第4章部下が「自分からやりたくなる」ように導く
01「やる気」の方程式を知る⦿優秀な若者の「欲求」は?(収入より大事なもの)⦿「WillCanMust」の方程式を知る02部下の「こうありたい」を知る方法⦿「特にやりたいことはない」という部下へのアプローチ⦿大事なことは「背景」を知ること03部下の「強み」を開発する⦿部下の「能力開発目標」を決める
⦿部下の「強み」を発見する04うまい目標設定で、「成長を加速」させる⦿「全員達成」できる目標では、人は「成長」しない⦿目標設定は、SMARTの法則で05何事も部下に「決めさせる」⦿部下の主体性を引き出す鍵、「自己決定感」とは?⦿メンタルの弱さも「自己決定感」で取り除く06新人には〝ティーチング〟で「不安」をなくす⦿ティーチングの3つの流れ⦿マイクロマネジメントにならないように注意07中堅には〝コーチング〟で「考える力」を伸ばす⦿「GROWモデル」とは?⦿言いたくなっても、ガマンする08ベテラン部下の「最高出力」を引き出す⦿ベテランは「手の抜き方」も知っている⦿定期報告の機会を持つ09本気になれない人には、応援団をつける⦿本気になれない部下が、本気になれた仕掛け⦿ヒントはオリンピック選手の壮行会
01「やる気」の方程式を知る登山家は、「ヒマラヤに登るなんてすごいね」と言われてもピンとこない。
受験生もそうだ。
「勉強してすごいね」と言われてもピンとこない。
そこには「手に入れたいもの」があり、「自分なら手に入れられるかも」と思うからこそ、ただやってみたいと思うのだ。
「やる気」=「欲求(こうなりたい)」×「能力(自分ならできるかも)」。
これが方程式。
⦿優秀な若者の「欲求」は?(収入より大事なもの)モチベーション研究の第一人者、京都大学名誉教授の田尾雅夫氏によると、モチベーションを引き出すことを考える際、「誘因」と「動因」で考える必要があるといいます。
「誘因」とは、報酬や昇進などの〝自分の外にあるものへの欲求〟を指し、「動因」とは、自分が欲しいと思う〝自分の内なる欲求〟を指します。
価値観(動因)が多様化する今、上司はそれぞれの部下に合わせた「誘因」を作らねばならなくなっています。
昔は、昇給や昇進だけでも十分でしたが、今はそうはいかないのです。
でも、シンプルに考えると、実は誘因は一つの要素に絞れます。
私は21年間、求人事業に従事していました。
そこで常に思っていたことがあります。
給与が決して高いわけではないけど、優秀な若者が喜んで入社を希望する会社があるのです。
これは有名企業とは限りません。
ベンチャーや地場の会社もあります。
もちろん、働き心地、社風、仕事の魅力など、色々と要素はあるのですが、1つに絞るならば、「成長させてくれる」ことこそが、どの会社にも共通する誘因(報酬)なのです。
実は、まったく同じことをハーバード・ビジネス・スクールの竹内弘高教授が、世界経営者会議のパネルディスカッションで言っていました。
「優秀な若者は、今の給与以上に〝成長できる〟ことを報酬と考えている」、と。
〝成長の機会〟は、グローバル・スタンダードの報酬と言ってもいいでしょう。
モチベーションを上げるために、「ほめ方」「話し方」だけに目がいきがちですが、その前に、上司は「部下の成長機会」を作ることが、大前提となります。
⦿「WillCanMust」の方程式を知る「WillCanMust」という動機づけの法則をご存知でしょうか。
Will、Can、Mustの3要素が交わる時、モチベーションを最大限に引き出せるという法則です。
次の図をご覧ください。
Willとは、本人の「欲求(動因)」。
どうなりたいのか、どうありたいのかといった欲求。
Canとは、本人の「能力」。
自分ならできるという確信、強みを活かせる期待。
Mustとは、本人が従事する「仕事(業務)」のこと。
例えば、飛び込み営業だとしましょう。
なかなか、根気のいる仕事です。
目標は、「1カ月に5件の新規開拓」。
これがMustになります。
そして、本人のWillが「将来、自分で事業を立ち上げたい」ことだとします。
また、本人も「頑張ればできる」と実感を持っているとします。
これがCan。
