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第5章定期昇給を正しく理解し、やる気を引き出す

目次

1社員のモチベーションを維持向上させる~昇給ルールが開示され、自分の将来が見えれば納得する

◎定期昇給の意義を社員に理解してもらう

定期昇給」と聞いて、皆さんは、どんなイメージをお持ちになるでしょうか。

昇給をその機能から分類すると

①自動昇給(=年齢や勤続年数など属人要素を基準として行う昇給)

②習熟昇給(=仕事における1年間の習熟度を反映させた査定昇給)

③昇格昇給(=等級や役職が上がることに伴う基本給の上昇分)

に分けることができます。

マスコミのなかには、定期昇給を「年齢や勤続年数に応じて毎年自動的に昇給させる」という年功賃金の代名詞として使っている例もありますので注意が必要です。

本書では、「毎年、会社が定めた時期に(=定期)一定のルールに則って行う昇給」を定期昇給と呼ぶことに統一しています。そもそも、なぜ大多数の企業が定期昇給を行っているのか、その意義を検証してみましょう。

まず第一に考えられるのが、生活水準を維持し向上させるためです。

賃金水準は若年時に低く、特に20代から30代前半は、その生産性に比べて賃金水準が低めであることもあって、生活向上につながる定期昇給は大きな意義を持っています。

次に、仕事の習熟や成果に応じた実力差を反映させることによって、公平な賃金処遇を実現する役割があげられます。第三に、社員の向上心を刺激し、仕事に対するやる気を引き出す働きがあることです。

正社員という長期的な雇用環境の下では、就労へのインセンティブを長く持続させる効果が期待できるのです。定期昇給制度の下での緩やかな賃金上昇は、経営者にとってもメリットのあるやり方です。

優秀な若手社員が、世間相場から外れることのない比較的低賃金でも意欲的に働けるのは、昇給ルールによって将来が見通せるからに他なりません。今後の賃金上昇が見込めるからこそ、納得して就労へのインセンティブを保ち続けられるのです。

もし、定期昇給ルールがなく、将来の昇給が見込めなければ、どんなに若くてもその生産性に見合った、十分な金額を支払わなければ、定着することはないでしょう。

それが30万円、40万円といった世間水準を大きく超える額であっても、就労へのインセンティブを長続きさせることは非常に困難であるといわざるを得ません。

◎「本当に社員を大切に考える」とはどういうことか

本書で紹介する責任等級制の下での定期昇給制度とは、「これからの1年間における社員の能力に対する発揮期待度に応じて行うもの」です。

その本質は、等級ごとに行う習熟昇給と位置付けられますが、当然に昇給評語(SABCD)によって昇給額差が生じることになります。

経営者側から見ると、定期昇給制度は人件費を増やす仕組みの代表格であり、常に慎重に対応しなければならないテーマだと思われています。

ただ、「将来の昇給を社員に対して約束してしまうようなことはできない」「業績がもし悪くなったときには昇給を抑えなければならない」との想いが強く、給与規程でも定期昇給の運用について、具体的なことを何も定めていない会社があまりにも多いように思います。

昇給は、毎年4月期に、会社の業績および社員の勤務成績に応じて行う」という規定だけがあり、具体的なルールは何も書かれていないのです。

社員に対しては、会社が行き当たりばったりで決めているような印象しか与えないのではないでしょうか。これでは、実質的には昇給制度がないのと同じですから、社員の抱く将来不安を払拭することなどできません。

私ども、賃金人事コンサルタントの眼から見て、「この会社は本当に社員を大切に考えているな」と感じる企業は、例外なく、どのように賃金処遇が決定されるかを、社員全体にオープンにしています。

「自分の給与がどのようにして決まっているのか、理解のできる説明がほしい」と社員の誰もが心の底で思っています。この要請に応えるのが合理的な賃金制度であり、その実現なくして社員のやる気を存分に引き出せないのです。

◎仕事力の差を基本給にどう反映させるべきか

社員の仕事力を評価し、それを昇給額に反映させようと考えたとき、どの程度の格差なら許されるでしょうか。基本となるのは、「賃金制度の最大の目的は、社員のやる気の総和を最大化する」というテーマに沿っているかどうかです。

ごく一部の優秀な社員だけを高く評価して、高額な賞与を支給し、昇給時にも手厚く報いるとすれば、その評価された社員自身は大いに喜び、モチベーションもアップするでしょう。

しかし、そこから外れた大多数の社員が「大半の社員はいつもBなのだから、今後もAなど取れるわけがない」とあきらめてしまうようでは、組織に活力など生まれようはずがありません。

