なぜ理念があるのに思うように利益や結果が出ないのか
いよいよここからは、顧客・社員・社会の三方と絆を結び、組織をピラミッド型からダイヤ型、そして丸ダイヤ型へと発展させていく「絆徳経営の実践法」を紹介していきます。
改めて確認しておくと、絆徳とは「相手によいことをするから、ずっと一緒にいられる」関係を意味しています。
ずっと一緒にいられるということを経営的な視点からとらえれば「持続可能な経営」を行うということにほかならず、そのためには顧客・社員・社会にとって「よいこと」をして三方との絆を結ぶ必要がある、というわけです。
顧客・社員・社会の三方へのアプローチは同時進行で行うべきですが、しいて順番をつけるとすれば、顧客との絆づくりからスタートするのが現実的でしょう。
顧客と絆を結んで売上や利益を確保すれば、それを元手として社員や社会と絆をつくれるようになるからです。
そこで本章ではまず、顧客と絆を結ぶための「5Kマーケティング」を取り上げることとします。
ここまで何度か言及してきたように、SDGsやデジタル化は消費者の価値観に大きな影響を及ぼしています。
消費者は、商品やサービスの良し悪しだけではなく、商品の世界観まで含めて買うかどうかを決めるようになりました。
しかし、いくらすばらしい世界観を持っていても、それが消費者に届かなければ売上にはつながりません。
「商品の質も世界観もよいはずなのに売れない」というのなら、それは消費者に世界観を伝える仕組みができていないからです。
世界観を伝え、価値を届ける仕組みのキモとなるのが、マーケティングであり、5Kの最初のステップとなる「企画」です。
現代社会は情報があふれているので、消費者が思わず反応したくなるような企画をつくってあげないと、商品を知る「きっかけ」ができず、世界観を届けることもできません。
この「きっかけづくり」が5Kの第二のステップです。
ところが、ほとんどの会社では「企画」の重要性を知らずにすっ飛ばして、いきなり顧客との「きっかけづくり」に入ろうとしています。
社員に非効率な飛び込み営業をやらせたりして、むりやりきっかけをつくろうとするのです。
企画もなしにきっかけをつくろうとするのは、男女関係にたとえるなら、出会った瞬間に結婚を申し込むようなもの──。それではいくら人(商品)がよくても、そうそう売れることはありません。
商品を売りたいなら、まずは自然なきっかけをつくるための企画を立てることが大事なのです。
「その人はどんな人で、何を求めているのか?」がすべての出発点
企画づくりにおいて最も大事なのは、顧客を理解することです。
お客さまがどんな人で、何を求めているかが分からなければ、絆徳経営の核心である「相手によいことをする」こともできません。
顧客を理解することは商売における基本中の基本ですが、これができていない会社は意外に多く、経営者の方に「その商品はどんなお客さまが買っているのですか?」と尋ねると「いろんな人です」という答えが返ってきたりします。
企画がうまくない会社によくあるパターンで、これではお客さまと絆を結べるはずがありません。
「相手はどんな人で、何を求めているのか?」まずは基本となるこの問いへの答えを明らかにしなければ、何をやっても空回りします。
逆に、この二要素さえ理解できれば、やるべきことは明確に見えてきます。
まずは「相手はどんな人なのか?」、そして次に「その人は何を求めているのか?」を考える。つまり、人間理解が必要だということです。
これからの時代のマーケティングにおいては、相手が求める「企画」を立て、「きっかけ」を提供し、「関係」を構築し、「感動」を届け、「絆」をつくる──。
これが絆徳経営流、絆をつくるための最新・最強のマーケティングであり、私はこの五つのステップの頭文字をとって「5Kマーケティング」と呼んでいます。
簡単に説明すると次のようなステップとなります。
ピラミッド型の会社は、ほぼ例外なく「きっかけ」づくりと「関係」構築にばかり注力して、「企画」「感動」「絆」のステップをおろそかにしています。
ともかく売ろう、売ろうということばかりが頭にある。
キャンペーンなどの「きっかけ」づくりはガンガンやるけれど、そもそも「企画」が的外れだからお客さまの心に響かず、インサイドセールス(テレアポなどの内勤営業)による「関係」づくりもうまくいきません。
インサイドセールスから営業へバトンタッチした後も、本来なら「関係」づくりをしてから「感動」づくりをしなければならないのに、すぐクロージングに持っていこうとして失敗します。
実は、こうした失敗は「よい商品」を扱っている会社ほど顕著にみられる傾向です。