この要素を重ねると、本人の心の中はこうなります。
「1カ月5件の新規開拓をする仕事が、自分の夢である起業に役立ちそうだ。
頑張れば月5件程度ならできるはず」こうした動機づけができれば、やる気は勝手に出てくるものです。
実際、従業員のモチベーションの高さで定評のある会社の経営者も、こう言っています。
従業員のやる気を引き出す最大のツールが、『will,can,mustシート』です。
(中略)半年に1回、『何をしたい』『できる』『しなければいけない』3つのことをキャリア面談で確認するのです。
(※①)(リクルートホールディングス峰岸真澄社長)社内でモチベーションに関する情報収集と議論を繰り返した。
一番納得感が高かったのが、「やりたいこと」と「やれること」と「やるべきこと」、この3つの条件が揃ったときにモチベーションが高まるという理論だ。
英語で書くと、WillとCanとMustである。
(※②)(サイボウズ青野慶久社長)この理論に疑う余地は、なさそうです。
最後にこの理論の由来にも触れておきましょう。
諸説あるのですが、心理学者のエドガー・シャインが「自分のキャリアの拠り所を探る際、これらの問いについて内省することが大切だ」と説いた次の三つの問いに源流がある、とも言われています。
・自分はいったい何が得意か(=Can)・自分は何をやりたいのか(=Will)・何をやっている自分に意味や価値が感じられるのか(=Must)つまり、学問的にも裏打ちされたセオリーだということです。
ここまでくれば、使わない手はないでしょう。
では、具体的な使い方を説明していきましょう。
※①『日経MJ』(2014年3月24日)※②『チームのことだけ、考えた。
』(青野慶久、ダイヤモンド社)Point部下のモチベーションを高めるためにも、「WillCanMust」の方程式を知っておこう。
02部下の「こうありたい」を知る方法部下に「やりたいことはある?」と聞くのは、少し乱暴。
たいてい「わからない」と返ってくるだろう。
普通に生活をしているだけでは「自分はどうしたい」とは考えないからだ。
ただ、必ずある。
それに気づく〝きっかけ〟を作るのが上司の役割なのだ。
⦿「特にやりたいことはない」という部下へのアプローチさて、この「WillCanMust」を進める際には、まず、最初に部下のWillを聞くことから始めます。
問題は「やりたいことは、特にないです」と言われた時。
私の経験では、「ある」と回答する人は、10%前後しかいません。
この場合、部下にWillがないのではなく、整理ができていないだけ。
時には部下の勘違いもあります。
「野望かぁ…」と大げさに考えすぎる人もいます。
まず、整理をしてあげましょう。
Willを3つのレベルに分けて聞いてみてください。
1つ目は、「直近のWill」。
今の業務でやってみたいことを聞きます。
例えば、早く主任になりたい、後輩を教える役割がほしい、表彰されたい、といったことです。
早く帰る、というのでもOKです。
2つ目は、「将来のWill」。
将来やってみたいこと、理想の未来を確認します。
例えば、「いつか自分で商売をしてみたい」「ワークライフバランスを大切にしながら家族と過ごしたい」といった理想像を語ってもらいます。
でも、実は、この2つのWillを聞いても、出てこない場合は多いものです。
そんな時は、3つ目のWill。
「仕事で大事にしたい価値観」を確認します。
まず、「仕事で大事にしたい価値観を教えてもらっていいですか?」と尋ね、5個程度、挙げてもらいます。
そして、その中から1位を選んでもらい、その背景を聞きます。
そこにWillを見出す方法です。
実例を紹介しましょう。
1位に「時間の効率化」を挙げた人がいました。
その背景をたどると、「子供の時、親と一緒にいる時間が少なかったので、自分は家族を大事にしたい」といったような温かいWillが出てきたりします。
では、Willを聞く流れを整理しておきましょう。
まず「直近」と「将来」のWillを尋ねます。
それでも出てこない場合は「価値観」を聞いてみてください。
そうすることで、必ずWillを見出せるようになります。
