第4章知識を深める本の読み方
知識を持つほど世界が広がる理由
「驚く」ことが知のはじまり
アインシュタインという名前を聞いて真っ先に何を連想しますか。舌を出したユーモラスな写真が思い浮かぶ人は多いかもしれませんね。
「相対性理論」に代表される、それまでの物理学の常識を大きく変えるような偉大な理論を打ち立てた天才です。世界一有名な方程式E=mc2は、アインシュタインの特殊相対性理論の中で発表されたものです。
この方程式の重要性はみんな知っていますが、ではその意味するところはどうでしょう。『E=mc2』(デイヴィッド・ボダニス/著早川文庫)という本があります。
この本の冒頭では、ある映画雑誌に掲載されたキャメロン・ディアスのインタビューの中で、何か知りたいことがあるかと尋ねられた彼女が「E=mc2がいったい何を意味するのか知りたい」と答えていたという話が紹介されていました。
インタビュアーとディアスは笑い合いますが、記事はディアスの「本気よ」という言葉で締めくくられていたとのこと。
科学ジャーナリストのデイヴィッド・ボダニスは、E=mc2の伝記を書くことにしました。そう、アインシュタインの伝記ではなく、この方程式の伝記。
方程式がどのように生まれ、どのように使われてきたのかをアインシュタインはじめさまざまな科学者、研究者の物語とともにあらわした本なのです。
この短くシンプルな式の背後には、ものすごく深い世界があります。式の意味をごく簡単に言ってしまえば、エネルギー(E)は質量(m)であるということです。
cは光の速度のことです。光の速度は一定で、1秒間で地球を7周半します。その二乗ということは、とてつもない数だということがわかりますね。
つまり、ちょっとした質量でも、莫大なエネルギーを含んでいるという式なのです。これによって、それまで誰もわからなかった太陽の謎がわかってしまいました。
なぜこんなに熱を発し続けられるのか。核融合によって少ない質量を莫大なエネルギーに変えているのが太陽なのです。
原子爆弾もそうです。原子爆弾は、原子核を分裂させて質量を減らし、相応分を膨大なエネルギーに変えているものです。そういう恐ろしい式でもあるわけです。
平和主義者だったアインシュタイン自身は、ウランの核分裂が発見されてから、自分の式が恐ろしい武器とつながることを悟って恐怖を感じていました。
宇宙の本質を捉えて、単純な式にし、応用できるようにしてしまう人間の知性に驚嘆せざるをえません。なんとすごいのでしょうか。
ところが、E=mc2にも驚かない人もいます。「だから何?全然わからない」と切り捨ててしまう人。数式が出てきた時点でもう「無理」と言って知ろうとしない。
あるいは「『源氏物語』?古文はつまらない」「x軸とかy軸なんて知らなくても生きていけるし」などと言って深みに入っていこうとしない。
それは、失礼ながら「無教養な人間のやる無作法な態度」というものです。驚くべきことに驚けるのは、実は教養があるからです。
知識豊富で教養豊かな人は、もうあまり驚くことがないのではないかと思うかもしれませんが、逆なのですね。
知れば知るほど、心の底から驚くことができるのです。知識がないと、何がすごいのかわからない。ぴんとこない、ということになります。
プラトンは、『テアイトス』(岩波文庫)で、ソクラテスに「驚くということ、驚異の情が、知の探究のはじまり、すなわち哲学だ」ということを言わせています。
驚いて、深めていくことが人間らしい行為と言えるのではないでしょうか。
知識は細胞分裂のように増える
読書で知識を深めたいと思ったとき、最初のうちはなかなか知識が増えない感じがするかもしれません。読んだはずなのにちゃんと頭に残っていないと「読んだ意味はあったのだろうか?」とむなしく思ってしまいますね。でも、「自分はバカなのだろうか」と悲観する必要はありません。
知識の増え方について考えるとき、普通は10努力すれば10増える、20努力すれば20になるというような正比例の図をイメージするのではないでしょうか。しかし、私の感覚はそうではありません。
