすると、スタッフが見る気を失い、スキル表をつくる意味が薄れます。

第2に、スキル表を貼る場所です。

目立つ場所に貼っている部署では、スタッフのスキルアップが早く、業績が上がっていました。

そもそもスタッフが見ないことには、スキル表の効果はないので、考えてみれば当たり前です。

第3に、スキル表に「この日までに、このスキルを習得するぞ!」という、「目標期日」を入れている部署と、入れていない部署でも、雲泥の差がありました。

そこで私は、幹部に指示しました。

「スキル表は必ず、目立つ位置に貼り、目標期日を記入しなさい」さらに、「スキル表は見やすく、分かりやすくつくる。それができるかを見て、管理職を評価しています」と話しました。

その結果、多くの部署でスキル表の改善が行われ、スタッフの成長スピードが目に見えて上がった。

こうやって後から説明すれば単純な話ですが、こういうコツに現場で気づくのは案外、難しいです。

実際、武蔵野を視察してスキル表を撮影している人も、ほとんどが、このノウハウに気づきません。

スキル表は一例に過ぎません。どんな仕組みも、最初は優良企業のモノマネで導入すればいい。オリジナリティーを求めてはいけません。

ただ、それ以上に重要なのは、モノマネで導入した後、自社で運用しながら、奥底に隠れたコツに気づけるかどうか。

ノウハウを蓄積していけるどうかです。運用のノウハウに気づくには、絶対に欠かせない情報があります。それは「結果」を示す、数字です。

いろんな手法を試すだけでなく、試した結果、その部署の業績は上がったのか、下がったのか、数字と照合して考える。

もちろん、一発で因果関係が見えることなどありません。何度も現場を回りながら数字とにらめっこして、試行錯誤を繰り返す。こうして頭に蓄積したデータが一定量に達したとき、天啓のようにひらめきます。

「ああ、これがノウハウだ」と。

我が社は、次の写真のように、すべての部署で、6カ月分の粗利益と営業利益を前年同月と比較する形で掲示しています。

「前年同月と比べてプラスなら黒色の数字で、マイナスならば三角をつけて赤色で表示」がルールです。

さらに、直近12カ月分の数字を平均した、年計グラフを掲示する部署もあります(こちらを参照)。

スキル表の運用のノウハウも、「結果の数字」を示す表やグラフを何年も使いながら考えたから、気づけた。

「暗黙知」は、膨大なデータから読み取ります。ビジネスの世界で暗黙知を得るのは難しい。日ごろからデータを積み重ね、活用していないと気づけません。

だから、「仮説」を立てることが欠かせません。仮説を立てて実行した結果の数字を見て、当たっているかを確認する。はずれたら、また別の仮説を立てる。

仮説なしのデータを積み重ねていては、いつまでも暗黙知の領域に達することはできません。

我が社の環境整備点検(第8章参照)は、120点満点です。職場ごとに整理、整頓、清潔の状況を採点します。

あるとき100点満点への変更を考えてデータを見直し、まったく別の事実に気づきました。95点以下の職場は、上司の力量に明らかな問題がある。

整頓の項目の点数が低いのも共通点でした。環境整備点検95点は、上司のマネジメント力の分岐点ではないか。

※環境整備点検の点数が低い人は、仕事ができない。気づけない。

そんな仮説を立て、3回連続95点以下の課長は更迭することにしました。仕事ができる人は、人生のあらゆる局面において、常に仮説を立てます。ジャンケン一つとってもです。

「この人は、過去の経験からグーが多い」「今は疲れているから、何も考えずにパーを出す可能性が高い」「だから、今回はチョキを出してみよう」そんな具合に、常に仮説を立てて検証しています。

日常生活から思考実験を繰り返し、脳のトレーニングを欠かさないから、効果的な業務改善のアイデアが思い浮かびます。

【A】仮説を検証するための「数字」

【Q27】「結果にこだわる」とは、何にこだわることか?

