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第5章「教育と評価」で会社が変わった〜3社の実践事例に学ぶ

教育の体系がない会社が組織活性化に成功

教育と評価の重要性は理解できたが、実際に何から始め、どのように定着させたらいいのか。そこに戸惑いを覚える読者の方も少なくないでしょう。

そこで本章では、一から取り組みをスタートさせ、やがて育成が企業文化として浸透していき、評価制度と相まって、組織活性化に成功した3社の事例をご紹介します。

いずれも私たちが運営するグローイング・アカデミーが仕組みの導入に協力した企業ですが、外食、自転車小売り、塗料製造・外装工事と、業種業態は三種三様。

いずれも人財育成に課題感を持ち、私たちが相談を受けました。それ以前は、必ずしも育成の体系は持っていないか、企業の成長に育成が追いつかなくなった、という事例です。

私たちはサービス業に特化した研修会社としてスタートしましたが、このような適用業種の広がりからも、人財育成の基本には普遍性があり、幅広い業種で導入が可能であることが、おわかりいただけるのではないかと思います。

CASE1NATTYSWANKY「ダンダダン酒場」の成長を支える学びの文化

地域に愛される鯔背な店を目指して

NATTYSWANKYは、2001年に設立された外食企業です。その後、2011年に「肉汁餃子製作所ダンダダン酒場」の1号店を東京都調布市に開設して以来、その商品やサービスが支持され、着実に店舗数を拡大。

直営店とFC店を合わせて83店舗(2019年12月現在)を展開し、2019年3月には東証マザーズに上場した成長企業です。

現在は東京の京王線、小田急線、中央線沿線を中心に、関東で集中出店。さらに福岡県に直営店を出店し、愛知県、宮城県でFC店を出店するなど店舗網を拡大していますが、訪ねてみると、どの店舗でも店舗スタッフの元気が良く、しかも目配りが効いていることに気づかされます。

人財育成をリードしてきた田中竜也副社長が言います。

私たちの経営理念は、〝街に永く愛される、粋で鯔背な店づくり〟。NATTYSWANKYというのは、〝粋で鯔背〟という意味です。〝暗いお店には行きたくない、明るい店がいいよね〟、というシンプルな考え方です」

多店舗展開で痛感した育成の重要性

NATTYSWANKYと私たちの出会いは、8年ぐらい前にさかのぼります。

ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立した年ですが、たまたまパンフレットを手にした田中さんが、興味を持って研修を受講してくれたことが始まりでした。

もともとラーメン店で修業をしていた田中さんは、その頃、商売の手を広げ、ラーメン店のほかスペインバル、焼酎バー、焼肉屋など、多業態を経営していました。忙しいということもあって、店員の教育はOJTだけだったと言います。

「その街のニーズに合った店を出せばいいかな、と思って多業態になったのですが、経営を考えると、どうやらそうではないと気がつきました。

試行錯誤していく中で、餃子をメインとした居酒屋を出店したところ、それが非常に受けたのです」そこで、2011年より「ダンダダン酒場」に集中し、出店を加速していきますが、そのときに痛感したのが、人財育成の重要性だったと言います。

「ラーメン店でも、他の業態でも、店数が少ないときには、私が自分の経験で得てきた接客の技術を教えていました。あるいは店の理念であるとか、私の経営にかける思いを伝えるなどです。

しかし、本格的に多店舗化をスタートすると、当然、そのやり方では追いつかなくなりました」そんなときに知人からグローイング・アカデミーのことを教えられたそうです。

そして、田中さんが自ら講座を受講してくれました。

「これが衝撃でした。先輩社員が現場で教えるOJTではない、こんな教育の仕方があるのか、と驚いたのです。

挨拶の仕方や、基本的な接客法など、なぜそれが必要で、身につけるとお客様にどのような印象を与えるのかなど、実にわかりやすく教えてくれました。そこで、当時の社員全員に受講させました。

今ではダンダダン酒場には挨拶の文化ができましたし、どの店に行ってもスタッフは元気にお客様をお迎えしています。でも、かつてはそうではなかった。そもそも挨拶を、そこまで重要視はしていませんでした。グローイング・アカデミーで、まず〝そういう基本があるんだ〟ということを知り、なぜ挨拶は重要なのか、という意味づけも、みんなが理解することができたのです