商品がよければそれで十分だろうと高をくくり、「感動」づくりというショーアップをやろうとしないからです。
しかし「感動」がなければ「絆」も長続きはしないので、リピートは取れません。リピートが取れないとまた新規開拓から始めなければならないので、いつまでも進歩がなく、組織はピラミッド型から抜け出すことができません。
人間関係でも、たとえば結婚して五年、十年とたってマンネリ化してきたとき、サプライズでプレゼントを贈るなどして「感動」を演出するとことはとても重要です。
まじめな人ほどそうした演出に苦手意識があるようですが、相手のために「感動」づくりができる夫婦とできない夫婦では、どちらの絆が長続きするかといえば、答えは明確ですよね。
当然、感動があったほうが、関係は長く続くのです。これは、夫婦やお客さまとの関係のみならず、社員との関係においても同様です。いくら商品や理念がすばらしくても、感動がなければ絆は深まりません。
「うちは商品で勝負できるから、感動づくりなんて必要ない」と思っている経営者は、今回をよい機会としてどうしたら顧客にもっと大きな価値提供ができるのか、考えてみてください。
フリー商材だけに頼るビジネスは、今すぐやめなさい
数年前まで、日本では私が紹介した「FFMBモデル」と呼ばれるマーケティング術が大いに流行り、成果をあげていました。
FFMBとはフリー(F)、フロントエンド(F)、ミドルエンド(M)、バックエンド(B)の頭文字をとったもので、フリー商材を入り口として自社商品の認知度を高め、顧客獲得につなげていく手法です。
このFFMBモデルは、はじめに無料サンプルなどで見込顧客を集める手法で、今でもさまざまな業界で採用されていますが、以前ほどの効果はなくなってきたと感じている人が多いのではないでしょうか。
なぜなら、今の世の中にはフリー(無料)のモノやサービスがあふれかえっているからです。少し前まではすごく価値があると思われていたものですら、今では無料または低価格で高品質なものが出回っています。
たとえば一昔前なら、無料でCDやDVDがもらえるのは消費者にとって嬉しく、お得感のあることでした。でも今では無料のYouTubeでそれ以上のクオリティの動画を見ることができる。
わざわざDVDをセットしなくても、スマホやパソコンで見たいときに見たいものを観られるのだから、いくら無料でDVDを差し上げましょうと言われても、そんな面倒なものはいりません、となってしまいます。
資料請求は言わずもがなで、わざわざ個人情報をさらして資料を請求しなくても、情報ならネットでいくらでも調べられます。
テクノロジーやSNSによる情報流通が発達したことで、消費者が感じる「お得」の基準は激変したのです。
さまざまなモノやサービスが無料あるいは低価格で手に入る今、フリー商材の価値はどんどん減じています。それなのに「無料!」とあおって、さも特別であるかのように演出して売る方法には、古臭ささえ感じます。
誤解がないように補足しますが、もちろん「無料」による効果はあります。
が、お客さまに対する人間理解がなく市場の変化を感じ取れない限り、単純に無料プレゼントしても、今までのような効果は得られないということです。
また、従来のFFMBモデルは「その人はどんな人で、何を求めているのか?」への答えを出さないまま特典やプレゼントを送りつけることが多かったため、試供品だけで満足してしまう人が続出するというデメリットもありました。
もちろんフリー商材が一律にダメというわけではありませんが、今までのように無料で商材を配れば簡単に見込顧客を集客できるという時代ではありません。
FFMBモデルは、マーケティングの基礎として今でも大切な概念といえますが、従来にくらべると反応率が下がり、莫大な広告投資をしないと成り立たないモデルになりつつあるのです。
おまけにFFMBは、多くの場合、資料請求やプレゼントを受け取ったお客さまをつねに新規顧客になるように追いかける構造になっています。
もちろん、お客さまも分かっていて、「あぁー、これは資料請求すると、営業されるな」と警戒しているし、販売プロセスがかなり綿密に設計されていないと、強い営業力で無理にでも売るといった姿勢が必要になってしまいます。
これだと社員の気苦労が絶えません。社員を大事にするためにも、今後は焼き畑農業型ではなく持続可能な農耕型のマーケティングに切り替えていくべきでしょう。
もともと日本人は「金より心をつかむ商売」が大得意
FFMBモデルは、人ではなく商品の視点からつくられた販売プロセスです。言い換えるなら、買い手ではなく売り手側のロジックで売る仕組みです。
