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第5章 集中の法則

マーケティングにおける最も強力なコンセプトは、 見込客の心の中にただ一つの言葉を植えつけることである。

会社が見込客の心の中に一つの言葉を植えつける方法をみつけることができれば、 信じがたいほどの成功を収めることが可能である。複雑な言葉である必要はない。独 自な言葉である必要もない。辞書からすぐに引っ張りだせるような、簡単な言葉がベ ストである。 これが「集中の法則」である。ただ一個の言葉、ないしはコンセプトに焦点をしぼ り込むことによって、心の中にそれを″焼き付ける″のである。これこそ究極のマー ケティングにおける供え物だ。 フェデラル・エクスプレス社は見込客の心の中に「翌日配送」という言葉を植えつ けることに成功した。それというのも、同社は自社の商品ラインを犠牲にし、 一晩で 荷物を配送するというサービスに焦点を絞り込んだからぞある。 ある意味ぞは、 一番手の法則(ベターであるよりも一番手であるほうがいい)も、 初めてのブランドや企業が顧客の心の中に一つの言葉を植えつけることを可能にして くれる。しかし、 一番手のブランドや企業が植えつける言葉は余りにも単純過ぎて、 うっかりすると見過ごされてしまう。一番手の企業はそのカテゴリーを象徴する言葉を植えつける。例えば、IBMは 「コンピュータ」という言葉を。言い替えれば、ブランド名がカテゴリーの総称にな るのである。「IBMの機械が欲しい」といえば、 コンピュータを欲しがっているこ とに疑間の余地があるだろうか。 また、われこそ一番手なり、という主張の有効性は、特定の言葉の連想テストによ って検証することができる。例えば与えられた言葉が、 コンピュータ、複写機、チョ コレート、 コーラであるとすれば、 一番連想されやすい言葉は、それぞれIBM、ゼ ロックス、 ハーシーズ、 コークということになるだろう。 抜け目のない一番手企業は、さらに一歩踏み込んで、その地位を固めようとする。 食品会社のハインツは、「ケチャップ」という言葉を消費者の心に植えつけている。 だが同社はこれに満足せず、ケチャップの最も大事な属性を浮き彫りにすることにし た。「どろりとしたケチャップ」というのが、同社がケチャップの濃さを他に先がけ て謳いあげた言葉である。「どろりとした」という言葉を植えつけることによって、 ハインツは五〇パーセントのシェアを維持している。

あなたの会社が一番手でない場合には、植えつける言葉はいっそう焦点を絞り込ん だものでなくてはならない。しかしそれ以上に大切なのは、その言葉があなたのカテ ゴリーの中で、″使用可能な″言葉であることだ。他のだれもその言葉をしまいこん でおくわけにはいかないのだから。 成功する言葉を見つけるには、なにも言葉の天才である必要はない。スパゲッティ ソース市場でトップのラグ社に対抗していたプレゴ社は、 ハインツからアイデアを借 りることによって二七パーセントのシェアを獲得した。プレゴが使った言葉は「もっ と濃い」であった。 最も効果的な言葉は、簡潔で、利点を伝える言葉である。商品がどのように複雑な ものであれ、また市場のニーズがどのように複雑であれ、複数ぜはなく、ただ一つの 言葉、あるいは利点に焦点を合わせる方がベターである。 さらにはハロー効果と呼ばれるものもある。もしあなたが顧客に確固たる利点を一 つ植えつけることができれば、顧客の方でもそれ以外の利点を数多くその商品に添え てくれるだろう。「もっと濃い」スパゲッティソースは、高品質、栄養分、食品価値などといった利点を合わせ持つことをそれとなく意味する。「より安全な」車とは、 暗にデザインと技術に優れた車のことである。計画的なプログラムの成果であると否 とにかかわらず、成功した会社(またはブランド)というのは、顧客の心の中に″た だ一つの言葉″を植えつけている会社(またはブランド)である。いくつか事例を上 げてみよう。