また、評語ランクがAとB、BとCのように1ランク違うだけで決定的な差がついてしまうとすれば、これもやる気を阻害する要因となります。

実例をあげてお話ししましょう。

社員のモチベーションがなかなか上がらないと相談にこられた、中部地方のある建設会社(正社員数60名)では、7段階評価(S、A、Bプラス、B、Bマイナス、C、D)の昇給評語のうちBプラスが30%、Bが60%と、両方で全体の9割を占めていました。

残り10%のうちAが5%、Bマイナス以下が5%です。

係長クラスの昇給額はBで4,000円、Bプラスで6,000円、Aだと8,000円の昇給でしたので、過半数を占めるB社員と20人に一人の割合で出現するA社員の昇給額には2倍の開きがありました。

このような状況下では、「より良い評価を得られるように社員が前向きに努力し、いい意味での競争意識を根付かせたい」という経営者の思惑に反して、社員は「一部の社員を除いて、基本給に大した差はつかないのだから、高い評価を目指すより、残業手当が多くなるようにうまくやるのが得策だ」と考えるようになり、生産性の向上に背を向ける結果となっていたのです。

定期昇給ルールひとつをとっても、そのやり方次第で、社員のやる気を引き出せることもあれば、反対にやる気を失わせてしまうこともあるという良い例です。

◎1年ではわずかな差でも実力差が適正に反映するようにする

責任等級制賃金制度では、前章で見てきたとおり、以下のように昇給ルールの基本が決まっています。

飛び抜けて成績が良いとされるS(5%程度が目安)と、全体の足を引っ張ってしまうレベルのD(同じく5%程度)を取る社員は、常に出現するとは限りませんから、ここではA、B、Cの3段階評価を基本に昇給の運用を考えます。

次ページの図表で、1年後の昇給額の差についてBを中心にみると、Aでプラス1号、Cでもマイナス1号ですし、AとCでも差は2号分に留まります。

ただし、評語Aを取り続けた社員と、残念ながら評語Cを取り続けた社員とでは、3年後にはその差が6号分に開きます。

5年、10年と年月を重ねれば、その間の発揮能力や貢献に応じた相応の格差となって基本給の額に反映されるようになります。

更に、常にAを取り続けられる社員は、昇格昇進のタイミングも早いでしょうから、昇格後も良い成績を取れば、昇給額も大きくなります。定期昇給では、1年で大きな差がつかないようにするのが鉄則です。

ひとたび出遅れでもしたら、翌年に満塁ホームランでも打たない限り、逆転はおろか追いつくことさえできないというようでは、多くの社員は意気消沈してしまい、やる気を奮い立たせて、「よし、次こそは頑張ろう」と思えなくなるかもしれません。

そのような事態は会社にとっても大きな損失です。

1年ではわずかな差であっても、何年にもわたる昇給運用を通じて、実力差が適正に反映され、昇格運用と相まって職責と実績にふさわしい賃金処遇が実現できる制度であることが、正社員の意欲向上に有効な仕組みであることは、間違いありません。

改めて強調しておきたいと思います。

実務現場で考えるコト③社員のやる気を引き出す給与制度

私たち賃金コンサルタントは、経営者からの依頼で制度づくりのお手伝いをするのが一般的な進め方だが、会社の製品・サービスという付加価値を実際に生み出しているのは、その会社の社員であるから、いかに社員のやる気を引き出すかがカギとなる。