「結果を出せ」「結果にこだわれ」と、社員を叱咤激励する社長も幹部も多くいますが、そんな号令には、まったく効果がありません。

「結果にこだわる」とは、具体的には、どういうことでしょう。「数字」にこだわることです。「結果を出せ」と、抽象的に指示しても、あまり効果はありません。

その代わりに、私は、社員に自分の部署が出している「数字」を掲示させます。前に紹介した写真の通りです。ルール通りに掲示しているかを、環境整備点検でチェックしています。

だからといって、数字が悪い部署の社員を叱り飛ばすことはありません。その必要はないです。

前年同月比マイナスは赤い数字で示すのが、会社のルールです。目立つ場所に大きく掲示するから、赤い数字ばかりが並べば、誰だって恥ずかしくなります。

特に幹部は、粗利益と営業利益の多寡が賞与の額に大きく影響し、賞与半減は日常茶飯事です。そんな切実な数字が、毎日、嫌でも目に入る。

数字が悪いと、私がうるさく言わずとも、自分から、どうにかしようと考え、行動します。正しく数字にこだわれば、叱咤激励など不要です。

【A】「数字」にこだわること

【Q28】効果のない貼り紙の特徴とは、何か?

中小企業を訪問すると、よく貼り紙を見かけます。「今期売上高●●億円、必達!」「トイレはきれいに使いましょう」──。

しかし、こういう貼り紙のある会社の多くが、売り上げが伸び悩んでいたり、トイレが汚いものです。

本質的な問題は、社長の「願望」を、そのまま標語にしたことです。

そんな願望を、社長が表明しても、社員は変わりません。我が社は、多くの掲示物があるが、私の願望をそのまま書き出した掲示物は、1つもありません。

掲示するのは、次の2つだけです。

  • 第1に、結果を示す数字。
  • 第2に、結果を出すためのツール。

仕事で結果が出れば、社員はうれしいです。

人事評価が上がり、給料も賞与も上がるから、当然です。そのためのツールやノウハウを会社が提供してくれるなら、これほどありがたいことはありません。

だから、会社が正しいノウハウを示せば、社員は必ず、ついてきます。重要なのは、社長と幹部が結果につながる正しいノウハウを突き止め、社員を正しく導くことです。

【A】社長の願望を、そのまま標語にしている

【Q29】社員をやる気にする、グラフのマジックは?

掲示物は「結果を示す数字」と「結果を出すためのツール」だけと、先ほど書きました。「結果を示す数字」は、粗利益や営業利益の表であり、年計グラフです。

一方、「結果を出すためのツール」は、次のグラフです。

そして光本さんも、そんな周囲の賞賛の視線を感じ、やる気になる。

事実、光本恵里香は入社3年で課長に昇進した。こういう「突き出すグラフ」というのは、光本さん一人の頑張りだけではできません。

光本さんの上司の牛島弘貴課長がグラフをつくるとき、いい意味で悪知恵を働かせているから、できるものです。

種明かしをすれば、上司にとって、グラフを突き出させるのは、さほど難しいことではありません。

最初に設定するグラフの上限を、今の部下たちの実力からして、低めにすればいいのです。要は、尺の取り方の問題です。

身長150センチの人も、子供用の身長計に立たせれば大きく見え、大人用の大きな身長計に立てば小さく見えます。それと同じです。

それでは上司として、一番頑張っている部下に、自分自身の頑張りを、どう感じさせるか。

「私なんて、まだまだ。もう頑張れないわ」と、自虐的な気持ちにさせたいのか。あるいは、「うわっ、私って結構すごい!」と、自信を持たせるか。

どちらが、その後、良い結果を出す可能性が高いか。後者です。

だから、頑張っている部下に、自分の成績が「すごく良く見える」ように、グラフの尺を調整する。

グラフをつくるのに、大きいフセンを使うのも、同じ理由です。棒グラフが突き出しても、グラフそのものが小さくては、インパクトが弱い。

壁一面に掲示されるグラフが突き出るから、驚きとやる気が生まれます。武蔵野のグラフは、天井に達して、天井を進むこともあります(次ページ)。

「あと1件で天井に達する!」の一心で、難局を乗り切った社員が多くいます。グラフのつくり方ひとつで、社員の心は大きく変わります。

【A】尺の工夫で「より良く」見せる

【Q30】最も役立つ売り上げグラフのつくり方は?