⦿大事なことは「背景」を知ることWillを聞いた後、必ずやっていただきたいのが、背景を〝深く〟聞くことです。
なぜそう思ったのか、エピソードなどを知ると、Willを正確に把握できます。
具体的には「なぜ」を繰り返し、聞いていきます。
例えば、価値観を尋ねた際、「収入が大事」と回答する部下は少なくありません。
でも、その背景はそれぞれ異なります。
ある人は、こういうことでした。
「色々な経験をしてみたいから」→(なぜ)→「10万円、1万円のホテル、どちらも選択できるようになりたい」→(なぜ)→「故郷の人は、山に囲まれて一生を終える。
都会には出てこない人が多い。
世界が狭い。
人生には様々な選択肢があることを村に伝えたい」一見、無味乾燥にも思える「収入」というWillですが、その背景を深く聞くと、そこに「温かな思い」「ちょっと悔しかった思い」など、色々
なWillが隠れています。
そして「今の仕事(Must)」が、これらのWillに近づくイメージがあるかを、本人に考えてもらいます。
10%でも30%でも紐づいている部分があれば、それで充分。
本人にとって、今の仕事が、未来を作る努力に変わるのです。
PointWillがないという部下には、3つ目の「価値観」を聞いてみよう。
03部下の「強み」を開発する「自分にはできる」という実感を持ってもらわないと、せっかく与えたチャレンジも、部下にとってはただのプレッシャーになってしまう。
不安を取り除くために、不足するスキルを補い、また「強みの活かし方」を一緒に考えることも上司の務め。
⦿部下の「能力開発目標」を決める先ほど、給料以上に「成長できること」が、若者の最大の報酬になると言いました。
この「WillCanMust」では、1人ひとりに合わせた「能力開発目標」を決め、どんなCanを大きくしていくのかを決めます。
そうすることで、いかなる仕事であっても、本人が成長できる状態に導きます。
例えば、営業職だとしましょう。
「今までより、規模の大きいお客様を3カ月後に担当する」という目標を定めた場合、必要となるスキルは変わります。
そこで、「どんな能力を伸ばしていくのか」といったことを部下と話し合います。
例えば、様々な部署との調整を図る「調整力」や、サービスにカスタマイズを加えるなど「企画・提案力」といったスキルが必要になるかもしれません。
その場合、この3カ月で「調整力」「企画・提案力」を身につけることを「能力開発目標」とします。
そうすることで、能力開発の機会とします。
この時、「Must(業務)に変化を持たせる」ことも鍵になります。
人は、思った以上に飽きやすいと考えておきましょう。
成長感を感じたい人ほど、変化がないとマンネリを感じるものです。
⦿部下の「強み」を発見するさらに「強み」を活かす観点で考える方法もあります。
よりいっそう、本人にとっても納得度が高く、より満足感を感じる方法です。
まず、この「強み」とは何か。
何事も定義は大事です。
色々な定義がありますが、組織開発に社員の「強み」を活かすコンサルタントとして活躍するP・アレックス・リンレー氏が創設した研究機関「応用ポジティブ心理学センター(CAPP、イギリス)」の定義が、私は最もしっくりします。
【強みとは】*CAPPの定義「本人が他の人よりも上手にできることで、やっていて楽しさを感じること」つまり、うまくできるだけではなく、同時に楽しさを感じること。
部下にもこの定義を伝えた上で、「2つの強み」を確認すると良いでしょう。
1つは、「すでに活かしている強み」。
もう1つは「まだ活かしていない強み」です。
「すでに活かしている強み」とは、文字通り、部下が今の仕事で活かせている強み。
直接、部下に聞くのも良いですし、上司だからわかる強みもあるはずです。
あれば、その強みを周囲に広めるべく、共有する、教える、といった機会を作ります。
一方、「まだ活かしていない強み」とは、プライベートで活かしている、もしくは過去には活かしていた強みです。
あれば、それを仕事に活かす方法を考えます。
例えば、学生時代はキャプテンをしていたけど、今はリーダーシップを発揮していないなら、後輩を教える役割を与えられないか、といったように考えます。