一方の「5Kマーケティング」はFFMBモデルの進化版で、フロント、ミドル、バックと展開させていく流れは踏襲しつつ、販売プロセスの中心に「人」を据えているのが大きな特長です。
人々が「おもしろい!」と思う「企画」はどんなことか、どこに見込顧客がいて、どうすれば「きっかけ」ができるのか、その人はどんな人で、何を求めているのか──。
そうした人間理解に基づいて「関係」づくりや「感動」づくりを行い、「絆」をつくっていくのです。
5Kマーケティングのような〝人ありき〟の商売は、日本人がもともと得意とするビジネスモデルといえます。
近江商人の「三方よし」はまさにその象徴で、顧客や社員や社会の人々との絆があれば商売がうまくいくことを、彼らは経験的に知っていたのでしょう。
大量消費時代に入って以降は、日本でも〝商品ありき〟のビジネスモデルが主流となっていましたが、SDGs意識が高まるにつれて、それも行き詰まりをみせてきました。
米国のビジネス・ラウンド・テーブルが株主至上主義を見直し、顧客や従業員、サプライヤー、地域社会、株主などすべてのステークホルダーを重視する方針を表明したのも、そうした変化のあらわれでしょう。
日本人が得意とする三方よしの思想や、人と人との絆、人とのつながりを重視する絆徳的な思想の大切さに、世界も気づきはじめたのです。
商品ベースのFFMBモデルと、人ベースの5Kマーケティング──。両者の最大の違いは、顧客との間に絆が生まれるかどうかです。
顧客視点で考え、顧客にとってよいことをして絆を結ぶ。するとリピートが増えて、新規獲得コストをかけずに利益を出せるようになる。
その理想形ともいえるのがNetfrixやAmazonPrimeなどに代表される、サブスクリプション・ビジネスです。
今では映画や音楽、ゲームなどのソフト面から車、洋服といったハード面まで幅広い業界で実践されています。
サブスクという発想は、とにかく商品を売るだけ、といった意識からは絶対に生まれないでしょう。なぜなら、サブスクで成功するには、お客さまに継続的に価値を届けて、絆を結ぶことが必須要件となるからです。
規模の拡大ではなく「高収益企業」を目指しなさい
顧客・社員・社会の三方と絆を結び、ピラミッド型の会社をダイヤ型に、ダイヤ型の組織を丸ダイヤ型に進化させるために、企業は高い収益をあげなければなりません。
資金に余裕がないと、自分たちのメリットと、顧客や世間のメリットを両立させることが難しくなるからです。
「三方よし」を実践しようと思ったら、ときには「これをやったら損するかもしれない」というレベルにまで踏み込まねばならないことがあります。
ですが、会社の景気が悪いときは、自分たちが食べるだけで精いっぱいで、そこまでの余裕は持てません。他者を助けるというのは、ある程度のゆとりがあるからこそ確立できるのです。
だから三方との絆を結びたいなら、むやみに規模を拡大するのではなく「高収益企業」になることを目標にしましょう。
ところで、企業の収益性においては、何かと大企業に有利なように思えるかもしれませんが、中小企業白書のデータを分析すると、中小企業のほうが大企業よりも経常利益率が高い企業の割合が以前より増えているのです。
高収益をあげる中小企業が増えている最大の要因は、会社の規模にかかわらず安価に使える集客ツールの登場です。
特にSNSなどインターネットを使った集客は規模を問わないどころか、むしろ重厚長大な大企業より小回りが利く中小企業に分があります。
しかもSNSから派生するオンラインサロンやサブスクリプション・サービスはリピート性が高く、安定収益を生みやすい。
SNSで顧客と絆を結び、サブスクで利益をあげるというのは令和の中小企業の成功モデルといえます。もちろん利益を出したら、自分たちだけが儲けるのではなく、人材の採用・教育や社会貢献にもお金を使う。
すると組織はダイヤ型・丸ダイヤ型に近づいて、さらにビジネスがうまくいく。
こうしたモデルを確立して高収益体質になることが、SNSの時代においては、規模の拡大を目指すよりもはるかに効果性が高いことなのです。
絆徳経営における高収益の目標ラインは、業種・業態にもよりますが、営業利益は最低でも一〇%、一人当たりの売上高は四千万円が目安です。
このレベルになれば雇用・教育や社会貢献にもしっかり予算を割けるようになるでしょう。ちなみに今の日本では、営業利益率は平均二・九九%、一人当たりの売上高は平均三千五百六十四万円となっています。
これを一〇%、四千万円まで引き上げるためには、社員が世の中の平均以上の生産性を発揮できるような教育が不可欠になります。
そのためにも、まずは売上をあげられる「勝ちパターン」を確立し、本質的なマーケティングに取り組むことです。