どの会社でも目にするグラフに、売り上げグラフがあります。ほとんどが、月次の売り上げの棒グラフなどです。

しかし、単純な月次の売り上げグラフは、あまり経営の役に立ちません。なぜなら、大きな流れがつかめないからです。

自社の売り上げが中長期的に上昇傾向にあるのか、下降傾向にあるのかが、分かりにくい。業界によって「夏は売れるが、冬は売れない」と、季節変動があります。

また、特殊要因で1カ月だけ売り上げが突出して増減することもあります。

季節変動や特殊要因を調整することなく、月次の売り上げデータを眺めていると、大局を見失います。

その結果、景気が悪くなりかけの業界で出店攻勢をかけて大損したり、逆に急成長中の市場での拡販が遅れて商機を失ったりします。

このような事態を防ぐには、どうしたらいいか。「売り上げ年計グラフ」を、自分の手で書き、見ることです。

「売り上げ年計」は、直近1年間の売り上げを1カ月ずつ移動して累計する方法で、「移動年計」とも呼ばれます。

季節変動が調整され、一時的な特殊要因の影響が少ないので、中長期的なトレンドをつかむのに、最も適する数字です。

売り上げ年計の重要性を理解している社長は多くありません。しかも、理解している社長の間でも間違いが蔓延しています。売り上げ年計の「表」を「部下につくらせる」だけで満足してしまう。

部下がつくった「売り上げ年計表」を眺めるだけでは、やはり市場の変化の潮目を見逃します。

社長が、売り上げ年計の「グラフ」を、「自分で手書きする」ことが、必要不可欠です。社長室に、売り上げと粗利益の年計グラフを貼り(次ページ)、常にチェックする。

私だけでなく幹部も、それぞれの部署で年計グラフをつくっています。

では、なぜ、グラフを手書きする必要があるのか。

グラフの角度が変化したとき、いち早く敏感に察知するためです。売り上げ年計グラフがあれば、経営においてやるべきことはシンプルです。

第1に、年計グラフの傾きが緩やかになったら、頂点、または谷が近いと認識する。すなわち、景気の転換点が近い。自分たちの業界が「好況から不況」、あるいは「不況から好況」に、移行しつつある。

第2に、年計グラフが下がりはじめたら、経費を見直す。本格的に不況期に入りつつある。

第3に、年計グラフが上がりはじめたら、販売を強化する。本格的に好況期に入りつつある。

私が見るところ、売り上げ年計グラフを書いている社長は、書いていない社長と比べて、市場における潮目の変化を察知するのが9カ月は早い。

経費でブレーキをかけるにせよ、販売でアクセルを踏むにせよ、9カ月のアドバンテージで、業績は大きく変わります。市場の変化を、ライバルに大きく差をつけるチャンスに変えられる。

【A】「売り上げ年計グラフ」を手書きする

【Q31】計画表が「ポスター」になるのを、防ぐには?

我が社の掲示物で、最も重要なものを1つ挙げるなら、次ページの実行計画シートでしょう。これは半期に一度、部署ごとに作成する計画です。

会社の方針は、私と幹部が「経営計画書」を通じて示します。方針に基づく部署ごとの計画は、現場の社員とパート・アルバイトのスタッフが、ボトムアップで完成させます。

具体的には、半年を振り返って、それぞれのメンバーが感じた課題をフセンに書き出し、ホワイトボードに貼って評価。これから半年の実行計画に落とし込みます。

まず、「3年先の目標(ビジョン)」を定め、そこからの逆算で次の半期の「重点方針」や「目標」、「重点施策」を決めます。

さらに、重点施策を着実に実行したかを検証するため、実行状況の「評価尺度」を、事前に設定します。

そして毎月、この尺度に従って、実行状況を5段階で「評価」し、記入する仕組みです(次ページ)。

実は、ここが重要なノウハウです。

多くの会社では、計画(PLAN)を立てても、実行(DO)されず、計画の「プラン」が、「ポスター」と化します。だから、経営の基本である、PDCAサイクルが回りません。

そこで、計画表をつくる段階から、いつ、どのように検証(CHECK)して、改善(ACTION)を行うかを、あらかじめ決めています。

だから、実行計画シートのフォーマットに最初から、評価尺度を設定する欄と、評価結果を記入する欄があります。さらに毎月、メンバーが評価を実行したかを確認するため、証拠写真を貼ります。

【A】計画表に「評価」の欄をつくる

【Q32】社員がつくった計画、社長がチェックすべきは?