その社員たちのモチベーションが上がり、強い組織をつくり、さらに質の高い商品やサービスを提供し続けることで、企業の成長と発展を確かなものにする。

そのために、給与制度を整備し、評価制度を納得性のあるものに整え、その他の人事諸制度も合理的なものに改めていく努力を続けていく必要がある。

いろいろな会社の社長とお話ししているなかで、時に私が社員の代表者として、その想いを代弁しているような気になることがある。

例えば、中途採用で入社した方のうち、賃金が低いままの社員の給与を平均レベルまで引き上げるように提案しているときなどがそう。

目先の総額人件費の増加につながる話かもしれないが、社員が将来に不安を感じることなく、意欲的に働ける環境を整えることは、会社にとってもメリットが大きい。

コストをかけて採用し、今日まで育ててきた社員が、賃金が低いことで将来の生活に不安を感じて辞めていくとすれば、会社にとってもその社員にとっても不幸なこと。

人件費低減以上にモチベーションが下がり、生産性が下がってしまっては元も子もない。

2定期昇給は人件費アップにつながらない~年功賃金とは全く別物であると考える

◎総額人件費で考える

中小企業のオーナー経営者からは、「定期昇給制度などを繰り返していたら人件費が膨らむ一方で大変なことになる」という声が聞かれます。

つまり「毎年、賃上げや定期昇給などしていたら、人件費がどんどん膨れ上がってしまって、いずれ人件費倒産してしまうんじゃないか」といった危惧を抱いてのことでしょう。

ここには大きな誤解があります。

確かに、毎年4月支給分の月例給与で定期昇給を実施する会社の場合、3月の給与と4月の給与を比較すれば、確実に人件費はアップします。

しかし社員のなかには、定年や自己都合で退職する者もいれば、新たに採用する新規学卒者や中途採用社員もいるのが普通です。こうした期中の出入りも含めて、総額人件費を考えるべきであることはいうまでもありません。

次ページの図表をご覧ください。

このグラフは横軸が年齢を、縦軸が毎月の給与額を示しています。

ここでは専門学校卒の満20歳の新入社員から、満59歳の定年直前の社員まで、各年齢に一人ずつ在籍している会社があると仮定して話を進めます。

今年、入社した20歳の新入社員の給与分(グラフ上の網がけ部分)は、そっくり人件費の増額分となりますので、すべて網がけとなっています。昨年の新入社員は21歳となり、定期昇給によって上部の濃い網がけ部分がアップしました。

同様に22歳以降の社員もそれぞれ定期昇給によって、給与額が増額改定され、上部の濃い網がけの分だけ給与がアップしています。

そして、いちばん右端にいた59歳の社員は60歳定年退職となりますので、矢印が示すように定期昇給の対象から外れています。

◎定期昇給の増額賃金額と退職者の賃金のバランスを取る

このように見てくると、満20歳の新入社員の賃金に、それぞれの年齢層の社員の昇給額の合計額を加えたもの(全員の網がけ部分の総面積)と、定年退職した社員の網がけした給与額の面積が同じであることが分かります。

つまり、定期昇給によって増額となる賃金額と退職者の賃金のバランスが保たれていれば、定期昇給を続けても、人件費が一方的に増え続けるということにはならないということです。

確かに、定年退職者がほとんどいなければ、総額人件費は増える一方だと感じるかもしれません。反対に、定年退職者が続けて出るようであれば、総額人件費も減り続けることがあるのです。

実際には、各年齢に一人ずつ分布しているような会社はないでしょうが、定期昇給と総額人件費の関係を理解していただくことはできたのではないでしょうか。

総額人件費のコントロールという観点からは、人件費の増加分と減少分の中・長期的なバランスを見極めることが大切です。

人件費が増える要因としては、新規採用による増加分のほか、定期昇給およびベースアップによる増加があります。一方、人件費が減少する主な要因は、社員の退職です。

単年度では、人件費の増減のバラつきが大きく出やすいものですが、中長期の要員計画に沿って総額人件費が適正か否かを判断してください。

◎手を打ち尽くしてもまだ不安ならビジネスモデル自体を検証する

「わが社は、平均年齢も若くて、しばらくは定年退職者も出ない予定だから、やはり定昇などを続けたら人件費は膨らむばかりだ」という方もいるかもしれません。

しかしながら、毎年社員も1歳ずつ年齢を重ねていくなかで、世間並みの昇給を続けることができなければ、新たな社員の採用はおろか、現在、在籍している社員の定着すら期待できません。

そして、世間並み以下の給与水準では、たとえ採用できたとしても、それなりの人材しか集められないことになるでしょう。

定期昇給を継続して行うこと自体が総額人件費アップの主因というわけではありません。

ただし、評価に基づいた実力査定昇給ではなく、年功的な昇給を続けてきたことによって社員の生産性以上に給与額が高くなっているとしたら、「人件費倒産」という最悪の事態も皆無ではないと思います。

もし、社員の給与が世間並み以下の水準であるにもかかわらず、労働分配率が常に高く、毎年の定期昇給に不安を感じるようであれば、それは賃金管理上の問題ではなく、現在のビジネスモデル自体に問題があるのかもしれません。

実務現場で考えるコト④わが社の賃上げ率は適正な水準か?