会社は学校ではないので、社員が給料をもらいながら、さらに会社のお金で勉強するなんておかしいじゃないか。かつては、そのように考えていた、と田中さんから聞いたことがあります。それも、もちろん理解できます。

でも、社員が自発的に学んだり、先輩から教わるOJTには限界があります。企業規模が急速に拡大していくフェーズであれば、なおさらでしょう。

「読書感想文制度」に惹かれて入社したという新人も

私たちの会社は、今では学びの文化が根づいたな、と感じています」そう田中さんは言います。6年ほど前から、評価制度も導入しました。

業績評価だけでなく、接客や研修参加などの定性評価も重視するもので、毎年、改訂を重ねています。

今では、NATTYSWANKYは原則として、私たちの講座もヒントにしながら内製型の研修によって、社員とアルバイトの育成に努めています。

しかし、見逃せないのは、田中さん自身がもともと学びの重要性を理解しており、そのことを成長していく会社の中で、仕組みとして実践していたことです。

例えば、「読書感想文制度」は、もう10年ほど続けているものです。

田中さんが毎月1冊、課題図書を決めて社員に提示し、社員は読後に感想文を送ります。その感想文はマネージャー全員が読むそうです。

強制的なものではありませんが、多くの社員に読書の習慣がつきました。感想文を送った社員には、書籍代とおやつ代として3000円が支給されるそうです。そんな制度があった上で、育成の仕組みを構築していったのです。

私自身が経営に悩んだり、人について悩むとき、読書を通じて多くのヒントを得てきました。哲学書やビジネス書を中心に、もう15年ぐらいでしょうか、月に5冊は読んでいます。この数年は、読書感想文制度のために、つまりは社員のために読んでいるようなものですが、読書の効用は間違いなくあると思います。

中には、本など読まないのに優秀、という社員もいますが、知識のある人の行動と、知識のない人の行動は違うでしょう。100のことを知っている人がお店を運営すれば、10の人とは行動が違う。結果も絶対に違ってきます

学びの文化があり、また学びの仕組みがあることは、採用にも好影響を与えているそうです。新入社員に入社理由を挙げてもらうと、「勉強できる環境みたいなので」と答える人が少なくないと言います。

中には「読書感想文制度に惹かれました」という新人もいるのだとか。学びの機会があることに魅力を感じて会社を選ぶ若手は多いのです。

スマホアプリによる学習も導入

育成と評価制度という仕組みが定着したことで、NATTYSWANKYの経営には、どのようなプラスがあったのでしょうか。

例えば業績との相関などがハッキリすればわかりやすいのでしょうが、定量化は困難です。ただ、一つの指標として田中さんは「社員の在職期間が長くなった」ことを挙げています。

株式公開も果たしたNATTYSWANKYは、さらに出店を強化していきます。企業規模が大きくなった今、育成もまた、次のフェーズに入ろうとしています。

「今の内製研修のやり方では、追いつかなくなってきました」と田中さんは言います。

現在は、スマホを使ってスキマ時間に学習できる「グローイング・モバイル」という私たちの現場教育用アプリを、およそ1500人の店舗スタッフ全員に使ってもらっていますが、あらためて全社員を対象に、もう一度グローイング・アカデミーの研修を受講させることを検討しているそうです。

かつて私たちのところで研修を受けて、まだ会社に在職している人は、ほとんどが幹部クラスになりました。そこで、グローイング・アカデミーに行ったことのない人たちに行かせよう、ということのようです。

店舗スタッフと話をすると、みんな勉強したがっています。というのは、〝知らない〟ということが彼らのストレスになっているからです」学ぶことが企業文化となり、多くの社員が知ることを求め、積極的に研修に参加する。こういう企業が成長していくのは当然のことではないか、と私は思います。

サービス基礎力の徹底化

次は小売業の事例です。

1975年に大阪で設立されたあさひは、自転車専門店「サイクルベースあさひ」を全国で470店以上も展開する、日本最大の自転車小売企業。2004年には株式公開も果たし、なお成長を続ける企業です。

もともと人財育成には力を入れてきた同社ですが、2011年、12年と年間に40店舗ペースの大量出店を続けた後、あらためて人財育成の強化を図るためにグローイング・アカデミーが協力をすることになりました。

今から5年ほど前のことです。同社が育成のテーマとしたのは「サービス基礎力の徹底化」でした。第1章でも述べましたが、誰もができなければならないサービスの基礎力を身につけさせることです。その背景には、大量出店に伴い、新しい社員が増えたことがあります。