「それができれば苦労しない」と思うかもしれませんが、実は、売上をあげることは優秀な人材の採用や組織づくりにくらべればずっと簡単で、考え方さえ知っていれば誰でもできることです。
もちろん、人材採用や組織づくりと両輪ではあるのですが、現代社会で売上をあげることは、マーケティングが分かっていれば、少人数でも実行可能なことになりました。
その考え方こそ、これから説明する5Kマーケティングです。これを実践すれば、あなたの会社でもスピーディに収益を向上させることができるでしょう。
次からその具体的な実践方法について詳しくお伝えいたします。読むだけでも大いにヒントになる内容ですので、ぜひしっかりと学んで活用してほしいと思います。
「絆」がどんどん生まれる「5Kマーケティング」を実践しよう
5Kマーケティングは「企画」──すなわち誰に、何を、どうやって届けるかというシナリオをつくることから始まります。
企画の第一歩は、対象顧客をイメージすることです。前述のとおり、5Kマーケティングを実践するには人間理解・顧客理解が何より大事だからです。
「相手はどんな人で、何を求めているのか?」これはマーケティングにおける最も重要な質問で、これが分からなければ絆徳経営が目指す「相手によいことをするから、ずっと一緒にいられる」関係など築けるはずがありません。
逆に言えば、これさえ分かれば、あとは広告露出や営業トーク、ブランドコンセプトなどに一貫して「お客さまが求めること」を満たしますよ、ここにあなたの求める答えがありますよ、と訴求し続ければよいだけなのです。
対象顧客をイメージできないまま進められた企画は、高確率で予算のムダになってしまいます。
たとえばあなたは「彼女に喜んでもらうために、デートの日にバラを百本買っていく」という男性をどう思いますか?彼女が大のバラ好きで、人前でバラの花束をプレゼントされることに喜びを感じるタイプなら、彼の企画は成功といえるでしょう。
けれども世の女性のなかには「別にバラなんていらない」「恥ずかしいからやめてほしい」「デートのときにもらったらじゃまになるだけ」と思う人もいるでしょう。
バラで喜んでくれるかどうかは、相手の好みによるのです。
会社の企画でも、同じような失敗をしている人はたくさんいます。大事なのは、相手に価値を届けられるかどうか、喜ばれるかどうかであって、商品そのものがよいかどうかではありません。
商品が売れるのは、欲しがる人がいるから売れるのであって、商品がよいから売れるのではないのです。特に今は、ネットでもリアルでも、よい商品なんていくらでもあります。
だからこそ店頭には「よい商品」ではなく「対象顧客が欲しがる商品」を並べなければ意味がないのです。
お客さまがどんな人で、何を求めているかを知りたいなら、お客さまに「二つの質問」をしてみましょう。
第一の質問は「どこでこの商品を知ったか?」です。
流入経路が分かれば、日常のお客さまの生活習慣──たとえば、どんなテレビを観ているのか、どんな雑誌を読んでいるのか、どんなYouTubeを好むかなど「どんな人か」が分かるからです。
第二の質問は「なぜ買ったか?」です。
安かったからなのか、品質がよかったからなのか、店員にどのように勧められたからなのか──。購入に踏み切った理由が分かれば、その人が「何を求めているのか」が明らかになるのです。
購買層が「どんな人で、何を求めているのか」が言語化できたら、次は、そのターゲットに刺さる「企画」を考えて、継続的に情報を発信していきます。
このとき多くの企業が広告を打つことになりますが、広告を出すうえで最も大事なのは、一人当たりの獲得にかかったコストが一人当たりのライフタイムバリューを超えないことです。
簡単にいえば、お客さまから得られる収益よりも広告費が高くならないようにする、ということです。
CPA(顧客獲得単価)を安く抑えて広告投資効果を出すためには、たくさんの人から高い反応を得られる企画にする必要があります。
ここで重要になるのが「対象顧客をイメージする」ことです。
相手がどんな人で、何を求めているのかを正確にイメージできていれば、企画の次のステップである「きっかけ」づくり(無料体験または低価格商品の購入)につながるような、おもしろくて反応率が高い企画が生まれ、注目を集めることができます。
たとえば広島県の老舗製パン企業である八天堂は、「高級品にして販売する」という手法で大成功を収めました。
看板商品であるクリームパンは一個三百円程度と、一般的なクリームパンよりは割高ですが、自宅用のみならず贈答用としても人気を博しています。