細胞分裂のように、倍、倍で増えていく感じです。1が2になり、2が4になり、8、16、32、64、128……。最初のうちはたいした違いがないように見えますが、積み重ねるほど大変な差になります。
読書の場合も、最初の20冊30冊くらいはたいして知識も増えていないし、読むのが大変な感じがすると思います。
一生懸命細胞分裂しているけれども、「まだ細胞16個かよ、そんなんじゃ人間にはなれないよ」という状態。
ところが、あるところまでいくと突然どんどん知識が吸収できるような感覚が生まれます。知っていることが増えたので、新しい知識もスムーズに入ってくるようになるのです。
すでに知っていることは確かな知識として定着し、新しいことも「つながり」が見えます。「あ、あれと同じだ」とか「ここでつながっている」とわかる。
どんどん知識がつながっていくから加速度的に増えていきます。何も知らない分野については一生懸命読んでも、なかなか頭に残らないものです。ある程度ベースとなる知識があれば、新しい話にもついていけます。
本を1000冊読んでいる人は、1001冊目を読むときには速く読めて知識も残ります。100冊読んだ人の101冊目よりもコスパが良いと言えるのです。
1テーマ5冊読めば「ランクA」
あるテーマについて知りたい場合、続けて5冊ほど読むとかなり知識が得られます。私は一人の研究者、学者の先生につき、だいたい5冊を続けざまに読みます。そうすると、5冊目を読む頃には同じことの繰り返しのように感じられます。それだけ知識が定着したということです。
まったく知らない分野の本は、1冊2冊読んでもまぁ身につきません。理解できていない箇所も多いと思います。だからと言って、一行一行理解しようとしたら先に進めず挫折してしまうでしょう。それよりも、8割忘れたっていいやというくらい気楽に、まずは通しで読んでみる。読み終わったら、同じ著者の別の本を読む。それを繰り返します。
同じ本を2回読むのもいいけれど、飽きてしまうので別の本を読みます。そうやって、ペンキの上塗りのように知識を積み重ねていきます。最初は適当でいいのです。適当に塗るのを繰り返せば、ちゃんとペンキが濃くつきます。このペンキの上塗り方式で、知識が積み重なり「詳しい人」になれます。
新書は知識がコンパクトにまとまっていて大変便利なものです。その新書をたった5冊読むだけで、「全然知らない」Cランクから「けっこう詳しい」Aランクになれるのです。2冊読むだけでも「ちょっと詳しい」Bランク。「スーパー詳しい」Sランクは、20冊くらい読めばいけるでしょう。研究者レベルは2000冊かもしれませんが、一般の人の基準だったら、20冊でSランクです。
たとえば中東パレスチナ問題で20冊読むとします。1~2冊読む人ならたくさんいるでしょうが、20冊読む人はめったにいません。スーパー詳しい人になれます。宇宙のダークマターで新書5冊、ブラックホールで新書5冊、宇宙論で新書5冊というふうに読んでいけば、宇宙についてけっこう詳しい人です。
私はそうやって、あるテーマについて読んだ本をまとめて本棚の一つのボックスに入れています。四角いブロック型の本棚で、1ボックスあたり20~30冊入ります。テーマごとにそこに詰めておけばいいので探すのも簡単。ここは福沢諭吉関連、こっちは中東問題で宇宙はここ、と分かれているのです。
こうやってスーパー詳しい分野をボックスで増やしていく感覚です。
「つながり」を意識すれば、知識が取り出しやすくなる
本を読んで知識を自分のものにするには、人に話すのが一番です。自分が発見したことであるかのように臨場感を持って、感情をのせて語る。そうすると、知識はしっかりと定着し、自在に使うことができるようになります。
いくら知っていることが多くても、誰にも話さないし使うことがないというのでは、宝の持ち腐れです。知識は人に話して、使ってこそ輝くというもの。「さすが、よく知っているね」「知識があるね」と言われれば、それが追い風となってさらに知識を深めていくことにもなるでしょう。
知識を使うには、「文脈」が重要です。文脈に合わせて、さまざまな知識を取り出す。本の中にあったエピソードをひとまとまりにして話せたりすると会話も盛り上がります。話の流れに乗りながら、自然な形で本の話題を出し、そこからまた次へつなげていきます。