現場レベルでは、それまでOJTによる育成を中心にしていましたが、先輩社員の教え方によって成長に差が出てくることもあり、育成のレベルを全体的に底上げする必要がありました。

ただ、育成の仕組み化を目指す中で、どの役職、階層に、どのような研修が必要なのかという整理に悩みを抱えていました。

そこで、私たちが関わり、プログラムとコンテンツ作りを進めました。

企業理念に対する理解を深めながらホスピタリティ精神のベクトルを合わせることに加え、店長のリーダーシップとコミュニケーション能力を高めることも主要な課題となりました。

プロフェッショナルに求められる人間力

あさひの下田佳史社長は言います。

「自転車の整備に代表される専門的な技術力はもちろん必要ですが、お客様のニーズに対応するプロフェッショナルになるためには、人間力を高める必要があります。

そのように考えて、さまざまな研修会社を調べましたが、現場を経験してきた人が講師を務めるのはグローイング・アカデミーだけでした。

フードサービスでもホテルでも、また私たちのような小売業でも、接客サービスには普遍的なメソッドがあると思います。

リッツ・カールトン・ホテルやディズニーランドなど、グローイング・アカデミーの講師の方は、お客様満足を追求する姿勢に共通点があります。

研修の内容が現場に即していることがよくわかりましたし、受講させてみると現場の人間が親しみやすいプログラムでした」お客様の立場で考える、とはよく言われることですが、誰もがすぐにできることではありません。

会社として、考え方を共有し、サービスのレベルを揃える必要もあります。あさひは、覚悟を決めて教育に投資をし、学んだことを現場で活かすことを意識しています。

確かに効果の測定は難しいのですが、企業の将来の成長のためには学びの場を提供し続けることが必要です。年数をかけてスキルを蓄積していくことが大事で、私はそういうチームを作っていきたいのです」あさひの場合、自転車に関する技術を習得させる教育については、もともと熱心でした。

その下地があるので、方針さえ決まれば、実行はスムーズでした。

スタッフ育成につながる研修を実施

主に店長を対象としたOJTトレーナー研修の会場で、研修がどのように日常業務に活かされているか、受講者に聞いてみました。

「店長になって10年経ちますが、コーチング研修を受講したことで、部下の目標設定の仕方が変わりました。

〝頑張ってね〟で終わるのではなく、いつまでに、どのようにして目標を達成するのかを話し合い、それについて私がこのように協力しよう、と踏み込んだ話をするようになったのです。モチベーションの引き出し方に役立っています」(大阪N店の店長)「部下の教育が悩みでした。

そんなときに研修でティーチング、コーチングについて学びました。それぞれの特性によって、ティーチングとコーチングを使い分けることを知り、業務に活かしています。自分に一番必要なものを、ピンポイントで教えていただいた気がします。

店長歴は4年ですが、今は、部下をすごく大切に感じるし、成長してもらいたいと思います」(都内W店の店長)「私は入社4年目ですが、接客マイスターという社内資格を取得したので、研修に参加させてもらいました。参加されている店長の方々はみなさん優秀で、ついていくのが大変です。

でも、吸収することがたくさんあって、私自身に指導する場面があれば、きっと役に立つと感じます」(都内S店勤務)コーチングに限らず、リーダーシップを涵養し、コミュニケーション能力を高める研修での学びが実践に活かされ、特に店長の間でスタッフを育てることが強く意識されるようになった。

それがこの4年間のあさひの変化ではないかと思います。

「店長の役割は、いいサービスによってリピーターを増やし、また口コミでファンを広げること。〝売って終わり〟ではなく、また業績目標を達成しさえすればいいというわけではありません。ですから、例えば20年前などと比べ、店長に課せられている役割は大きく変わりました。難易度が上がっている、と言えるでしょう。企業理念の浸透は、店長レベルではしっかりできていると思っていますが、さらに、店舗スタッフに浸透させていきたい。研修はそのためのツールでもあると考えています」(下田社長)

そのように育成の文化が定着したのは、研修実施だけではなく、評価制度も整備してきたからです。「評価は、企業にとって永遠の課題だと思います」と、下田社長は言います。「10年前に新しい人事制度を導入しましたが、毎年ブラッシュアップしています。評価者のトレーニングも実施し、接客やサービスなどについて、定性的な評価もしています」

