5― 1 大きな問題は小さな火種から
5― 1― 1 問題を問題として認識する
振り返ると、仕事での失敗が大問題になったときには、その前に何らかの予兆がありました。設計図や構造計算書を眺めているときに感じるちょっとした違和感。
「あれ? この線とこの線の長さが違うのは何故だろう?」、「さっき見た数字と微妙に違う」、「締切りが近いけど作業は進んでるのかな……」、「メールの返信が遅いな、読んでいるのかな?」などなど。
杞憂に終わることの方が多いのですが、そうでない場合も少なからずあります。
「あのとき、他の図面と見比べておけば良かった」、「電話一本入れて進捗確認をしていれば……」。
そのような後悔をしても、問題が発覚し取り返しのつかない状態になってしまったら後悔先に立たずです。
仕事を進める上で感じるちょっとした違和感。
それを感じるたびにきちんと確認できれば良いのですが、なかなかできない。目の前には片付けなければならない作業が山ほどあり、その期限も迫っている。
ましてや、その違和感の原因を確認した結果、もし間違いだと判明したら、大幅な修正作業が生じ、ここ数時間、運が悪いと数日の作業が無駄になる。
「正直言ってそれだけは避けたい」。そのような気持ちが心を占めます。
繁忙感に押しつぶされ、追い立てられるように作業をしているなか、もしかしたら間違いの発覚につながるような違和感を覚えると、えてして「大丈夫、問題ないだろう」と言う判断を下しがちです。
根拠のない楽観視とでも言うのでしょうか。ついつい問題から目を背けてしまうのです。先に述べましたが、大体においてその違和感は杞憂に終わり、仕事は何事もなく進みます。
しかし、その何割かは確実に問題へとつながります。
小さいものでは報告書の記載ミスなど、さっと謝って修正すれば済むもの。大きいものでは設計ミスや作業工程の遅れなどに直結し、場合によっては会社の損害にさえつながるなど多種多様です。
いずれにせよ、問題の発覚が遅くなればなるほどその影響は大きく、また締切りまでの時間がないなかでの手戻りになるので、その修正作業はどうしても突貫作業になってしまいます。
そのような余裕のない環境で進める、気の進まない修正作業はストレスに直結し、意識の枠を狭めます。まさに悪循環です。
5― 1― 2 取り返しがつかなくなる前に
仕事中に感じた違和感。それを感じたらすぐにメモを取り、タスク管理ツールに登録します。
例えば「設計図の寸法について確認する」、「構造計算書の計算結果を再確認する」、「作業の進捗について確認する」。
そのアクションを起こせば違和感の正体がはっきりし、それが本当に問題か問題でないかが判明する。
そんな内容のタスクです。
この類のタスクはツールに登録するより、付箋に書いてパソコンのディスプレイに貼っておくのも効果的です。
要するに、その違和感を紙に書き出すことで忘れない様にすること。常に目に付く所に置くことが重要なのです。
その違和感を確認し問題が明らかになることの恐怖より、タスクや付箋がそこに残り続けることの方が、気持ち悪いと感じる心理状態をつくるのです。
問題は1日でも早く明らかにした方がいいですよね。当たり前のことです。早く分かったぶん、その問題に対処できる時間は多くなりますし、人も割けます。
締切りの直前のどうしようもない段階になってはじめて重い腰を上げ、その違和感について確認してみたら、案の定間違いだった。
そのような状況では自分で対処せざるを得ません。感じた違和感が本当に問題である場合、それは具体的に行動を起こさない限り解決しません。時間が解決してくれるようなことは絶対にないのです。
そのような違和感を少しでも覚えたら、先ずはそれを忘れぬようにメモを残し、それを常に目に付く所に置いておく。ちょっとしたテクニックですがとても効果があります。
5― 2 もし炎上してしまったら
5― 2― 1 リフレーミングと言うテクニック
問題を見て見ぬふりをし続けたことで炎上してしまった仕事にどう対処するか。これは自責の案件ですが、そうでなくても問題は自分の都合などおかまいなしにやってきます。
場合によっては他のメンバーの炎上物件に巻き込まれてしまい、強烈な割り込み作業が入ることもあるでしょう。
そんな突貫作業のなかでは「締切りまで間に合うか」、「本当に間に合うか?」、「間に合わなかったらどうしよう?」、「このミスはたいへんなことになりそうだ……どうしよう」。
そんな気持ちが胸のなかをグルグルと渦巻きます。脳内ではアドレナリンが放出され心拍数も上がります。
お昼休み中に仮眠を取ろうとしても気持ちが昂ぶっているので、それもままなりません。心と身体が強いストレスを感じている状態です。強烈なプレッシャーを感じていると言ってもいいでしょう。できればどこかに追いやりたいこの感情です。
タスク管理をおこない作業の見通しを立てることで、感じているストレス・プレッシャーを低減することはできるでしょう。
しかし、自分が犯したミスが深刻な結果につながりそうな場合や、どうしても見通しが立たない場合にはそうもいきません。
そのような場合には、できる限りの見通しを立てた上で、気持ちをできるだけ前向きにすることが大事です。
そのようなときに私が使っているのがリフレーミングと言うテクニックです。