そうすることで、部下は、自らの強みを活かせ、かつ成長感を感じられるようになります。
成長が報酬になる今、成長を実感できる「機会」をどんどん作ってみてください。
Point成長を実感できる「機会」を作り、「強みの活かし方」を一緒に見つけよう。
04うまい目標設定で、「成長を加速」させる目標とは、「壁に打ち付けた釘」のようなもの。
想像してほしい。
その下に輪ゴムのついた人形。
人形は床にテープで固定されている。
その輪ゴムをギューと伸ばして釘にひっかける。
床のテープをはがすと、人形はビューと釘をめがけて飛ぶ。
釘をどこに打つか次第で飛び方は変わる。
目標もどこに設定するかで、その人の到達点は変わる。
⦿「全員達成」できる目標では、人は「成長」しない1人ひとりが、「個人目標」を追いかけている職場だとします。
上司がミーティングで「全員達成を目指して頑張ろう」と檄を飛ばすのは問題ありませんが、本当に全員が達成できるような目標ではダメだ、と考えてください。
「目標の設定が甘い(低い)」可能性があります。
〝背伸びをして届く〟、そんな「程よいストレッチ」をかけることで、人と事業の成長を加速させることができます。
部下の7割が目標を達成できるくらいがベストな状態。
この比率が非常に重要です。
未達成者をマイノリティ(少数派)にしておかないと、「未達成でも問題はない」といった空気が職場に蔓延してしまいます。
さらに、達成者を職場で讃えるシーンがあると、部下の達成への本気度は加速します。
例えば、達成者が表彰される職場であれば、その光景を見た未達成者が悔しさから〝次こそは!〟と奮起するきっかけにもなります。
少し高めの目標を設定することが、成長の加速につながるのです。
⦿目標設定は、SMARTの法則でまた、達成したかどうかが曖昧な目標設定では、人は成長しません。
例えば、目標のないベテランの事務職が、イメージしやすいでしょう。
業務には精通しているものの、この数年はほとんど成長していないのではないでしょうか。
それどころか、上司が業務のやり方を変えようとすると、あたかも刀を奪われた武士のような形相で、慣れ親しんだ業務を奪われることに抵抗する人もいるでしょう。
それは、本人にとっても良くないことです。
そうならないための方法はただ1つ。
「明確な目標設定」をすることにほかなりません。
目安にしたいのは、SMARTの法則。
1981年にジョージ・T・ドラン氏が提唱した理論で、〝効果的な目標〟は次の5つの因子で構成されているというものです。
●SSpecific(明確であること)…達成、未達成が明確か?●MMeasurable(数字で測れること)…達成率や進捗度を測定できるか?●AAssignable(役割と権限が明確)…役割が明確で、やり方も任されているか?●RRealistic(実現は可能か)●TTimerelated(期限はあるか)特に重要なのは、「達成、未達成が明確」で、かつ「数字で測れる」ようにすること。
先ほどの事務職であっても、数値で目標を設定しなければなりません。
業務の平準化をお願いするなら、早期納品目標を設定することも作戦です。
そうすることで、今までのやり方では太刀打ちできないなら、武士が刀を捨て、別の武器を手に入れざるを得なくなるようなもので、自身の拠り所となる慣れ親しんだ方法を捨ててでも、新しい手法にトライせざるを得なくなります。
そして、もう1つ次の方法を加えてみてください。
数週間単位で小目標を設定すると達成の確度が向上します。
定期的に振り返りの機会を持てるからです。
これをスモールステップと言います。
「うまくできていること」「できていないこと」を検証し、その都度、改善策を考えます。
正しい目標設定は、部下に非連続の成長を促すパワーを持つのです。
Point成長を促すためには、「やさしい」目標ではなく、「正しい目標」を設定しよう。
05何事も部下に「決めさせる」同じ業務でも「やらされている」と感じる人と、「やりたいからやっている」と感じる人がいる。
この違いは、能力の問題ではなく、「自分の意思で決めたかどうか」で決まる。
上司が良かれと思って細かく言うほどに、部下はやりたくなくなる。