教育はコストではなく投資

あさひの人財育成について私が感じるのは、「教育はコストではなく、投資である」という下田社長の信念の強さです。

全国から社員を集めて実施する研修も、精度を高める評価のブラッシュアップも、手間がかかり、お金もかかりますが、そこに迷いはありません。

企業理念に即して人を育て、サービスの質を高めることによって店舗の近隣の人にあさひの良さを知ってもらうことが、ロイヤルカスタマーを増やすことにつながる。

そして、それによって企業が成長していくという、経営の王道を行っているのです。

「花火を打ち上げるのは簡単ですが、長続きはしないでしょう。私たちは、いわゆる〝特売〟もやめました。宣伝してお客様を集めても、そこでがっかりさせてしまっては意味がない。特売をすると店舗のオペレーションが煩雑になり、サービスが低下する恐れがあります。そうではなく、一人一人のお客様に誠意を持って接することが大事です。その意味では店はメディアであり、店長をはじめとするスタッフがサービスを通して顧客満足度を上げることが、企業の成長の源泉です。時間がかかるやり方ではありますが、人の成長が一番重要で、会社としてそれをどうバックアップできるかが問われるのだと思います」(下田社長)

店舗数は2019年12月末時点で476店となり、500店舗を目前としていますが、数を追うのではなく、社員の成長と歩調を合わせ、質を落とさない出店を続ける考えです。

「ですから、まだまだ育てまくらなければならないんです」下田社長は、そう言って笑いました。

会社としての基準を示すクレド

三州ペイントは福岡市に本社を置き、九州から東北までに支店網を持ち、全国展開しています。塗料業界では珍しく、商品開発・製造から営業活動や商品提案、施工までを自社で一貫して行うユニークな会社です。

このような一貫体制により、エンドユーザーの声を直接聞くことができ、商品開発やサービスに反映させることで「高品質」を実現しているという特徴があります。

お客様の利便性を考慮して、例えば、従来は4回の施工が必要だった塗装を2回で終わらせるデュアル・コート工法や、1日で終わらせるオールインワンという工法も開発しました。

工事に際しては住宅を養生する必要がありますが、シートを張ると、部屋の中は真っ暗で換気もできない、洗濯物も干せないという環境になります。工期の短縮は、そんなお客様の負荷を減らしたい、という思いから開発されたものです。

この三州ペイントは「クレド経営」を掲げ、顧客満足の向上に努めています。クレドというのはリッツ・カールトン・ホテルなどで知られるようになりましたが、企業経営における行動規範のこと。

狭義では、それを社員が共有するためカードにして、常に携帯するものとして知られます。多くはサービス業が取り入れる理念経営のことを指しますが、なぜ外装塗料の開発製造・販売・施工会社である三州ペイントがクレド経営を取り入れたのでしょうか。

八藤丸貴実社長が説明します。

「リフォーム業界の市場規模は7兆円弱ですが、国の施策として20兆円にまで拡大を目指す中で、新規参入も増えています。家電量販やホームセンターなど、異業種からの参入も増えており、ブランド力ではなかなか追いつきません。そこで、人のサービスによって差別化しようと考えたのです」

顧客満足を最優先に

営業会社は、ともすると顧客満足よりも受注拡大を優先することがあります。しかし、三州ペイントは、顧客満足を最大化することこそが最優先と考えました。

2011年に起こった東日本大震災という未曾有の災害によって、あらためて人と人とのつながりや人間力の大切さを知り、そのことを営業スタッフにも感じ取って学んでほしいという思いから、かねてより準備を進めていたクレドを見直した上で、2011年7月より本格的にクレド経営がスタートしたのです。

お客様を大切にするという考えは、もともとありました。

短期間で終わる工法を開発したのも、その姿勢の表れですが、顧客満足を最優先するということについては、より本質的な理由がありました。

外装施工は、他の商品やサービス、例えば家電や自動車、洋服などとは違い、試着や試乗ができません。試しに塗らせてもらう、などということができないのです。「完工後、20年は保ちます」といったところで、それが本当かどうかは証明できない。

つまり、お客様に信用してもらうしかない事業です。その「信用される力」を会社としての基準として示すものがクレドということになります。クレドそのものは公開していないそうですが、社長自身の営業経験もふまえたオリジナルなものです。

私たちが心がけていたのは、顧客満足度を何よりも優先することです。お客様を、決して裏切るようなことをしない。そうした考え方と姿勢があったからこそ、これまで実績を上げてこられました。それを言葉にして集約したのがクレドです」その考え方は素晴らしいと思います。