同社はもともと普通のパン屋として多品種展開していましたが、コンビニとの競合で経営状態が悪化したため、思いきって高級スイーツパン専門店へ転換を図ったという経緯があります。
大ヒットした高級クリームパンは、対象顧客を「コンビニではなく専門店で買う人は、割高でも高級感のあるパンを求めている」と想定して生まれた企画でした。
さらなる高級路線で成功しているのがザ・リッツ・カールトン東京で、一泊二百万円の超高級スイートルームは大きな注目を集めました。
これは二百万の部屋に泊まってもらうというよりも、大胆な料金設定で消費者やメディアの関心を集め、人々の「特別感」を満たし、高級ホテルとしての認知度をアップさせるための企画だったといえます。
一方、庶民派アイスの「ガリガリ君」は「常識にとらわれず、味を広げる」という戦略のもと、コーンポタージュ味やナポリタン味などのおもしろいフレーバーを定期的に発売しています。
この場合は対象顧客のニーズを「おいしさだけではなく、おもしろさも求めている」と想定しているのでしょう。
企画ができたら、次は「きっかけづくり」に進みます。
おもしろい企画を無料体験や単品商品購入といった「きっかけ」につなげていくためには、メディアでの情報発信が欠かせません。ここで重要になるのがメディアの選定です。
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の四大メディアと各種SNSのなかから、主にどのメディアを使って発信していくかを決めるのです。
もちろん一つに限定する必要はなく、戦略的にはむしろ複数のメディアを使い分けることも大事なのですが、メインで使うメディアは決めておかねばなりません。
どのメディアが適しているかは、客層や商材によって異なります。
つまり、ここでも第一ステップの「相手はどんな人で、何を求めているのか?」が重要になってくるわけです。私の場合はSNSのなかでもオフィシャル感が強いFacebookをメイン舞台としています。
弊社の主要なお客さまである「成長意欲が高い三十~五十代の経営者や開業医」に対しては、本名でつながれるFacebookのように匿名性が低いメディアを使い、丁寧に情報を発信していくのが効果的だと考えられるからです。
反対に、若いユーザーに向けて比較的低価格な商材をアピールするなら、断然Twitterが向いています。
Twitterは短くインパクトのあるキャッチコピーで反応をとっていくメディアといえます。
形がある商材ならインスタグラムがいいでしょう。
少し前までは若い女性向けという印象が強かったインスタグラムですが、Facebookと連動してからはビジネスパーソンや経営者の利用も増え、個人的にはこれからどんどん強くなるメディアだと思っています。
このほか顧客の年齢層が高めならLINEを使ったマーケティングが有効ですし、人前で話すのが得意な人であればClubhouseという手もあります。
また、短い動画で魅力を表現できるTikTokはこれから伸びるメディアです。
このほかYouTubeは全方向に有用なメディアで、今ではテレビ以上に効果が高いとも言われています。
メイン舞台となるメディアが決まったら、そのメディアを使って無料体験や単品商品購入などの「きっかけ」をつくっていきましょう。
といっても、SNSでいきなり商品やサービスの話を始めるのはご法度です。今の消費者はそんな情報には反応してくれません。
きっかけをつくりたいなら、まずは「価値ある情報」を発信してください。価値ある情報とは、視聴者が求める情報のことです。
自社のビジネスとは直接的な関係はなくてもよいから、勉強になるもの、写真がきれいなもの、クスっと笑えるもの、かわいいものなど、読者が好きそうなコンテンツを提供する。
そうやって高い反応が取れる表現を工夫して発信しているうちに、読者との間に信頼や共感が生まれて「じゃあこの会社の商品も買ってみようかな」と思ってもらえるようになるのです。
このとき意識してほしいのが「一貫性」です。いくら価値ある情報を発信しても、一貫性がない会社は信頼や共感を得られません。
極端な例にはなりますが、たとえば「私たちは高齢者の安全と福祉を守るために活動しています!」と言っておきながら、同じアカウントで札束を見せびらかすような画像を投稿していたらどうでしょう。
そんな人間(会社)は、とてもじゃないけど信頼できませんよね。高齢者の安全と福祉を守るというイメージをつけたいなら、誠実でまじめそうなビジュアルを添える。でなければ、すべてが嘘に見えてしまいます。