毎年、春季労使交渉のシーズンになると「わが社は食品製造業で80人規模の会社ですが、どのくらいの賃上げ率が妥当でしょうか」という質問をいただく。

こうした質問をする社長や総務部長には、きっと「業種業態、会社の規模から妥当な世間相場が判断できるに違いない」という想いで、冒頭のような質問をされるのだろう。

ただ、適正な賃上げ率は、会社の条件によって大きく変わる。そして、賃上げ率に最も大きく影響を与える条件は、実は社員の平均年齢である。平均年齢が低く、若年社員が多い会社は、当然に平均賃金が低くなる。

こうした会社が世間並みの昇給やベースアップを行えば、賃上げ率は自ずと高く出る。反対に、平均年齢が40歳以上の会社では、既に賃金水準が相応の高さに到達していることもあり、賃上げ率は低めになるのが普通。

目安となる賃上げ率をあげると平均年齢24歳=3.1%、28歳=2.9%、31歳=2.5%、35歳=2.0%、38歳=1.8%、40歳=1.6%といった具合。

製造業でⅠ・Ⅱ等級社員が多い会社なら、賃上げ率はこれよりさらに低くなりやすい。サービス業などⅢ・Ⅳ等級までは順当に昇格する会社では賃上げ率はやや高めに出る傾向に。

社長や人事担当者は、世間相場に惑わされることなく、平均年齢と等級別配置の特性を見極めて、わが社固有の数字としての適正な賃上げ率をつかむようにしたい。

3昇給評語(SABCD)を決める~仕事の成績と能力との結びつきを第一に考える

◎結果から原因を推し量る

定期昇給とは、いわば向こう1年間の月例賃金を決める作業ですから、これからの1年間に発揮されるであろう能力への期待をこめて、経営者から社員に送る重要なメッセージだといっても良いでしょう。

発揮能力への期待度という点からいえば、責任の重さが大きい人ほど、また、より質の高い仕事をした人ほどその期待値も大きくなるはずです。

その期待値の差を明確に昇給額に反映させることが、ここでのポイントです。

能力評価といっても、能力を直接評価することはできませんから、「仕事の成績が良かった社員には、職務を遂行するうえでの能力が備わっているものと見なす」というルールを確立しておけばよいのです。

「能力」と「仕事の成績」はいわば「原因」と「結果」の関係。結果から原因を推し量るということです。

◎判定手順を覚える

これから1年間の発揮能力というのであれば、過去1年間の成績評価の結果(第7章)から推し量るのが最も合理的な方法です。

夏と冬の賞与時に合わせて6カ月ごとの仕事力に対する適正な評価を行っていれば、過去2回、つまり1年分の評価結果を手掛かりとして、昇給評語を判定することが、最も合理的であり納得性も備えている方法だといえるでしょう。

昇給評語の判定は、次のような手順に従って行われます。

手順1夏冬の成績評語(賞与時の評語)がともにA、ともにBというように同じ場合は、その2回の成績評語をそのまま昇給評語に置き換えれば良い手順2夏冬の成績評語が異なる場合は、最近の成績傾向や成績が上下した原因、評価者の所見などを参考に、今後1年間の期待値を判定する半年ごとの賞与に対する成績評価を昇給評価に連動させることによって、昇給時の手続きは簡単にして明快なものとなります。

ただし、このような業務処理をするためには、第7章で取り上げる成績評価を確立したうえで、ルールに基づく納得性の高い評価が行われていることが前提となります。

◎心配であれば補正する手続きをつくっておく

現場の管理職の方から、「精いっぱい努力したにもかかわらず、成績に結びつかなかった社員に対して、直ちに能力が劣っていると決めつけて良いものか」「数字さえ上がっていれば、昇給もそれに沿って決めて良いのか」といった疑問や不満が寄せられることがあります。

「本来やればできる能力を持っているはずだから、賞与時の評価はともかく、昇給時には励みの意味もこめて、改めて能力評価をすべきではないか」という意見が出ることもあります。

しかし、このような意見は裏を返せば「努力していい成績をあげても、たまたま運が良かったからだ」となりかねず、結局仕事の成績と能力の結びつきを否定してしまうことにもなるのです。

もし、優れた能力を備えていても、必ずしも成績に結びつかない場合があり、将来の昇格昇進等への影響が心配だというのであれば、それを補正する手続きがあれば良いだけの話です。

4昇給額において適正に差をつける~定期昇給においても安易な昇格運用にブレーキを掛ける

◎昇級評語・号数と昇給金額の関係を押さえる

昇給評語を決めるポイントは過去2回の成績評語をもとに「昇給評価」を行い、等級別に各人別の能力期待度を昇給評語に置き換えて、昇給額に反映させることです。

評語に応じてS=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号昇給をさせますが、ルールに基づいて正しく定期昇給を続けていけば、いつも最優秀の評価を受けるようなSモデル社員には対外的にも見栄えのする金額の基本給を実現できますし、評語Dの社員にも最低限の生活給水準は維持しつつ、仕事への励みを与える最低限の昇給を実施します。