⦿部下の主体性を引き出す鍵、「自己決定感」とは?部下から質問を受けた時、すぐに答えを言ってあげたくなりませんか?でも、答えを先に言うのは、得策ではありません。
自主性を促すなら、「自分が、考えて決めた」といった感覚が極めて重要だからです。
この感覚を「自己決定感」と言います。
「内発的動機づけ」研究の第一人者であるロチェスター大学のエドワード・デシ教授らにより提唱されました。
次の図をご覧ください。
自己決定感にも段階があるのですが、「内発」「統合」「同一化」といった〝自分で決める〟という感覚を持ってもらうことが、主体性を引き出す上では重要。
つまり、細かくアレコレと指示をする上司より、考えさせてくれる上司のほうが部下は主体性を発揮することが、学問的にも証明されているのです。
この自己決定感の有無は、「失敗した時」に違いが出ると言います。
うまくいかなかった場合、自己決定感があると、なぜうまくいかなかったのか、どうすればうまくいくのか、といったように〝改善〟に結びつくのですが、自己決定感がないと、「難しかった」「面白くない」といった負の感情だけが残るのです。
⦿メンタルの弱さも「自己決定感」で取り除くメンタルの弱い部下にも自己決定感は効きます。
ある例を紹介しましょう。
卓球の元日本代表の平野早矢香さんが、少年に卓球を教える様子がテレビで放送されていました。
その少年は、練習ではうまくできるのですが、本番に弱く、予選敗退が続いていました。
少年は小さな声で言います。
「本番は緊張してしまう。
メンタルが弱い…」と。
平野さんは、ネガティブな発言をせず、練習中も、「いいよ」「ナイス」「良くなってきたよ」と励まします。
すると、少年の顔にも自信の笑みがこぼれ始めます。
そして、いよいよ本番。
試合の直前に平野さんは少年にこう話しかけました。
「結果は関係ない。
十分に練習はやった。
1つだけ約束してほしい。
今までやってきたことをしっかりとやる、と」ああして、こうしてといった具体的なアドバイスはしないのです。
ここで話したことは、たった1つの約束だけです。
少年は静かにうなずき、
考え始めます。
「たしかに、そうだ。
あの時…この時…なるほど、そうすれば、いいのか…」と。
結果は、善戦するも敗退。
でも、少年は、取材にこう答えました。
「自分でも後悔はある。
予選ではできなかったことを次に活かしたい」と。
敗北が人を強くする機会となった好事例でしょう。
こうやって自分で考えることが、内省を促し、そのことへの自分なりの意味を見出せるようになるのです。
Point転ばないように過保護になるより、「転んだことから学べる能力」を習得させよう!
06新人には〝ティーチング〟で「不安」をなくす知識のない新人に「どうしたい?」と尋ねるのは、プレッシャーでしかない。
初めてやるスポーツ、例えばカーリング。
「どうしたい?」と言われても、我々も困るだけだろう。
それと一緒。
まずは考える下地を作らないと、部下は答えられないのだ。
⦿ティーチングの3つの流れいくら「主体性を大事にしたい」といっても、知識のない新人に対して、「どうしたい?」と聞くのは酷な話です。
自分で考えられる状況にはないからです。
まず、考える引き出し(知識)を増やすタイミングでは、細かく教えるのが基本。
いわゆる、まだティーチングする段階にあると考えるのです。
ティーチングの流れは3つ。
①「5W1H」で、細かく伝える(これくらいはわかるだろう、とは思わないこと)②その上で、不明な点、不安な点がないかを確認する(言いっ放しにはしない)③最後に「復唱」をしてもらう(勘違いがないかを確認しておく)
例えば、営業に従事し始めた新人がいたとしましょう。
「このリストに1日50件電話してね。
わからないことがあったら言ってね」
これでは不安でしかありませんし、そもそも、何を質問してよいかもわからないでしょう。
まず、最初のステップは、「5W1H」で、細かく伝えること。
「なぜ、電話を50件もしないといけないのか」(目標達成を確実なものとするため)「具体的にどんなトークを使うのか」(用意したトークスクリプトのトークを)「誰に対して電話をするのか」(受付ではなく、購買担当の方に)「どこでかけるのか」(事務所の電話でなくても、携帯電話でもよい)「いつかけるのか」(1日2時間はかかるので、予定を組んでおく)「もし、お客様が、こうおっしゃった場合はどうするのか」(この対処パターンを)といったことを伝えます。