メディアを通じて価値ある情報を発信しても、消費者はすぐに反応してくれるわけではありません。たまたま投稿を見かけて「おもしろいな」と興味を持ったとしても、ほとんどの人は「でもまあ、よく知らない会社(人)だし……」と、いったんスルーします。
この段階から「関係づくり」にまで歩を進めるためには、継続的な情報発信が必要になります。というのも、人は接触機会が増えるほど相手に親しみを感じ、好感を持つようになるからです。
たとえば新聞広告でも、たった一度だけ見かけるのと、何日も続けて目にするのとでは、後者のほうが圧倒的に反応率は高くなります。
まったく同じ広告だとしても、初日は「へ~」という反応だったのが、何日も続けて見ているうちに興味がわいて「買ってみようか」となるのです。
同じ理由から、ブログやSNSもなるべく頻繁に更新してください。
いくら興味深い記事を書く人でも、年に一度しか書かない人には親近感がわきませんが、毎日頑張って更新している人に対しては応援したい気持ちになるものです。
ネットでもリアルでも、人間関係を深めるうえでは「頻繁に会う」ことと同じくらい「いろんな場面で会う」ことが大切で、そういう相手には一気に親しみを感じるようになります。
たとえば同じオフィスで働く同僚とは、平日の朝から晩まで一緒に過ごしているわけですが、休日に偶然出会って少し言葉を交わしたりすると、ぐっと親近感がわいてきます。
「〇〇さん、あそこで会いましたね」「こんなつながりがあったんですね」といった会話ができる相手は、自分にとって特別な存在に思えてくるからです。
会社がバーベキューやゴルフ大会などの社内イベントを開くのも、複合的な接点をつくりだして社員同士の絆を深めるためでしょう。
顧客とこのような複合的な接点を持つためには、マルチSNSといって、複数のSNSを使うことが有効です。
私の場合はFacebookをメイン舞台としつつ、TwitterやYouTube、Clubhouseなどもひととおり押さえて、各メディアの特性に合わせて情報発信をするようにしています。
すると、読者も複数のSNSを見ているので、Facebookのフォロワーから「インスタグラムでこんなことをしていましたね」といったコメントが届いたりします。
あそこで見かけた、ここでも出会った、という偶然(のような必然)が重なれば重なるほど、顧客との関係は確かなものになっていき、購入につながる関係が構築されていくのです。
ここまでのステップで、商品やサービスを提供し、お客さまとの間には一定のつながりができているはずです。
それは、あなたがお客さまの期待に応えることができた証であり、お客さまがあなたの会社の商品やサービスに満足している証と思ってかまいません。
満足していなければ、関係はそこでプツっと切れているはずだからです。
次なるステップは、お客さまの期待を上回る価値を提供して「ここまでやってくれるんだ!」という「感動」をお届けすることです。
リッツ・カールトンはこの顧客感動体験をとても重視していて、その創出のために各従業員に「二千ドルの決裁権」を与えています。
従業員はこの資金を使って、たとえば「客室に大事な書類を忘れたお客さまのために、自分の判断で飛行機に乗って届けに行く」といった感動サービスを提供します。
売っておしまいではなく、ここまでの感動を演出するから、結果としてお客さまとの絆が強まるのです。
「感動づくり」を苦手としている企業も多いようですが、これは企画~関係づくりを通して生まれたつながりを確かなものにするための重要なステップです。
ここをおろそかにして強引にバックエンド販売に持ち込もうとすれば、せっかくできかけた絆が消えてしまいます。
反対に感動づくりがうまくいけば、お客さまは高い確率でリピーターになったり、高単価なものを買ってくださったり、紹介をしてくださったりするようになるでしょう。
感動づくりの手法にもいろいろありますが、特におすすめしたいのは「他分野とのコラボレーション」です。感動とは、今までにない価値を受け取った瞬間に生まれます。
他分野とのコラボは「いつもと違う」「期待以上だった」という反応が生まれやすく、感動を育みやすいという特長があるのです。
私が先日、ベストセラー作家の本田健さんや、著名なコンサルタントのジェームス・スキナーさんとコラボしてFacebookライブとClubhouseを同時配信したときは、平日にもかかわらず千人を超えるたくさんの方にご参加いただき、FBにはわずか一時間で数百件ものコメントが寄せられるなど、単独でライブを行うよりもはるかに大きな反響を得ることができました。
他分野とのコラボの魅力は、既存顧客に新しい価値をお見せして感動をお届けすると同時に、その感動の輪を「コラボ先のユーザー」にまで広げて新規顧客を呼び込めることです。