そういった取り出しがうまい人が「知識のある人」として評価されるのです。知識が浅い人は、一つひとつの知識が離れ小島のようになっていて、なかなかつながりません。
つながらないから、文脈に合わせた取り出しがうまくいかない。「関係ないけど、この本にこういうことが書いてあってね、こうなんだって。はいおしまい」なんて披露しても、話の腰を折ったわりに面白くないという残念な結果になってしまいます。
知識を上手に取り出せるようになるには、「つながり」を意識して本を読むといいでしょう。古い本だったら現代とのつながりを考える。前述しましたが、ジャパネットたかたの田明さんは世阿弥の『風姿花伝』とビジネス上の哲学とにつながりを見いだし、『田明と読む世阿弥』(日経BP社)という本にまとめています。
私は『こども孫子の兵法』という本を監修していますが、その本では孫子の『兵法』を現代の子どもたちの状況につなげています。たとえば「利に合えば而ち動き、利に合わざれば而ち止まる」という言葉があります。
自軍に有利な状況なら動き、不利なら留まるということで、「有利・不利」を見極めて動くかどうかを判断せよということです。これを、『こども孫子の兵法』では将来の夢に悩んだときに役立つ言葉として紹介しています。「こども訳」を引用しましょう。
なにかをはじめるときは、自分が「好きか嫌いか」だけではなく、「有利か不利か」でも考えよう。(『こども孫子の兵法』齋藤孝/監修日本図書センター)
古い言葉でも、現代の状況につなげて考えることができれば、生きた知識として使うことができるのです。また、読んでいる本同士のつながりもあります。
たとえばニーチェを読んでいると、ゲーテとのつながりを感じます。ゲーテの『ファウスト』の中には「時よ止まれ、お前は美しい」という有名な言葉があります。ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』にも似た言葉があって、「すべての喜びは永遠を欲する」と言っています。ゲーテを尊敬していて影響を受けたというニーチェだから、なるほどつながっているなぁと感じるわけです。
こういったつながりを意識しながら読んでいると、文脈に合わせて知識を取り出すのがうまくなるはずです。
新しい本との出合いで知識を広げる
「ベストセラー」は読む・読まない?
ベストセラーだったり、話題になっている本は、その流行っているときに読むというのも大事です。ブームになるのはその時代の空気感にマッチしているからで、それに乗っかれば知識の吸収度も高いのです。
たとえばフランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)は、2014年に英訳されてから世界的ベストセラーとなり、日本でもブームが起きました。経済学にとって、また今後の社会全体にとって大きな影響のある本であることは間違いないでしょう。
しかしこの本、分厚いうえに内容もそれなりに難しい。読もうと思っても途中で挫折するか、最初から怖気づいて横目で見るだけの人も続出したのではと思います。だから解説書もたくさん出て、書店にはピケティコーナーができました。
本の内容自体、古びるわけではありませんが「難しそうだから、あとにしよう」「もうちょっと知識を得てからにしよう」と言っていると、ブームは去ってしまいます。
こういうのは旬なときを逃さず読んでしまったほうが、そのときの周囲の反応も合わせて理解できるし、知識を吸収できます。難しくて挫折してしまう、という人はメインの部分だけ読めばいいのです。最も大事な部分を読んで、それだけは言えるようにしておく。
本に書いてあることを全部言おうとしたら、20時間や30時間語ることになりますから、そんなことはしなくていいのです。
『21世紀の資本』は、200年以上におよぶ膨大な資産や所得のデータを分析しているため、本のボリュームも増えてしまったというところがあります。
この分析手法も評価が高いのですが、経済学の専門家でなければこれらの分析を丁寧に読み込む必要はないでしょう。でも、パラパラっと見れば「なるほどこれはすごいデータ量だなぁ、よく分析したもんだなぁ」と思います。そして、最も重要なグラフを探します。