一見すると当たり前のことですが、新人には最初はわからないもの。
特に、「なぜ」の説明は、納得感につながりますので重要です。
そして、2つ目のステップ。
それが、不明な点や不安な点がないかを確認すること。
もしなければ、3つ目のステップ。
部下に復唱してもらいましょう。
かの名将、落合博満氏も言っています。
「復唱は大事。
聞いているようで、聞いていないから」と。
この3つのステップで、お互いの考え方にズレがないようにしていきます。
⦿マイクロマネジメントにならないように注意ただ、やりすぎると部下も息苦しく感じてしまうので注意が必要です。
細かく管理しすぎることをマイクロマネジメントと言う、と前に述べました。
そうならないよう、次のことを心がけてください。
1つ目は、「細かく言うのは、〝今だけ〟と伝える」こと。
できれば、「最初の2カ月だけ」などと時期を区切ると、良い緊張感も出るでしょう。
2つ目は、「早々に、自分で考えるように促す」こと。
多少難しいかなと思っても、早い段階でコーチング(後述)に切り替えます。
それで「まだ早いな」と思ったら、ティーチングに戻せば、問題はありません。
個人差がありますので、他の人と比べず、その部下に合わせることが大事です。
ここで、マイクロマネジメントについて補足しておきましょう。
グーグルの人事のトップが執筆したことで話題になった書籍『WORKRULES!』(邦題:『ワーク・ルールズ!』/東洋経済新報社)では、マイクロマネジメントについて次のように述べられています。
マイクロマネジメントを行う動機は「部下を信頼していないこと」にあり、部下が〝できる〟と言っているにもかかわらず、確実に業務を終わらせて責任を果たすことを上司は信じていないのだ、と。
こうならないよう、チェックリストを作成しました。
もし、4個以上、当てはまるようなら気をつけてください。
【マイクロマネジメント度チェック】□部下の仕事を細かく把握しておきたい。
どこで何をやっているのか、まで。
□部下がミスしないよう、あらゆるリスクを消しておきたい。
□実は部下を信頼していない。
部下に仕事を任せられない。
□隅々まで自分の思う通りにしておきたい。
□部下の「仕事の出来」に満足していない。
□自分ならこうするのにとイライラする。
□些細なことでも、部下が報告を忘れると許せない(聞いていないことはなくしたい)。
いかがでしょう。
不信感であふれていませんか。
部下も鈍感ではないですから、そりゃイヤになります。
ティーチングはマイクロマネジメントとは違います。
その後の行動を束縛するものではありません。
確認をした上で、ほめたり、気づきを与えたりすることで、部下の自主的な行動を促進します。
指示を細かくするのは、あくまで部下本人の不安を消すためであり、上司の不安を消すためではないのです。
Point新人には、ティーチングの〝3つのステップ〟で不安を取り除いておこう。
07中堅には〝コーチング〟で「考える力」を伸ばす中堅の部下に「もっとほかにないか?」と尋ね続けることは、極めて重要。
忙しい中、考え抜く機会は少ない。
しかし、考え抜くことこそが、部下自身も想像していなかった解決策に至らせる。
それが部下の成長の機会となる。
⦿「GROWモデル」とは?さて、ティーチングの段階が終わると、次はコーチングです。
本人が最善の答えを見出せるように、質問によって気づきを促す指導法です。
とっておきの方法を紹介しましょう。
「GROWモデル」です。
これは、「気づきを与え、答えを導く」ためのコーチングの手法です。
一見すると、難しそうですが、この流れでやると、あらゆるシーンで部下に気づきを促すことができます。
実際に、やってみるとこんな感じ。
例えば、カーディーラーの営業だとしましょう。
まず、「G:Goal」からです。
といったように、最後は「これをやってみたい」と部下の意志に導きます。
⦿言いたくなっても、ガマンするコーチングを行う際、注意があります。