リフレーミングとは、 NLP( Neuro-Linguistic Programming‥神経言語プログラム)と言う心理療法に出てくる言葉で、物事の見方を変えることで、どんなできことにもプラスの側面があることに気づき、ネガティブで後向きだった気持ちを前向きに変えていくテクニックです。
リフレーミング‥ NLP用語 http:// www. nlp. co. jp/ 000044. php? sidenavi (NLP学び方ガイドより)
(1)ポジティブな質問に変える
重大なミスをしてしまい、会社や客先に迷惑をかけてしまう。それが会社に金銭的な損害を与えてしまうようなものであれば個人的にも相当辛い思いをするでしょう。
「何故あんな失敗をしてしまったのか?」、「何故もっと早く手を打たなかったのか?」、「気がついたときに対処していればここまで問題は大きくならなかったのに……」。
ネガティブな思考に陥っていると「何故失敗したのか?」と言う失敗の原因を探すような問いかけをしがちです。
人の脳は、ある意味コンピューターのようなもので、問いかけられた質問についてはその答えを忠実に返します。
失敗の原因について問いかければ、その原因についてしか答えを出しません。頭のなかでそのような問いかけと返答を繰り返しても一歩も前には進みません。どんなに考えたとしても過去の出来事は変えられないのです。
GTD的に言うのであれば、考えるべきは、現在、また明日以降の状況を改善するための具体的な行動です。
例えば、「何故あんな失敗をしてしまったのか?」と言う問いかけは「どうすれば同じ失敗を防げるか?」。「何故もっと早く手を打たなかったのか?」は「どうすればもっと早く手を打てるか?」と変換できます。
脳に対して問いかけるべき質問は、失敗の理由ではなく、次に同じ失敗をしないために取る行動であり、今実行すべき NextActionは何か? なのです。
(2)出来事の意味を変える
取り返しのつかない失敗であっても「何かプラスになることはあるか?」と問いかけることで、将来につながることを1つでも見付けられないでしょうか。
NLP(神経言語プログラム)用語集では 〝「他にどんな意味があるか?」「他にどんなプラスの価値があるか?」を考えます。
「リストラにあって職を失ってしまった。」という状況のときでも、「そこにどのようなプラスの意味があるか?」という視点で考えることで、「前からやりたかった仕事にチャレンジするいい機会だ!」「自分から辞めたいと言わないで済んで、おまけに退職金ももらえるし、ラッキー!」〟このようなリフレーミングのサンプルが紹介されています。
ここまでの状況に陥ることはそもそも避けたいですが、気持ちを少しでも前向きにしたいときには有効なテクニックです。
(3)表現を変える
言葉と言うものは不思議なもので、同じ対象物を見ていても使う表現、言葉が変わるだけで見え方や感じ方が変わるものです。
例えば雪の種類には粉雪、ぼたん雪、風花、回雪などたくさんの表現があります。粉雪、ぼたん雪くらいであれば、その雪が降っている様子が目に浮かぶと思います。
逆説的に言うと、その言葉があることで実際に目にしている対象物を異なる現象として認識できていると言うことです。
本題に戻ります。
強いストレスを感じ不安に苛まれている心の状態をどのような言葉で表現するかで、気持ちの方向を変えられます。
重要な仕事の締切り間際に膨大な追加作業を指示され、そんなときに限って別の発注者から設計ミスのクレーム電話が入り、明日朝までに会社として正式な見解と対応方針を示す様に言い渡される。
たまに遭遇するシチュエーションです。
電話を置いた瞬間、心拍数は急上昇し、手にはうっすらと汗が滲みます。心に強いストレスを感じているそんなとき、その心境を「プレッシャーを感じている」とは言わず「エキサイティング!」と表現します。笑わないでくださいね。
「何これ、こんな祭りは2年ぶり! 今日は夜通しの祭りだぞ、超エキサイティング!!」 これで厳しい状況が変わる訳ではありませんが、この言葉の魔法で自分の気持ちを切り替え、問題に対処する気持ちをドキドキからワクワクに変えることができれば見付けものです。
(4)呪文を唱える
これまでに紹介した3つのテクニックでも効果がないとき。どうにも出口が見つからないような状況に陥ったときには呪文を唱えるようにしています「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫……」と。
笑い話のようですが 100回も唱えるとなんとなく大丈夫そうな気持ちになるものです。これは学生時代に知り合った企業家が事業に失敗して 4億円の負債を抱えた際、気持ちを前向きにするために使ったテクニックだそうです。
呪文を唱えているうちに本当になんとかなりそうな気持ちになり、それまで実行不可能と思っていた改善策に一つ一つ取り組むことができたそうです。
これ自体も問題を解決する特効薬にはなりませんが、気持ちを前向きにできると対策のための NextActionが取りやすくなるのです。
5― 2― 2 前向きな身体の使い方をする