ピケティがこの本で言っているのは、要するに「働いてお金を生み出すスピードより、お金がお金を生み出すスピードのほうが大きくなってしまった。金持ちはますます金持ちになり、格差は広がる一方。このままじゃ絶対追いつけないから、ハンデつけてもらわないとね」という話です。
その一番の根拠となるグラフがあるのです。それを見つけて、そのあたりの文章を読みます。そうすれば、ピケティの話にじかに触れたことになります。
自信を持って「あのグラフはすごいよね、あれを見ると一目瞭然だよね」といった話ができてしまうわけです。難解な本でなくても、小説や漫画も話題になったときに読む。
お笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんの『大家さんと僕』(新潮社)という漫画は2018年6月に「手塚治虫文化賞短編賞」を受賞し、ずいぶん話題になりました。
実際に読んでみると、「なるほど、これはほのぼのする」「大家さんとこういう関係になれるのっていいな」などと思います。自分の守備範囲でなかったものとも出合うきっかけになりますから、ブームをうまく使うといいのです。
「ベストセラーは読まない」と言う人もいますが、それではどうしても間口が狭くなってしまう。たくさんの人が読んでいるのは何かしらいいところがあると考えて、素直にブームに乗るほうが知識は増えていきます。
私は流行りものに乗るのも、知的な人生の楽しみ方の一つだと思っています。
出合い頭で知識を広げる
「ブームに乗る」だけではなく、単純に「出合い頭」で知識を広げていくのもおすすめです。
たとえば本屋に行って、たまたま出合った本を買って読むのです。今日は2冊買おうと決めて、ざーっと眺めてみます。いつも行くコーナーだけではなく、範囲を広くとって探します。
知識を広げる意味ではなるべく知らない分野の本がいいでしょう。今日はこれが気になる、という本を見つけて買ったら、すぐにカフェにでも行って読む。キーワードや感情をメモしたり線をひっぱったりしながら、30分でとりあえず読んでしまいます。
それだけでも、「ああ今日は新しい知識に開かれたなぁ」と感じることができるでしょう。「出合い頭で読む」ことのポイントは、偶然を必然に変えてしまう力にあります。
偶然の出合いで本を買うということは、必ずしも名著を選ぶことにはなりません。
読んでみたら好みでなかった、わかりにくかったなど、「正直、はずれだ」と思うこともあるかもしれません。でも、それでいいのです。
何か一つでも知識を吸収しようと考えて読む。一つでも知らなかったことに触れ、考えることができたらその本の価値があります。その一つがきっかけとなって、別の本につながるかもしれません。
知識の大海原へ漕ぎ出す最初の一かきかもしれないのです。
読書三昧の私でさえ、自分のセンスで選んだ本の中で実際に「使える本」は3冊に2冊程度です。1冊は残念ながら自分にあまり縁のなかった本。「はずれ」です。
読書の習慣がない人が「これだ!」と思える本を選ぶのはなかなか難しいことです。ですから、選びに選ぶよりも出合い頭で読んで、とにかく一つでも知識を自分のものにしてしまう。「つながり」の一つにしてしまう。そういう気持ちで読むのです。
もう一つは、人にすすめられた本を素直に読むことです。この本にもおすすめの本をいくつか載せていますが、ブックガイド的な本や雑誌はありますし、ネット上にも本の情報はたくさんあります。
好きな書評家さんだったり、信頼できそうな人のすすめている本をかたっぱしから読んでしまうのです。
1976年から毎年夏に行なわれている「新潮文庫の100冊」のようなキャンペーンを手掛かりにするのもいいでしょう。
また、国内・国外問わず古典的名著が一通りそろう文庫レーベルとしては、岩波文庫、講談社学術文庫、光文社古典新訳文庫、ちくま学芸文庫などがあります。リーズナブルにオリジナルに触れるという意味では文庫が一番。
こうした文庫が本棚に並んでいるとそれだけでかっこいい感じもしますから、とりあえずそろえてみてはいかがでしょうか。