これを具体的な昇給額で確認してみましょう。

1年あたりの昇給金額の差は、同じ等級の社員同士であれば限定的なものであり、特にⅠ・Ⅱ等級の若手社員の場合は、号差金額自体がそれほど大きくはないこともあって、極端な差がつくことはありません。

次ページをご覧ください。

大卒新規学卒者として22歳で入社した社員の場合、通常はⅡ等級からスタートしますから、1年目の昇給額は一律6,400円。

次年度の昇給時から評語がAなら8,000円、Cであれば4,800円と昇給評価に応じた格差がつくようになります。このとき、AとCの昇給金額の差は3,200円です。

◎実力差を反映する査定昇給を続ければ格差はどんどん開く

しかし、基本給自体の差は、年数を経過するにつれ、より大きなものとなっていくことになります。例えば大卒社員の一人はAモデル(1年目一律4号、2年目以降はA=5号昇給)、もう一人はCモデル(1年目一律4号、2年目以降はC=3号昇給)であったとしましょう。

この2人が8年を経て30歳になったとき、Aモデル社員はⅢ等級には昇格しており、Ⅳ等級への昇格も視野に入ってくる年齢です。Cモデル社員にⅢ等級レベルの責任を任せることは難しいため、いまだⅡ等級のままです。

このとき2人の昇給額は2倍以上に開き、その差は5,200円に達します。Ⅲ(号差金額2,000円×5号)Ⅱ(号差金額1,600円×3号)ちなみに、平均的な成績であるオールB社員は、30歳の時点でⅡ等級のままなら6,400円(1,600円×4号)、Ⅲ等級に昇格後なら昇給額は8,000円(2,000円×4号)となります。

能力期待度に応じた昇給額は、等級が高く責任が重くなるほど、また、より良い仕事ぶりが期待できる社員ほど大きくなるのがお分かりいただけるでしょう。このように、実力差を反映する査定昇給を続けていくことによって、優秀な成績を上げ続ける社員は上位等級へ昇格し、さらに大きな昇給を得るようになります。

上位等級まで昇格し続ける社員と、平均的かもしくはそれ以下の成績で仕事の責任レベルが変わらない社員との間で、その昇給金額の格差は広がりますし、本給の到達号数およびその基本給額もより大きく開いていくことになるのです。

等級別の号差金額は、表中に説明のある通り、上位等級の号差金額は下位等級の1・25倍になっています。実は、これには昇格と昇給運用が合理的かつ円滑に行えるようにするための仕掛けなのです。

通常、昇格者を選考するときは、その等級でA評価を受ける成績優秀者から選びます。今ここでは、Ⅱ等級でA評価を受けた優秀な社員をⅢ等級に昇格させるとしましょう。

昇格したⅢ等級では、先に昇格している先輩社員たちの中に入って、相対評価されるようになりますから、Ⅲ等級に昇格したばかりのときは、次年度の昇給評語はB(=4号昇給)になる可能性が高いと言えるでしょう。

この時、昇給金額はどのように変化するでしょうか。Ⅱ(5号昇給)×=Ⅲ(4号昇給)×=実は、下位等級でA評価(=5号昇給)であった者が、上位等級でB評価(=4号昇給)になったとしても、昇給金額は変わりません。それは、上位等級の号差金額はすべての等級で、下位等級の1・25倍に設定されているからです。

つまり、昇格後の等級では昇給評語が1ランク下がっても、昇給金額は変わらないのです。これに対し、Ⅱ等級ではB評価を維持するのがやっとという社員に対して、「同年代の社員はみんな昇格してしまったから、そろそろ昇格させよう」と、温情で昇格させた場合はどうでしょうか。

Ⅱ等級では何とか評語Bをとれましたが、Ⅲ等級では、期待される職務遂行レベルには遠く、評語Cになったとします。この時の昇給額は、次のとおり。Ⅱ(4号昇給)×=Ⅲ(3号昇給)×=昇格させたことで、かえって次年度の昇給金額が減少してしまいました。

ここで紹介した定期昇給は昇格運用に関連付けられていて、昇格後の等級でB評価以上を取れるだけの実力がないと昇給額が減少するという、昇格昇進者に対しては厳しい運用ルールが内包されています。

昇格昇進の運用が甘い賃金人事制度では、仕事と給与のミスマッチが起こりやすくなりますので、この本給月額表には定期昇給においても安易な昇格運用にブレーキを掛ける仕組みが取り入れられているのです。