社員が実行計画シートを作成したら、部長、役員のチェックを経て、私が承認します。私は、実行計画の整合性を「評価尺度」からチェックします。

部長や役員が承認した「重点方針」や「目標」「重点施策」に、おかしなものは、ほとんどありません。

しかし、「評価尺度」のさじ加減は、難しい。甘すぎてもダメ、辛すぎてもダメですが、どちらかと言うと、厳しくしすぎて失敗する人が目立ちます。

どんなに現場の社員が頑張っても、「0点」しか取れない。そんな厳しい評価基準では、現場は最初からやる気を失います。評価基準だけは、社長の私がしっかりチェックします。

先ほど紹介した実行計画シート(こちらを参照)であれば、「確認テストの平均点が100点なら、評価5」「90~99点なら、評価3」といった基準が、目標設定として厳しすぎないか、あるいは、甘すぎないか。

実行計画シートを見るときは、そこを最初にチェックします。部署の方針やビジョンのチェックなどは後回しです。

【A】目指すレベルの厳しさ。甘めの調整が正しい

【Q33】ボトムアップの経営は、正しいか?

武蔵野は、ボトムアップの会社です。

社員とパート・アルバイトが日々、業務改善を繰り返し、現場の姿がどんどん変化するので、社長の私にも会社の全体像が見えないです。

幹部にも全容を把握できる者はいません。それは、ここ十数年のことに過ぎません。

私が社長に就任した1989年から2004年まで、実に15年間、「超」を3つくらい付けても足りないトップダウンでやってきました。

最初のころの社員は、暴走族出身とか、高校を数カ月で中退した問題児ばかり。仕事をサボっても平気な社員に、私は実力行使も辞さない厳しい姿勢で臨みました。

強権的にやらないかぎり、整理整頓やあいさつ、時間厳守といった社会人としての基本を教え込むのはムリでした。

社員が育ち、強権的な教育を脱したのは、日本経営品質賞を受賞した2000年ごろ。このころは、私が計画を決めれば、PDCAサイクルが回るようになっていました。

そして私は、ボトムアップへの切り替えを決意しました。2004年、大号令をかけました。私はもう、「決定」に関わらない。

幹部や社員が決めたことを「チェック」して、「承認」するだけにする。これが「プロセス・マネジメント」であり、我が社をさらなる発展に導く経営手法──。

そして経営数値を現場の社員やパート・アルバイトに公開して、実行計画書をつくらせた。現場は混乱しました。

今までは「考えるな!言われた通りにやれ!」と言っていた社長が突然「考えろ!」と言い出したから、ムリもありません。

「プロセス・マネジメント」を「プロレス・マネジメント」だと勘違いした、経営サポート事業部の大森隆宏部長をはじめ、多くの社員がよく理解できずに困惑していました。

やがて社員は、権限移譲に面白さを感じるようになりました。先ほど紹介したように(こちらを参照)、実行計画シートに証拠写真を貼るルールがあります。

きちんと貼られているかを、4週間に1度の環境整備点検(第8章参照)でチェックします。このチェックの仕組みは、社員の提案です。自分が考え付いたことを全社に広めたい。

だから、社員が社長に「チェックしてください」と要望する。その結果、社員の仕事のレベルはどんどん上がり、しかも本人たちは喜んでやっています。

一方、社長の私は、今では社員の操り人形です。社員に言われるままに社長が動くのを、社員が楽しんでいる。それが、今の武蔵野の姿です。

トップダウンは、「決定」が早い長所があります。社長一人で決めるから早いです。けれど、社員の「実行」が遅く、そもそも実行されないことがよくあります。

なぜやるかが理解されていなくて、社員の納得感が低い。どんなにいい計画も、実行されなければ無意味です。

一方、ボトムアップは社員の意見を集約し、「決定」までは時間がかかります。

しかし、いったん決定されれば、社員の納得感が高いので、「実行」が圧倒的に早く、確実です。最終的にどちらが強いかといえば、後者です。

しかし、ボトムアップの経営は、社員がある程度のレベルまで育っていることが大前提です。

昔の武蔵野のような会社で、ボトムアップを導入するのは自滅行為です。トップダウンからボトムアップへ。この順序が大事です。

「トップダウンとボトムアップ。どちらのスタイルで、あなたは社員を率いたいですか」そう尋ねられれば、ほとんどの社長が「ボトムアップ」と答えます。

「では、どうしてボトムアップにしたいのですか」この質問に明確に答えられる社長は、あまりいません。深い理由などない。ただ何となく、「ボトムアップが格好いい」と感じているだけです。

しかし、「格好いい」を基準に経営しては、会社は沈没します。

そんなあやふやな理由でボトムアップを選ぶくらいなら、泥臭くトップダウンで行くべきです。では、トップダウンで何をやるか。それが環境整備です。

【A】順序が大事。トップダウンからボトムアップへ

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