クレスト(歯磨き)‥……‥虫歯

メルセデス(車)…………技術

ボルボ(車)…… … … …安全性

BMW (車)……… ………走行性

ドミノ(ピザ)‥……… …宅配

ペプシヨーラ(飲料)‥…‥若者

ノードストロム(百貨店)・サービス

これらの言葉にはさまざまな種類がある。利点に関連したもの(虫歯予防)、サー ビスに関連したもの(宅配)、顧客関連のもの(ヤング層)、セールスに関連したもの (お気に入リブランド)などだ。 私たちはこれらの言葉が顧客の心に定着することを願っているが、しかしどんな言 葉も永久に持ちこたえられるものではない。いずれ会社が言葉を変えなければならな い時がやってくる。だがこれはそう簡単なことではない。ロータス・ディベロップメ ント社の最近の動きがそのことを端的に示している。 長年にわたってロータス社は「スプレッドシート」(表計算ソフト)という言葉を 顧客の心に植えつけてきた。ロータスといえばスプレッドシートーー213型の同意 語であった。しかし、 スプレッドシートの業界は次第に競争が激しくなり、成長の余 地が限られてきた。他の会社と同様にロータス社も成長を望むことに変わりはない。 同社は単一商品ビジネスの枠をどのようにして乗り越えたらいいだろうか。 一般的な解決策はIBMやマイクロソフト社がやったように、あらゆる方向に事業 を拡大することである。事実、 ロータス社はアミ・プロのワープロソフトウエアを買い取るとともに、数々のソフトウエア商品を開発することによって、在来型の商品ラ インを拡大していった。その後、同社は商品ラインを再編成して、「グループウエア」 と呼ばれる新しいコンセプト、 つまリパソコンネットワーク用のソフトウエア商品に 力を集中した。 ロータス社はグループウエア商品の開発に成功した最初のソフトウエア会社であっ た。もし万事うまく運べば、同社は顧客のマインドに二つ目の言葉を首尾よく植えつ けることができるだろう。 マイクロソフト社とは違って、 ロータス社はいまや会社として方針が一本通った。 一朝一夕にとはいかないにしても、長い日でみれば同社はソフトウエア業界に強力な 地歩を築くことだろう。「翌日配送」という言葉がフェデラル・エクスプレス社に対し て、また「安全性」という言葉がボルボ社にプラスに働いたように、「グループウエ ア」という言葉がロータス・ディベロップメント社にプラスをもたらすはずぞある。 私たちは他人の言葉を借りてくるわけにはいかない。ロータス社の戦略がさすがで あるのは、「グループウエア」という言葉が、他社の手をつけていない言葉である点

だ。おまけに、この業界には、 コンピュータネットワーク化に向かって滑々たる流れ が存在する(ビジネスコンピュータの半数以上がネットワークによって結ばれている。 「ネットワーク・コンピューティング」という新しい雑誌が発行されているほどだ)。 多くの会社がただ一個の言葉やコンセプト(「コーポレート・ビジョン」と呼ばれる場 合が多い)を植えつける利点は認めながらも、その言葉を先取りすることには興味を 示さない。 マーケティングにおいておよそ無駄と思われるのは、自分が使ってきた言葉をほっ たらかしにして、他人の支配下にある言葉を物色することである。アタリ社の場合が そうだ。同社はそれまでに「ビデオゲーム」という言葉を打ち立てていた。ところが、 この業界は先が長くなさそうだったので、同社は一九八二年、新しい方向へとスター トした。アタリがコンピュータの同義語になることを望んだのである。社長のジエイ ムズ。モーガンは次のように述べた。「商標名としてのアタリの強みは、同時に弱点に もなりやすい。何故ならビデオゲームの同意語だからだ。アタリはイメージを修正し て、会社のビジネス分野を家電製品にまで広げなければならない」。

モーガン社長の戦略は不運にも挫折した。アップル社やIBMなど多くの会社が、 彼の追い求めた言葉をすでに手中に収めていたのだ。アタリ社の多角化戦略は惨めな 敗北に終わった。それ以上に皮肉だったのは、 一九八六年に上陸した別の会社がアタ リ社の捨て去ったコンセプトを引き継いだことである。その会社が任天堂ぞある。同 社は今日、何十億ドルもの市場の七五パーセントを押えている。それにひきかえ、ア タソ社はいまやすっかり影の薄い存在になってしまった。 マーケティングの基本は、焦点を絞り込むことである。活動の領域を絞れば絞るほ ど、立場が強力になる。なにもかも追い掛けているようでは、結局なにもモノにはで きない。 会社の中には、焦点を絞り込む必要は認めながらも、逆効果になるようなやり方で この戦略を達成しようとしているところもある。「わが社は高品質市場に焦点を合わ せることにする。価格志向の強い低品質市場に入るつもりはない」と。それはいいの だが、問題はあなたが、自分のビジネスをメルセデスベンツやBMWのように高価格 製品のみに限定しない限り、顧客の信用は得られないということだ。