以前、知人のオンラインイベントに招かれたときは、有名ユーチューバーや芸能人など、いろいろな影響力を持つ方と共演することができました。
他分野の著名人と共演するということは、彼ら独自のコミュニティやファンの方々にも見てもらえるということであり、今までは触れることができなかった〝壁の向こう側〟にいる見込顧客や潜在顧客にアプローチできるということです。
しかもその潜在顧客は、私のことを「まったく知らない人」ではなく「大ファンである〇〇さんとコラボしていた人」とみなしてくれるので、きっかけづくりや関係づくりにつながりやすく、絆を育みやすいのです。
実在の人間だけではなく、キャラクターとのコラボも高い感動効果が見込めます。
たとえば豆腐メーカーの相模屋は二〇一二年、機動戦士ガンダムのキャラクターである「ザク」とコラボした「ザクとうふ」を発売。
SNSでも大きな話題を集め、爆発的なヒットとなりました。一般的に、豆腐の企画モノは初回出荷が五千丁でヒットと言われるところ、「ザクとうふ」はなんと十四万丁も出荷したといいます。
しかも購入したのは、ふだん豆腐に関心がない三十~四十代男性が中心でした。キャラクターの力を借りることで、これまで手が届かなかった層にアプローチできたというわけです。
また、育毛剤のスカルプDは吉本芸人や元SMAPのメンバーを起用するなど、次々と話題のコラボ企画を打ち出しています。
こうした一種のコンプレックス商品は「あの人が堂々と使っている」という驚きが感動につながるため、よりコラボに向いている商材といえます。
ビジネスにおける感動は偶然生まれるものではなく、企業努力をして、意識的につくりだすものです。
映画の脚本家は、山場の感動シーンを盛り上げるために、その前段階でどんな情報を出しておけばいいか、登場人物の誰にどんなセリフを言わせておくかなど、綿密に計算してシナリオをつくっています。
ビジネスも同じで、顧客を感動させたいなら、顧客が価値を感じる体験を逆算でつくっていくことが求められます。
たとえば高額な商品を売るときは、普通におすすめするだけでは「欲しいけど高いから買えない」という反応になってしまいますが、営業シナリオしだいでは「高くても買おう」という反応を引き出すことができます。
具体的には、その商品・サービスがいかにすばらしいか、それを手に入れないとどんなデメリットがあるかなど、商品の必要性を十分に訴えたうえで、「今なら人数限定で、半額でご購入いただけます」という情報を伝えると、「それはいいな」「そこまでしてくれてありがたい」という感動が生まれ、購入にいたるというわけです。
もちろん、半額の提示はここでのポイントを分かりやすくするための極端な事例なので、必ずしもそれで感動させられるとは限りません。
大切なことは、お客さまの視点に立って意識的に逆算してシナリオをつくることです。
難しく感じるかもしれませんが、人が感動したりグッとくるポイントは、ある程度優秀な営業マンなら予測できるので、そのポイントを再現できる仕組みをつくればいいのです。
自分自身の実際の購入シーンを思い出し、心が動いた場所を見つけて、それを販売プロセスのなかに盛り込んでいくのも効果的です。
感動づくりが成功したとしても、お客さまがその感動を自分一人の胸のうちにしまいこんでいては、感動の輪は広がりません。
一人のお客さまの感動体験を最大限に生かすためには、お客さま自身にそれを発信してもらう必要があります。
感動づくりが巧みな企業は、情報戦略も巧みです。
その代表格がディズニーで、SNSでは多くの人がディズニーリゾートでの感動体験を発信しているし、キャスト(従業員)のホスピタリティを称える書籍も多数出版されています。
また前述のリッツ・カールトンについても、「結婚記念日に宿泊するつもりがキャンセルになってしまった夫婦のために、従業員がわざわざ自宅までシャンパンと花束を届けた」といった多くの感動エピソードがネット上で語り継がれています。
このように、人は何かに感動すると、その体験を誰かに語りたくなるものですが、より確実に情報を発信・拡散してもらうためには、顧客に「ステイタス」を与えるのも有効です。
たとえばリッツ・カールトンでは、一定以上の回数宿泊した得意客に「アンバサダー」という肩書を与えています。
アンバサダーとはいわば「絆で結ばれたお客さま」であり、ホテルはアンバサダーのためにサービスや料金の面でさまざまな特典を与え、アンバサダーはホテルのために広報役を買って出る。
たとえば講演会でリッツのすばらしいサービスについて言及したり、ブログで宿泊したことを報告したりする。こうしてリッツとそのアンバサダーは、互いを利するすばらしい関係を築いているのです。