5賃上げ率を正しくコントロールする~昇給はモチベーションに直接、影響する

◎「調整年齢制度」を用意して、昇給の段階的な抑制を行う

定期昇給制度は、長い期間にわたって労働者のモラールを維持・向上させるという効果が期待できるものですが、人間の能力はある一定の年齢までは順調に伸びるものの、次第に鈍化し、場合によってはピークを迎え、その後は下降する面があります。

このような能力の変化に合わせて、昇給ルールも機動的に対応する必要がでてきます。

また、生活給としての最低保証上昇分と励みのための積み上げ分が当初は含まれていますが、このままでは過度の年功昇給となるため、昇給評語Dでも2号昇給させてきた分を、ある所定の年齢に達したら段階的に外すような仕組みが必要となります。

このような問題を解決するために、昇給を調整する年齢を等級別に設定した「調整年齢制度」を用意して、昇給の段階的な抑制を行うようにします。

発揮能力に見られる年齢的な限界は、仕事の質が高いほど能力のピークも遅くなるため、調整年齢のための昇給ゾーンは等級別に設定します。

一般的に、調整のためのゾーンは3段階に分けて段階的に調整していくのが望ましいので、調整前の昇給ゾーン1(調整年齢前)を含めて4つの昇給ゾーンを用意すると良いでしょう。

昇給ゾーン1を基準にすれば、昇給ゾーン2(第一次調整年齢)は1号減昇給ゾーン3(第二次調整年齢)は2号減昇給ゾーン4(第三次調整年齢)は3号減の昇給となります。

◎たとえ1号分でも昇給の余地を残しておく

昇給ゾーンによる昇給抑制の考え方は、単に「年齢の上昇とともに昇給の幅を抑制する」ということではありません。

Ⅲ等級以下の社員については加齢にともなう一般的な生活給水準を確保し、さらに昇格したてで、習熟のスピードが速い段階では、それに見合った大きさの昇給額としようという発想がそこにはあるのです。

つまり、S=6号、A=5号、B=4号、C=3号、D=2号にしているのは、習熟の伸びの大きさを考慮して昇給額を幾分高めに設定してあります。

それを、習熟の伸びが緩やかになるにしたがって、賃金の上昇も緩やかにしていくのです。このような仕組みを用意することで、等差号俸制のいたってシンプルな本給月額表も、等級別に個々の社員の実力差を反映した定期昇給が実現し、合理的な基本給の運用ができるようになるのです。

なお、昇給ゾーン4(第三次調整年齢)でも標準的なB評語を取る社員には1号昇給分が確保されています。会社によっては一定の年齢で一律に昇給をストップするルールを設けることもありますが、社員にとって昇給が止まるということは「今後は評価しない」「来期の仕事ぶりに期待していない」と言っているのと同じです。

たとえ1号分でも昇給の余地を残しておくことは、モチベーション最大化のための効果的な施策なのです。

6昇給ルールを「見える化」する~合理的な賃金制度があれば安定した運用に役立つ

◎仕事に自信を持っている優秀社員ほど自分の処遇が気になる

社員にとって、今のような成績を取りながら10年後、20年後、自分の処遇はどうなっているかということは非常に関心の高いテーマです。

特に自分の仕事に自信を持っている優秀社員ほど、このまま良い評価を受け続けることができたら、いつ、どのような待遇を受け、また責任ある職位につける可能性があるのか、大いに関心を抱くことでしょう。

社員の力を十分に発揮させようとすれば、将来が予想できるということもやる気を引き出すための重要な要素です。

将来の展望を分かりやすく示すためには、標準昇給図表というグラフを用いることをお勧めします。

というのも、基本給がどのように増えていくかについて、将来の展望が開けるほか、社員相互の賃金バランスの確認や中途採用者の賃金決定を行う場合にも威力を発揮するからです。

◎標準昇給図表を実際に活用する

標準昇給図表は、等級ごとに作成します。

タテ軸に号数を、ヨコ軸に年齢をとって、SABCDそれぞれの昇給評語を取り続けたら、基本給がどのような歩みをたどるかをモデル昇給線として示しています。

Ⅰ等級・標準昇給図表は中卒の初任給を基点としてスタートし、Ⅰ等級からⅡ等級、Ⅱ等級からⅢ等級へと上位等級へと展開されていくものですが、自社の採用が20歳短大・専門学校卒が中心だという場合にはモデル昇給線は、20歳の位置から展開していけばより使いやすいものとなるでしょう。