ゼネラル・モーターズ社は、あらゆる価格帯で高品質の車を売ろうとしている。「路 上に高品質車を」というのが、同社の最新の企業スローガンである。GM車にはすべ て「優秀品質マーク」がついている。フォードはどうしているだろうか。同じことを している。「品質こそ第二の仕事」というのがフォード社のキャッチフレーズだ。ク ライスラー社でもリー・アイアコッカ社長が「わが社は最大であることは望まない。 ベストであることを望むだけだ。」と宣っている(アイアコッカが最大であることを 望んでいないなどと、 いったいだれが信じるだろうか)。 これは会社の内部では立派な口上である。完璧な品質、偉大な企業への道。トラン ペットを吹き鳴らし、ダンサーが舞い踊るディーラーの大会では、すばらしいテーマ になることだろう。しかしいったん会社の外に出れば、この言葉は砕け散ってしまう。 いったい自分の会社を自ら「質の悪い」会社だと公言する者がいるだろうか。いるは ずがない。だれもが高品質を唱えながら、結果的にそれを守らないのだ。 私たちは高品質にしろ何にしろ、それに対して反対意見を唱える余地がないような アイデアに焦点を絞り込むことはできないのである。例えば、あなたは自らを正直な

政治家だと位置付けることはできない。なぜなら、それに対して進んで反対の立場を とろうとする人は、だれもいないからである(ただし、その可能性を秘めた候補者な ら、わんさといるが)。これに対して自らを親ビジネス派とか、親労働派の候補者と 位置付ければ、即座にそう認められるだろう。反対の立場にも支持者がいるからであ る。 あなたが絞り込む言葉を決める時は、弁護士には相談しないほうがいい。彼らは、 世間に出すものは何でも商標登録したがる。実はそうしないで、他社にあなたの言葉 を使わせるほうが賢い手なのだ(リーダーになるためには、追随者がいなくてはなら ない)。ロータス社が他社をグループウエア事業に引き込んだことは、よかったはず だ。その結果、グループウエアというカテゴリーの重要度が高まり、人々はロータス 社のリーダーシップにいっそう強烈な印象を持つことになったのだ。 いったんあなたの言葉が決まったら、あなたは市場でその言葉を守るためにあらゆ る手を尽くさなければならない。BMWの事例がそのことをよく物語っている。長年 にわたって、BMWは究極の「走りのいい」車として知られていた。そんな矢先、同

社は製品ラインを拡げ、大型の七〇〇シリーズ●セダンによって、メルセデスベンツ を追撃することに決めた。問題はどうすれば車輪の上のリビングルームが、走りのい い車になりうるかということだ。この大型車では道路の感触も味わえないばかりか、 コマーシャルで訴えた運転のためのあらゆる手引が無駄になってしまうのだ。 この結果、BMWの業績は下降線を描き始めた。だが幸いにも、同社は最近、小型 のBMWを新たに発売し、再び「走りのいい」車であることを強調している。BMW はかくして失っていた焦点を取り戻した。 集中の法則は、あなたが売っているすべてのもの、あるいは、例えばドラッグのよ うな、買わないように説得しているすべてのものにあてはまる。テレビや雑誌での麻 薬撲滅キャンペーンは焦点がぼやけているために、効果が減殺されている。ドラッグ に手を出させなくするような、麻薬常用者の心に響く一語が欠けているのだ。麻薬追 放広告は余りにも散漫である。 麻薬追放の勢力(彼らは結局のところプロフェッショナルだ)は、妊娠中絶問題に 取り組んでいるアマチュア集団を範とすればいいと、あなたは考えるかもしれない。

中絶問題の場合、賛成の側、反対の側ともに、 一個の強力な言葉に焦点を合わせてい る。すなわち「生命を守れ」と「選択の自由を守れ」である。 麻薬追放の勢力も同じように、ただ一個の強力な言葉に焦点を合わせるべきである。 反対運動が目指さなければならないのは、今日、たばこがそうであるように、ドラッ グを反社会的存在にしてしまうことだ。この狙いを果たしてくれる究極の言葉は、 「敗残者」であろう。麻薬の使用はあらゆる破壊(仕事、家庭、自尊心、自由、生命) を引き起こすので、「麻薬は敗残者を生む」という呼び掛けは、極めて強力なインパ クトを持つはずだ。とりわけ、 ハイになることよりも社会的ステイタスのほうを気に する、遊び半分の使用者にはきっと効く。 マーケティングの法則の一つである「集中の法則」は、最大の社会的問題の解決に 役立つのである。 *ハロー効果(工o一oo「ooこ 一部の好ましい、または好ましくない印象評価が全体に及ぼす影響及び効果。ある人物の特定印象が 強すぎて、他の特性が見失われることをいう。

 

 

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