図鑑や百科事典で「全体像」を手に入れる
心理学や脳のしくみ、宇宙のしくみなど、文字だけのものより図があると理解しやすい分野は、図解で全体像を手に入れると知識の吸収が良くなります。
ナツメ社の「図解雑学シリーズ」や新星出版社の「徹底図解シリーズ」など私もよく買いますが、気楽にパラパラ見ることができて重宝します。
「あれってどういうことだったかな」と見返すのもラクですし、知識が位置づけやすくなります。
三省堂の「大図鑑シリーズ」もおすすめ。大型本で『経済学大図鑑』『哲学大図鑑』など、豊富な図、絵があって楽しめます。自然科学系の知識があまりない人は、子ども用の図鑑から入るのもいいでしょう。
講談社の「動く図鑑MOVE」というシリーズはDVDつきで、絵や写真だけでなく動いている姿まで見ることができます。
『宇宙』の巻にはダークマターのことまでしっかり書かれていて、最新の宇宙の姿を楽しみながら学べるのです。
こういった図鑑や図解シリーズ、百科事典形式のものはスピード感をもってどんどん眺めていくことができるのがいいところです。
私は速読のやり方を教えることもあるのですが、ほとんどの人はなかなか速読ができません。順番に文字に沿って目を動かして読むので、どうしても時間がかかります。
「本は1行ずつ読むもの」という意識があって、全体を見るのが難しいのです。でも、図鑑なら速読できます。全体を見て、ぱっぱっとページをめくることができる。
時間をかけて丁寧に読み込むことも大事ですが、同時に、スピーディーに大量に情報に触れるのも大事です。そういう意味では、気に入ったシリーズを一気に20冊や30冊そろえてしまうのがいいでしょう。
1冊2冊買ってゆっくり見るのではなく、一気に攻めるのです。1日1冊眺めて、1か月に30冊。そうしたら重要なテーマは一通りおさえられます。
現代に必要な知識が持てる名著10
『E=mc2』デイヴィッド・ボダニス/著伊藤文英・高橋知子・吉田三知世/訳早川書房アインシュタインが発表し、世界一有名な方程式となったE=mc2にまつわるノンフィクション。
Cは光速なので、定数です。この式の意味するところは、エネルギーは質量に変換できるということ。
これによって太陽がエネルギーを出し続けられる謎が解け、また原子爆弾のような兵器の原理ともつながっていることがわかります。
さらには、現代使われている医療機器や家電製品にも数多く応用されています。方程式の誕生にも、実用化にもさまざまな科学者たちが関わっており、その壮大なドラマも読みどころです。
『ソロモンの指環』コンラート・ローレンツ/著日高敏隆/訳早川書房タイトルは、ソロモン王が魔法の指輪をはめて、動物たちと会話をしたという言い伝えから。
著者の動物行動学者ローレンツは、指輪などなくても動物たちと会話ができると言います。それは、動物への愛と観察によって可能になるのです。
ローレンツは動物を檻に入れて観察するのでなく、自由にさせて一緒に生活をしていました。その苦労話も面白い。鳥のヒナが最初に見たものを親だと思う「刷り込み」の研究はローレンツの観察によるものです。驚きと感動のエピソードが満載の本。
『宇宙は何でできているのか』村山斉/著幻冬舎新書素粒子物理学の基本をやさしくかみくだきながら、「宇宙はどうはじまったのか」「宇宙はこれからどうなるのか」といった謎に迫る本。
素粒子は物質をつくる最小単位の粒子で、10の乗メートルだと考えられています。一方、いま実際に観測できる宇宙のサイズは10の27乗メートルです。
とんでもなく小さい世界と、とんでもなく大きな世界をつなげて考える面白さ。超ひも理論、クォーク理論やニュートリノなどをざっと理解しながら、宇宙の成り立ちや未来について思いを馳せられます。
『日本思想全史』清水正之/著ちくま新書『古事記』に記された神話から、近代の思想、現代の哲学まで日本人の思考を一気にたどることができる新書です。
その時代の文化とテキストに触れ、そこからうかがえる思想を解説しています。たとえば『平家物語』冒頭引用から、貴族世界の「宿世」とは異なる無常観を提示。