ただ、業界の文化として馴染むかと言えば別の問題です。外装施工は職人の世界ですから、基本は「いい仕事をすれば、それでいいのだ」という価値観です。

クレドって何?と社員も首をかしげるところからスタートし、2〜3年は浸透しなかった、というのも当然のことかもしれません。

世の中でも、今ほどクレドは知られていませんし、ホスピタリティという言葉も定着はしていない頃のことです。

「レストランだったら、お客様のコップの水が空になったら、スマートに注ぎに来る。でも、そのこと自体が評価されるわけではありませんし、給料が上がるわけでもない。となると、だったら、やらなくてもいいじゃないか、となる。私自身が全国の支店を回ってクレドの説明をしましたが、なかなか浸透しませんでした。そこで、研修によって理解を深めなければ、と考えたのです」

研修後にグループ・ワークを実施

私が八藤丸社長と出会ったのは、そのようなときでした。

ちょうど、グローイング・アカデミーが福岡支社を立ち上げようというタイミングでもありました。社長ご自身に、ホスピタリティ、リーダーシップなどいくつかの研修を受けていただき、本格導入ということになりました。

ただし、サービス業を対象とする内容なので、そのままではそぐわない点もあるので、少しプログラムをカスタマイズしました。

顧客満足度を向上させるためのクレド経営を浸透させることを目的とする研修ですから、社員の方にとっては不慣れなプログラムであったはずです。

しかし、研修自体は、最初から好評だったようです。

「講師が一方的に教えるという研修ではなく、グループ・ワークなども取り入れた点が私もいいなと思いましたし、社員も楽しかった、と言います。

プログラム内容についてもモチベーションの上げ方や脳の使い方など、それまでに学んだことのない研修もあって、刺激になったようです」さらに、三州ペイントは、研修を実施して、それで終わりとはしませんでした。

今も続けているそうですが、研修の後、受講した社員を集めてグループ・ワークをさせるのです。研修で学んだことを、業務にどう活かすか。それを書いてもらって、話し合いをするのです。

それによってズレをなくすことができますし、三州ペイントでの具体的な行動に当てはめて考えることもできます。

「研修は、それ自体が目的になりがちですが、あくまで考え方と行動を変えるためのスタートですし、何より成果を出さなければなりません」八藤丸社長はこのように狙いを説明しますが、第2章で述べたグローイング・サイクルの「2教える」に続く「3要求する」のために、まずアクション・プランを各自が作り、共有する、ということです。

施工を担当する職人にも研修を実施

研修によって、ホスピタリティに対する理解は深まり、クレドの考え方も浸透し始めました。三州ペイントでは、さらに100ページにも及ぶクレド経営のマニュアルを作成し、全社員に配付しました。

OJTに際しても、マニュアルをふまえた指導をするようになっています。また、評価制度も導入しました。

業績評価だけでなく、プロセスに対する評価も加味し、またクレド経営を理解し、それに沿った行動ができるかどうかを評価項目に取り入れたのです。

同時に「人を成長させるための評価」にするために工夫を凝らし、評価者のトレーニングも実施しました。そのようなさまざまな取り組みによって、クレド経営はかなり浸透してきた、と八藤丸社長は感じています。

「評価制度を導入してから、クレドに対する意識がぐっと強くなったと思います。社員の行動や考え方が変わってきたかどうかは、なかなか定量的に測れませんが、一つの証明としては、お客様へのアンケートの結果が良くなってきた、ということはあります。

少しずつですが、ホスピタリティが身についてきた、と言えると思います」お話を聞いていて私が驚いたのは、6〜7年前から社員だけでなく、施工を担当する職人にもクレド経営を身につけてもらおうと、集合研修を実施していることです。

塗装職人のみなさんが「笑顔の作り方」や「挨拶の仕方」を学ぶのです。普通に考えれば、うまくいきそうには思えませんが、実際にやってみると意外な結果になりました。

「職人から文句が出るようなことはほとんどなく、みんな喜んでいたのです。研修のような形で勉強する機会がなかった、ということもあるでしょう。

顧客満足やホスピタリティなど、多くが初めて学ぶことなので、非常にためになる、ワークが楽しいなどと毎年、好評です。

2019年は〝若手とのコミュニケーション〟をテーマに、120人を3回に分けて研修をしました。人不足の環境で育成の重要性が増していますが、彼ら自身が困っているはずだと考えたからです。