このようにグラフ上にモデル昇給の軌跡を展開していけば、「このままBを取り続けたら5年後には○号まで昇給できるはずだ」「今のように頑張ってAを取り続けることができたら30歳には○号まで到達できるだろう」というように見通しを立てやすくなり、そのことが社員にとって励みにもなるのです。

標準昇給図表には、最上位等級以外の各等級に昇格基準線(破線で示されたもの)が設定されています。

これは昇格に必要な本給の最低基準を、年齢と本給号数の関係から表したものです。つまり、この昇格基準線に届かなければ昇格候補者になれません。

Ⅰ等級の標準昇給図表を見ていただくと、縦軸の25号の位置から昇格基準線が伸びているのが分かります。

25号とは、中学卒で入社し、初年度は4号、2年目以降オールAの5号昇給を続けた社員が、20歳の時点でⅡ等級に昇格できるようになるときの号数であり、

このラインがⅡ等級初号値の金額と等しくなっています。つまり、この号数より上でないとⅡ等級の賃金表に到達しないということです。

25号から横軸に平行に伸ばした線が20歳でオールAの昇給線とぶつかったら、今度はD昇給線に平行になるように線を引きます。

これによってD評語でも昇給させる「はげみ」の2号分を昇格基準に反映させないようにし、評語BやCの平均以下の社員に対しても昇格基準が厳しく働くようにしているのです。

標準昇給図表には、等級ごとにさまざまなパターンのモデル昇給線を描き込んでいますので、昇給・昇格時期の異なる個々の社員に対しても、将来を見通す一助になるのは間違いありません。

◎3つの見方をうまく使いこなす

標準昇給図表に、実在者の本給号数をプロットすれば、社員相互の本給バランスも一目瞭然となり、本給の分布状況を確認しながらアンバランスを修正(凸凹調整)することも簡単に行えるようになります。

ここではⅢ等級・標準昇給図表に実在者をプロットした場合の記入例を示しました。

標準昇給図表の見方の基本は次の3つです。

①タテに見る(同じ年齢での較差を確認する)

②ヨコに見る(同じ本給額の社員を確認する)

③ナナメに見る(先輩社員との関係をモデル昇給線と比較のうえ確認する)

①タテに見る(同じ年齢での較差を確認する)Ⅲ等級・標準昇給図表(調整モデル例:次ページ)で28歳のタテ軸を見てみましょう。

上から、山田、川田、中田、草田、木田の順に並んでおり、山田の27号から木田の9号までの分布状況が読み取れます。この格差ははたして適正なものか、実力差以上に開きすぎていないかという視点から、定期的に確認するようにします。

②ヨコに見る(同じ本給額の社員を確認する)

今度は、15号のヨコ軸に目を移してみましょう。本給15号を受けているものには、東村(25歳)、西村(26歳)がいて、中田(28歳)、下村(34歳)が1号上の16号にいるのが分かります。

本給が同額もしくは近い場合には、年齢の若い社員ほど優秀だと判断していることになります。

ただし、このモデルのようにオールSを超える東村のような社員は本来はいないはずですから、中途採用時に社員バランスを欠いて採用初任給を決定したか、昇給ルールを誤って運用したかということになるでしょう。

このような説明できないような事例が発覚した場合には、調整が必要です。

③ナナメに見る(先輩社員との関係をモデル昇給線と比較のうえ確認する)雪村(26歳)、花村(27歳)、中田(28歳)、月村(29歳)、山村(30歳)は、年齢も号数もまちまちではありますが、オールAのライン上に位置付けられるという点で一致しています。

年齢がいちばん若い雪村も、これからも頑張って評語Aを取り続けることができれば、月村や山村と同じライン上をたどることができます。

社員相互の基本給のバランス確認は、毎年1回、4月の定期昇給の時期に行います。

かつて成績の振るわなかった時期があるために本給に出遅れ感のある社員や、中途採用時の初任給設定が低かったために本給が低いまま我慢を強いられている社員など、長年の運用のなかでは、どうしても社員相互のバランスに歪みが出てきます。

これを解消するための措置として、凸凹調整を行うのです。

このように標準昇給図表で分布実態を確認しながら凸凹状態を解消できるということ

は、賃金制度の安定した運用、つまり「長く使える」ことに役立ちます

7採用初任給をバランスよく決める~新卒新規学卒者初任給をいい加減に決めないこと

◎まず新規学卒者初任給を正しく決める

新規学卒者の求人倍率が上昇しているなか、採用初任給をバランスよく決めることがこれまで以上に大切です。

にもかかわらず、新規学卒者初任給を決める際の基本スタンスが決まってないがために、初任給が高すぎて他の先輩社員とのバランスが悪くなってしまったり、逆にバランスばかりを重視したために初任給が低すぎて応募者が集まらなかったりといった弊害が出てきます。