人はネガティブな思考に陥ったときや恐怖を感じたとき、また自分の身を守ろうとするとき。身体は自然と縮こまり、姿勢は前かがみになります。威圧的な人の前に立つと腕組みをしてしまうのはこの反応です。
NLPでは心の状態が身体に影響を与えるのとは逆に、身体の動きが心の状態に影響を与えるとされています。
口に割り箸を挟んで強制的に笑顔をつくると、何だか楽しい気持ちになる。良く聞く実験ですが、落ち込んだときにはこのテクニックも有効です。
この現象について科学的な検証をしているのが、 TEDで紹介された「エイミー・カディ‥ボディランゲージが人を作る http:// goo. gl/ CbFi 5」と言うスピーチです。
スピーチでは、力強いポーズ、例えばガッツポーズを 2分間取った後、それが心と身体にどのような影響を与えたかを実験しています。
力強いポーズを取った被験者は体内に男性ホルモンであるテストストロンが多く分泌され、よりチャレンジングな判断を下せるような傾向を見せたそうです。
20分程度のスピーチなので興味がある方はご覧になってください。重い案件を控えた出勤の朝、仕事でヘマをしてしまった帰宅の道。
ついつい目線は下を向き猫背になってトボトボと歩きがちですが、そう言うときこそ目線を上げて前を向き、大股で力強く歩いてみることをお勧めします。
おわりに
本文を振り返ると、たいへん偉そうなことを書いてしまっていて少し後悔気味です。会社の同僚に読まれたら、「お前できていないだろ」とツッコミを入れられそうです。
実際は、本文中に登場した挿絵のように、日々苦しみ、失敗を重ねながら仕事をしている姿の方が近いでしょう。
GTDをベースとしたタスク管理により、不必要な思考・雑念を取り除くことで、目の前の仕事に集中できる環境と心の余裕を生み出すこと。
そして、余裕のできた思考を自分の身の周りだけでなく、一緒に仕事を進める同僚や協力会社などのチームメンバーにまで広げること。
そして、タスク管理ツールを活用し、すべてのやるべきことを共有することで、重要なタスクに抜けが生じることを避け、また早めの段取りをおこなうことで、締切り間際の突貫作業をなくすこと。
この3点が、これまでに試行錯誤を重ねながらつくり上げてきたタスク管理のステップ、生産性の向上のために研究してきたツール活用の最終目標です。
このような工夫を徹底的におこなうことで残業時間を短縮し、自分の時間を増やします。
アフターファイブは難しいと思いますが、最低でもアフターエイトの時間を自分や家族のために使えれば、仕事もプライベートも両方とも充実していると感じることができるのではないでしょうか。
私の好きな言葉で CANIと言うものがあります。
Anthony Robbins(アンソニー・ロビンズ)の『 Awaken The Giant Within』と言う本に出てくるもので、 〝Constant And Never-ending Improvement〟(絶え間なくずっと続く改善)の頭文字を取ったものです。
本書では、私が仕事をうまく進める上で試行錯誤を重ねた結果、構築したタスク管理のシステムやデータ共有、コミュニケーションのツールについて紹介しました。
この手法が最善だとは思いませんし、すべての人に適用できるものであるとも思っていません。
使いたいと思っても導入できない職場環境で働いていらっしゃる方も多いと思います。
でも、1つだけでも取り入れられるものがあり、取り入れた結果、その効果が少しでも感じられたのであれば、それは CANI(絶え間なくずっと続く改善)の第一歩になります。
本書がそのようなきっかけになればこれに勝る喜びはありません。
著者紹介 中島紳(なかしましん) 1971年生。
長崎県出身。東京都在住。
土木設計の技術職として、主に住宅団地開発に関する設計業務に従事する。2011年以降は東日本大震災の被災地復興関連を中心に業務をおこなう。
1つの設計案件を進めるためには複数の関係部署との連携と情報共有が必要であり、それを実現させる方法として、チームでのタスク管理について研究をおこなってきた。社員にタスク管理の文化を浸透させ、ストレスフリーな職場をつくるのが今後の目標である。
東京ライフハック研究会タスク管理分科会主催(現在休止中)、タスクセラピーコーチとしても活動している。
ブログ‥このまま一生 β版 http:// www. gtdfun. com/
あのプロジェクトチームはなぜ、いつも早く帰れるのか?いまのメンバーで最大のパフォーマンスを生む!【図解で学ぶ】タスク管理術発行日 平成 26年4月 1日著 者 中島紳発 行 Impress Business Development LLC 〒 102― 0075 東京都千代田区三番町 20番地 (本の内容に関するお問い合わせ先) mail: quickbooks_ info@ impress. co. jp発 売 株式会社インプレスコミュニケーションズ 〒 102― 0075 東京都千代田区三番町 20番地 Copyright © 2014 Shin Nakashima All rights reserved.制 作 株式会社デジタルディレクターズ
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