「例えばさー…」と誘導をすると、部下はそちらに流されます。
そうなると、自己決定感が損なわれてしまい、本気のWillに導けなくなるのです。
上司は我慢をして、待つことが大事。
すると、上司も考えつかない妙案が飛び出すことも少なくないのです。
先ほどの自動車教習所へのアプローチもそう。
おそらく、上司は考えてもいなかったアイデアだったでしょう。
これがコーチングの醍醐味なのです。
でも、こんな不安があるかもしれません。
「時間がかかるのでは」、と。
逆です。
むしろ短時間で結論に至ります。
普段15分程度かかっているなら、10分程度でできるでしょう。
会話にムダがなくなるからです。
ぜひ、GROWモデルを使って、部下に考える機会を与えてみてください。
それだけでも、本人のやる気は俄然高まります。
Point考える機会は、「部下への報酬」。
あえて、考える機会をプレゼントしよう。
08ベテラン部下の「最高出力」を引き出す年上の部下だからといって、遠慮してしまうと、部下は最高出力を出さずに巡航速度で走ってしまう。
最高出力を引き出し、時には、最高出力値を引き上げるのも上司の務め。
誰よりも「ベテランの力はそんなものではない」と信じる存在でありたい。
⦿ベテランは「手の抜き方」も知っている最近、特に相談をよく受けるのが、年上のベテランに対してのマネジメント。
年上の部下を持つ上司の割合は約半数。
もはや日常の光景ですが、まだ遠慮があるようです。
もちろん、若手と比較すると、充分なスキルもあれば、メンツもあるものです。
でも、ベテランは「手の抜き方」も知っています。
このくらいやっておけば、いいかな、と。
上司は、彼らから「最高出力」を引き出すことが役割となるのです。
その時は、ティーチングでもコーチングでもなく、「委任」という手法を使います。
まず、明確に要望をした後、図にもあるように、部下から「こうしたい」といった提案を持ってきてもらいます。
具体的には、次の4つのことを行います。
①高い水準で明確に要望する(期待する水準の目線を合わせる)※ここが大事②方法は任せる(スキルが不足する部下の場合は別。
コーチングの手法を使う)③定期的に報告の機会を作る(任せっぱなしではダメ)④必要であれば支援をする
ベテランの最高出力を引き出すためには、最初のステップである「高い水準で要望すること」が極めて重要。
具体的には、「より高いレベルを求める」(提案レベルからコンサルレベルへ、運用レベルから開発レベルへ)「サービスの改善に向けた役割を付与する」(顧客ニーズを把握し、改善提案)「組織力向上に向けた役割を付与する」(ノウハウの体系化、勉強会)などが、オススメです。
私が管理職時代にお願いしたのは、「新しい営業手法の開発」や「お客様の不満や不便を把握し、サービスを改善すること」でした。
その時に開発してもらったサービスは、10年たった今も基幹サービスの1つとして、事業に貢献していると聞きます。
まず、スキルを引き出すことこそが上司の仕事だと考えてください。
つまり、年上部下の機嫌をそこねないように接する、といったレベルではないのです。
⦿定期報告の機会を持つ
良かれと思って、あまり関与しないようにしているという上司もいますが、危険です。
「自分に関心がない」と思われても仕方がありません。
ベテランの部下であっても、仕事を任せた後、必ず持つべきなのが「定期的に報告してもらう機会」です。
これがないと「放任」だと思われます。
実は、定期的に情報共有の機会を持つことは、ベテランの部下にとってもありがたいことで、自分が何をやっているのかを上司には知っておいてもらいたいのです。
うまくいかなかった時、「知らなかった」と言われることほど、キツイものはありません。
もし、それでも遠慮してしまうなら、その定期報告の目的は、「何かできることはないか?」といった姿勢で臨むといいでしょう。
そのためにも、上司はベテランの部下に対して、どんなことができるかを常に考えておくことが鍵。
自分にそのスキルがないならば、エキスパートの意見を聞くことや、前任にヒントをもらう、または上司からもヒントをもらうといったことも効果的です。