顧客にステイタスを与えるのは、高級ホテルの専売特許ではありません。
一般企業がたとえばバーベキュー大会や周年記念パーティを企画し、常連のお客さまをご招待することも、りっぱなステイタス戦略といえます。
大事なのは、通常の商品・サービスのようにお金をもらって提供するものとは違う、特別な価値を提供することです。
たとえば書店なら、本を売るだけではなくサイン会を開くというように、お客さまのためにちょっとしたイベントを開催する。
こうすることで、会社と顧客はお金だけではなく、絆でつながれるようになるのです。
感動づくりで育んだ絆を絶やさないために最も重要なのは「お客さまから忘れられない」「お客さまの記憶にとどまる」ということです。
一般的に、消費者の購買決定プロセスはAIDMA(アイドマ)という言葉で表現されます。
まず商品の存在を知り(Attention)、興味をもち(Interest)、欲しくなり(Desire)、記憶して(Memory)、最終的に購買に踏み切る(Action)のです。
一度商品を買って終わりではなくリピーターになってもらえるかどうかは「記憶」のプロセスにかかっています。
ここで商品や会社を強く印象づけることができなければ、ヘビーユーザーを獲得することもできません。
顧客の記憶に残り続けるためには、自分たちの商品・サービスは顧客にどんなメリットをもたらすのか、顧客にとっての存在意義を明確にする必要があります。
ドラッカー風に言えば、「何と言って覚えてもらうか」を考えて、市場におけるポジションを意図的に決めるのです。
ポジションが明確になったら、次はそれを分かりやすい表現で言語化します。簡単に言えば「お客さまにどう覚えてもらうか」を考えるのです。
当然ながら、小難しい言葉ではなくキャッチーで魅力的な表現を考えねばなりません。
たとえば、「やめられない、とまらない」と、カルビーのかっぱえびせんは表現されました。「ファイトー、いっぱーつ」と大正製薬のリポビタンDは表現されました。
あなたの会社の商品は、どう記憶されるかを考える、ということです。
もちろん、キャッチーな表現だけではなく、実際にご連絡してお客さまをフォローする、という活動も大切です。
フォローの電話や定期的なお手紙、クリスマスやバレンタインなどの季節のキャンペーンやイベント、新商品の案内など、やり方はいくらでもあります。
お客さまとの絆を強めるためにも、忘れられないためにも、お客さまが喜ぶ企画をして積極的にフォローに取り組んでいきたいものです。
5Kマーケティングの最終ステップは、ファンとの強固な絆をもとに、継続的に利益を出す仕組みを整えることです。
たとえば、サブスクやオンラインサロンの会員になって毎月決済する。実店舗なら、店の前を通りかかるたびに必ず立ち寄ってくれたり、別のお客さまを紹介・推薦してくれる。
そんな強い絆で結ばれた固定客ができれば、ビジネスは必ずうまくいきます。
これは絆徳経営を実践し、お客さまに「よいこと」をし、絆を強めてきた会社だけが至れる境地といえます。
顧客との絆が強くなればなるほど、その顧客から生涯にわたって得られる価値(ライフタイムバリュー)は大きくなり、商売が長続きするようになるのです。
サブスクというと音楽配信や電子書籍の読み放題など、大手が行うサービスをイメージするかもしれませんが、実は業種や企業規模を問わず、幅広い会社で導入できるビジネスモデルです。
たとえば花屋さんが毎月定額で季節の花を届けたり、飲食店が特定のメニューを定額で食べ放題にしたり、アパレルショップが定額で洋服をレンタルしたりと、工夫の余地はいくらでもあります。
しかもサブスクはSNSやネットで集客しやすいので、中小企業でも大手と渡り合えるチャンスが十分にあります。
5Kマーケティングでお客さまと絆を結び、サブスクで利益をあげることで、中小企業でも「持続可能な絆徳企業」になることができるのです。
なお、5Kマーケティングはサイクルになっており、顧客との絆が強くなると、最初のステップである「企画」もさらにうまくいくようになります。
「相手がどんな人で、何を求めているのか」がより明確になるから、相手の心に刺さる企画、共感の創出ができるのです。
だから5Kマーケティングはサイクルを回していくことがとても大事で、最初のうちは企画内容が多少的外れになってしまったとしても、企画→きっかけ→関係→感動→絆このプロセスを何度も回していくうちに、だんだんと洗練されたものができるようになっていくはずです。
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