自分たちがそうされた経験がないので、若手を褒めるとか、意見を尊重するとか、話しやすい環境を作るなどというやり方がわからないのです。おかげさまで、たいへん好評でした」

お客様からの感謝が次の自信に

社員だけでなく、関係先も含めて進めるクレド経営は、おそらくお客様からの好反応につながっていると思います。

本気の感謝が見返りとしてあるのです」と八藤丸社長は言います。

「誠実な工事をしていただき、ありがとうございました」「悪天候の続くなか、施工の方も営業の方も丁寧に一生懸命にやっていただき、感謝しております」「スタッフの皆様が態度がとても良くて感心しました」施工後のアンケートによるお客様の声は、社員の間で共有されています。

お客様による信頼感が、次の自信につながる。クレド経営の浸透は、そうした好循環を生みます。

「一人のお客様がリピートしてくださるのは、次の工事のときですから10年先。私たちの会社にとってのリピートは、口コミで新たなお客様を紹介していただくことだと思っています。

今のところ、そういう事例が次々に出てきているわけではありませんが、今後は十分に見込めると思っています」お客様目線で考えることが常態となり、施工技術も含めてサービス・レベルが向上すること。

三州ペイントの事例は、「教育」と「評価」による人財育成が広く多様な業種に適用できることを示すものですし、逆にサービス業が見習うべき面が多いのではないでしょうか。

COLUMN5担当分けの変更がスタッフを育てる

自分自身が現場で働いていたマクドナルド時代を振り返ると、店長のときに店を変わることが成長につながったと感じます。同じ会社ですから、店舗運営に関する基本的なポリシーは同じです。

しかし、例えばQSC一つとっても、マニュアルは共通であるのに、そのやり方は店長によって微妙に違っています。

つまり、店が変わると、前の店でのやり方が通用しなくなるのです。

副店長をはじめとする社員やアルバイトの顔ぶれも変わりますから、その点でも違和感があったり、それを解消するためのコミュニケーションが新たに必要になりました。

このように、新しい現場で悩み、それを克服していくことが、自分にとってとても大きな経験になったことが今ではわかります。

業務のローテーションによって新しい仕事を覚えることが、成長意欲を引き出すことにつながります。ここではアルバイト・スタッフがなかなか長続きせず辞めてしまう、という状況を想定して、話を進めましょう。

アルバイトを「辞めない理由」を探ったアンケート調査があります。

それによると、

  1. ①コミュニケーション、
  2. ②育成(教育)、
  3. ③評価・昇給・昇格

が、辞めない理由の上位3つでした。

社員やアルバイト仲間とのコミュニケーションが上位であることは理解できます。しかし、育成が上位にランクされるのは、私にとっても驚きでした。

後々の経験から、このことを正しいと理解できるのですが、アルバイトはいろいろなことを学べることに楽しさを感じているのです。

アルバイトは、学生や主婦などが小遣い稼ぎをするもの、と思いがちですが、そんなパートタイムの労働の中でも、スキルアップすることによって自分が成長しているという実感を得ています。

そのことを起点にアルバイトへの対応を考えると、アルバイト・スタッフが辞めずに長続きするための手立てが見えてきます。

ずっと同じ仕事を続けていると、どうしてもマンネリ化してきます。マンネリ化して仕事が機械的になっていくと、それでは学びから遠ざかり、スキルアップにはつながりません。

そこで効果があるのが、いいタイミングでローテーションさせること。担当分けを変更することで、新しい業務を覚える機会が生まれます。

マクドナルドでは、同じ店舗内で、意図的に、頻繁に担当を変えていました。

新しいポジションでの業務を教え、それによってランクが上がったり、時給が上がったりと、もっと他の仕事を覚えたい、と思わせる仕組みを作っていました。

「同じ業務を続けたい」と強く希望するアルバイト・スタッフについては、スペシャリストとして処遇することもあり得ます。

本文でも触れた「やりがいの多様化」に対応することも、長く働いてもらうためには必要でしょう。その場合も、きちんと評価し、給料が上がる仕組みにすることで、モチベーションを維持、向上させることができます。

ただ、そんなスペシャリスト志向のスタッフにも、新しい業務にチャレンジすることを勧めることは大事です。

それによって、さらに成長する可能性がある、ということを理解すれば、さらに意欲を引き出すことができるかもしれません。

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