情報を提供するだけでも、ベテランにとっては嬉しいものです。
その姿勢があれば、ベテランの部下も信頼を寄せてくれるでしょう。
Pointベテランの部下だからといって放置はしないこと。
定期的に共有の機会を持つようにしておこう。
09本気になれない人には、応援団をつける本気になれない部下は必ずいる。
でも、彼らにも理由がある。
そこまでして、頑張る理由がないのだ。
成長も昇給もいらない。
恥をかかなければいい、と考える人さえもいる。
そんな彼らを変えるのは、ただ1つ。
「期待」をかけられることしかない。
⦿本気になれない部下が、本気になれた仕掛け今までなんとなく生きてきた…。
そんなふうに見える部下はいませんか。
人はそう簡単に変わるものではありませんが、外からの刺激で変わることができるかもしれません。
「応援団をつける」というやり方を試してみてはいかがでしょう。
実は、いくつか成功例があります。
ある会社の中堅営業のFさんもまさにそうでした。
年齢は31歳。
課長は、ずっと目標の未達成が続くFさんに頭を痛めていました。
そこで、数名の内勤スタッフに協力してもらい、応援団になってもらうことにしたのです。
その名も「Fさんの目標を達成させる応援団」。
いわゆる〝仕込み〟です。
そして、Fさんに本気になってもらわないと私たちも困るという状況を作ります。
この時は、営業キャンペーンを仕立てて、数名をFさんの応援団にしました。
毎朝、「今日も頑張ってください」と声をかけ、Fさんが営業から帰ってくるたび、「良い話がありましたか?」と聞き、良いトピックスがあれば「聞かせてください」と声をかける。
応援団の彼らもFさんに頑張ってほしいと本当に思っている人たちでしたので、積極的にやりました。
すると、Fさんにも変化が見え始めたのです。
いつもより頑張り始めたというのですから、面白いものです。
そして、なんと、かなり久しぶりに目標を達成したのです。
きっと、Fさんは、そこまで期待をかけられたことはなかったのでしょう。
⦿ヒントはオリンピック選手の壮行会実は、この応援団作戦は、私がその課長にヒントを提供したことから始まりました。
この1カ月前、あるオリンピック選手の壮行会に参加した時の光景がヒントになっています。
その選手は、予選には通過したものの、メダルには遠い選手でした。
その壮行会に集まった人数は、約200名。
選手が所属する会社の幹部がステージに登壇し、横にいる彼女にこう言います。
「必ず、メダルをとって帰ってきてください!あなたは、我々の星です!メダルを期待してもいいでしょうか?」「はい、もちろんです。
頑張ります!」すると幹部が、客席に向かって言います。
「今から、激励の応援をしたいと思いますので、ご起立願います」そして始まったのが、壮行会に集まった200人による「フレ~、フレ~」という応援。
会場が揺れるほどの轟音でした。
私は思いました。
「これでメダルをとれなかったら、この選手はどうするのかな…」と。
集団心理のパワー(危うさ)も感じながら、その効果を目の当たりにしたのです。
そして、思い出したのが、メダルをとれなかった選手が、「申し訳ないです」と泣きながら帰国するシーン。
そりゃ、そうなるなと思いました。
ただ、劇薬は正しく使えば、即効性が見込めます。
その時の出来事を課長に伝え、一緒に考えた作戦が「応援団」だったのです。
実際、こんなテレビ番組での実験結果もあります。
「応援は、マラソンなどエネルギー系の種目には効果がある。
一方、野球やゴルフなど集中力勝負の種目では逆効果になってしまう」(※①)仕事の多くはエネルギー系だと言えるでしょう。
どの職場にも頑張れない人はいます。
応援団作戦も一つの手です。
劇薬ですが、正しく使えば、短期間で変化が出ます。
そこまでの関係性ができていない場合など、不自然さが出るなら、チーム制にして協力し合うキャンペーン等から始めてもよいでしょう。
人は、なかなか簡単には変わりませんが、変わるきっかけを与えることはできます。
※①日本テレビ『所さんの目がテン!』(2010年2月27日放送より)Point人は期待をかけられると変わる。
期待をかけるシーンをプロデュースしよう!
コメント