岡田英弘『倭国の時代』(ちくま文庫)は、古事記や日本書紀などの古代の文献を検証し、東アジア全体の中で古代日本を捉える。知的刺激があります。日本思想史年表や日本思想史を学ぶための文献一覧がついているのも便利。
『常用字解[第二版]』白川静/著平凡社漢字研究の第一人者、白川静さんによる漢字辞典。
常用漢字2136文字について、成り立ちを教えてくれます。たとえば「見」という漢字は、人を横から見た形の上に大きな目がある象形文字が成り立ち。そして「見るという行為は相手と内面的な交渉をもつことを意味する。
たとえば森の茂み、川の流れを見ることは、その自然の持つ強い働きを身に移し取る働きであった」と説明されています。
漢字が成立した古代社会の知識も得られ、本当に興味深い。漢字のすごさ、奥深さに感銘を受けます。
『アイヌ文化の基礎知識』アイヌ民族博物館/監修児島恭子/増補・改訂版監修草風館北海道に先住していたアイヌ民族は、独自の文化を持っています。
アイヌ語は日本語と似た言葉もあるとはいえまったく別の言語。固有の文字を持たず、口承で伝えられてきました。
ところが明治時代以降、アイヌの独自の風習は禁止され、日本語が教育される中でアイヌ語を話す人口は減少しました。
一つの言語を追い込んで滅ぼしてしまった。大変な文化的問題です。この本は、アイヌの言語、料理、服飾、住居、信仰、歴史などについて一通り解説している入門書です。
瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現代新書)は、交易の民としてアイヌ像が新鮮。最新の研究成果もわかります。
『欲望の民主主義』丸山俊一+NHK「欲望の民主主義」制作班著幻冬舎新書NHKBS1スペシャル「欲望の民主主義~世界の景色が変わる時~」という面白い番組がありました。
この本は、そのインタビューの中からアメリカ人社会心理学者やドイツ人哲学者など6人の言葉を抜き出して再構成したもの。
イギリスのEU離脱、アメリカのトランプ大統領の誕生、フランス極右政党の台頭など、激しく世界が変化する中で「そもそも民主主義とは何か?」と根源的なところに立ち返って考えつつ、現在の民主主義を理解しようと努めています。
とても本質的な内容で、読み応えあり。
『資本主義の終焉、その先の世界』榊原英資・水野和夫/共著詩想社新書「より速く、より遠くに、より合理的に」を行動原理にしてきた資本主義が、限界に来ているというのは多くの人が感じているところでしょう。
それでは、資本主義が終わりを迎えた先の未来とはどのようなものか。
この本は、資本主義の歴史から現代の世界経済、日本経済について豊富なデータをもとに読み解き、未来への提言を行なっています。
世界経済の流れがコンパクトにわかり、また「資本主義はどこに向かうのか」というテーマでは著者の二人が対談の形で話を進めているので読みやすい。
『人類の未来』ノーム・チョムスキーほか吉成真由美/インタビュー・編NHK出版新書チョムスキーやカーツワイルなど世界的な学者や思想家たちに、未来についてインタビューしている本。
サイエンスライター吉成真由美さんの質問が本質的で素晴らしい。
これ1冊でAI、経済、民主主義、都市とライフスタイル、気候変動について簡略にわかってしまいます。
それぞれの学者におすすめの本まで聞いていて、背景に文学や哲学が感じられるのもいい。
同じシリーズで『知の逆転』『知の英断』もありますから、併せて読んでみてください。
『ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ/著柴田裕之/訳河出書房新社世界的ベストセラーとなった『サピエンス全史』の続編。
人類は飢餓・伝染病・戦争を克服するためにあらゆる努力をしてきました。
この3つの課題がほぼクリアされてしまったいま、人類が何に挑戦しようとするかというと「神へのバージョンアップ」だと歴史家のハラリは言います。
ホモ・サピエンス(ヒト)はホモ・デウス(神)になろうとする。
その衝撃の未来像には、知的興奮とともに恐ろしさも感じます。
ブームに乗ってぜひ読んでみてください。
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