初任給の決定に関しても、明確なルールを決めておきたいものです。

本給月額表は、中学卒15歳から設計されていますので、新卒初任給の本給表上のスタート位置を合理的に決めることさえできれば、他の社員とバランスの取れた初任給額(号数)となります。

新規学卒者といっても、中学卒以外はいわば本給月額表の途中から参加することになるので、その意味においては中途採用と考えれば良いのです。

ここで大事なことは、新卒者初任給と在籍者の給料のバランスをいかに取るかということでしょう。

ここでは、総合職・一般職のような採用区分を設けないという前提で考えてみましょう。

正規の採用試験を経て、わが社にふさわしい人材を採用し、将来的に基幹業務を任せていく場合の初任給ですから、オールAモデルの本給昇給線上に設定するようにします。

このように採用ルールを決めておけば、基幹業務採用で入社し、A評価を取り続けている限り23歳の時点で学歴に関係なく同じ等級号数(Ⅱ等級16号)に並ぶようにしています。

つまり、学歴にかかわらず、オールAの社員なら23歳時点で大卒社員と同額の給料が支給されます。

◎次に中途採用初任給を決める中途採用者の初任給も、原則として等級と発揮能力の期待値で決めるという点では新卒者初任給と同じです。

ただし、新規学卒者の場合は採用する等級と採用初任給の本給号数について、学歴別に一律で決めるのが合理的であるのに対し、中途採用者については採用する等級および本給号数は、人それぞれでかまいません。

具体的には以下の手順に従って、決定します。

手順1まず何等級で採用するかを決める

手順2採用時の評価にしたがって本給号数を仮決定する

手順3仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な等級号数を決める

手順4各種手当を加算し、初任給を決定する

手順1まず何等級で採用するかを決める中途採用を行う場合、即戦力として期待できる経験者が欲しいのか、急いで人手を確保したいのか、それともマネジメント経験のある幹部候補が採用したいのか、会社が求める人物像はあらかじめ決まっているはずです。

もし、これまで人が足りないという漠然としたニーズに基づいて採用していたのだとすれば、今後はどのような役割責任を負う社員が欲しいのか、採用スタンスを明確にしてから採用活動に臨まれることをお勧めします。

中途採用には次の3パターンがあります。

a.スカウト採用(経験豊富な実力者の採用)

b.一般採用(業界・特定職種の経験者を採用)

c.初級業務採用(軽易な単純作業の要員として採用)

スカウト採用とは、優れた技術や技能を持っている者を、高めの処遇条件を提示して採用するケースです。

Ⅴ等級以上の管理職を招へいする場合もこれにあたります。

初級業務採用は、ごく単純な作業、軽易な業務をもっぱら担当させる場合で、本来ならばパートタイマーやアルバイトに任せるような作業ですが、労働力の安定的確保などの理由から、正社員として採用するケースです。

原則としてⅠ等級で採用します。

一般採用は、業界経験者を採用する場合や業界経験にかかわらず営業経験者を募集するような場合です。社会人としてのこれまでの経験に期待し、即戦力として採用するのですから、採用時の等級はⅡ〜Ⅲ等級が中心となります。

手順2採用時の評価結果にしたがって本給号数を仮決定する採用選考試験の結果、入社後の発揮能力の期待度はABCの三段階評価で決めれば、等級と本人の年齢・経験から初任給を導き出すことができます。

各等級の年齢と号数の関係は標準昇給図表(図表144ページ)を用いて読み取るようにします。

例えば、Ⅲ等級営業社員を採用する場合、「33歳で平均的なB評価だとすれば、その号数はⅢ等級27号」というように、グラフ上から読みとって仮決定すればよいのです。

手順3仮決定した本給号数と在籍者とのバランスを調整し、最終的な等級号数を決める最後に在籍者とのバランスを勘案して、採用初任給の号数を決定します。

上記の例で、Ⅲ等級27号に仮決定したところ、すでにⅢ等級で活躍している社員より総じて高めだとすれば、凸凹調整を行い、バランスよい号数に修正します。

本人希望額と本人の能力期待度とのバランスを総合的に判断しながら最終決定します。

手順4各種手当を加算し、初任給を決定する本給号数が決定したら給与規程にしたがって各種手当を加算し、月例賃金を確認したうえで、本人に通知します。

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